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international comity 2 1 No

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1 テロ関連諸条約の枠組み これまで国際社会はテロリズムの防止のために全部で 13 本の多国間条約を作成してきた。 いわゆるテロ関連諸条約と言われるものであり、わが国はこれらすべてを締結している。 ①航空機内犯罪防止条約(東京条約、1963 年)、②航空機不法奪取防止条約(ハイジャック防 止条約ないしヘーグ条約、1970 年)、③民間航空不法行為防止条約(モントリオール条約、1971 年)、④国家代表等犯罪防止条約(1973 年)、⑤人質行為防止条約(1979 年)、⑥核物質防護条 約(1980 年)、⑦空港不法行為防止議定書(1988 年)、⑧海洋航行不法行為防止条約(SUA 条 約、1988 年)、⑨大陸棚プラットフォーム不法行為防止議定書(1988 年)、⑩プラスティック 爆弾探知条約(1991 年)、⑪爆弾テロリズム防止条約(1997 年)、⑫テロ資金供与防止条約 (1999 年)、⑬核テロリズム防止条約(2005 年)である(1)。このうち、⑪と⑫については、わ が国は 2001 年 9 月の米同時多発テロ以後に急いで加入し、また⑬は不法に放射性物質または 核爆発装置を所持または使用することを犯罪化するために、同時多発テロ以後に新たに作 成されたものである。本稿が扱う海上テロリズム(maritime terrorism)に直接に関係するのは ⑧と⑨であるが、海上テロリズムが行なわれる行為態様に応じて、適用可能な他の条約も 関連をもつ。なお⑧の SUA 条約については、2005 年に改正議定書が作成され、テロリズム を目的として核・生物・化学兵器(NBC 兵器)を輸送することなどが犯罪に加えられるとと もに、後に述べるように、一定の場合に非旗国が犯罪の被疑船舶を公海上で乗船捜索する 権限を認めている。 これらテロ関連諸条約は基本的に次のような類似の仕組みをもっている。すなわちそれ ぞれの条約が定義する特定のテロ行為を犯罪化し、それら犯罪の処罰を国際的に確保する ために当該テロ行為に密接に関連する複数の国家に裁判権設定義務を課し、また現にテロ 行為の容疑者がその領域内に所在する国家に自ら処罰するか裁判権設定義務を負ういずれ

かの国に引き渡すかの義務を課す(aut dedere aut punire)ことによって、条約が対象犯罪とし

て規定するテロ行為の実行犯を必ず処罰するという仕組みである。必罰を確保することに よって、犯罪の一般抑止効果を高めようとするものである。ただし条約に入らない国が犯 罪天国(crime heaven)となることを抑止する方途はないから、抑止の効果にも限界がある。

テロ関連条約が類似の規制の仕組みをとりつつも、対象犯罪ごとに個別の条約を締結す

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た国際組織等が異なったという事情もあるが、テロ規制の一般条約の作成が困難であるこ とのより根本的な理由は、テロリズムを一般的に定義することが難しいことにある。自由 の戦士にせよ、ジハードの戦士にせよ、テロリストはある者にとっては英雄であるが、他 の者にとっては凶悪な犯罪者とみなされる。さらにそもそもテロ行為について複数の国家 に裁判権行使を認め、容疑者の所在国に実際上は引渡し義務を課することは、伝統的な国 際法からみれば、画期的なことであった。すなわち従来国際法は、犯罪の裁判権について 属地主義の優位を前提とすることにより管轄権競合の事例の発生をできるだけ回避し、ま た条約のない限り逃亡犯罪人の引渡しを国際義務ではなく国際礼譲(international comity)と することによって、私人の処罰問題から国家間紛争が発生することを防止していた。 テロ関連諸条約は、その意味で、裁判管轄の競合を積極的に認めることによって処罰を 確保するものであるから、それだけ新たな紛争要因ともなりかねない。そのため、特定の テロ行為を各条約によって厳密に定義して条約対象の犯罪として特定しておく必要があっ た。条約によって対象犯罪化が合意されえた範囲では、諸国の共通利益が成熟しているこ とが想定されるから、締約国間で裁判権が競合しても紛争の発生は抑制され、またそれら テロ行為自体を政治犯罪とみなして容疑者を保護しようとする国はいないという前提であ る。別の言い方をすれば、この前提が成り立つためには、テロ行為によって侵害される法 益が諸国の共通利益として十分に成熟している必要があった。共通利益の認識は新たなテ ロ行為の類型が出現するのを受けて、そのテロ行為の類型ごとに個別に成熟していく。テ ロ関連諸条約が特定のテロ行為ごとに条約を積み上げてきたのはこうした事情による。 もっともこうしたテロ関連諸条約の仕組みの効果には固有の限界がある。すなわち、第 一に、それは処罰を確保することを通じて犯罪抑止効果を確保するものであるから、本来 確信犯であるようなテロリストには効果がない可能性がある。第二に、それは実行された 犯罪の処罰と引渡しという事後的な措置についての国際協力を定めるのみであり、したが ってテロリズムを事前の措置を講じることによって未然に予防するということには直接に は役に立たないことである。現代のテロリズムが国際平和への脅威となっているとすれば、 これを未然に防止するための国際協力の仕組みが必要となってくる。 2 海賊と海上テロリズム (1) 旗国主義と海賊の普遍主義 海上テロリズムの未然防止にはいくつかの困難があるが、そのひとつに海洋における旗 国主義の大原則がある。海上(特に公海)においては、従来から、船舶が所属する国(旗国) がその国内法(旗国法令)によって船舶を介した活動を規制し、これを通じて海上秩序の維 持が図られてきた。旗国が自国船舶を介した活動を実効的に規律するという前提の下で、 他国の艦船はその活動に介入することを禁止された。こうして船舶は旗国の規制と保護を 受け、他国の海上における執行措置から自由であった。これが公海使用の自由の意味であ る。そこで、一般に、テロリストがテロを目的として乗り込んでいる船舶を規制できるの は、旗国主義原理の下では旗国だけである。外国の艦船はテロリズムの被疑船舶であって

