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不正会計とコーポレート・ガバナンスに関する実証 分析

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(1)

不正会計とコーポレート・ガバナンスに関する実証 分析

著者 増田 友樹

雑誌名 同志社法學

巻 67

号 3

ページ 1378‑1346

発行年 2015‑07‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015561

(2)

不正会計とコーポレート・ガバナンスに 関する実証分析

増  田  友  樹 

第1章 はじめに 第2章 先行研究  第1節 紹介  第2節 まとめ

第3章 不正会計とコーポレート・ガバナンスに関する実証分析  第1節 サンプル

 第2節 分析手法  第3節 実証結果  第4節 結論 第4章 おわりに

第1章 はじめに

 本稿は、不正会計とコーポレート・ガバナンスとの間にどのような関係が あるのか(あるいは関係がないのか)ということを実証的に検討するもので ある。

 近年、わが国では、オリンパスや大王製紙の不正会計(1)が問題となった。こ のような上場企業の不正会計が問題になった場合、株式を保有していた投資 家の経済的な利益だけでなく、市場全体に対する投資家の信頼も損なわれる おそれがある。そこで、金融商品取引法(以下、金商法とする)は、開示書

(*)本稿の執筆に際しては、法の経済分析ワークショップの参加者から多くの貴重なコメン トを頂きました。深く感謝申し上げます。

(1) 本章では、「不正会計」という用語を「適切でない会計処理が行われる」といった広い意 味で用いる。実証研究を行うにあたっての厳密な「不正会計」の定義は、第3章で詳しく 述べる。

(3)

類の虚偽記載等に対する課徴金や発行者・役員等の民事責任など様々なエン フォースメントを設けることで、不正会計を事後的に規制する(2)

 他方で、不正会計を事前に防止するという意味では、コーポレート・ガバ ナンスにその役割が期待される。オリンパスの不正会計が明らかになった時 も、取締役会や監査役の働きが問題にされ(3)、会計の知見を有する社外監査役 を置くことも提案された(4)。また、わが国のコーポレート・ガバナンスに関す る規制、とりわけ監査役制度は、企業の不正会計をきっかけに改正されてき たといえる(5)

 もっとも、不正会計を事前に防止することが望ましいにしても、わが国の コーポレート・ガバナンスがそのことにどの程度役立っているのかは、これ まで十分に検証されてこなかった。少なくとも、不正会計が問題になった事 案だけを取り上げて、コーポレート・ガバナンスについて論じたところで、

事案によりけりとしかいえないだろう(6)

(2) エンフォースメントの概要について、松尾直彦『金融商品取引法〔第3版〕』(商事法務、

2014年)181-199頁参照。

(3) たとえば、週刊東洋経済6366号(2011年)では、「ガバナンス不全症候群」という特集の 中で、オリンパスや大王製紙の事件が取り扱われている。

(4) 大杉謙一「監査役の役割と責任―オリンパス事件を題材に」企業会計64巻5号(2012年)

84頁。さらに、神作裕之「取締役会の独立性と会社法」商事法務2007号(2013年)52頁で は、独立取締役が不正会計の監督に役立つことが期待されている。

(5) 昭和49年改正では、山陽特殊製鋼やサンウエーブ工業など上場企業の粉飾決算が相次い で発覚したことを受けて、監査役に業務監査権限が付与された。その後も、ロッキード事 件など大企業の不正支出が問題となり、昭和56年改正では、大会社に複数監査役・常勤監 査役の選任が義務付けられた。また、平成5年改正では、証券会社の大口顧客への損失補 てんなどの証券不祥事を背景に、大会社に監査役3人以上および社外監査役1人以上の選 任が義務付けられた。さらに、平成13年改正では、社外監査役の人数が監査役の半数以上 であることが義務付けられた。伊藤靖史ほか『会社法〔第3版〕』(有斐閣、2015年)198

頁Colum4-21、佐藤敏昭『監査役制度の形成と展望』(成文堂、2010年)65-79頁参照。

(6) オリンパスの事案では、社外取締役が3人もいたことが指摘されている。飯田秀総「オ リンパス・大王製紙事件」大証金融商品取引法研究会報告10号(2012年)142頁〔飯田発言〕

参照。もっとも、そうだからといって、「今回のオリンパスの社外取締役の属性の方々は、

…全部独立取締役になり得る人たちです…だから、独立取締役の独立性を強化しても、こ れも結局ガバナンスとしてはあまり意味がないということになりそうです」同142頁〔行 澤発言〕といった結論を導けるわけでもない。

(4)

 そこで、本稿では、コーポレート・ガバナンスの中でも、特に取締役会の 構成および監査役会の構成に焦点をあてて、不正会計との間にどのような関 係があるのかを明らかにしたい。

第2章 先行研究

 わが国では、1999年から2001年を対象に、不正会計(裁量的会計発生高)

とコーポレート・ガバナンスとの関係について分析した実証研究がある(7)。そ こでは、取締役会に占める社外取締役の割合が増加するほど、不正会計も行 われやすいことが指摘されている(8)

 アメリカでは、1990年代中頃以降、不正会計と取締役会および監査委員 会との関係に着目した実証研究が公表されてきた(9)。それらの実証研究が用い た方法は、大きく2つに分けられる。

 1つは、不正会計を行った企業群と特定の基準にもとづいてマッチングさ れた企業群のコーポレート・ガバナンスに関係する指標(取締役会に占める 社外取締役の割合など)を比較するものである(以下の紹介では、この方法

(7) 矢澤憲一「コーポレート・ガバナンスと裁量的会計発生高―取締役会の構造を中心とし て―」一橋論叢131巻5号(2004年)509頁。また、Nobuyuki Teshima & Shuto Akinobu, Managerial Ownership and Earnings Management: Theory and Empirical Evidence from Japan, J. INTL. FIN. MGMT. & ACCT., May. 2008, at 107. が、日本の企業を対象に、経営 陣の株式保有と利益調整との関係について検討する。さらに、首藤昭信・岩崎拓也「監査 役会および取締役会の独立性と保守主義の適用」産業経理69巻1号(2009年)89頁が、監 査役会および取締役会と会計上の保守主義との関係について検討する。

(8) ただし、分析対象となった時期の商法には、社外取締役の定義が定められていなかった。

そこで、矢澤は、社外取締役の定義を「当該企業以外から登用された取締役」のうち「当 該企業において取締役としての経験が10年以内の取締役」としている。そして、このよう な実証結果になった理由として、社外取締役が親会社やグループ会社から派遣されている 者が多いといった説明がされている。矢澤・前掲注(7)523頁参照。

