Ⅰ は じ め に
時間芸術である舞台芸術1)においては、多数 の人によって創り出されたクリエイションやプ ロダクション(例:オペラ公演の制作)のプロ セスや結果(公演がどのように受容されたかも 含む)をどのように記録、保存し、継承してい くかは重要な課題である。 伝統芸能に顕著にみられるように、表現によ って生み出される身体の動きや音楽は、時間の 経過とともに消えていく性質を有し、表現者に 宿る技芸(ars)も物体の形では蓄積されない 性質を有している。さらに、観客が表現や公演 をどのように受容したかについても記録の対象 とはされにくい傾向がみられる。しかし、過去 から受け継がれてきた多様な無形遺産をどのよ うに残し、将来世代へ継承していくかは文化政 策において検討されるべき課題であるといえ る。 近年では、国レベルでも文化芸術における 「作品のデジタルアーカイブ化」や「アーカイ ブの構築」等に言及されるようになり、アーカ イブの必要性が明言されている(「文化芸術推 進基本計画」(第 1 期)平成 30 年 3 月閣議決定 ほか)2)。しかし、ここでの「アーカイブ」概 念の具体的な内実や方法論は必ずしも明確にさ れておらず、関係者間で共通認識も確立されて いないのが現状である。 本研究の論点と手法 そもそも、アーカイブとは、国民の信託を受原著論文
舞台芸術におけるアーカイブをめぐる論点と展望
──海外の文化政策および舞台芸術アーカイブの多様性に着目して──
Issues and prospects of performing arts archives :
Focusing on foreign cultural policies and the diversity of performing arts archives
志 村 聖 子
要約 本研究は、文化芸術活動の中でも、特に記録として形に残りにくい性質をもつ舞台芸術のアーカ イブ制度構築の重要性と論点に着目する。特にオランダのアーカイブ政策の推移に焦点をあて、ア ーカイブの主体や責任範囲、文化的価値および外部性、受益者とアクセシビリティの議論や、各国 の特色ある事例を取り上げ、今後わが国において舞台芸術におけるアーカイブのあり方を議論して いく際に必要となる文化政策の観点からの理論的基盤を提示するものである。 キーワード:無形文化遺産、アーカイブ、公共性、文化的価値、アクセシビリティける国や自治体が「行政活動の透明性確保」等 を目的として公文書を保管・管理・公開するた めのシステムとして発展してきたものである。 この点、日本における「管理」と「公開」の 関係についてみると、情報公開制定は自治体の 方が 1980 年代以降と早く、国レベルでは情報 公開法が 1999 年に成立、2001 年に施行され、 それから 10 年後の 2011 年に公文書管理法が施 行された。情報公開法と公文書管理法は「車の 両輪」であり、公文書の管理システムが整備さ れてこそ情報公開が意味を持つ(新藤:2019, p.100, p.236)。しかし、日本においては公文書 概念が狭く捉えられる等の問題を抱え(新藤: 2019, p.109)、アーカイブが政治的権力から独 立かつ中立な管理システムとして未だ整備され ていないのが現状である。近年ようやく、国や 地方自治体の公文書館職員を想定した公的資格 制度の創設が検討さ れ 始 め た と こ ろ で あ る が3)、他の先進諸国の動きと比較しても、アー カイブに関する制度の構築が大幅に遅れている ことは否めない。このような状況のもとで、ア ーカイブ概念を文化芸術の分野にどのように応 用し具現化していけるかについては様々な考慮 が必要である。そこで本研究においては以下の 論点を扱い、検討を進める。 (1)アーカイブの主体と責任の範囲:一般的 に、行政活動等に関してアーカイブを作成し管 理するのは国や自治体の責任である。一方、わ が国において舞台芸術活動を牽引してきたのは 主として民間組織である。すなわちここでのア ーカイブの作成主体は民間組織であり、国や自 治体等の公的組織とは責任の性質が異なるはず である。そこでまず、アーカイブシステム(制 度)を整備すべき責任の主体と内容について考 察することが必要であろう。これを明らかにす ることで、民間組織にアーカイブ制作・管理・ 公開等に関してどのような責任(種類、根拠、 対象)が生じうるのかを導き出せるだろう。 (2)アーカイブの文化的価値と機能についての 検討:文化芸術活動に関わる民間組織が主体的 に行うアーカイブ制作や管理等について、国や 自治体が公的支援を行うとすれば、その根拠は 何か。このことを明らかにするために、アーカ イブが有する価値(文化的価値)と機能につい ての考察が必要である。 (3)アーカイブの受益者とアクセシビリティ: 各国においては、アーカイブに対するアクセス 権の保障をいかに確保していけるかが大きな関 心事となっている4)。このようなもとで、舞台 芸術組織は、アーカイブを「誰のため」に作 成、保管するのか。舞台芸術におけるアーカイ ブの「受益者」の範囲をどのように想定すべき かが問題となる。 上記の課題を検討するために、本研究におい てはまず、海外の専門組織が提唱する例をもと にアーカイブの概念整理を行った上で、アーカ イブ先進国の一つであるオランダに着目する。 オランダは世界最古といわれるアーキビスト協 会(現:Koninklijke Vereniging van Archivaris-sen in Nederland, KVAN)が 1891 年に設立さ れ、アーカイブシステムの構築や政策の推移に おいて活発な議論がなされてきた。それらのう ち重要な議論の多くは、オランダにとどまら ず、日本においても大いに示唆となるものと考 える。本研究においては、特にアーカイブの責 任主体や権限、アクセシビリティについての議 論に着目し、舞台芸術のアーカイブへの応用可 能性を考察する。以上を通して、舞台芸術のア ーカイブをめぐる論点を整理し、今後の文化政 策が果たすべき役割を考察することが本研究の 目的である。
Ⅱ アーカイブの定義と
舞台芸術アーカイブの多様性