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も、その船舶の旗国を確認するために近接権(right of approach)を行使し(3)、その旗国に通報 して旗国の措置を待つしかない(旗国通報)。もちろん船舶が旗国から遠隔の海域にある場 合には、旗国による有効な措置は期待できないが、その場合でも旗国が要請する(あるいは 外国艦船の介入に同意する)のでない限り、外国船舶の活動に介入できない。 この旗国主義の伝統的な例外が海賊である。公海上で海賊船に遭遇した艦船は国籍のい かんを問わずこれに介入し、海賊行為を制圧することが国際法上認められている。普遍的 管轄権と呼ばれるものである。ただ国際法が関与するのは公海上の措置までであって、海 賊を制圧した後、国内法でこれを処罰する義務が国家に課されているわけではない。国際 法の海賊法制がこのような普遍主義をとるのには 2 つの理由がある。第一は、古くから海賊

は「人類共通の敵」(hostis humani generis)とされ、特に近代においては諸国の共通利益であ

る国際交易に脅威をもたらす通商破壊者であること(4)、第二は、海上には国家権力の規制が 及びにくいため、海賊に遭遇した艦船に国籍のいかんを問わずに、海上での凶悪犯罪を制 圧することを認める必要があったことである(5)。それゆえ国際法は、海上での海賊制圧措置 について普遍主義を認めたのであり、海賊の処罰の国際協力体制を確立したわけではなか った。それは古くから存在した多様な海賊行為のうち、通商破壊への脅威としてこれを制 止することを共通利益とする国際社会の合意が成熟したものに限って認められた措置であ る。旗国主義の例外を定める以上、例外は厳格に特定して国際紛争要因を可及的に塞いで おく必要がある。 もっとも海賊についての普遍主義は、近代国際法の消極性という原理(すなわち国際紛争 の発生を回避できる限りで国家の権力行使を認めるという秩序維持の戦略)に合致するがゆえに 今日なお維持されているとも言える(6)。海賊が掲げる「髑髏の旗」「砂時計と槍」という漫 画的イメージはその意味で象徴的である。それは海賊がいずれの国家の規制にも服さない 「海の無法者」(outlaw)であり、それゆえいずれの国もこれを保護する利益をもたないから、 公海上で海賊に遭遇したいずれの国の艦船がこれに介入して実力で制圧しても、そのこと から国家間で紛争が生じない。海賊が人類共通の敵だから普遍主義を認めるというよりは、 普遍主義を認めても紛争が発生しないから海賊であるとも言える(7) いずれにしても国際法が海賊について普遍主義を認める範囲は紛争回避のために狭く限 定され(piracy jus gentium)、これからはみ出る国内海賊法令上の海賊(piracy by municipal law) についての公海上での法令執行は、基本的には旗国主義の規制に服し、またその法令の適 用も積極的・消極的属人主義などの国際法が認める管轄権設定原理に合致する限りで認め

られるにとどまる。国連海洋法条約(UNCLOS)は、普遍主義的な公海上での海賊制圧が認

められる場合を次のように規定している。すなわち、①公海上において、②私的目的で(for

private ends)、③一方の船から他方の船に対して行なわれる(2 船要件= two-boat situation)、不

法な暴力行為・抑留行為・略奪行為(8)である。海賊が人類共通の敵であれば海域のいかん

を問わず制圧できるようにしたほうがよいはずであるが(9)、領海には沿岸国の排他的な主権

が及ぶため、これとの抵触を回避するために、国際法の海賊法制はもっぱら公海における 旗国主義の例外として制度化されるようになったのである。沿岸集落を襲う海賊は国際法

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上の海賊ではなくなる。マラッカ・シンガポール海峡における海賊行為が海上武装強盗 (armed robbery against ships)と呼ばれるのも、海賊の頻発する海域がいずれかの沿岸国の領海

であるからにほかならない(10) 輸送中の船上にある金品財宝の強奪を目的として他の船舶を襲うという海賊の古典的な イメージからすれば、最近のソマリア沖の海賊におけるように、船員を人質にとって身代 金を要求したり、船舶の積み荷あるいは船体そのものを抑留してその対価を要求したりす る行為は、相当に異質のもののようにみえるが、やはり私的目的の要件をみたす。この 「私的目的」という要件が明示的に挿入されるようになったのは、特にアメリカの南北戦争 を契機に、反乱団体による正統政府の船舶の強奪行為を海賊からはずす必要が意識された からである(11)。反乱団体が交戦団体としての承認を受けて限定的な国際法主体となる場合に は、海上における政府船舶に対する強奪行為は戦時法が適用される戦闘行為として認めら れ、犯罪としての海賊行為には当たらなくなるという趣旨である。ただ正統政府からみれ ば、交戦団体承認をしない限り、それはあくまで国内法上は犯罪である。「私的目的」の規 定が実際上意味をもつのは、第三国の船舶に対する関係である。第三国が交戦団体の承認 をしている場合は当然として、そうでない場合でも、交戦団体が戦時法の規則を遵守して 臨検・捜索・拿捕などの行為を行なう限りは、それは海賊ではない。しかし交戦団体とし て承認を受ければその行為がすべて海賊行為ではなくなるというわけでもない(12)。戦時法 の規則を無視して第三国の船舶に対して暴力行為を行なえばそれは海賊となりうる(13)。ソマ リア沖の海賊は政治的・宗教的背景はないようであるが、それがたとえソマリア北東部の 自治共和国プントランドの独立を主張する反政府勢力を装ったとしても、無規制・無差別 に第三国の通航船舶を強奪している以上、海賊である。 最後に 2 船要件であるが、これは一種の保障措置とも言えるものである。海賊行為が行な われていることが行為の外見あるいは外部の徴表によって明らかでないような場合にまで 普遍主義に基づく介入措置を認める場合には、それは濫用されることによって、かえって 外国船舶の航行の自由を制約する要因になり、ひいては国家間の紛争を派生させるおそれ がある。一方の船から他方の船に対して不法な暴力行為が行なわれることを海賊行為の要 件とすることにより、執行権の濫用を防止しているのである。船舶の内部は外からは見え ない。船舶内で何が行なわれているかについて旗国以外の国の艦船が関心をもつことは船 内事項への介入につながりやすいから、国際法は基本的にこれを船長の船内規律権に委ね ているのである(14)。船舶を独立した自己完結的なユニット(self-contained unit)として扱うこ とは、海上における秩序維持の実態を反映したものであり、また公海自由の下における旗 国主義の優位の基盤を確保するものでもある。それゆえ条約による海賊法制は、あらかじ め船舶に船員または旅客として乗り込んでいた者が、国家の実効支配が及びにくい海上に 船が出たところでこれを強奪するような行為を海賊の概念には含めなかったのである。 条約上の海賊法制はこのように海賊に対する公海上の措置をきわめて限定された場合に のみ認めるにとどまるが、それには以上のような理由があるのであって、したがって海賊 概念を拡張解釈して海上テロリズムの制圧を海賊法制によって正当化することには、自ず

