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回復期リハビリテーション病棟における人工股関節全置換術既往症例に対する股関節機能評価の検討 ―インプラント設置位置の評価―

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Academic year: 2021

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はじめに 生活動作を各関節機能の観点で捉えた場合,股関 節の機能障害は生活動作のみならず生活様式にも影 響を及ぼす1-3)。したがって,変形性関節症による 股関節の可動範囲制限や痛みによって生活に支障 をきたした場合,人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty;以下,THA)が選択される。除痛 や関節可動範囲の拡大を期待できることから満足度 の高い手術の一つである4,5)。ただし,手術によっ ていったん工学的な代替方法がとられると,機能的 な回復は期待できても,本来の筋骨格系要素がもつ 複雑かつ優れた機構を,再び取り戻すことはできな い。工学的な代替方法は,股関節の可動範囲制限, 運動方向によっては脱臼のリスク,また股関節周囲 の軟部組織や筋張力に影響を及ぼす6)。股関節の可 動範囲および脱臼に影響する因子としては,カッ プ設置位置である外方開角や前方開角(Lewinnek ら)7),カップ前方開角とステム前捻角があり,そ れ ら を 相 互 的 に 考 え る combined anteversion (Widmer ら)8)が重要と捉えられている。他方,股 関節周囲の軟部組織や筋張力に作用する因子として は,モーメント・アームとなる femoral offset が知 られている9,10)。先に述べた指標は画像所見から算 出が可能であることから,手術様式を含む手術記録 (カップ設置位置,ステム前捻角,Offset,術中脱 臼角度)に基づき股関節機能を十分に評価した上で 理学療法ならびに生活指導が実施されている。つま ■研究報告■

回復期リハビリテーション病棟における

人工股関節全置換術既往症例に対する股関節機能評価の検討

―インプラント設置位置の評価―

川上真吾

1)

,榊 望

1)

,藤澤宏幸

2) 要旨  〔目的〕回復期リハビリテーション病棟における THA 既往症例の手術に関する情報および理学療法評価 を後方視的に調査し,画像所見から算出可能なインプラント設置位置に関する評価の必要性を検討するこ と。〔対象と方法〕2010 年 1 月~ 2017 年 9 月に入院した THA 既往症例 7 名 9 肢とした。インプラント設 置位置についてはカップ外方開角および前方開角,femoral offset を指標とした。〔結果〕全例で手術記録は なかった。インプラント設置位置を算出した結果, 外方開角において基準角度範囲から外れていたのは3肢, 前方開角で 2 肢であった。femoral offset は最大で約 1.0 cm の左右差を認めた。〔結語〕THA 既往症例に おけるインプラント設置位置の評価は重要だと推測された。

Key Words:人工股関節全置換術;既往;評価

1) 仙台リハビリテーション病院リハビリテーション部 Shingo Kawakami RPT, RhD, Nozomu Sakaki, RPT:

Department of Rehabilitation, Sendai Rehabilitation Hospital

2) 東北文化学園大学大学院健康社会システム研究科 Fujisawa Hiroyuki RPT, RhD: Graduate School of

Health and Environment Science, Tohoku Bunka Gakuen University

(2)

とした。THA 手術記録がなくステム設置位置の算 出が必要な場合,カップ設置位置については,外方 開角および前方開角を指標とした。算出にあたって は,回復期リハビリテーション病棟転院時に撮影 した背臥位正面の単純 X 線画像を用いることとし た。外方開角は,両坐骨結節を結ぶ線 A と臼蓋コ ンポーネントの投影によって形成された長径軸を通 る線 B とのなす角 α とした(図 1)。他方,前方開 角については,臼蓋コンポーネントの長軸に対し 垂直に描かれた楕円の短軸距離 D1 を臼蓋コンポー ネントの直径距離 D2 で割りアークサインを用いて 算出した(図 2)。さらに,femoral offset について は,大腿骨頭中心 A と大腿骨骨軸 CB との距離 E を算出した(図 3)。その後,各々の値を Lewinnek らの safe zone,股関節可動範囲は Widmer らの combined anteversion における最大可動範囲およ び Dorr ら12)の safe zone,モーメント・アームと なる femoral offset については,左右における値と 比較した。 り,急性期においては股関節機能に影響を及ぼすイ ンプラントの設置状況も把握しているのである11) よって,過去に他院で THA を施行した経験のある 症例が,新たに整形外科疾患や脳血管疾患を発症し 回復期リハビリテーション病棟に転院してきた際に も,THA 施行側における股関節機能評価は重要と いえる。しかし,生活再建に向け,回復期リハビリ テーション病棟に転院してきた THA 既往症例では 手術様式を含む手術記録(カップ設置位置,ステム 前捻角,Offset,術中脱臼角度)が十分ではないこ とを経験する。そのような場合,臨床においては手 術創部から術式を推測し,筋骨格系要素である関節 可動性や股関節周囲筋筋力は ROM や MMT による 評価に留まり,股関節機能に影響を及ぼすインプラ ントの設置状況(カップ設置位置やステム前捻角, Offset)を把握できているのかは疑問である。その ことにより,回復期リハビリテーション病棟にて重 要である,生活動作の機能的予後が不確かであった 可能性も否定はできない。 以上の経緯から,本調査の目的は当院に転院した THA 既往症例の手術に関する情報(カップ設置位 置,ステム前捻角,Offset,術中脱臼角度)および 理学療法評価を後方視的に調査することである。加 えて,インプラントの設置状況が評価されていない 場合においては,画像所見からインプラント設置位 置を算出し,インプラント評価に基づく股関節機能 評価の必要性について検討することである。 方 法 1.対象 2010 年 1 月~ 2017 年 9 月までの約 8 年間で回復 期リハビリテーション病棟に転院してきた,THA を施行した既往症例 7 名 9 肢(男性 1 名,女性 6 名,年齢 74.4 ± 11.9 歳,身長 148.9 ± 7.2 cm,体 重 60.7 ± 12.1 kgw)を調査対象とした。なお,本 調査は仙台リハビリテーション病院倫理委員会にて 承諾を受け実施した(R18-01)。 2.方法 診療情報の記録を基に,疾患名,THA 手術記録 (カップ設置位置,ステム前捻角,Offset,術中脱 臼角度),画像所見,理学療法評価項目を調査対象 図 1 外方開角の算出 前方開角 = sin-1(D1 / D2) 図 2 前方開角の算出