2-1.アーカイブの専門機関とアーカイブ(名 詞)の定義 アーカイブに従事する、アーキビスト等の専 門家等が加入する主要な組織の例として、1936 年にアメリカで The Society of American Archi-vists(SAA)が、1948 年 に ヨ ー ロ ッ パ で The International Council on Archives(ICA)が設立 されている。その後に、1975 年にオーストラ リ ア で The Australian Society for Archivists (ASA)、1976 年 に ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド で Ar-chives and Records Association of New Zealand (ARANZ)が続いている。また、特に舞台芸術 に関わるアーキビストのネットワーク組織であ る Société Internationale des Bibliothèques et des Musées des Arts du Spectacle(SIBMAS)が 1954 年にフランスを拠点として設立されてい る。 これらの専門機関による「アーカイブ」(ar-chives)の定義をみてみよう5)【表 1】。 SAA によると、「archives は 3 通りの意味で 使われる」とされ、具体的には、①記録、②ア ーカイブに従事する組織、③アーカイブを保存 する建物、に分けられると し て い る。一 方、 ICA は、archives の定義 と し て「記 録」(上 記 では①)を特に取り上げている。 SAA、ICA の両者に共通するのは、archives とは「人間の活動の記録で あ る こ と」(特 に SAA は、企業の営利活動や政府の活動も含ま れることを明記している)、また、その中でも 特に「恒久的な価値」、「長期的な観点からの価 値」を有するもの、としている点である。すな わち、archives とはその定義において価値判断 を内包した概念であることが分かる。 一方、KVAN の定義によると、アーカイブ とは「その形式にかかわらず、性質上、その活 動または職務の遂行のために受領または作成し た機関、個人、グループによって保持されるこ とを意図したすべてのドキュメント」を含む、 とする6)。そして、アー カ イ ブ(ド キ ュ メ ン ト)の特徴は、それらを作成又は受信した人が 「保管すること」を目的としていることにある、 とする7)。 2-2.アーカイブ(動詞)の定義と特質 次に、オランダにおける「アーカイブする」 (archieven,動詞)の定義を見てみよう。オラ ンダ国立アーカイブ(Nationaal Archief)によ ると、archieven とは、「情報に対して恒久的に ア ク セ ス 可 能(蘭:duurzaam toegankelijk , 英:permanently accessible)にするために必要 な全てのこと」であるとされている8)。すなわ ち archieven とは、情報をただ保管するだけの ものでなく、現在の利用者が情報を探索し利用 できるだけでなく、さらに将来の利用者もそれ が可能な状況を整備することである。表 1 SAA と ICA による archives の定義 (SAA)
The word archives can be used in three different ways :
・the permanently valuable records of people, busi-nesses, and government. These records are kept be-cause they have continuing value to the creating agency and to other potential users. They are the docu-mentary evidence of past events. They are the facts we use to interpret and understand history.
・an organisation dedicated to preserving the docu-mentary heritage of a particular group.
・the building in which archival materials are kept, i. e., the archival repository itself.
(ICA)
Archives are the documentary by-product of human activity retained for their long-term value.
こ こ で、「保 全、持 続 可 能 に す る」(蘭: duurzaam)と は、変 化 さ せ な い こ と(英: against change)をいう。そして、アクセシビリ ティ(蘭:toegankelijk)とは、次の 5 つのクオ リティを満たす必要があるとされている。すな わち、利用者が、①探しやすいこと、②入手で きること、③読めること(システム、ソフトウ ェア)、つまり情報を開示して内容を見られる 表 2 各国における舞台芸術アーカイブの例(現地調査をもとに筆者作成) 組織の名称 (所在地) コレクション の設立 コレクションの内容、趣旨、概要等 Le Centre National du Costume de Scene (ムーラン、フランス) 2006 年 〈内容〉パリオペラ座、フランス国立図書館、コメディ・フランセーズから寄贈を受け た、 オペラ、バレエ、演劇の舞台衣裳やそれに附属する装飾品(靴、帽子、手袋、ジ ュエリー、ハンドバッグ等) のコレクションを中心とし、約 1 万点が保全管理されて いる。 〈趣旨〉「なぜ衣裳を保全する必要があるのか?…舞台作品の重要性、着用した俳優の名 声、衣裳デザイナーの名声、衣裳の生地の美しさ、カッティングやドレスメーキングの 技術の特別性…。衣裳は、デザイナーの創造性やこれらを仕立てたスタジオの才能や技 術を、後世に証明しつづけるものである」
V&A Museum, Theatre and performance ar-chives (ロンドン) 1920 年代 〈趣旨〉舞台芸術の国立コレクションで、1920 年代に個人コレクター Gabrielle Enthoven がコレクションを博物館に寄贈した際に設立。対象ジャンルは演劇、舞踊、オペラ、サ ーカス、人形劇、コメディ、ミュージカル劇場、衣装、セットデザイン、パントマイ ム、ポピュラー音楽などを含み、英国のすべての舞台芸術の現在の慣行と歴史を記録す るものである。 〈内容〉アーカイブには、 主要な劇場、演劇とダンスの会社、20 世紀の舞台デザイナ ー、俳優と監督、写真家、アーツカウンシルなどの政府機関のアーカイブ等 が含まれ、 これらのアーカイブには、 日記、通信、原稿、写真、ビジネスペーパー、デザインな どの幅広い資料 が含まれる。