(9) 先 行 研 究 に つ い て は、Roberta Romano, The Sarbanes-Oxley Act and the Making of Quack Corporate Governance, 114 YALE. L.J. 1530, 1530-32(2005)、大城直人「不正会計 の早期発見に関する海外調査・研究報告書」金融庁金融研究センターディスカッションペー パー(2014年8月)16、47-48頁を参考にした。後者については、金融庁のwebサイト(http://

www.fsa.go.jp/frtc/seika/seika.html)から入手できる。

(5)

によるものを「マッチング」とよぶ)。

 もう1つは、マッチングを行った上で、コーポレート・ガバナンスに直接 関係しない指標(企業の業績など)も含めたモデルを用いて、ロジスティッ ク回帰分析(一部は重回帰分析)を行うものである(10)

 以下では、それらの実証研究を本稿に必要な範囲で紹介していく。

第1節 紹 介

 ⑴ Beasley

(11)

 分析手法には、ロジスティック回帰分析が用いられる(サンプル数150 社)(12)

 不正会計を行った企業は、「証券取引所法規則10(b)-5に違反したとし て

SEC

に よ っ て エ ン フ ォ ー ス さ れ た 企 業(Accounting and Auditing

Enforcement Release(AAER

(13))に掲載された企業)あるいは

Wall Street Journal Index(WSJ)で『Crime―White Collar Crime』キャプションが付

いている企業」とされる(14)。その上で、「証券取引所、企業サイズ(時価総額)、

業種、時期」という条件にもとづきマッチングが行われる(15)

 説明変数には、「取締役会に占める社外取締役の割合、監査委員会を設置 している場合を1とするダミー変数、上場年数、役員等の株式保有割合、

CEO

が取締役を務めた期間、不正会計が行われる前6期のうち純損失を3 期以上計上していた場合を1とするダミー変数」などが用いられる(16)

(10)なお、重回帰分析の場合、マッチングは行われない。

(11)Mark S. Beasley, An Empirical Analysis of the Relation Between the Board of Director Composition and Financial Statement Fraud, 71 ACCT. REV. 443(1996).

(12)Id. at 451.

(13)AAERには、SECが、開示書類について不実表示などがあった場合に民事手続あるいは 行政手続を用いてエンフォースした事件が掲載されている。これについては、SECの Webサイトで確認できる(http://www.sec.gov/divisions/enforce/friactions.shtml)。なお、

以下では、単に「AAERに掲載された企業」と表記する。

(14)Beasley, supra note 11, at 448.

(15)Id. at 450.

(16)Id. at 456 table 2, 459 table 4.

(6)

 その結果、取締役会に占める社外取締役の割合が増加すると、不正会計も 行われにくいことが有意(1%水準)に認められた(17)

 ⑵ Dechow ほか

(18)

 分析手法には、マッチングが用いられる(サンプル数176社)(19)

 不正会計を行った企業は、「AAERに掲載された企業」とされる(20)。その上で、

「企業サイズ(総資産)、業種、時期」という条件にもとづきマッチングが行 われる(21)

 比較する指標には、「取締役会に占める役員の割合の平均、監査委員会を 設置している企業の割合、役員の株式保有割合の平均、取締役人数の平均、

大手監査法人を利用する企業の割合」などが用いられる(22)

 その結果、不正会計を行った企業群とそうでない企業群では、取締役会に 占める役員の割合の平均、監査委員会を設置している企業の割合、役員の株 式保有割合の平均に有意な差(1%水準)が認められた(23)

 ⑶ Mcmullen & Raghunandan

(24)

 分析手法には、不正会計を行った企業とランダムに抽出した企業のコーポ レート・ガバナンスに関係する指標を比較する方法が用いられる(サンプル 数128社)(25)。ただし、これらの指標について、統計的に有意な差があるかど

(17)Id. at 456 table 2, 459 table 4.

(18)Patricia M. Dechow et al., Causes and Consequences of Earnings Manipulation : An Analysis of Firms Subject to Enforcement Actions by the SEC, 13 CONTEMP. ACCT. RES. 1

(1996).

(19)Id. at 22 table8. なお、ロジスティック回帰分析も用いられており、(独自に定義された)

ガバナンス構造の弱さが不正会計と有意な関係にあることが認められている。

(20)Id. at 7.

(21)Id. at 9.

(22)Id. at 22 table8.

(23)Id. at 22 table8.

(24)Dorothy A. Mcmullen & K. Raghunandan, Enhancing Audit Committee Effectiveness, J.

ACCT., Aug. 1996, at 79.

(25)Id. at 79.

(7)

(26)Id. at 79.

(27)Id. at 80.

(28)Id. at 80.

(29)Lawrence J. Abbott et al., The Effects of Audit Committee Activity and Independence on Corporate Fraud, 26 MANAGERIAL FIN. 55(2000).

(30)Id. at 55, 66 table 2.

(31)Id. at 55.

(32)Id. at 55.

うかは検定されていない。

 不正会計を行った企業は、「SECにエンフォースされた企業あるいは四半 期収益について重大な訂正があった企業(両方に該当する企業も含む)」と される(26)

 比較する指標には、「監査委員会のメンバー全員が社外取締役である企業 の割合、監査委員会に公認会計士の資格を有する取締役が1人以上含まれて いる企業の割合」などが用いられる(27)

 その結果、不正会計を行った企業群は、そうでない企業群に比べて、上記 指標の割合が小さいことが確認された(28)

 ⑷ Abbott ほか

(29)

 分析手法には、ロジスティック回帰分析が用いられる(サンプル数156 社)(30)

 不正会計を行った企業は、「AAERに掲載された企業」とされる(31)。その上で、

「証券取引所、企業サイズ(時価総額)、業種、時期」という条件にもとづき マッチングが行われる(32)

 説明変数には、「取締役会に占める社外取締役の割合、監査委員会に内部 取締役(従業員取締役)が含まれていない、かつミーティングの開催が年2 回以上の場合を1とするダミー変数、監査委員会に従業員あるいは役員・会 社と利害関係のある取締役が含まれていない場合を1とするダミー変数、上 場年数、不正会計が行われる前6期のうち純損失を3期以上計上していた場

(8)

合を1とするダミー変数」などが用いられる(33)

 その結果、監査委員会に内部取締役が含まれていない、かつミーティング の開催が年2回以上の場合および監査委員会に従業員あるいは役員・会社と 利害関係のある取締役が含まれていない場合には、不正会計も行われにくい ことが有意(0.1~1%水準)に認められた(34)

 ⑸ Beasley ほか

(35)

 分析手法には、マッチングが用いられる(サンブル数132社)(36)

 不正会計を行った企業は、「AAERに掲載された企業」とされる(37)。その上で、

「企業サイズ(売上高)、業種」という条件にもとづきマッチングが行われ

(38)

 比較する指標には、「取締役会の過半数が社外取締役である企業の割合、

監査委員会のメンバー全員が社外取締役である企業の割合、取締役人数の平 均」などが用いられる(39)

 その結果、不正会計を行った企業群とそうでない企業群では、取締役会の 過半数が社外取締役である企業の割合および監査委員会のメンバー全員が社 外取締役である企業の割合に有意な差(5~10%水準)が認められた(40)

 ⑹ Klein

(41)

 分析手法には、重回帰分析が用いられる(サンプル数692社)(42)

(33)Id. at 58.

