関節リウマチ同様強直性脊椎炎(以下 AS)に 対する治療は,TNF 阻害剤(以下 TNFi)の登 場により劇的に変化している。海外ではすでに イ ン フ リ キ シ マ ブ(IFX) や ア ダ リ ム マ ブ (ADA)が AS の臨床症状の軽減に有効であっ たと多数報告されている。 TNFi が AS の骨化進展や関節破壊を制御で きるかどうかについてはいまだ結論は出ていな い。van der Heijde らの報告では,IFX,アダ リムマブ(ADA)いずれも 2 年間のフォローに は じ め に
原著
強直性脊椎炎の外科的治療
九州大学病院 整形外科大石 正信
*,中島 康晴,岡崎 賢,福士 純一,
久保 祐介,播广谷勝三,松本 嘉寛,林田 光正,
岡田 誠司,小山田亜希子,岩本 幸英
Surgical Treatment of Patients
with Ankylosing Spondylitis
Masanobu OHISHI, et al.
Department of Orthopaedic Surgery, Kyushu University Hospital, currently Department of Orthopaedic Surgery, KKR Chihaya Hospital
Abstract
Ankylosing spondylitis(AS)is a chronic inflammatory disorder characterized by bone formation, syndesmophytes, and ankylosis of the sacroiliac joints and spine. Recently, tumor necrosis factor inhib-itors such as infliximab and adalimumab have been shown to be efficacious for AS. However, patients with AS often suffer from arthralgia and problems related to ankylosis of the spine due to the delay in the diagnosis of AS. Those patients often benefit from surgical treatments.
We have treated total of 72 patients with AS in our hospital. Among them 32 operations were per-formed on total of 19 patients. Total hip arthroplasties were the most perper-formed surgical procedure. Surgeries for spinal fractures and spinal deformity have also been performed.
Keywords: ankylosing spondylitis, surgery (受付:2015.7.15 受理:2016.4.4)
て画像上の進展抑制を認めなかった1,2)。最近で は,所謂 non-radiographic spondyloarthritis の 段階で,TNFi による治療介入を行うことで, 疾患活動性をより早期に抑制する試みもなされ ている3)。しかしながら,すでに脊椎の強直化 や関節破壊をきたした症例では,薬物治療のみ では,機能改善を得ることは難しく,外科的治 療が必要となる。 今回我々は,当科で加療した AS 症例につき, 手術施行症例の検討を行ったので,文献的考察 を交えて報告する。 当科でこれまでに加療を行った AS 72 症例に ついて検討を行った。これらの症例に対して合 計 32 件の手術が行われた。手術の種類,施行時 年齢について検討を行った。THA 施行症例に ついては,再置換に至った症例の数とその原因 についても検討を行った。 図 1 に 31 件の手術内容の内訳を示す。再置 換を含む人工股関節全置換術(THA)が 19 件 と最も多かった。続いて脊椎の手術が 7 件,人 工膝関節全置換術(TKA)が 6 件であった。 初回 THA は 10 例 15 関節であり,経過観察 可能であった9例13関節での手術時平均年齢は 35.8 歳であった。術後平均観察期間 15.6 年(2~ 22 年)で,再置換に至ったものは 2 例 4 関節で あった。再置換の原因はカップのゆるみが 3 関 節,感染が 1 関節であった。 脊椎手術 7 件の内訳は骨折に対する固定が 5 例,変形に対する矯正骨切り術が 1 例,脊髄症 に対する手術が 1 例であった。骨折症例では緊 急に手術が行われていることが多いが以下に示 す症例のように,骨折の発見が遅れた症例(症 例供覧 1)もあった。