Hong Kong Public Li-brary, 香港音楽特蔵徴収行動 (香港) 2001 年以降 〈概要〉香港中央図書館、アーツカウンシル、作曲家及び作詞家協会が共同して収集活 動を組織化。2001 年から開始し、音楽家や一般市民の協力を得て、2004 年時点で 2 万 点以上の音楽アイテムを収集。 〈内容〉幅広く、 楽譜、歌詞の手稿、劇場のプログラム、ポスター、視聴覚素材、新聞 記事、写真、手紙等 。これらの収蔵品を一般に公開するために、定期的に展覧会や講 演会等を開催。 Stadsarchief Amster-dam, De Collectie Geleedst (アムステルダム) 1994 年 (公開) 〈内容〉ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団(1888 年創立)の録音コレクションとし てほぼ完全であり、世界唯一のものである。 SP、EP、LP レコード が中心の約 1000 種 のコレクションで、音楽愛好家の Janus Geleedst 氏(1912-1993)が収集、寄贈。 〈趣旨〉「コンセルトヘボウ管弦楽団とその主任指揮者による芸術的な演奏を長年にわた り追跡できる」
Irish Traditional Music Archive (ダブリン) 1987 年 〈概要〉アイルランドの伝統音楽を包括的に保存するため、アーツカウンシルの提案を 受けて設立。伝統音楽を広く「口頭伝承による歌、器楽曲、ダンス」を含むものと捉え る。 〈内容〉 音源(レコード、CD、オープンリール等)、楽譜、書籍、定期刊行物、プログ ラム、カタログ、ポストカード、リーフレット、チラシ、ポスター、新聞の切り抜き、 画像(図面、プリント、写真、ネガ、スライド、マイクロフィルム、ビデオカセット、 DVD)、工芸品(楽器、装身具、バッヂ、コイン等) 〈趣旨〉「私達の生きた伝統は、欧州における民俗音楽/歌/舞踊の一部を構成するもの であり、現代世界における私達のアイデンティティを理解したり、私達の「場所」を規 定するのを手助けしてくれる、共通の文化遺産である」「伝統音楽は、あらゆる形態で、 人々に共有され活気に満ちた遺産を具現化して表現するものであり、(しばしば非常に 異なる)社会的、文化的、デモグラフィックなグループ分けをする人々の間を結び付け る。」(ITMA : 2019, p.2, p.17) 〈研究プロジェクト〉 “The Unspoken Dance :
An Oral History of Hong Kong Dance (1950-70s)” 2019 年出版 (493 頁) 〈内容〉香港におけるダンスシーンを切り拓いた 10 名の専門家に対するインタビューで 構成される オーラルヒストリー 。 〈特色〉1950 年代以降の香港におけるダンスの発展を当事者の目線で伝える歴史的資料 となっている。取材者 2 名は研究者、ジャーナリスト。 コレクションの内容のうち、特徴的なものに を、概要・趣旨のうち、コレクションの特徴を示すフレーズに下線を付した。
こと、④解釈できること、⑤信頼できること、 である9)。 以上から、オランダのアーカイブ(名詞)の 定義には「恒久的」ないし「長期的観点」とい う言葉が直接的には含まれていないことが分か る。しかし、archieven(動詞)には、アーカイ ブが「恒久的に良い状態で保全されること」、 そして利用者のアクセシビリティの実質的保障 がその定義において内包されていることが把握 できる。 2-3.舞台芸術アーカイブの多様性 一般的にはまだ、アーカイブとは原稿や文書 など紙媒体を指すと認識されていることが多い ようだ。しかし、オランダの例でみたように、 アーカイブとは「その形式にかかわらず…」と 理解されており、範囲を広く捉えることにより 法的保障を及ぼそうとする傾向がある。そもそ も、アーカイブにおいて重要なことは紙かどう かではなく「それが有する機能である」と明言 されている10)。この点、舞台芸術においてみる と、ジャンルにもよるが、楽器、舞台衣裳、道 具類等についての情報は重要な事項である。実 際に、各地の舞台芸術アーカイブにおいて事例 収集したところ、文書に関わらず、レコード、 衣裳、コスチューム等の多様な物品を含めたコ レクションがなされていることが分かった11) 【表 2】。 さらに、それぞれのアーカイブ資料(文書、 物品)が舞台芸術におけるプロセスのどの部分 に関わり、誰によって制作されたものか、とい う視点も必要である【表 3】。 すなわち、舞台芸術における創造、企画制 作、伝達、体験の共有(パフォーマンス)、社 会的文脈化といった一連の価値連鎖のプロセス (Maanen : 2009, p.242)をも考慮して情報や記 録を保全していく考慮も必要になるだろう。 このように、舞台芸術においては多種多様な 形態をとるものをアーカイブの対象として保全 していく可能性があり、そのためには活動全体 表 3 舞台芸術における価値連鎖のプロセスにおけるアーカイブの例(筆者作成) 舞台芸術におけるプロセス 生み出されるアーカイブの例 創造(creation) ・作曲家の草稿、手紙類 ・楽譜 企画制作(production) ・プロデューサーへの依頼書 ・公演契約書 伝達供給(distribution) ・フライヤー、ポスター ・新聞記事(事前告知) 公演(performance) ・楽器、衣裳、道具類 (及びそれらに関する情報) ・プログラム(冊子) ・公演パンフレット アウトプット ・録音(レコード、CD) ・録画 ・写真 受容・消費(reception) ・新聞、雑誌記事(批評等) 社会的文脈化(contextualization) ・新聞、雑誌記事(批評等) その他 ・当事者のオーラルヒストリー
を見渡す観点や、ジャンルごとの特性や多様な 主体に配慮していく視点が必要であることが舞 台芸術アーカイブの特徴であるといえる。
Ⅲ アーカイブ政策における
主体の責任と権限
3-1.アーカイブの責任主体 それではアーカイブ(システム、制度)の管 理や整備に関する責任主体は誰であり、どのよ うな責任を負うのか。オランダのアーカイブ政 策における議論の推移を辿ることとする。 オランダにおいては、1802 年に国立アーカ イ ブ(Rijksarchief)の 母 体 が 設 立 さ れ て い る12)。1848 年にはアムステルダムのアーキビ ストによって「都市の歴史を概観するために は、文書のみならず図像(地図等)の収集も必 要」との認識が示されるなど13)、一部の都市で はアーキビストが活躍していたものの、地方自 治体のアーカイブシステムは概して、国のアー カイブシステムに比べて整備が遅れていた。地 方自治法において地方自治体の自治権が確立し たが(1851 年)、アーカイブに関しては 1870 年代においても「過去の記念物に対する自治体 の破壊行為」や「放置状態」が散見され、州や 政府による介入を必要とする状態であった14)。 1874 年に「歴史と芸術のための政府諮問委員 会」が設立されたことを契機として、オランダ におけるアーカイブシステム全体の再編成に取 り組む機会が到来し、5 つの州のアーカイブが 政府の管理下におかれるなどした15)。 