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から限界がある(15) (2) 海上テロリズム 海上テロリズムと言われるものの行為類型は多様であるが、大きく①ハイジャック型、 ②自爆テロ型(suicidal bomber)、③危険物輸送型、に分けられる。ハイジャック型の海上テ ロは、航空機の場合と同様、乗員または旅客が不法に船舶の運航支配を奪取し、船上の金 品・財物を奪取し、人質をとって身代金を要求したり政治犯罪者の釈放を求めたりする行 為である。自爆型の海上テロは、テロリストが爆弾を積んだ船を意図的に他の船舶や海上 施設に衝突・爆発させて危害を加えるような場合である。原油輸送タンカーや危険物積載 船舶をハイジャックしてこれを他の通航船舶、沿岸の集落や洋上石油ターミナル、原子力 施設などに突っ込ませるような行為は、①と②を兼ね備える面をもつ。危険物輸送型とい うのは、かつての手紙爆弾・小包爆弾・炭そ菌郵送などと同様に、到着港周辺に危害をも たらすように仕組まれた危険物や爆発物を密かに一般商船の積み荷として海上輸送させ、 攻撃目標に送り届ける行為である。この場合には、テロを行なう者は物理的には貨物の積 み出し港のある領域にとどまっているが、海上輸送を伴うことから海上テロの一種とも言 える。 ハイジャック型のテロが問題となった事例には、サンタ・マリア(Santa Maria)号事件や アキレ・ラウロ(Achille Lauro)号事件がある。ポルトガルの植民地政策に反対する反政府組 織の指導者であったガルバン大佐がポルトガルの旅客船サンタ・マリア号を乗っ取ったこ の事件では、アメリカは当初はこれを海賊とみていたが、サンタ・マリア号が乗客の解放 と燃料の補給のために立ち寄ったブラジルは、この乗っ取りが政治的目的によるものであ ることを理由に海賊とはみなさず庇護した(16)。ガルバン大佐は乗っ取りの目的が反政府活 動継続のためにアフリカに渡ることにあり、旅客の安全は確保されることを終始明らかに していた。アメリカも途中から米国人旅客の保護という人道目的のためのサンタ・マリア 号の位置確認の措置をとるにとどめた。アキレ・ラウロ号事件は、パレスチナ解放機構 (PLO)の活動家がイタリアの旅客船を乗っ取ってアメリカ人を人質にし、政治犯の釈放や 身代金を要求したものである。アメリカはこの事件ではこれを海賊と主張し、また人質行 為がアメリカに向けられていたことから犯人の身柄確保と処罰の権利を主張した(17)。結局、 同船はエジプトの仲介で出発港のアレキサンドリアに戻り、乗客を解放した後、犯人はチ ャーター機でリビアに向けて出発した。アメリカ空軍は地中海上空でこの飛行機をインタ ーセプトしてイタリアにある北大西洋条約機構(NATO)軍基地に強制着陸させたが、イタ リアは自国船上で生じた犯罪として自ら処罰することとした(18)。いずれの事件でもアメリ カ軍は海上での措置をとることは控えたが、アメリカ国内法上の海賊であったとしても、2 船要件を充たさないことから国際法上の海賊にはあたらないという意見が強く出されてい たからである。ただし慣習国際法上の海賊において 2 船要件が要求されていたかには疑問も ある(19)。アキレ・ラウロ号事件では、その過程でユダヤ系アメリカ人であった車椅子の老人 一人が殺害されたことから、その邪悪性(heinousness)が世界に衝撃を与えた。この事件を 契機に、いわゆる SUA 条約が結ばれることになったのである。

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自爆テロ型の海上テロリズムの例としては、コール(Cole)号事件がある。これを実行し たアルカイーダ系テロリストの目的は、コール号の破壊にあった。同時期にはケニアやタ ンザニアのアメリカ大使館に対する自爆テロも行なわれた。いずれも 9 ・ 11 同時多発テロの 前哨戦であり、その後のアメリカ軍のアフガニスタン領内のアルカイーダ基地への空爆に つながる事件である。周知のように、同時多発テロの直後に採択された国連安保理決議 1368(2001 年)は、その前文で「個別的および集団的な自衛の固有の権利」に言及しつつ、

