• 検索結果がありません。

【報告】ロボットと癒し ―ロボットセラピーの現場から―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "【報告】ロボットと癒し ―ロボットセラピーの現場から―"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

67

1.はじめに

ロボットは現在様々な場面での導入が検討さ れているが、特に後期高齢化社会を迎える我が 国では、介護福祉場面での使用を前提とした新 たな研究開発に力が注がれている。その中でも 本論では、ロボットをセラピーの場で用いる試 み、「ロボットセラピー」について取り上げて いく。それにあたり、まずはロボットセラピー の概略を踏まえ、次にロボットセラピーの具体 的展開について、木村龍平氏(帝京科学大学) が特別養護老人施設「サントピア」にて行って いる研究例を挙げて、以下に報告していく。本 論の狙いとしては、ロボットセラピーという新 規の試みに対し、心理臨床的観点から当該セラ ピーの効果を検討していくことにあることを、 はじめに述べておく。

2.ロボットセラピーの概略

本論で報告していくロボットセラピーとは 正確にはロボット介在療法(Robot-Assisted-Therapy:以下 RAT)を示す。療法という語が 示すように、RAT では何らかの疾患を有する 患者を対象とし、病状への治療効果を期待して 施行される。これまでの施行の対象例としては、 認知症、自閉症、広汎性発達障害といった症例 が認められている1) 。 RATで使用されるロボットはほとんどが動 物型のロボットであるが、これは RAT の考案 経緯に拠るところが大きい。RAT は元来アニ マルセラピーの代替的方法として考案され、ア ニマルセラピーの種々の問題点を改善し得るも のとしてみなされてきた。それらの問題点とは 柴田によると、1. 衛生面での問題点、2. ペット ロスの問題点、3. コストの問題点とに大別され るが2) 、RAT がこれらの諸問題全てを解消し えるかという疑問は残る。例を挙げると、ロボッ トという新奇性に起因するテクノフォビアの問 題、ロボットに対する心的反応仮説「不気味の 谷」の問題、また、対ロボットでは喪失に伴う 悲哀感情が付随するか否かという点に関しては 更なる議論がされるべきであり、これはペット ロスの問題が質的に異なる形で表現される可能 性を示している。 RATでは主に動物型ロボットが使用される としたが、以下に研究での使用頻度の高いもの を挙げていく。 ① AIBO 1999 年 に SONY か ら 発 売 さ れ た 犬 型 の ロ ボットであり、RAT の現場では AIBO が最も 多く使用されている印象を受ける。セラピー現 場でよく用いられる機能としては、ピンク色に 反応するという特性を利用した「ボール投げ」 が挙げられる。 ② PARO 産業技術総合研究所の柴田崇徳博士によって

ロボットと癒し

― ロボットセラピーの現場から ―

河 嶋 珠 実

報 告

(2)

臨床心理学部研究報告 2011 年度 第 4 集 68 研究開発されてきたロボットであり、PARO の 誕生が RAT を海外へと根付かる契機となった。 外観はアザラシの子どもをモデルとし、ぬいぐ るみのような柔らかな触感が AIBO との最大の 差異と言える。また、人工知能が搭載されてお り、患者の「名づけ」を学習することができ、 その他にも発話者の方向へ首を傾げて反応する といった点は、より身体性の高い反応とも考え られる。 これまで RAT の外殻について記述してきた が、次にこれまで観察測定されてきたセラピー 効果について述べる。浜田らによるとその効果 は 1. 生理的効果、2. 心理的効果、3. 社会的効 果としてまとめられている3)。特に 3 について は、被験者同士あるいは被験者と介在者(スタッ フ)間での会話が含まれるが、このことからも RATではセラピーの施行者である介在者の役 割の重要性が指摘されてきた。

