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貸出金の公正価値情報に関する考察

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(1)

要 旨

 貸出金の公正価値情報には、経営者の見積りとして将来キャッシュフローに基づく現在価 値が用いられることから、簿価および貸倒引当金(以下、既存情報)に比べ金利リスクおよ び信用リスクの両面において追加的な情報内容があると考えられる。本稿では、貸出金の公 正価値情報と将来キャッシュフローとの関係を明らかにすることを目的に、貸出金が関連す る将来キャッシュフローの代理変数として、貸倒引当金変化額、業務純益および営業キャッ シュフローを選定し、公正価値情報とこれら 3 項目の将来値の関係性について既存情報との 比較を通じて検証を行った。結果、公正価値情報と貸倒引当金変化額あるいは業務純益との 間には、既存情報を所与としない場合には一部有意な関係が見られたものの、既存情報に対 し追加的な情報内容があることは確認できなかった。

1. はじめに

 日本において、金融商品に係る時価(公正価値)(1)やリスク管理情報の開示が開始されて 約 7 年が経過した。金融商品に関する会計基準(2)では公正価値の開示の目的・意義について、

他の国際的な会計基準では同様の開示が行われていることに加え、「投資家に対して有用な 情報を提供すること」と「企業の側においてリスク管理等を一層徹底するインセンティブが 高められること」を挙げている。

 銀行業では、有価証券やデリバティブだけでなく貸出金や預金が開示の対象となり、ほぼ 主要な勘定科目について財務諸表本体あるいは注記において公正価値が開示されることと なった。近年では、マイナス金利の導入等、市場環境は新たな変化に直面しており、銀行業 における金融商品の公正価値情報への関心は高い。

 貸出金については、財務諸表本体にて簿価が計上されると共に、その信用リスクに応じて

貸出金の公正価値情報に関する考察

岡田 慎太郎

───────────

(1)  金融商品会計基準では「時価」を用いているが、本稿では統一して公正価値を使用する。

(2)  平成 20 年 3 月 10 日付改正企業会計基準第 10 号「金融商品に関する会計基準」(以下、金融商品会計 基準)および企業会計基準適用指針第 19 号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下、適 用指針)を指す。

(2)

貸倒引当金が計上される(以下、既存情報)。貸倒引当金は過去の貸倒実績率等に基づき経 営者による見積りとして算定されるが、その計上方法は会計基準や規制当局のガイドライン 等により統一的な基準が示されており、規制当局による監督も行われている。他方、公正価 値情報は財務諸表の注記事項として財務諸表利用者に開示される。貸出金には市場価格がな いことから経営者による見積りとして将来キャッシュフローに基づく現在価値が公正価値と して用いられることになる。公正価値情報には既存情報にはない金利リスクが勘案されると 共に、信用リスクにおいても将来予測が既存情報に比べ多く含まれると考えられる。また、

将来キャッシュフローの見積りにおいて、既存情報に比べ企業の裁量が入り込む余地が大き いため、経営者の私的情報が追加される可能性も高い。ただし、公正価値の算定方法は必ず しも統一されておらず、信用リスクの反映や割引金利の設定に際しては内部数値の使用も見 られる。このように、貸出金の公正価値情報は既存情報に対し信頼性について課題はあるも のの財務諸表利用者にとって追加的な情報内容があると考えることが出来る。

 会計情報の価値関連性においては、会計情報と財務諸表利用者が予想する企業の将来 キャッシュフローとの関係について仮説が必要(3)である。貸出金の公正価値と株価等の価 値関連性に関する研究は、既に先行して開示が行われている米国を中心に多く実施されてい るが、その結果にはばらつきが見られる。このような原因の一つとして、価値関連性におけ る仮説の前提となる貸出金の公正価値情報と企業の将来キャッシュフローの関係性が十分に 解明されていないことが考えられる。

 したがって、本研究では貸出金が関連する将来キャッシュフローの代理変数を選定し、貸 出金の公正価値情報との関係性について既存情報との比較を通じて検証を行い、日本の制度 および銀行業の実務を踏まえた貸出金の公正価値情報と将来キャッシュフローとの関係を明 らかにすることを目的とする。本研究の貢献は、第一に貸出金の公正価値情報と将来キャッ シュフローとの関係を明らかにすることにより今後の価値関連性の検証における仮説の前提 となる情報を提供することである。また、これらの検証を通じ、基準設定機関における公正 価値の議論において有用な情報を提供することが出来ると考えている。

 本論文の構成は以下のとおりである。第 2 章では日本の銀行業における貸出金の既存情報 および公正価値情報について整理し、貸出金の公正価値情報にどのような追加的な情報内容 があるか検討を行う。第 3 章では先行研究を整理し、本研究の位置づけを確認する。第 4 章ではこれまでの検討を踏まえた仮説の設定を行う。第 5 章では今回の検証に使用するモデ ルの検討をする。第 6 章にて検証結果とその考察を行い、第 7 章をまとめと今後の課題と する。

───────────

(3)  大日方(2013)では、「会計情報の意思決定有用性を分析するには、①投資家が予想する将来フローと はなにか、②その予想将来フローと会計情報とはどのような関係にあるのか、についての仮定が必要で ある」と記載している。

(3)

2. 貸出金の既存情報と公正価値情報

 本章では、まず財務諸表本体において認識される貸出金の簿価および貸倒引当金(既存情 報)について、日本の制度および銀行業の実務を踏まえた取扱いを整理する。次に財務諸表 の注記事項である貸出金の時価(公正価値)の算定方法を整理し、貸出金の公正価値情報に どのような追加的な情報内容があるか検討を行う。最後に貸出金の公正価値情報の開示状況 について概観する。

2.1 貸出金の既存情報

 貸出金は、貸出が実行されたときの価格が貸借対照表上簿価として計上(4)されるととも に、その信用リスクに応じて貸倒引当金が計上される。日本の銀行業における貸倒引当金(5)