テロリストの攻撃に対抗するための「すべての必要な措置」(all necessary steps)をとる準備

があることを表明した。 このコール号事件は、2000 年 10 月にイエメンのアデン港に燃料補給のために停泊中の米 イージス駆逐艦コール号に対し、反米イスラム過激派の小型ゴムボートが体当たりして爆 発し、多数の死傷者を生じさせるとともに、同船の航行を不能にした事件である。同様の 事件は民間船舶に対しても行なわれており、たとえば 2002 年 10 月にはフランス国籍のタン カー「ランブール号」がやはりアデン湾内で同様の体当たり攻撃を受けて被害を蒙った。 これらにおいては、確かに 2 船要件を満たす状況は存在するが、公海上でもなく、また直 接・間接に金品の強奪を狙ったものでもない。いわばアメリカ軍の軍事展開あるいは正当 な業務の妨害を狙った行為であり、国家が行なう「公的目的」による作戦行動でもない。 もしこれが公海上で行なわれていれば、形式的には海賊の要件を充たしたであろう。もっ とも海賊が人類共通の敵とされるのはその無差別性により国際航行および国際交易という 法益に脅威を与えることによって通商破壊の効果をもたらすからであり、テロにはこうし た直接的な効果はないから、これを海賊として対処できるわけでもない(20)。また海上石油 ターミナルが襲われた例としては、2004 年 4 月に発生したイラク南部のバスラ沖に所在する アマヤ石油ターミナルに対する連続自爆テロ攻撃がある。この攻撃によりターミナルは一 時閉鎖され、2800 万米ドルの損害が生じたとされる。これら自爆テロ型の海上テロリズム は、軍事的・外交的混乱や世界経済の攪乱の効果を狙ったものである。9 ・ 11 同時多発テロ に関して安保理決議が自衛権に言及したのもそうした理由による。それゆえ、たとえ自爆 テロが公海上で行なわれたとしても、国際法上の海賊に入るわけではない。 危険物輸送型のテロリズムは、テロ国家やテロ犯罪組織、あるいは私人が政治・経済秩 序の攪乱に用いる手法である。コンテナ輸送が大規模化するに伴いこの手法によるテロの 危険はますます増大している。コンテナ船の場合、危険物や爆発物が積み出し港で密かに コンテナに積み込まれてしまえば、到着港に着いて荷揚げされるまではこれを検査するこ とは不可能である。他方、すべてのコンテナを積み出し港で厳格に検査することは、経済 的あるいは時間的なコストが大きすぎて実際的ではない。特にグローバル化した産業経済 は、その輸送ラインの一部が遅延・断絶すれば生産計画に狂いが生じ、多大の経済的損失 を生じさせる(21)。次世代の海上テロは、こうした大量破壊兵器拡散型のソフト・ターゲット を狙ったものに移行していくと言われる。そこで大量破壊兵器の拡散防止(PSI: Proliferation

Security Initiative)や CSI(Container Security Initiative)を通じて(22)、テロを未然に防止する方策

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ターゲット地点に船舶が到達する以前のいずれかの段階で嫌疑船舶の通航を差し止め、実 施可能な方法で積み荷の安全を確認できるようにする必要があるということである。すで に海上人命安全条約(SOLAS 条約)改正により、船舶や港湾の安全強化が図られ、積み出し 港での検査の強化が図られている(23)。しかしすでに出港した後に危険物積載の嫌疑が発覚し た場合に、積み出し港にせよ目的港にせよ、陸地に近づけて検査をするよりも、可能であ れば海上で捜索を実施し適正に処理することが好ましいことは言うまでもない。そこで公 海における旗国主義の大原則とどう調整するかという問題が生じるのである。 3 SUA条約と改正議定書 1988年の SUA 条約の対象犯罪として規定される海上テロ行為には、不法かつ故意に行な われる以下のような行為が含まれる。①暴力・暴力による脅迫・その他の威嚇手段により 船舶を奪取し、または管理する行為、②船舶内の人に対する暴力行為により船舶の安全な 航行を損なうこと、③船舶の破壊、または船舶・積み荷の損傷により船舶の安全を損なう おそれを生じさせること、④ ③を生じさせる装置もしくは物質を設置すること、⑤海洋航 行施設の破壊・損傷により船舶の安全を損なうこと、⑥虚偽情報の通報により船舶の安全 な航行を損なうこと、⑦ ①∼⑥に関連して人を殺傷すること、などである(SUA 条約 3 条)。 これらは航空機に対するテロ行為を犯罪化するハーグ条約(ハイジャック関連)、モントリ オール条約(民間航空機不法行為関連)を、船舶について一本化して単一の条約とした内容 をもつ。つまり SUA 条約の保護しようとする法益は、船舶の運航支配および船舶の航行の 安全(船舶自体の安全を含む)である(24)。なお SUA 条約は、国際航行を行なうまたは国際航 行を予定しているすべての船舶について適用があり、その船舶がどの海域に現存するかは 関係がない。国際航行には一国の港を結ぶ航行であっても、領海の外に出る航路を通る船 舶も含まれ、また二国の港を結んで領海を沿岸航行する船舶も含まれる。要するに、可及 的に対象犯罪の適用範囲を広げるとともに、国際性の要素を取り込むことによって、領域 主権との抵触を回避しつつ、旗国主義との調整の問題に絞り込んで調整しているのである (同条約 4 条)。 もっとも SUA 条約は、一般のテロ関連諸条約と同様の処罰確保を目的とする仕組みを定 めるにとどまり、海上テロリズムを未然防止するために海上においてとりうる措置につい て何らかの新たな仕組みを作り上げたわけではない。もちろん SUA 条約がなくても、海上 テロリズムは船舶を介して行なわれるのであり、旗国の同意があれば公海上でこれを臨 検・捜索し、必要であれば制圧することができる。ただ、テロをもくろむ組織に陸上拠点

を提供する国は、テロ国家、ならず者国家(rogue state)、失敗国家(failed states)である可能

性が高いから、その同意を期待することは難しい。それゆえテロリズムが国際平和に対す る脅威であるという認識が高まるとともに、国際航行を行なう船舶に対する海上テロ行為 について、旗国主義の原理を緩めて、外国艦船による海上での臨検・制圧を可能にする仕 組みが不可欠と考えられるようになってくる。

