[研究論文]
思考表出法を用いた第 2 言語聴解過程に関する研究概観
沈 倍宇
本稿は、思考表出法を用いた第 2 言語聴解過程に関する研究1)に焦点を当て、それらの 研究を次の 4 つの課題に分けてレビューした展望論文である。(1)学習者の聴解過程ではど のような問題が生じているか。(2)学習者の聴解過程ではどのような聴解ストラテジーが使 われるか。(3)効果的な聴き手とそうでない聴き手が使う聴解ストラテジーはそれぞれどの ようなものか。(4)聴解過程は、目標言語の習熟度の向上にしたがって変わるか。これらの 課題への回答を整理することにより、今後この領域の研究を進展させていく上で、残された 課題について述べた。 【キーワード】聴解過程、聴解ストラテジー、思考表出法、聴解過程の発達 1. はじめに 横山(2008:13)は、「聴解とは、言語知識を活用し、また文脈・場面や背景知識を手が かりにして、音声から意味を構築する過程である」と定義している。4 つの言語スキルのうち、 聴解は日常生活で最も多く使われるスキルである(Burley―Allen 1995)2)が、聴解に関す る研究は他の 3 技能よりかなり遅れている。その理由としては、聴解研究が可視化できない 理解を対象としていること、また、瞬時に消えていく音声インプットを対象としていること が挙げられる。この聴解研究の困難は、聴解指導の困難にも通じている。多くの教師は、学 習者が何が聴き取れたかという聴解結果のみに焦点を当てた指導に終始せざるを得ないのが 現状である。しかし、教師の役割は、聴解結果を評価することだけでなく、学習者の聴解力 を養成することである。そこで、聴解力を向上させる効果的な指導方法を求めるために、学 習者が聴いている時にどのような問題に遭遇しているのか、どのように聴いているのか、そ の聴解過程を明らかにする必要がある。また、学習者の聴解過程の特徴が時間とともに変化 するのか、また、聴解過程が変化するにはどのような要因があるのか、聴解過程の発達過程 を明らかにする必要がある。 以上のことから、本稿は、聴解過程に関する先行研究を次の 4 つの課題に分けて概観する。 (1)学習者の聴解過程ではどのような問題が生じているか。(2)学習者の聴解過程ではどの ような聴解ストラテジーが使われるか。(3)効果的な聴き手とそうでない聴き手が使う聴解 ストラテジーはそれぞれどのようなものか。(4)聴解過程は、目標言語の習熟度の向上にし たがって変化するか。本稿は、以上の観点から第 2 言語学習者の聴解に対する意識や実態を 把握し、今後この領域の研究を進展させていく上で、残された課題を整理することを目的と する。 聴解過程を研究する方法については、think-aloud 法が代表的なものとして挙げられる(横山 2004 等)。Think-aloud 法の日本語訳は研究者によって異なるが、本稿では『英語教育 用語辞典第 3 版(2019:310)』の日本語訳すなわち「思考表出法」を採用する。また、そ の定義は、「被験者がタスクを行うが、頭に思い浮かんだこと(なぜ自分がその解決方法を 取るのか)を発話しながら、タスクを行う」方法である。思考表出法で得られたデータをプ ロトコルデータと呼ぶ。聴解過程の研究方法としては、他にも質問紙調査法があるが、本稿 では、学習者の頭の中をより直接的に探る方法として、思考表出法に焦点を絞る。思考表出 法の種類について、ネウストプニー・宮崎(2002:118)は、認知過程を口頭で発話する「回 想法」とダイアリーの形式で学習行動を書く「学習ダイアリー」のどちらも思考表出法だと している。そのうち、回想法は、「音声テキストを聴いている時に途中で録音を止め、聴い ていた時に考えていたことを発話する」即時回想法と「聴解終了直後に再びテープを聴き直 し、1 回目の聴解時に考えていたことを発話する」事後回想法に分けられる(横山 2004)。 思考表出法は、本来心理学の研究方法であるが、近年では言語習得の研究においても、習得 過程における認知プロセスが注目を集め、聴解過程を明らかにするためにも、思考表出法が 有効な方法として用いられる。藤村・滝沢(2011)及び張(2008)によれば、「思考表出法」 を用いることを通して、聴解過程における問題、聴解ストラテジーの種類と使用頻度、およ び聴解ストラテジー使用に影響を与える要因など、聴解過程をより深く掘り下げることがで きる。 なお、本稿がレビューする各研究は必ずしも各課題と 1 対 1 で対応しているわけではなく、 一つの研究を複数の課題において扱うことがある。また、各研究のレビューでは、必ずしも その研究の全貌を説明するわけではなく、本稿が設定した上記の課題への回答に焦点を当て て取り上げる。 2. 学習者の聴解過程ではどのような問題が生じているか 聴解過程で生じる問題に関する研究としては、Ross(1997)、水田(1996)、横山(2005a) の 3 件がある。 Ross(1997)は、日本の大学で学ぶ日本人英語学習者 40 名を対象に、絵合わせ聴解テス トにおける聴解過程を即時回想によって調査した。その結果、学習者の聴解過程で生じる問 題として、以下のような誤った意味処理が生じていることが明らかになった。①音声から意 味の手かがりを得られず処理不可能となる。②語句の一部しか聴き取れず、聴き取った断片 からインプットにはなかった語に再構築してしまう。 水田(1996)は、大学、大学院に所属する日本語母語話者 5 人、中国語を母語とする日 本語学習者 10 人を対象に、講演テープの聴解過程を事後回想で調べた。採取したプロトコ ルデータからは、Ross(1997)が上記の通り指摘した両問題が観察され、水田(1996)は それらを「分節化」問題と呼んでいる。「分節化」のほか、語句の文字通りの意味理解に関 わる「辞書的意味」、段落やテキスト全体と関する文脈理解に関わる「テキスト上の意味」、 テキスト内容に関わる「テキストからの派生問題」、話し手の意図に関わる「話し手の意図」、 テキストにおける場面要素に関わる「その他の場面要素」、という多岐にわたる問題が観察 された。各被験者のプロトコルデータを分析した結果、日本語母語話者でも日本語学習者で も、聴解時には上述のどの問題も生じることが明らかになった。しかし、日本語母語話者の
