1.はじめに
文部科学省では,平成 29 年度 3 月 31 日に学校教育 法施行規則の一部改正と小学校学習指導要領の改訂を 行った.新小学校学習指導要領は令和 2 年度(2020) から全面的に実施することになった. 「小学校学習指導要領第 2 章第 5 節生活」(平成 29 年論 文
図画工作科と生活科との合科的カリキュラムマネジメントに関する研究
教員養成系大学に於ける教科教育法についての考察
松 下 明 生
日本福祉大学 教育・心理学部
A Study of Comprehensive Curriculum Management
about the Education of Arts and Living Environment.
–Proposal about the Teaching Method of Subject Education
at the University of Teacher Training Course–
Akio MATSUSHITA
Faculty of Education and Psychology, Nihon Fukushi University
Keywords:図画工作教育法,生活科教育法,美術教育学,教育心理,芸術学 要旨 本稿では,教員養成大学において行う教科教育について,合科的・関連的な指導の方法研究を行っている.「生活科」と 「図画工作科」との関連を中心に,これまで行われてきた教育内容を昭和 40 年代からの文部省検定済教科書掲載の内容から 読み取りながら研究を行った.人の「見る」「観察する」「描く」「作る」「知る」という軸で,生活科において行う活動内容 と「図画工作科」との活動内容を比較し,昭和当時との違いや教科によって扱う内容についての変化を調べ,それぞれ教科 の特性から共通する部分を見い出して,どこの何が共通なテーマとして関連付けて実行可能かどうかを探ることをしている. 以上を踏まえて合科的・関連的にカリキュラムマネジメントが出来得るのかを検討した. 「生活科」を中心とした合科的な学びについては,果たして教員養成系大学での学びはされているのであろうか.大学教 員の協働にて行う「大学教員による教科教育法のカリキュラムマネジメント」については,実行が出来ていなのではないだ ろうか.即ち,具体的な方法論の確立が待たれる状況が長く続いている事への問題提起として,「図画工作科」の教育法の 観点からの研究としている. 「見る」行為は知るための「観察」なのか,その後のアウトプットとしての造形芸術的な行為,モノづくりやクリエイティ ブな人格形成に寄与するためにも大切なことであるのかまで考察をしている.小学校教育の教科教育の一部の理念を統合と 分配をしつつ,今後の研究に向けての問題として提言した.
での学生の学びについても理解を深めていくことを目指 し,合科的な大学での学びとは何であるのかについても 言及することにする.
2.問題の所在
小学校の教員は,これからの時代,教科担当制に移行 することも話題になっている現状ではあるが,実際のと ころ,ひとりの担任教師が,朝の会から始まり,各教科 及び給食の準備から片付け,清掃など,学校に於ける教 科教育のみならず生活指導なども含めて学校生活全般を 行うことが一般的な職務となっている.就労校によって は,オルガンを弾いたり,歌を歌ったり,絵を描いた り,運動会の正門制作や舞台での衣装作り,大道具小道 具から演技指導や保護者対応など枚挙に暇がない.これ らに加えて各教科の授業準備や毎日の小テストなどの採 点や連絡帳の確認などもあることを考えると,これから の学校現場での教育体制には何かしらの手当てがなされ て当然の流れだと理解するのに苦労はしない. これらの業務を考えると中学校での従来からある教科 担任制と同様に,教科の学びの専門性をさらに確かなも のにするためだけではなく,教員の専門分野の教育エキ スパートとしての研讃もなされることは期待することが 出来よう.やがては,国内の小学校でも順次,そういう 時代になるのであろう. それでは,各大学での学びはどうであろうか.課程認 定にては,各教科の専門の大学教員が,小学校中学校の それぞれの教科教育法と称して構築された教員養成系プ ログラムにて認可を得ている.