口唇裂・口蓋裂の孫をもつ祖母の心理状態 —医療者と同じ疾患体験者に関連する心理的側面—
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(2) 26. 日口蓋誌 46巻 2021. and nursing support, and thus correctly understood the disease, had trust in medical workers, and were provided with relief. We believe that true team medical care should include the family, including the grandmother. Key words : cleft lip and/or palate, grandmothers, psychological state, notification. 緒 言. じ・おばを「兄弟・姉妹」と規定した。 方 法. 口唇裂・口蓋裂(以下,CLP)は,唇や口腔に異常を認め る先天性疾患であり,その発生率は他の先天異常に比べ高. 1.研究デザイン. く,症候性と非症候性がある 。わが子が可視的差異や哺乳. 質的記述的研究. 障害を認める CLP 疾患であると知った母親は,大きなショッ. 2.対象. 1). クを受け,子どもの疾患を受容できず苦悩するケースもあ. CLP の一貫治療をチームで提供している A 専門病院(以. る2,3)。また,CLP 児の祖母は,専門病院の医療者から疾患・. 下,A 病院)に通院する初回口唇形成術後,2 週間以内の. 治療の説明を受けるまで,孫と対面できないほど心配してお. 孫(生後約 3 ヶ月)をもつ父方祖母または母方祖母とした。. り,専門医療者の早期介入の必要性が報告されている4)。. 3.調査期間. 我々の研究. において,祖母の心理状態としての4つの. 5, 6). 2017 年 11 月~ 2018 年 5 月. コアカテゴリー【孫に関連する心理的側面】 【娘・家族に関連. 4.調査手順. する心理的側面】 【医療者に関連する心理的側面】 【同じ疾患体. 研究者が CLP 児の母親に研究の主旨を説明し内諾が得. 験者に関連する心理的側面】を明らかにした。そして,祖母. られた場合,祖母に研究の目的,方法,倫理的配慮につい. の孫の疾患に対するショックや苦悩をはじめ,前向きに受け. て口頭および書面にて説明し,祖母の面接調査への参加の. とめる覚悟や孫への愛着が明らかになった。また,孫よりも. 同意を得た。. 娘を優先して心配する心理状態,家族の力を感じながら安. 5.調査内容. 心感を得ていることが示唆された。これらの結果より,祖母. 1)祖母の属性:年齢,母方・父方,娘・息子との同居. は孫の療育において重要な人と認識し,祖母の役割や心理. の有無. 状態の特徴を理解し,祖母を含めた家族全体へ支援を提供. 2)孫の属性:性別,裂型,出生順位. することが,重要であり有益であることが示唆された。. 3)孫の疾患告知後から口唇形成術後(2 週間以内)ま. 我々は,先行論文 5,6)と同様に,研究で得られた多くの. での祖母の心理状態. 研究結果をコアカテゴリー別に,本論文では【医療者に関. 6.調査方法. 連する心理状態】 【同じ疾患体験者に関連する心理状態】に. A 病院内の個室で,インタビューガイドに基づき,祖母. ついて最終報告をする。. に半構造化面接をおこない,了解を得て面接内容を録音し 目 的. 本研究の目的は,孫の CLP 疾患についての告知直後か. た。インタビューガイドの内容は,以下の通りであった。 「いつ」 「誰から」 1)お孫さんの疾患についての説明は, 「どのように」話を聞きましたか。. ら口唇形成術後までの祖母の心理状態のうち,医療者およ. 2)お孫さんの疾患についてお聞きになられたとき,どの. び同じ疾患体験者に対する心理的側面について明らかにす. ように思われましたか。. ることである。. 3)お孫さんと対面されたとき,どのように思われましたか。 用語の定義. 4)以前から口唇裂・口蓋裂についてご存知でしたか。 5)お孫さんと関わる中で,心の変化はありましたか。. 1.CLP. 6)この疾患について,何か援助,説明を受けましたか。. 可視的差異をともなう症例である非症候性の口唇裂,唇. また,支えになったことはありますか。. 顎裂,唇顎口蓋裂を CLP とした 7)。. 7)医療者から精神的な援助,疾患,治療,哺乳,育児. 2.家族. について話を聞かれましたか。. 本研究では,祖母からみた孫の誕生によって影響を与え. 7.分析方法. ると考えられる親族を家族とした。家族の表記は,CLP. 分析は質的記述的研究手法 8)を用いて,以下の手順で. の子どもを「孫」とし,その母親を「娘」,父親を「息子」,. 行った。質的研究は量的研究とは異なり,個々の事例がい. 父方および母方祖父母をそれぞれ「祖父」 「祖母」,CLP の. かに特殊で個別的な事象であっても,そこには人間の共通. 子どもの兄弟・姉妹を「きょうだい」,CLP の子どものお. する本質的要因が含まれており,その本質的要因を抽出す.
