教職課程カリキュラムの実施における現状と課題
:オンライン授業の実践交流を手掛かりに 米津直希、宇田光、五島敦子、笹尾幸夫、大塚弥生 (南山大学教職センター) 要旨 南山大学では新型コロナウイルス感染症への対応として、全学的にオンライン授業を実施す ることとなった。2020 年度における一時的な措置ではあるが、授業実施における内容や方法、 環境について課題が明らかになっている。そこで南山大学教職センターは、主に教職課程のカ リキュラム実施において、これまでに明らかになった具体的な課題と今後の方針について検討 を行った。その結果、科目によってはオンラインツールを活用し、有効と思われる指導を行う ことができていることがわかった。一方で、教員・学生ともに操作の不慣れや実施手順の複雑 さにより、負担が増加している傾向も見て取れた。オンライン授業については教職志望の学生 にとって実践的な課題になりうるものでもあり、今後も検討していくべき課題である。 はじめに 南山大学では、クォーター(4 学期)制度が取られている。今年度は新型コロナウイル ス感染症への対応で、授業開始が当初の予定から3 週間遅れの 4 月 24 日からとなり、か つ春の第1、第 2 クォーターにおいては原則としてオンライン授業を実施することとなっ た(3 月 20 日付の決定)。 大学本部からは、「本学におけるオンライン授業のリソースについて」(4 月 1 日付) において、オンライン講義支援システム(WebClass)、オンラインストレージサービス (Proself)、新たに導入されたオンラインミーティングサービス(Zoom)※(注)等の 積極的な利用を求める案内があった。また、4 月 17 日には Zoom を利用した教員向けのオ ンライン授業ガイダンスが実施された。その際、学生が授業のための資料をダウンロード するための新たなシステム(資料 DL サーバ)についても説明があった。授業開始前日に はZoom の有料ライセンスに登録され、大人数による授業が可能になるなど体制が整えら れた。実施に当たっては、①Zoom ミーティングをもちいた授業と、②学生が教材をダウ ンロードして自己学習する方式の二つが併用された。 結果的に、授業を実施するためには Zoom、資料 DL サーバの二つの新たなツールを利 用することが最低条件となった。こうして各教員のインターネット環境や、オンラインツ ールへの慣れ・不慣れに関わらず、1 か月弱という短期間のうちに対応せざるを得ない状 況になった。これは学生にとっても同様である。インターネット環境については第3 クォ ーターに至っても十分に整っているとはいえない。そもそも経済的な背景等の問題により 整えられない学生もいるため、いぜんとして重要な課題の一つとなっている。こうした状況を受け、南山大学教職センターでは、第3 クォーター以降の授業形態につ いての検討と、第1、第 2 クォーターの振り返りを行った。以下は、7 月 29 日に開催され た教職センター第1 回 FD 会の、概要記録を整理し直したものである。参加者は教職セン ター所属の専任教員5 名で、Zoom ミーティングとしておこなわれた。 1 第 3 クォーター以降における授業形態について 宇田(司会) 本年度の春学期は、手探り状態でオンライン授業をしてきた。さて、第 3 クォーター※(注)以降の授業形態(対面、オンライン)をどうするか現在、教職セン ターとしての回答を求められている。教職課程の科目は、選出の指針上は対面授業の実施 が認められる可能性もある。その性質上、実習や演習を伴うことが多いことも考慮しての ことである。 ただ、もし対面授業とオンライン授業とが時間割のなかで混在すると、実際の運用は難 しくなるだろう。もし1 日の時間割の中で 1 科目だけでも対面となれば、学生はその授業 だけのために大学に出てくる必要が生じる。また、対面授業をやることになっても、大学 に来るリスクは避けたいという学生にも配慮して、並行して授業の配信を求められる。 そこで、今日はこうしてFD 会の形でお集まり頂いて、率直に教職課程における今後の 授業のあり方について意見交換をしたい。なお、非常勤の先生方には、既に私からメール でご連絡してご要望を確認している。現時点で、お一人の方からできれば対面でやりたい とのご意見があった。ただその後、様々な制約を考えた結果やはり難しいだろう、オンラ イン授業の継続はやむを得ない、というご回答を頂いている。その他には、対面を希望す るとのご回答はなかった。 「書道」だけは大塚先生に窓口になって頂き、ご担当の先生に打診した。この科目だけ は、対面でないとやはり難しいと推察される。しかも、ご担当の先生はPC を使われない し、教室は(水道を使える)R 棟の教室をご希望とのことである。しかし、授業配信の設 備の問題もあって、R 棟は使えない。そこで、特別な対応が必要である。 では、さっそく先生方から第3 クォーター以降の授業についてのご意見を頂きたい。 笹尾 オンライン授業を継続したい。対面で授業し、大学に来ない学生向けに並行して ビデオを視聴するという方法は、効果が疑わしい。それくらいなら、最初からZoom でや ったほうが良いのではないか。 大塚 授業配信の併用は、やはり非常にやりにくいだろう。もちろん、カウンセリング の演習など、どうしても画面越しと対面とは違う。オンラインでの演習は、最良の方法で はないが、やむを得ない。Zoom でやっていくつもりで内容、方法の変更を考えている。 五島 Q1、Q2 の経験から、オンラインでも対面の授業に近いことはかなりやれるとい う感触を得た。春の授業ではブレイクアウトルーム※(以下BO ルーム、注)、投票、画 面共有、ビデオ教材の利用など様々な機能を試した。なんとかやれる。