この頃から、地方自治体のアーカイブシステ ムを誰が管理すべきか、という「管理」の権限 をめぐる議論の対立が顕在化した。当初に根強 かったのは、地方自治体のアーカイブシステム 全体の監督を「国アーキビストに委ねるべき」 という考え方(中央集権的アプローチ)であっ たが、1891 年にハーレムでアーキビスト協会 (VAN16)、初 代 会 長 Enschede)が 設 立 さ れ る と、「地方の歴史的遺産についての地方自治体 の責任を重視」する立場(分権的アプローチ、 Thorbecke ほか)が力を持つようになり、その 後、オランダにおける地方自治体アーカイブに 自律性を与える流れへとつながっていった17)。 1906 年から VAN によるアーカイブ法案の起 草が開始され、1918 年に成立したアーカイブ 法において地方自治体アーカイブは法的にも自 律性を獲得した18)。 3-2.アーキビストの専門性 上記と平行して、アーキビストが備えるべき 職能(知識、技能)や専門性についての議論も なされてきた。アーカイブの適切な管理を担保 するためには、行政から独立した専門家として のアーキビストの「独立性」を守る必要がある が、さらに「専門性」を確保することが、特に 地方自治体のアーキビストの地位向上を図る上 でも、重要な課題であった。ただし、専門性の 内容については議論があり、「アーキビストは 『科学者』でなければならない」、「アーキビス トは本来的には『歴史家』であるべきだ」、「ア ーキビストの職務には法学知識が不可欠であ り、その意味では『法律家』としての訓練が必 要」等の考えが対立していた19)。このようにア ーキビストの職能のクオリティ確保に向けた問 題意識が醸成されるなか、質的担保のための調 査や改善案が出され、それらの成果は「アーキ ビストの地位についての調査」(1909 年)、「ア ーキビストに必要な専門性、訓練についての調 査」(1910 年)と し て 公 表 さ れ た20)。そ し て 1918 年のアーカイブ法において、アーカイブ に従事する専門員の要件が規定され、従来の議論が収束するに至ったのである。 3-3.アーカイブの公共性と公開との関係 オランダにおいては、アーカイブの公共性 は、アーカイブへのアクセス、そしてアーカイ ブの「公開」と関連して重要な論点となってき た。そもそもアーカイブの保管のためのインフ ラが設置されたのは 1814 年のことであったが、 この時代においてはまだ「公開」という発想は 具体化していなかったといえる。その後、アー カイブへのアクセスが認められるようになった が、当初は制限つきアクセス許可に過ぎなかっ た(1829 年)21)。1856 年にアーカイブの「公共 性」について言及され、「全ての人がアクセス できる」ことが明言され22)、さらに 1903 年に はアクセスの保障が「義務化」された23)。ただ し、これらの規則はいずれも国のアーカイブの みを対象としたものであり、地方自治体のアー カイブは対象外であった。 1918 年のアーカイブ法は、自治体を含むす べてのアーカイブにおいて公衆のアクセスを認 めた点で大きな前進であったが、さらに 1962 年にアーカイブ法改正により、行政による記録 への監督権限が撤廃され、「50 年後に移管さ れ、公になる」ことが定められた24)。これは公 共性を担保するために公開について強化したも のといえる。なお、1995 年法改正においては 移管期間を「20 年後」に短縮している25)。 このように、オランダにおいては 1829 年に は「制限つきアクセス許可」にすぎなかった が、段階的に公衆に公開していくことを重視 し、法的整備がなされてきた。現在、「アーカ イブとは、情報を『恒久的にア ク セ ス 可 能』 (duurzaam toeganklijk)にするために必要な全 てのことを指す」(前述 2-2)という考え方は、 オランダが示すアーカイブの一つの到達点とい える。その背景には、公共的責任、すなわち公 共的業務を委ねられていることに基づき生じる 責任への強い認識があるといえる。
Ⅳ アーカイブの機能と価値
上記のように、オランダにおいては、アーカ イブの公共性、アーキビストの独立性や専門性 に関する議論が行われてきた。アーカイブがア ーカイブとして機能するための制度条件を、こ こから学ぶことができるだろう。 一方、民間組織(舞台芸術団体等)の場合は 公共性だけでは説明を根拠づけることは難し い。とはいえ、アーカイブの作成・管理に関す る担い手の範囲が広がるとともに26)、民間組織 のアーカイブ制作に対して公的支援を行う例も ある27)。なぜこのように文化政策においてアー カイブ化を支援、促進するのだろうか。 4-1.アーカイブ政策の目的とアーカイブの文 化的価値に関する言説の整理 そこで次に、民間組織が主体的に関与するア ーカイブへの公的支援の根拠について明らかに するため、アーカイブの価値と機能について検 討する。 まず、オランダの文化政策分野における「ア ーカイブ」関連文献について調査したところ、 1970 年代から 2019 年まで 880 超の政策文書や 関連文献が発表されていることが分かった28)。 出版年代でみたところ、1980 年代までは数が 限られるものの、1990 年代から増え始め、特 に 1990 年代後半に急増していることが分かっ た。そこで、本研究では特にオランダにおける 1980 年代以降の政策に関する文献を取り上げ るとともに、1995 年のアーカイブ法改正によ る議論の推移に着目し、アーカイブの意義や価値、機能に関する言説を抽出した【表 4】。 1985 年の時点では、アーカイブ政策は「永 久保存を目的とした」アーカイブドキュメント を対象とする政策であり、「一般的な文化政策 の一部を成す」とされていた。すなわちアーカ イブドキュメントには 2 段階があり、①登録の 段階(移管または破棄(登録))は情報政策、 ②移管後の段階は文化政策に属する、とされて いた29)。あわせて、公文書の公共性を示す概念 として、「民主主義システム」、「公開」、「開か れ た 政 府」、「民 主 的 統 治」が 挙 げ ら れ て い る30)。 一 方、1990 年 代 に 入 る と、ア ー カ イ ブ の 「文化的価値」に言及され、「象徴的価値、感情 的価値(エモーショナルな価値)」、「記述的、 有益的、総合的価値」、「分析的、批評的価値」 が例示されている(1992 年)31)。すなわち移管 前のアーカイブについても広く文化的価値を認 めうるとする立場が台頭する。 1995 年のアーカイブ改正法は、全ての政府 機関において、政府が作成・収集・受け取る情 報について「適切に管理」されることを規定 し、また、その一部が「恒久的に保存」される べきことを規定した32)。