(3) 日口蓋誌 46巻 2021. 27. ることが重要である8)。そのことを念頭に置き,録音した. 表,祖母に研究の目的,方法,面接内容等を口頭と文書で. データから対象ごとに逐語録を作成し,孫に対する祖母の. 説明し,書面にて同意を得た。. 心理状態に関連した語りの内容に着目し,ローデータを抽. 結 果. 出した。その文章の意味を読み取り,要約した上でコード 化を行った。祖母の心理状態について類似した内容ごとに 分類しコードを集約した。集約したコードの解釈を行い, サブカテゴリー化し,その類似性や関係性を比較検討し, カテゴリー化を行った。最終的に,カテゴリー間の関連性. 対象者は,研究参加を依頼した 16 人中,母親と祖母の 両方から同意を得られたのが 15 人であった。面接は 1 人 1. 回とし,面接時間は 1 人あたり平均 23.6(±7.2)分であっ た。 【 】はコアカテゴリー, 〔 〕はカテゴリー, 《 》は. を検討して,コアカテゴリー化に至った。本研究の真実性. サブカテゴリー, 〈 〉はコード, 「 」はローデータ, ( ). と妥当性を確保するために,以下の方法を遵守した。面接. は補足内容,他者への発言や他者からの発言は “ ”,対象. 者は一人に統一した。また,面接者は,初めて半構造化面. 者は ⦅ ⦆ で,アルファベット(A ~ O)で示した。. 接法を行うため,その面接技法によりデータ収集に影響が. 1.対象者の概要. でることが予測された。そのため,データ収集開始前に専. 本研究で面接調査を行った対象者は表 1 に示す通りで. 門家の指導を受け,繰り返しプレ面接を実施し,留意点の. あった。対象者の内訳は,父方祖母が 4 人,母方祖母が 11. 振り返りと指導を受けた。データとコードを何度も行き来. 人であり,うち 4 組は同じ孫をもつ父方母方両方の祖母で. し,解釈内容の妥当性を確認して,解釈を深めていった。. あった。年齢は 40 歳代 2 人,50 歳代 7 人,60 歳代 6 人で. 主観やデータから実証できない内容の分析や解釈とする不. あった。娘・息子との同居の有無については, 「あり」が 2. 適切な分析を行っていないかを検証するために,質的研究. 人, 「なし」が 13 人であった。対象者の孫の裂型は,片側. の専門家による検討を行った。さらに,CLP の専門医療. 口唇裂 1 人,片側唇顎裂 8 人,片側唇顎口蓋裂 4 人,両側. 機関で 20 年以上の経験のある医療者からスーパーバイズ. 唇顎口蓋裂 2 人であった。孫の性別は,男児 9 人,女児 6. を受け,データ分析の信頼性と妥当性の確保に努めた。. 人であり,出生順位は第 1 子が 13 人,第 2 子が 1 人,第 3. 8.倫理的配慮. 子が 1 人であった。CLP 疾患の家族歴の有無については,. 本研究は,調査協力を得た A 病院倫理審査委員会(承. 全員が「なし」であった。また,対象者の属性に違いがあ. 認番号 H29-E13)および共同研究者所属大学倫理委員会 (承認番号 No17-52)の承認を得て実施した。研究の実施. るが,ローデータの内容に明らかな差異が見られなかった 。 ことから,対象者から除外はしなかった(表 1). にあたっては,研究への参加は対象者個人の自由意思で選. 2.CLP の孫をもつ祖母の心理状態. 択できること,個人情報とプライバシーの保護,結果の公. 質的記述的分析を行った結果,4 つのコアカテゴリーは,. 表 1 対象者 15 名の属性 ID. 対象者 家族関係. 年齢. 児の疾患名. 児の性別. 児の出生順位. 家族歴. A. 母方. 50 代. 右側唇顎口蓋裂. 男児. 第1子. なし. B. 母方. 60 代. 左側口唇裂. 女児. 第1子. なし. C. 母方. 60 代. 左側唇顎裂. 女児. 第1子. なし. D. 父方. 60 代. 左側唇顎裂. 女児. 第1子. なし. E. 母方. 60 代. 両側唇顎口蓋裂. 女児. 第1子. なし. F. 父方. 60 代. 左側唇顎裂. 男児. 第1子. なし. G. 母方. 50 代. 左側唇顎裂. 男児. 第1子. なし. H. 母方. 50 代. 右側唇顎口蓋裂. 女児. 第1子. なし. I. 母方. 40 代. 両側唇顎口蓋裂. 女児. 第1子. なし. J. 母方. 60 代. 左側唇顎口蓋裂. 男児. 第2子. なし. K. 母方. 50 代. 左側唇顎口蓋裂. 男児. 第3子. なし. L. 父方. 50 代. 左側唇顎裂. 男児. 第1子. なし. M. 母方. 40 代. 左側唇顎裂. 男児. 第1子. なし. N. 父方. 50 代. 左側唇顎裂. 男児. 第1子. なし. O. 母方. 50 代. 左側唇顎裂. 男児. 第1子. なし.