については、原則として債務者の信用リスクの程度等を勘案した信用格付に基づいて自己査 定を行い、その自己査定結果に基づいて償却・引当額の算定が行われる。自己査定の方法に ついて、金融検査マニュアルでは、債務者をまず正常先・要注意先・破綻懸念先・実質破綻 先・破綻先の 5 段階に区分することを求めている。そして当該債務者区分と担保保全の状態 に応じて、Ⅰ分類(非分類)、Ⅱ分類・Ⅲ分類・Ⅳ分類の 4 段階に債権を分類し、貸倒引当 の方法について監督のためのガイドラインを示している。

 具体的な貸倒引当金の計上について、銀行等監査特別委員会報告第 4 号「銀行等金融機関 の資産の自己査定並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」では、貸倒引当 金の計上に関し監査上妥当なものとして取り扱う指針を掲載している。本指針では、正常先 債権については、貸倒実積率又は倒産確率に基づき、発生が見込まれる損失率を求め、これ に将来見込み等必要な修正を加えて貸倒引当金を計上されている場合には、監査上妥当なも のとして取り扱うとしている。要注意先債権については、正常先債権と同様の見積りを行っ たうえで、重要な債権については債権の将来キャッシュフローに基づく現在価値(6)により 貸倒引当金の計上が求められている。破綻懸念先債権については、債権額から将来回収が見 込まれる額を減算し、残額のうち必要額を貸倒引当金としたうえで、要注意債権と同様に重 要な債権については将来キャッシュフローに基づく計上が求められる。実質破綻先債権およ び破綻先債権については、債権額から将来回収が見込まれる額を減算し、残額を貸倒償却す るか又は貸倒引当金として計上することが求められる。貸倒引当金は、主に一般貸倒引当金

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(4)  金融商品会計基準では、「金融資産の契約上の権利又は金融負債の契約上の義務を生じさせようとした ときは、原則として、当該金融資産又は金融負債の発生を認識しなければならない」とある。

(5)  銀行業に対する各国の規制の制度的枠組みは異なるため、貸倒引当金の実務も各国により異なる。

(6)  ただし、割引率は債権の発生当初の約定利子率を用いる。

(4)

と個別貸倒引当金に分かれ、正常先債権および要注意先債権のうちⅠおよびⅡ分類に係る引 当金は一般貸倒引当金として、それ以外の債権に係る引当金は個別貸倒引当金として計上さ れる。

 また、貸倒償却について金融商品会計に係る実務指針(7)では、「債権の回収可能性がほと んどないと判断された場合には、貸倒損失額を債権から直接減額する」とある。実務的には、

上述の通り実質破綻先または破綻先のうち、金融検査マニュアルに示されたⅣ分類額につい て貸倒償却として計上するのが一般的とされている。

 このように、貸出金の簿価および貸倒引当金の計上方法は会計基準および規制当局のガイ ドライン等で統一されており、会計監査人による財務諸表監査だけではなく健全性の観点か ら規制当局による監督も行われている。一方、貸倒引当金の繰入額は当期の損益に影響を与 えることから、その元となる自己査定の分類や引当率の設定を通じて、経営者による裁量的 行動として利益調整に用いられるとの先行研究(8)も多くみられる。

 なお、貸出金については銀行法に基づき、不良債権情報(9)として破綻先債権、延滞債権、

3 か月以上延滞債権、貸出条件緩和債権の 4 分類にて、それぞれの金額を開示することが求 められている。

2.2 貸出金の公正価値情報

 金融商品会計基準では「時価(公正価値)」を、「公正な評価額をいい、市場において形成 されている取引価格、気配又は指標その他の相場(以下「市場価格」という。)に基づく価 額をいう。市場価格がない場合には合理的に算定された価額を公正な評価額とする」と定義 している。

 貸出金には市場価格がないため、「合理的に算定された価額」が公正価値として用いら れることとなる。合理的に算定された価格の算定について実務指針では、(1)取引所等か ら公表されている類似の金融資産の市場価格に、利子率、満期日、信用リスクおよびその 他の変動要因を調整する方法、(2)対象金融資産から発生する将来キャッシュフローを割 り引いて現在価値を算定する方法、(3)一般に広く普及している理論値モデルまたはプラ イシングモデルを使用する方法、が挙げられているが、銀行業における貸出金については、

(2)対象金融資産から将来キャッシュフローを割り引いて現在価値を算定する方法が一般

───────────

(7)  日本公認会計士協会会計制度委員会報告第 14 号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、実務指針)

を指す。

(8)  米国については、Moyer(1990)や Collins et al.(1995)等が挙げられ、日本については大日方(1998)

や植田(2007)が挙げられる。

(9)  リスク管理債権が正式な名称であるが、判りやすさの観点から本稿では不良債権情報として統一して使 用する。

(5)

(10)とされている。また、実務指針では使用する割引率について、利子率と満期日までの 期間を示すイールドカーブから導き出された割引率」としたうえで、「原則として信用リス ク等のリスクを将来キャッシュフローに反映させるか、又は割引率をリスク要因で補正する ことが望ましい」としている。

 表 1 は、2015 年 3 月末時点で上場している銀行(90 行)(11)を対象に、貸出金の公正価値 算定方法について、財務諸表注記において時価開示と共に記載されている「金融商品の時価 の算定方法」の内容を元に整理した表である。将来キャッシュフローの見積りでは、(1)約 定キャッシュフローに信用リスクを反映させる場合と(2)約定キャッシュフロー(元利金)

を用いる場合の両方のケースが見られた。割引率については、(1)将来キャッシュフローに 信用リスクを反映させる場合には、概ね市場金利が用いられていたが、(2)割引率に信用リ スクを反映する場合には、評価時点での新規貸出利率や市場金利等に信用リスク調整を反映 したもの、あるいは 2 種類の併用等その運用にはばらつきが見られた。短期間で決済される 場合や変動金利の商品については、簡便的な方法として短期間で市場金利を反映するため、

公正価値は簿価と近似するとして、簿価を公正価値とする場合も多く見られた。信用リスク の反映に際しては、将来キャッシュフローに反映させる場合、あるいは割引率を調整する場 合の両方において、内部格付やそれに基づく信用リスクスプレッド等内部数値が使用されて いると想定できる記載も多く見られた。なお、破綻先債権、実質破綻先債権および破綻懸念 先債権については、債権額から将来回収が見込まれる額を減算し、残額を貸倒償却するか又 は貸倒引当金として計上していることから、公正価値は簿価に近似するとして、簿価を公正 価値とする運用が全ての銀行で取られていた。