(34)Id. at 66 table2.

(35)Mark S. Beasley et al., Fraudulent Financial Reporting : Consideration of Industry Traits and Corporate Governance Mechanisms, 14 ACCT. HORIZONS 441 (2000).

(36)Id. at 451 table3.

(37)Id. at 445.

(38)Id. at 446.

(39)Id. at 451 table3.

(40)Id. at 451 table3.

(41)April Klein, Audit Committee, Board of Director Characteristics, and Earnings Management, 33 J. ACCT. & ECON. 375(2002).

(42)Id. at 387.

(9)

 被説明変数には、「サンプル企業の異常な会計発生高(43)から総会計発生高の 標準偏差が同じ会社群の異常な会計発生高の中央値を取り除いた数値(異常 値)」が用いられる(44)。説明変数には、「取締役会に占める社外取締役の割合が 51%以上の場合を1とするダミー変数、取締役会に占める社外取締役の割合、

監査委員会に占める社外監査役の割合が51%以上の場合を1とするダミー 変数、監査委員会のメンバー全員が社外取締役である場合を1とするダミー 変数、監査委員会に占める社外取締役の割合、CEOの株式保有割合」など が用いられる(45)

 その結果、取締役会および監査委員会に占める社外取締役の割合が51%以 上の場合には、異常値が減少することが有意(1%水準)に認められた。さ らに、監査委員会に占める社外取締役の割合が増加すると、異常値が減少す ることが有意(1%水準)に認められた(46)

 ⑺ Xie ほか

(47)

 分析手法には、重回帰分析が用いられる(サンプル数282社)(48)

 被説明変数には、「短期的かつ裁量的な会計発生高の数値」が用いられ

(49)

。説明変数には、「取締役会に占める社外取締役の割合、監査委員会に占 める社外取締役の割合、取締役会に占める現在または過去に上場企業の役員 を務めた取締役の割合、取締役人数、社外取締役としての勤務期間の平均」

などが用いられる(50)

(43)会計発生高とは、会計上の利益からキャッシュフロー部分を取り除いたものである。矢澤・

前掲注(7)514頁。

(44)Klein, supra note 41, at 390 table6.

(45)Id. at 389 table6.

(46)Id. at 389 table6.

(47)Biao Xie et al., Earnings Management and Corporate Governance: the Role of the Board and the Audit Committee, 9 J. CORP. FIN. 295(2003).

(48)Id. at 308 table4.

(49)Id. at 301.

(50)Id. at 308 table4, 309 table5.

(10)

 その結果、取締役会に占める現在または過去に上場企業の役員を務めた取 締役の割合および取締役人数が増加すると、裁量的な会計発生高が減少する ことが有意(1~5%水準)に認められた。一方で、社外取締役としての勤 務期間の平均が長くなると、裁量的な会計発生高が増加することが有意(5

%水準)に認められた(51)

 ⑻ Bédard ほか

(52)

 分析手法には、多項ロジスティック回帰分析が用いられる(サンプル数 3451社)(53)

 不正会計を行った企業は「異常な会計発生高を計上している企業」とされ

(54)

 説明変数には、「監査委員会に財務専門家の取締役が含まれている場合を 1とするダミー変数、監査委員会に占める独立取締役の割合が50%以上100

%未満である場合を1とするダミー変数、監査委員会に占める独立取締役の 割合が100%である場合を1とするダミー変数、監査法人が大手である場合 を1とするダミー変数」などが用いられる(55)

 その結果、監査委員会に財務専門家の取締役が含まれている場合には、不 正会計が行われにくいことが有意(1~5%水準)に認められた。また、監 査委員会に占める独立取締役の割合が100%である場合にも、不正会計が行 われにくいことが有意(5%水準)に認められた(56)

(51)Id. at 308 table4.

(52)Jean Bédard et al., The Effect of Audit Committee Expertise, Independence, and Activity on Aggressive Earnings Management, AUDITING: J. PRAC. & THEORY, Sept. 2004, at 13.

(53)Id. at 24.

(54)Id. at 19.

(55)Id. at 22-24.

(56)Id. at 28 table 4.

(11)

 ⑼ Uzun ほか

(57)

 分析手法には、ロジスティック回帰分析が用いられる(サンプル数266 社)(58)

 不正会計を行った企業は、「WSJ Indexで『crime』キャプションあるい は『fraud』キャプションが付いている企業」とされる(59)。その上で、「業種、

企業サイズ(時価総額)」という条件にもとづきマッチングが行われる(60)。  説明変数には、「取締役会に占める社外取締役および独立取締役の割合、

監査委員会に占める社外取締役の割合、取締役人数、CEOが取締役を務め た期間、不正会計が行われる前6期のうち純損失を3期以上計上していた場 合を1とするダミー変数、機関投資家の株式保有割合」などが用いられる(61)。  その結果、取締役会に占める社外取締役および独立取締役の割合が増加す ると、不正会計も行われにくいことが有意(1%水準)に認められた(62)

 ⑽ Abbott ほか

(63)

 分析手法には、ロジスティック回帰分析が用いられる(サンプル数176 社)(64)

 不正会計を行った企業は、「Dow Jones Interactive Detabase (その他複数 のデータベース)を用いて『restatement』という用語で検索して抽出され た企業」とされる(65)。その上で、「証券取引所、企業サイズ(時価総額)、監査

(57)Hatice Uzun et al., Board Composition and Corporate Fraud, 60 FIN. ANALYSTS J., May/

June. 2004, at 33.

(58)Id. at 35.

(59)Id. at 33.

(60)Id. at 34.

(61)Id. at 38.

(62)Id. at 40 table2.

(63)Lawrence J. Abbott et al., Audit Committee Characteristics and Restatements, AUDITING: J. PRAC. & THEORY, March. 2004, at 69.

(64)Id. at 79.

(65)Id. at 75.

