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1.館内利用実態を把握する試みの必要性

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(1)

ふみくら No.89

11 1.館内利用実態を把握する試みの必要性

1.館内利用実態を把握する試みの必要性

 近年、早稲田大学図書館では館内に会話も可能な スペースであるオレンジゾーンを設定したことによ り、単なる図書館資料の利用にとどまらない、場所 としての利用のされ方に大きな変化が生じている1)。 そのため、来館者数や貸出冊数などの従来の統計値 や指標だけでは、利用実態を正確に評価することが 難しくなっている。そこで、利用者の館内利用実態 を把握・分析し、サービス改善に繋げることを目的 に、

2015

年度に中央図書館にて

2

つの調査を利用 者支援課が行った。1つ目は、館内の利用者の行動 を把握するための「館内利用調査」、そして

2

つ目 が旧来の図書館では想定になかった、会話や議論が 可能なスペースの活用実態を把握するための「活用 実態調査」である。本稿ではこの

2

つの調査につい て報告する。

2.

「館内利用調査」実施報告

2.

「館内利用調査」実施報告

1

)「館内利用調査」の概要

 公共図書館における調査実績がある館内閲覧量を 測定する手法2)を用いて、中央図書館における利用 実態の調査を行った。この調査手法は閲覧といった館 内利用を巡回調査によって観察し、特に利用量を「時 間」で算出し、ある程度量的な形でその実態を測定 する点に特徴がある。この手法を用いることで、た とえ来館者数や貸出冊数には大きな変化がなくても、

館内利用量の増減を測ることで、中長期的に図書館 利用の実態や変化を計測できることが期待できる。

(2)「館内利用調査」の方法

 調査対象館は早稲田大学中央図書館とし、「授業実 施期間中の通常開館日(通常期/

2015

12

18

日)」と「長期休業中の開館日(閑散期/

2015

9

7

日)」の

2

回に分けて調査を行った。

 調査方法は、順路をもとに館内を巡回して館内利 用者の人数をカウントし、利用行動を記録する利用 者観察法を採った。巡回頻度は、開館時間内に

3

間おき、10:00、13:00、16:00、19:00の

4

回 とした。利用行動は、館内資料を利用する「閲覧」、

館内設置端末や持ち込み端末を利用する「機器利 用」、利用者同士で議論や対話をする「発話」の

3

種類とし、複数行動はすべて記録した。その他の行 動についても、「持ち込み資料」の利用や、ノートな どへの「書き物」など、できる限り詳細に館内の行 動を記録するよう努めた。以上の調査を通じて、中 央図書館内における利用実態の分析を試みた。

3

)「館内利用調査」の結果

 調査結果を、以下の

4

つの成果からまとめる。

◆中央図書館内の利用傾向を明らかにできた

◆中央図書館内の利用傾向を明らかにできた

 第

1

表で通常期、第

2

表で閑散期に観察できた時 間帯別の利用者数、うち「閲覧」と「機器利用」の 行動者数と、利用者数における割合を示した。

 通常期・閑散期ともに、利用者のうち約

45%

は 何らかの図書館資料を利用する閲覧をしていること が分かった。図書館利用の形態は多様化していると 言われるが、半数近くの利用者は図書館資料を活用

早稲田大学中央図書館における館内利用実態把握の試み 早稲田大学中央図書館における館内利用実態把握の試み

稲葉 直也 ・ ティムソン ジョウナス (利用者支援課)

1表 通常期(20151218日)時間帯別の利用者数

2表 閑散期(201597日)時間帯別の利用者数

(2)

ふみくら No.89

12

するために来館している。一方、通常期と閑散期で やや数値の開きがあるものの、今や利用者のうち

30

40%

は何らかの機器を館内で利用していることも 分かった。

 第

3

表と第

4

表では、閲覧と機器利用以外の「発 話」と、その他の行動のうち「持ち込み資料」と「書 き物」、「居眠り」の行動者数を示した。閲覧という 形では資料を利用しない利用者も一定数いるが、多 くの割合で持ち込み資料を利用したり、ノート等へ の書き物をしたりする者がいることが確認でき、「勉 強をするために図書館を利用する者」が図書館利用 者の多数と言える。発話に関しては、一定数はオレ ンジゾーンにて観察することができたものの、図書 館をいわゆるラーニングコモンズとして見なして利 用する層は、全体の割合としてはまだまだ少ないと 言えよう。この発話に関する詳細は、本稿

3

章の「活 用実態調査」でもさらに分析を加えることとしたい。

◆時間帯別の利用傾向を確認できた

◆時間帯別の利用傾向を確認できた

 時間帯別の傾向としては、入館者数は

16:00

を ピークにほぼ山なりの利用傾向を示すことが分かっ た。入館者数が増えるに従い、持ち込み資料を利用 しての自習など、閲覧以外の行動をする利用者が増 える傾向が見られた。時間帯ごとの行動傾向の変化 も、今後長期的に調査を行うことで把握できると期 待できる。