その趣旨は、アーカイ ブとは「知識」及び「知識の源泉」であるとい う理念に基づくものといえる。すなわち、アー カイブが、①政府機関と職員における記憶や証 拠として、また、②民主的統制における必要 性、すなわち政党やメディア、企業、市民が、 政府における特定の決定がなぜ、どのように行 われたかを知りたい場合に不可欠であるという ことが示され、その上で、アーカイブとは、③ 過去についての知識の「源泉」であるとするも のだった33)。 ここでのアーカイブとは、「政府が作成、収 集し、受け取る情報には様々なものがあり、次 のものが広く含まれる」とされ、具体的には、 手紙、決定(決裁文書)、数字(データ)、レポ ート、ドローイング(絵画)、地図、内部文書、 e メール、ウェブサイト、写真、ビデオ、音源 が挙げられている。 前述のとおり、1980 年代当初のアーカイブ 政策は「文化政策の一部を成す」(1985 年)と されていたが、1997 年−2000 年には、アーカ 表 4 アーカイブの価値と機能に関する主な言説の整理(筆者作成) 文化的要素を重視 する立場 1992 年 アーカイブの文化的価値として、次が例示されている。「象徴的・感情 的価値」、「記述的・有益的・総合的価値」、「分析的・批評的価値」 「知 識」を 重 視 す る立場 1995 年 アーカイブ法 「アーカイブとは、知識、知識の源泉である」ことを強調。①政府機関 と職員における記憶や証拠として、②民主的統制における必要性、③過 去についての知識の源泉 2001 年−2004 年 アーカイブ政策 「個人、グループ、組織そして社会の行動の反映」「社会の記憶…過去と 現在の知識の源泉」…「集団的記憶」 行政機能を基盤と しながら、社会的 機能を認める立場 1997 年−2000 年 アーカイブ政策 アーカイブにおいて「文化的側面は、考慮すべき側面の一つ」に過ぎな い。アーカイブ政策には文化的側面と合わせ、「行政機能」や「市民の 権利、証拠保全の機能」の 3 つの機能があることを明言。この点で、ア ーカイブ政策は、他の文化政策と異なる特徴をもつ、とする。 2003 年 アーカイブの機能の第一は、「行政上の機能」であるとするが、政府ア ーカイブの「記憶機能」は、行政上だけではなく、社会的意義も有する とする。そして、「…幾つかのアーカイブは、長期的には私達の共通の 文化遺産の一部として永続的な社会的機能をもつことになる」
イブ政策においては「行政機能」や「市民の権 利や証拠保全の機能」という、3 つの機能に即 して考える必要があることが明言され、アーカ イブにおける「文化的側面は、考慮すべき側面 の一つ」に過ぎず、その点でアーカイブ政策は 「他の文化政策と異なる特徴をもつ」とされ た34)。すなわち、1995 年のアーカイブ法改正 を契機として、アーカイブ政策の位置づけに大 きな転換があったといえる。 2001 年−2004 年の政策においては、アーカ イブとは「個人、グループ、組織そして社会の 行動の反映」であるとし、それらは「社会の記 憶」であり、「理論と実践の基礎」、そして「過 去と現在の知識の源泉」であることを冒頭に述 べている35)。このような社会的、集団的記憶へ の言及はその後も続き、2005 年−2008 年の政 策においても、アーカイブの重要性が主として 「集団的記憶として果たす社会的機能」にある ことを明言している36)。 2003 年の政策分析においては、アーカイブ の第一の機能は「行政上の機能である」とあら ためて明言し、「それらはアーカイブ作成者の 記憶のサポートとして機能する」ものであると している。その上で、「政府アーカイブの記憶 機能は、行政上だけでなく、社会的意義も有す る」とし、アーカイブが「民主的統制」、「健全 な統治」の手段、「法の支配」の保障のために 不可欠であることを明記している37)。その後、 幾つかのアーカイブは、長期的には「私達の共 通の文化遺産の一部として永続的な社会的機 能」を持つことになるとし38)、「アーカイブの 社会的機能を最適に反映するには、オランダの アーカイブシステムがどのように財政的かつ手 段的に整備されるべきか」という問題意識が示 されている39)。 以上をみると、政策文書において、アーカイ ブの行政上の機能や記憶機能、および社会的意 義(民主的統制、ガバナンス、法の支配ほか) について繰り返し言及し、このような機能や意 義を強化するため、アーカイブの「システムを 整備しなければならない」旨の宣言へとつなが っていったといえる。このような基盤を十全に 構築することによって、はじめてアーカイブの 「文化遺産としての機能」が保障されうること を示しているといえるのではないか。 4-2.アーカイブに対する公的支援の根拠−ア ーカイブの外部性 それでは、アーカイブを守ることが社会全体 の利益であるとする考え方は理論的にどのよう に根拠づけられるだろうか。芸術文化や文化遺 産の価値と外部性に関する議論を参照しつつ検 討する。 ボウモルとボウエンは、芸術や文化は、それ を直接享受した人ばかりではなく、コミュニテ ィや社会全体に便益をもたらす(正の外部性) ことに着目し、このような特性をもつ芸術文化 を「準公共財」とみなしうるとして、公的支援 の 根 拠 と し て い る(Baumol&Bowen : 1966)。 また、スロスビーは、文化遺産の便益を使用価 値、不使用価値、外部性に分け、そのうち不使 用価値を「①文化的アイデンティティを明示す る価値、②将来に利用することを予想して保持 する価値、③将来世代への遺産としての価値、 ④文化財がそこにあると知ることで得られる満 足のように公共財の特性から得られる間接的価 値」としている(スロスビー:2002)。 この点、上記(4-1)でみたように、アーカ イブがその特質として、文化的価値や「知識の 源泉」、「集団的記憶」、「共通の文化遺産として 永続的な社会機能」を果たすことを確認した。 このことは、アーカイブが地域や社会、国民全
体のアイデンティティに関わり、幅広い利害関 係者にプラスの影響を与え、かつ将来世代に対 する遺贈的価値を認めるものといえ、アーカイ ブがまさに「現在、自分自身が使用することで 受ける価値以外の何らかの価値」を含むことを 具体的に説明するものである。アーカイブを守 り、継承することは社会における集団全体に関 わる利益であるといえ、公的支援の対象とする ことは正当化されることになるだろう。
Ⅴ アーカイブにおける
受益者とアクセシビリティの課題
