• 検索結果がありません。

目 次 1 研究主題 1 2 研究主題設定の理由 1 3 研究の仮説と内容 1 4 仮説に基づく実践と考察 (1) 仮説 1 について 2 (2) 仮説 2 について 7 (3) 仮説 3 について 9 5 研究のまとめ (1) 解明されたこと 10 (2) 今後の課題 11 6 終わりに 11-2

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "目 次 1 研究主題 1 2 研究主題設定の理由 1 3 研究の仮説と内容 1 4 仮説に基づく実践と考察 (1) 仮説 1 について 2 (2) 仮説 2 について 7 (3) 仮説 3 について 9 5 研究のまとめ (1) 解明されたこと 10 (2) 今後の課題 11 6 終わりに 11-2"

Copied!
13
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

作者の生き方と重ねて読み、

作品を深く読み味わう指導の工夫

―6年国語科「味わおう 伝えよう 宮沢賢治の世界」の実践から―

「わたしが感じた『青白い火』は、こんな感じ・・・」

富山市立古沢小学校

城 石 寛 子

(2)

目 次

1 研究主題 ・・・・・・ 1

2 研究主題設定の理由 ・・・・・・ 1

3 研究の仮説と内容 ・・・・・・ 1

4 仮説に基づく実践と考察

(1)仮説1について ・・・・・・ 2

(2)仮説2について ・・・・・・ 7

(3)仮説3について ・・・・・・ 9

5 研究のまとめ

(1)解明されたこと ・・・・・・

10

(2)今後の課題 ・・・・・・

11

6 終わりに ・・・・・・

11

(3)

1 研究主題 作者の生き方と重ねて読み、作品を深く読み味わう指導の工夫 ― 6年国語科「味わおう 伝えよう 宮沢賢治の世界」の実践から― 2 研究主題設定の理由 誰もが知っている宮沢賢治。6学年国語科といえば、宮沢賢治の「やまなし」といえ るほど教科書が改訂されても採用されている。宮沢賢治の作品には、独自の比喩表現や 擬声語、擬態語、色彩を表す言葉などが多く用いられ、言葉の響きの美しさや不思議さ などの魅力があるが、子どもたちは日頃の読書ではそれほど宮沢賢治の作品に親しんで はいない。「やまなし」は、子どもたちがこれまで読んできた文学作品や普段の読書で読 んでいる本とは異なり、独自の比喩表現や造語などにより、子どもたちにとって分かり にくい作品だと思われる。このような文学作品は、分かろうとする教材解釈ではなく、 一人一人が作品の世界を自分なりに味わうことが大切である。そこで、作者の生き方や 考え方と重ねて作品を読み深めたり、作者の他の作品を読み広げたりすることで豊かに 作品を味わい、これからの読書活動にも生かしていくことができるようにしたいと考え、 本実践を行った。 3 研究の仮説と内容(指導案…資料①) (仮説1) 子どもたちが課題意識や見通しをもって学習を進めていけるような単元を 構想することによって、追究を持続・発展させることができる。 (仮説2) 異なる考えや学び方などがかかわり合う場を工夫することによって、考え を深めることができる。 〈宮沢賢治の生き方や考え方と重ねて作品を味わう単元構想〉 教科書では「やまなし」の後に宮沢賢治の伝記である「イーハトーヴの夢」が掲 載されている。本単元では、宮沢賢治の生き方や作品の背景、考え方の礎となる出 来事などが書かれた伝記である「イーハトーヴの夢」を先に取り上げた。宮沢賢治 が自然の厳しさを感じながらも自然を愛していたこと、人間も動物も植物も、互い に心が通い合うような世界を理想としていたことなど、賢治の生き方や考え方に触 れ、そのうえで「やまなし」を読むことで、子どもたちが宮沢賢治の世界を味わい、 より豊かに読むことができるようにしたいと考えて単元を構想した。さらに、学習 発表会を「伝えよう 宮沢賢治の世界」というテーマで、学習したことを生かした 発表の場に設定した。「感じたことや考えたことを表現し、伝える」という目標に向 かって取り組むことで、意欲を持続させながら学習を進めることができると考えた。 〈宮沢賢治の作品に触れることができるようにする環境づくりと並行読書〉 単元の学習と並行して、宮沢賢治の作品に親しむことができるように図書館司書 に作品を集めてもらい、教室に宮沢賢治コーナーを設けた。授業以外でも、読書の 時間に宮沢賢治の作品を教師が読み聞かせしたり、子どもたちが家庭へも持ち帰っ て並行読書し、「紹介カード」を用いて朝の会などに紹介し合ったりした。たっぷり 宮沢賢治の世界に浸ることで、作品を豊かに味わうことができると考えた。

