表面ポラリトンの新しい励起方法
中川恭彦 垣尾省司
(平成4年8月31日受理)
New Excitation Method of Surface Polaritons
YasuhikoNAKAGAWA ShoziKAKIO Abstract We proposed a new excitation method of the surface polaritons of Fano−mode which can not be excited by the attenuated total reflection method. We designed and produced the thin film waveguide in order to excite suface polaritons of Fano mode at Ag−SiO2 interface. When awave number of the optical guided waves propagating in the dielectric thin film waveguide (SiO2/Ta205/SiO2)is equal to the one of the surface polaritons, the mode coupling between two medes occurs. Therefore we can confirm the excitation of the surface polaritons by detecting an attenuation of optical guided waves. Analysis was made using the surface polariton and TM waveguide beam were obtained. These analysis results were confirmed experimentally. At the result, the effectiveness of the new method to excite the surface polaritons was estab・ lished. 1.まえがき 表面ポラリトンは,電磁波と表面分極波(表面プラ ズモン,表面励起子,表面マグノンなど)が結合した 素励起である。表面ポラロトンは表面近傍に局在する 性質を利用した薄膜の光学定数の測定,表面近傍の物 性・構造の観測など計測の分野で利用されており1},表 面ポラリトンのエネルギーが表面近傍に集中するこ とを利用して,1分子層の物性情報が得られる増大ラ マン散乱2)とか,その他の種々の非線形光学現象など が応用分野として考えられている。また,表面ポラリ トンの伝搬定数が通常の電子に比べて数桁大きいこ とに注目し,超高速の演算素子を実現できる道が開か れたという興味ある報告が最近なされている3)。 表面ポラリトンは表面に局在しているので,光集積 回路と同様,単に光を試料に入射しただけでは表面ポ ラリトンを励起できない。励起方法としては全反射減 衰法(ATR法)4)が知られているが,この方法はプリ ズムの全反射を利用するため立体構造となり小型化 には向かない。本報告では,小型化が可能な新しい表 面ポラリトンの励起方法としての“薄膜導波路法5)”を 提案し,モード結合理論による理論解析と実験結果と の比較を行う。 2.層構造における表面ポラリトン 図1の様な厚さdの活性媒質(半導体,金属)を挟 む3層構造に局在する電磁波について解析する。各層 共に非磁性体で比透磁率がμ,=1であるとし,誘電 率はそれぞれε1,ε、,ε、とする。ただし,中間層は活 性媒質であるためε2は複素数である。表面ポラリト ンにはTEモードが存在しないので, TMモードのみ について考える。 各媒質中のx軸方向に一様な電磁波の成分は *電子情報工学科,[山梨大学工学部研究報告第42号1991年12月] Hxi=Hi(y)exp[j(ωt一β』z)] (1)平成3年12月 第42号
ユ
2
X
_sL
2
y
medium I(oir)ピ。=1 in†erfoce l:2 medium 2(Ag)E2・(02−j3.7S2 in†erfoce 2:3medium 3(SiOJ 63・(L456f
図1 3層構造解析モデルHyi=Hzi=0
(i; 1, 2, 3) と記述でき,各層の波動方程式は ▽2Hx、十ki2Hxi=0 (2) である。ただし,ん,2;k。ni2,ん=ω/C, ni2=εi/ε。 である。式(1)を,式(2)に代入し,境界条件 (a):y→±∞ で反射波が存在しない (b):ッ=±d/2でE,Hの接線成分が連続から, 非自明な解をもつ必要十分条件より,次式の分散式を 得る。 t・n(k・・d)−j匂P慧欝欝昔2