───────────

(10)  日本公認会計士協会業種別委員会報告第 44 号「銀行等金融機関における金融商品の時価等の開示に関 する監査上の留意事項(中間報告)」Q3-1 において、その旨が記載されている。

(11)  2015 年 3 月 31 日時点で上場している銀行は 91 行だが、セブン銀行は固定金利商品を持たず、貸出金 の公正価値情報は全て簿価と同一としているため、同行を除く 90 行について整理を行った。

表 1 貸出金の公正価値算定方法の整理

将来キャッシュフローの見積り 割引率の設定 銀行数(行)

(1)  貸出金の種類※ 1、内部格付、期間に基づく区分ごとに信用リスク、担

保・保証等による回収見込みを勘案した将来見積キャッシュフロー 市場金利等※ 2 15

(2)  貸出金の種類※ 1、内部格付、期間に基づく区分ごとに集計した元利金

新規貸出時の利率 38

市場金利等※ 2に信用リス ク調整※ 3を行った利率 28 上記 2 種類の利率を併用※ 4 9

合計 90

※ 1:変動金利の貸出金については、多くの銀行が簿価=時価としているが、一部の銀行では固定金利と同様に算定を行っていた。

※ 2:概ねリスクフリーレートであったが、スワップ金利等を用いているケースもあった。

※ 3:内部格付等に基づき見積もった信用リスクスプレッドを用いているが、その具体的な手法は銀行により異なっていた。

※ 4:事業性の貸出金と住宅ローン(個人向け商品)で異なる利率を使用するケースが多く見られた。

(6)

2.3 貸出金の既存情報と公正価値情報の比較

 これまでの整理を踏まえると、貸出金の公正価値情報には金利リスク(12)が新たに含まれ る点において既存情報に比べ追加的な情報内容がある。また、信用リスクについても、貸倒 引当金のうち一般貸倒引当金については貸倒実績率等の過去情報を主に見積りが行われてい るのに対し、将来キャッシュフローの見積りでは将来予測が既存情報に比べ多く含まれると 考えられる点も追加的な情報内容と整理できる。更に、公正価値情報は注記事項であること から当期純利益への直接的な影響はなく、既存情報に比べ規制当局からの監督は限定的であ ることから、経営者の裁量的行動に基づく私的情報が追加される可能性が既存情報に比べ高 いと考えられる点も追加的な情報内容と整理できる。

 貸出業務は銀行業における主要業務の一つであり、貸出金の金利リスクは銀行の利益や将 来キャッシュフローに影響を与える。また、信用リスクは貸倒引当金の計上を通して銀行の 利益に影響を与えるとともに、貸倒償却を行った場合には将来キャッシュフローに影響を与 える。したがって、貸出金の公正価値情報は、将来キャッシュフローの見積り(13)において、

追加的な情報内容があると考えることが出来る。

 一方、既存情報が統一的でかつ規制当局等からの監督もあることに比べると公正価値の算 定方法についてはばらつきが見られた。また、信用リスクの反映や割引率の設定に際しては 内部数値の使用等が見られることから、信頼性の観点では劣る部分があると整理できる(14)

2.4 貸出金の公正価値情報の開示状況

 最後に貸出金の公正価値情報の開示状況について既存情報との比較を通じて概観する。対 象は 2015 年 3 月期時点で上場している日本の銀行業のうち、開示を開始した 2009 年度か ら 2014 年度まで合併や統合等が行われず、継続してデータが取得できる銀行(年 79 行、

合計 474 行)について、開示を開始した以降の年度について分析した。データソースは日 経 NEEDS  Financial  QUEST のデータを用い、時価(公正価値)は有価証券報告書より個 別に取得した。

 分析に際しては貸出金額の大きさによる影響(15)を排除するため、すべて貸出金簿価でデ

───────────

(12)  貸出実行時と決算日時点での金利の差分を示す。

(13)  大日方(2013)では、「利益の情報は将来の利益の流列を予想するのに役立ち、その予想から将来キャッ シュフローが予測される。」と記載している。

(14)  信頼性の観点以外にも、例えば Nissim and Penman(2008)では、公正価値が機能する状況の一つであ る「無裁定見積もりの原則」の中で、「事業活動を通じた裁定を含むモデルは公正価値を見積もるため のモデルにならない。たとえば、」割引キャッシュフローを用いた公正価値の見積りはこの規準に抵触 する」と述べている。

(15)  今回サンプルとした 79 行の 2014 年度の貸出金残高の分布では、最大値 109,363、最小値 353、平均値 6,404、中央値 1,800(単位は全て 10 億円)であり、幅の広い分布となっている。

(7)

フレートした比率を用いた。したがって、簿価情報(LN̲BV)は貸出金簿価に対する貸出 金簿価から貸倒引当金を差し引いた額の割合となることから、貸倒引当金の残高が小さいほ ど LN̲BV は高くなり、LN̲BV が高いほど評価時点で保有する貸出金に対する経営者によ る信用リスクの見積りが低いことを示す。公正価値情報(LN̲FV)は貸出金簿価に対する 公正価値の割合となることから、LN̲FV が高いほど経営者による信用リスクの見積りが低 いことを示す。更に公正価値は金利リスクも含むがこの点については検討が必要である。

LN̲FV の金利リスクは貸出実行時と決算日時点での金利の差分を示す。つまり、決算日時 点の金利が貸出実行時より低い場合には、評価時点で当該貸出金を新たに実行した場合より 金利収入が見込めるとして、この部分の現在価値が簿価と公正価値との差額(含み益(16) となる。不良債権情報(LN̲NPA)は、貸出金簿価に対する不良債権額の割合となること から、LN̲NPA が高いほど貸出金に関する信用リスクが高いことを示す。

 表 2 は LN̲BV、LN̲FV および LN̲NPA について、それぞれの平均値の年度推移を示し た表である。LN̲BV と LN̲FV は共に高く推移しており、経営者は貸出先企業の信用状況 が安定し信用リスクを低く見積もっていると考えることができる。また、すべての年度を通 じて、LN̲FV が LN̲BV を上回っており、2012 年度以降の LN̲FV の平均値は 100%を超 えている。決算日時点での金利環境下においては信用リスクを加味しても含み益が生じてい る状況を示している。

