• 検索結果がありません。

抵当権価値権説の論理と抵当不動産の賃料に対する 物上代位の趣旨

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "抵当権価値権説の論理と抵当不動産の賃料に対する 物上代位の趣旨"

Copied!
30
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

抵当権価値権説の論理と抵当不動産の賃料に対する 物上代位の趣旨

著者 錦織 成史

雑誌名 同志社法學

巻 65

号 2

ページ 379‑407

発行年 2013‑07‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014581

(2)

(   同志社法学 六五巻二号九九

 

錦    織    成   

一 二 ――三 

一 序

 抵当権に関する物権編第一〇章の冒頭規定三六九条は、﹁占有を移転しないで﹂と定めている。抵当権はそれゆえ非占有担保権といわれ、抵当権設定者は抵当不動産を債権の担保に供しても、その抵当不動産を使用する権能をもち続ける。この権能に基づいて設定者は抵当不動産を他者に賃貸して、賃料を得ることもできる。他方三七二条は抵当権につ

三七九

(3)

(   同志社法学 六五巻二号一〇〇

き三〇四条を準用する。それによって﹁抵当権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって抵当権設定者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる﹂ことになる。 これらの規定があるにも拘わらず、学説においては、抵当不動産の賃料債権に対する物上代位は否定すべきものと主張する見解が唱えられ、優勢になった。この考えの基礎には、抵当権は、目的物の使用価値をその所有者に留め、目的物の交換価値のみを優先的に支配し債権の弁済に充てる権利である

)1

という理解がある。また、物上代位の制度を次のように理解する。すなわち、抵当権の目的物が滅失又は毀損されて目的物の価値減少が生じることによって抵当権者が損失を蒙り、他方、同一の事実によって設定者が抵当権の目的物の価値の代替的利益(代償的利益)を得るときには、抵当権者はこの代替的利益から優先弁済を受けることができ、これが物上代位である 2

。この二つの命題は、法文に書かれているわけではない。しかし、この二つの命題によれば、抵当不動産の賃料は抵当不動産の使用の対価であるから抵当権が支配している利益ではないし、賃料は抵当不動産の交換価値の代替的(代償的)利益ではない。法文の文言の存否に拘わらず、抵当不動産の賃料は、右の趣旨の物上代位の対象ではあり得ない。そこで抵当権価値権説といわれる右述の立場は、一方では賃料は抵当不動産の漸次的実現と評価することによって三〇四条との衝突を回避した。これと異なり、価値権説の他の立場は、賃料(法定果実)に三七一条によって抵当権が及ぶとき、その限りで抵当権者は賃料債権を差押えて物上代位をすることができるという。この立場によって抵当不動産に対する抵当権の実行の場合に抵当権による差押・競売・換価の対象を抵当不動産以外の物に拡張する規定をもって物上代位を根拠づける解釈論が登場した。この論理は、現行三七一条によって賃料(法定果実)に抵当権者は物上代位をすることができるというこんにち極めて有力になっている立場と物上代位を承認するに当っての根拠条文の用い方において共通している。 学説が賃料債権に対する抵当権者の物上代位の否定論に傾いていった中で、最高裁判所平成元年一〇月二七日判決は、 三八〇

(4)