米津 もちろん対面授業も良いのだが、オンライン授業にもそれなりの良さがあって、 効果もある。授業中にZoom によるチャット機能を多用したが、対面の授業と違って授業 を止める必要がないためか学生からの発言や質問が出やすく、ふだんの対面授業でなら出 ないような意見、質問が出ることもあった。またアンケート機能によって手軽に意見・考 えの傾向を共有でき、簡単な復習テストも実施することができる。 宇田 第3 クォーター以降も原則としてオンライン授業ということで、教職課程の先生 方の方針は一致したと言って良いようだ。もちろん、対面授業には捨てがたい魅力がある のだが、大学全体としての方針や現状を考えるとやむを得ない。「書道」のみは対面授業 を希望として、教室などをどう対応するか考えていく必要がある。 2 第 1,第 2 クォーターの授業実践を振り返って では次に、第1・第 2 クォーターの授業でどういうやり方をされたか、オンライン授業 で苦労されたことなど、自由にお話頂きたい。 五島 「学校教育概論」と「学校教育制度論」の授業があった。Q2 の授業も、15 回中 の5 回は課題、10 回は Zoom という Q1 で求められた形で継続してやった。毎回毎回、課 題を繰り返すためか、いつもの対面授業よりもテストの成績は良く、効果が高かったよう だ。 グループ内でのプレゼンテーションをおこなっている。BO ルームで、意外に対面授業 と同じようにやれた。1~5 位まで班内で順位をつけるかたちでの相互評価をしたが、これ も教員の評価と同等の精度でやれたのではないか。ただ一般的に、オンライン授業では「差 が開きやすい」といわれるが、確かにそういう印象がある。 笹尾 当初は学生のインターネット環境の整備状況が分からないこと、また、私自身が Zoom の操作に不慣れなこともあって、第 1 クォーターの「生徒指導論・進路指導論」と 第1、第 2 クォーター(春学期)の「道徳教育指導論」は、授業で使用するパワーポイン ト教材のノートに説明を入れたものと学生に配布するレジュメを前日の 12 時までに DL サーバに、またWebClass に「本日のレポート」用紙をアップした。そして、講義の時間 帯にZoom により、1 時間程度、教材の説明を行った。学生には、毎時間「本日のレポー ト」として教材に関する簡単な課題を与え、WebClass に提出するようにしたので、Zoom による教材説明を聞いていなくても、この課題の提出をもって授業への参加とした。 しかし、第1 クォーターの途中から Zoom により DVD を視聴させることが可能である こと、インターネット環境が十分でない学生に大学からWi-Fi の貸し出しがあることなど から、学生にはなるべくZoom の授業に参加し、DVD を視聴するよう指導した。ただし、 説明付きのパワーポイント教材は引き続き提供した。 このような取組のため、オンライン授業は、実に慌ただしいという印象である。パワー
ポイント教材に説明文を入れるだけでも、かなりの時間が必要であった。また、「生徒指 導論・進路指導論」は月曜日と木曜日の授業のため、前日の日曜日と水曜日の午前中まで にこれを準備し、DL サーバにアップしなければならない。さらに、課題として与えた「本 日のレポート」のチェックも、一人ずつファイルを開いて評価するため、通常の授業より 時間を要した。特に提出ボックスが複数あると誤って提出する学生がいるため、提出期日 は翌日までとし、提出ボックスが重ならないように工夫した。試験もZoom の授業の中で 指示を与え、WebClass に提出させた。オンラインでも公正な試験となるよう記述式問題 としたが、明らかにまだ解答途中のファイルを誤って最終の答案として送ってきた学生が おり、この場合、当該学生に確認のメッセージを送り、再提出させなければならなかった。 このようなオンラインならではのトラブルが度々生じることも、慌ただしく感じる理由の 一つであろう。 第2 クォーターは、Zoom の授業に慣れてきたことから、説明付きのパワーポイント教 材の提供をやめ、学生はZoom の授業に必ず参加するようにした。「道徳教育指導論」で は、班での話し合い活動や模擬授業を実施している。模擬授業を班で準備させるため、話 し合い活動も同じメンバーで実施しているが、受講者72 名をその都度、12 の BO ルーム に割り振るのは大変であった。また、受講者が多いため、2 教室に分けて模擬授業を実施 しているが、2 つの BO ルームに分けると、さらにその中を複数の BO ルームに分けるこ とができず、模擬授業の中で班の話し合い活動が実施できないことがオンラインでの課題 となっている。