(12)

法人、業種」という条件にもとづきマッチングが行われる(66)

 説明変数には、「取締役人数、取締役会に占める社外取締役の割合、監査 委員会の構成員全員が独立取締役である場合を1とするダミー変数、監査委 員会に財務専門家の独立取締役が含まれている場合を1とするダミー変数、

上場年数、社外取締役の株式保有割合」などが用いられる(67)

 その結果、取締役の人数が増えると、不正会計が行われやすいことが有意

(5%水準)に認められた。また、上場年数が短いと、不正会計が行われや すいことが有意(5%水準)に認められた。一方で、監査委員会の構成員全 員が独立取締役である場合や監査委員会に財務専門家の独立取締役が含まれ ている場合には、不正会計が行われにくいことが有意(1%水準)に認めら れた(68)

 ⑾ Carcello & Nagy

(69)

 分析手法には、条件付きロジスティック回帰分析が用いられる(サンプル 数208社)(70)

 不正会計を行った企業は、「AAERに掲載された企業」とされる(71)。そして、

「時期、業種、企業サイズ(総資産)」という条件にもとづきマッチングが行 われる(72)

 説明変数には、「取締役会に占める従業員でない取締役の割合、取締役人数、

上場年数、監査法人が大手である場合を1とするダミー変数」などが用いら れる(73)

(66)Id. at 75.

(67)Id. at 83 table4.

(68)Id. at 83 table4.

(69)Joseph V. Carcello & Albert L. Nagy, Audit Firm Tenure and Fraudulent Financial Reporting, AUDITING: J. PRAC. & THEORY, September. 2004, at 55.

(70)Id. at 64.

(71)Id. at 61.

(72)Id. at 61. なお、マッチングを行わずに、データベース上のすべての企業をサンプルにし た分析も行われている。

(73)Id. at 65 table3.

(13)

 その結果、取締役会に占める従業員でない取締役の割合が増加すると、不 正会計が行われにくいことが有意(1%水準)に認められた。また、監査法 人が大手である場合にも、不正会計が行われにくいことが有意(1%水準)

に認められた。一方で、取締役の人数が増加すると、不正会計が行われやす いことが有意(5%水準)に認められた(74)

 ⑿ Agrawal & Chadha

(75)

 分析手法には、条件付きロジスティック回帰分析が用いられる(サンプル 数240社(モデルによって数は異なる))(76)

 不正会計を行った企業とは、「the Lexis-Nexis news library等(その他2 つのデータベース)で、『restat』あるいは『revis』という用語で検索して 抽出された企業」とされる(77)。そして、「業種、企業サイズ(時価総額)」とい う条件にもとづきマッチングが行われる(78)

 説明変数には、「取締役会に占める独立取締役の割合、監査委員会に占め る独立取締役の割合、取締役会に財務専門家の独立取締役がいる場合を1と するダミー変数、監査委員会に財務専門家の独立取締役がいる場合を1とす るダミー変数」などが用いられる(79)

 その結果、取締役会に財務専門家の独立取締役がいる場合および監査委員 会に財務専門家の独立取締役がいる場合には、不正会計が行われにくいこと が有意(1~5%水準)に認められた(80)

(74)Id. at 65 table3.

(75)Anup Agrawal & Sahiba Chadha, Corporate Governance and Accounting Scandals, 48 J.

L. & ECON. 371 (2005).

(76)Id. at 394.

(77)Id. at 379.

(78)Id. at 380.

(79)Id. at 395 table7.

(80)Id. at 395 table7.

(14)

 ⒀ Farber

(81)

 分析手法には、マッチングが用いられる(サンプル数174社)(82)

 不正会計を行った企業は、「AAERに掲載された企業」とされる(83)。その上で、

「業種、企業サイズ(売上高)、証券取引所」という条件にもとづきマッチン グが行われる(84)

 比較する指標には、「取締役会に占める社外取締役の割合の平均、監査委 員会に占める社外取締役人数の平均、社外取締役人数の平均、取締役人数の 平均、大手監査法人を用いる企業の割合」などが用いられる(85)

 その結果、不正会計を行った企業群とそうでない企業群では、取締役会に 占める社外取締役の割合の平均、社外取締役人数の平均、大手監査法人を用 いる企業の割合に有意な差(1~10%水準)が認められた(86)

第2節 まとめ

 ⑴ 実証結果

 これまでに紹介したアメリカの先行研究について、主な結果として、次の ことが指摘できる。

 第1に、取締役会に占める社外取締役の割合が増加するほど、不正会計が 行われにくくなる。この結果からは、社外取締役自身あるいは社外取締役が 多数を占める取締役会は、独立した立場から適切なモニタリングを行うこと ができるということが考えられる(87)

(81)David B. Farber, Restoring Trust after Fraud : Does Corporate Governance Matter? 80 ACCT. REV. 539 (2005).

(82)Id. at 549-50 table3.

(83)Id. at 542.

(84)Id. at 544.

(85)Id. at 549-50 table3.

(86)Id. at 549-50 table3.

(87)Agrawal & Chadha, supra note 75, 374.

(15)

 第2に、不正会計と監査委員会との関係については、必ずしも明らかでな い。取締役会の場合と異なり、実証結果は様々である(88)

 第3に、取締役の人数が増加するほど、不正会計が行われやすくなる。こ の結果からは、取締役の人数が多い場合には、取締役間のコミュニケーショ ン不足や能率の悪化により、モニタリングを適切に行うことができないとい うことが考えられる(89)

 その他にも、監査法人が大手である場合(90)や財務専門家の独立取締役がいる 場合には、不正会計が行われにくいことが指摘されていた。

 ⑵ 分析方法   1 指 標

 「不正会計」の指標は、大きく2つに分けられる。1つは、「AAERに掲載 された企業」である。もう1つは、「裁量的な会計発生高」である。前者の 場合、基準は明確であるものの、サンプル数が比較的少ない傾向にある。後 者の場合、サンプル数は多いものの、コーポレート・ガバナンスと結び付け て考えるべき問題かどうかは微妙である。裁量的な会計発生高は、基本的に は会計基準の範囲内で行われる利益調整を対象にするもので、必ずしも違法 なものとはいえないからである(91)

(88)Romano, supra note 9, at 1532. なお、Romanoの問題意識は、サーベンス・オクスリー 法が監査委員会のメンバー全員が独立取締役であることを要求する点にあった。したがっ て、Romanoがサーベンス・オクスリー法に実証的な根拠がないと指摘する理由は、監査 委員会の構成員全員が独立取締役である場合に、不正会計が行われにくいという実証結果 があまり得られていないからであり、決して、取締役会や監査委員会に占める社外取締役 の割合に関する実証結果までを否定しているわけではない。また、1604頁Table4で紹介 されている実証結果も監査委員会の独立性が対象であり、取締役会の独立性ではないこと に留意する必要がある。

(89)Abbott et al., supra note 63, at 78.