(4)

(仮説3) 自分の高まりを実感できるような自己評価をすることで、学習の仕方を意 識し、次の時間にも生かしていこうという意欲をもつことができる。 4 仮説に基づく実践と考察 (1)仮説1について ① 見通しをもち、意欲を高める導入 まず、単元名を提示して、どのように学習を進めるか子どもたちと話し合い、子 どもたちが学習の見通しをもてるようにした。「味わおう 伝えよう 宮沢賢治の世 界」と単元名を提示し、どのようにして「味わう」のか、どのようにして「伝える」 のか話し合い、次のように学習の仕方を具体的にした。 「味わおう 伝えよう 宮沢賢治の世界」 (資料②) 味わおう ・ 賢治さんはどんな人なのか知ろう ・ 賢治さんが書いた作品を読もう 伝えよう ・ 「宮沢賢治の世界紹介カード」を書いて ・ 意見交流をして ・ 学習発表会で「伝えよう 宮沢賢治の世界―注文の多い料理店―」 この学習の仕方は、単元を通して学習の指針となるように常に掲示しておいた。 第1次では、宮沢賢治について「イーハトーヴの夢」だけでなく伝記やインター ネットで調べ、それを基に「宮沢賢治はどんな人なのだろう」と話し合った。子ど もたちは、石集めが好きで、石こ賢さんと呼ばれていたことから「変わっているな、 〈一人一人の感じ方を大切にする〉 一人一人が宮沢賢治の作品を豊かに読むために、一人読みの時間を確保し、ノー トに自分なりの感じ方をしっかり書くようにしたいと考えた。一人一人が自信をも って自分なりの読み方や感じ方をして書き進めることができるように、机間巡視を しながら言葉をかけて、一人一人の読み方や感じ方を認めることを大切にした。 〈意見交流する場の設定〉 「宮沢賢治の世界」についての一人一人の考えを意見交流する場を設定する。そ のための言語活動として「宮沢賢治の世界 紹介カード」を用いた。紹介カードに、 自 分 が 感 じ た 宮 沢 賢 治 ら し さ が 表 れ て い る と こ ろ を 相 手 に 伝 わ る よ う に 表 す 活 動 をすることで、自分の考えを表現する力を育てたいと考えた。紹介カードは、学級 の宮沢賢治コーナーに掲示し、互いに読み合うことができるようにした。また、そ れを交流し友達の考えを聞くことで、自分が気付かなかった観点で読んでいる意見 を知ることができたり、友達の考えと自分の考えを比べて自分の考えを深めること ができたりすると考えた。 〈自分の考えの広がりや深まりを感じることができるノートや振り返りカード〉 ノートには、自分の考えをしっかり書くことを積み重ねていきたい。何をどのよ うに書くかを明確にすることと、書く時間を確保することで書くことが苦手な児童 も自分の考えの記録を残すことができるようにしたいと考えた。振り返りカードに は、話し合いで思ったことを自由に書くとともに、その時間で、「宮沢賢治の世界」 について感じたことを書いていく。それによって作品と作者を重ねて考え、宮沢賢 治の世界を味わうことができると考えた。

(5)