しかしながら,前述した 小学校教育現場でのスタートカリキュラムの中身や実際 の演習授業などは,果たして大学講義にて学ぶことはで きているのであろうか.また,カリキュラムマネジメン トなどの対応方法など,教科横断的に取り組む方法や運 用の実際を学ぶ機会はない.何故なら、実際の教科教育 のそれぞれの大学教員が,合同で打ち合わせをすること を必要とされていないからである.こういう事実から目 をそらすことなく,例えば「図画工作科」と「生活科」 では何を合科的に行うのか,何が共通内容なのか,何が 教科教育の目的や理念で共通部分があるのかなど,大学 生にしてみれば,教えてもらえる機会はないのである. 教えている大学教員は自分の専門分野を疑いもなく教え てきているのであるから,それがそこにある問題である ことを考えてみることもないのであろう. 告示)「第 3 指導計画の作成と内容の取扱い」の 1(4) において、スタートカリキュラムについて以下のように 示している.「他教科との関連を積極的に図り,指導の 効果を高め,低学年における教育全体の充実を図り,中 学年以降の教育へ円滑に接続できるようにするととも に,幼稚園教育要領等に示す幼児期の終わりまでに育っ て欲しい姿との関連を考慮すること.特に小学校入学当 初においては,幼児における遊びを通した総合的な学び から他教科等における学習に円滑に移行し,主体的に自 己を発揮しながら,より自覚的な学びに向かうことが可 能となるようにすること.その際,生活科を中心とした 合科的・関連的な指導や,弾力的な時間割の設定を行う などの工夫をすること.」 図画工作においても,「小学校学習指導要領図画工作」 (平成 29 年告示)では,第 4 章指導計画の作成と内容 の取扱い「低学年における他教科等や幼児教育との関 連」で,「低学年においては,第 1 章総則の第 2 の4の (1)を踏まえ,他教科等との関連を積極的に図り,指 導の効果を高めるようにするとともに,幼稚園教育要領 に示す幼児期の終わりまでに育ってほしい姿との関連を 考慮すること.特に,小学校入学当初においては,生活 科を中心とした合科的・関連的な指導(特別活動におい ては,「関連的な指導」)や,弾力的な時間割の設定を行 うなどの工夫をすること.」と示されている. 既に運用されている合科的取り組みについては,それ ぞれの小学校で対応し,マネジメントの経験を模索しな がら実施蓄積されている.それでは,教員養成大学での 教育カリキュラムはどうなっているのだろうか.生活科 教育法と図画工作科教育法のそれぞれの指導担当のみな らず,他教科の教員間にて教育内容の相互理解と学生へ の教育はどのようになされているのだろうか.大学での 教科横断的な教科教育についての実際を行っているのか 疑問を投げかけられてもいない.果たして,実際のとこ ろ、小学校入学当初のスタートカリキュラムや,生活科 を中心として構成されているところの教育内容と各教科 との連携や連動について教員養成系大学での取り組みは 有効な内容なのかを検証し,改善点などがあれば提言を することとする. 教科の合科的な取り組みとして,カリキュラムマネジ メントという視点にて,教員養成系大学においては,学 生の学びにも該当する重要な内容として本稿にて列挙し て考察をすることとする.再課程の認定を経て,各大学導計画の作成を行うこと.」と記されている. 3 − 2.「生活科」と「図画工作科」の教科書から 「生活科」を中心に,小学校入学当初において合科的・ 関連的に取り組みを行うことになるのであるが,教科書 の学びの内容を拝観する.「わたしとせいかつ 上」(平 成 31 年 2 月検定済 日本文教出版 令和 2 年発行)の新 しい教科書からいくつかの演目を紹介してみることにす る. 小学校に入学して間もないころからの学びを目次順に 列挙すると,《がっこうをたんけんしよう》《きれいなは なをさかせたい》《きせつとあそぼう はるからなつ》 《生きものとなかよくなろう》《きせつとあそぼう あ き》《じぶんでできるよ》《きせつとあそぼう ふゆ》 《もうすぐ 2 年生》となっている.そのそれぞれの頁は, 色鮮やかに写真や絵などで埋め尽くされている. 図 1.の「じぶんたちでたんけんしよう」の頁では, 楽しそうに学校内を探検している姿が印象的であり,誰 もがワクワクした気持ちで校内を歩き,探索をして様々 な発見や驚きがあるに違いない.この頁の右下には,探