(90)大手監査法人の場合には、良質な監査サービスを提供しているという評判を維持するこ とが重要になる。Agrawal & Chadha, supra note 75, at 378.

(91)大城・前掲注(9)5頁。

(16)

  2 アプローチ

 マッチングのみの場合、コーポレート・ガバナンス以外の要因(たとえば 業績が不正会計の発生確率に与える影響)は考慮されない。他方で、ロジス ティック回帰分析の場合、それらの要因も含めることができる。紹介したア メリカの先行研究は、ロジスティック回帰分析を用いるものが多い。

  3 説明変数

 取締役の人数や取締役会に占める社外取締役の割合、監査委員会に占める 社外取締役の割合、財務専門家の社外取締役がいるかどうかは、コーポレー ト・ガバナンスに関係する指標として頻繁に用いられていた。本稿では、監 査委員会の代わりに、監査役の人数や監査役会に占める社外監査役の割合を 指標として用いることになる。また、アメリカに比べると、わが国では、社 外取締役が普及しているとはまだ言い難い。そのため、社外取締役の人数や 割合だけでなく、そもそも社外取締役を選任しているかどうかも含めて検討 すべきだろう。

第3章 不正会計とコーポレート・ガバナンスに関する実証分析

 ここからは、わが国のデータを用いて、不正会計とコーポレート・ガバナ ンスとの間にどのような関係があるのかを検討していく。

第1節 サンプル

 不正会計を行った企業は、「金商法172条の2~4、7~8、11に基づく 課徴金納付命令勧告の対象になった企業(92)」とする。これは、いわゆる金商法

(92)金商法制定前については、「証券取引法172条および172条の2に基づく課徴金納付命令勧 告の対象になった企業」である。なお、サンプル数を増やすためには、このような定義に 加えて、訂正報告書を提出した企業の中から一定の基準でサンプル企業を採取するという 方法もありうる。しかし、本稿では、この場合の一定の基準について、客観的かつ適切な 基準を設定できなかったことから、そのような方法を採用していない。

(17)

上の情報開示規制に違反したことにより、証券取引等監視委員会の課徴金納 付命令勧告の対象になった企業である(93)。定義としては、アメリカの先行研究 で用いられていた「AAERに掲載された企業」に近い。本稿は、基準の明確 性を重視して、この定義を用いた。

 証券取引等監視委員会の

HP

およびそこで公表されている年次報告資料(94)に よれば、情報開示規制違反に対する課徴金制度が導入されてから平成26年 12月までに、86件が「開示書類の虚偽記載等」に基づく課徴金納付命令勧 告の対象となっている(表1参照)。

表1 開示書類の虚偽記載等に関する課徴金納付命令勧告の件数

年度

H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26

合計 件数 5 10 12 5 19 11 9 9 6 86

 これら86件のうち17件は、有価証券報告書を入手できない(6件)(95)、上場 していない企業が有価証券届出書を提出せずに募集を行ったものである(2 件)、対象者が個人である(4件)、マッチング対象の企業が見つからない(3 件)、委員会設置会社である(1件)、同一企業による重複である(1件)、

という理由により除外された。表2は、それらを除外した後の企業69社の業 種および上場されていた証券取引所をまとめたものである。

(93)以下では、単に「課徴金の対象になった企業」「課徴金の対象になった決算期」といった 表現を用いる。

(94)http://www.fsa.go.jp/sesc/reports/reports.htmから入手できる。

(95)ここでいうところの入手できないとは、本研究で用いた企業情報データベースから入手 できないという意味である。

(18)

表2 業種および上場されていた証券取引所 ジ ャ ス

ダック 東 証 1部

マザ ーズ

ヘラク レス

大証 2部

東証 2部

セント レック ス

札幌 福岡 合計

情報・通信 2 2 6 4 1 15

サービス 2 2 4 1 1 1 11

卸売 5 1 2 1 1 10

建設 2 2 2 1 7

電気機器 2 4 6

小売 2 2 1 5

機械 2 1 1 4

不動産 1 2 4

食料品 1 1 2

倉庫・運輸 関連

1 1 2

精密機器 1 1

非鉄金属 1 1

輸送用機器 1 1

合計 18 18 14 7 4 4 2 1 1 69

 次に、上場企業の中から(委員会設置会社を除く)、4つの条件「業種・

証券取引所・企業サイズ(総資産)・時期」にもとづきマッチング(1対1 マッチング)を行い、「不正会計を行っていない企業」を採取した。

 「業種」は、東証が採用している業種区分を基準とした。「証券取引所」は、

対象企業の株式が上場されている証券取引所を基準とした。「企業サイズ(総 資産)」は、有価証券報告書の企業の概況欄に記載されている総資産額を基 準とした(96)。「時期」は、課徴金の対象になった最初の決算期を基準とした(97)。  なお、マッチングを行うにあたっては、企業情報データベース「eol」の

(96)連結ベースの総資産を対象に検索した。

(97)たとえば、課徴金の対象になった有価証券報告書が2010年3月期であれば、2010年3月31 日から2011年3月30日までの有価証券報告書を同一時期とみなした。

(19)

スクリーニング機能を利用した(98)。また、各社の有価証券報告書についても、

eol

から取得した。

 表3は、不正会計を行った企業とそうでない企業の総資産や取締役人数等 の記述統計である。いずれの指標の平均値についても、有意な差は認められ ない(99)

表3

総 資 産

(百万円)

取 締 役

(人)

社外取締 役(人)

社外監査 役(人)

専門家社 外監査役

(人)

不正会計 あり

平均値 111

,

123 6

.

80 0

.

87 2

.

43 0

.

72 標準偏差 339

,

355 2

.

96 1

.

11 0

.

67 0

.

