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理学療法の臨床と研究第 26 号 2017 年 総説 運動時の循環調節 : 基礎研究から臨床への展開 * 高橋 真 1) 関川清一 1) 濱田泰伸 1) 要旨健康寿命の延伸に ( 有酸素 ) 運動の効果が期待される昨今では 安全で適切な運動を実施 指導する場面は内部障害患者などに留まらず 障害のおそ

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(1)

【はじめに】

身体に様々な障害を有する、あるいは障害のお それのある人々を対象に、運動を主な介入・治療手 段として、障害の回復を図ることは理学療法の根幹 の 1 つをなすものであり、運動に関する基礎的知 識・理論の理解・応用が必須であろう。それでは、

運動を行うために必要な生体の制御システムは何 であろうか?第一に、運動は筋の収縮が骨 / 関節に 作用することで生じることから、筋収縮を制御する 神経系やその効果器である筋骨格系自体の構 ・機 能に関する知識が不可欠であろう。では、脳などか ら運動神経を介して骨格筋に信号を送るだけで、運 動は遂行できるだろうか?骨格筋の収縮にはエネ ルギー源として、アデノシン三リン酸( adenosine triphosphate: ATP )が不可欠であるが、体内に貯蔵 してある ATP の量は少なく、数十秒で枯渇してしま う。そのため、運動( 筋収縮 )をそれ以上継続する ためには、呼吸器系を介して外界から酸素を取り込 んだ後、心臓から血管を介して、活動する筋へ酸素 を供給し、その酸素を利用してクエン酸回路( TCA 回路:tricarboxylic acid cycle )により ATP を再 合成しなければならない。したがって、心臓および 血管を含めた循環調節が運動を行うために必要なも う 1 つの生体制御システムである。本稿では、この 総説

運動時の循環調節:基礎研究から臨床への展開

*

高橋  真

1)

  関川 清一

1)

  濱田 泰伸

1)

要旨

 健康寿命の延伸に(有酸素)運動の効果が期待される昨今では、安全で適切な運動を実施、

指導する場面は内部障害患者などに留まらず、障害のおそれのある人々も含めて、対象は幅広い。

そのため、多くの理学療法士にとって、運動時の循環応答とその調節機序に関する基礎的知識・

理論の理解・応用が求められると考えられる。運動時には活動筋の酸素需要に応えるため、循環 系は心拍出量を増大させ、血流の再配分を行い、より効率的に活動筋への血流を増加させる。本 稿では、運動時の循環調節の基本的な事項を理解するため、まず、運動時の循環応答とその調節 機序について、次いで自律神経性循環調節機構について概説する。

(理学療法の臨床と研究 26:23-30, 2017)

キーワード 運動、循環、自律神経

運動時の循環調節の基本的な事項を理解するため、

まず、運動時の循環応答とその調節機序について、

次いで自律神経性循環調節機構について概説する。

【運動時の循環応答:臓器血液量の変化】

最大運動時の各臓器の血液量の変化を示したもの が図 11)であり、このグラフに運動時の循環系に求 められる役割、すなわち酸素需要の高まる骨格筋へ 血液を供給するという運動時の循環応答のエッセン スが凝縮されている。一見してわかるように、最大 運動時には臓器血液量[左心室から駆出される血液

* Cardiovascular control during exercise: From basic research to clinical applications

1) 広島大学 大学院医歯薬保健学研究院 保健学分野

Health Sciences Major, Institute of Biomedical &

Health Sciences, Hiroshima University

  ( 受付日 2016 年 11 月 16 日/受理日 2016 年 12 月 4 日)

図1 安静時および最大運動時の各臓器血液量

(文献 1 より作成)

(2)

量=心拍出量( cardiac output: CO )]が約 5 倍に増 える。さらに、この増えた血液は各臓器に均等に流 れるのではなく、運動中に酸素需要の高まる骨格筋

( 活動筋 )に大部分が配分され、同様に冠血流量も増 加する。一方、運動中に酸素をそれほど必要としな い内臓の血液量は減少し、血流の再配分が生じる。

特に、内部障害患者においては、運動時の血流の再 配分を十分考慮する必要がある。それではこのよう な循環応答がどのように調節されているのか、心拍 出量増加と血流再配分に分けて解説する。