3.研究の流れ
本稿では,まず「生活科」と「図画工作科」の教科書 を拝観し,どのような学びの項目があって,合科的取り 組みが可能なのかを調査することとする.これまでの先 行研究の中から,この 2 教科の取り組み事例や,スター トカリキュラムのマネジメントに於いて,実際にどの科 目間での取り組み例が多いのかを知ることと,そこから 見える可能性を探る.教員養成系の大学での教科間の学 びの相関や必要とされることは何かを見出すことにす る. 3 − 1.各教科の学習指導要領から 図画工作科のみならず,指導計画の作成と内容の取扱 いの中で,「小学校入学当初においては,生活科を中心 とした合科的・関連的な指導や,弾力的な時間割の設定 を行うなどの工夫をすること.」と明記されている.中 野(2004)は,生活科の合科的・関連的な指導につい ての研究の中で,愛知県内の公立・国立小学校 383 校 にてアンケート調査を行っている.その中で,「どの教 科等と関連させたか.」という質問に,図工:176.国 語:171.特別活動の時間:106.道徳の時間:91.算 数:32.体育:29 という回答になっていることを見る と,圧倒的に生活科と図画工作科という教科が合科的・ 関連的に取り組まれているということがわかる. 竹内(2010)は,学習指導要領の教育史的考察の中 で,日本の平成 20 年版までを,以下のように小学校学 習指導要領の変遷の調査でまとめている.昭和 33 年版 では,「第 1 学年および第 2 学年においては,一部の教 科について,合わせて授業を行うことができることと なっている.」,昭和 43 年版でも同類の記載で,昭和 52 年版で,「低学年においては合科的な指導が十分できる ようにすること.」とある.平成元年版は「低学年にお いては,児童の実態等を考慮し,合科的な指導が十分で きるようにすること.」,平成 10 年版では「児童の実態 を考慮し,指導の効果を高めるため,合科的・関連的な 指導を進めること.」,平成 20 年版は平成 10 年版と同 じであった. 平成 29 年版は総則の中で,「特に,小学校入学当初 においては,幼児期において自発的な活動としての遊び を通して育まれてきたことが,各教科等における学習に 円滑に接続されるよう,生活科を中心に,合科的・関連 的な指導や弾力的な時間割の設定など,指導の工夫や指 図 1.たんけんしよう(p.22-23) 図 2.みつけたことをはなそう(p.30-31)の授業であるが,低学年の子の頃は,「絵を描く」こと から伝えあうことをしている.初動行為としては,屋外 にて秋を見つける⇒秋を観察する⇒秋を描く⇒秋を話 す:伝え合うという流れになり,情報や感動を他者と共 有し,喜びを共有することになる. 図 5.では,季節が廻り冬になるのであるが,この ページに記載されている教科の内容とは,いったい何で あろうか.このページのみを拝観すると図画工作科と見 間違うに違いないと考えてもよいのではないだろうか. 図画工作科教育法という大学での講義では,図画工作科 のみならず,この生活科についての教育法についても, 学生には同時に理解をしてもらう必要があるのではない だろか.自然の中で季節の産物を享受することから,そ れらを使用して何を作ろう,何してあそぼうなんて探索 行為を行うのは図画工作の得意分野ではないか.図 5. にあるような,屋外にて「風」を利用したり,「光と影」 に気付きあそぶことなど,近年流行った「レッジョ・エ ミリア」の子どものアトリエで見られる感覚的なあそび であり,人の芸術行動に他ならない. 図 5.は「ふゆのあそびずかん」である.これはまさ しく図画工作科の作ってあそぶという演目と同じであ る.このような行為は,「テーマや目標および概念」が 索後に何をするのかについても写真と絵で見せていて分 かり易い.みんなが「絵」を描いて,教室の壁に並べて 貼っている. 次に図 2.では,学校の中を探検して「みつけたこと をはなそう」という授業である.これは,探検して見つ けて知っている事を「絵」に描いて,教室のプロジェク ターの書写カメラにて映し出し,クラスメイトに「おし えたいな,しりたいな」と教えて知るというページであ る.