(   同志社法学 六五巻二号一〇一 物上代位を肯定した。この判決の理由は、三〇四条の文言に反してまで物上代位を否定すべき理由はないという。そして、抵当権と先取特権はともに非占有担保権であること、また賃料に対する物上代位を認めても、設定者の抵当不動産の使用が妨げられるわけではないと指摘する。そしてここでは三〇四条による物上代位の承認に当って、物上代位は抵当不動産の交換価値の代替的利益に対してのみ認められるという制限には触れられていない。つまり明示的に代替的利益であることを要求すべきでないとは述べていないが、賃料に対する物上代位を三〇四条によって基礎づけるに当って、物上代位の対象を限定すべきという考えは物上代位の制度の不可欠の基礎とは見られていない。 右の判例の展開の背景には、不動産の価額の大幅な低下という社会・経済的な重要な現象があったことはよく知られている。そして抵当権設定当時の予測より大幅な価額下落による抵当権の担保不足が生じた状況下で、賃料による被担保債権の優先回収によって担保秩序の動揺を防ぐ必要性が承認され、平成一五年に担保不動産収益執行制度が民事執行法に定められた。これに対応する実体法の改正として、民法においても現行三七一条が新たに定められた。この立法によって、抵当権が目的物の使用(設定者による使用・収益)に関与する内容の実行方法をもつことになり、抵当権は抵当不動産の交換価値のみを支配し、使用・収益に抵当権は関与しないという、前述の命題のあてはまらない内容が加わった。そして現行三七一条によって抵当権は被担保債権の不履行後に生じた賃料(法定果実)に及ぶ以上、この範囲で三七一条を根拠に物上代位も可能であるという解釈が、平成一五年の担保法改正後学説上極めて有力ないし支配的になったのである。しかしながら判例の三〇四条による物上代位肯定を見るとき、なぜ三七一条という迂回路が必要なのかという疑問が生じる。 現行三七一条を物上代位の根拠にする見解は、現行三七一条によって賃料(法定果実)に抵当権が及ぶと法定され、それは抵当権実行手続によって実現される必要があるから、収益執行の方法があるということを根拠に、物上代位も認

三八一

(5)

(   同志社法学 六五巻二号一〇二

められるという。既に指摘したとおりこの解釈構造は、抵当権価値権説による改正前の三七一条の限りでの物上代位論を想起させる。つまり、三七一条による物上代位という考え方には、賃料には三〇四条による物上代位はあてはまらないという前提がある。この点で両見解は共通構造をもつと思われる

)3

。 そこで以下で、まず価値権説による物上代位制限の構造を確認し、次に現行三七一条による物上代位説が共通構造をもつことを明らかにする。そしてこのような解釈は、物上代位とは別の実行手続についての制限をそのまま物上代位に移植するものゆえ、その移植しか物上代位の説明が困難なことを明らかにしているのかを考えねばならない。物上代位は法上は三〇四条に根拠規定がある。そうすると三〇四条による賃料債権に対する物上代位の理由づけがあるときは、前述の三七一条という迂回路は必要でない。この点を合わせて検討し、物上代位を三〇四条によって基礎づける途を探すことが、この小稿の目標である。

1﹄() )(

2) 祿

使 3)  三八二

(6)

(   同志社法学 六五巻二号一〇三 二 賃料に対する物上代位の二つの構成       

― ―

我妻説と鈴木説の論理

 ㈠ 我妻説における抵当権の支配客体の構成 抵当不動産の賃料債権を抵当権者が差押え、賃借人から取立てて、被担保債権の優先弁済に充てるという物上代位は三七二条の準用する三〇四条の﹁賃貸﹂という文言に対応しており民法はこれを認めているという解釈が成り立つ。ところが、前章で指摘したとおり、物上代位を抵当権が支配していた利益の代替的(代償的)利益への抵当権の拡張と理解すると、賃料に対する物上代位は、抵当権は目的物の交換価値のみを支配する権利であるという抵当権の理解と衝突する。伝統的学説は、この抵当権の交換価値支配権という命題と抵触しない形で賃料に対する物上代位がありうることを説明しようと試みた。本章では、その代表的なものとして我妻栄教授の見解と鈴木祿弥教授の見解を分析する。抵当権の実現(被担保債権の優先弁済の実況)には、抵当権の目的物に対する実行と、目的物には触れないで、目的物と関連して生じた債権のみを抵当権者に行使させる形の実現の二系列があり、抵当権価値権説による物上代位の分析においてはこの本来の実行と物上代位の区別を踏まえた議論が行なわれていることも、注意しなければならない。そしておそらくこの区別に対応して、我妻説の賃料の﹁なしくずし的﹂(漸次的)交換価値実現という構成と、鈴木説の仮託的物上代位の構成が行なわれている。 以下においてまず我妻教授の見解を見る。

三八三

(7)

(   同志社法学 六五巻二号一〇四

⑴  本 来 の 目 的 物 と 代 表 物

 我妻教授は、抵当権の効力の及ぶものを二分する。第一は抵当権の﹁本来の目的物 1

﹂であり、第二は本来の目的物の﹁代表物

)2

﹂をあげる。そして前者については、抵当権は特定の不動産を支配するものと言う。このとき、特定の不動産の﹁利用を設定者の手許に止め、ただその有する担保価値を、抵当権の実行に至るまで絶えずその時の状態に於て、支配するもの