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る仕組みを作ることによって、ある程度こうした必要に応えようとしている(25)。すなわち対 象犯罪として、不法かつ故意に、住民を脅迫して国家または国際組織に作為・不作為を強 要することを目的として、爆発性物質・放射性物質・ NBC(核・生物・化学)兵器を、殺傷 を生じさせる目的で、船舶に対してもしくは船舶上で使用し、または船舶から排出するこ と、死亡および重大な障害・損害を生じさせるような量および濃度の油・液化天然ガスお よびその他の有害危険物質を排出すること、死亡および重大な障害・損害を生じさせる方 法で船舶を使用することなどを追加したのである(改正議定書 3 条の 2)。これに加えて改正 議定書は、一定の条件の下で、それら物質・兵器を輸送すること自体を犯罪化している。 すなわち上記の目的のためであることを知りながら爆発性物質、放射性物質を輸送し、NBC 兵器であることを知りながらこれを輸送することや、核原料物質や核特殊分裂性物質の輸 送、核特殊分裂性物質の処理・使用・生産のための設備・資材の輸送や、NBC 兵器の設 計・製造・運搬に重要な役割を果たす設備・資材・ソフトウェアその他関連技術の輸送も、 一定の場合に犯罪化しているのである。 この輸送罪は、海上における旗国以外の国に一定の場合に乗船検査の権限が授権される のでなければ、新設犯罪の未然防止には意味をもたないであろう。いくら衛星利用測位シ ステム(GPS)が発達しても、ソサン(So San)号事件の場合のように(26)、何が積まれている かは外からは見えないからである。そこで改正議定書では、同議定書の締約国の間におい ては、いずれの国の領海の外にある船舶に関して、船舶または船舶内の人が対象犯罪の実 行に関与したことがあり、関与し、または関与しようとしていることを疑うに足りる合理 的な理由(reasonable suspicion)がある場合には、当該船舶が表示している旗国(the first Party) に対して国籍を確認すること、また国籍が確認された後に、乗船し、適当な措置をとるこ とを授権するように要請することができると規定された(改正議定書 8 条 bis)。もっとも国籍 被表示国が自国船であると確認した場合、つまり旗国である場合には、個別にその同意を 得なければならず、旗国は乗船・捜査などの授権を拒否することができる。条約上は乗 船・捜索の授権を拒否することは、自ら措置することと並べて選択肢の 1 つとして列挙され ており、当然に旗国が措置することを義務付けられるわけではない点に穴があると言わざ るをえないが(27)、実際上は犯罪の嫌疑に合理的根拠があれば、改正議定書の締約国たる旗 国は自ら乗船・捜索するか、要請国に授権することのいずれかを選択することになろう。 この点で旗国主義はなお維持されている(28) ただし改正議定書の締約国は、自国の旗を掲げまた船籍を表示する船舶について、国籍 確認の受領を了知したときから 4 時間以内に国籍被表示国から回答がない場合には(29)、要請 国が国籍証書の所在確認および調査をし、対象犯罪の有無を決定するために乗船・臨検・ 捜索・質問などを行なう権限を授権されることを、国際海事機関(IMO)事務局長に通告す ることができ、また 4 時間ルールの適用なしにも授権することを選択できる仕組みを創設し ている。つまり SUA 条約改正議定書の締約国である国籍被表示国があらかじめ同意をして いる場合には、いずれにせよ、個別の場合に「推定された同意」に基づいて公海上におい て外国艦船は乗船・臨検・捜索などができることになる(30)。乗船の結果、犯罪の証拠が発見

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された場合には、旗国からの処置についての指示があるまで、要請国は船舶、積み荷およ び船舶内の人を抑留することができる。国籍確認前において「国籍被表示国」という書き 方がなされたのは、海上テロ船舶が本来の旗国を表示していない場合があり、真正の国籍 の確認が困難な場合が想定されるからである。逆に言えば、国籍被表示国から国籍確認へ の回答がなければ、無国籍を推定することなく国籍確認のための乗船が可能とされ、また 乗船検査の結果、国籍証書がない場合には無国籍船あるいは「みなし無国籍船」として公 海上での臨検・捜索が可能となるのである。 この改正議定書は未発効であるが、こうした事前の包括同意の枠組みは、すでにカリブ 海における麻薬取締りにおいて先例があり(31)、また PSI との関係でアメリカは少なくとも 9

ヵ国との間で同様の内容の乗船協定(Ship Boarding Agreement)を二国間で締結している(32)

これらは改正議定書の起草と同時並行的に順次締結されたものであるが、結果的には改正 議定書の仕組みがその締約国間においてのみ適用されるものであることから、特に便宜置 籍(FOC)船舶について別途そうした仕組みを構築して取締りの穴を埋めるものでもある。 乗船協定は相手国によって 2 時間ルール(ベリーズ、リベリア、パナマなど)、4 時間ルール (キプロス、マーシャル諸島、バミューダ)などまちまちであるが、その同意の推定の仕組み は SUA 条約改正議定書とほぼ同じである。もっとも便宜置籍国が同意したとしても、それ を実質的に運航支配しているのは他の国の海運会社であるから、これら同意の推定の仕組 みが濫用されれば、実質的に損害を蒙るのはそれら他の国の海運会社および荷主というこ とになる。その場合、海運会社の本国が会社保護のために何らかの発言権をもつのかどう か、問題になりえよう。 いずれにしてもこうした仕組みの構築を通じて、SUA 条約についても海上におけるテロ の未然防止のための阻止行動(interdiction)、臨検・捜索などが可能とされるようになりつつ ある。今のところ旗国主義を定める一般国際法の枠内での仕組みにとどまるが、旗国主義 を実質的に相対化する方向で発展する余地を残している。 結  び 以上みたように、海上テロリズムはある場合には海賊の要件に形式的には当てはまるよ うにみえる場合があるが、両者の法制はまったく異なる。海賊についての普遍的管轄権は 海賊による通商破壊から海上交通・国際交易の安全を確保するために旗国主義の例外とし て認められたものである。他方、SUA 条約は船舶の運航支配を奪取したり船舶を破壊した りする行為について処罰を確保することにより、船舶の安全な運航を確保するものであり、 他のテロ関連諸条約あるいは国際組織犯罪防止条約などと連動して作用するものである。 それは海上テロリズムの事後的な処罰を確保するための国際協力の体制を確立することに より、一般予防的効果を上げようとするものである。つまり両者では法制が保護する法益 が異なる。したがって海賊の要件に形式的に当てはまるからと言って、公海上で外国船舶 の臨検措置ができるわけではない。もっとも SUA 条約改正議定書は、旗国主義の枠組みを 維持しつつも、海上テロリズムの未然防止に向けて一歩踏み出し、船上の危険物・ NBC 兵