探索してその後に制作をすることもさることなが ら,まさしく,図画工作科における,鑑賞の対話型の授 業展開と同じであり,対象が有名な美術作品であるか否 かの違いだけである.昭和時代の旧教科書では,同類の 課題を展開していて,学校内をよく見て探し,制作をす る演目もある.昭和時代に図画工作で実施をしていた内 容と同類であることを付け加える.また,子どもの造形 課題での特徴として磯部(2006)は,子どもは「知っ ている事のすべてを描く」と提言していて,知っている ことは,即ち「見る」ことから始まる. 図 3.あめのひをたのしもう,では,梅雨の季節に楽 しむということから,思い出して「絵」をかいている児 童の挿絵が挿入されている.楽しかったことを記憶から 教室の机上にて制作をしている.思い出しながら経験か ら見たこと知っていることを描いて,話していることが わかる.この図 3.以外にも季節を感じながら様々な物 や生きもの,事柄の制作が毎時間(毎頁)登場してい る.登場した児童たちは楽しそうに制作をしていて,そ して話して伝えあい,発表をしている.後述をするが, 昭和時代の図画工作の教科書では,図 3.のような自然 写真を掲載して,季節を感じて見て描く児童の姿を載せ て,制作を促しているものもある. 図 4.では,みつけたあきをつたえあうというテーマ 図 3.あめのひをたのしもう(p.59) 図4.あきをつたえあおう(p.82-83) 図 5.ふゆのあそびずかん(p.112-113)
挿絵にてわかりやすく解説しているが,これらは図画工 作で使用する用具でもある. 次に新しい図画工作の教科書「ずがこうさく 1・2」 (平成 31 年 2 月検定済 日本文教出版 令和 2 年発行)を 拝観する. 図 8.では,「かきたいものなあに」と標題があり, これを見ると幼児期の自由画制作の時間と同様の活動で あることがわかる.「かきたいものなあに」で「なに」 が描きたいのかは自分で探索することになるのではある が,それが見つかったならば描きたいものが描けるの で,児童の心理状態も安心して入学前のように楽しく表 現をすることができるのであろう.図 9.については, 描いた後に,みてみてあのね,と他者への働きかけとい う行為として標題が設定されている.これは,「せいか つ」の伝え合いという大切なテーマと同じであり,ここ でも合科的に取り組む材料があることが言えよう.図 10.では,自宅から箱を持参して,自由な発想にて中 に何を入れようかなんて,想像しながら装飾を施してい る工作の演目である.色紙を切ったり,その上に描いた りしながら,いかにも楽しそうな制作風景と作品写真が 掲載されている.図 11.も同様に工作課題である.図 芸術とは違うという研究者の説明があったとしても芸術 同類の活動であることは否定できない.季節を感じて⇒ 発見し⇒よく見て⇒季節のものを使って⇒創造と設計を して⇒楽しくあそぶという流れである.最近では,教材 と称して業者からセットになった「制作材料と作り方の キット」を有料で購入して,クラスの児童全員が同じ材 料:同じ作り方:同じ遊び方という内容もので図画工作 をすませている教師がいることには残念であるとしか言 いようがないことも事実である. 図 6.の観察のしかたの頁では挿絵にて「見かた」を 説明している.ここでは,「見る.じっくり見る」と表 記されていて,「見たことや感じたことを えにかこう.」 「よく見てかこう.」「いろ.かたち.大きさ.たかさ. ふとさ.おもさ.かず.におい.さわったかんじ.」な ど,とても丁寧に書かれている.「よく見てかこう.」 は,図画工作科の授業では言わないのであろうか.「か んじたことをえにかこう」は,単なる観察ではなく,も はや抽象的な芸術行為である.なんと「生活科」は芸術 科目のようである.描き方を教えない現代の図画工作の 授業では「よく見て描こう」なんて言わないのであろう か.図 7.のはさみやカッター,きりやのりの使い方も 図 7.ようぐのつかいかた(p.132-133) 図 6.かんさつのしかた(p.131) 図 8.かきたいもの なあに(p.10-11) 図 9.みてみてあのね(p.20-21)