5-1.現代の受益者と将来の受益者 上記でみたように、アーカイブには外部性が 認められ、その根拠の一つは「集団的記憶」等 の国民全体に関わる利益であるとされた。それ では、このように理解することが、アーカイブ の主体と受益者の関係や、受益者に対する責任 にどのような帰結をもたらすのだろうか。そし て、受益者の範囲をどのように規定すべきだろ うか。「受益者とアクセシビリティ」に関する 議論と視点を見ていく。 オランダのアーカイブ政策において、アーカ イブの受益者についての問題意識が明確に示さ れるようになったのは 2000 年代に入ってから で あ る。2003 年 に は、ア ー カ イ ブ に お け る 「オーディエンス」や、特定のテーマへの需要 に対する調査研究は殆ど行われていないと指摘 している40)。すなわちユーザーのニーズについ ての視点が欠けていたことを認識したといえ る。 一方で、アーカイブセクターにおいては、 「収集・取得・保存の選択において、大衆の需 要は決定的には重要な要素ではない」ことを指 摘している41)。すなわち、アーカイブの収集・ 取得・保存の作業プロセスにおいて、現代の価 値観で取捨選択すべきでない、という視点であ る。「アーカイブは、実質的な意味をその情報 に帰属させることなく、管理された情報にでき るだけニュートラルにアクセス可能にしなけれ ばならない」42)。これらの考え方からは、何が 歴史的価値があるかの判断においては、現世代 のニーズや価値観だけで取捨選択すべきでな い、という理念が明確に示されている。 5-2.アーカイブの「活用」に向けての課題 さらに、アーカイブの活用に向けての視点や 問題意識も明確に示されている。 まず、①アーカイブ機関と教育との関わりに ついての課題として、「教育や展覧会といった 公衆(パブリック)志向の重要性が増している が、従来のアーカイブ機関は、このような分野 における利用可能な専門知識に追いついていな い」ことを指摘し43)、今後のアーキビストの養 成訓練においては「望ましい教育水準、必要と される能力について(筆者補足:パブリック志 向に対処できる能力を培うために)絶えず議論 する必要がある」ことを明言している44)。 また、②アーカイブの利用者(ユーザー)と の関わりについての課題として、専門家だけで なく「ユーザーの視点」を導入することによ り、「新しい種類や形態のサービスやプレゼン テーションにつながっていること」を積極的に 評価している45)。そのうえで、「私たちが『非 ユーザー』の視点から考えているかどうか」を 「大きな課題」であるとし、アーカイブの受益 者についての新たな視点を、以下のように投げ かけている。 従来のサービスモデルでは、「私たち(アー キビスト)は、(ユーザーから)質問がなければ答えてこなかった。しかし、実際のところ質 問を受けることは少ない。それは(彼らが)自 分たちの過去や歴史に興味がないからではな く、具体的に質問をすることがとても複雑なこ とだからである。…どれだけ美しく、感動的な 調査研究ができるかは、しばらくしてみないと 分からない。(下線部筆者)46) すなわち、アーカイブの探求において、多く の一般の人々が「面白さ」や「感動」を体感で きる段階に至るまでには多くの障壁があり、サ ポートを必要とすること、そしてアーカイブを 彼らが「体験できるようにする」ことが「アク セシビリティ」の本質であることを言い当てて いる。 アーカイブの文化的価値や社会的機能につい て「集団的記憶」の認識がなされたことによ り、アーカイブの「受益者」「ユーザー」、そし て「非ユーザー」についても新たに視点が広が っていったことが分かる。
Ⅵ 結
論
以上を通して導き出される視点として、以下 のことが挙げられる。 オランダにおいては、地域の歴史的遺産に関 するアーカイブの管理権限をめぐる国と地方自 治体の対立が生じていたが、日本においても地 域固有の芸能等について、いずれが主体的にア ーカイブシステムを構築していくのか検討が必 要である。その際には、アーカイブという手段 を通してどのような価値を保全したいのか、 「アーカイブの目的」や「守られるべき価値」 についての議論に直面することになるだろう。 また、アーカイブの「制作、管理、公開」の各 段階をどのように促進し、質を担保していける かの具体的な議論も必要となる。その際には、 (舞台芸術に関する)アーカイブを扱う人材の 専門性の確保(専門性の内容)に関する検討が 必要となり、さらに、アクセシビリティの観点 から、「ユーザーへの視点」と「将来世代」へ の視点というオランダにおける考え方は示唆を 与えるものとなるだろう。 ただ、伝統芸能(無形文化財)にも顕著にみ られるように、舞台芸術は物体としてあとに残 らない技など、必ずしも常に言語化、記録され ない情報の集積によって成立している側面もあ る(一例として、文楽における人形の鬘を結い 上げる技術などが挙げられる)。 このような舞台芸術の特性にも十分に配慮し つつ、今後の日本においては、文化政策におい てどのように文化芸術アーカイブの基盤を構築 していけるかが問われているといえる。 謝辞 本研究は、JSPS 科研費 JP20K03136 の助成を受 けたものです。また、オランダでの文献調査にお いては Boekman 財団図書館の Mieke Nooijen 氏、 蘭英 翻 訳 に つ い て は Peter A. A. Klusener 博 士、 Arne Wessels 氏から多くの助言をいただきました。 ここに記して心より感謝申し上げます。 注釈 1)舞台芸術(performing arts)とは、演者と観客 が同じ時間・空間を共有する芸術をいい、具 体的にはオペラやバレエ、演劇、ミュージカ ル、音楽、パントマイムなどのジャンルが想 定される。 2)http : //www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/ho-dohappyo/__icsFiles/afieldfile/2018/03/05/a 1402067_03.pdf[最 終 確 認 日:2019 年 3 月 1 日]。「アーカイブ」「デジタルアーカイブ化」 などに言及しているが、文化芸術におけるア ーカイブの定義には言及されていない。 3)日本経済新聞「公文書管理に資格制度創設へ 国立公文書館、20 年度にも」、2019 年 9 月 23日朝刊。 https : //www.nikkei.com/article/DGXMZO 50102940S9A920C1PE8000 / [最 終 確 認 日 : 2019 年 9 月 23 日]「政府による公文書管理の 強化策」として、「早ければ 2020 年度から公 文書の収集や保管などの専門家『アーキビス ト』を認証する資格制度の導入をめざす」と している。また、2018 年 12 月には独立行政 法人国立公文書館が今後のアーキビストの専 門性の確立を目指した基礎資料として「「アー キビストの職務基準書」を発行している。 4)Boekmanstichting 図書館(アムステルダム)に おいて実施 し た 文 献 調 査 に よ る。