)3

﹂という。そして目的不動産のその時々における担保価値を支配するものであることを理由として、目的不動産の付加物・従物(従たる権利もこれに準ずるものとして)は抵当権に包摂される、とする 4

。他方、天然果実は抵当権の効力の及ぶ範囲には入らないという。その理由は、﹁目的物の収益権を設定者に止めて置くことが抵当権の本質﹂である点に求められる 5

。また法定果実にも抵当権の効力は及ばないとする。﹁抵当権が目的物の用益権を設定者に止むるというは、目的物を賃貸する権利をもこれに止めることを意味するから

)6

﹂という理由からである。他方これに続けて﹁然し、賃貸による対価の収受は交換価値の漸次的実況 7

をも意味するが故に、賃料については物上代位の規定が適用せられる﹂と述べる。 また第二の、本来の目的物の﹁代表物﹂については、﹁抵当権は、本来の目的物のみならずその代表物の上にも効力を及ぼす(物上代位性 8

)﹂とし、﹁賃貸又は制限物権の設定における賃料又は定期的対価(地代・永小作料)について代位しうることに疑問がない 9

。﹂と述べる。また物上代位のために抵当権者が行なうべき差押については、いわゆる特定性維持手段という理解が次のように構成されている ₁₀

。物上代位は目的物の賃貸借等の原因によって生じる請求権の上に効力を及ぼすのであって、現実の金銭の上にではない。﹁債務者に支払われた金銭の上に効力を及ぼさしめるときは債務者の一般財産の上に優先権を認めることとなり、制度の趣旨に反し、他の債権者を害する。﹂物上代位権が行使されるためには請求権の特定性が持続しなければならず、それゆえ目的物に代わるものが支払われる前に請求権として差押 三八四

(8)

(   同志社法学 六五巻二号一〇五 えられることを必要とする。差押自体が必要なのであり、物上代位権者自身が差押えることは必要ではない。

⑵  価 値 支 配 と 民 法 規 定 へ の 配 慮

 我妻教授は、右に引用したとおり、抵当権を担保価値(交換価値)のみ把握する権利として理解すべきことを主張し、交換価値把握と対立する概念として﹁目的物の用益関係﹂把握を立てる。そして抵当権は目的物の用益に干渉しないものであり、抵当権が設定されても、設定時点において既存の用益関係は抵当権によって影響されない ₁₁

。また抵当権設定後にも新たな用益関係を創設することができる。しかし抵当権が実行されると、用益関係と抵当権の対抗関係によって、用益関係が存続するのか否かが決まることをこの立場は認める ₁₂

。従って抵当権に対抗できない用益関係は、抵当権の実行によって覆滅される。つまり抵当権に対抗できない用益関係は、抵当権設定時に抵当権に把握されていることを、この立場は承認している。 また前述のとおり賃料に対する物上代位について、一方で法定果実に抵当権は及ばないという立場を示しつつ、賃料は目的物用益の対価であるけれども、賃料は目的物の対価の漸次的実現であるとして、賃料に対する物上代位を認めている。この場合、天然果実に差押後は抵当権の効力が及ぶ(改正前の三七一条)ことの説明とは異なり、賃料は目的物の交換価値の性質をもつという理由づけになっている。 これらの点は、交換価値と用益関係(使用価値)の対による抵当権の支配対象の整理と民法上の抵当権の制度のずれを示している。我妻説における抵当権理解には、理想としての抵当権(﹁不動産所有権の上の抵当権も亦対価徴収権能の有する交換価値のみを把握する ₁₃

﹂)と現行制度上の抵当権の二重構造があり、前者から抽出した抵当権像によって現行制度上の抵当権を説明し、ずれのあるところは現実の法文の文理解釈を優先させている。その中で、抵当権対象の中

三八五

(9)

(   同志社法学 六五巻二号一〇六

核として、本来の目的と代表物という対概念によって、抵当権の設定される特定の不動産と物上代位の対象となる利益を考え、この両者を貫く対象の内容として、抵当権の設定される特定不動産の価値(交換価値)という無形の存在を考えている。その意味で物上代位の対象とされる利益は、付加一体物や従物、また天然果実とは対立的な位置、つまり本来の抵当権対象と別の法的存在になった、本来の対象たる特定不動産の交換価値変形であるという位置ないし性格づけがされている。 この物上代位の対象となるものの中では、抵当権の目的物の滅失によって成立した損害賠償のように、他の制度との関係でも、﹁代償 ₁₄