1.運動中の心拍出量増加

心拍出量( CO )は、1 分間当たりに心臓から拍出さ れる血液量であり、1 分間に収縮する回数[心拍数

( heart rate: HR )]と 1 回の心臓の収縮で拍出する 量である 1 回心拍出量( stroke volume: SV )の積に よって規定される。図 22)は HR と SV の運動中の変 化を示したものであり、運動強度の増加に対してそ れぞれ応答は異なる。HR は運動強度の増加に伴い、

直線的に増加するが、SV は最大運動の 40 〜 60%程 度まで増加した後、プラトーに達し、それ以上の大 きな増加は生じない( ただし、アスリートでは最大 運動までプラトーに達することなく、増加し続ける という報告もある3 ))。

( 1 )HR を用いた運動強度の指標

HR あるいは脈拍数は簡便な運動強度の指標として 臨床で活用されることが多い。これは、臨床場面で は酸素摂取量( oxygen uptake: V4O2)の測定が困難な ためであり、スポーツ医学分野などでは最大 V4O2 に 対する相対強度(% V4O2max )が広く用いられている。

ただし、最近のアメリカスポーツ医学会( American College of Sports Medicine: ACSM )の運動処方の 指針4 )では、運動強度を% V4O2max ではなく、酸素摂 取予備量( oxygen uptake reserve: V4O2R、「V4O2max − 安静時 V

4

O2」)の相対強度(% V

4

O2R )の表記に変更され ている。V4O2の代わりに HR を用いる理論的根拠は、

図 2に示すように相対運動強度の 40%程度の軽い

運動強度以上では、HR が CO の増加の主要因であり、

さらに HR が運動強度と直線関係かつ強い相関関係 をもつことである。

HR を用いた運動強度の指標の 1 つとして、最大 HR に対する相対強度(% HRmax、「目標 HR = HRmax

×目標運動強度」)がある。HRmax は年齢によって規 定され、一般に「220 −年齢」がよく用いられる。し かしながら、この計算式では± 10%程度の誤差があ り、ACSM 指針4 )ではより正確な予測式( 例えば、「207

− 0.7 ×年齢」、「206.9 − 0.67 ×年齢」等 )を推奨し ている。もう 1 つの方法は Karvonen 法として知ら れている心拍予備量( heart rate reserve: HRR )に 対する相対強度(% HRR )であり、「目標 HR =( HRmax

−安静時 HR )×目標運動強度+安静時 HR」で表され る。% HRmax と% HRR ではその運動強度の意味合い が異なる。例えば、% HRmax は% V

4

O2R と 15%程度 の差があり、% HRR に比べて特に低い運動強度で正 確な強度を反映しない( 安静時でも 30 〜 40%程度 の運動強度に相当してしまう )。一方、% HRR は%

V4O2R とほぼ等しく、臨床で用いる場合により適して いると考えられる。

( 2 )運動中の HR 調節メカニズム

心臓の洞房結節細胞は自動能をもち、例えば心臓 を体外に取り出しても一定のリズムで拍動する。心 臓興奮はこの洞房結節からはじまり、心房筋−房室 結節−ヒス束−右脚・左脚−プルキンエ線維を経て、

心室筋が収縮し、心臓が拍動する。心房と心室間に は電気的絶縁体としての機能を持つ線維輪があり、

心房の興奮は必ず刺激伝導路のみを介して心室へ伝 わり、その際に時間遅れ( 房室伝導時間 )が生じる。

この遅れは心房から心室へ十分に血液を充満させる ために重要な因子である。心拍数は心臓固有の自動 能に加え、神経性調節と体液性調節( 副腎髄質より 分泌されるカテコールアミン )を受ける。心臓は交 感神経と副交感神経( 迷走神経 )の二重支配を受け、

交感神経の亢進あるいは迷走神経の抑制で HR が増 加する。

図2 運動中の心拍数と 1 回心拍出量の変化

(文献 2 より改変引用)