聴解過程における問題が主に「テキスト上の意味」に起因するのに対し、学習者の聴解過程 における問題のほとんどは、言語知識の不足により生じる「分節化」「辞書的意味」に関す るものであることがわかった。 横山(2005a)は、話し手と対面した設定で行われる聴解に着目し、非母語話者 23 名(JLPT: N3 〜 N2)を調査対象に、その聴解過程を事後回想により調査した。Ross(1997)と水田 (1996)の分類と異なり、聴解過程における問題について、理解が欠落する言語の単位によっ て「単語」「文」「段落」「テキスト」という 4 つのレベルに分類した。その結果、「段落」や 「テキスト」レベルの問題はほとんどの学習者において全く見られないのに対し、「単語」や 「文」レベルの問題はどの学習者にも観察された。つまり、学習者は主に単語や文がわから ないことでテキストの理解が妨げられることが多いことがわかったが、これは水田(1996) の結果と共通していると言える。 以上、いずれの研究においても、学習者には言語知識の不足によって音声テキストの理解 が妨げられる傾向があることがわかった。一方、同じように言語知識の不足があっても、効 果的な聴解ができる学習者とそうでない学習者がおり、効果的な聴き手が用いる聴解ストラ テジーが重要な役割を果たしていると考えられる。次章では、聴解ストラテジーの使用に関 する研究を概観する。 3. 学習者はどのような聴解ストラテジーを使っているか 3. 1 各研究が抽出した聴解ストラテジーの種類 Rost(2016)では、聴解ストラテジーが次のように定義されている。「聴解ストラテジー は音声インプットの理解と回想に直接貢献する技術または計画であり、聴き手が音声イン プットを処理する方法によって分類できる」(Rost 2016:292[本稿筆者訳])。聴解スト ラ テ ジ ー の 使 用 を 調 査 し た 研 究 は、OʼMalley et al.(1990)、 水 田(1995,1996)、 Vandergrift(1996,1997a,1997b,2003)、Goh(2002)、 横 山(2005a)、Graham et al.(2008,2011)の 11 件ある。そのうち、対面聴解におけるストラテジーを調査した研 究は 2 件、その他の研究は全て非対面聴解を調査対象としている。 まず、対面聴解を扱った研究から述べていく。対面聴解とは、話し手と対面し話し合う中 で行われる聴解である。Vandergrift(1997b)は、聴き手としてのストラテジーに着目し、 外国語としてフランス語を学ぶ高校生 20 名が参加した OPI インタビューをデータとして使 い、彼らの発話から「質問」と「反応」の 2 種類の聴解ストラテジーを抽出した。「質問」 とは聴き手が理解の欠落を補うために話し手に質問するストラテジー、「反応」とは話し手 の発話に対して動作やパラ言語等によって反応を示すストラテジーである。 横山(2005a)は、非母語話者 23 名を調査対象に、1 対 1 の対面で話し手が物語を話す という設定で、日本語学習者が話し手に質問しながら聴いていくという対面場面における聴 解過程を回想インタビューで調査した。調査対象者の対面聴解における質問や反応を録音に より記録した上で、回想インタビューによるプロトコルデータを分析した結果、Vandergrift (1997b)と同じ「質問」及び「反応」のストラテジーのほかに、「推測」「放置」「保留」「予 想」「発展」という 5 つの聴解ストラテジーを抽出した。 横山(2005a)は、Vandergrift(1997b)のように学習者の産出した発話だけを調査する
のではなく、回想インタビューを行って、学習者が何を考えて質問したり反応したりしてい たかも調べている。対面聴解では、「推測」の正誤などを話し手に直接質問したり、反応を 返したりすることで、問題解決につなげることができる。しかし、学習者は全ての問題を「質 問」「反応」によって首尾よく解決できるわけではなく、横山(2005a)は「質問」「反応」 としては表に出なかったストラテジー、または「質問」「反応」に至るまでの水面下のスト ラテジーを調査したと言ってよい。一方、非対面聴解では、「推測」の正誤などを継続的に 自らに問いながら聴き続ける必要があり、その意味では非対面聴解のほうが負荷の高い活動 だと言える。以下では、学習者が質問や反応ができない場合に、どのように探索的に意味を 構築するのか、非対面聴解のストラテジーを見ていく。 非対面聴解とは、録音や録画などを対象とし、話し手とのやりとりができない一方向的な 聴解である。非対面聴解を扱った研究のほとんどは、聴解ストラテジーを「メタ認知ストラ テジー」と「認知ストラテジー」の 2 つのカテゴリーに分類している。メタ認知ストラテジー は、聴解計画を立てること、聴解タスクの完成度をモニターすること、自らの聴解結果を評 価することなど、自らの聴解過程をメタ的に捉えて方策を施すストラテジーである。一方、 認知ストラテジーは、聴解タスクに取り組むにあたっての具体的な操作やテクニックのこと で あ る(OʼMalley & Chamot 1990:137)。 ま た、OʼMalley et al.(1990) お よ び Vandergrift(1997a)は、さらに「社会情意ストラテジー」という新たなカテゴリーを加え ている。社会情意ストラテジーは、聴解を支援するために他者に働きかけること、または聴 解タスクを達成するために心理や感情をコントロールすることを伴うものである(OʼMalley & Chamot 1990:137)。 非対面聴解を扱った各研究で観察された学習者の聴解ストラテジーを次の表 1 にまとめ た。非対面聴解を扱った研究は、使用した音声テキスト(物語、講義など)、採用した調査 対象者の言語能力などがそれぞれ異なることから、観察された聴解ストラテジーもそれぞれ 異なる。そのうち、Vandergrift の一連の研究は、異なる言語レベルのフランス語学習者を 調査対象に、色々な種類の音声テキスト(独話と会話)を用いて、対面および非対面聴解の 双方における聴解ストラテジーを多様な手法で調査した。特に Vandergrift(1997a)は、 言語能力の熟達度、性別、聴解能力、及び学習スタイルが異なるフランス語学習者を調査対 象に、難易度が異なる 4 つの音声テキストを用いて、聴解ストラテジーの使用傾向を即時回 想で調べている。つまり、多様なテキストを用い、多様な習熟度の学習者を対象に行われた Vandergrift(1997a)の調査では、抽出された聴解ストラテジーが広範に渡り、他の研究と 比べて最も網羅的なものである。したがって、次ベージの表 1 では、Vandergrift(1997a) を基準として、全ての研究が抽出したストラテジーの異同を整理することにする。他の研究 から抽出されたストラテジーについては、その定義から Vandergrift(1997a)のストラテジー と同定できるものに●を記した。中には、水田(1995,1996)の「自己モニター」と Vandergrift(1997a)の「モニター」のように、名称が異なるものの、その定義から同じス トラテジーだと考えられるものがあるが、それについては●に下線を加えた。○は、「メタ 認知」「認知」「社会情意」というストラテジーの分類が他の研究と異なるものであるが、こ の詳細は後述する。