﹂として認められているものについては理解が容易である。他方の極は賃料である。賃料について、交換価値の漸次的実現という説明を我妻教授は行なった。建物が賃貸借によって時の経過とともに減価する場合がある。それは賃貸借の一事例群ではある。しかし賃貸借の中には、土地の賃貸借のように減価しない場合もある。さらに抵当権は、建物上の抵当権の場合、経時的減価の生じる建物の交換価値を把握していることは明らかである ₁₅

。 我妻説は賃料の性質説明としては欠点がある。しかし物上代位は、抵当不動産に対する抵当権の実行ではなく、抵当権の目的物以外の利益に対する抵当権の実現とみる枠組を維持している。その維持のための構成が漸次的交換価値実現という交換価値概念の操作なのである。

 ㈡ 鈴木教授による賃料に対する物上代位の構成

― ―

三〇四条の手続流用という物上代位

⑴  天 然 果 実 の 代 位 物 構 成

 鈴木祿弥教授の物上代位についての研究はその後の物上代位に関するわが国の学説に重大な影響を与えた。鈴木教授の解釈論の構成が時期により変化を示したことは既に指摘されているところである ₁₆

。この鈴木説の変遷ないし進化は、 三八六

(10)

(   同志社法学 六五巻二号一〇七 先に示した我妻説の民法の規定に対する忠実に対し、交換価値支配権としての抵当権という理念を解釈論でも貫徹するという点で対蹠的である。以下においてこの点をまず確認しておくことにする。 鈴木教授は、まず﹁物上代位制度について﹂という論文において、賃料に対する抵当権の物上代位を、天然果実を介して承認するという構成を示した。その際次のように述べている。 ﹁賃料請求権に対する物上代位は、賃料請求権が天然果実の代物であるという見地から認められている、というべきである。抵当権はその現実的発動開始とともにはじめて天然果実に及ぶ(民法三七一条一項但書)のであるから、上述の見地からすると、賃料請求権に対しても、抵当権はその現実的開始とともにはじめてその効力を及ぼす、と解すべきであろう ₁₇

。﹂ この解釈の出発点は、不動産賃料に抵当目的不動産の代償ないし代位物なのではなく、目的不動産の天然果実の代位物であるという評価である。そして天然果実は、改正前の三七一条の解釈として、抵当権の効力が及ばないものである(同条一項本文)、と解され、但書によって、抵当権実行開始後には抵当権が天然果実に及ぶと解されていた。他方ドイツ民法は天然果実には抵当権の効力が及ぶと定められており(ドイツ民法一一二〇条)、これを受けて、抵当目的不動産が賃貸されたとき、抵当権が賃料債権に及ぶものとされている(同一一二三条)。天然果実が借主によって不動産から分離される時に、借主に所有権が与えられる場合は、天然果実に抵当権が及ばない(同一一二〇条による九五四条から九五七条の除外)というルールと賃料債権に抵当権が及ぶというルールはペアになっているものと立法時に説明されている。つまり賃料債権に抵当権の効力が及ぶのは、本来の抵当目的物に含まれていたものが、分離されて別の存在(天然果実)になり、抵当権者はそれに対して追及できない(借主が所有権を取得するから)ことの代償利益として賃料を把握するというのである ₁₈

。鈴木説は、改正前の三七一条の通説による解釈に従い、日本の民法上天然果実が抵当権の対

三八七

(11)

(   同志社法学 六五巻二号一〇八

象になるべき時点以降、天然果実の代償ないし代位物と性質賦与(法性決定)された賃料(法定果実)に物上代位を認めたのである。 この意味で、鈴木説の論理構成は、賃料に旧三七一条適用を否定しつつ、抵当権の実行手続によらない個々の債権に対する差押により賃料債権を抵当権に服させるという手続面での物上代位の活用を考えた構成である。つまり、賃料は天然果実の代償物というドイツ法の歴史的な事情を映した命題をはさみ込むことによって、抵当権の実行手続による目的不動産の競売手続を回避して、物上代位の手続によって賃料債権からの優先弁済権を抵当権者に与えようとした構成である。