 表 3 は、上記と同じ LN̲BV、LN̲FV および LN̲NPA について、銀行カテゴリー(17)

───────────

(16)  逆に評価時点での金利が貸出実行時より高い場合には、金利リスクに関しては含み損となる。

(17)  日本における銀行業の事業形態は、銀行持株会社、都市銀行、信託銀行、地方銀行、第 2 地方銀行、そ の他の銀行の 6 つに分類されるが、2015 年 3 月 31 日時点では都市銀行または信託銀行はすべて銀行 持ち株会社の傘下となっている。

表 2 既存情報および公正価値情報の年度推移

年度 サンプル数

(行)

LN̲BV 平均値

(1)

LN̲FV 平均値

(2) 差(2)−(1) LN̲NPA 平均値

(3)

LN̲FV > 1 と なる銀行数(行)

2009  79 98.36%  99.60% 1.24% 3.56%  21

2010  79 98.41%  99.71% 1.30% 3.55%  30

2011  79 98.60%  99.88% 1.28% 3.54%  37

2012  79 98.72% 100.03% 1.31% 3.43%  41

2013  79 98.89% 100.06% 1.17% 3.03%  36

2014  79 99.04% 100.08% 1.05% 2.60%  44

総計 474 98.67%  99.89% 1.22% 3.29% 209

LN̲BV:(貸出金簿価−貸倒引当金)/貸出金簿価 LN̲FV:貸出金公正価値/貸出金簿価

LN̲NPA:不良債権開示額/貸出金簿価

(8)

に比較した表である。銀行業は、その事業形態や事業基盤により顧客層や貸出金残高は異な るが、各カテゴリーによる傾向に特段の違いはない(18)ことが判る。

3. 先行研究

 米国では SFAS107 による公正価値情報の開示に伴い、Nelson(1996)、Eccher  et  al.

(1996)、Barth  et  al.(1996)等、米国の銀行業について貸出金の公正価値情報と株価の価 値関連性に関する多くの研究が実施されてきた。Nelson(1996)や Eccher  et  al.(1996)

では貸出金の公正価値情報の価値関連性は確認されていないが、Barth  et  al.(1996)では 価値関連性が確認(19)されている。また Barth  et  al.(1996)では、資本規制に抵触する銀 行の貸出金の公正価値については、投資家は割り引いて評価を行っていることも確認してい る。

 Beaver and Venkatachalam(2003)は、米国の銀行業について、貸出金の公正価値を非裁 量部分、裁量部分およびノイズの 3 つに分解し、非裁量部分は株価と正の価値関連性がある こと、裁量部分について純利益が中央値を超える銀行についてはシグナリング効果を持つた め株価と正の価値関連性が、自己資本比率が中央値を下回る銀行について投資家は機会主義 的行動として捉え、負の価値関連性があることを確認した。

 Chee(2011)は、米国の銀行業について、貸出金の公正価値が既存の情報に対し追加的 な情報内容があるか、将来キャッシュフローの代理変数として貸出金償却額を取り上げ、公 正価値情報の関連性を検証した。結果、貸出金の公正価値に追加的な情報内容はないことを 示している。

───────────

(18)  なお、その他銀行の LN̲BV は他のカテゴリーに比べ低い傾向が見られた。しかし、LN̲FV について は他のカテゴリーと比べ特段の違いはないことから、当該カテゴリーについてはサンプル数が少ないた め、個別の貸倒引当金の影響が出たものと考える。

(19)  ただし、同時に検証を行った投資有価証券の公正価値については価値関連性が認められない年度もあっ た。

表 3 既存情報および公正価値情報のカテゴリー別比較

銀行 カテゴリー

サンプル数

(行)

LN̲BV 平均値

(1)

LN̲FV 平均値

(2) 差(2)−(1) LN̲NPA 平均値

(3)

LN̲FV > 1 と なる銀行数(行)

銀行持株会社  60 98.76% 100.20% 1.43% 2.33%  41

地方銀行 276 98.78% 100.02% 1.23% 3.05% 117

第 2 地方銀行 126 98.56%  99.50% 0.94% 4.06%  47

その他銀行  12 96.69%  99.64% 2.94% 5.39%  4

総計 474 98.67%  99.89% 1.22% 3.29% 209

(9)

 日本では、有価証券の公正価値情報と株価の価値関連性に関する研究は多く見られる(20)

ものの、貸出金の公正価値を対象とした研究はまだ少ない。岡田(2016)は、銀行業にお ける「レベル 3 公正価値」の価値関連性に関する研究の中で、貸出金の公正価値情報と株価 の価値関連性について検証を実施した。結果、株式数でデフレートした場合は価値関連性が 確認された(21)ものの、総資産でデフレートした場合には価値関連性は確認されていない。

 日本における金融商品の時価(公正価値)開示情報を利用した研究としては、増村(2015)

が挙げられる。増村(2015)は金融負債の時価情報を取り上げ、時価情報の開示開始後 5 年間について株価との価値関連性の検証を行っている。結果、時価評価差額がある企業全体、

および時価が簿価を下回る企業では価値関連性が確認された。ただし、検証サンプルの中に は金融業は含まれていない。

 音川(1998)は金融機関における不良債権情報について、日本の銀行業を対象に不良債 権開示額、貸倒引当金、固定金利貸出金額、有価証券含み損益、業務純益と株価の価値関連 性について検証を実施した。結果、不良債権情報は有意にマイナスとなり、市場において信 用リスク情報として評価されていることを示している。梅澤(2015)は、日本の銀行業に おける貸倒引当金繰入額の期待モデルについて、一般貸倒引当金と個別貸倒引当金に分けて 検討を行っている。