図3 心拍数の自律神経性調節の概念図 A. 従来の考え B. 新しい考え

(3)

従来、運動開始時から約 100 〜 120 beats/min(bpm)

までの HR 増加は迷走神経活動の抑制によって調節 され、それ以上の HR 増加には交感神経活動の亢進 が寄与するとされてきた( 図 3A )。このような考え は 1960 年代に実施された自律神経遮断薬を用いた 薬理学的な実験に基づいている。しかしながら、覚 醒下のネコからトレッドミル運動中に心臓交感神経 活動を直接計測した研究では、運動開始後ただちに 心臓交感神経活動は増加した5 )。したがって、従来 の定説と異なり、心臓交感神経は運動開始時の HR 増加に寄与することが示唆される。それでは、動物 実験で得られた知見と同様にヒトにおいても運動開 始時の HR 増加に心臓交感神経が関与するのであろ うか。ヒトで心臓交感神経活動を直接記録すること はできず、また、心拍変動の周波数解析によって得 られる高周波成分は迷走神経活動を反映するとされ るが、後述するように交感神経活動を推測すること はできない。そこで、私達は完全頸髄損傷者を対象 に静的肘関節屈曲運動中の HR の応答を検証した6 )。 頸髄損傷者は全ての交感神経が脊髄よりも上位にあ る循環調節中枢との神経連絡が絶たれるが、脳幹由 来の心臓迷走神経は障害されていない。従来の定説 では、100 〜 120bpm 程度までの HR 増加は迷走神経 活動によって調節されると考えられており、もしそ うならば、静的運動のように HR の増加が小さい運 動では、頸髄損傷者と健常者の心拍応答が一致する はずである.しかしながら、図 4に示すように頸髄 損傷者では健常者と比較し、運動初期の HR 増加が 減弱している6 )。さらに、心拍変動周波数解析の高 周波成分の経時的変化は 2 群間で差がなく( 図4 )、

この HR 応答の差に迷走神経活動は関与しない7 )。し たがって、ヒトにおいても運動開始時の HR 増加に 心臓交感神経が重要な役割を果たすと考えられる

( 図 3B )。

一方、100 〜 120bpm レベル以上での HR 増加は交 感神経によって調節され、迷走神経は関与しないと 考えられてきた( 図 3A )。この定説は心拍変動周波 数解析による高周波成分がほぼゼロレベルに低下す る結果からも裏付けられている。この心拍変動周波 数解析は簡便に心臓自律神経活動を推定できる方法 として、1980 年代から多方面の基礎的・臨床的研究 に応用されてきたが、幾つかの問題点を含む。中で も、運動中の心拍変動の解析にはこれまで心電図 RR 間隔の変動が用いられてきたが、これは RR 間隔と PP 間隔の変動が同一であることを前提としている。

心電図の P 波は心房の脱分極、QRS 波は心室の脱分 極に相当し、PP 間隔は心房興奮間隔、RR 間隔は心 室興奮間隔である。心臓自律神経活動の影響は主に PP 間隔の変化として現れるが、一般に P 波よりも同 定が容易である RR 間隔が心拍動間隔として用いら れている。しかしながら、RR 間隔の変化は PP 間隔 の変化に加え、前述した房室伝導時間( PR 間隔 )の 変化も含まれる。運動中、特に HR が 100bpm 以上に なると、PP 間隔の分散と比べ、RR 間隔の分散が著 しく減少する8 )。このことは、PP 間隔が短縮( 延長 ) すると、PR 間隔が延長( 短縮 )することで、一拍毎 に PP間 隔の変動を打ち消し、RR 間隔が一定となる ためである( 房室伝導時間の変化が心臓の内因性に よるものか、自律神経性の調節によるかは未だ不明 である )。したがって、運動中、特に HR が 120bpm を超える運動強度では、心電図 RR 間隔の変動は必 ずしも心臓迷走神経を反映せず、PP 間隔の変動を 用いる必要がある。図 5は RR間 隔と PP 間隔を用い て、周波数解析の高周波成分を比較したグラフであ