3. 2 聴解過程の根幹を成すストラテジー 前述の通り、非対面聴解を扱った各研究が用いた音声テキスト、調査対象者の言語能力な どはそれぞれ異なるが、学習者の聴解理解を支える根幹となる聴解ストラテジーはどの研究 にも観察されたはずである。したがって、本節では、ほとんどの研究が共通して特定してい る聴解ストラテジーを手がかりに、多数あるストラテジーのうち、根幹となるストラテジー について以下で整理していく。 まず、メタ認知ストラテジーに関して、ほとんどの研究が共通して抽出しているのは、「計 画」「モニター」「評価」である。「計画」とは、聴解タスクを達成するために何を行う必要 があるかについての認識を高め、タスクの完成を妨げる可能性のある困難を克服するための 適切な行動計画または適切な問題発生時の対応計画を立てることである。「モニター」とは、 聴解タスクを行う過程で理解を確認、検証、または修正することである。「評価」とは、自 己評価に照らし、聴き取りの結果を確認することである。 また、メタ認知ストラテジーに分類される「問題特定」とは、聴解タスク完成のために解 決が必要なことや理解を妨げる側面を認識することであるが、「問題特定」を抽出していな 表 1 非対面聴解を扱った各研究が抽出した聴解ストラテジー メタ認知ストラテジー Vandergrift(1997a) Vandergrift (1996) OʼMalley et al. (1990) Vandergrift (2003) 水田 (1995,1996) Goh (2002) Graham et al. (2008,2011) 計画 ● ● ● ● ● ● モニター ● ● ● ● ● ● 評価 ● ● ● ● ● 問題特定 ● ● ○
認知ストラテジー Vandergrift OʼMalley et al Vandergrift 水田 Goh Graham et al.
推測 ● ● ● ● ● ● 精緻化 ● ● ● ● ● ● 要約 ● ● ● ● 翻訳 ● ● ● ● 転移 ● ● ● 繰り返し ● ● ● ● ● 資源の利用 ● ● グループ化 ● メモを取る ● ● 推論と帰納 ● ● 代用
社会情勢ストラテジー Vandergrift OʼMalley et al Vandergrift 水田 Goh Graham et al.
明確化のための質問 ● ●
協力 ● ●
不安の減少 ●
自分への励まし ● ●
い研究が 3 件ある。「問題特定」が観察されていない研究では、「モニター」の定義が「聴解 タスクを行う過程で理解を確認、検証、または修正する」のようになっており、学習者が自 らの理解状況を認識する段階に焦点を当てた「問題特定」の内容も「モニター」に含めて取 り上げていると考えられる。また、水田の「問題特定」に○を記したのは、水田だけが「問 題特定」を認知ストラテジーに分類しているからである。水田は「問題特定」について「テ キスト上の語句の曖昧さや話し手の意図の曖昧さなどから理解の面で問題が生じたことを認 識する」と定義しており、その定義から考えると、他の研究のようにテキスト全体に対する 理解の問題をメタ的に認識することを「問題特定」とするのではなく、単にその場で発生し た問題を認識することを「問題特定」としていると考えられる。つまり、水田の「問題特定」 は他の研究と同じ名称であるが、その定義をよく検討すると、「問題特定」をメタ認知的行 為として捉える他の研究と異なり、「問題特定」を表面的な行為として捉え、認知ストラテジー として抽出していると考えられる。 次に、認知ストラテジーに関しては、全ての研究が共通して抽出しているのは、「推測」「精 緻化」であり、いずれも、学習者が聴いたことを理解できない時に生じた問題解決ストラテ ジーである。「推測」とは、テキスト内の情報を使用し、馴染みのない言葉の意味を推測し たり、結果を予測したり、不足している情報を補ったりすることである。「精緻化」とは、 既有知識を使用し、それをテキストから得られた知識に関連づけ、結果を予測したり、既有 知識や自分のそれまでの理解を精緻化したりすることである。 また、水田以外の全ての研究が共通して抽出しているのは、「繰り返し」である。「繰り返し」 とは、聴解タスクを実行する過程で言語のチャンクを口頭で繰り返すことであり、実際には 繰り返しながら意味を推測したり、意味を精緻化したりして意味を模索する際の物理的な現 象だと考えられる。したがって、その水面下の役割は上述の「推測」「精緻化」の 2 つのス トラテジーに吸収して考えることも可能であろう。 一方、「要約」「翻訳」「転移」「推論と帰納」の 4 つのストラテジーは、一部の研究でしか 観察されていない。「要約」とは、聴解タスクで提示される言語と情報をまとめることである。 実際には、学習者は「要約」という行為を通して意味の推測や精緻化をしていると考えられ、 「要約」の機能は「推測」「精緻化」の 2 つのストラテジーに吸収して考えることも可能であ る。また、母語等別の言語のアイデアを別の言語で概ね逐語的に表現する「翻訳」、母語等 別の言語知識を用いて目標言語での聴解を助けようとする「転移」、学習したルールまたは 自己開発したルールを意識的に適用して目標言語を理解しようとする「推論と帰納」につい ては、いずれも既有知識(母語等の既獲得言語知識やルール)を知識源として用いて、推測 したり精緻化したりし、理解を進めようとするものである。つまり、これら 4 つのストラテ ジーは、いずれも「推測」「精緻化」を支援・促進する役割を果たしていると考えられ、こ れらを抽出していない多くの研究では、これらをその達成結果である「推測」「精緻化」に 含めて考えている可能性が高い。 また、「資源の利用」「メモを取る」のストラテジーは一部の研究でしか観察されていない。 「資源の利用」とは、辞書、教科書など、目標言語に関する利用可能な情報源を使用するこ とである。「メモを取る」とは、聴解のパフォーマンスを支援するために、キーワードと概 念を短縮された言語、グラフィック、または数値形式で書き留めることである。「資源の利用」