ストされていることに着目して,あそびの幅が広がるこ とに繋がっている.図 12.では同じく「はこ」である が,ここでは自由に何を作っても良いことになってい る. 「せいかつ」と「図画工作」の教科書を俯瞰して,両 方の教科書に共通して言えることは,楽しく制作活動し ている児童の写真と,笑顔満面にて遊んでいる姿が載っ ていることである.すべてがカラー写真であり,「かい たりつくったり」して「あそぶ」がテーマになり得てい る.そこで伝え合い,共感し,出来ることや楽しいこと が増えて,自分自身の成長に気付き,人との関わり合い に喜び導かれていることである. 両教科共に,これらの制作内容や活動の内容は幼児期 でも行う活動と同じであり重なる.果たしてここは小学 校なのか,はたまた保育所での活動なのかと見間違える ような写真でもあることは否めない.しかしながら,小 学校学習指導要領にあるように,「造形遊び」が活動の 柱になって久しいのだが,以前から問題にされていた 「小 1 プロブレム」等の学びに向かう姿勢や入学間もな い児童への配慮もあってか,こういう学びであれば活動 は抵抗なく参加することが出来るということであろう. それは,「せいかつ」という教科のみならず「ずがこう さく」においても必要十分な配慮がなされていると感じ るのではあるが,昭和 50 年代の昔の教科書と比べてみ ると理解をすることができる.これらの教科書からは, 「せいかつ」中心に合科的取り組みをおこなうにせよ, 「ずがこうさく」自体の教科としての在り方が問われて いるようにも思えないであろうか.あわせて,この「せ いかつ」は理科であるとか社会であるとかの状況判断に 迷うべき内容であって,もしかすれば「ずがこうさく」 の存続を問うのではなく,逆に図画工作に成り代わるほ 10.は箱であったが,これは紙皿を使っての制作であ る.使うものを限定して何を作ろうかという自由なイ メージ想起が必要になるところが,授業の導入では大切 な腕のみせどころである.何を作ろうの「何」は,今そ こにある物でもいいし,空想の何かでも良い.飾ること と入れることがセットになっているところが楽しく面白 いではないか.図 12.でも「箱」を使って,何かを作 ることになっている. ここでも「何」を作るのかが重要になってくるのだ が,「何」のイメージがないまま時間が過ぎてしまう児 童は少なくない.実際に手を動かして作る作業前の,大 切な行為である「イメージする」は,図画工作の授業に おいて最初に好き嫌いが起こる要因にもなっているのだ が,「イメージ」を想起することが出来るようにするに はどうすれば良いのか,教師の苦労をする指導内容でも ある.しかしながら,ここの部分での「せいかつ」との 合科的・横断的な取り組みの研究があってもおかしくは ない.ここでは,標題が「かみざらコロコロ」とあり, 紙皿を使って,図 10.のような「なにいれよう」では なく,転がすという動かしてあそぶということがリクエ 図 10.かざってなにいれよう(p,40-41) 図 11.かみざらころころ(p.50-51) 図 12.はこでつくったよ(p.44-45)
それぞれの(1)では,「知識・技能」,(2)では「思 考力・判断力・表現力等」,(3)では「学びに向かう力・ 人間性(主体的に学習に取り組む態度)」ということに なっている.(1)では,生活科の「活動や体験」は図 画工作科の「対象や事象を捉える」というところは外部 環境による自己への情報であり,生活科の「気付く」と 図画工作科の「理解する」がリンクされて知識・技能と して育成されることと受け止めることができる.それぞ れの(2)では,生活科の「捉え,考え,表現すること ができるようにする.」とあり , 図画工作では,「(表し たいこと,表し方を)考え,発想や構想をしたり,見方 や感じ方を深める.」とあり,(3)では,主体的に学習 に取り組み態度を養うことについて理解することができ る.それぞれの教科書と照らし合わせることで,より一 層,具体性を帯びて理解しやすくなることは明白であ り,「せいかつ」と「ずがこうさく」には共通する部分 を読み取るには苦労しない.即ち,合科的・関連的に取 り組むことが容易にできるということが明白である. 3 − 4.