不思議な人だな」と思ったり、病気の時でも知らない人にも一時間もていねいに肥 料のことを教えてあげたというエピソードから「優しい人、人のために一生懸命に なれる人」と感じたりしたことを話し合い、宮沢賢治の人柄について考えていった。 その中で、「自分のことより人のことを考えた人だと思う」と言った児童の意見につ いて、なるほどと思う一方、「なぜ、そこまでするのだろう?」という疑問も出てき た。「質屋を継いでいたら、もっと裕福になれたのに。もっと楽な暮らしができたの に・・・」「学者になっていたらもっと偉くなれたのに、なぜ断ったのだろう」「そ れほど農業が好きだったのかな」「岩手県のことが大好きだったのだと思うよ」「人々 が安心して田畑を耕せるようにしたいという夢の方が大事だったのだと思う」と、 一人一人の考えを出し合う中で宮沢賢治の郷土の自然や農業を愛する強い思いに気 づいていった。(資料③) このように宮沢賢 治の 生き方や考え方を 話し 合う場をもち、宮 沢賢 治の思いを感 じたことで、「賢治さんのことをもっと知りたい、賢治さんの作品を読みたい」とい う気持ちで学習に対す る意欲が高まっていっ た。そして、この後、 子どもたちが宮 沢賢治の作品を読むと きに、ここで感じた「 賢治さんの思い」を作 品と重ねて読む ことにつながっていった。 ② 並行読書で言葉の面白さを感じ、宮沢賢治の世界を味わったA児 A児は、日頃から読書に親しみ、宮沢賢治の本も何冊か読んだ経験があった。ま た、夏休みをかけて童話を自作して少年少女自作童話大会に参加し、創作すること にも目が向いている時期であった。 「宮沢賢治はどんな人なのだろう」という話し合いの後に、次のように書いてい る。 (前略) 宮沢賢治さんは、不思議なところがたくさんありました。物語の案がどこからわ いてきたのかが一番不思議です。たくさんの案が思いつくのはとても大変です。私 が童話を作るときもとても大変でした。賢治さんには、童話や本を書く才能があっ たんだと思います。もっと長生きすれば生きているうちに才能が認められたかもし れないのに、と思いました。私は、もっと宮沢賢治さんの本を読んで宮沢賢治さん のことを知りたいと思いました。みんなにおもしろい本を紹介してあげたいです。 このように、A児は、もっと宮沢賢治さんの本を読んで「賢治さんのことを知り たい、紹介したい」という気持ちで並行読書を進めていった。読んだ本は、紹介カ ードにタイトルを付けて心に残った場面や伝えたい内容を書き、教室の宮沢賢治コ ーナーに掲示するとともに、朝の会に紹介し合った。 第2次に入り、「やまなし」の音読をして感じたことを話し合ったとき、B児は、

(6)

「『ぷかぷか』という言葉はあるけど、『かぷかぷ』という言葉はない。勝手に言葉 を作っているのかな。『かぷかぷ』は、小さくクスクスと笑っているのかな。」「『つ ぶつぶ』の使い方がちがうと思いました。『小さいつぶつぶ』と使うのは分かるけど、 『つぶつぶ暗いあわが流れて・・・』というのは『つぶつぶ』の意味がちがうと思 います。」と発言した。宮沢賢治の独特の言葉づかいに注目して表現のおもしろさを 感じている。そして、「やまなし」で擬態語等に着目したことをきっかけに、A児は 次のように並行読書でもいろいろな本からおもしろい表現を見つけ、紹介カードで 広めている。 かろやかな言葉たくさん「雪わたり」 「キ ック キッ クト ント ン、 キッ ク ト ントン。」こんなリズミカルな言葉がた く さん 出て きま す。 この 本は 、キ ツ ネ とある兄妹の話です。 (中略) わた しの おす すめ は、 鈴木 まも る さ ん の絵 の絵 本で す。 ぜひ 、読 んで み て ください。 空の話「ふたごの星」 これは、ふたごの星のお話です。チ ュンセ童子とポンセ童子はふたご。一 晩笛を吹くのが仕事です。 (中略) 「ギイギイフウ」と、おもしろい言葉 が入っています。ぜひ、読んでくださ い。 さらに、「やまなし」で感じたことと関連させながら並行読書を進め、「やまなし」 と他の作品の言葉のおもしろさに着目して「やまなし」を読み味わっていった。話 し合いの振り返りカードには、次のように書いている。 わたしは、「トブン」「ぼかぼか」「つぶつぶ」「かぷかぷ」というような不思議な 言葉がたくさんあることに気がつきました。わたしは、「トブン」という言葉がお もしろいなと思いました。「ドブン」としたら、水しぶきを立てて落ちるような感 じだけど、「トブン」とすると、静かに深く落ちたような感じだと思います。 また、「十二月」の場面では、A児は「青白い火」という表現について考えた。 ガスコンロの火の根本の方の色とか、ガスバーナーの火の色みたいのかなと思い ました。月の光が水面に当たってゆらゆら神秘的な感じだと思います。 宮沢賢治さんは、月は青白く光っていると感じていたと思います。理由は、「雪 わたり」の物語の中でも「青白い大きな十五夜のお月様が・・・」と書いていまし た。だから、「やまなし」の「青白い火」も月の光と思いました。 A児は、まず「青白い火」をガスバーナーなどの実際に見たことがある物から想 像した。次に、「雪わたり」の表現にも「青白い」という表現があることを思い出し、 つなげて考えた。そして、賢治さんは月の光を青白く感じていると考え、「やまなし」 の「青白い火を燃やしたり消したり」という表現は月の光が水面に当たってゆらゆ ら揺れていると想像を広げていった。このように、「やまなし」をきっかけにいろい ろな本から言葉のおもしろさを感じ、それがまた、「やまなし」を深く読むことにつ ながっている。並行読書の経験が、「やまなし」だけを読んでいては感じられない豊 かな読み方を引き出したと言える。