80 最大値 2

,

154

,

837 17 5 4 3

最小値 162 3 0 1 0

不正会計 なし

平均値 106,170 7.74 0.90 2.42 0.83 標準偏差 319,583 4.22 1.14 0.60 0.77 最大値 2,041,183 24 4 4 3

最小値 593 3 0 1 0

t

値 -0.0883 1.5165 0.1513 -0.1329 0.7597

P

値  0.9298 0.1317 0.8799  0.8944 0.4488

第2節 分析手法

 ⑴ アプローチ

 企業および経営者は、不正会計を行った場合の利得が不正会計を行わなか

(98)マッチングされた企業の有価証券報告書を入手できない場合には、業種・証券取引所・

時期をマッチングした上で、不正会計を行った企業に総資産額が二番目に近い企業を「不 正会計を行っていない企業」として採取した。

(99)専門家社外監査役の定義については、本章第2節で説明する。なお、社外監査役の最小 値が1人となっているのは、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律第1条の 2でいうところの大会社に該当しない企業が含まれていることによる。

(20)

った場合の利得を上回るのであれば、不正会計を行うことを選択すると仮定 する。さらに、この選択は、大きく2つの要因に影響されるものと考えられ る。

 第1の要因は、コーポレート・ガバナンスである。たとえば、社外取締役 がいる場合には、不正会計を行うことが困難になるかもしれない。

 第2の要因は、企業および経営者に関する個別の要因である。たとえば、

役員報酬にストック・オプションが用いられている場合には、不正会計を行 おうとするインセンティブが強まるかもしれない。

 以上のとおり、本稿では、コーポレート・ガバナンスだけでなく、個別の 要因(以下、コントロール変数という)も考慮するために、ロジスティック 回帰分析を用いる。

 ロジスティック回帰分析とは、被説明変数を質的変数とする非線形モデル であり、次の数式で表される累積分布関数である(100)。この手法は、簡単にいえ ば、特定の要因(説明変数)によって、特定の出来事(被説明変数)が生じ る確率を知るために用いられる。

Pr

(x)= 1       1+

exp

(-x)

 本稿のように、どのようなコーポレート・ガバナンス(説明変数)によっ て不正会計が行われやすいのかを知りたい場合には、「不正会計を行ったか どうか」を被説明変数にすればよい。そして、「不正会計を行ったかどうか」

は質的変数であることから、「不正会計を行った場合」を1、「不正会計を行 っていない場合」を0という変数に置き換える必要がある。もっとも、この

(100)浅野晳・中村二郎『計量経済学〔第2版〕』(有斐閣、2009年)213頁以下、森田果『実 証分析入門』(日本評論社、2014年)134頁以下参照。なお、本稿では、マッチングを行っ ていることから、厳密にいえば条件付きロジスティック回帰分析を用いている(丹後俊郎 ほか『ロジスティック回帰分析〔新版〕』(朝倉書店、2013年)34頁以下、DAVID W. HOSMER

& STANLEY LEMESHOW, APPLIED LOGISTIC REGRESSION 223-35 (2d ed. 2000))。マッチングを行っ た場合には、ユニットごとに共通するパラメータ(ダミー変数)を置くことから、漸近性 が失われて一致性の保証を得られないためである。

(21)

ような変数に置き換えた上で、線形モデルで回帰分析を行っても、0を下回 る、あるいは1を上回る値が生じうる。そこで、被説明変数が0から1に収 まるよう特定の関数を用いる手法が、ロジスティック回帰分析である(101)。  なお、本稿は、ランダムに採取したサンプルを用いるのではなく、先に述 べたように1対1マッチングによって採取したサンプルを用いる。これは、

マッチングを行うことで、コーポレート・ガバナンスに関する変数の影響だ けを取り出そうという発想にもとづく(102)。もっとも、わが国の上場企業につい て、その半分の企業が不正会計を行っているわけでなく、また、本稿のマッ チング条件が満たされているわけでもない。したがって、たとえば、本稿の 実証結果から、2015年の上場企業すべてを対象として不正会計の発生確率 を正確に予測することはできない。しかしながら、このことは、本稿の目的 からすると問題ではない。なぜなら、本稿の目的は、「上場企業における不 正会計の発生確率を正確に予測すること」ではなく、「コーポレート・ガバ ナンスに関する変数が不正会計の発生確率に与える影響が有意かどうか」を 知ることだからである(103)

 ⑵ 被説明変数・説明変数

 被説明変数は、先に述べたように、不正会計を行った場合を1、不正会計 を行っていない場合を0とする。

 説明変数には、コーポレート・ガバナンスに関係する変数とコントロール 変数をそれぞれモデルごとに組み合わせて用いた。

(101)浅野正彦・矢内勇生『stataによる計量政治学』(オーム社、2013年)250頁。

(102)たとえば、「時期」をマッチング条件にすることで、時期によって異なる法ルールの影 響を取り除くことができる。極端な例でいえば、開示書類の虚偽記載に関する役員の責任 が完全に免除されている時期と開示書類の虚偽記載に関する役員の責任が無過失責任であ る時期の企業を対象に、コーポレート・ガバナンスが不正会計の発生確率に与える影響を 分析しても、法ルールの違いが不正会計の発生確率に与える影響が取り除かれていない。

(103)Beasley, supra note 11, at 452.

(22)

 1から12は、コーポレート・ガバナンスに関係する変数である。

  1.取締役人数=課徴金の対象になった決算期の取締役人数   2.社取人数=課徴金の対象になった決算期の社外取締役人数(104)

  3.監査役人数=課徴金の対象になった決算期の監査役人数   4.社監人数=課徴金の対象になった決算期の社外監査役人数(105)

  5.専門家人数=課徴金の対象になった決算期の専門的な資格(弁護士・公認 会計士・税理士)を保有する社外監査役人数(106)

  6.社取ダミー=課徴金の対象になった決算期に1人以上の社外取締役を選任 していた場合を1、そうでない場合を0とするダミー変数

  7.社取2ダミー=課徴金の対象になった決算期に2人以上の社外取締役を選 任していた場合を1、そうでない場合を0とするダミー変数

  8.専門家ダミー=課徴金の対象になった決算期に1人以上の専門家社外監査 役を選任していた場合を1、そうでない場合を0とするダミー変数   9.社取割合=課徴金の対象になった決算期の社外取締役人数を取締役人数で

割った数値

  10.社監割合=課徴金の対象になった決算期の社外監査役人数を監査役人数 で割った数値

  11.専門家割合=課徴金の対象になった決算期の専門家人数を監査役人数で 割った数値

  12.監査法人=課徴金の対象になった決算期の監査法人が4大大手監査法人 以外の場合を1、4大大手監査法人の場合を0とするダミー変数(4大

(104)平成26年改正前の会社法あるいは平成17年改正前商法の社外取締役の要件を満たす者で ある。

(105)平成26年改正前の会社法あるいは平成17年改正前商法の社外監査役の要件を満たす者で ある。

(106)Jayanthi Krishnam et al., Legal Expertise on Corporate Audit Committees and Financial Reporting Quality, 86 ACCT. REV. 2099, 2114 table3 (2011) では、法律の専門家 がいる場合には、裁量的な会計発生高も減ることが有意に認められている。したがって、

本稿においても、弁護士を専門家に含めた。専門家かどうかということについては、有価 証券報告書の役員の略歴欄から判断した。

(23)

大手監査法人:あずさ、あらた、新日本、トーマツ)