と「メモを取る」のいずれも、理解を深めることを支援するものである。特に、「メモを取る」 は、物理的な作業であるが、それを用いることを通し、効率的な「推測」「精緻化」に結び つけていると考えられ、上述の 4 つのストラテジーと同様の役割を持つものだと考えられる。 また、「資源の利用」や「メモを取る」ことは、それが許される環境での聴解かどうかによっ て出現が左右されることも、一部の研究でしか見られない理由だと考えられる。 最後に、社会情意ストラテジーに関しては、Vandergrift(1996,1997a)及び OʼMalley et al.(1990)の研究でしか観察されていない。社会情意ストラテジーは、一つの聴解テキス トを理解するためのストラテジーというよりは、聴解という行為において恒常的に使われる ストラテジーである。したがって、特定のテキストのプロトコルからストラテジーを抽出し ている研究には観察されない。「不安の減少」「自分への励まし」「感情の把握」は聴解時の 感情をコントロールするために使われるもの、「明確化のための質問」「協力」は周囲にいる 人に助けを求めるものとして、社会情意ストラテジーの役割は、大きくこれら 2 種に分けら れる。 非対面聴解を扱った研究の結果を総括すると、他のストラテジーを制御するメタ認知スト ラテジーに関しては、どの研究にも「計画」「モニター」「評価」が観察され、これら 3 つが メタ認知ストラテジーの根幹を成すと考えられる。一方、テキスト理解に沿った具体的な認 知活動を操作する認知ストラテジーに関しては、「推測」「精緻化」がどの研究にも観察され る代表的なもので、認知ストラテジーとして抽出された他のストラテジーはこれら 2 つのス トラテジーの実行をサポートする役割を担うと考えられる。また、聴解活動全体を支援する 社会情意ストラテジーに関しては、主に感情をコントロールするストラテジーおよび周囲に いる人の助けを求めるストラテジーの 2 種類に分けられ、聴解の具体的な認知活動ではなく、 聴解に臨む聴き手の心理を操作するストラテジーだと考えられる。 以上、学習者がどのような聴解ストラテジーを使っているかを整理した。しかし、これら のストラテジーが全て学習者の聴解を効率よく支援しているとは限らない。そこで、効果的 な聴解にはどのような聴解ストラテジーの活用が関連しているかを明らかにするために、次 章では、効果的な聴き手の聴解過程をそうでない聴き手の聴解過程と比較した研究を概観す る。 4. 効果的な聴き手とそうでない聴き手が使う聴解ストラテジーはそれぞれどのようなも のか 効果的な聴き手の聴解過程をそうでない聴き手の聴解過程と比較している研究としては、 OʼMalley et al.(1990)、水田(1995,1996)、Vandergrift(1997a,2003)、尹(2001)、 Goh(2002)、横山(2005a)の 8 件がある。 研究によって効果的な聴き手とそうでない聴き手に関する定義はそれぞれ異なるが、主に 次の 2 種類に分けられる。①特定のテキストの聴き取り結果を基準に、正再生率が高い学習 者を効果的な聴き手に、正再生率が低い学習者をそうでない聴き手に分類する(例えば、横 山 2005a)、②特定のテキストにおける聴解ではなく、総合的な聴解力を測るテストの結果 を基準とし、テストの得点が高い学習者を効果的な聴き手に、得点が低い学習者をそうでな い聴き手に分類する(例えば、尹 2001)。また、上述の 2 種類の定義のほか、Vandergrift
(1997a)では Vandergrift(1996)の回想インタビューに基づき、報告された聴解ストラ テジーの種類が多く、さらに使用頻度が高い学習者を効果的な聴き手に、聴解ストラテジー の種類が少なく、さらに使用頻度が低い学習者をそうでない聴き手に位置付けている。 まず、種類①の研究から見ていこう。横山(2005a)は、4 章で見たように、非母語話者 23 名を対象に、「モニター」の質および適用範囲について、効果的な聴き手とそうでない聴 き手の間で比較した。音声テキストを再生させた作文の正再生率によって効果的な聴き手と そうでない聴き手に分けて両者を比較した結果、効果的な聴き手は「段落レベルを超えて広 範囲に渡って『モニター』が働いている」という「広範囲モニター」の使用件数がそうでな い聴き手より多く、テキスト全体の理解を深める様子が窺えた。一方、そうでない聴き手は 「単語」「文」レベルの「モニター」が相対的に多く、局所的な理解に留まっている様子が見 られた。 水田(1995,1996)は、日本語母語話者 5 名、上級レベルの中国人日本語学習者 10 名 を対象に、2 つの講義テキストの聴解過程での聴解ストラテジー使用傾向を事後回想によっ て調査した。被験者による要約文の正再生率を基準に、両テキストとも正再生率が 70%を 超えた被験者を効果的な聴き手に、両テキストのうち、1 つのテキストの正再生率が 30% 以下で、もう 1 つのテキストの正再生率が 70%を超えない被験者をそうでない聴き手に位 置付けた。その結果、効果的な聴き手 4 人のうち、学習者は 1 人だけであった。しかも、効 果的な聴き手とされた学習者には母語話者がよく用いる「計画」「モニター」などの使用が 全く見られず、効果的でない聴き手がよく用いる「問題特定」と「推測」のストラテジーを 多く使用していることがわかった。しかし、効果的な聴き手とされた学習者は「推測」をよ り効果的に使用して、様々な知識を活用していることがわかった。また、どの聴き手におい ても、聴き取り中に問題が生じた場合、「問題特定」→「推測/保留」→「確認/精緻化」 というストラテジー連鎖が効果的な聴き取り結果を生むことが示唆された。 水田の結果からは、まず、日本語母語話者 5 人のうち正再生率 70%以上の効果的な聴き 手は 3 人だけであったことから、日本語母語話者が必ずしも効果的な聴き手ではないことが わかる。また、水田が指摘するストラテジー連鎖という現象は、「問題特定」の後、テキス トを聴き続けながら引き続き手がかりを探して問題解決を図ることであるが、そこでは後続 テキストの相応の範囲に渡って「モニター」が働いているはずであり、横山(2005a)が指 摘する「広範囲モニター」との共通性が見られる。 以上で概観した種類①の研究のいずれも、特定された 1 種類のテキストを分析対象とし、 相対的によく理解した学習者のプロトコルデータから、当該テキストに関する効果的な聴解 過程を調査している。両研究が用いたテキストは異なるにも関わらず、両研究とも効果的な 聴解には「広範囲モニター」が関与する可能性を示唆している。 次に、種類②の研究について見ていく。OʼMalley et al.(1990)は、中級レベルの高校生 ESL 学習者 11 名を対象に、3 編の学術的内容の音声テキストの聴解過程における聴解スト ラテジー使用傾向を即時回想によって調査した。そこで得られた聴解ストラテジーの使用傾 向を効果的な聴き手とそうでない聴き手の間で比べた。OʼMalley et al. は、被験者に ESL を 教える教師に依頼して、聴解テストの結果に加えて、被験者の教室での注意力や意欲などに 関する情報を入手し、それらを基準に、効果的な聴き手とそうでない聴き手を分類した。分