(4) 28. 日口蓋誌 46巻 2021. 【孫に関連する心理的側面】,【娘・家族に関連する心理的. 〔受け入れがたい情報から生じる不安・困惑〕,〔医療者の. 側面】,【医療者に関連する心理的側面】,【同じ疾患体験者. 適切な介入による安心・信頼〕で構成された(表 2)。. に関連する心理的側面】であった。本論文では【医療者に. 【同じ疾患体験者に関連する心理的側面】は,10 のコード. 関連する心理的側面】および【同じ疾患体験者に関連する. を導き,2 のサブカテゴリーを抽出し,1 のカテゴリーで構. 心理的側面】について報告する。. 。以下に,カテゴリー別に詳細を記述する。 成された(表 3). 本研究は質的研究であり,容易に数値化することができ. 3.【医療者に関連する心理的側面】. ない祖母の心理状態の本質を明らかにするために希少な意. 〔受け入れがたい情報から生じる不安・困惑〕 1). 見にも着目し,不安,困惑,安心,信頼などの心理状態に. このカテゴリーは,《専門医以外の説明や対応に対する. 注目し,類似性を比較検討しながらカテゴリー化に至っ. 不安》,《妊婦健診で疾患を指摘された困惑》,《妊婦健診で. た。【医療者に関連する心理状態】は,94 のコードを導き,. 疾患の指摘がなかった疑念》,の 3 つのサブカテゴリーが. 8 のサブカテゴリーを抽出し,2 つのカテゴリーに分類し,. 含まれた。. 表 2 医療者に関連する心理的側面 カテゴリー. サブカテゴリー[頻度数] 専門医以外の説明や 対応に対する不安[22]. 受け入れがたい情報から 生じる不安・困惑. 妊婦健診で疾患を 指摘された困惑[4] 妊婦健診で疾患の 指摘がなかった疑念[3]. 専門病院の医療者から 得た安心[41]. 医療者の適切な 介入による安心・信頼. 診療場面に参加することで 得た安心[12] 産科医療者の適切な介入により 前向きに捉える思い[7] 手術を終えて 治療への信頼[3] 娘の前向きな変化に対する 医療者への信頼[2]. コード例 産科医からの大丈夫の言葉に疑念を抱いた 産科医が動揺されていて,説明はなくすぐ転院になり不安だった 産科医の説明だけでは不安だった 妊婦健診で娘から口唇裂・口蓋裂であると聴き驚いた 孫の口唇裂・口蓋裂よりも合併症を心配した 妊婦健診で孫の疾患が分からなかったことへの疑念をもった 専門医の頼りになる言葉がけに勇気づけられ安心した 専門医の説明に信頼を持ち前向きに思えた 専門医の丁寧な説明に安心した 専門医の治療が確立していて,治る病気との説明で安心した 専門医の普通に育てなさいの説明で安心した 専門医の説明や手術後の写真をみて,手術をすれば治ると安堵した 哺乳指導により飲めるようになり安心した 診察に同席することで疾患・治療を理解し安心した 祖父母に説明の場に参加を促す医療者へ信頼を感じた 医療者に直接質問ができたので安心した 産科医・小児科医による説明や専門病院への紹介を受け安心した お産の時も普通に孫と対面できたので安心した 医療者の言葉がけにより,自分(祖母)も孫を可愛いと思えた 手術後きれいになってよかったと思った 手術でこんなにきれいになるんだと医療技術の進歩に感嘆した 受診のたびに明るくなる娘を見て医療者へ感謝した. 表 3 同じ疾患体験者に関連する心理的側面 カテゴリー. 同じ疾患をもつ子どもと 家族から得た安堵感. サブカテゴリー. コード例. 同じ疾患をもつ子どもと 家族との交流による安堵[5]. 専門病院での同じ疾患の子どもや家族が明るく,気にしていない 様子に安心した 専門病院での同じ体験者との関わりは必要だと思った. 同じ疾患をもつ子どもと 家族の存在による安堵[5]. 通院治療中,元気で明るい同じ疾患の子どもたちの存在に安心した 専門病院に通院中,同じ疾患の子どもたちがたくさんいて安心した.