 13から19は、コントロール変数である。

  13.赤字=課徴金の対象になった決算期を含む過去5期の決算において、2 期以上純損失を計上している場合を1、そうでない場合を0とするダミ ー変数(107)

  14.ストック・オプション=課徴金の対象になった決算期に役員報酬として ストック・オプションを導入していた場合を1、そうでない場合を0と するダミー変数

  15.発行=課徴金の対象になった最初の決算書類から1年以内に、株式・新 株予約権(ストック・オプション目的を除く)および社債を発行した場 合を1、そうでない場合を0とするダミー変数(108)(資本提携や組織再編を 除く(109)

  16.役員持株割合=課徴金の対象になった決算期の役員の保有株式を発行済 株式総数(普通株式のみ)で割った数値

  17.上場年数=証券取引所に初めて上場されてから課徴金の対象になった決 算期までの年数

  18.大株主割合=課徴金の対象になった決算期の大株主の株式保有割合を合 算した数値(110)

  19.外国人株主=課徴金の対象になった決算期の外国法人の株式保有割合(111)

 1から11は、取締役や監査役の人数、社外取締役や社外監査役の人数・割

(107)なお、138社のうち2社は、5期分の損益計算書のデータが入手できなかった。もっとも、

それら2社の純損失は、それぞれ過去4期中0期、2期中2期となっており、赤字ダミー の判断には影響しない。

(108)適時開示書類から判断した。

(109)純粋な資金調達目的かどうかが不明確だからである。

(110)有価証券報告書の「大株主の状況」欄の値の合計を用いた。

(111)有価証券報告書の「所有者別状況」欄の外国法人等(個人以外)の値を用いた。

(24)

合が不正会計の発生確率に与える影響を測定するためのものである。たとえ ば、「社取人数」が有意であれば、社外取締役の人数が不正会計の発生確率 に影響を与えていることがわかる。また、「社取ダミー」が有意であれば、

社外取締役の存在自体が不正会計の発生確率に影響を与えていることがわか る。12は、監査法人が大手とそうでない場合に、監査サービスの違いが不正 会計の発生確率に与える影響を測定するためのものである。

 13は、企業の業績が悪い場合、業績を良くみせるために不正会計が行われ る影響を考慮するものである(112)。14は、役員報酬としてストック・オプション が導入されている場合、報酬をより多く得るために不正会計が行われる影響 を考慮するものである(113)。15は、株式や社債の発行により資金調達が行われる 場合、より有利な条件で資金調達をするために不正会計が行われる影響を考 慮するものである(114)。16は、役員が自社の株式を多く保有している場合、スト ック・オプションと同様に、自社の株価の変動に直接金銭的な利害を有する ために不正会計が行われる影響を考慮するものである。17は、上場年数が短 い場合、市場からのプレッシャーを受けて業績を良くみせるために不正会計 が行われる影響を考慮するものである(115)。18は、株式保有が集中している場合、

大株主によってモニタリングが行われる影響を考慮するものである(116)。19は、

外国人株主の割合が大きい場合、外国人機関投資家からのプレッシャーを受 けて、業績を良くみせるために不正会計が行われる影響を考慮するものであ

(112)たとえば、Beasley, supra note 11, at 456, Uzun et al., supra note 57, at 40 table 2では、

企業の業績が説明変数として用いられている。

(113)ストック・オプションが多く用いられるほど、決算書の訂正報告が行われやすいという ことが指摘されている。Natasha Burns & Kedia Simi, The Impact of Performance-Based Compensation on misreporting, 79 J. FIN. ECON. 35, 62(2006).

(114)公募による株式の募集を行う企業は、株式の発行時の価格を高めるために、利益調整を 行うインセンティブを有することが指摘されている。Yongtae Kim & Myung Seok Park, Pricing of Seasoned Equity Offers and Earnings Management, 40 J. FIN & QUANTITATIVE

ANALYSIS 435,460(2005).

(115)Abbot et al., supra note 29 at 59.

(116)もっとも、支配株主が不正会計によって私的な利益を得ようとする可能性もある。

(25)

(117)

 以上の変数について、具体的には次のような方法でデータを採取した。た とえば、2010年12月第3四半期決算書に虚偽記載があったとしよう。この 場合、コーポレート・ガバナンスに関係する変数(12を除く)および16は、

2010年3月期有価証券報告書に記載されている「役員の状況欄」の数値を 用いる。これは、2010年3月期有価証券報告書には、基本的に2010年6月 頃に開催された株主総会で選任された役員が記載されているためである。し たがって、その後の2010年12月第3四半期決算書の作成には、これらの役 員が(実際はともかく)関与したと考えられる。一方で、このような考慮が 必要でない12から14および17から19については、2011年3月期有価証券報 告書の記載内容を用いている。また、15については、2011年1月から2011 年12月までの適時開示書類が対象となる。

第3節 実証結果

 以上のデータから明らかになった実証結果が表4である。モデルなどの説 明については、表4の次の頁に記載している。

 ⑴ 取締役人数・社取人数・監査役人数・社監人数

 取締役人数および監査役人数について、有意な結果は認められない(118)。取締 役や監査役の人数自体は、不正会計と特に関係ないといえる。

 また、社取人数および社監人数についても、有意な結果は認められない。

単に社外取締役や社外監査役の人数を増やしたところで、不正会計の防止に 役立つとはいえないだろう。

(117)もっとも、外国人機関投資家によってモニタリングが行われる可能性もある。

(118)有意でない(帰無仮説を棄却できない)としても、その説明変数が影響していないと積 極的に強く主張できるわけではないことに留意する必要がある(山本拓『計量経済学』〔新 世社、1995年〕75頁)。

(26)

表4

モデル1 モデル2 モデル3 モデル4

取締役人数 -0.1064 -0.1396 -0.1123 -0.103

[-1.12] [-1.42] [-1.31] [-1.19]

社取人数 0.0574

[0.21]

監査役人数 0.1061 0.1417 0.2016 0.1895

[0.20] [0.31] [0.46] [0.42]

社監人数 0.137

[0.35]

専門家人数 -0.0694

[-0.20]

社取ダミー 0.5399

[0.78]

専門家ダミー -0.4752 -0.4083

[-0.93] [-0.84]

社取2ダミー -0.066

[-0.10]

社取割合 0.5943

[0.30]

社監割合 0.2383

[0.20]

専門家割合 -0.2711

[-0.26]

監査法人 0.2036 0.2156 0.157 0.1955

[0.44] [0.44] [0.36] [0.42]

ストック・

オプション -0.8807 -0.9539 -0.847 -0.9015

[-1.46] [-1.71] [-1.33] [-1.54]