k⊥i2=ki2一β』2 (3) 後に示す薄膜導波路法のモデルを想定して,各媒質を それぞれ,空気(n、=1.0),Ag(n,は複素屈折 率),SiO2(n3=1.456)として分散式を解くと図2の 分散曲線を得る。プロットは各周波数に対応するAg の複素屈折率から分散式を解いた値である。このよう に,表面ポラリトンには2つのモードが存在し,①の モードはLeakyモード,②のモードはFannoモード と呼ばれる6)。 図1に示す3層構造(air/Ag/SiO,)における②の表 面ポラリトンモードのポインティングベクトルの絶 対値と伝搬方向に対するパワーフロー角を図3に示 す。図に示すように,Fannoモードでは,エネルギー が活性媒質(Ag層)をはさむ両媒質のうち,屈折率の 大きい媒質の境界付近に集中し,エネルギーの流れは 至るところでAg層に向かうことがわかる。 Ag層内 では,エネルギーの流れが伝搬方向とは逆方向になっ ており,これは活性媒質特有の現象である。他方,① のLeakyモードは, Fannoモードの性質(導波モー ド)とは異なり,SiO2層ヘエネルギーを放射しながら 伝搬する,いわゆる放射モードである。 このように2つのモードは性質が異なるため,励起 法も異なる。Leakyモードは放射モードであるため外 部から直接励起できるが,Fannoモードは直接励起が 不可能である。ハ
m\
rO x1015呈9
3
δ6
8
号
置・
・一’一゜°’(a) ・ρ一一一’{b,週
0
234xlO7
Wave number k, (rUd/m)
図2 分散曲線 xlO−6 .4 Abgz
> 一.4し
P言g.3・Ag
…一く1
8Q40
85.30Si°・ 卜週86°
xlO7 0 .8 1.6POYNTING∨ECTOR{W/m)
図3 表面ポラリトンのエネルギー分布 3.薄膜導波路法 表面ポラリトンには2つのモードがあり,それぞれ 性質の異なるモードであるため励起法も異なるが,Leakyモードの励起法として,古くから知られる全反 射減衰法4)がある。これはプリズムの全反射を利用す るものである。本章ではFannoモードの新しい励起 法である薄膜導波路法について述べる。 図4 試料構造 incidpnt ligh† Sio2 subsヤde 薄膜導波路法の試料構造を図4に示す。溶融石英基 板上にTa,0,, SiO、, Agの薄膜を,それぞれDCスパ ッタ,RFスパッタ,真空蒸着により重ねた構造になっ ている。図5はその断面のエネルギー分布を示したも のである。カップリングプリズムでTa205層に導波 されたHe−Neレーザー光の中間のSio2層への染み だし成分が,Fannoモード表面ポラリトンを励起す る。表面ポラリトンはTMモードのみ存在するので, y dir w Ag dA ds 〆〔’……’一一’一 C/’
@ SiO、
dT1b205
dl BSIO2
図5 5層構造におけるエネルギー分布 TMモード導波光とのみ結合できる。TM導波光は表 面ポラリトンを励起することにより減衰するので,そ の減衰量を測定すれば表面ポラリトンを励起できた か否かが分かる。 各層の膜厚は,表面ポラリトンの波数の実数部と TM導波光の波数が一致するように決定される。仮 に,Agの膜厚広を200nmとすると,図2の分散曲線 より表面ポラリトンの伝搬定数の実数部は,βm/k。= 1.582となる。そこで下の対称3層構造(SiO2/Ta205/ SiO、)におけるTM光の波数膜厚依存性を図6に示 す。この図に1(3m/ん。=1.582の直線を引き,その直線と 各モードとの交点が波数の一致するTa、0、層の膜厚 dTを示している。例えば, TM−5モードの導波光で表 面ポラリトンを励起させるにはdT=1180nmとすれ ばよい。なお,中間のSiO2層は結合領域であるため, 膜厚dsは一意に決まらないが結合長と結合係数に影 響を与えるものである。E
5
9
52
▽8
2
吉1
套
O
O7i Q8 q9 1ρ O.733 sinθTa20s
図6 TMモードの波数と膜厚の関係 4.モード結合理論による特性解析 本章では薄膜導波路法における理論解析を行うた めに,モード結合理論7)を導入し,その近似解と数値解 析を行う。図5の5層構造において,中間のSiO、層を 共通にして,上の3層(air/Ag/SiO2)と,下の3層 (SiO2/Ta205/SiO2)に分け,上層の表面ポラリトン と下層のTM導波光の染みだし成分が,中間のSiO2 層で結合するものとして解析を行う。 基準化された表面ポラリトンの波動解を Hxp=(1/2)Kp(z)hp(y)exp[j(ωt一βpz)] (4)平成3年12月 第42号
基準化されたTM導波光を
Hxm=(1/2)Km(z)hm(y)exp[j(ωt一βnz)] (5) とおく。ここで,固有関数hp(y), hm(y),伝搬定数 βp,/(3mは2章で述べた3層導波路の解析解としてそ れぞれ独立に与えられるものとする。マクスウエルの 方程式より得られるTMモードの波動方程式は ▽2Hx= (μoε)∂2Hx/∂ t 2 (6) である。ただしεは中間のSiO,層の誘電率である。 Sio、層での他のモードとの結合で生ずる磁界の摂動 分をH。pertとすると,式(6)は ▽・Hx−v・・∂G晋+x…碧㌣
となる。式(7)に式(4)を代入し,摂動条件 (ld2Kp/dz21)《6p(「dKp/dzl)》 を用いれば, 一j焼聖馬(y)・xp[j(ωt一βP・)]_ 血