生活科と図画工作科の学習内容にについて 生活科については,「小学校低学年の教育に関する調 査協力研究者会議(1987 年 7 月)」の答申のまとめで, 「児童の生活に即した様々な活動や体験を通して社会認 識や自然認識の芽を育てるとともに,そのような活動や 体験を行う中において自己認識の基礎を培い,生活上必 要な習慣や技能を身につけさせ,自立への基礎を養うこ とをねらいとする総合的な新教育として生活科(仮称) を設ける」と生活科の新設とねらいや性格づけをした. その後,臨教審(1987 年 11 月)の答申で「生活科は, 具体的な活動や体験を通して,自分と身近な社会や自然 とのかかわりに関心をもち,自分自身や自分の生活につ いて考えさせるとともに,その過程において生活上必要 な習慣や技能を身につけさせ,自立への基礎を養うこと をねらいとして構想するのが適当である.なお,これに ともない,低学年の社会科及び理科は廃止する」として いる. 教科設置の背景についても理解しながらも,社会科や 理科との接点については勿論根底に存在していることと 理解しながらも,生活科と図画工作科は,児童の活動視 点から鑑みて,もっとも近しい位置にあるのではないだ ろうかと考えさせられるのであるが,東山(1995)は, 当時から小学校 1 年 2 年教科として「理科」「社会」を どの造形的内容になってはいないだろうかと思えて仕方 がないことも否定出来ない.総じて言えることは,描い たり作ったりすることは児童の教育に相当必要な内容で あることは否めないこともあって,「せいかつ」の活動 のほぼすべてにおいて「描いて伝え合う」「感じて作っ て遊ぶ」があることも事実である. 3 − 3.各教科の学習指導要領における目標 教科書を俯瞰してみると,前項のように多くが共通す る学びとなっていることが分かった.それでは,学習指 導要領の教科の目標についても並べて考えてみる. 第 5 節『生活』 具体的な活動や体験を通して,身近な生活に関わる見 方・考え方を生かし,自立し生活を豊かにしていくため の資質・能力を次のとおり育成することを目指す (1)活動や体験の過程において,自分自身,身近な 人々,社会及び自然の特徴やよさ,それらの関わ り等に気付くとともに,生活上必要な習慣や技能 を身に付けるようにする. (2)身近な人々,社会及び自然を自分との関わりで 捉え,自分自身や自分の生活について考え,表現 することができるようにする. (3)身近な人々,社会及び自然に自ら働きかけ,意 欲や自信をもって学んだり生活を豊かにしたりし ようとする態度を養う. 第 7 節『図画工作』 表現及び鑑賞の活動を通して,造形的な見方・考え方 を働かせ,生活や社会の中の形や色などと豊かに関わる 資質・能力を次のとおり育成することを目指す. (1)対象や事象を捉える造形的な視点について自分 の感覚や行為を通して理解するとともに,材料や 用具を使い,表し方などを工夫して,創造的につ くったり表したりすることができるようにする. (2)造形的なよさや美しさ,表したいこと,表し方 などについて考え,創造的に発想や構想をした り,作品などに対する自分の見方や感じ方を深め たりすることができるようにする. (3)つくりだす喜びを味わうとともに,完成を育み, 楽しく豊かな生活を創造しようとする態度を養 い,豊かな情操を培う.
社会及び自然の特徴やよさ,それらの関わり等に気付く とともに,生活上必要な習慣や技能を身に付ける」こと と合致したものである. 図 16.は,昭和 51 年 4 月文部省検定済 3 年生の教 科書の裏表紙に載っているものである.「おや,何をし ているのかな.はをまるく切りとっているはち,いそが しそうにはたらいているあり,みつをすうちょう.身近 なところにいる虫たちの小さなくらしを見つけてみま しょう.」とある文面からは観察をする姿勢や態度につ いての言及であると解釈することができるが,「生活科」 の観察や「理科」と同じである.図 17.は,昭和 45 年 4 月文部省検定済 3 年生の教科書 p.27「きゅうしょく しつ」と題されていて,説明に「学校の中で,かきたい ところをよく見て描きましょう.」と書かれている.学 校内を探検して,気に入った場所や人々,ここで働く人 たちを,その特徴的な機械や道具類までも詳細に観察を して記録されている絵画である. 勿論,想像画や空想画は別の課題にて掲載をされてい るが,この課題は現在の「せいかつ」と同じように探検 して人や物,道具や空間などを発見して描いているとい 復活させたいと理由を付けて残している.