 このように、貸出金の公正価値情報の価値関連性の研究は米国を中心に多く行われている が、その結果や解釈にはばらつきが見られる。また、価値関連性における仮説の前提となる 貸出金の公正価値情報と将来キャッシュフローの関係性について、Chee(2012)では貸倒 償却金額のみを取り上げており十分な検討がなされているとは言いがたい。また、銀行業に 対する各国の規制の考え方や制度的枠組みは異なり、貸倒引当金の実務も日本と米国では異 なる(22)。日本では、金融商品の時価開示が開始され約 7 年が経過したものの、これら開示 情報を用いた研究はまだ多くは実施されていない。このような中、本研究は貸出金の公正価 値情報の価値関連性に関し、価値関連性における仮説の前提となる公正価値情報と将来 キャッシュフローの関係性について、日本の制度および銀行業の実務を踏まえ、日本におけ る公正価値の開示情報を用いた検証と位置づけることが出来る。

4. 仮説の設定

 本章では、貸出金の公正価値情報と将来キャッシュフローの関係性に関して、将来キャッ シュフローの代理変数となる会計項目を選定し、仮説の設定を行う。

───────────

(20)  河(2000)等が挙げられる。

(21)  ただし、符号は予想と異なりマイナスであった。

(22)  詳しくは梅澤(2016)を参照。

(10)

 第 2 章では、貸出金の公正価値情報は既存情報に比べ金利リスクと信用リスクの面におい て追加的な情報内容があると考えた。貸出金の金利リスクは銀行の利益や将来キャッシュフ ローに影響を与え、信用リスクは貸倒引当金の計上を通して銀行の利益に影響を与えるとと もに、貸倒償却を行った場合には将来キャッシュフローに影響を与える。また、公正価値に は既存情報に比べ将来予測が含まれ、経営者の裁量的行動に基づく私的情報が追加される可 能性が高い。これらの点を踏まえ、今回は将来キャッシュフローの代理変数として将来の貸 倒引当金変化額、業務純益(23)および営業キャッシュフローを選定した。信用リスクについ ては、貸倒償却額が将来キャッシュフローに直接的な影響を与えるが、これまで整理してき た通り貸倒償却までには時間的なラグが考えられることから、将来キャッシュフローの見積 りにおいては、将来の貸倒引当金変化額(24)との関係性を見る方が適切であると考えた。ま た、利益項目については、公正価値算定の実務において、個別引当金の対象である債権につ いては貸倒引当金考慮後の簿価を公正価値とする運用が取られていることから、既存情報と 公正価値情報の算定方法に違いのある一般貸倒引当金の影響のみが反映される業務純益を取 り上げることとした。キャッシュフロー項目については、貸出業務は銀行業の本来業務であ るため、営業キャッシュフローを取り上げた。

 以下、今回選定した貸倒引当金変化額、業務純益および営業キャッシュフローの 3 項目に ついてそれぞれ仮説を設定する。

 まず、公正価値情報と貸倒引当金変化額の関係について考える。貸出金の公正価値は将来 キャッシュフローの見積りにより算定されるため、経営者による将来の信用リスクが低く

(高く)見積もられている場合公正価値は高く(低く)なり、将来の貸倒引当金変化額は小 さく(大きく)なることから、以下の仮説を設定した。

 仮説 1‑1: 貸出金の公正価値情報は、将来の貸倒引当金変化額と負の関連性がある。

 仮説 1‑2: 貸出金の公正価値情報は、将来の貸倒引当金変化額との関連性について、既存 情報に対し追加的な情報内容がある。

 次に業務純益との関係を考える。上記と同様に、経営者による将来の信用リスクが低く(高 く)見積もられている場合公正価値は高く(低く)なり、貸倒引当金変化額は小さく(大き

───────────

(23)  銀行業等の金融機関における基本的な業務の成果を示す指標。算定方法は資金運用収支、役務取引等収 支、その他業務収支の 3 つを合計した業務粗利益から一般貸倒引当金繰入額および経費(除く臨時的経 費)を差し引いて算出される。

(24)  今回の検証では、貸倒引当金の残高に影響を与える繰入れ、戻し入れおよび償却の全てを取り入れる必 要があるため、貸倒引当金変化額(当年度貸倒引当金−前年度貸倒引当金)を用いた。

(11)

く)なるため、将来の業務純益は大きく(小さく)なる。また、金利リスクについては、決 算日時点での金利が貸出実行時より低い場合、金利差部分が将来の収益を産むため、公正価 値が高いほど将来の業務純益は大きくなることから、以下の仮説を設定した。

 仮説 2‑1:  貸出金の公正価値情報は、将来の業務純益と正の関連性がある。

 仮説 2‑2:  貸出金の公正価値情報は、将来の業務純益との関連性について、既存情報に対 し追加的な情報内容がある。

 最後に営業キャッシュフローとの関係を考える。上記と同様に、経営者による将来の信用 リスクが低く(高く)見積もられている場合公正価値は高く(低く)なり、貸倒損失額は小 さく(大きく)なることから、営業キャッシュフローは大きく(小さく)なる。また、金利 リスクについては、公正価値が高いほど将来の収益は増加するため、将来の営業キャッシュ フローは大きくなることから、以下の仮説を設定した。

 仮説 3‑1:  貸出金の公正価値情報は、将来の営業キャッシュフローと正の関連性がある。

 仮説 3‑2:  貸出金の公正価値情報は、将来の営業キャッシュフローとの関連性について、

既存情報に対し追加的な情報内容がある。

5. リサーチデザインとサンプルの選択

5.1 検証モデルの検討

 今回の検証に際しては、Chee(2011)および大日方(2013)を参考に検証モデルを検討 した。

 Chee(2011)では、将来キャッシュフローの代理変数として貸倒償却額を取り上げ、将 来の貸倒償却額(t + 1 年度、t + 3 年度および t + 5 年度)を被説明変数とし、説明変数を当 年度(t 年度)の貸出金に関する既存情報、公正価値情報および不良債権情報としたモデル にて検証(25)を行っている。大日方(2013)では、会計発生高にキャッシュフローを超える 情報価値があることを確かめる検証方法として、被説明変数を Yt + k、当期の会計発生高(At) と当期のキャッシュフロー(CFt)を説明変数とするモデルを提示、被説明変数を利益とす れば、当期の会計発生高と当期のキャッシュフローは、それぞれ他方を与件としてもなお、

k 期先の利益を説明できるかを検証するとし、被説明変数をキャッシュフローとすれば、当

───────────

(25)  公正価値情報は金利や他の市場要因等のマクロファクターの影響を受けることから、Fama-MacBeth 回 帰を実施している。

(12)

