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巻頭言:「巻頭言」がおもしろい

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Academic year: 2021

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「巻頭言」がおもしろい

人間学研究所所長 

小林 康正

現在、人間学研究所の20周年事業の準備とし て記録の作成に携わっている。仕事の中身は、 これまで当研究所がどのような共同研究やイベ ント、企画を行ってきたかを振り返るいわば「修 史」の作業である。歴代所長へのインタビュー を含め、イベント関連の資料の閲覧など、いく つかの作業があるが、その中心になるのが紀要 を読むことである。そう、この『人間学研究』 を読むことである。 掲載された論文やシンポジウムの記録などは、 当たり前ながら、それ自体真摯で、気迫溢れた 取り組みの連続で、正直気おされて肩が凝るこ とも多い。また場を同じくしないと、理解する のに苦慮することもあるので、簡単に読み飛ば すわけにもいかない。なかなか骨が折れるわけ だ。 そんな作業の中で、そこに居合わせた人々の 人柄や性格を伝えてくれるのが編集後記やコラ ムなどである。こうしたものに目を通すと、ほっ とする。そんな苦労があったのね、今私がやっ てますよ。そんな感じである。 だが、そんな中でも巻頭言が断然おもしろい。 どういうわけか紀要の巻頭言は、所長が書く ことになっている。学術誌に「巻頭言」という のは不思議ではあるが、やはりそこは人間学研 究所という独立した研究所の性質に拠るものか。 ただ、いったい誰が? どんな理由で読むの か? はなはだ疑問がないわけではない。もし かしたら、独言かもしれない。 そんな軽い違和感を覚えながら読むのだが、 研究所の歴史を回顧するには大きな手掛かりと なる。人間学研究所の活動は(よくもわるくも) 所長の差配が大きいからだ。この所長の時には こんなイベントがあった。あの人の時の所長室 はこんな雰囲気だった、という具合だ。 しかし、功利的な目的だけで読んでいるわけ ではない。読み返してみると実におもしろいの である。モノによっては読み直し、玩味玩読し てしまう。そこに書かれていることは区々で、 しっかり当時の取り組みを紹介してくれている 「記録」もあれば、「所信表明」や「学問論」や折々 の関心事などがある。 もちろん文章そのものに魅力があるのだが、 歴代所長の顔を思い浮かべるからいっそう面白 いのである。失礼ながら、「なるほど、らしいな」 と思わされるのだ。 ちょっとせりふを抜き書きしてみよう。 「専門教育を行う必要度が低下した教員から 膨大な研究時間を剥奪してもまったく問題な い。」「自由すぎる巻頭言を書き得たこと、感謝 する。」「自慢ではありませんが、私の研究はまっ たく役に立ちそうもありません。」「研究所の諸 活動は、よい読者と熱心な聴衆にめぐまれるこ とが不可欠です。」「所長に就任しましたが、言 うまでもなく先の御二人の所長先生に比べると そのリーダーシップ能力の見劣りするものであ ることは衆目の一致するところであります。」 どうです。読みたくなりませんか。本学に長 年奉職している諸氏であれば、どれが誰の発言 か想像できるのではあるまいか。全文に目を通 せばわかるように、謙譲謙遜のなせる業ではな い。これらは本気(まじ)の発言である。まさ に「文は人なり」を感じさせる。そんな「人間」 味のある人間学所長の巻頭言も『人間学研究』 の歴史の一部である。 などと、書いているうちに、ちょっと怖くなっ た。引用ででっちあげた文章から私を見透かさ れてしまうのではないかと。

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