図4 頸髄損傷者の肘屈曲静的運動時の心拍および 心拍変動周波数解析の高周波成分の応答

(文献 6、7 より改変引用)

図5 心電図 PP 間隔と RR 間隔の周波数解析の 高周波・低周波成分の変化

(文献 9 より改変引用)

(4)

る。HR140bpm において、RR 間隔に比べ、PP 間隔の 高周波成分が高値を示し、さらに、副交感神経遮断 薬である硫酸アトロピンの静脈内投与によって、HR が 15bpm 程度増加し、PP 間隔の高周波成分は低下 した9 )。したがって、従来の定説と異なり、100 〜 120bpm レベル以上での HR 増加にも心臓迷走神経が 寄与することが示唆される( 図 3B )。また、心拍変 動周波数解析の低周波成分は交感神経活動の指標と して用いられることがあるが、図 5に示すように運 動中に低下し、さらにアトロピンの投与で低下する ことから、迷走神経活動の影響が大きく、交感神経 活動の指標としては適切でない。

( 3 )運動中の SV 調節機序

SV は 1 回の心臓の収縮で拍出する量であり、左 心室に血液が最も充満した時の容量である左心室拡 張終期容量( end-diastolic volume: EDV )と血液を 拍出した後に残った容量である左心室収縮終期容量

( end-systolic volume: ESV )の差である。図 61 )は 仰臥位と立位での運動中の EDV と ESV の変化を示し た図であり、低強度の運動では EDV の増加が SV 増 加に寄与していることがわかる。この EDV とは心臓 に戻る血液量、すなわち静脈還流量を意味する。そ れでは、運動中に静脈還流量が増加する仕組みは何 であろうか。

まず、第一に筋ポンプ作用が挙げられる。静脈に は弁があり、血液の逆流を防いでおり、筋収縮に伴 う静脈血管への機械的圧迫により、心臓方向へのみ 血液を戻すことができる。筋が弛緩すると、静脈が 拡張し、遠位から血液が流れ込みやすくなり、収縮

−弛緩を繰り返すことで、ポンプのように心臓へ血 液を戻す。筋が収縮したままでは、ポンプ作用は機 能しない。ふくらはぎは第二の心臓といわれるが、

この筋ポンプ作用を意味する。仰臥位と立位時の EDV を比較すると、立位時の方が低い( 図 6 )。これ は仰臥位に比べて、立位時は重力に抗して下肢の静 脈の血液を心臓まで戻す必要があるからであり、筋 ポンプ作用は重力に抗して静脈還流量を増加させる 重要な仕組みとなる。立ちくらみ( 起立性低血圧 ) は静脈還流量の低下に起因し、簡単な予防方法とし ては下腿筋の収縮−弛緩による筋ポンプを作用させ ることである。筋ポンプだけでなく、外部からの機 械的( 徒手的 )な圧迫を繰り返すことで、同様に下 肢静脈血の還流の促進を図ることができる。また、

起立練習時に弾性ストッキングを着用することや、

最近ではコンプレッションウェアを着用して運動す る場面が増えてきているが、期待する効果の一つは 静脈還流量の増大である。呼吸運動に伴う胸腔内圧 の変化も呼吸ポンプとして、静脈還流量増大に寄与 する。吸気時には胸腔内の陰圧がさらに低下し、ス ポイトのように血液が吸い込まれ、腹腔内圧の上昇 とあわせて、静脈血が心臓に戻りやすくなる。さら に、容量血管とも呼ばれ、安静時には約 70% もの血 液量が分布している静脈に対して、後述する交感神 経性の血管収縮作用が働くことも、静脈還流量の増 大につながる。

静脈還流量が増加すると、EDV が増え、心筋はよ り伸張される。心筋の長さと張力との関係( Frank- Starling の法則 )により、心筋が伸ばされる程、心 筋が発生する張力は大きくなり、心筋収縮力が増 し、SV が増える。EDV はこのように心臓の収縮状 態や収縮力を規定し、心臓の収縮前であることか ら、前負荷と呼ばれる。一方、心臓の収縮後の負荷 として、後負荷がある。これは左心室から末梢血 管抵抗に逆らって血液を送り出すために必要な心 仕事量であり、総末梢血管抵抗( total peripheral resistance: TPR )が大きくなれば、SV は減少する。