類された 2 種の聴き手を比較した結果、効果的な聴き手は、「モニター」(メタ認知ストラテ ジー)、および「推測」「精緻化」(認知ストラテジー)の 3 つの聴解ストラテジーを多く使 用していることがわかった。また、両者のストラテジー使用を定性的に分析した結果は、次 のようにまとめられる。まず、効果的な聴き手に関しては、①トップダウンアプローチとボ トムアップアプローチの両方を使用している、②重要性が低いテキスト内容を聴き流し、タ スクの完成に対して注意の向け方をモニターすることができる、③未知の言葉の推測を支援 するために既有知識や個人的な経験など様々な知識を活用する傾向が見られる。一方、効果 的でない聴き手は未知の語彙や語句に拘りすぎて後続の内容を聴き逃してしまい、ボトム アップアプローチのみを使用している。 Goh(2002)は、中国人 ESL 学習者 40 名を対象に、独話テープの聴解過程におけるスト ラテジーと各ストラテジーにおける様々なタクティクスについて、即時回想と学習ダイア リーによって調査した。また、聴解テストの結果に基づいて、効果的な聴き手(一番高い点数) と効果的でない聴き手(一番低い点数)を一人ずつ選んで、両者のタクティクスの使用と使 用されるタクティクス間の相互作用をプロトコルデータ分析によって比較した。その結果、 効果的な聴き手は、理解を促進するために既有知識、テキスト内容、文脈などの様々な知識 を効率的に相互作用させ、複数のタクティクスをより効果的に組み合わせて使用していたこ とがわかった。一方、効果的でない聴き手は、単語レベルの局所的モニターだけを使用し、 さらに背景知識だけに依存して推測を行う様子が窺えた。 Vandergrift(2003)は、第 2 言語としてフランス語を学ぶ中学生 36 名を対象に、ラジ オ番組の聴解過程において使用した聴解ストラテジーを即時回想によって調査した。聴解テ ストの結果から効果的な聴き手とそうでない聴き手を分け、それぞれのストラテジー使用実 態を比較した結果を次のようにまとめている。効果的な聴き手は、より多くのメタ認知スト ラテジー(特に「モニター」)を用いることにより、聴解過程をよりよく制御できている。 また、効果的な聴き手は「精緻化」を多く使用している。一方、効果的でない聴き手は「翻訳」 を多く使用し、ボトムアップアプローチのみを使用している。 以上で概観した種類②の研究のいずれも、総合的な聴解力の高い聴き手の聴解過程を探求 している。しかし、いずれの研究でも、データに用いたテキストタイプが限られていること から、観察された効果的な聴き方が必ずしも全てのテキストに通用するわけではない。総合 的な聴解力の高い聴き手のテキストタイプによる聴解過程の違いを探求した研究は、管見の 限り行われておらず、今後のさらなる研究が必要であると思われる。 最後に、種類①②のいずれにも該当せず、学習者のストラテジー使用状況を指標に、効果 的な聴き手とそうでない聴き手を分けた Vandergrift(1997a)を見る。Vandergrift(1997a) は、外国語としてフランス語を学ぶ高校生 21 名を調査対象者に、聴解ストラテジーの使用 傾向を効果的な聴き手とそうでない聴き手の間で比較した。その結果、効果的な聴き手はそ うでない聴き手より 2 倍のメタ認知ストラテジーの使用が見られ、最も顕著な違いは、「モ ニター」「問題特定」にあることがわかった。また、認知ストラテジーに関する最も明らか な違いは「転移」であり、特に効果的な聴き手より、そうでない聴き手は 2 倍の「転移」の 使用が観察された。 以上、効果的な聴き手の聴解過程をそうでない聴き手の聴解過程と比較すると、次のよう
な共通点を見出すことができる。OʼMalley et al.(1990)も Vandergrift(2003)も、効果 的な聴き手はトップダウンアプローチとボトムアップアプローチの両方を使用しているのに 対し、効果的でない聴き手はボトムアップアプローチのみを使用する傾向を指摘している。 また、Goh(2002)が指摘する「様々な知識を相互作用し、複数のタクティクスを連動して 用いる」、水田(1995,1996)が指摘するストラテジー連鎖という現象のいずれも、複数 のストラテジー(タクティクス)を組み合わせて用いるとしているが、その背後には広範囲 に渡る「モニター」が働いていると考えられ、横山(2005a)が指摘する「広範囲モニター」 との共通性が見られる。すなわち、効果的な聴解には広範囲に渡る「モニター」が働いてい ることがテキスト全体の理解と強く関わっていると考えられ、効果的でない聴き手が局所部 分の理解に拘泥するのと対照的である(Goh 2002;横山 2005a;OʼMalley et al. 1990)。ま た、効果的な聴き手は、同じ「推測」ストラテジーを使うにしても、自らの既有知識だけに 依存せず、テキスト内にも手がかりを求めるという特徴があり、理解できなかった部分を補 完する情報を求めて後続テキストを聴き続ける行為には、「広範囲モニター」が働いている と言ってよい。 また、Vandergrift(1997a,2003)のいずれも、効果的な聴き手はそうでない聴き手よ り多くのメタ認知ストラテジーを使用していることを指摘しており、効果的でない聴き手が 「転移」「翻訳」のような母語を媒介して理解を達成しようとするのと対照的に、聴解過程を 自ら制御していることがわかった。しかし、効果的な聴き手だからメタ認知ストラテジーが 使えるのか、あるいは元々メタ認知ストラテジーを巧みに使うことができる学習者が相対的 に早く聴解技能に習熟するのかについては、大きな課題である。続く第 6 章では、この課題 への手がかりとして、学習者の聴解過程が言語習熟度の発展とともに変化するかを長期的に 観察しようとする研究を概観する。 6. 聴解過程は目標言語の習熟に従って変化するか 前章が取り上げた全ての研究は横断研究で、特定時期の学習者を相対的に効果的な聴き手 とそうでない聴き手に分け、それぞれの聴解過程を比較したものである。一方、同じレベル の学習者のうち、すでに効果的なストラテジーを持っている学習者とそうでない学習者がい るのか、あるいはストラテジーは目標言語の習熟度に伴って発達するのか、学習者の聴解過 程の発達過程を明らかにする必要がある。また、聴解ストラテジーの明示的な指導は、どの ような効果があるのかも重要な課題である。したがって、本章は、学習者の聴解過程の発達 を調べた研究について、明示的な聴解ストラテジーの指導がある場合とない場合の 2 種類に 分けて概観していく。 6. 1 明示的な聴解ストラテジー指導がない場合の聴解過程の発達 明示的な聴解ストラテジー指導がない場合の聴解過程の発達に関する研究としては、 Graham et al.(2008, 2011)の 2 件がある。 Graham et al.(2008)は、学習者の聴解ストラテジーの発達プロセスを長期縦断的に観 察した研究である。中級レベルのイギリス人フランス語学習者 15 人のうち、全般的な言語 能力が同程度に高い学習者の中から、調査開始時点で聴解能力が相対的に高い学習者(H)と、