3.セラピーの流れ  サントピアの場合

-セラピー施行の際の場の設定方法などについ ては体系化がなされていないため、本論では、 「はじめに」でも触れた木村龍平氏による施行 ケースを挙げていく。 1 セッションの設定としては、10 人前後の 患者に介在者が 1 対 1 で担当するようにスタッ フが割り振られ、15 分程度の交流がなされる。 この 15 分を 1 セッションとし、同一グループ 内で 2 セッション、休憩を挟んで別のグループ への施行を行うため、計 4 セッションの RAT がなされる。主な位置関係は以下に図示する。 更に、机の上には季節のアイテムなどを配置 し、セッション時これらのアイテムを話題とし て患者との言語的交流を図っていく。セッショ ンが場のファシリテーターによって開始される と、介在者の自己紹介に始まり、ロボットを交 えた三者の、言語的・非言語的な交流が展開さ れる。その際、介在者はあらかじめ把握したロ ボットのシステムを利用してロボットに対して アクションを起こす。その後のセッションの進 行としては、ロボットに対する顕著な反応が患 者に認められる場合は引き続きロボットを媒介 にして遊んでいくが、それ程の反応が見られな い場合はロボットを話題としつつも、患者と介 在者との言語的なやり取りを進めるといったパ ターンが主のようである。これらの 15 分で 1 セッションという形を 4 回繰り返し、患者の見 送りをした後セッション全体の内省のシェアリ ングを行って終了となる。 介在者は 4 人の患者と接することになるが、 介在者に事前に患者に関する情報が与えられる ことは少ないため、短い時間で患者に適した方 略を模索し実施していかなくてはならない。ま た、サントピアでは認知症の高齢者を対象とし て RAT を行うため、意思の疎通を図ることが 困難な患者もいる。そのような中セラピー施行 現場を観察していると、何をすべきかよく分か らないままセラピーを終えている介在者も見受 けられる。RAT における介在者の重要性は度々 示唆されているが、加えて、RAT が治療効果 を期待されるものである以上、セラピーとして の成功と失敗という点には更なるセンシティブ さと議論が必要である。 図 1. RAT セッションにおける患者―ロボット―介 在者の位置関係

(3)

ロボットと癒し 69 4.介在者としての体験を振り返って―心理臨 床的観点からの再考― 本論執筆者は 2011 年の 5 月よりサントピア での RAT に介在者として参加したが、その場 での気づきを以下に述べていく。 AIBOや PARO との遊びの展開を観察して いると、起動前のロボットに興味を抱く患者は 少なく、起動後のロボットの「動き」に対して 患者が様々な反応を示すことがうかがえる。ロ ボットは基本的にはプログラムされた反応しか 示さないが、時にこちらの想定外の動きをする ことがある。その代表例として「ロボット同士 の協調」を挙げる。これは、別個体のロボット 同士があたかも一緒に遊んでいるかのように振 る舞うことであるが、セラピーセッションでの 位置が隣同士のロボット達が「遊び」始めると、 それにつられるようにして患者同士の交流が促 進される傾向にある。ここでロボットの擬似的 な振る舞いが鍵と仮定すると、ロボットの他者 性というテーマが浮上する。 ロボットが他者として認知されることは、ロ ボットが、主体の思い通りになる「玩具」とは 違った存在性を獲得することだろうか。しかし、 プレイセラピーの現場では様々な玩具が玩具そ のもの以上の存在性を表すことがあるように、 「思い通りのならなさ」は玩具にも宿るものと 言える。この時玩具にも他者性があると言える のかどうか、また、もしそれを他者性とするな らば、ロボットセラピーにおけるロボットとプ レイセラピーにおける玩具とにどのような異同 があるのか。ロボットセラピーの独自性の所在 を考える上でも、これらの点は今後更に検討を 加える必要がある。 次に介在者の重要性について考察を加える。 池田による研究では、患者への関わりが上手い 介在者と下手な介在者を比較した時、上手い介 在者においては患者に対する語りの内容に共 通する特徴が見いだせることが明らかとなっ た4)。それは、例えばロボットが動かなくなっ てしまった場合などに、「電池が切れた」とい うような表現はせずに「眠っちゃったね」といっ た風な擬人的な応答をする傾向が挙げられてい る。実際に幾度かのセラピーセッションでも、 このような語りかけをする介在者は患者との間 で、より多層的な交流が出来ているように観察 された。ここで上記の点が意味されるものにつ いて述べると、介在者には、ロボットが患者の ファンタジーへと入り易くするための架橋的な 役割があるように思われる。AIBO も PARO も、 名づけや遊びによって他者性が付与されたとし ても、やはりそれだけでは患者個々の物語中の 登場人物となることは難しい。患者が安心して ロボットとのファンタジーを展開させるには、 見守り手としての介在者が必要であるというこ とをここで呈示したい。 最後にロボットセラピー研究における今後の 展望について述べる。上述したように、これま での先行研究の中で、ロボットセラピーによっ て何らかの変化が患者にもたらされていること が明らかにされてきた。しかしその変化の質的 な意味に関する考察はほとんど検討されていな い。この点に対して心理臨床的な関わりをす るとすれば、ひとつは投影法の実施が挙げられ る。この視点は、量的な方法のみで治療効果を 示してきた現行のロボットセラピー研究にとっ て、セラピーの機序を改めて考える上での手掛 かりとなる可能性もある。しかし、ロボットセ ラピーを「真にセラピーたらしめる」ために投 影法を行うということは、本末転倒と言える。 従って、患者の状態を先ずは第一として、倫理 的な観点からも十分に検討を加えることの必要 性が問われるべきだろう。また、認知症や自閉 症などの様々な患者への適用がなされてきたロ