(5) 日口蓋誌 46巻 2021. 《専門医以外の説明や対応に対する不安》では〈産科医. 29. と言ってくれたので,安心しました」⦅ C ⦆. からの大丈夫の言葉に疑念を抱いた〉,〈産科医が動揺され. 「今,医療がよくなっていて,あれ(口唇裂・口蓋裂). ていて,説明はなくすぐ転院になり不安だった〉,〈産科医. は治る病気って聴いていたので,(娘は)それが一番産. の説明だけでは不安だった〉などのコードが含まれ,以下 のような語りがあった。. 「産科の先生が 〝治る病気だから大丈夫〟 とだけ言わ れて,私は(病室の外で)孫の世話をしていたので…。. む理由にもなったと思います。」⦅ ɪ ⦆ 「ただもう任せるしかないと, (A 病院の)先生の説明を 聴いて, (手術前後の)写真のきれいになったのを見て,今 だけ頑張ればいいと思って。 (中略)安心しました」 ⦅D⦆. 私がひねくれているのか,良かったと思う反面,本当に. 「(専門病院の)先生から 〝普通に育てなさい〟 と言わ. 大丈夫なのかな~?という気持ちもありました。多分お. れて…。そのことを一番大事に話してくださって,(娘. 医者さん(産科医)としては,家族に安心感を与えるた. に望むことは)もうそこだけかな~」⦅ O ⦆. めにおっしゃっているのかという気持ちもありました。. 《診療場面に参加することで得た安心》では〈診療に同. ひねくれた考え方かもわからないですけど,最初はそん な気持ちもありました」⦅ J ⦆. 席することで疾患・治療を理解し安心した〉,〈祖父母に説. 《妊婦健診で疾患を指摘された困惑》では,〈妊婦健診で. 質問ができたので安心した〉などのコードが含まれ,以下. 娘から口唇裂・口蓋裂であると聴き驚いた〉,〈孫の口唇. のような語りがあった。. 裂・口蓋裂よりも合併症を心配した〉などのコードが含ま. 「通院は,手術まで(受診日に)合わせて一緒に来て. れ,以下のような語りがあった。. 「(妊娠 ₇ ~ ₈ ヶ月ごろ)娘から 〝お母さんちょっと. 明の場に参加を促す医療者へ信頼を感じた〉 〈医療者に直接. いました。一緒に診察室に入って先生から話を聴いた り,治療を見たりして安心しました。」⦅ M ⦆. 違うみたい。赤ちゃんが…。お口の辺がちょっとつな. 「娘から,〝先生や看護師さんがね,おじいちゃんもお. がってないみたい〟 って泣いて電話があって,最初は. ばあちゃんも心配だから,話しをしますよ〟 と言ってた. びっくりしました。私は(自分が)泣くのを抑えるのが. ことを聴いて,それで凄く安心しました。それから診察. やっとでした。」⦅ E ⦆. についてきて,直接先生からお話を聴いて,私(祖母). 「私は,元々違う疾患を持っていて,それ(疾患)に. にとっては凄く大きなことでした。」⦅ ʜ ⦆. よって症候群的に口唇裂・口蓋裂になるという知識はな. 《産科医療者の適切な介入により前向きに捉える思い》. かったので,その事を知った時には,かなり心配しまし. では,〈産科医・小児科医による説明や専門病院への紹介. た。」⦅ ʜ ⦆. を受け安心した〉,〈医療者の言葉がけにより,自分(祖. 《妊婦健診で疾患の指摘がなかった疑念》では,〈妊娠健. 母)も孫を可愛いと思えた〉などのコードが含まれ,以下. 診で孫の疾患が分からなかったことへの疑念をもった〉の. のような語りがあった。. コードが含まれていた。. 「待合室で(待っていたら)先に赤ちゃん(孫)が出て来. 〔医療者の適切な介入による安心・信頼〕 2). て,看護師さんが 〝口唇口蓋裂です〟 って言われて…。 (し. このカテゴリーは,《専門病院の医療者から得た安心》,. ばらくして)産科の先生が病室に来られて,A 病院は(口. 《診療場面に参加することで得た安心》,《産科医療者の適. 唇裂・口蓋裂の)専門病院で信頼ができ,手術も多いと. 