脊柱変形により日常生活 の障害が強かった症例に対しては,矯正骨切り 術を併用したインストゥルメンテーションが行 われた。本症例では手術により日常生活レベル が著明に改善した(症例供覧 2)。 THA,TKA,脊椎手術の症例の詳細を表 1~ 3 に示す。 症例:33 歳,男性。 主訴:仰臥位で寝られない,および立位での前 方注視の際に膝の屈曲が必要であること。 現病歴:21 歳頃より身長が徐々に低下してい ることを自覚した。28 歳時に近医を受診し,脊 柱後弯を指摘され,経過観察とされていた。し かし,脊柱変形が進行し,主訴の症状が増悪す るため,当院へ紹介となった。 現症:神経学的(四肢筋力,知覚,深部腱反射) に異常は認めない。胸囲は吸気時 105 cm,呼気 時 103.4 cm であった。体幹の前後屈,側屈は不 可能であった。 術前立位 X線:T5/T12 間後弯角 44 度,T10/ L2 間後弯角 36 度,sagittal vertical axis 220 mm と高度後弯を認めた(図 2—1)。
手術:L3 pedicle subtraction osteotomyを用い た T12/S1 の後方矯正固定術を行い,主訴の改 善を認めた。
術後画像所見:sagittal vertical axis 55.8 mm と なった(図 2—2)。 症例:37 歳,男性。 主訴:腰痛。 現病歴:高校生の頃より腰痛があったが 25 歳 時に AS と診断された。NSAIDs や DMARDs で加療されていた。その後 IFX,ADA で加療 されたが,頑固な腰痛が持続していた。前医に 方 法 結 果 症例供覧 1 症例供覧 2 図 1 手術施行症例の内訳
て CT 上骨折の存在を指摘され,当科紹介と なった。腰痛により,平地歩行は 30 分以上は困 難であった。また,仰臥位から立位になるのに 30 分程度を要する状態であった。 現症:前屈は50度程度可能であったが,後屈や 側屈は不可能であった。知覚および深部腱反射 に異常は認めなかった。腰痛のため両側腸腰筋 が MMT3 レベルまで低下していたが,その他 の筋力低下は認めなかった。 画像所見:腰椎単純 X 線写真および CT 像で は,L3/4 間の椎間板・終板の破壊吸収と楔状変 形した L3 椎体を認め,L3 椎体下縁と L4 椎体 上縁ならびに椎間関節の骨硬化像を認めた。L3 と L4 の棘突起も Kissing を認め硬化像を呈して いた(図 3—1,2)。 手術:まず L1~S1 の後方固定術を行い,その 1週間後に前方進入にてL3/4間に腸骨骨移植を 行った。術後疼痛は著明に改善した(図 3—3)。 当科で治療した全 72 症例の発症年齢の平均 は 25.6 歳であった。特に 20 代での発症が 35% と多く,30 代が 35%を占めた。90%の患者が 40 歳未満で発症していた4)。一方で,確定診断 までに要した年数を調べると平均で 6.7 年で あった4)。したがって,TNFi が使用可能な現在 にあっても,実際にそのような治療が開始され るのはかなり遅い時期になるのが実状である。 考 察 表 1 THA 施行症例一覧 症例 性 発症年齢 初回 THA 施行側および施行時年齢 再置換施行時年齢 1 男 16 歳 両側 23 歳 両側 39 歳 2 男 20 歳 左側 30 歳 ― 3 男 36 歳 左側 48 歳 ― 4 男 25 歳 両側 34 歳 両側 42 歳 5 男 23 歳 両側 31 歳 ― 6 男 12 歳 右側 30 歳,左側 50 歳 ― 7 女 22 歳 左側 39 歳 ― 8 男 17 歳 右側 27 歳,左側 48 歳 ― 9 男 不詳(幼少期) 両側不詳(40 歳頃) ― 表 2 TKA 施行症例一覧 症例 性 発症年齢 初回 TKA 施行側および 施行時年齢 1 男 23 両側 58 歳 2 女 35 両側 63 歳 3 男 不詳(幼少期) 両側不詳(40 歳頃) 表 3 脊椎手術施行症例一覧 症例 性 発症年齢 手術施行時診断 手術内容および施行時年齢 1 女 35 歳 Th11 および Th12 椎体骨折 T9-L3 後側方および前方固定,68 歳 2 男 不詳 C6 Chance 骨折 C3-T2 後方固定,64 歳 3 女 59 歳 頚椎症脊髄症 C5-Th2 前方および後方固定,60 歳 4 男 21 歳 脊柱変形 L3 PSO Th12-L4 後方固定,33 歳 5 男 25 歳 L4/5 間骨折 L1-S1 後方固定,37 歳 6 男 不詳 L2 椎体骨折 T10-L4 固定,83 歳 7 女 22 歳 L2 Chance 骨折 T10-L4 固定,56 歳