(7)

「青白い火」の表現に立ち止まったB児は、さらにその表現とよく似た「青いほ のお」「青白いほのお」という表現を見つけた。 「青白い火→青いほのお→青白いほのお」と変化しています。月の位置や光の当 たり具合で変化していくんだと思いました。 A児は、「青白い火」は、波が小さく光が小さく揺れているが、次に「青いほのお」 になっているので、色が濃くなり、波が高くなって月の光の揺れが大きくなると想 像した。それが、さらに「青白いほのお」と変化しているというふうに、言葉のわ ず か な 違 い に こ だ わ っ て 波 と 光 の 様 子 を 豊 か に 想 像 し な が ら 読 む 様 子 が 見 ら れ た 。 「やまなし」だけでなく、いろいろな作品から言葉のおもしろさを見つけたことが、 言葉にこだわった読み方につながったと言える。(資料④) ③ 賢治さんの生き方と作品をつなぎながら宮沢賢治の世界を味わったB児 子どもたちは、宮沢賢治について、作者名と童話作家であること以外はあまり知 らなかった。そこで、どのような人物なのか、伝記を読んだりインターネットで調 べたりしようと投げかけた。B児は、まずマンガ伝記シリーズの「宮沢賢治」を借 りて読み始めた。石を集めるだけでなく割ってみたことなど教科書の「イーハトー ヴの夢」には書いてないことが伝記から分かり、宮沢賢治がどんな人なのかを自分 なりに考えて、次のようにノートに書いている。 私は、宮沢賢治は、どんなことにも興味をもってやってみたいという人だと思い ました。石を集めてわってみたと伝記に書いてありました。山歩きも好きだったと 書いてありました。そして、「山はのぼるたびにびっくりする」と言っていたとも 書いてありました。たぶん、その時に風をうけて「風の又三郎」を考えたのかなと 思いました。(中略) 「雨ニモマケズ」は、賢治さんがこんな人になったらという願いだと思います。 本の「雨ニモマケズ」を読み返したらいいと思いました。読んでみようと思います。 このように、B児は、「宮沢賢治は体験したことや気持ちを物語や詩に入れている」 と考え、「やまなし」や他の作品を読み進めている。「やまなし」の「五月」の場面 で「波から来る光のあみが、底の白い岩の上で、美しくゆらゆらのびたり縮んだり しました。」という表現について話し合った後、振り返りカードに、「光のあみがと てもきれいということなのかなとわたしは思いました。賢治さんは、海や川に石を 探しに行ったときに、かにや光のあみを見たんじゃないかなと思いました。」と書い ている。「やまなし」を読みながら、宮沢賢治の生き方を探っているようである。 そして、第二次の最終に「やまなし」全体について感じたことを話し合った時間 に、B児は、グループの話し合いの中で「やまなしは、賢治さんの人生だと思う」 と発言した。自分の考えに自信がなかったB児だったが、グループの友達がきちん と聞いてくれたことで安心し、全体の話し合いでも自信をもって発言することがで

(8)