一μ0ε ∂t2 (7) (8) となる。この両辺に玩(y)の複素共役をかけて一・・〈 y〈∞まで積分すると 一j居聖最(y)hp・(y)・j(b’tm6・z)dy一μ・εん牛恥*(y)dy
(9) ここで,TM導波光のSiO、層への染みだし成分が表 面ポラリトンの摂動場H。pertとなるから式(5)を式(9) に代入すると, 一j脇聖・j(b’t−「Sbz)一一拘・ω・ ×÷K。(・)・」(ωt−/(3・ z)ムh。(y)hp・(y)dy ただし C,−凾№奄潤C hp(y)hp・(y)dy である。式(10)を整理すると, 半一x。b K。(・)・j(fip−il3}ri)z ここで,x。bは結合係数であり (10) (11) (12) x・b−−株タムh・(y)hp・(y)dy (13) が得られる。式(7)にTM導波光の磁界成分を代入し た場合も同様に次式が得られる。 d鵠z)−x・。 Kp(・)・−j(PP−il31ri)z Xba−−鞄O怠(y)hm・(y)dy
C・一 ?。(y)h。・(y)dy (14) (15) (16) が得られる。連立方程式(12),(14)を,初期条件 z=0で Kp(z)=o, Km(z)−1の基で解くと, K・ (z)一 ?Ei・h(…)・j[(6・−ICLn)z/2] (17) K・(・)一{…h(A・z)+j峡・inh(…)} ×e−j[(β』}XZn)z/2] (18) が得られる。ここで, λo= [一(β、一βn)2/4−Fκabκba]1/2 (19) 従って,表面ポラリトンとTM導波光は,それぞれ 次式で与えられる。 Hxp= (κab/λo)Sinh(λoz)hp(y) ×exp[j{ωt−(βP+βn)z/2}] (20) Hx・一{…h(A・・)+j峡・inh(A・・)} ×hm(y)exp[j{ωt−(βp+βn)z/2}] (2]) 5.数値解析 本章では,第4章で与えられた表面ポラリトンと TM導波光の近似解を用いて数値解析を行った結果 について述べる。数値解析において,周波数,各媒質 の膜厚などは,前章までに述べた実験モデルと同一に する。 5.1 各波動の伝搬特性 式⑳,⑳で表されるそれぞれの磁界の絶対値を求め た。図7は表面ポラリトン,図8はTMモードのそれ ぞれの波動に対する磁界の伝搬方向に対する変化で ある。表面ポラリトンはz方向に伝搬するに従い,TM 導波光のエネルギーを得て一度増加し,その後活性媒 質の性質として指数関数的に減衰する。それに対しTM導波光は,表面ポラリトンを励起し単調減少す る。また,中間領域であるSiO2層の厚さdsが増加す るに従い,表面ポラリトンのエネルギーの最大値が減 少すると共に,減衰の傾きが緩くなり,結合が弱まっ ていくことを示している。 Sio,層の膜厚dsがある一定の値以下になると表面 ポラリトンとTM導波光は互いにエネルギーの交換 をし,振動しながら減衰する。この振動解は, 0<ds<858nm の範囲内で起こり,dsが小さくなるほど振動の周期も 小さくなる。 .4
合
、・2
壬z
1
.1Z(mm)
.2 図7 表面ポラリトンの磁界成分の伝搬方向依存性 Att=1010910(STM lz=0/STM lz=L) (22) STMはTM光のポインティングベクトルである。実験 値との比較するために,L=O.55mmとした場合のds 依存性を図9に示す。dsが振動の限界値(dSB)をとる とき減衰量が最大となり,その値を越えると急激に小 さくなり,1300nm以上ではほとんど表面ポラリトン を励起できなくなる。12
品
Sl
⊆ .9ち4
2
.Sl ξ 一4Leng†h of Ag=O.55(mm)…●
=035(mm)…x
E×PERIMENT
● @\▲ ▲ ●THEORY
?怩sM−5 mode 」O↑her modes ilO ds8
ユ2
ds (μm)図9 Sio2層の膜厚に対するTM導波光の減衰
ユE
≧.5
壬1
z
.ユZ(mm)
.2 図8 TM導波光の磁界成分の伝搬方向依存性 5.2 TM導波光の減衰量 TM導波光は表面ポラリトンを励起することによ り減衰するので,TM導波光の減衰量をみれば,表面 ポラリトンの励起の強度が分かる。実験(次章)で測 定可能なTM導波光の減衰量を次式で定義する。 5.3 波数不整合量依存性 5.2では,表面ポラリトンと,TM導波光の波数の実 数部をそれぞれ一致させて計算を行ったが,ここでは 波数βρ,βηの不整合量による減衰量の変化について 調べる。βη/島を図6に示すTM−5モードの波数膜厚 曲線上に沿って変化させる。このときの減衰量の変化 を図10に示す。ただしdS=1050nmである。波数の不 整合量に対し減衰量の変化は非常に急峻になってい る。また,最大減衰を与える波数はわずかな不整合の 点で生じている。これはλ。(式(19))の/8m/k。依存性に よるもので,最大減衰を与える波数はλ。の実数部が 最小の値を取る波数と一致する。 図10において/3m/k。がおよそ1.54以下では減衰が 増加している。これは1(3m/k。がSio,の屈折率1.456に 近づくことにより,遮断状態になり,TM導波光の SiO2層への染みだし成分が大きくなって波数の不整 合以外の原因で減衰量が増すものである。平成3年12月 山梨大学工学部研究報告 第42号