動的運動中では後述するように、TPR が低下するた め、このことも SV 増加に寄与する( 図 7 )。逆に、

静的運動( 等尺性収縮 )では TPR が増加することと、

筋ポンプ作用が働かないため、SV は増加しない( 図 7 )。

運動強度が増加すると、EDV はプラトーに達し、

ESV が低下する( 図6 )。この ESV の低下が SV 増加 のもう一つの仕組みである。これは心筋収縮力の増 大を意味する。前述のように静脈還流量が心筋収縮 力に影響するが、心臓交感神経活動によっても調節 される。立位時には仰臥位と比較して、静脈還流量 が制限されるため、心臓交感神経活動の亢進によっ て、心筋収縮力を増し、より多くの血液を拍出し( ESV を減少)、対応していることが図 6からわかる。一方、

HR も SV に影響する。特に高強度運動時には HR 増加 に伴い、心室に血液が充満する時間が短縮する。こ のことは、SV が運動強度の増加に伴い、プラトーに 図6 仰臥位および立位運動時の心室拡張終期容量と

心室収縮終期容量の変化

(文献 1 より改変引用)

(5)

達する要因の 1 つとして考えられる。

このように、SV を規定する因子として、前負荷、

後負荷、心筋収縮力の 3 つの因子がある。これらの 要因は運動中の循環応答を考える際に重要であると ともに、心疾患患者などの循環管理や投薬の目的を 理解するためにも重要である。

2.運動中の血流再配分

運動を継続するためには、活動している筋に酸素 を供給する必要があるが、心拍出量の増加には限界 があり、1 )活動筋の血流配分を増加させ、2 )それ 以外の非活動筋や内臓などの血流を減少させる、と いう血流の再配分が行われる。循環経路は種々の器 官が並列につながる回路であり、身体の各器官の血 管抵抗を変えることで、血流配分を調節できる。血 管抵抗の調節とは、血管径の調節であり( 抵抗は半 径の 4 乗に逆比例して増加する )、血管壁に存在す る平滑筋の収縮を制御することである。細動脈は抵 抗血管とも呼ばれ、平滑筋が発達しており、交感神 経活動の亢進により収縮し、血管径は狭くなり、血 流は減少する。血管交感神経は緊張性に活動してい る状態であり、その活動が低下すると収縮は弱くな り、血管内圧により血管系は大きくなる。ただし、

交感神経の作用としてはあくまで血管収縮である

( 交感神経性の血管拡張については、ネコなどの動 物では確認されている。ヒトでは未だ議論のあると

ころであるが、最近、薬理学的な実験等によって非 活動筋の血流増加に交感神経性血管拡張が関与する 知見が得られつつある10 ))。

運動中には交感神経活動の亢進によって、身体の 各器官の細動脈の血管が収縮し、血流が減少する。

この作用は非活動筋や内臓などの血流減少に寄与す るが、同時に活動筋の血流も減少させる方向に働く。

しかしながら、活動筋の血管では筋収縮の代謝産物

( H+、K+、CO2、乳酸、アデノシンなど )や血管内皮 由来弛緩因子( 一酸化窒素など )による局所性血管 拡張が交感神経性血管収縮を上回り( 機能的交感神 経遮断 )、活動筋では血流が増加する。このように、

交感神経性調節と局所性調節によって、運動中に増 加する心拍出量を適切に再配分できる。

3.運動中の動脈血圧変化

血管径の変化は前述のように血流調節に寄与する とともに、動脈血圧の調節に非常に重要な役割を担 う。活動筋では血管が拡張し、血流が増えるが、拡 張しすぎると、全身の血管抵抗( TPR )が下がりすぎ てしまい、血圧の低下を招いてしまう。したがって、