切な介入により前向きに捉える思い》,《手術を終えて治療. おっしゃっていました。小児科の先生からも(治療の)説. への信頼》 , 《娘の前向きな変化に対する医療者への信頼》. 明があり,少し考えて(A 病院での治療を)お願いをしま. の 5 つのサブカテゴリーが含まれた。. した。翌日, (A 病院の)チームの方々が来てくださって,. 《専門病院の医療者から得た安心》では〈専門医の頼り. 色々詳しい情報を聴いて,本当に安心しました。 」 ⦅A⦆. になる言葉がけに勇気づけられ安心した〉,〈専門医の治療. 「 (孫が)産まれた時,看護婦さんや先生が,〝目が大きく . が確立していて,治る病気との説明で安心した〉,〈専門医. て色が白くて,まあきれいな赤ちゃん〟 って褒めてくださっ. の普通に育てなさいの説明で安心した〉,〈哺乳指導により. て…。だから,うちの子結構いけてる(かわいい)じゃな. 飲めるようになり安心した〉などのコードが含まれ,以下. いって思って…。 (中略)だから確かに(口唇・口蓋は)割. のような語りがあった。. れてはいましたけど,別に気にならなかったです。 」 ⦅ʜ⦆. 「疾患を聴いた時,すごくショックで声が出なくて, 何も手につかなくて,病院に向かっている時も涙が出て きて,でも(A 病院から産科病院へ出向いてくれた). 「分娩室で助産師さんが孫を取り上げた時,そのまま(母 親の)おっぱいを吸わせてくれて…。 (中略)普通に,吸え るかなあ~って感じで,それは凄く嬉しかったです。 」 ⦅O⦆. 先生が,〝任せてください〟 って(言って),頼りにな. 《娘の前向きな変化に対する医療者への信頼》では〈受. るって思いました。あの病院に行ったら治るんだって。. 診のたびに明るくなる娘を見て医療者へ感謝した〉のコー. (先生が)〝こちらでちゃんと受け止めます〟 みたいなこ. ドが含まれ,以下のような語りがあった。.
(6) 30. 日口蓋誌 46巻 2021. 「産まれてからこちら(A 病院)に来るまでは,どうなる. セリングが重要性である11)。妊娠中,疾患を指摘された困. のだろうと不安でした。こちら(A 病院)に来てからは,病. 惑や指摘されなかった疑念を持ち,いずれにしても心的動. 院に行くたびにホッとしました。娘と孫が機嫌よく(車に). 揺がみられる複雑な心理状態が明らかになった。さらに,. 乗ってね。〝また病院いけるよ〟 とか言って娘もはしゃいで,. 祖母は CLP 疾患について知識がある場合,症候群として. その度に明るくなり,感謝のしようがありません。 」 ⦅E⦆. 重症な疾患が隠されているのではないかと,さらなる心配. 4.【同じ疾患体験者に関連した心理的側面】. が出現していた。医療者は,このような心理状態にある祖. 【同じ疾患体験者に関連した心理的側面】は,〔同じ疾患. 母の特徴を踏まえた上で関わることで,より的確な支援が. をもつ子どもと家族から得た安堵感〕の 1 つのカテゴリー. 提供できると考える。. で構成されていた。. 〔医療者の適切な介入による安心・信頼〕では,祖母は,. 〔同じ疾患をもつ子どもと家族から得た安堵感〕 1). 《専門病院の医療者から得た安心》を感じていた。先行研. このカテゴリーは《同じ疾患をもつ子どもと家族との交. 究 12)より,専門病院の医療者の早期介入により母親は安. 流による安堵》,《同じ疾患をもつ子どもと家族の存在によ. 心していた。本研究においても,祖母は,早期に的確な説. る安堵》の 2 つのサブカテゴリーが含まれた。. 明を受けたことで,疾患・治療を理解することができ,専. 《同じ疾患をもつ子どもと家族との交流による安堵》で. 門医からの「口唇裂・口蓋裂は治る病気」の言葉を率直に. は〈専門病院での同じ疾患の子どもや家族が明るく,気に. 捉え,治療が確立していると理解ができたことで安心して. していない様子に安心した〉,〈専門病院での同じ体験者と. いた。