低い学習者(L)の 2 人を選び、6 カ月の経過を見た。具体的には、6 カ月前後の学習者の 聴解能力と聴解ストラテジーの使用傾向を比較した。その結果、調査終了時点の聴解能力に おいて、H は相対的に高く、L は低いままであった。また、思考表出法によって聴解ストラ テジーの使用を調べたところ、H がメタ認知ストラテジーを多く使用し、L が認知ストラテ ジーを多く使用するという特徴は、6 カ月間を経ても変わらなかった。 以上から、同程度の言語習熟度に比しての聴解能力の高低は 6 カ月程度では容易に変化し ないこと、また、聴解ストラテジーと聴解能力の関連が強いことが示された。
Graham et al.(2011)は、Graham et al.(2008)の対象者が 2 人と少なかったことから、 Graham et al.(2008)で収集した 15 人全員のデータを対象に、聴解ストラテジーの発達と 聴解パフォーマンスとの関係を分析した。Graham et al.(2008)で前後 2 回の調査で用い たテキストはそれぞれ異なり、各回の調査では会話テキストおよび独話テキストの両種類を 用いた。会話テキストの再生作文の得点を聴解パフォーマンスの指標とする一方、独話テキ ストの聴解過程におけるストラテジーを聴解ストラテジー使用の発達状況を調べるデータと し、前後 2 回の調査における学習者の再生作文の得点順位の変動を聴解パフォーマンスの変 化の基準にした。その結果、6 カ月を経て、被験者 15 人のうち、4 人の聴解パフォーマン スが向上し、2 人の聴解パフォーマンスが低下したことがわかった。また、聴解パフォーマ ンスが向上した学習者については、「推論と帰納」「評価」のストラテジー使用が増加し、自 らの聴き方をより良くコントロールできるようになった様子が観察され、メタ認知ストラテ ジーに関する発達が見られた。一方、聴解パフォーマンスが低下した学習者には、「推測」 の使用が増加する傾向が見られた。 Graham et al. の両研究の結果から、明示的な聴解ストラテジー指導がない場合の学習者の 聴解過程の発達について、次のことが確認できる。効果的なストラテジー(例えば、メタ認 知ストラテジー)を使える学習者は時間の経過とともにその使用がますます増えるのに対し、 効果的なストラテジーを使えない学習者はその代わりに「推測」などの認知ストラテジーを 多く使用する。一方、Graham et al. の両研究における前後 2 回の調査で用いたテキストはそ れぞれ異なることから、2 回の調査結果にはテキストの影響も否定できない。 以上のように、明示的な聴解ストラテジー指導がない場合、学習者の聴解ストラテジー使 用は時間経過により容易には変わらないことが示唆された。しかし、聴解過程の発達研究は 数が極めて限られており、上述の両研究とも 6 カ月という比較的短期間における変化を捉え ようとした調査にすぎない。今後は、テキストのタイプも統制した上で、より長期にわたる 調査研究が望まれる。 6. 2 明示的な聴解ストラテジー指導がある場合の聴解過程の発達 明示的な聴解ストラテジー指導がある場合の聴解過程の発達に関する研究としては、横山 (2005b)、王(2008)、杜(2009)、Thompson et al.(1996)、Dong(2016)の 5 件がある。 聴解ストラテジーの指導効果を検証するパイオニア的研究として Thompson et al.(1996) がある。Thompson et al. は、ロシア語の聴解におけるストラテジー指導の効果に焦点を当て、 ビデオ教材を用いて 1 年間の授業実践を行った。ロシア語学習者 36 名(初級上〜中級下) を実験群と統制群に分け、実験群も統制群も同じ教材を使用したが、実験群の指導では聴解
ストラテジーの開発に焦点を当て、統制群ではその代わりに産出活動を行った。ビデオ理解 テストと音声理解テストの 2 種類による事前・事後テストを実施したところ、実験群の学習 者は、ビデオテストでは統制群の学習者よりも得点が高かったが、音声テストでは両群の得 点に有意差が認められなかった。この結果について、実験群の学習者は視覚情報を活用する ストラテジーの指導を行ったことから、視覚的なサポートがない音声テストでは指導の効果 が現れなかったと考察されている。 横山(2005b)は、横山(2004,2005a)で確認された効果的な聴き手の特徴を受け、「広 範囲モニター」の使用に注目し、非母語話者 12 名(JLPT:N3 〜 N2)を対象に、「過程」 重視の聴解指導を 4 ヶ月余り継続的に行った効果を指導前後に行った 2 回の調査によって検 証した。指導では、予想や推測を促すと同時にその結果を確認する、理解できなかったこと を聴き返す等、「広範囲モニター」の使用を促進することを重点とした。対面聴解における 質問や反応と回想インタビューによるプロトコルデータによって指導前後の変化を分析した 結果、「質問」の使用頻度が大きく増加し、さらに「テキスト」レベルの「広範囲モニター」 の使用も増えた。また、指導を受けた学習者とそうでない学習者の JLPT 聴解得点について、 事前には差がなかったが、指導後は指導を受けた学習者の方が有意に高くなったことがわか り、「過程」重視の指導効果が示された。 王(2008)は、初級日本語学習者 60 名を対象に、これまでのボトムアップ中心の聴解授 業を改善し、テキスト全体の意味を把握することを目的とする「モニター」ストラテジー指 導を試みた。具体的には、横山(2008)が紹介する「質問」の活動を通した指導を 6 回行っ た。「質問」の活動とは、学習者がテキスト全体の意味を把握するためにモニターした結果、 理解不足の部分を質問の形で表出させるものである。学習者が記入した質問シートおよびピ アによる話し合いをデータに分析した。その結果、指導を通して、言語の意味を問う質問が 減少し、局所的モニターに基づいた質問から広範囲モニターに基づいた質問に変化したこと がわかった。 杜(2009)は、王(2008)と同じくボトムアップ式の聴解指導法を改善したいと考え、 横山(2008)が紹介する「声のクローズ」という活動により、推測ストラテジーの指導実 践を 7 回に渡って行った。「声のクローズ」とは、音声を消した空白の部分を学習者に推測 させる活動である。日本語を専攻する中国人大学 2 年生 29 名を対象に、学習者が記入した 推測シートおよびグループによる話し合いをデータに分析し、指導前後で学習者の推測に変 化があるかどうかを調査した。その結果、学習者が推測する際のモニター範囲が広くなり、 テキスト内のより広い範囲からの文脈情報を手がかりにして、効果的な推測ができるように なったことが明らかになった。 Dong(2016)は、中級レベルの EFL 中国人学習者 1 名を対象に、13 週間に渡って聴解 ストラテジー指導を実施し、指導終了後も、指導開始から 40 週間後に至るまで、聴解スト ラテジーの使用と聴解パフォーマンスの発達を調べた。Dong は CET-63)の模擬試験の得点 を聴解パフォーマンスの指標とする一方、学習者の聴解ストラテジーについては、学習ダイ アリーによって分析した。その結果、指導を受けた初期段階には聴解ストラテジーの使用が 増え、聴解パフォーマンスも向上していく様子が見られた。指導終了後は、聴解ストラテジー の使用は徐々に減少したが、聴解パフォーマンスは高いレベルで定着していることが確認さ