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器など積み荷の捜索のための乗船を認めている。そこでは新たに国際の平和と安全の維持、 国際安全保障が法益として追加されており、その意味で SUA 条約体制自体の拡張ないし変 質が生じている(33) 改正議定書の下で事前の乗船許可の IMO 事務局長への通告や、アメリカが進める二国間 での乗船協定の締結による「推定された同意」による海上措置の実行が進めば、嫌疑船舶 の公海上での臨検が事実上は要請国の「合理的嫌疑」(reasonable suspicion)の判断に委ねられ てしまう可能性もある。特に便宜置籍船を多く利用するわが国海運会社にとっては、海上 航行の自由の制約という重大な問題を提起する可能性もある。濫用を避けるためには、不 当な乗船・捜索が行なわれたことによって損害が生じた場合に、その責任を追及し賠償を 確保する仕組みを併せて構築し、その厳格な運用を維持することが必要であろう。国際社 会は「テロとの戦い」という新たな時代に入った。国際社会がこうした海上航行の自由の 制約をテロの未然防止のための耐えるべきコストと考えてこれを受け入れるのであれば、 合理的嫌疑の基準が国家実行を通じて徐々に客観化されていくのかもしれない。かつて奴 隷貿易の海上規制のための臨検が二国間条約を基礎に公海自由の例外とされ、それが慣習 法化したのと同じ経緯をたどる可能性もないわけではない。 ( 1 ) なお各条約の簡単な内容については外務省 HP の日本の国際テロ防止対策の項を参照されたい (http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/terro/pdfs/kyoryoku_04_2.pdf)。 ( 2 ) テロ行為ごとに個別条約を積み上げてきた方式を “sectorial approach” と呼ぶ学者もいる。T.

Treves, “The Rome Convention for the Suppression of Unlawful Acts Against the Safety of Maritime Navigation,” in N. Ronzitti, Maritime Terrorism and International Law, Martinus Nijhoff, 1990, at p. 70; E. McWhinney, Aerial Piracy and International Terrorism: The Illegal Diversion of Aircraft and International Law, 2nd ed., Kluwer, 1987, at p. 133.

( 3 ) 国籍確認は海洋秩序の維持にとって重要であるにもかかわらず、国際連合海洋法条約(UNCLOS) はその手続の詳細を何も規定していない。追跡権と違ってその手続は慣行上確立しているという ことであろう。近接権(right of approach または right of visit)は、通常、権限ある艦船・公船が、乗 船チームを小型ボートに乗せて派遣し、船舶に近接して国籍を質問することである。近接権を行 使して国籍確認をした後、当該船舶が海賊を行なっているとか、奴隷貿易に従事しているとか、 無国籍であるとか、あるいはそれが外国籍を主張しているが実は自国の国籍船舶であるとかを疑 うに足りる十分な根拠がある場合には、乗船して検査を行なうことができる。これが臨検(visit

and search)である。この海洋法上の近接権および臨検の権利(right of search, right of visit and search) が、戦時法上の臨検の権利(right of visit)と同じものであるかについては議論がある。たとえば

O’Connellは、戦時法上の臨検は、商船の国籍を確認するためのものではなく、当初より敵船およ

びその積み荷の性質の確認(敵性か中立性か)を確認するためのものであるから、ハーグ条約上 の right of visit は、海洋法条約上の visit and search とは手続が異なるとする(D. P. O’Connell, The International Law of the Sea, Bk. 2, ed. by I. A. Shearer, Oxford University Press, 1982, p. 802)。なおこれら 制度の歴史的発展については、L. B. Sohn, “Comment: Peacetime Use of Force on the High Seas,” International Law Studies: The Law of Naval Operations, Vol. 64, Naval War College, 1990, pp. 38–59、参照。 ( 4 ) ギリシャ・ローマの古い時代においては、海賊団体は、法的権限なく人民から略奪を行なう経済 的・政治的な下位社会(inferior communities)そのものであり、海賊団体と国家との間は恒久的な 戦争の状態にあるとされていた。しかしその後 Cicero が海賊を hostis humani generis(人類共通の敵)

(11)

として捉え、これを受けて Gentilli が海賊は主権者の授権を受けないで外国人の生命・財産を奪う 者であり、主権者への裏切りであり、それゆえその行為は主権者には帰責されない犯罪行為であ るとして、戦争法を海賊に適用することを否定した。ただその場合、海賊に国内刑法が適用され る範囲が問題となるが、その後、Grotius は、主権者が占有している海域(open sea)にまでしか刑 法は拡張して適用できないとして、その範囲を画した。17 世紀のイギリスにおいても同様に、海 賊は主権者への裏切り行為(treason)であるから、外国人による海上の強奪行為は海賊ではありえ ないとされ、外国人によるイギリス船の強奪は、陸上におけると同様、単なる強盗として処理さ れるとされた。もちろんそれは国際法上の海賊という実定法的な概念が生み出される以前のこと である。Alfred Rubin, The Law of Piracy, 2nd ed., Transnational, 1998, at pp. 7–67.

( 5 ) 領海のような狭い海域については、沿岸国の規制が実効的に及んだため、古くは海賊からの保護 を理由として領海を通航する外国船舶に通行料を課した例もある。ただしこれは、海賊といえど も国家の実効的な規制が及ぶ沿岸陸土に拠点をもって活動せざるをえないということにもよる。 国際法の海賊法制が公海における海賊の規制について普遍主義をとるのは、陸上において近代的 な国家権力の整備が進んだ後も、海上にはなかなか実効的支配が及ばなかったという歴史的事情 がある。私掠(privateer)も国家の海上権力の不足を補うためになされたのであり、国王の免許状 によって敵国の船舶から財物を略奪する行為は復仇行為として認められ国家の財源を補う意味を もったが、私掠船であっても私掠免状に準拠しないでなされた略奪は海賊行為であった。 ( 6 ) 近代国際法の消極性については、山本草二『国際法(新版)』、有斐閣、1994 年、31 ページ。 ( 7 ) B. H. Dubner, The Law of International Sea Piracy, Martinus Nijhoff, 1980, esp. at p. 3; Edwin D. Dickinson,

“Is the Crime of Piracy Obsolete?” Harverd Law Review, Vol. 38(1925), p. 350.