◆フロア・エリアごとの利用傾向を確認できた

◆フロア・エリアごとの利用傾向を確認できた  表

1

4

で得られた数値より、利用者の延べ滞在

時間数と、資料の延べ閲覧量にあたる閲覧時間をフ ロア別に算出し、まとめたものが第

1

図である。こ の結果から、利用者の大半は

2

階・3階の閲覧席を 利用していることが分かった。そのうち閲覧行動者 は

3

5

割程度で、閲覧以外の行動で多くの時間を 過ごしていることも分かる。2階・3階とは異なり、

研究書庫やバックナンバー書庫は滞在する人の大半 が閲覧利用者で、基本的に図書館資料を活用する ために利用されるエリアということが明らかとなっ た。オレンジゾーンは圧倒的に閲覧量が少なく、明 確に他と利用傾向が異なることが第

1

図からも読み 取れる。

◆館内の活用度合いを測る評価指標が得られた

◆館内の活用度合いを測る評価指標が得られた

 本調査により、利用者の館内滞在時間、行動ごと の利用時間(第

5

表では閲覧時間=閲覧量のみ示し た)など、館内の活用度合いを測る有力な指標を得 ることができた。従来の入館者数や貸出冊数だけで は測れなかった、貸出を伴わない館内利用もこれら の指標で示すことができ、図書館利用をさらに多面 的に評価することができる。例えば第

5

表からは、

閲覧率はほぼ同じものの、閑散期は通常期に比べ一 人当たりの滞在時間、つまり来館しての館内利用時 間が長くなる傾向が読み取れる。今後、館内の機能

3表 通常期の時間帯別の利用者数(閲覧・機器以外)

4表 閑散期の時間帯別の利用者数(閲覧・機器以外)

1図 フロア別の滞在時間と閲覧量

5表 図書館の主な評価指標

(3)

ふみくら No.89

13

の変更を意図して何かしらの機材や什器を導入した り、新たなゾーニングを行ったりした際に、滞在時 間数の変化、閲覧量や発話量の変化を見ることで、

想定した効果があったかどうか明確に数値で確認す ることが可能となるだろう。今後も継続的に館内利 用調査を行い、館内利用実態の把握に努めることと したい。

3

.「活用実態調査」実施報告

3

.「活用実態調査」実施報告

(1)「活用実態調査」の概要

 中央図書館内で発話やグループディスカッション が可能なオレンジゾーンにあたるのは、2階グルー プ学習室

A、 B、

学習コーナー、

3

階グループ学習室

C、

4

階図書館ラウンジの計

5

箇所である。これまで利 用状況については、主に目視で大まかに確認する形 をとってきた。しかし、スペースや時間帯によって は、一人で静かに学習している学生の数が多く見ら れることもあり、実際にオレンジゾーンがどのよう に利用されているのか、どの程度グループ学習や発 話のためのスペースとして活用されているのか、そ の実態をより確かな形で把握することを目的として 今回の調査を実施した。

(2)「活用実態調査」の方法

 中央図書館内のオレンジゾーンを対象に、2015年

2

2

6

日、

5

25

29

日、

7

13

17

日、

9

14

18

日、12月

14

18

日に調査を行った

(いずれも平日)。複数日の調査を長期に渡り行った のは、より多くのデータを収集し大局的な観点から 活用実態を分析することを目指したためである。

 大学図書館におけるグループ学習が可能なスペー スの調査例はいくつかあるが3)4)、発話を伴う形でグ ループ学習をしている利用者の割合等を算出し、ス ペースの活性度合いを測ることには着目されていな い。そこで、当調査では、授業時間終了前後のタイ ミ ン グ で あ る

10:30、12:40、14:30、16:30、

19:00

にオレンジゾーンを巡回し、全席数に対する

利用者数(利用率)、全グループ数に対する発話中の グループ数(活性度)、全什器数に対する使用中の什 器数(机使用率)、全体のグループ数に対する個人 学習者の数(一人ぼっち率)を記録して活用度合い を見る方法を採った。なお、オレンジゾーンに併設 されている

PC

コーナーは終日、調査対象から除外

している5)。また、4階図書館ラウンジ(19時閉室)

は、19時の回の調査対象には含まれない。前述の活 用度合いの調査に加え、9月と

12

月には前章の館内 利用調査に倣い、オレンジゾーンがどのように利用 されているのか、利用者の利用傾向を調査した。な お、今回の報告にあたっては、全期間の調査を通じ て算出した各種データの平均値を利用した6)

3

)「活用実態調査」の結果

◆各スペースの利用傾向が明らかになった

◆各スペースの利用傾向が明らかになった

 第

2

図に示した利用率、活性度、机使用率から、

全体的に

14:30

16:30

の時間帯に利用のピーク を迎える傾向が分かった。グループ学習室

A

B

C

は、他に比べて利用率や活性度(=発話率)が高いが、

これらのスペースが個室の形態であることが関係し ていると思われる。スペースが区切られている(=

遮音されている)ことで安心してグループ利用がで きるのだろう。反面、オープンなスペースに位置し ている学習コーナーは発話率が極端に低く、静かに 利用される傾向が強い。