4.昭和の教科書「図画工作」から見えてくる
こと
図画工作の授業ではこれまでにどのような教育をなさ れてきたのかは,その時代の教科書を見ればわかるよう なものであり,ほんの数十年の間に何が変容してきてい るのかを確認したい.昭和 48 年 4 月文部科学省改定検 定済「ずがこうさく 1」の掲載内容を確認する.図 13. (p.10)は「あか かて しろ かて」と題して,運動会と いう学校生活の体験画である.また,図 14.(p.24)は 「あそんだこと」と題して,誕生会で歌って踊ったこと, 学校であった楽しい出来事を思い出して描いている.学 校生活で経験した知っていることを描くことで表現の楽 しさを知り,技能を高めることもできる. 次に,昭和 48 年 4 月に文部科学省改定検定済「ずが こうさく 2」p.25 の図 15.「たんじょうかいのおくりも の」を見ると,学校生活の中での楽しい出来事のために 各々が制作をしてケーキや贈り物,被り物を作ってい る.これらの活動も生活科に於ける目標の「身近な人々, 図 13.あか かて しろ かて(1 年) 図 14.あそんだ こと(1 年) 図 15.たんじょうかいのおくりもの(2 年) 図 16.むしのくらし(3 年)体的に描く課題が,昭和時代には多い.「見る」という 文言が多く掲載され,それも各学年に何度も記されてい て一貫している.これは教育の理念や方法が現在とは違 うということを理解することができる.このページで は,「それぞれの花のとくちょうやちがいを,よく見て かこう.」「よく注意してみるところ」は「花や葉の向き や大きさ・それぞれの向きや大きさ・花や葉の色のちが い」と説明されている. 図 19.は,昭和 55 年度用図画工作科(1 年)の教科 書表紙である.図 20.は図 19 の教科書掲載に併せて昭 和 57 年 3 月改訂検定後(昭和 58 年度用)にも併載さ れているものである.今では驚くべき内容となっている が,ひまわり・マーガレットのかき方について,事細か く説明されているところである.花を何処から描いてど のようなところを注意して描くのかが指示されている. また,図 21.は,昭和 57 年改訂検定済(昭和 58 年度 用)の 3 年生の教科書「図画工作 3」p.8(日本文教出 版)の内容であるが,「友だちをかく」という課題で, どのように見るのか,よく見ること,よく見るってどん なこと,などが書かれていて「見ること」の重要性が説 かれている.「見る」=「観察」ということであれば, まさしく理科での植物の観察と同類の演目と言えよう. 観察日誌など,夏休みの自由研究にしても,毎日の観察 と,成長・変化したところ等をよく見て描くという点で は同じではないだろうか.勿論この課題に於いては,自 由な発想や想像と言う観点でいうならば,あてはまるこ とにはならない.しかしながら,「写生」とは,日本の うことでは,具体的にしっかりと描かれた生活科で使用 する「発見カード」の特大サイズのものと言えよう.良 く描かれていることには相違ない. 次に,図 18.は昭和 45 年 4 月文部省検定済 5 年生 の教科書 p.3「花」の作品であるが,このように見て具 図 17.きゅうしょくしつ(3 年) 図 18.「花」 図 19.「しんずがこうさく 1」表紙 図 20.「しんずがこうさく 1」(p.10) 図 21.友だちをかく(3 年)
か,「見る・よく見る」等の掲載がなくなってしまった 図画工作科.その人間形成の手立てを「生活科」に委ね てしまったのかについては不明であるものの,それが協 働作業なのかどうかは,委ねられた教員に任されている ということになるのであろう.「生活科」と「図画工作 科」との役割分担と協働にて行う教育活動については, 「生活科を中心とした合科的・関連的な指導や,弾力的 な時間割の設定を行うなどの工夫をすること.」になっ ていることから,本稿で分かったことを踏まえれば, 「見る」「観察」「写生(描く・作る)」「知る」という一 連の行為について,キーワードにあてはめてのカリキュ ラムマネジメントを行うことが妥当であろう.「知識・ 技能」,「思考力・判断力・表現力等」,「学びに向かう 昔ながらの描くという行為にあてはめれば,美術造形の 範疇の中にある行為である.よく見て,観察して,対象 の真実を知る,という行為は,理科系研究の基礎的行為 でもあるし,「写生」という動作ともつながり得る.