れた。 以上の結果を統合的に見ると、いずれの研究でも明示的な聴解ストラテジー指導が学習者 の聴解能力および聴解過程の発達に一定の効果があることを示しており、聴解ストラテジー 指導の重要性を示唆していると言ってよい。しかし、同じ聴解ストラテジー指導を受けても、 聴解能力の向上は学習者によって差があるはずだが、上述の先行研究にはこれについての考 察が見当たらない。そこで、聴解ストラテジー指導はどのような学習者に効果があるかにつ いては、さらなる研究が必要である。 7. まとめと今後の課題 本研究では、思考表出法を用いた第 2 言語聴解過程に関する 4 つの研究課題について先行 研究を概観し、これまでに示されてきた研究結果と残された課題を整理してきた。最後に、 これまで見てきた結果から得られた知見をまとめ、今後の課題を述べたい。 まず、(1)の研究課題「学習者の聴解過程ではどのような問題が生じているか」について は、学習者の聴解過程における問題の多くが単語や文の意味に関わる言語知識の不足に起因 するという結果が得られた。一方、同じように言語知識の不足があっても、聴解ができる学 習者とそうでない学習者がおり、言語知識の不足を補う聴解ストラテジーが重要な役割を果 たしていることを確認した。 続いて、「学習者の聴解過程ではどのような聴解ストラテジーを使っているか」という(2) の研究課題については、次のようなことを確認した。①対面聴解の中心的なストラテジーと しては、「質問」「反応」がある。②メタ認知ストラテジーとしては「計画」「モニター」「評価」、 認知ストラテジーとしては「推測」「精緻化」が根幹的なストラテジーであることを確認した。 また、(3)の研究課題「効果的な聴き手とそうでない聴き手が使う聴解ストラテジーはそ れぞれどのようなものか」については、以下のようなことが明らかになった。①効果的な聴 き手はトップダウンアプローチとボトムアップアプローチの両方を使用しているのに対し、 そうでない聴き手はボトムアップアプローチのみを使用する傾向がある。②効果的な聴き手 が内容全体の理解を把握しようとするのに対し、そうでない聴き手は局所部分の理解に拘泥 する傾向がある。③効果的な聴き手がメタ認知ストラテジーを多く使用するのに対し、そう でない聴き手は認知ストラテジー(特に「転移」「翻訳」)を多く使用する。 最後の研究課題(4)「聴解過程は、目標言語の習熟度の向上にしたがって変わるか」の結 果としては、明示的な指導のない中での聴解過程は容易に変わらないこと、一方、聴解スト ラテジー指導を受けることで向上する可能性が示された。また、全般的な言語習熟度が同等 の学習者間にも聴解能力の差は少なからずあり、聴解能力の高低には聴解ストラテジーの使 用が関連している可能性が高いと考えられる。 以上、本稿は上述の 4 つの課題を設けて、第 2 言語聴解過程に関する研究を概観した。今 後の課題としては次の 3 点が挙げられる。(1)これまでの先行研究はほとんど単一のテキス トを対象に調査を行っており、テキストタイプとストラテジー使用の関係についての研究は 管見の限りない。本稿が概観した先行研究のうち、Vandergrift(2003)は複数のテキスト タイプを扱っているが、そのテキストタイプによる違いを分析するには至っていない。した がって、テキストタイプによるストラテジー使用の違いについては今後さらなる研究が期待
される。(2)これまでの先行研究は、効果的な聴き手とそうでない聴き手のそれぞれの特徴 を取り上げたが、効果的な聴き手が持つとされる特徴は、その学習者の高い聴解能力に由来 するものなのか、あるいはその学習者が元来持っている固有の特徴が高い聴解能力をもたら したのかについては、今後の研究の進展が待たれる。(3)聴解ストラテジー指導がない場合 の聴解過程の発達研究は目下のところ Graham et al.(2008,2011)以外になく、大規模縦 断研究が欠落している。今後は、調査対象者の人数を増やし、調査期間を長期化した上で、 聴解過程の自然発達を調査する必要がある。 注 1) 本稿が扱った先行研究は主に次のような方法で収集した。EBSCO ディスカバリーサービ ス を 利 用 し、「 聴 解 過 程 」「 聴 解 ス ト ラ テ ジ ー」“listening strategies”“listening process”“think-aloud” などのキーワードで検索した。次に、検索した論文のうち、学術 的評価が高いジャーナル(例えば、Language Learning, System 等)に掲載された論文 や聴解の専門分野において著名な研究者(例えば、Vandergrift 等)の論文を優先的に 選んだ。また、検索された論文の要旨を読んで、本稿が設けた研究課題と関連があるも のを選択した。
2) Burley-Allen(1995)は、コミュニケーションプロセスにおける 4 技能に費やした時間 の内訳を算出した結果、聴く 45%、話す 30%、読む 16%、書く 9%と述べている。 3) CET-6(College English Test)は、中華人民共和国教育部が主催の、大学生を対象に英
語能力を認定する検定試験である。CET-4 と CET-6 のレベルがある。CET-6 は CET-4 よ りレベルが高く、英検準 1 級レベルに相当する。
参考文献
(1) Burley-Allen, M(1995)Listening: The Forgotten Skill: A Self-Teaching Guide. John Wiley & Sons, Inc. New York
(2) Dong, J.(2016)A dynamic systems theory approach to development of listening strategy use and listening performance. System, 63, pp.149-165
(3) Goh, C.(2002)Exploring listening comprehension tactics and their interaction patterns. System,30, pp.185-206
(4) Graham, S., Santos, D., & Vanderplank, R.(2008)Listening comprehension and strategy use: a longitudinal exploration. System,36(1), pp.52-68