( 8 ) 条約上、「不法な暴力行為」と規定されている(たとえば UNCLOS110 条)が、いずれの法によ って「不法」と評価されるのかも実はあいまいである。普遍主義に基づく海賊処罰法令をもって いない国については、自国の立法管轄とまったく無関係な暴力行為を「不法」と評価する基準と しての法の作用がそもそも及んでいないからである。しかし国際法は、海賊処罰法令をもたない 国の艦船が公海上で海賊に遭遇した場合、これを制圧する警察権を行使すること(policing)を認 めている。そこには条約規定の不備があることを指摘する議論もある。

( 9 ) Harvard Research Group が起草した Draft Convention は、海賊を他国の沿岸領海で取り締まる一般的 権利をあたえるものではなかったが、また海賊の規制を全面的に沿岸国に頼るものでもなく、公 海または自国領海から開始された継続追跡(hot pursuit)の場合には、他国領海での執行が認めら れるとしていた。“Harvard Research in International Law, Draft Convention on Piracy with Comments,” American Journal of International LawAJIL), Vol. 26(1932), Supp., pp. 739 et seq., 参照。ただ当時は、 継続追跡について問題となっていたのは、領海から公海に追跡を継続できるかではなく、被追跡 船舶が他国の領海に入ったところで追跡権が消滅するかということであったから、Harvard Research Groupの Draft は海の無法者である海賊については消滅しないという立場をとってのものであろう。 (10) ソマリア沖海賊の場合には、安全保障理事会決議 1816 はソマリア暫定政府の同意を条件にソマ リア領海での制圧も認め、さらに同決議 1851 ではソマリア陸土にある海賊拠点をも制圧すること を認めているが、これは安保理が一連の海賊を平和に対する脅威と認定して国連憲章第 7 章下の措 置として海賊の制圧措置を呼びかけていることによる。

(11) Harvard Research Group, Draft Convention on Piracy(1932), Art. 30; Dubner, op. cit.(注 7), at pp. 55, 90.

ただしこの除外の趣旨は、「もっぱら」政府およびその船舶を攻撃する未承認の反乱団体の行為を

海賊の定義から除外することにあり、それ以外の政治的目的による暴力行為・略奪行為をすべて 海賊から除外するものではなかったとも言われる。その意味で、UNCLOS における「私的目的」 による制限を一般化して解釈することは海賊規制の過去の歴史からの逸脱であるとも言える。な お、M. Harberstam, “Terrorism on High Seas: The Achille Lauro, Piracy and the IMO Convention of Maritime

(12)

Safety,” AJIL, Vol. 82(1988), pp. 287–288、参照。

(12) Samuel P. Menefee, “Piracy, Terrorism and the Insurgent Passenger: A Historical and Legal Perspective,” in

Ronzitti, op. cit.(注 2), at pp. 43 et seq., 特に pp. 55–56 参照。

(13) 森田章夫「海賊行為と反乱団体―ソマリア沖『海賊』の法的性質決定の手がかりとして」、海 上保安協会『海洋権益の確保に係る国際紛争事例研究』第 1 号(2009 年)、49 ページ。 (14) 他国の内水にとどまる外国船舶について、沿岸国の官憲は、船内で生じていることが沿岸社会の 安全(safety)・静穏を害するのでない限りこれに介入しない。また外国船舶による領海の通航が無 害性を維持しているか、つまり沿岸国の平和・秩序・安全を損なうものでないかの判断において、 一般に行為・態様別規制が原則とされ、船種・積み荷別の規制が基本的に認められないとされて いるのも、沿岸国による介入を外見やその他の外部的徴表によって知りうる限度で認めることに より、不当な航行への介入を排除する趣旨であろう。 (15) 海賊概念には private ends による制限があることをもって、政治的目的でなされる海上テロリズム は海賊から除外されているという議論については、Zou Keyuan, “Implementing the UNCLOS in East

Asia: Issues and Trends,” Singapore Journal of International and Comparative Law, Vol. 9(2005), p. 44; Eric Barrios, “Casting a Wider Net: Addressing the Maritime Piracy Problem in South East Asia,” Boston College

International and Comparative Law Review, Vol. 28(2005), p. 156; G. Constantinople, “Note: Toward a New Definition of Piracy: The Achille Lauro Incident,” Virginia Journal of International Law, Vol. 26(1986), p. 748、 などを参照。また海上テロリズムも伝統的な海賊概念には含まれるとする議論としては、Dubner,

“Piracy in Contemporary National and International Law,” California Western International Law Journal, Vol. 21(1990), p. 143; “Menefee, Yo heave Ho!: Updating America’s Piracy Law,” ibid., pp. 161–162; J. Noyes, “An Introduction to the International Law of Piracy,” ibid., p. 109、参照。

(16) Menefee, op. cit.(注 12), pp. 56–59.

(17) アメリカは PLO テロリストの乗っ取り行為を海賊と主張したが、これは PLO そのものがテロリ

スト集団であり「無法者」であることを根拠としていた。「海の無法者」については公海上で誰が

介入してもいずれの「国家」も異議を申し立てる正当な利益をもたず、アメリカは「国際法(Law

of Nations)」上の海賊(piracy jus gentium)として処罰できるという主張である。なお、Gerald

McGinley, “The Achille Lauro Affair—Implications for International Law,” Tennessee Law Review, Vol. 52

(1985), p. 700、参照。 (18) Ibid., pp. 59–61.

(19) 慣習国際法上は、海賊について 2 船要件が確立されていたとは言えないとする説もあり、そうで あれば、条約上限定された海賊に関する規定は締約国間においてのみ妥当することになり、理論 上は、条約締約国以外の国との関係では 2 船要件を欠いても、なお海賊として対処できることとな る(Menefee, op. cit.〔注 12〕, at pp. 60–61、参照)。なおその場合には、無国籍船の「みなし」の範囲 を併せて拡げることが考えられる。 (20) 南氷洋公海上における日本の調査捕鯨船に対する環境ラディカリスト Sea Shepherd による妨害行 為・体当り行為は、形式的には海賊行為に当たるものの、同様の意味で海賊には当たらない。そ れら妨害行為は、同団体の反捕鯨キャンペーンの一環としてなされ、また資金集めを目的として 行なわれたものであって、確かに「私的目的」によるものではあるが、それゆえ海賊として処断 できるわけでもない。日本人の身体・財産に対する危害行為であれば、刑法の消極的属人主義規 定により処罰可能ではあるが、公海上で臨検・拿捕の措置がとれるわけではないのである。 (21) Justin Mellor, “Missing the Boat: The Legal and Practical Problems of the Prevention of Maritime Terrorism,”

American University International Law Review, Vol. 18(2002–2003), pp. 341 et seq., 特に containerization に ついては、pp. 347–361.