赤字 1.2026 1.0112 1.1394 1.1815

[2.00]** [1.54] [2.01]** [1.93]*

発行 1.7582 1.7727 1.7574 1.7665

[2.52]** [2.70]*** [2.51]** [2.59]***

役員持株割合 -1.3846 -1.4589 -1.6569 -1.3696

[-1.03] [-0.99] [-1.23] [-1.03]

上場年数 -0.0346 -0.0387 -0.0376 -0.035

[-1.26] [-1.46] [-1.28] [-1.29]

大株主割合 -2.7587 -3.5494 -2.8626 -2.85

[-1.62] [-1.85] [-1.60] [-1.59]

外国法人割合 -2.5785 -2.7168 -2.5662 -2.625

[-1.36] [-1.32] [-1.36] [-1.38]

N 138 138 138 138

Prob > chi2 0.0066 0.0033 0.006 0.0062

Pseudo R2 0.3005 0.3167 0.3062 0.3011

aic 92.9054 89.3606 90.363 92.8567

* p<0.1,** p<0.05,*** p<0.01

(27)

〔注〕

・N:サンプル数

Prob

chi

2:

P

値(モデル自体が有意かどうかを示す)

Pseudo R2:擬似決定係数(モデルの適合度を示す。値が大きい方が望ましい)

aic:赤池情報量基準(パラメータ数を考慮した上でのモデルの適合度を示す。

値が小さい方が望ましい)

・各変数の値(上段):係数(プラスであれば不正会計の発生確率は増加し、マ イナスであれば不正会計の発生確率が減少する。このことは、ロジスティッ ク回帰分析の関数からもわかる。exp(ネイピア数)の指数(-

x)がプラス

になるほど、分母の値は1に近づくからである)

・各変数の値(下段〔 〕内):Z値(係数の有意性を示す。隣にアスタリスク が付いている場合、その係数は有意である。なお、検定に際しては、クラス タリングありの標準誤差を用いている)

〔モデル〕

・モデル1:社外取締役や社外監査役、専門家社外監査役の人数が不正会計の 発生確率に与える影響を測定するためのモデル

・モデル2:社外取締役がいる場合とそうでない場合、専門家社外監査役がい る場合とそうでない場合に、それらが不正会計の発生確率に与える影響を測 定するためのモデル

・モデル3:社外取締役が2人以上いる場合とそうでない場合に、それらが不 正会計の発生確率に与える影響を測定するためのモデル

・モデル4:取締役会に占める社外取締役の割合、監査役会に占める社外監査 役の割合、監査役会に占める専門家社外監査役の割合が不正会計の発生確率 に与える影響を測定するためのモデル

(28)

 ⑵ 社取ダミー・社取2ダミー・社取割合

 社取ダミーおよび社取2ダミーについて、有意な結果は認められない。社 外取締役を1人あるいは2人以上選任している場合でも、不正会計の防止に 役立つとはいえない。

 また、社取割合についても、有意な結果は認められない。したがって、取 締役会に占める社外取締役の割合を増やしたところで、不正会計の防止に役 立つとはいえないだろう。

 このようにアメリカの実証結果と異なる結果に至った理由としては、アメ リカとわが国では、社外取締役の独立性や社外取締役に求められる役割が異 なっているからなのかもしれない。

 すなわち、アメリカにおいて、社外取締役には、経営者から実質的な意味 で独立していることが上場規則や判例で要求されてきた(119)。さらに、監査委員 会に属する社外取締役には、外部監査人の独立性の審査および会計・財務報 告プロセスの監視が期待される(120)

 これに対して、わが国では、社外取締役にアメリカのような実質的な意味 での独立性が要求されておらず、また、財務情報をチェックする役割が期待 されてきたわけでもない。したがって、このような状況で取締役会に占める 社外取締役の割合を増やしても、不正会計の防止という効果を期待できない のかもしれない。

 ⑶ 専門家人数・専門家ダミー・社監割合・専門家割合

 専門家人数および専門家ダミーについて、有意な結果は認められない。専 門資格を有する社外監査役の人数を増やした場合や1人以上選任した場合で あっても、不正会計の防止に役立つとはいえない。したがって、この実証結 果からは、「監査役には、財務・会計に関する適切な知見を有している者が

(119)川口幸美『社外取締役とコーポレート・ガバナンス』(弘文堂、2004年)39頁。

(120)Krishnam et al., supra note 106, at 2103, 石田眞得編『サーベンス・オクスレー法概説』

(商事法務、2006年)123頁以下参照〔釜田薫子〕。

(29)

1名以上選任されるべきである」とするコーポレート・ガバナンスコード(原 案)(121)原則4-11を積極的に支持することはできない(122)

 また、社監割合および専門家割合についても、有意な結果は認められない。

監査役会に占める社外監査役および専門資格を保有する社外監査役の割合を 増やしても、不正会計の防止に役立つとはいえない。

 わが国では、財務情報をチェックするという意味では、取締役よりも監査 役にその役割(いわゆる会計監査)が期待されてきた。会計監査人設置会社 の場合であれば、計算書類の会計事項の監査は主に会計監査人が行うものの、

監査役は、会計監査人による監査の相当性について監査することが要求され る(会社計算規則127条~129条)(123)。また、監査役には、一定の要件のもとで 会計監査人を解任する(会社法340条)、会計監査人に監査に関する報告を 要求する(会社法397条2項)、会社の業務・財産の状況の調査を行う(会 社法381条2項)といった権限が与えられている(124)

 以上のことからすれば、監査役会に占める社外監査役の割合が増加するほ ど、より独立した立場からの監査が期待されることから、不正会計も行われ にくくなるという結果を得ることができてもよさそうである。それにも関わ らず、有意な結果が得られなかった理由としては、次の2つが考えられる。

 第1に、社外監査役の独立性が不十分であるということである。わが国で は、社外取締役と同様に、社外監査役についても、アメリカの社外取締役の ような実質的な独立性が要求されていない。

 第2に、監査役に与えられる権限がなお不十分であるということである。

金商法上の財務報告に関する内部統制システムは、実質的に、会社法上構築 が求められている内部統制システムの重要な内容である。そのため、監査役

(121)東京証券取引所のwebサイト(http://www.tse.or.jp/rules/cg/cg-code/)から入手できる。

(122)ただし、コーポレート・ガバナンスコード(原案)は監査役が対象であることに対して、

本稿は社外監査役を対象にしていることに留意する必要がある。

(123)江頭憲治郎『株式会社法〔第6版〕』(有斐閣、2015年)605頁。

(124)さらに、平成26年改正会社法では、監査役に会計監査人の選任等議案の決定権が付与さ れた。

参照

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