非活動筋や内臓などの血管収縮は血流再配分に寄与 するとともに血圧の維持にも重要である。

動脈血圧( arterial blood pressure: AP )は循環 機能の種々の変数が調節された最終の結果である。

AP は心拍動と同期して変動し、心臓の収縮期に最も 高 く な り( 収 縮 期 血 圧、systolic arterial blood pressure: SAP )、拡張期に最も低くなる( 拡張期血 圧、diastolic arterial blood pressure: DAP )。

SAP と DAP の差を脈圧といい、心拍動における AP の 変動を平均化した値を平均動脈血圧( mean arterial blood pressure: MAP )といい、上腕動脈などでは DAP に脈圧の 1/3 を加えて計算される。

血液循環は電気回路に置き換えることができ、「電 圧=電流×抵抗」の式と同様に、「MAP = CO × TPR」

で表すことができる。前述したように、動的運動時 には活動筋に大量の血流が配分できるように血管拡 張が生じ、この血管拡張は非活動筋や内臓などの血 管収縮を上回り、TPR は低下するが( 図 7 )、CO が大 きく増加するため、結果的に MAP は上昇する。SAP は CO の増加と同様に上昇するが、DAP は総末梢血管 抵抗が低下することもあり、動的運動中には大きく 変化しない。

一方、静的運動( 等尺性収縮 )では、筋弛緩がな いため、持続的な筋内圧の上昇によって、血管へ機 械的な圧迫が加わり、血流量は制限され、血管抵抗 は低下しない。さらに、非活動筋や内臓などでは交 感神経性血管収縮により、血管抵抗が増加するため、

TPR は増加する。この TPR の増加により SAP、MAP、

DAP いずれも大きく上昇する。静的運動の特徴は酸 素需要がそれほど大きくない小筋群の運動であって 図7 動的(自転車)および静的(ハンドグリップ)運動

を疲労困憊まで行った場合の循環応答

(6)

も( 事実、CO はそれほど増えない )、大きな昇圧応 答を示すことである( 図 7 )。静的運動では運動強度 が高まると筋内圧は上昇し、筋血流はより制限され ると考えられるが、実際には運動強度が異なっても 筋血流はそれほど差がない。これは筋内圧に対して、

血圧上昇によって潅流圧を高め、血流を維持してい ると考えられる。したがって、著明な昇圧も活動筋 への血流供給という点では合目的であるといえる。

しかしながら、静的運動時には息こらえやいきみ( バ ルサルバ効果で昇圧を促進する )を伴いやすいこと も含めて、昇圧応答に注意して実施する必要がある。

Ⅲ.運動時の自律神経性循環調節機構

これまで述べてきたように、運動時には活動筋の 酸素需要に応えるため、循環系は心拍出量を増大さ せ、血流の再配分を行う。この調節には筋ポンプ作 用や局所性の血管拡張作用なども重要であるが、自 律神経系の果たす役割が非常に大きい。延髄にある 循環中枢で様々な入力が統合され、自律神経活動が 調整され、心臓と血管を調節する。運動時の自律神 経活動の制御機構として、1 )セントラルコマンド、2 ) 運動筋受容器反射、3 )動脈圧受容器反射の 3 つの制 御系がある( 図 8 )11 )

セントラルコマンドとは大脳皮質から生じる運動

コマンドと同期して、高位中枢から起こり、循環系 をフィードフォワード的に調節する制御機構である

( 図 8. ① )。覚醒状態で筋弛緩薬を投与した状態で、

被検者に運動努力を行わせると、心拍数および血圧 はその運動努力に依存して増加する12 )。この結果は セントラルコマンドの存在を明示する。後述する運 動筋受容器反射は必ず運動の結果生じるが、セント ラルコマンドは見込み制御的に循環調節を行うこと ができる。自発的に運動を開始する場合と合図に対 して運動を開始する場合では、前者で運動開始によ り先行して循環応答が生じる13 )ことからも、運動開 始時に特に重要な役割を担うと考えられる。