(13)

所『国際協力の時代の国際法』、2004 年、同「PSI(拡散防止構想)と国際法」『ジュリスト』1279 号(2004)、52―62 ページ。なおPSIの下での「海上阻止原則宣言(Statement of Interdiction Principles)」 (2003 年 9 月 4 日パリで採択)は、その 1 項で、大量破壊兵器(WMD)の移送・輸送を単独でまた は共同して阻止する効果的な行動をとることを約束し、またその 4 項で、「国際法およびその枠組 の下での義務にしたがって」と断ったうえで、「自国船への乗船捜索に同意を与える」ことを真剣 に考慮することを参加国に求めている。テロ制圧のための国際法およびその枠組みが発展すれば、 海上阻止行動の範囲も広がりうることになる。 (23) 国際航行船舶安全確保法。 (24) 航空機の場合には機体の安全と運航の安全はほとんど一体化するが、船舶の場合は必ずしもそう ではない。ただ SUA 条約は航空機の場合についての条約規定に倣って、対象犯罪をいずれも「船 舶の安全を損なうおそれのある行為」(likely to endanger the safety of navigation)と規定しており、船 内における暴力行為が当然に船舶の運航を害するかどうかという問題を考慮していない。行為と 安全との関連性について可能性をも取り込む趣旨を明確にするため、“could endanger” の語に代え るべきとする修正案も出された。フランス語正文では、“de nature à compromettre” とされてその趣旨 が盛り込まれたとされる。Treves, op. cit.(注 2), at pp. 77–78.

(25) 坂元茂樹「臨検・捜索― SUA 条約改正案を素材に」、海上保安協会『各国における海上保安体 制の比較研究』、2005 年、32―47ページ(http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2004/00503/contents/0009.htm 参照)、兼原敦子「調査捕鯨船舶に対する外国船舶による公海上での妨害行為:国際法上の対応」、 『海洋法及び海洋問題に関する研究会』報告書、2009 年、49―50ページ。 (26) この事件は、2002 年 12 月、北朝鮮を出発した国籍不明の輸送船をアメリカ・スペイン合同チー ムが南イエメン沖で航行阻止したうえ、乗船・捜索した事件である。この措置は無国籍船に対す る措置として説明されたが、結局、大量破壊兵器拡散にかかわる違法な貨物は発見できなかった ため、船舶は釈放され、航行の継続は認められた。

(27) Natalie Klein, “The Right of Visit and the 2005 Protocol on the Suppression of Unlawful Acts Against the

Safety of Maritime Navigation,” Denver Journal of International Law and Policy, Vol. 35(2007), pp. 287 et seq., esp. at pp. 324–325.

(28) 改正議定書 8 条 bis は、海上における人命を危険に曝さない、船上のすべての人の人間としての 尊厳を維持しかつ人権法に従った待遇を確保し、船舶およびその積み荷の安全(safety and security) に妥当な配慮を払い、とられる措置が環境的に適正であることを確保し、船舶が不当に抑留され たり遅延することを回避する合理的な努力を行なうなどを、乗船・捜索する艦船に保障措置とし て求めている。 (29) 4 時間ルールはそもそも必要でない、あるいは時差や国民の祝日といった関係で短すぎ実際的で ないと主張する国も多かった。また民間海事関係の団体は、船主や荷主との調整には時間が足り ないと主張した。 (30) もっともこの通告はいつでも撤回できると規定されており(改正議定書 8 条 bis の 5 項末文)、し かも同規定が特別の義務を引き受ける性質(opt-in)のものであることから、条約からの離脱の場 合のように一定の期間経過後に条約上の義務が終了するというのではなく、撤回によって即時に 失効させることができるとされる。 (31) 麻薬の不正取引を取り締まるためにアメリカは多くのカリブ海沿岸諸国と ship-riders agreement を 結んできている。これは、米国沿岸警備隊の巡視船にカリブ海沿岸諸国の係官を乗船させること により、それら諸国の法執行として海上の取締りを行なうものである。同様の協定は違法漁業の 取締りについて、オーストラリア、フランスなどが締結している。またソマリアの海賊への対応 の枠組みの創設を検討している国際的な Contact Group on Somali Piracy によっても、法執行上の不都

(14)

らにアメリカはイギリスとの間の協定(Exchange of Notes on Co-operation in the Suppression of

Unlawful Importation of Narcotic Drugs into the United States[1981])で、米沿岸警備隊が麻薬の不正取 引に従事している疑いのある船舶に乗船することを認められている(William Gilmore, “Narcotics

Interdiction at Sea: UK-US Cooperation,” Marine Policy, Vol. 13[1989], at pp. 218 et seq.)。英米間には、 古くは、酒精飲料について 1924 年の条約(Convention Respecting the Liquor Traffic)がある。

(32) 奴隷貿易に関しては古くイギリスが同様の二国間条約を多数の国と結び、これに基づいて奴隷貿 易船の公海上での臨検を行なっており、それがやがて慣習法化して現在の条約体制においても、 海賊と並んで旗国主義の例外とされている(UNCLOS110 条 1(b))。奴隷船の場合には海賊と異な り、外部的徴表から奴隷取引が行なわれていることが必ずしも明らかではない。それゆえ PSI につ いても二国間条約の集積が慣習法化することがないわけではない。 (33) 兼原敦子「公海上の乗船検査・捜索に関する最近の条約実践」、『海洋法及び海洋問題に関する研 究会』報告書、2007 年、85 ページ。 おくわき・なおや 東京大学教授

参照

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