期の会計発生高と当期のキャッシュフローは、それぞれ他方を与件としてもなお、k 期先の キャッシュフローを説明できるかを検証するとしている。

 本研究では、被説明変数を仮説で設定したそれぞれの会計項目とし、説明変数には被説明 変数とした会計項目に合わせ関連する会計項目を選定した。将来値は年度によるサンプルの 違いを避けるため、翌年度(t + 1 年度)との関係について 5 年間分を、その先の将来年度

(t + k 年度、k = 1, 2, 3)との関係については、3 年間分を対象とすることとした。また、公 正価値情報が既存情報に対し追加的な情報内容があることを確認するため、説明変数からそ れぞれ LN̲BV を外した場合、あるいは LN̲FV を外した場合について検証を行った。

 仮説 1 については、被説明変数は「貸倒引当金変化額(ALLOW̲CHGt + k)」となる。説 明変数には貸出金に関する既存情報(LN̲BVt)および公正価値情報(LN̲FVt)、不良債権 情報(LN̲NPAt)を入れ、(1)式を設定した。年度の影響については、年度ダミーを設定し コントロールを行った。貸出金額の大きさによる影響および分散不均一性(heteroscedastic- ity)の問題を排除するため、すべての変数について貸出金簿価でデフレートした。

,  + =   +   +   +   + ε  (1)

 仮説 2 については、被説明変数は「業務純益(OPt + k)」となる。説明変数には仮説 1 で 用いた変数に加え、大日方(2013)を参考にして当年度の業務純益(OPt)を加えた。また、

銀行業の収益の柱には、貸出以外にも預金および債券運用があることから、貸出金以外の収 益に影響を与える変数として、預金の公正価値情報(DP̲FVt)、有価証券簿価(SEC̲

TOTALt)、およびその他有価証券の取得原価と公正価値の差額(その他有価証券含み益)

(SEC̲DIFFt)を追加し、(2)式を設定した。年度の影響については、仮設 1 のモデルと同 様に年度ダミーを設定した。デフレートの係数については、仮設 1 のモデルと同様に貸出金 の既存情報、公正価値情報および不良債権情報は貸出金簿価を用いたものの、預金の公正価 値に対しては預金の簿価を用い、業務純益、有価証券残高およびその他有価証券の含み益に ついては、総資産を用いた。

,  +  =   +  ,  +  ,  +  ,  +  ,  +  ,  

   +   + ε (2)

 仮説 3 については、被説明変数は「営業キャッシュフロー(SCFt + k)」となる。説明変数 には仮説 2 と同様に当年度の営業キャッシュフロー(SCFt)を加えた。また、貸出金以外 の営業キャッシュフローに影響を与える変数として、預金の公正価値情報(DP̲FVt)およ

(13)

び有価証券簿価(SEC̲TOTALt)を追加し、(3)式を設定した。年度ダミーの設定、デフレー トの係数は仮設 2 のモデルと同じとした。

,  +  =   +   +   +   +   +   

  ,  + 

ε

(3)

 表 4 は今回の検証モデルに使用した変数の定義である。

5.2 サンプルの選択

 サンプル対象は、2015 年 3 月末時点において上場している日本の銀行業とした。分析期 間は、金融商品に関する会計基準の改訂が適用された以降となる 2009 年度(2010 年 3 月期)

から 2014 年度(2015 年 3 月期)までの 6 年間とし、6 年間に渡りデータが継続して取得で きる銀行としたため、対象銀行数は最終的に 474 行・年(79 行(26)× 6 年間)となった。デー タソースは、日経 NEEDS  Financial  QUEST のデータを用いた。ただし、金融商品の時価 開示情報(貸出金および預金)については、同データベースには収録されていないことから、

有価証券報告書より個別に取得した。

5.3 記述統計量

 表 5 は記述統計量を示している。まず、貸倒引当金変化額(ALLOW̲CHG)の平均値(中 表 4 変数の定義

変数 定義

貸倒引当金変化額/貸出金簿価 業務純益/総資産

営業キャッシュフロー/総資産

(貸出金簿価−貸倒引当金)/貸出金簿価 貸出金公正価値開示額/貸出金簿価 貸出金不良債権開示額/貸出金簿価 預金公正価値開示額/預金簿価

有価証券簿価

*

/総資産 *買入金銭債権、特定取引有価証券を含む

(その他有価証券公正価値−その他有価証券取得原価)/総資産 年度 t

銀行 i

───────────

(26)  銀行カテゴリーの別の内訳は、銀行持株会社 10 行、地方銀行 46 行、第 2 地方銀行 21 行、その他銀行 2 行となる。

(14)

央値)は ‑0.0008(‑0.0008)と負の値となっており、今回の検証対象の期間においては繰 り入れではなく戻し入れが多く発生していること(27)がわかる。業務純益(OP)や営業キャッ シュフロー(SCF)の平均値(中央値)はそれぞれ、0.0038(0.0036)、0.0217(0.0206)

と正の値となっている。貸出金の簿価情報(LN̲BV)、公正価値情報(LN̲FV)の平均値(中 央値)はそれぞれ、0.9867(0.9885)、0.9989(0.9991)である。

 なお、今回の分析ではデータ内容を検討し外れ値の影響はないと判断、外れ値の処理を 行っていない。このため記述統計量においては 1 パーセンタイル値および 99 パーセンタイ ル値を明示した。

 表 6 は相関関係を示している。今回の分析においては将来値との関係性を検証するため、

被説明変数については翌年度との関係を示した。したがって、相関係数の対象は検証期間で ある 6 年間分(474 行)ではなく、5 年間分(395 行)となる。ALLOW̲CHG と LN̲BV および LN̲FV とは正の相関であるが、LN̲NPA と負の相関となっている。同様に OP と LN̲BV および LN̲FV とは正の相関であるが、その係数は極めて小さい。SCF と LN̲BV は正の相関、LN̲FV とは負の相関であるが、同じくその係数は極めて小さい。なお、LN̲