きた。B児が、「『やまなし』は、賢治さんの人生が書いてあると思いました。『かわ せみ』は、賢治さんをじゃまするもので、本が売れなかったとか、妹のトシが亡く なったことで、『やまなし』は、賢治さんの夢だと思います。」と発言すると、聞い ていた子どもたちが、口々に「へえ∼」「深ーい」「すごーい」と感嘆の声を上げた。 「みんなはどう思う?」と教師が投げかけると、なるほどと思った子どもたちが、「賢 治さんをじゃまするものは、病気もあるよ」「やまなしは、幸せかも・・・」などと 付け加えていった。みんなに認めてもらったA児は、振り返りカードに次のように 書いている。 三つのグループに分かれて、私も意見を言いやすくなった。三人ともきちんと聞 いてくれてうれしかった。最後のグループの、「自然の大好きさを表している」と いうことを聞いて、なるほど∼と思った。 夢はすぐに見つけることができなくて、いろんなこと(かわせみ)がじゃまして きて、でも、夢を見つけたらあきらめずおいかけていくという賢治さんのアドバイ スだと思った。 周りから認めてもらったことで、自分の考えに自信をもつことができた。そして、 B児は「やまなし」の題名について次のようにまとめている。(資料⑤) わたしは、やまなしを読んで、宮沢賢治の人生が書いてあるんじゃないかと思い ました。 かわせみは、宮沢賢治の出来事でじゃまをしてきたものや賢治のショックなこと などを表していると思う。たとえば妹トシが死んだ後だからかわせみは自分(賢治 さん)の衝撃、ショックだと思いました。やまなしは、賢治さんの夢だと思いまし た。かにが3匹やまなしを追いかけるというところでそうじゃないかなと思いまし た。かにが賢治さんだったら、かわせみがつっこんできたときにこわいと言ったか ら、賢治さんは自分の本心を本の中の言葉に入れたと思いました。あと、最初の「ク ラムボンは死んだよ」のところは、妹のトシが死んだことじゃないかなとも思いま した。やまなしでは、かにが流れていくやまなしを追いかけていくところで、夢を 追いかけていく賢治さんということを考えました。 つまり、わたしは、賢治さんが本に書いたことは、賢治さんの人生だとこのこと から考えました。かにの世界をつかって思いを本に書いたと思いました。やまなし という題名の意味もそうだと思います。 B児は、「賢治さんは自分の体験やその時の気持ちを物語に表現している」という 見方で「やまなし」を読んでいった。そして、「やまなし」には宮沢賢治の人生が映 し出されていると感じ、賢治が追いかける夢を表す「やまなし」が希望の象徴として 題名になっていると考えた。宮沢賢治の生き方や考え方について十分に話し合った上 で「やまなし」を読んだことで、主題に迫る深い読みをすることができたといえる。 ④ 追究の持続・発展(資料⑥) 学習を進めながら、第三次に向けて単元名の「伝えよう」の部分について話し合 うと、学習発表会で劇にして伝える以外に、学習したことを他の学年に伝えようと いう声が上がってきた。そこで、単元終了後に、教室に設けた「宮沢賢治コーナー」

(9)

を図書室に設置し、他の学年の人に紹介することにした。 学習のまとめの宮沢賢治紹介カードは、低学年も読むこ とを考えて読み仮名を付けて掲示した。案内板を作った り、読書週間に行われた児童集会で活動紹介をしたりし た。これらの活動を通して、学んだことを教室から外へ と「伝える」活動へと広げていくことができた。 このようにして、読書活動や学習発表会と関連させて単元を構想することによっ て、子どもたちは、追究を持続・発展させることができた。(資料⑦) (2)仮説2について ① 一人一人のよさが生きる話し合いの場 一人一人が自信をもって自分なりの読み方や感じ方をして書き進めることができ るように、机間指導での言葉かけを丁寧に行い、「感じ方は一人一人違っていいんだ よ」と言いながら、一人一人の読み方や感じ方を認めることを大切にした。さらに、 それを話し合う場を設け、いろいろな感じ方があることを認め合いながら宮沢賢治 の世界を味わいたいと考えた。そこで、それぞれのイメージを伝え共有する手立て として、言葉だけでなく具体物や絵を効果的に提示し、互いの思いがより分かりや すく伝わるよう板書等を工夫した。 (12月の場面の話し合いより) C児 ぼくは、金剛石のところで、金剛石はダイヤモンドということが分かって、 暗い中でそれが光って、水の中が夜空みたいになっていると思った。 T 最後の方ですね。みんなで読んでみましょう。 全員 それはまた、金剛石の∼ 〈音読〉 T 夜空みたいだと思ったのね。暗くて… C児 暗くて、それが、月光だったっけ…それが当たってつぶつぶ… T Cさん、絵を描いていたよね。見せてください。 (書画カメラでテレビに拡大して映す) A児 星? T 星なの? A児 粉? T ダイヤモンドの粉が水の中にあるの? C児 ないけど、そういう感じに光っている。 T Cさんの表したいこと分かってあげられる? D児 わたしも、金剛石のところのことで、水がゆれているところに月の光が当た っていて、それがゆれていると思います。それが金剛石の粉みたいにキラキラ している。 T Dさんのキラキラはこんな感じ?(板書しながら)チョークの色は? D児 黄色 E児 わたしも、Dさんと同じ考えで、水面に月明かりが当たってキラキラとゆれ て落ちてくるようだと思います。 T キラキラとゆれて落ちてくるようなのね。ほらほら…(天井を見上げて) Fさん、見えた? B児 わたしも、その前の文に「青白いほのお」と書いてあるから、金剛石の粉は 水面に見えると思いました。色は透明。 G児 わたしもBさんに似ているんだけど、色はちがって、星みたいに光るからカ ラフルな感じをイメージしました。 〔図書室に作った 宮沢賢治コーナー〕