調 査 日: 2019 年 7 月 18 日。 2000 年代以降にアーカイブとデジタリゼーシ ョンに関する研究が増えており、「アクセシビ リティが大幅に進展し、『いつでも、どこで も、誰でも』アーカイブにアクセスできる時 代が到来しているが、その一方で、「デジタリ ゼーションによるアクセシビリティの進展」 がもつ意味を議論する必要があることが示唆 されている。 5)https : // www2.archivists.org / about-archives [ 最 終 確 認 日:2020 年 9 月 1 日]、https : //www. ica.org/en/what-archive[最終確認日:2019 年 3 月 1 日]。なお、「アーカイブ」(archive)には 名詞と動詞の二通りがあり、名詞は archives と複数形で使われることが通例である。 6)Lexicon van Nederlandse archieftermen, 1983,
p.13。アーキビストが一般的に使用する定義 であるとされている。
7)J. Bos-Rops, M. Bruggeman, Archiefwijzer- han-dleiding voor het gebruik van archieven in neder-land, Coutinho, 1987, p.9。上記同様、アーキビ ストが一般的に使用する定義であるとされて いる。 8)https : //www.nationaalarchief.nl/archiveren/ ken-nisbank/wat-is-archiveren[最終確認日:2020 年 9 月 1 日]。長期間において良い状態におか れ、それに対してアクセスできること、とい うニュアンスである。 9)https : //www.nationaalarchief.nl/archiveren/ ken-nisbank/wat-is-archiveren#collapse-3205[最終確 認日:2020 年 9 月 1 日]。オラ ン ダ 国 立 ア ー カイブでは、アーカイブのクオリティとして、 この 5 つを要件として明言している。 10)前掲 7、p.9 11)現地調査日は以下の通り(時系列順)。国立舞 台衣装博物館(フランス、ムーラン)2018 年 6 月 8 日、香港中央図書館(音楽コレクショ ン部門)2018 年 12 月 11 日、アムステルダム 市立アーカイブ(音楽映像部門)2019 年 2 月 16 日、V&A ミュージアム(シアター&パフ ォーマンスアーカ イ ブ)2019 年 2 月 21 日− 22 日、アイルランド伝統音楽アーカイブ(ダ ブ リ ン)2019 年 7 月 16 日。な お、上 記 に 含 まれないものについてはオンライン又は郵送 での資料収集である。 12)前掲 7、p.15。アーカイブの管理が、アーカイ ブ形成機関から分離し、別の機関に割り当て ら れ る と い う 制 度 は、フ ラ ン ス 革 命(1789 年)の結果生まれたものとされている。オラ ンダはこのようなフランスの影響を受けなが ら、独自にアーカイブ制度を構築していくこ とになった。 13)https : //www.amsterdam.nl/stadsarchief/ [最終確 認日:2019 年 3 月 1 日]。アム ス テ ル ダ ム な ど一部の都市では、アーキビストの地位、能 力は高く、歴史的遺産の蓄積や体系的保存に 大きく寄与してきたことが推察される。 14)Respect voor oude orde : Honderd jaar
verenig-ing van archivarissen in nederland, Stichtverenig-ing Ar-chiefpublikaties, Uitgeverij Verloren, 1991, p.14。 概して、自治体のアーカイブには適切な職能 を備えたアーキビストが配置されていなかっ たことも一因であった。 15)前掲 13、p.13-16 16)1991 年 の 創 立 100 周 年 を 機 に、王 立(Kon-inklijk)の称号を授与され、KVAN として継 続することとなった。 17)前掲 13、pp.19-23、前掲 9、p.19 18)前掲 13、pp 43-44。この法のもとで、地方自 治体のアーカイブを含む全てのアーカイブへ の公衆のアクセスを認めた。 19)前掲 7、p.22。これらの論争は、アーキビスト 養成のための大学での履修科目(どの分野の 学 位 を 必 要 と す る か)や、国 家 試 験 の 科 目 (どの分野で論文を提出すべきか)といった具 体的な議論とも関係して白熱した。 20)具体的には、以下の出版物に公表されている。 Nederlandisch Archievenblad(NAB)1910/11, pp 64-67, pp 85-87。
Jaarvergadering 1909, in NAB 1909/10, p.6 21)前掲 7、p.25。1829 年にの内務大臣の決定は 「公益のために歴史的調査を行おうとしてい る、信頼できる者すべて」にアーカイブへの アクセスを許可するものであったが、一般に 広く閲覧・使用させることはアーカイブの義 務とは考えられていなかった。 22)前 掲 7、p.26。1829 年 の 内 務 大 臣 の 決 定 は、 ア ー カ イ ブ の 公 的 性 質 を 規 定 す る 王 国 令 (1856 年)に置き換えられたが、これは新し く 地 方 法(1850 年)と 地 方 自 治 体 法(1851 年)が成立した結果、地方自治体に対する王 国の統制が失効したために必要となったもの であった。そのため、1856 年の王国令は政府 のアーカイブにのみ適用された。 23)前掲 7、p.26。1903 年に政府アーカイブの公 共性がさらに拡大し、「全てのアーカイブ文書 への全ての訪問者」を認めることが義務づけ られた。 24)前掲 7、p.27、p.34。
25)Archieven van de overheid 2018, https : //www. rijksoverheid.nl/onderwerpen/archieven/archieven-van-de-overheid[最 終 確 認 日:2019 年 3 月 1 日]。一部の政府情報はすぐに公開されるほ か、その他の情報については原則として「20 年後、誰もがアーカイブ内の情報に自由にア クセスできるようになった」ことが明言され ている。例外事由は、プライバシーや国家安 全保障、直接の利害関係者のみが利用可能な 情報など「非常に重要な理由」がある場合に 限られるとする。