つまり,若年であっても手術が必要になるケー スがある。 当科では AS 症例 11 例に対してインフリキシ マブ(IFX)の投与を行い良好な成績を得てい る5)。平均罹病期間 12.3 年の 11 症例においては IFX 投与前には,平均で CRP 1.37 mg/dL, BASDAI 4.9 であった。投与開始後 6 カ月の時 点では CRP 0.34 mg/dL,BASDAI 2.1 へ,また 最終観察時(平均 1 年 7 カ月)で CRP 0.33 mg/ dL,BASDAI 1.8 へと改善していた5)。今回調 査した手術施行例の中で TNFi の投与歴がある ものは,1 例のみであった。 2010 年の ASAS/EULAR のリコメンデー ションの中で,外科的治療について,人工股関 節全置換術,脊柱変形に対する矯正骨切り固定 術,急性椎体骨折につき,治療方針に関する記 A B 図 2—1 症例 1:術前立位全脊椎正面像(A)および側 面像(B) 著明な後弯変形を呈する。 A B 図 2—2 症例 1:術後立位全脊椎正面像(A)および側 面像(B) 後弯変形の改善を認める。 A B C 図 3—1 症例 2:術前腰椎正面像(A),側面前屈像(B)および側面後屈像(C) L3/4 間にて,骨性終板のびらん性変化と同部での不安定性を認める。後方棘突起部には不安定性を有する骨 折線を認める。
載がなされている6)。それによると,1)年齢に 関係なく関節痛や機能障害,画像上の関節破壊 が明らかな場合は THA を考慮すべきである, 2)機能障害をきたすような脊柱変形については 矯正骨切りを考慮してもよい,3)急性の椎体骨 折については,脊椎専門医に相談すること,と されている。つまり,THA,脊椎外傷の手術, 脊柱変形に対する手術については,適応を選ん で行うことが推奨されていると言える。 AS では特に股関節のような大関節が破壊さ れることが多く,実際に THA は最も多い手術 であった。しかし,手術施行時年齢が若いこと から,長期耐久性に懸念がある。Joshi らは手術 時平均年齢 47 歳の THA 症例について,平均観 察期間 10.3 年において,その生存率は 86.2%で あったと報告している7)。合併症としては脱臼 が 2%に,異所性骨化が 11.6%にみられたと報 告している。 脊柱が後弯し,強直している例では,骨盤傾 斜に注意が必要と思われる。 Tang ら8)は AS 患者に対する THA において, 臼蓋コンポーネントを設置する際に,脊柱アラ イメントの変化と骨盤の後傾に注意が必要であ ると述べている。骨盤が後傾すると単純 X 線上 閉鎖孔が上下方向に長く見えるようになる。閉 鎖孔の縦横比が 1 以上の場合に後傾と考えてよ く,3DCT を用いたシミュレーション上は 10 度 後傾斜するごとに外方開角と前開きを 5 度減少 するのが適当であると述べている。実際 Tang らの手術症例 95 関節中 3 関節に脱臼を認め,う ち 2 関節は前方脱臼であったと報告している8)。 我々の症例では脱臼および異所性骨化は認めて いない。しかし,AS 患者では変形性股関節症 の患者と比べても,若年で THA を施行される こともあり,術後長期的経過観察が必要とな る。実際我々の施設で行った THA の施行時平 均年齢は 34.8 歳であり,緩みによる再置換を 3 関節に施行していた。 人工膝関節置換術については,異所性骨化が 問題とされ,20%にみられたとの報告がある9)。 我々の施設ではこれまで 3 例 6 関節に TKA が 施行されている。少なくとも 2 年以上経過観察 されている 4 関節では異所性骨化をきたした例 はなかった。術後の可動域が不良である例が多 いとの報告が多いが,これは術前の可動域がす でに悪いことと関連しているようである。 過去の報告によると AS 患者の骨折リスクは 一般人の 2~4 倍にもなるという10,11)。これは脊 椎強直による可塑性の低下,運動機能低下,骨 粗鬆症が基礎にあるため,軽微な外傷で起こる ものである。このため,我々の症例 2 のように 図 3—2 症例 2:腰椎 CT L4/5 間での骨性終板のびらん性変化と後方棘 突起に骨折線を認める。 A B 図 3—3 症例 2:術後腰椎正面像(A)および側面像(B)
骨折の診断が遅れることもある。骨折はしばし ば不安定であり,手術が必要となることも多 い。実際当院の脊椎手術症例の多くが,外傷症 例であった。 脊柱変形の矯正手術に関しては,リコメン デーションでも述べられているように6),骨切 りの併用が必要になることが多い。その成績に ついては,本邦では AS 症例が少ないため,ま とまった報告はほとんどないが,欧米を中心に 報告がある12)。 TNFi の登場により AS の治療は著しく進歩 しているが,診断の遅れなどから,外科的治療 を要する患者が存在している。特に,股関節破 壊の強い症例,脊柱変形により ADL 障害の著 しい症例,脊椎の骨折症例では外科的治療が望 まれる場合も多いことを念頭に診療に当たるこ とが重要である。 利益相反:なし 文 献