また,前報 5,6)において,祖母は孫の疾患を知った. の関わりは必要だと思った〉のコードが含まれ,《同じ疾. 時,母親と同様にショックを受けていたことや娘の心理状. 患をもつ子どもと家族の存在による安堵》では〈通院治療. 態に同調することが示唆された。以上のことから,祖母の. 中,元気で明るい同じ疾患の子どもたちの存在に安心し. 診療場面への参加は,孫の病状・治療の進捗状況や娘の精. た〉などのコードが含まれ,以下のような語りがあった。 「皆さん(同じ体験者)明るいし,全然病気っていう. 神状態が安定していく様子を,間近でかつタイムリーに知. 感じじゃないし,そんなの気にしていない様子で,すご. 口唇裂・口蓋裂の子どもを出産した際,家族への説明で祖. いと思いました。」⦅ K ⦆. 父母が参加しているケースは半数以下であり12),祖父母を. ることができ,安心できる機会になると言える。しかし,. 「ホント毎日でも連れて来て,多くのお母さんの中に. 含めた家族全体に着目し,診療場面への参加を促している. いるだけでも違うと思ってね。娘が明るくなり感謝して. 病院は少ない13)。一方で,A 病院の医療者は,孫に付き. います。」⦅ E ⦆. 添って来院している祖母に対しても診療場面への参加を心 がけている。すなわち,専門医療者をはじめ産科医,小児. 考 察. 科医,看護職の多職種チームで早期に介入することで,祖. 1.医療者に関連する心理的側面. 母は〔医療者の適切な介入による安心・信頼〕という受け. 本研究において,〔受け入れがたい情報から生じる不. 止めに繋がったと考える。危機的状況を乗り越えるために. 安・困惑〕を抱いていた祖母は,孫の世話で病室には入れ. は,キーパーソンが必要であり14),加えて,障がいをもつ. ず,産科医からの説明を聴いていない状況がみられた。あ. 祖父母は,孫の両親をキーパーソンと考えており,自身が. るいは,産科医療者は子どもの転院に集中しがちで,両親. 境界を越えないで支えようとしているとの報告がある15)。. に疾患や治療の説明を行っても,祖母への説明には至って. 以上のことから,祖母の役割は,娘に寄り添い支えること. いない。そのため,祖母は,納得のいく対応とは捉えられ. であり,孫のキーパーソンである両親をサポートする役割. ず,疑問に思い不安に陥る心理状態になることが示唆され. をもっていると言える。医療者はその役割を理解して,祖. た。先行研究 9)では,産科医はホッツ床,授乳方法,具体. 母に対する疾患・治療の説明や診療場面への参加を促し,. 的な療育についての知識不足や困難を感じており,専門医. 情報・知識を共有することが大切であると考える。. の支援の必要性があると報告している。したがって,産科. 祖母に対する産科医療者の適切な介入,専門医や看護師. 医療機関が必要とするタイミングで,専門性の高い医療者. からの説明や診察場面への参加を促す配慮,医療者に直接. が,その知識と技術を提供することが求められている。. 質問ができたことによって,祖母は安心することが明らか. 先天性疾患である口唇裂・口蓋裂は,妊婦健診時のエ. になった。さらに,祖母は,手術治療や診療への信頼,医. コー検査で確認されるケースと,出産後に初めて子どもの. 療者との関わりによる娘の前向きな変化などを通して,安. 疾患が明らかになるケースがある。超音波診断技術の進歩. 心や信頼を得ていた。松本ら16)は,告知を受けたタイミン. により妊娠中に胎児の異常・障がいが診断され,先天性奇. グでの医療者が提供する丁寧で根気強い説明は効果的であ. 形で出生した半数が出生前に診断されており ,精神的に. り,複数の診療科医師による説明が行われる過程で,混乱. ストレスを感じている母親と家族ほど,出産直後のカウン. が収束していくと報告している。また,藤原ら17)は,専門. 10).