BV と LN̲NPA および LN̲FV と LN̲NPA に高い負の相関(それぞれ ‑0.701、‑0.455)が、

表 5 記述統計量(n = 474)

平均 標準偏差 最小値 1 パーセン

タイル値 第 1

四分位 中央値 第 3

四分位

99 パーセン

タイル値 最大値

ALLOW̲CHG ‑0.0008 0.0028 ‑0.0106 ‑0.0087 ‑0.0018 ‑0.0008 0.0000 0.0088 0.0268 OP 0.0038 0.0021 ‑0.0113 ‑0.0023 0.0026 0.0036 0.0048 0.0104 0.0125 SCF 0.0217 0.0274 ‑0.1535 ‑0.0410 0.0058 0.0206 0.0356 0.1001 0.1438 LN̲BV 0.9867 0.0068 0.9536 0.9613 0.9842 0.9885 0.9911 0.9957 0.9967 LN̲FV 0.9989 0.0089 0.9613 0.9673 0.9951 0.9991 1.0037 1.0178 1.0683 LN̲NPA 0.0329 0.0125 0.0076 0.0134 0.0245 0.0308 0.0383 0.0790 0.0921 DP̲FV 1.0009 0.0020 0.9994 0.9996 1.0001 1.0004 1.0009 1.0136 1.0210 SEC̲TOTAL 0.2773 0.0772 0.0534 0.0706 0.2247 0.2782 0.3290 0.4514 0.4839 SEC̲DIFF 0.0080 0.0083 ‑0.0122 ‑0.0050 0.0026 0.0066 0.0117 0.0375 0.0584

*今回の検証に際しては、外れ値の処理を行っていない。ダミー変数以外の統計量である。

───────────

(27)  貸倒引当金変化額の年度毎の平均値および中央値は以下の通りである。

年度 件数 平均値 中央値

2009 79  0.0003 ‑0.0003 2010 79 ‑0.0004 ‑0.0005 2011 79 ‑0.0016 ‑0.0012 2012 79 ‑0.0009 ‑0.0006 2013 79 ‑0.0013 ‑0.0009 2014 79 ‑0.0011 ‑0.0009 合計 474 ‑0.0008 ‑0.0008

(15)

LN̲BV と LN̲FV および SEC̲TOTAL と SEC̲DIFF に高い正の相関(それぞれ 0.573、

0.475)が認められる。

6. 検証結果

6.1 仮説 1 の検証結果

 表 7 は貸倒引当金変化額との関係の検証結果である。パネル A は、2009 年度から 2013 年度までの 5 年間を対象に、翌年度の貸倒引当金変化額との関係について検証を行った。結 果、LN̲BV および LN̲FV の両方を説明変数とした場合には、LN̲BV は有意な関係(t 値:

6.82)が見られたものの、LN̲FV に有意な関係は見られなかった。一方、LN̲BV を外し た場合には、LN̲FV にも有意な関係(t 値:2.82)が見られたが、その場合の LN̲FV の 推定係数(0.038)は、LN̲BV の推定係数(0.159)に比べ小さかった。

 パネル B は、2009 年度から 2011 年度までの 3 年間を対象に、翌年度以降 3 年間(t + k 年度, t = 1, 2, 3)の貸倒引当金変化額との関係の検証結果である。結果は 1 年後(t + 1)に おいても 3 年後(t + 3)においても、LN̲FV、LN̲BV ともに同様の傾向が見られた。こ れらの結果から、貸出金の公正価値情報は、貸倒引当金変化額との関係において既存情報を 所与としない場合には有意な関係は見られるものの、既存情報に対し追加的な情報内容があ ることは示唆されなかった(28)。なお、LN̲BV と LN̲NPA、LN̲FV と LN̲NPA、LN̲BV と LN̲FV の間には高い相関が見られることから、多重共線性の懸念がある。

 LN̲BV および LN̲FV の推定係数の符号が予想と異なり正であったことについては検討 が必要である。今回の対象期間においては、すべての年度において貸倒引当金変化額の平均

表 6 相関係数(n = 395)

ALLOW̲CHG OP SCF LN̲BV LN̲FV LN̲NPA DP̲FV SEC̲TOTAL SEC̲DIFF ALLOW̲CHG 1.000

OP ‑0.129 1.000

SCF 0.081 ‑0.050 1.000

LN̲BV 0.433 0.011 0.033 1.000

LN̲FV 0.245 0.046 ‑0.003 0.573 1.000

LN̲NPA ‑0.316 ‑0.238 ‑0.099 ‑0.701 ‑0.455 1.000

DP̲FV ‑0.039 0.018 ‑0.078 ‑0.281 ‑0.074 0.203 1.000

SEC̲TOTAL ‑0.069 ‑0.079 ‑0.038 ‑0.111 0.018 ‑0.017 ‑0.046 1.000

SEC̲DIFF 0.064 0.166 0.024 0.170 0.136 ‑0.101 ‑0.191 0.475 1.000

───────────

(28)  信用リスクや金利リスクは経済環境に大きく依存しているため、年度別回帰も実施したが、結果に差異 はなかった。また、銀行カテゴリーについても、ダミー変数を設定し回帰を実施したが、結果に差異は なかった。

(16)

値および中央値がマイナス、即ち少なくとも半数以上の銀行で貸倒引当金の戻し入れが生じ ている状況(29)であった。LN̲BV および LN̲FV は、経営者が貸出金に対し信用リスクを 低く見積もるほど、その数値は大きくなる。推定係数の符号が正であることは、信用リスク を低く見積もっていたため(貸倒引当金を十分に計上していなかったため)、翌年度以降の 貸倒引当金の変化額との間に正の関係があると解釈できる。同様に LN̲NPA の符号も予想 と異なり負であった(30)が、経営者が不良債権額を低く見積もっていたため、翌年度以降の

表 7 検証結果(貸倒引当金変化額との関係)

パネル A(サンプル:2009 年度から 2013 年度までの 5 年間)