◆静かに学習するスペースとしての利用

◆静かに学習するスペースとしての利用

 活性度の平均が

5

割を下回ることや一人ぼっち率 の数値から、旧来の図書館の利用傾向と同様に、静 かに独りで勉強する場所としてオレンジゾーンを利 用する者が、一日を通じ一定数いることが分かった。

特に学習コーナーは、一人ぼっち率が極端に高いこ とに加え、机の使用率が高く、利用率と活性度が低 い点から、一人で勉強するための場所、いわば、閲 覧席のような形で利用されていることが判明した。

学習コーナーは、設置当初の想定とは異なる形で利

2図 各種調査項目別 数値の推移

(4)

ふみくら No.89

14

用されていることが明らかとなった。

◆オレンジゾーン利用者の動向を確認できた

◆オレンジゾーン利用者の動向を確認できた

 前章の館内閲覧調査でも言及されているが、オレ ンジゾーンの利用者は、発話の有無を問わず、図書 館資料を使用している人は少なく、持込み資料や

PC

の割合が多い(第

6

表)。図書館資料の利用率が 低いのは、オレンジゾーン自体が書架スペースから 離れている、あるいは区切られている、という配置 上の問題が関係している可能性が考えられる。館内 閲覧関連スペースの中でも、「場所」として利用され る傾向の強いスペースであることが判明した。

◆ オレンジゾーンのあり方を検討するための指標を

◆ オレンジゾーンのあり方を検討するための指標を 得られた

得られた

 今後の図書館によるグループ学習支援のあり方を 検討するうえで、オレンジゾーンの利用傾向を測る 指標を得られたことは、非常に有益であったと考え られる。利用の実態を把握する一つの基準ができた ことで、オレンジゾーンにおけるスペースの見直し や什器の導入の検討、そしてそれに伴う効果の測定 がし易くなるだろう。

4.館内利用実態把握の有効性と今後の展望 4.館内利用実態把握の有効性と今後の展望

 これまで、中央図書館内の利用実態は数値では示 されてこなかったが、2つの調査によりその一端を 明らかにできた。今後も継続して調査を続けること で、有効な図書館サービスの評価指標を得ることが できる。利用者の動向や図書館への要望が日々変わ る中、図書館側のサービスや運営方針も柔軟に変化 をさせなければならないが、こういった指標はその 効果の検証に役立つ。

 また、今回の調査により、「静かに勉強をするため に利用する」といった図書館利用がいまだに中心で あることが判明した。従来の図書館の機能への支持 は根強くあり、今後もこの機能の維持には努めなけ ればならない。一方、アクティブラーニングに寄与

するという観点から、ラーニングコモンズとしての 図書館のあり方についても再考する必要がある。

 今後の展望についても触れたい。まず、図書館内の ラーニングコモンズ(オレンジゾーン)利用者に対し、

アンケートやインタビューによる詳細な質的調査を実 施し、「なぜあえて図書館を利用しているのか」とい う点を特に明らかにしたい。そして、学内他のラーニ ングコモンズに於いても同様の調査を実施し、図書館 における利用動向との比較も行うことで、他のラーニ ングコモンズと比べた図書館ならではの特徴や強みを 明らかにし、差異化を図っていきたい。図書館には豊 富な資料が備えられ、図書館職員による情報提供サー ビスを身近で受けられる。その強みを生かした学習支 援を行える場としていきたい。

注・参考文献

1) 早稲田大学図書館のゾーニングは下記の記事を参照。

荘司雅之.「スチューデント・コモンズ」としての学習コーナー の新設.ふみくら.2010, No. 78, p. 10-12.

2) 以下の論文の手法を参考にした。紙幅の都合で、本稿ではデー タ推量の方法、閲覧量の算出方法の説明などは省いている。

適宜以下の論文を参照されたい。

糸賀雅児,榎本裕子,郭ハナ.公共図書館における館内閲覧 量測定の有効性.Library and Information Science. 2013, No.

69, p. 1-17.

3) 立石亜紀子.大学図書館における「場所としての図書館」の 利用実態.Library and Information Science. 2012, No. 67, p.

39-61.

4) 金子尚登.ラーニングコモンズ:利用実態調査から見る利用 傾向.淞雲:島根大学附属図書館報.2015, No. 17, p. 55-62.

5) 館内でPCコーナーが設置されているのはオレンジゾーンのみ であり、PCを利用している利用者がもともとオレンジゾーン を利用するために訪れているのかどうかを判断しがたいため。

6) 紙幅の都合で各月の詳細な調査結果を掲載できないが、全期 間にわたり、利用傾向に大きな違いがなかったため。

6表 オレンジゾーン利用者の利用動向

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