なお、「道徳教育指導論」は第3、第 4 クォーター(秋学期)にもあるが、 受講者が例年十数名のため、この課題は生じないと考えている。 米津 曜日ごとに、火曜は Zoom、金曜は課題の自己学習式と決めて、授業を進めた。 Q1、Q2 において通信制限の有無や受講環境についてアンケートしてみた。通信量につい ては、制限があってもほぼ問題ないという回答が多かった。講義に集中できる環境の確保 についても問題なかった。ただし、印刷が大変だ、という学生が 5%いる。たとえば「コ ンビニに行って教材を印刷してくる」という学生もあり、夜遅くなったりすると困ると言 う。 通信量の制限に問題がなかったのは、一部の携帯電話会社が通信容量を一時的に無料サ ービスしたためである可能性もある。このサービスには8 月に終了されるものもある。そ のため、秋の授業が心配である。かえって秋のほうが、条件が悪くなる可能性もある。 大塚 「教育相談」の授業は2 年生の科目だが、3 年生にしたほうが良いのでは、と思 っている。教育心理学なども未履修の段階で、教育相談を学んでも難しいのではないか、 という思いがずっとある。授業方法としては、BO ルームを多用した。また、最後の 10 分 に授業の振り返り時間を設けている。 学生により、ものすごい差がつくという印象である。また、(BO ルームで)グループ をのぞきに行ってみると、顔を出さずに、みなシーンとしている、などという場合もあっ てびっくりする。
レポートを出したのか、出していないのか、学生からWebClass で確認が取れない場合 があるようだ。 宇田 第2 クォーターでは、もっぱら Zoom での授業をした。教員側ではレポートの提 出窓口の設定を誤るとか、学生側でも違う窓口にレポートを出してくるなど、一部で混乱 した。他にも、違う授業のレポートを提出してしまう、とか横倒しの PDF 文書を送って くる、など最初はいろいろ経験した。教員も学生も互いに不慣れで、失敗も多かった。し かし、さすがに毎回毎回Zoom で授業をやっていると、互いに慣れてきてなんとかなって いる。これらの失敗を教訓に、Q3 以降のオンライン授業をおこないたい。 なお、8 月中に他大学の集中講義を予定している。Zoom でおこなうが、レポートの提 出は対面とは異なり、最後にまとめて求める予定である。このように、オンライン授業で は、成績評価についても対面の授業とは異なる工夫が必要になる。 おわりに 以上のように、特に講義形式をメインとするような授業においては、Zoom による各種 機能を使用しながら、一定程度の質が確保できていることが推察された。一方で、教員・ 学生ともに操作やオンライン形式に十分に慣れなければ様々な齟齬が生じること、Zoom 機能の制限やレポート回収等における手間など基本的に解決不可能な問題が存在するこ と、通信量の問題がいぜんとして存在することなどが課題として確認された。 また、教職課程の性質上、将来教職に就く学生にとっては、実際に児童生徒と触れ合い ながら関係性と信頼関係を構築することが重要であり、こうしたことを大学における対面 授業を通して学ぶことも重要である。実際の教育現場においては、オンライン授業等の対 応を通して児童生徒の家庭環境を改めて見直したり、給食の役割を捉えなおしたりするな ど、それまでは見えにくかった部分に着目する積極的な意見がある一方で、どうしても直 接的なやり取りでないと構築できない関係性があることについても言及されている(教育 科学研究会、中村(新井)清二、石垣雅也『コロナ時代の教師のしごと―これからの授業 と教育課程づくりのヒント』旬報社、2020 年 7 月)。 また、オンライン授業の是非については、初等・中等教育における「バーチャルスクー ル」(VS)の現状も参考になる。結論として、米国で既に盛んな VS は現状としては、従 来の公立学校を置き換えられるレベルの学校ではない。もちろん、一部の子どもたちのた めのオルタナティブとしては有用だが、問題点が多すぎる。たとえば VS では、教員一人 あたりの担当する児童生徒数が極めて多くなっている。また、オンライン授業をする学校 というよりも、「教材配信サービス」と言うほうが実態に近い。 大学に話を戻すと、通常の大学には物理的なキャンパスがあり、学生が通ってくる。教 室はもちろん、図書館や情報センター、ラーニング・コモンズなど多彩な設備を用いるこ とができる。体育の授業や部活においては、体育館や運動場など各種の施設も使える。通 信制の大学にはこうした設備はない代わりに、授業料が相対的に安い。
バーチャル(オンライン授業)に対して、リアル(対面授業)の本当の利点は何か。今 後の教員養成、及び大学教育を考えるうえでも、これが一つの鍵になるだろう。 注 Zoom ミーティング オンラインでの会議システムの一つで、授業では教員が「ホスト」 となって「ミーティング」を開催する。受講生は、PC やスマホなどを用いてそのミー ティングに「招待」されて参加する。 ブレイクアウトルーム Zoom ミーティングで準備されている一つの便利な機能で、受講 生の「班分け」ができる。ただし利用するには、ホスト側で設定が必要である。特に、 班での発表などを含む授業では、学生も画面共有の機能を使えるように設定する。