26)Van de schaarste ende overvloed, advies cultuur-nota 2001/2004(Archieven), Den Haag, 2000。 実際に、オランダでも「プライベートアーカ イブ」に関する言及が見られるようになる。 例えば、「文化的な理由から、民間のアーカイ ブとドキュメンタリーコレクションも文化遺 産に含まれる必要がある」ことや、これらが 「文化大臣の一般的な行政責任」に該当するこ とを明言している。 27)例えば、大阪市芸術活動振興助成金では 2015 年よりアーカイブ制作も助成対象としている。 https : //www.city.osaka.lg.jp/keizaisenryaku/page/ 0000180795.html#1[最終確認日:2020 年 9 月 1 日] 28)Boekmanstichting 図書館(アムステルダム)に おいて筆者が実施した文献検索調査による。 調査日:2019 年 7 月 18 日。
29)De Nota archiefbeleid, 1985。“Het archiefbeleid” の 項 に よ る。そ し て、文 化 大 臣(当 時 の WVC 省)の関心事はもっぱら「転送後の段 階」にあったという。
30)前掲 27。“De openbaarheid”の項目から、筆者 がキーワードを抽出したものである。 31)Klep, P. M. M., Archieven bewaren : cultureel
investeren in de toekomst : Discussienota over selectie en vernietiging van archiefbescheiden ten behoeve van de Rijkscommissie voor de Ar-chieven, Rijkscommissie voor de ArAr-chieven, 1992 32)前掲 23)。実際、政府関連の情報のうち 1 割 は「恒久的保存」に分類されているという。 33)前掲 23)。直訳すると「長期的には、過去に 関する豊富な知識の源」という表現がなされ ている。具体的には、「自分の家族、家、街、 街や地域の歴史について地域のアーカイブで 情報を探したり、作家や研究者が歴史的研究 を行う際に政府のアーカイブを利用」するこ とが例として挙げられている。
34)Een cultuur van verandering : advies cultuurnota 1997-2000, Raad voor Cultuur, Den Haag, 1996 35)前掲 24)。
36)Spiegel van de Cultuur : advies cultuurnota 2005-2008, Raad voor Cultuur, Den Haag, 2004。ここ で、「記憶」には、2 つの側面、すなわち「人 の個人的な経験に沿った、記憶の軌跡(主観 的記憶)」と「格納されている情報のレポジト リとしての記憶(客観的記憶)」があり、これ らは互いに矛盾することがあるものの、アー カイブ部門にとっての課題は「これら 2 つの 側面をうまく組み合わせること」であるとす る。
37)Sectoranalyse archieven 2003, Raad voor Cultuur, https : / / www. cultuur. nl / upload / documents / ad-viezen / Vooradvies-2005-2008-deel-Archieven. pdf [最終確認日 2019 年 3 月 1 日]。文化政策を構 成する各部門のうち、アーカイブ部門につい て共通の知識基盤や、現状の課題、めざすべ き方向性等を詳細に分析した報告書である。 その冒頭に登場する文言である。 38)前掲 35、p.2(1)。作成者や行政上の機能を超 えて、「社会的意義」や「社会的機能」につい ての視点や問題意識が繰り返し強調されてい
る。 39)前掲 35、p.2(1)。本報告書は、このような問 題意識に焦点をあて、「明確で運用可能な方針 を策定すること」を目指すとしており、かつ、 すでに専門書や各種調査、制作文書、諮問意 見、関係機関との協議、アーカイブ・カウン シルにおける会議での初見や審議に基づいて 作成されたとしている。このような緻密かつ 合理的な業務遂行のあり方についても学ぶも のが多いといえる。 40)前掲 35)、p.10(6.)。具体 的 に は、現 在 お よ び潜在的なアーカイブのオーディエンスの構 成やアプローチの方法、特定のターゲット層 における需要など、新しいオーディエンスを 獲得するための取り組みが不十分であること が指摘されている。 41)前掲 35)、pp.10-11(6.1)。現代人に関心があ るか否かを問わずに保存すべき理由として、 さらにアーカイブが「オランダとそこに住む 人々の歴史に関する重要な知識の源」である ことが明言されている。 42)前掲 35)、pp.10-11(6.1)。さらに、アーカイ ブ機関は「歴史的研究(解釈)」や「展覧会」 のような形で「レディ・メイドの歴史物語」 を提供したり「歴史的イメージをプロデュー ス」することについては原則的に抑制的であ るべきことを付言している。 43)前掲 35)、pp.13-14(8.1)。また、更なる問題 として、アーカイブ機関やアーキビストのサ ポート機能を担う教育やオートメーションの 専門家が「アーカイブについての洞察をほぼ 有しない」ことの問題についても付言してい る。なお、ここでのオートメーションとは、 スキャンや検索、メタデータ付加作業等の自 動化を指していると考えられる。 44)前掲 35)、pp.13-14(8.1)。優秀な多くの学生 をアーカイブ研究へと引き込み、より多くの 卒業生をアーカイブ部門のポジションへと引 きつけていくという課題についても関連づけ られている。
45) www. archiefbrain. nl / downloads / speech _ kvan _ studiedagen_def.pdf[最終確認日:2019 年 3 月 1 日]アクセシビリティの問題について新し い見方を行い、新しい形態のサービスとプレ ゼンテーションにつながった結果、「これまで 以上に多くの訪問者が、自分自身の手で(ア ーカイブに)対面しているという感覚を体験 したり、自分自身の手で触ったり、魅了され るような体験をするなどの変化が感じられる」 として評価している。 46)前掲 43)。“Stelling 2”(命題 2)の該当部分を 筆者が和訳したものである。 文献 新藤宗幸『官僚制と公文書−改竄、捏造、忖度の 背景』、ちくま新書、2019 年
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