(10)

黒板全体を川の中に見立て、言葉と絵で川の中の世界を創り上げていくようにし た。「何色かな?」「どの辺りに書いたらいいかな?」など、子どもたちに問い返し ながら板書を創っていった。(資料⑧) わたしは、みんなの金剛石の粉のイメージを聞いてすごいと思いました。カラフ ルな金剛石の粉をイメージしている人もいるし、青白いほのおの中に金剛石の粉が あるとイメージする人もいたし、夜空をイメージした人もいたからです。(D児) ぼくは、青白い火を燃やしたり消したりのところが分からなかったけど、Aさん やBさんが、神秘的とか、ガスバーナーの色みたいとか言っていたので、想像がつ いてよかったです。(H児) 黒板に一人一人の意見や絵をかいて、オリジナルの谷川の底ができていいと思い ました。(I児) 黒板の絵が現実的だった。光が入ってきているところなど、「五月」の最初の話 の時にHさんが言ったとおり、小さな谷川の底だけど、「大きな世界」だと思う。 黒板にたくさん絵や言葉を書いていったから。(A児) 教師が板書するだけでなく、黒板に子どもが絵を 描いて思いを表したり、ノートに書いてある絵をテ レビに大きく映して提示したりして一人一人の思い が伝わるようにしたことで、互いの考えを認め合い、 よさを感じることができた。 しかし、多様な読みをして表現することができた が、その色だと思ったのはどの叙述からなのか、キラキラとゆれて落ちてくると思 ったのはどの叙述からなのかなど、叙述と併せて語ることができるような発問の仕 方や切り返しがもっと必要であったことが課題として残る。 ② グループで認められることで自信をもって考えを広めたB児 B児は、とても豊かな感受性をもち自分なりの感じ方で読むことができる児童で ある。しかし、気分にむらがあったり、みんなに何か言われないかと不安になって 黙ってしまったりすることがあり、せっかくもっている考えを十分に表現できない まま授業を終えることがよくあった。 そこで、安心して話すことができる場としてのグループの話し合いを設けた。仮 説1で述べたように、B児は、グループの友達がしっかり聞いてくれたことで安心 して自分の考えを話すことができ、それが自信となって全体の話し合いでも発言す ることができた。11名という少人数であっても、さらに少人数で話をするグルー プ活動は効果があったといえる。 ③ B児の意見を聞いて、さらに自分の読み方を深めようとしたA児 B児は、「やまなし」を宮沢賢治さんの人生が表れていると発言した。これを聞い てA児は、涙ぐむような表情になっていった。自分はそこまで考えられなかったと

(11)