(5) Graham, S., Santos, D., & Vanderplank, R.(2011)Exploring the relationship between listening development and strategy use. Language Teaching Research,15(4), pp.435-456
(6) J.V. ネウストプニー,宮崎里司(共編著)(2002)『言語研究の方法:言語学,日本語学, 日本語教育学に携わる人のために』くろしお出版
(7) OʼMalley, J. M. & Chamot, A. U.(1990)Learning strategies in second language acquisition. Cambridge: Cambridge University Press.
(8) Ross, S.(1997)An introspective analysis of listener inferencing on a second language listening test. Language Learning,53, pp.216-237
(9) Ross, M.(2016)Teaching and researching listening: Third Edition. Routledge
(10) Thompson, I., & Rubin, J.(1996)Can strategy instruction improve listening comprehension? Foreign Language Annals, 29, pp.331-342
(11) Vandergrift, L.(1996)The listening comprehension strategies of core French high school students. The Canadian Modern Language Review, 52, pp.200-223
(12) Vandergrift, L.(1997a)The comprehension strategies of second language(French) listeners: A descriptive study. Foreign Language Annals, 30, pp.386-409
(13) Vandergrift, L.(1997b)The Cinderella of communication strategies: Reception strategies in interactive listening. The Modern Language Journal, 81, pp.494-505 (14) Vandergrift, L.(2003)Orchestrating strategy use: Toward a model of the skilled
second language listener. Language Learning, 53, pp.463-496
(15) 横山紀子(2004)「第二言語における聴解ストラテジー研究:概観と今後の展望」『第 二言語習得・教育の研究最前線 2004 年版』, pp.183-201 (16) 横山紀子(2005a)「対面場面における聴解過程の分析-『モニター』の適用範囲を指 標として-」『共生時代を生きる日本語教育-言語学博士上野田鶴子先生古稀記念論集 -』,pp.262-289 (17) 横山紀子(2005b)「『過程』重視の聴解指導の効果-対面場面における聴解過程の分析 から-」『第二言語としての日本語の習得研究』8 号,pp.44-63 (18) 横山紀子(2008)『非母語話者日本語教師再教育における聴解指導に関する実証的研究』 ひつじ書房 (19) 王璐(2008)「『モニター』ストラテジー指導を初級聴解授業に取り入れる試み-『質問』
の活動を通して-」『日本言語文化研究会論集』4 号,pp.89-115 (20) 水田澄子(1995)「日本語母語話者と日本語学習者(中国人)に見られる独話聞き取り のストラテジー」『日本語教育』87 号,pp.66-78 (21) 水田澄子(1996)「独話聞き取りに見られる問題処理のストラテジー」『世界の日本語 教育』6 号,pp.49-64 (22) 張文麗(2008)「プロトコル分析は何を明らかにしたか:習得メカニズムを探る研究の 概観から」『言語文化と日本語教育.増刊特集号,第二言語習得・教育の研究最前線』, pp.167-190 (23) 杜艶(2009)「聴解授業における推測ストラテジー指導の試み-『声のクローズ』の活 動を通して-」『日本言語文化研究会論集』5 号,pp.167-194 (24) 藤村逸子・滝沢直宏(2011)『言語研究の技法:データの収集と分析』ひつじ書房 (25) 白畑知彦・富田祐一・村野井仁・若林茂則(2019)『英語教育用語辞典第 3 版』大修館 書店
Abstract
Research on Second Language Listening Process Using Think-Aloud Method
SHEN Beiyu
This paper reviews researches on the second language listening process using think-aloud method. The paper attempts to delineate the “state of the art” of the second language listening process by answering the following four research questions. Firstly, what kind of problems occur in the learnersʼ listening process? Secondly, what kind of listening strategies are used in the learnersʼ listening process? Thirdly, what are the listening strategies used by effective and less effective listeners? Finally, does the listening process change as the target language becomes more proficient? The paper concludes with the summary of the review and proposals for future research.
Keywords: listening process, listening strategies, think-aloud, the development of listening process