運動筋受容器反射は筋収縮に伴う機械的変化( 筋 機械受容器反射 )と代謝性変化( 筋代謝受容器反射 ) を感知してフィードバック的に調節する制御機構で ある( 図 8. ② )。それぞれ筋内の受容器からグルー プⅢ、Ⅳ求心線維を上行し、循環中枢へ入力する。

電気刺激による膝の伸展運動によって循環応答が生 じ、その応答は硬膜外麻酔により感覚神経を遮断す ると消失する14 )ことから、活動筋からの反射性循環 調節機構が確認できる。筋機械受容器反射は電気刺 激による収縮や筋の伸張、他動的サイクリングなど で誘発できるが、筋代謝受容器反射との分離は難し い。一方、運動終了後に活動筋より中枢側で血圧用 カフなどを用いて血流を遮断し、代謝産物を活動筋

図8 運動時の自律神経性循環調節機構(文献 11 より引用改変)

(7)

内に留めておくことで、セントラルコマンドと筋機 械受容器反射が働いていないにも関わらず、筋代謝 受容器反射のみを賦活できる。その結果、動脈血圧 は安静時よりも上昇したまま維持される。この 2 つ の反射の違いは、筋機械受容器反射は運動開始直後 から機能するが、筋代謝受容器反射は代謝産物が生 成されるまでに時間を要し、時間遅れがあることで ある。静的運動時には特に運動後半に大きな昇圧応 答がみられるが、これは主に筋代謝受容器反射によ る。

動脈圧受容器反射は大動脈弓および頸動脈洞の血 管壁にある血圧を感受する受容器からの入力に対し て反射性に自律神経活動をフィードバック制御する 機構である( 図 8. ③ )。この動脈圧受容器反射は安 静時にも機能しており、血圧を一定に維持するため に重要である。例えば、血圧が上昇すると、自律神 経活動を介して、心拍数・一回心拍出量、総末梢血 管抵抗が低下し、血圧は元の値まで低下する。しか しながら、運動時には心拍数と血圧は同時に増加す るため、これらの変化を動脈圧受容器反射では説明 できない。むしろセントラルコマンドや活動筋から の入力によって、動脈圧受容器反射特性が運動中に 修飾されることが示唆される。事実、動脈血圧反射 曲線は運動強度の増加に伴い、高血圧側にシフト( リ セッティング )し、反射の感受性も変化する15 )。こ の圧受容器反射特性は運動中にもダイナミックに変 化し、さらに、心臓と血管に対して、その作用が異 なる15 )

近年、運動中の循環応答とその調節系の異常のメ カニズムを明らかにしようとする研究が、ヒトと動 物実験の両面から進展している。例えば、高血圧患 者では運動時の昇圧および交感神経活動が過剰であ り16 )、ラットを用いた実験から運動時の過剰な交感 神経活動は運動筋受容器反射の増強が関与すること がわかってきた17)。さらに、運動トレーニングによっ てこの運動筋受容器反射が抑制され、昇圧および交 感神経活動が減弱する17 )。また、最近、糖尿病患者 において、前述した運動後の阻血状態での筋代謝受 容器反射の賦活による昇圧応答および交感神経活動 が増大していることが報告されている18 )。このよう に様々な内科的疾患において、運動中の循環応答と 自律神経活動の制御機構の異常について新たな知見 が得られており、今後どのように臨床に応用してい くかが大きな課題である。

【おわりに】

本稿では運動時の循環応答とその調節機序につい て概説した。健康寿命の延伸に( 有酸素 )運動の効 果が期待される昨今では、安全で適切な運動を実施、

指導する場面は内部障害患者などに留まらず、障害

のおそれのある人々も含めて、対象は幅広い。その ため、多くの理学療法士にとって、運動時の循環調 節機構の理解が求められると考えられる。また、運 動時の自律神経性循環調節機構に関しては、現在も 心疾患、高血圧、糖尿病など様々な疾患での基礎研 究で新たな知見が得られており、それらの知見を臨 床に応用することも期待される。本稿ではトレーニ ング効果や各種疾患患者の運動時の循環調節につい て、詳しく触れることができなかったが、興味のあ る方は成書1, 2, 19,20 )を参考にして頂きたい。

【文献】

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参照

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