1 )van der Heijde D, Salonen D, Weissman BN, et al: Assessment of radiographic progression in the spines of patients with ankylosing spondylitis treated with adalimumab for up to 2 years. Arthri-tis Res Ther. 2009; 11: R127.
2 )van der Heijde D, Landewé R, Baraliakos X, et al: Radiographic findings following two years of inflix-imab therapy in patients with ankylosingspondyli-tis. Arthritis Rheum. 2008; 58: 3063—3070. 3 )Burness CB, Deeks ED: Adalimumab: in
non-radiographic axial spondyloarthritis. Drugs. 2012; 72: 2385—2395.
4 )Nakashima Y, Ohishi M, Okazaki K, et al: Delayed diagnosis of ankylosing spondylitis in a Japanese population. Mod Rheumatol. 2016; 26: 421—425 5 )Kubo Y, Ohishi M, Nakashima Y, et al: Efficacy
and safety of infliximab for ankylosing spondylitis in Japanese patients: a retrospective study of 11 cases. Fukuoka Igaku Zasshi. 2015; 106: 316—322 6 )Braun J, van den Berg R, Baraliakos X, et al: 2010
update of the ASAS/EULAR recommendations for the management of ankylosing spondylitis. Ann Rheum Dis. 2011; 70: 896—904.
7 )Joshi AB, Markovic L, Hardinge K, et al: Total hip arthroplasty in ankylosing spondylitis: an analysis of 181 hips. J Arthroplasty. 2002; 17: 427—433. 8 )Tang WM, Chiu KY, Kwan MF, et al: Sagittal
pel-vic mal-rotation and positioning of the acetabular component in total hiparthroplasty: Three-dimen-sional computer model analysis. J Orthop Res. 2007; 25: 766—771.
9 )Parvizi J, Duffy GP, Trousdale RT: Total knee arthroplasty in patients with ankylosing spondyli-tis. J Bone Joint Surg Am. 2001; 83: 1312—1316. 10)Muñoz-Ortego J, Vestergaard P, Rubio JB, et al:
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11)Westerveld LA, Verlaan JJ, Oner FC: Spinal frac-tures in patients with ankylosing spinal disorders: a systematic review of the literature on treatment, neurological status and complications. Eur Spine J. 2009; 18: 145—156.
12)Ravinsky RA, Ouellet JA, Brodt ED, et al: Verte-bral Osteotomies in Ankylosing Spondylitis-Com-parison of Outcomes Following Closing Wedge Osteotomy versus Opening Wedge Osteotomy: A Systematic Review. Evid Based Spine Care J. 2013; 4: 18—29.