いう悔しさ、あるいは情けなさだったのか、その時間の振り返りには、「わたしは、 あまり考えられなくて浅い考えだったけど、Bさんのグループは、やまなしを人生 にたとえていて深い考えだと思いました。わたしは、そんなことを思いつかなくて 浅い考えだったので、Bさんのグループは、すごいと思います。」と書いている。 その後、A児は、「やまなし」だけでなく、他の作品も賢治さんの生き方や考え方 とつないで考えようとした。学習の最後に「宮沢賢治の世界」全体を考えて次のよ うにまとめた。B児の意見に影響を受けたことが、さらに自分の読みを見直すこと につながったと言える。 私は、賢治さんの夢がつまった理想郷「イーハトーヴ」のような世界があれば、 みんな平和にくらせるのかなと思いました。(中略) 岩手県の自然が大好きなんだと思います。「注文の多い料理店」は、そんな大好 きな自然をこわしたハンターをこらしめる童話なのかなと推測しました。もし、そ の推測が合っているのなら、賢治さんの思いは、私に届いています。他のみんなに も届いていると思います。 賢治さんの人生は、大変なことばかりでした。自然災害がたくさんあったり、本 を出しても売れないし、ひどい批評がかえってきたり、早くに妹を失うなど、つら いこともありました。でも、私は、それを乗り越えた賢治さんだから、今読んでい る「やまなし」や「注文の多い料理店」が書けたんだと思います。 私が想像する賢治さんの世界は、自然が美しくだれもがみんな平等な世界だと思 います。 (3)仮説3について ① 叙述から想像を膨らませていったC児の変容 C児は、計算や漢字など決まった答えがある学習は得意だが、自分が考えた過程 を説明したり、どのように感じたかを表現したりすることは苦手としていた。算数 科でどのように答えを導き出したか説明する場では、「普通にやったらこうなった」 としか言えなかったり、国語科でどのように感じたかと尋ねても「何も思わない」 などと答えたりすることが多かった。 このようなC児に、自分の考えをしっかり書くことを積み重ね、自分の考えの広 がりや深まりを感じてほしいと考えた。そこで、一人読みで何をどのように書くか を明確に指導することと、書く時間を確保することで、書くことが苦手な児童も自 分の考えの記録を残せるようにした。一人読みの仕方は全体指導し、一人読みのし おり(資料⑨)を配布し、いつも教科書に挟んで確認しながらノートに書き込むよ うにした。机間指導では、一言あるいは一文程度から書き込みが進まないときには、 「どこからそう思ったの?」「なぜそう感じたの?」「それで、どう思ったの?」な ど声をかけ、そこから次の言葉が書けたときには「そうね、いいね」等、励ますよ うにした。慣れてくると、「一言書いたら、それに自分で質問して自分で答えながら

(12)

書いてごらん」と声をかけた。初めは、「あまり思うことはない」と3∼4行で終わ っていたC児だったが、やがて1ページぎっしり書くことができるようになった。 また、「五月」の場面の話し合いで板書を谷川の絵にして書いたことをきっかけに、 「十二月」の一人読みの時には、子どもたちから「絵を描 いてもいいですか」と言い、言葉だけでなく絵も描いて考 えたことを表していった。(資料⑩) C 児も 、「波 は、い よい よ青白 いほ のおを ∼金 剛石の 粉 をはいているようでした」の様子を絵と文で表した。(右図) 金剛石の粉 ダイヤモンドの粉とはどんなのだろう。暗い中にちる と夜空みたいのかな。水の中は、夜空できれいだと思う。 「仮説2について①」で述べたように、話し合いの場でこの絵を提示し、「月の光 が当たって暗い中で光って夜空のようになっている」と感じたことを伝え、みんな に認めてもらったという満足感を感じることができた。 みんな、「青白いほのおをゆらゆらあげました」をいろいろな考えをしていたの で、こういう考えもあるなと思いました。ぼくとちがう考えがあってびっくりしま した。 振り返りカードにこのように書き、具体的には表現できていないが、自分の考え を認めてもらってこそ、友達の考えもいろいろあることを認められたのだと考える。 このとき描いた絵がよほど気に入り、最後のまとめの紹介カードにも同じ絵を描い ている。ノートの積み重ねで自分の考えたことが目に見える形で増えていったこと に喜びを感じ、意欲につながったと言える。 5 研究のまとめ (1)解明されたこと 〈仮説1について〉 ・ 単元名について話し合い、子どもたちと学習の仕方の計画を立てて見通しをもっ て取り組むことで、意欲を持続させることができた。 ・ 作者の生き方や考え方に触れたうえで、作品を読むこと。学習発表会を「伝えよ う 宮沢賢治の世界」というテーマで、学習したことを発表する場に設定したこと。 並行読書し、読んだ作品について「紹介カード」に書いて朝の会などに紹介し合っ たりしながらたっぷり宮沢賢治の世界に浸ることなど単元構想を工夫することで、 作者の生き方と作品をつなぎながら読んだり、言葉の面白さを感じながら読んだり して、より豊かに読み味わうことができた。 〔C児が描いた絵〕