被説明変数の年度:t + 1

推定係数 t 値 p 値 推定係数 t 値 p 値 推定係数 t 値 p 値

LN̲BV 0.158 6.82 0.000

**

0.159 7.45 0.000

**

LN̲FV 0.003 0.20 0.843 0.038 2.82 0.005

**

LN̲NPA + 0.000 0.00 0.998 0.000 ‑0.02 0.986 ‑0.048 ‑4.93 0.000

**

定数項 ‑0.158 ‑7.19 0.000

**

‑0.157 ‑7.37 0.000

**

‑0.037 ‑2.70 0.007

**

修正 R2 0.228 0.230 0.137

サンプル 395 395 395

**は 1%水準、*は 5%水準、†は 10%水準、でそれぞれ統計的に有意(両側検定)

年度ダミーに係る係数および t 値は省略している。

パネル B(サンプル:2009 年度から 2011 年度までの 3 年間)

被説明変数の年度:t + 1

推定係数 t 値 p 値 推定係数 t 値 p 値 推定係数 t 値 p 値

LN̲BV 0.159 4.53 0.000

**

0.159 5.17 0.000

**

LN̲FV 0.000 ‑0.02 0.985 0.052 2.37 0.018

*

LN̲NPA + ‑0.006 ‑0.34 0.733 ‑0.006 ‑0.34 0.733 ‑0.054 ‑3.87 0.000

**

定数項 ‑0.156 ‑4.95 0.000

**

‑0.156 ‑5.10 0.000

**

‑0.050 ‑2.28 0.023

*

修正 R2 0.212 0.216 0.146

サンプル 237 237 237

被説明変数の年度:t + 2

推定係数 t 値 p 値 推定係数 t 値 p 値 推定係数 t 値 p 値

LN̲BV 0.159 6.81 0.000

**

0.168 8.24 0.000

**

LN̲FV 0.013 0.83 0.405 0.066 4.30 0.000

**

LN̲NPA + 0.009 0.83 0.409 0.009 0.82 0.414 ‑0.039 ‑3.97 0.000

**

定数項 ‑0.172 ‑8.18 0.000

**

‑0.168 ‑8.22 0.000

**

‑0.066 ‑4.27 0.000

**

修正 R2 0.344 0.345 0.216

サンプル 237 237 237

被説明変数の年度:t + 3

推定係数 t 値 p 値 推定係数 t 値 p 値 推定係数 t 値 p 値

LN̲BV 0.097 5.13 0.000

**

0.111 6.65 0.000

**

LN̲FV 0.019 1.46 0.145 0.051 4.27 0.000

**

LN̲NPA + ‑0.005 ‑0.49 0.627 ‑0.005 ‑0.50 0.616 ‑0.034 ‑4.46 0.000

**

定数項 ‑0.115 ‑6.77 0.000

**

‑0.107 ‑6.60 0.000

**

‑0.005 ‑4.20 0.000

**

修正 R2 0.304 0.301 0.228

サンプル 237 237 237

**は 1%水準、*は 5%水準、†は 10%水準、でそれぞれ統計的に有意(両側検定)

年度ダミーに係る係数および t 値は省略している。

───────────

(29)  5.3 記述統計量を参照。

(30)  ただし、LN̲BV を外した場合を除き有意とはなっていない。

(17)

貸倒引当金変化額との間に負の関係が生じたと解釈できる。

6.2 仮説 2 の検証結果

 表 8 は業務純益との関係に関する検証結果である。パネル A は、2009 年度から 2013 年 度までの 5 年間を対象に、翌年度の業務純益との関係について検証を行った。結果、LN̲

BV お よ び LN̲FV の 両 方 を 説 明 変 数 と し た 場 合 に は、LN̲BV は 有 意 な 関 係(t 値:

‑5.46)が見られたものの、LN̲FV に有意な関係は見られなかった。LN̲BV を外した場合 でも、LN̲FV は有意な関係になかった。LN̲BV および LN̲FV の符号は仮説 1 と同様に 予想と異なっていた。LN̲NPA は LN̲BV を説明変数に入れた場合には有意な関係となり、

符号も予想と一致していた。当年度の業務純益(OPt)はいずれの場合も有意な関係が見ら れ符号も予想と一致していた。また、有価証券簿価(SEC̲TOTAL)およびその他有価証 券含み益(SEC̲DIFF)はいずれの場合も有意な関係(31)が見られたが、SEC̲TOTAL の 符号は予想と異なっていた。この点については、SEC̲TOTAL と SEC̲DIFF の間に高い 相関が見られることも原因と考えられることから、説明変数の選定も含め再検討が必要であ る。

 パネル B は、2009 年度から 2011 年度までの 3 年間を対象に、翌年度以降 3 年間(t + k 年度,  t = 1,  2,  3)の業務純益との関係に関する検証結果である。結果は、LN̲BV および LN̲FV の両方を説明変数とした場合には上記と同じ傾向であったが、LN̲BV を外した場 合、2 年後(t + 1)および 3 年後(t + 3)の OP と LN̲FV との間には有意な関係(t 値は それぞれ ‑2.16,  ‑2.04)が見られた。ただし、その場合の LN̲FV の推定係数(‑0.031, 

‑0.030)は、LN̲BV の推定係数(‑0.100, ‑0.101)に比べ小さい。他の説明変数に関しては、

パネル A と比べて大きな違いはなかった。これらの結果から、貸出金の公正価値情報は、

業務純益との関係において既存情報を所与としない場合、一部に有意な関係は見られるもの の、既存情報に対し追加的な情報内容があることは示唆されなかった(32)。なお、 上述の SEC̲TOTAL と SEC̲DIFF 以 外 に も、LN̲BV と LN̲NPA、LN̲FV と LN̲NPA、LN̲

BV と LN̲FV の間には高い相関が見られることから、多重共線性の懸念がある。

6.3 仮説 3 の検証結果

 表 9 は営業キャッシュフローとの関係に関する検証結果である。パネル A は、2009 年度 から 2013 年度までの 5 年間を対象に、翌年度の営業キャッシュフローとの関係について検

───────────

(31)  LN̲BV を外した場合のその他有価証券含み益については 10%水準であり、有意ではなかった。

(32)  信用リスクや金利リスクは経済環境に大きく依存しているため、年度別回帰も実施したが、結果に大き な差異はなかった。また、銀行カテゴリーについても、ダミー変数を設定し回帰を実施したが、結果に 大きな差異はなかった。

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