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あったことから,背臥位正面像の単純 X 画像から カップ設置位置である外方開角および前方開角を算 出し,Lewinnek らが示した safe zone と比較した 結果,外方開角で 3 肢,前方開角で 2 肢が外れてい た。ステム前捻角については CT 画像所見がないこ とから算出できず combined anteversion における safe zone との比較は実施できなかった。また,背 臥位正面像の単純 X 線画像から左右下肢の femoral offset を算出し比較した結果,1 肢が THA 既往側 において最大で約 1.0 cm の延長を認めた(表 2)。 考 察 回復期リハビリテーション病棟では,生活動作の 再建にむけたリハビリテーションが実施されてい る。特に,近年では在院日数の短縮化と効率性が求 められていることから,身体機能に関する機能的予 後予測は非常に重要となってきた13)。よって,各々 の病院において退院時の生活動作能力を予測する算 出式等が用いられていることも少なくない。生活動 作を各関節機能の観点で捉えた場合,股関節の機能 障害は生活動作のみならず生活様式にも影響を及ぼ すことから,股関節疾患に対し理学療法が果たすべ き役割は大きいといえる。THA に対するリハビリ テーションは,その代表の一つであろう。工学的な 代替方法であることから,身体機能的な回復は可能 であるが,インプラント挿入に伴う股関節可動範囲 の制限,手術による軟部組織や筋張力の変化,運 動方向によっては脱臼するリスクを負うことにな る14,15)。よって,股関節機能に影響を及ぼすイン プラントの設置状況(カップ設置位置,ステム前捻 結 果 脳血管疾患 5 名,整形外科疾患 2 名であった。脳 血管疾患 5 名には両側 THA 施行症例 2 名を含んで いた。全ての既往症例において THA 手術記録はな かった。画像所見については,当院にて背臥位正面 像の単純 X 線画像が撮影されていたが,1 症例につ いては,手術術側のみの撮影であった。全ての症例 において CT 画像は未撮影であった。 理学療法評価としては下肢長,股関節における ROM や MMT が計測されていた。インプラントの 設置状況に関する情報はなく,術創部から術式を把 握し,理学療法評価による筋骨格系要素の把握が中 心であった(表 1,2)。 インプラント設置位置に関する情報が未評価で 図 3 femoral offset の算出 表 1 THA 既往症例の基本情報