5.わかったこと
これらのことから,少なくとも昭和 40 年代から 50 年代にかけては,図画工作科にて「観察」という視点に て描写をする時間が準備されていたという事実を確認す ることができる.現在の生活科では,図 6.「かんさつ のしかた」のように小学校入学当初から「見る」という 方法論の学びをしていることもわかった.今では ,「見 る」ということの重要性について形骸化されてしまって 図 22.「生活科」と「図画工作科」の造形活動との合科的・関連的な学びの相関図への教育を展開していることと願うばかりである. 参考引用文献 ・小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説「図画工作編」 (平成 29 年 2 月 28 日初版)文部科学省 ・小学校新学習指導要領ポイント総整理(2017)東洋出版社 編集部 ・いきいき学級づくり(2017)北海道生活教育研究会:河野 修三,喜楽研発行 ・「発達や学びをつなぐスタートカリキュラム」(2018)編集: 文部科学省国立教育政策研究所,発行:学事出版株式会社 ・中野真志(2004)「生活科の合科的・関連的な指導について の研究」愛知教育大学研究報告 53,pp.9-17 ・竹内晋平(2010)「図画工作科における生活科との関連的指 導 法 の 開 発 」 京 都 教 育 大 学 教 育 実 践 研 究 紀 要 第 10 号 pp.121-12 ・東山明(1995)「美術教育の今日的課題」神戸大学発達科学 部研究紀要2,pp.203-211. ・「子どもが絵を描くとき」磯部錦司(2006),一藝社 ・「子どもたちの 100 の言葉」レッジョ・チルドレン著,ワタ リウム美術館編,(2012),日東書院 ・松下明生(2013)「子どもの図画教育の指導法研究」浜松学 院大学短期大学研究論集第 9 号 pp,23-37. ・松下明生(2014)「図画工作科における絵画制作及び描画学 習の知的貢献についての研究」名古屋柳城短期大学研究紀要 第 36 号 pp,141-157. ・松下明生(2015)「幼児の造形活動と小学校図画工作科の内 容分析」名古屋柳城短期大学研究紀要第 37 号 pp,75-86. ・「ずがこうさく 1」昭和 45 年文部省検定済教科書,(昭和 48 年発行)日本造形教育研究会著作,開隆堂出版 ・「ずがこうさく 2」昭和 45 年文部省検定済教科書,(昭和 48 年発行)日本造形教育研究会,開隆堂出版 ・「しんずがこうさく 1」昭和 55 年度用文部省検定済教科書 (光村図書出版) ・「図画工作 3」昭和 51 年文部省検定済教科書,(昭和 51 年発 行)日本造形教育研究会,開隆堂出版 ・「図画工作 3」昭和 45 年文部省検定済教科書,(昭和 46 年発 行)日本児童美術研究会,日本文教出版 ・「図画工作 3」昭和 57 年文部省改訂検定済(昭和 58 年度用) 教科書(日本文教出版) ・「図画工作 5」昭和 45 年文部省検定済教科書,(昭和 47 年発 行)日本児童美術研究会,日本文教出版 ・「ずがこうさく 1・2 上」平成 31 年文部科学省検定済教科書, (令和 2 年発行)日本文教出版 ・「わたしとせいかつ上」平成 31 年文部科学省検定済教科書, (令和 2 年発行)日本文教出版 力・人間性(主体的に学習に取り組む態度)」の 3 本の 柱が支柱となっていることは自明である.図 22.は「生 活科」と「図画工作科」の造形的な活動視点で作成した 相関図である.文部科学省(平成 31 年 2 月)検定済教 科書「わたしとせいかつ上」の各頁を抜き出して,教科 書に掲載されている活動内容と図画工作の造形的活動 (探索:鑑賞・お絵かき:写生・季節の工作・あそび・ 展示発表等の事を指している.)との相関を矢印にて示 している.「生活科」の取り組みと「図画工作科」の 《探索・鑑賞》《絵(言葉)》《工作(造形あそび)》《展 示》のそれぞれの活動とを繋げている.これを見ると驚 くほどに「わたしとせいかつ」のほとんどの頁では,児 童の絵を描く「発見カード」などが示されている.つま り,どの場面でも必ずと言っても過言ではないほどに 「絵」を描いているということである.それは,勿論, 絵のみではなく,言葉による伝えあいを目指しているこ とは周知なのであるが,伝達手段の「絵」から「言葉」 へと,幼児期からの繋がる子どもの発達段階や状況を物 語っていることについて,教師の理解があってのことで ある.