(13)

〈仮説2について〉 ・ 一人一人の読み方や感じ方を認めることを大切にし、それぞれのイメージを伝え、 共有するためには、言葉だけでなく具体物や絵の利用、板書の工夫などが効果的で あった。 ・ 11名という少人数であっても、さらに少人数で話をするグループ活動は、安心 して自分の考えを話すことができ、それが自信となって効果があったといえる。 〈仮説3について〉 ・ ノート指導において、一人読みで何をどのように書くかを明確に指導することと、 書く時間を確保すること、一人読みのしおりの活用、机間指導の声かけで、書くこ とが苦手な児童も自分の考えを積み重ねることができた。 (2)今後の課題 ・ 一人一人が自分なりに読んで想像することは大切であるが、叙述と併せて語るこ とができるようにすることが豊かな読みにつながる。発問の仕方や切り返しについ て指導の仕方を考えたい。 ・ 限られた時数の中で学習を効果的に進めるために、1時間の中で何を核にして話 し合うのかポイントを絞ること、ゴールを明確にして振り返りに何を書くのか等を よく考えて、授業を展開しなければならない。 6 終わりに 私が2学期に一番楽しかった勉強は、国語の「味わおう 伝えよう 宮沢賢治の世界」 です。 私は、宮沢賢治さんのことは、名前と本を作った人ということしか知りませんでした。 けれど、伝記をじっくり読んでみたら、賢治さんのことがよく分かってきました。賢治 さんは、自分のことより人のことを考える優しい人、自分の自由な心を物語に出せる人 だと思いました。また、出版した本が売れなかったり、病気になったり、妹が亡くなっ たりして大変な一生だったことも分かりました。 「銀河鉄道の夜」や「やまなし」を読んだとき、最初は「なんだこれ、この作品のど こがいいの」と思ったけれど、賢治さんの気持ちが入っていると考えながら読むとおも しろくなってきました。 (中略) この勉強の最後に、みんなで図書室に「宮沢賢治コーナー」作って全校のみんなにも 読んでもらえるようにしました。私が図書委員で貸し出しをしていると、「宮沢賢治コ ーナーはどこですか」とか、「おもしろそうだから借りよう」と言ってくれる人がいた ので、全校のみんなにも伝えられてよかったなと思いました。 私は図書委員なので、もっとみんなに賢治さんの童話のおもしろさを知ってもらえる ように、読み聞かせができたらいいなと思っています。そして、賢治さんの本だけでな く、いろいろな本をもっと読んでいきたいと思います。 B児が、2学期を振り返って書いた作文である。この学習が、単元を超えてB児の生 活につながっていったことをうれしく思う。 今、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」が、東日本大震災の復興に向かう東北の人々の心の 支えとなっている。この学習を通して宮沢賢治の強く優しい生き方を学んだことが、今 後子どもたちの心に残ることを願っている。

参照

関連したドキュメント

1) 特に力を入れている 2) 十分である 3) 課題が残されている. ] 1) 行っている <選択肢> 2) 行っていない

かくして Appleton の言及は, 内に概念的先駆者とし ての自負を滲ませながらも, きわめてそっけない.「隠 れ場」にかかる言説で, Gibson (1979) が

「文字詞」の定義というわけにはゆかないとこ ろがあるわけである。いま,仮りに上記の如く

これらの先行研究はアイデアスケッチを実施 する際の思考について着目しており,アイデア

この chart の surface braid の closure が 2-twist spun terfoil と呼ばれている 2-knot に ambient isotopic で ある.4個の white vertex をもつ minimal chart

「カキが一番おいしいのは 2 月。 『海のミルク』と言われるくらい、ミネラルが豊富だか らおいしい。今年は気候の影響で 40~50kg

わかりやすい解説により、今言われているデジタル化の変革と

 このようなパヤタスゴミ処分場の歴史について説明を受けた後,パヤタスに 住む人の家庭を訪問した。そこでは 3 畳あるかないかほどの部屋に