(4)

臨床心理学部研究報告 2011 年度 第 4 集 70 ボットセラピーであるが、どの場合も患者・ロ ボット・介在者との関係性が一様だとは考えに くい。ロボットとのやりとりそのものに治療的 な働きのウェイトが占められている場合もあれ ば、ロボットは媒介として作用し、介在者との やりとりによって症状の改善がなされる場合も ある。ロボットセラピーの持つ、セラピーとし ての性質を検討していく為にも、ひとつひとつ のケースに対して個々の考察を加えることが肝 要だと思われる。現行のロボットセラピー研究 では「データ収集によるパターン化」が目標と されている観があるが、セラピーの固有性とい う視座こそが、今この領域で欠落している認識 のひとつであると提言したい。 「ロボットと人、癒し」、この三題噺には膨大 な思惟が必要とされる。技術は瞬く間に更新さ れ、言及が追いつかないことも多い。しかし、 セラピーセッションの場に身を置いて初めて分 かることがある時などのように、後手故の発見 があることは確かだ。これらの発見を一つ一つ 堆積させていく先に何が待ち受けているのかは 不明だが、セラピーという力動的場でロボット と人がより生き生きとした関係性が構築される ことを願って、ひとまずは報告の終りとする。 謝辞 本論執筆者の RAT 参加を快諾して下さり、 本論投稿にあたっての許可を下さった木村龍平 教授(帝京科学大学)、ならびにロボットセラ ピー部会でご指導頂いております永沼充教授 (帝京科学大学)、矢後長純教授(愛国学園大学) の諸先生方に心よりの感謝を申し上げます。 引用文献 1)桑子敏雄編著 2004 『いのちの倫理学』コロナ社 pp.144-167 2)柴田崇徳 1999 人の心を癒すメンタルコミットロ ボット 日本ロボット学会誌, 17,7, pp.943-946 3)浜田利満他 2006 高齢者を対象とするロボット・ セラピーの研究―実施方法に関する検討― 筑 波学院大学紀要第 1 集, pp.111-123 4)池田陽介他 2009 施設利用者を対象としたロボッ ト・セラピーの方法論に関する研究第一報:観 察による実施スキル抽出 第 10 回システムイン テグレーション部門講演会(SI2009), pp.1419-1420 参考文献 浜田利満他 2011 高齢者セラピー用ロボットの印象に 関する調査 筑波学院大学紀要 ,6,pp.43-48 橿淵めぐみ他 2001 ロボットセラピーの可能性 ―心 理・生理指標によるペット型ロボット AIBO の 癒しの効果― 日本心理学会第 65 回大会論文集, p.1025 鉃井俊宏他 2008 エンタテインメントロボットを用い たロボット介在リハビリテーションの試み 帝京 科学大学紀要, 4, pp.41-52

参照

関連したドキュメント

オリコン年間ランキングからは『その年のヒット曲」を振り返ることができた。80年代も90年

ともわからず,この世のものともあの世のものとも鼠り知れないwitchesの出

  BCI は脳から得られる情報を利用して,思考によりコ

現実感のもてる問題場面からスタートし,問題 場面を自らの考えや表現を用いて表し,教師の

(4) 現地参加者からの質問は、従来通り講演会場内設置のマイクを使用した音声による質問となり ます。WEB 参加者からの質問は、Zoom

 プログラムの内容としては、①各センターからの報 告・組織のあり方 ②被害者支援の原点を考える ③事例 を通して ④最近の法律等 ⑤関係機関との連携

となってしまうが故に︑

「2008 年 4 月から 1