(7) 日口蓋誌 46巻 2021. 31. 医療機関の医療者が,早期からチームで関わることが重要. ゴリーの頻度数には偏りがみられており,最も多い頻度数. と考え,出生病院へ出向き専門的知識と技術を提供するこ. であったサブカテゴリーの「専門病院の医療者から得た安. とで,家族との信頼関係を築いていると認識していたと報. 心」に含まれるデータは,今回対象とした祖母全員から語. 告している。本研究においても,医療者が CLP 児を可愛. られた言葉であった。前述で考察したように,医療者の早. いと表現したこと,早期から適切なインフォームド・コン. 期介入は多くの祖母が安心する要因と認識している可能性. セントや医療・看護支援のプロセスをたどることで,祖母. がある。そのため,今後は,祖母の背景と心理的側面との. は,産科医療者に対する信頼感を抱き,安心していた。産. 関連性にも注目して量的に調査する必要がある。. 科医療者は,子どもの疾患についての告知後,できるだけ. 結 語. 早い時期に,母親だけでなく祖母をはじめとする家族が, 前向きになれる言葉がけや疾患・治療の説明に努め,チー. 本研究は,疾患の告知から初回口唇形成術後の期間にお. ムで支援することが重要である。加えて,産科医療者は,. ける,医療者および同じ疾患体験者に関連する心理的側面. 早期に口唇裂・口蓋裂を治療する医療者へつなげる責務が. に焦点をあてた。祖母は,孫の疾患・治療に対して,十分. あり,それまでの期間は,産科医,小児科医,助産師,看. な理解が得られる説明がない場合,納得のいく対応とは捉. 護師,各々の医療者が,それぞれの立場で役割と責任を果. えられず,その疑念から不安に陥る心理状態になることが. たすことが必要である。こうした連携や医療・看護支援. 示唆された。しかし,できる限り早い段階で,適切なイン. は,両親だけでなく祖母の精神的安定に繋がることが示唆. フォームド・コンセントや専門医療・看護支援のプロセス. された。. をたどることで,祖母は,孫の疾患に対する理解を深め,. 2.同じ疾患体験者に関連する心理的側面. 医療者に対する信頼感を抱き,安心していた。祖母として. 祖母は,同じ疾患を持つ子どもと家族の存在や交流に安. の役割を果たすためにも,医療者はそれぞれの立場で祖母. 堵している心理状態が明らかになった。口唇裂・口蓋裂の. に対する疾患・治療の説明を行い,祖母を含めた家族が診. 子どもをもつ母親の苦悩は,同じ体験者の母親のサポート. 療場面に参加することができれば,真のチーム医療が提供. やピアサポートの支援により緩和される との報告があ. できると考える。前報と本論文を通して,祖母は,孫,. り,同様のことが本研究の祖母にみられた。孫に付き添い. 娘,家族,医療者,同じ疾患体験者に対する心理状態が. 来院した A 病院で,同じ疾患をもつ子どもやその家族と. あった。これらの人との対話や関わり,周囲からの様々な. 出会い対話することで,共感や情報を得ることができ安心. 支援を通して,祖母の心理状態は変化していた。. 18). につながっていた。また,祖母は多くの同じ疾患の子ども の存在を知り,自分の孫だけに起こっていることではない. 謝辞 調査にご協力いただきました対象者の皆様に心より感謝申. と認識し,子どもとその家族の明るさを身近で感じること. し上げます。また,研究全般に渡りご指導いただきました藤原千. で安心感を得て,前向きな考えに至っていた。阿部ら. 19). は,障がいをもつ家族は,ピアサポートの存在をよりどこ ろとしており,対話ができる居場所が必要であり,一瞬で 思いを共有し安心感につながると報告していた。本研究の ケースでは,約 3 ヶ月の短い期間では,来院回数も限ら れており,関わりも十分ではないことから,祖母のピアに 対する心理状態は,後々の関わりを通してさらに形成され ていくと推測する。医療者側は,早期から祖母を含めた家 族に対して,同じ体験者との交流ができる環境づくりや祖 母を意識した支援体制を整えることが期待される。 以上のことから,前報 5,6)から本論文を通して,祖母は, 孫,娘,家族,医療者,同じ疾患体験者に対する心理状態 があった。これらの人達との対話や関わり,周囲からの 様々な支援を得て,自問自答を繰り返しながら,心理状態 が変化していた。