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ては,前方開角とステム前捻角の組み合わせに基 づく combined anteversion は未確認であるが,症 例 5 のようにカップ前方開角が前方を向いておらず 計測不能な場合には,インプラント設置位置の影響 により股関節屈曲や外旋の可動範囲が一般的な値よ りも小さくなることが予測される。日常生活におい て,股関節屈曲運動と外旋運動の総和により構成さ れる靴下の着脱や爪切り動作に影響を及ぼすことが 推測できる。一般的な THA 施行症例では実施可能 な動作が困難であった場合に,インプラント設置位 置による評価との対比において原因を特定すること が可能となる。つまり,理学療法によって改善可能 な問題か否かを判断する材料になるのである。一 方,モーメント・アームに作用する femoral offset に関しては,症例 7 のように延長している場合,日 常生活における支持脚として有効に作用すると予測 できる。ただし,約 1.0 cm の延長は最大でもモー メント・アームが 0.01 m 長くなったにすぎず,筋 力に過大に作用するとは考えにくい。むしろ日常に おける継続的な使用において,効率性に作用すると 推測できる。 以上より,理学療法評価に加えインプラント設 置位置を評価することは,生活動作の再建にむけ たリハビリテーションを実施する回復期リハビリ テーション病棟において,機能的予後予測の確実性 角,Offset,術中脱臼角度)も把握した上で理学療 法ならびに生活指導が実施11)されている。つまり, 過去に THA を施行した経験のある症例が,新たに 整形外科疾患や脳血管疾患を発症し転院してきた際 にも,身体機能に関する機能的予後予測の観点から THA 施行側における股関節機能評価は重要といえ る。ただし,術後から半年程度経過した THA 既往 症例では,術後早期の症例に比べ,関節包は創治癒 により適度な緊張を保ち,関節腔内は結合組織で満 たされ,さらには手術により侵襲を受けた筋が筋張 力を回復することから脱臼リスクは低くなることを 認識しておく必要がある16,17)。つまり,既往症例 においては,脱臼リスクの把握のためにインプラン ト設置状況を評価するというよりも,むしろ股関節 可動性および筋張力に関する機能的予後予測の評価 として捉えることが望ましいと思われる。 後方視的調査により,インプラント設置状況は未 評価であったことから,背臥位正面像の単純 X 線 画像から算出可能なカップ設置位置および femoral offset を算出した。結果,股関節の可動範囲,股関 節周囲の軟部組織や筋張力において有利・不利,い ずれかに影響を与えると推測される位置にインプラ ントが設置された症例は全症例中 5 例含んでいた。 この結果は,インプラント設置位置の評価の必要性 を裏付けているといえよう。股関節可動範囲に関し 表 2 理学療法評価の実施項目およびインプラント設置位置の算出

(5)

total hip components for optimal range of motion. J Orthop Res 2004; 22: 815-821.

9) Flecher X, Ollivier M, et al.: Lower limb length and offset in total hip arthroplasty. Orthopaedics & Traumatology: Surgery & Research 2016; 1: 9-20.

10) Pasquier G, Ducharne G, et al.: Total hip arthro-plasty offset measurement: is CT scan the most accurate option? Orthop Traumatolog Surg Res 2010; 4: 367-375.

11) 相澤純也,中丸宏二,他:整形外科理学療法ベスト ガイド下肢偏.中外医学社.東京.2018.pp.25-57. 12) Dorr LD, Wolf AW, et al.: Classfication and treat-ment of dislocations of total hip arthroplasty. Clin Orthop Relat Res 1983; 173: 151-158.

13) 鄭 丞媛,井上祐介,他:急性期と回復期リハ病棟 における脳卒中患者の退院時 FIM の予測式.Jpn J Compr Rehabil Sci 2014;5:19-25.

14) 高山正伸,福本貴彦:人工股関節全置換術後の理学 療法最前線.理学療法,2008;25:1186-1191. 15) 高山正伸:変形性股関節症観血療法例の機能解剖学

的病態把握と理学療法.理学療法,2014;31:911-920.

16) Leichtle UG, Leichtle CI, et al.: Dislocation after total hip arthroplasty: risk factors and treatment options. Acta Orthop Traumatol Turc 2013; 47: 96-103.

17) Ali Khan MA, Brakenbury PH, et al.: Dislocation following total hip replacement. The Journal of bone and joint surgery. British volume 1981; 63: 214-218.

18) Ruwe PA, Gage JR, et al.: Clinical determination of femoral anteversion. A comparison with estab-lished techniques. JBJS 1992; 74: 820-830. を高めることから有益性が高いと考えている。今 後,THA 既往症例が入院した際には,背臥位正面 像の単純 X 線画像からカップ外方開角,前方開角, femoral offset を,画像所見による妥当性が示され ている Craig’s test18)によりステム前捻角ならびに combined anteversion を算出することを検討して いる。 引用文献 1) 川崎修平,松原正明,他:日常生活に必要な股関節 の可動域について.Hip Joint.2001;27:238-241. 2) Hemmerich A, Brown H, et al.: Hip, knee, and

ankle kinematics of high range of motion activities of daily living. J Orthop Res 2006; 24: 770-781. 3) Steultjens MP, Brown H, et al.: Range of joint

motion and disability in patients with osteoarthri-tis of the knee or hip. Rheumatology 2000; 39: 955-961.

4) Mihalko WM, Wimmer MA, et al.: How have alternative bearings and modularity affected revi-sion rates in total hip arthroplasty? Clin Orthop Relat Res 2014; 472: 3747-3758. 5) 泉キヨ子,平松知子,他:人工股関節置換術患者の 回復過程および生活の満足度に関する研究.日本看 護研究.1994;17:9-19. 6) 加畑多文:人工関節置換術の基本的知識―有効なリ ハビリテーションのために―.Jpn J Rehabii Med 2017;54:698-703.

7) Lewinnek GE, Lewis JL, et al.: Dislocations after total hip-replacement arthroplastise. J Bone Joint Surg Am 1978; 60: 217-220.

参照

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