また,祖母は孫の疾患を通して,孫の祖 母としての自分,娘の母親としての自分,個としての自分 の心理状態が存在していた。 本研究では,CLP 児の祖母の言葉を質的に分析して, 医療者に関連する心理的側面を明らかにした。各サブカテ. 惠子先生に心より感謝申し上げます。 本研究は,2018 年度武庫川女子大学大学院修士論文の一部に 修正加筆を加えたものであり,また,利益相反に関する開示事項 はない。 文. 献. 1)高戸 毅監修,須佐美隆史,米原啓二編集:口唇口蓋裂の チーム医療.第 1 版,21︲24,金原出版,東京,2005. 2)中新美保子,高尾佳代,石井里美,他:口唇口蓋裂児をも つ母親の受容過程に及ぼす影響.川崎医療福祉学会誌,13: 295︲305,2003. 3)中新美保子,末永美香,宝田愛莉:口唇口蓋裂児の家族が社 会から受けた言葉や態度の抽出と医療の課題.川崎医療福祉 学会誌,16:173︲178,2006. 4)熊谷由加里:口唇口蓋裂児とその家族に対する出生病院へ の早期出向看護支援の取り組み.小児看護,35:1805︲1808, 2012. 5)熊谷由加里,藤田優一,北尾美香,他:口唇裂・口蓋裂の孫 をもつ祖母の心理状態―孫に関連する心理的側面―.日本口 蓋裂学会誌,44:175︲181,2019. 6)熊谷由加里,藤田優一,北尾美香,他:口唇裂・口蓋裂の孫 をもつ祖母の心理状態―娘に関連する心理的側面―.日本口 蓋裂学会誌,45:213︲219,2020..
(8) 32. 日口蓋誌 46巻 2021. 7)古郷幹彦,西尾順太郎:顔面・口腔の異常.白砂兼光,古郷 幹彦編集;口腔外科学.第 3 版,43︲45,医歯薬出版,東京, 2010. 8)グレッグ美鈴:質的記述的研究.グレッグ美鈴,麻原きよ み,横山美江編集;よくわかる質的研究の進め方・まとめ方. 64︲84,医歯薬出版,東京,2016. 9)中新美保子,森口隆彦,岡 博昭,他:口唇裂口蓋裂を出生 前診断された妊婦に対する治療側からの支援:出生前情報提 供の体制づくり.日本口蓋裂学会誌,31:285︲292,2006. 10)左合治彦:胎児超音波スクリーニング検査の実際.日本産科 婦人科学会雑誌,56:638︲644,2004. 11)武田康男,竹辺千恵美,野中 歩,他:口唇口蓋裂児の早期 療育に関する研究.日本口蓋裂学会誌,32:1︲13,1994. 12)熊谷由加里:口唇口蓋裂児に対する歯科口腔領域専門病院 からの早期出向看護支援の意義.小児看護,40:884︲891, 2017. 13)中新美保子,篠原ひとみ:口唇口蓋裂に対する出生前告知の 実態:産科医師に対するインタビューを実施して.日本看護 学会論文集 母性看護,35:178︲180,2004.. 14)半田美友紀:障害児の受容を困難とした母親への精神的援助 フィンクの危機モデルによる心理分析を試みて.日本看護学 会論文集 小児看護,30:91︲93,2000. 15)Woodbridge, S., Buys, L., Miller, E. : Grandparenting a child with a disability : An emotional rollercoaster. Australasian Journal on Ageing., 28:37︲40, 2009. 16)松本 学,中条 哲,幸地省子,他:先天性疾患が出産後の 母親に与える心理的影響:口唇裂・口蓋裂乳児の母親にお ける抑うつ得点の 2 点間比較.共愛学園前橋国際大学論集, 13:101︲109,2013. 17)藤原千惠子,池 美保,西尾善子:専門医療機関の口唇裂・ 口蓋裂の子どもをもつ母親に対する看護援助の内容とその問 題.武庫川女子大学看護学ジャーナル,1:53︲61,2016. 18)峠真梨亜,新田紀枝,池 美保:唇顎口蓋裂児を育てる母親 の苦悩を緩和させる支援.日本口蓋裂学会誌,35:223︲229, 2010. 19)阿部順子,岡田由香,吉川雅博:高次脳機能障害家族のスト レス軽減のプロセス:ピアサポートに焦点をあてて.岐阜医 療科学大学紀要,9:1︲10,2015..
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