⑵  構 成 の 変 化

 鈴木教授の賃料に対する物上代位に関する解釈学上の構成はその後変化を示した。賃料請求権が天然果実の代物であるという見地が姿を消す。その結果、物上代位への連結点を賃料はもたないものとなる。 物上代位は所有者が担保物に代わるものとして取得する物の上に担保権が存続することを認める制度であり、抵当権は、目的物の使用・収益を設定者に委ねておくものゆえ、使用・収益を把握していない。それゆえ、賃料請求権は物上代位の対象とならない。ただ天然果実と法定果実とで結果が反対になるというのも不適当ゆえ、法定果実にも(旧)三七一条の適用があるものと解すべきである。このように構成して、いったん賃料に対する物上代位(三七二条)を持ち出さない形の構成が示される ₁₉

。 しかし右の構成には、再び、抵当不動産の競売手続によらない賃料請求権の抵当権者把握を可能とするための物上代位の利用が付加される。すなわち、次のように言う。 三八八

(12)

(   同志社法学 六五巻二号一〇九  ﹁目的物の賃貸の場合については、まず、抵当権は、その実行までは、目的物の使用・収益を設定者に委ねておくことを本質とするものである(三七一条一項本文参照)から、賃料請求権の上に抵当権者が抵当権実行前に物上代位することは、認めがたい。抵当権実行によってはじめて、賃料請求権も抵当権の支配に服するに至る(中略)。その実行方法として物上代位の形がとられることは

― ―

現行競売法上抵当権に基づく強制管理の制度が存在せず、競売完了までの賃料を抵当権者が収める他の方法が欠けていることにかんがみ

― ―

これを認むべきである ₂₀

。﹂

⑶  鈴 木 説 の 評 価

 鈴木教授の立場は、賃料請求権が本来の物上代位の対象でないという点では、一貫している。最初に採用された天然果実の代位物構成に際しても、鈴木教授は次の点を指摘している。すなわち、物上代位の対象が負う責任は、﹁差押によってはじめて生ずるのではなく、元来存在するものとして構成されている﹂。しかし賃料請求権に対しては、天然果実に抵当権が及ぶ時点に抵当権は﹁はじめてその効力を及ぼす。﹂そして物上代位の規定は、賃料に関する限り、﹁抵当権に服する賃料請求権の範囲を抵当権の活動開始以前のものにまで遡らしむる点に意義があるのではなく、抵当権者の権利実現の方法につき、三七一条一項但書のごとく不動産自体を差押えなくとも、賃料請求権のみを独立に執行することができる点に意義がある﹂。 このように三七二条によって抵当権実行手続開始後の賃料債権につき三七二条による物上代位を認めるという構成に、本来の物上代位を認めているものではないという点、そして、賃料債権に対する執行方法の補充という点が、こめられているのである。このように鈴木説を見ると、前者については、賃料債権は天然果実の代積物という考えを介して、いわば、旧三七一条の果実は天然果実を意味するという解釈(当時の通説)に対して、天然果実に並ぶもの、すなわち

三八九

(13)

(   同志社法学 六五巻二号一一〇

三七一条一項但書の天然果実と並ぶ天然果実の代位物という抵当権の拡大された客体を解釈によって認めたものとも見得る ₂₁

。第二点については、抵当権の客体の範囲について、抵当目的物の代位物に抵当権の効力を存続させる従来の物上代位ではなく、三七一条により範囲を拡張された抵当権の客体の代位物を抵当権の客体中に入れた構成を利用して、代位物への効力伸張は物上代位ゆえ、抵当権の効力の実現手続も物上代位による、としたものである。 右のように見ると、鈴木説のその後の構成の変化は、賃料債権に対する本来の物上代位の否定という点に触れるものではない。天然果実の代位物に対する物上代位という構成は棄てられるが、抵当権実行開始後の賃料債権は、旧三七一条の果実の中に天然果実と並べて法定果実を入れることで、抵当権が及ぶとする。物上代位によらないで本来の目的物とは別の利益に抵当権を及ぼすために、天然果実と並べたことから、形の上では物上代位によらないで、三七一条によって拡張された客体の中に賃料債権をとり込んだのである。ここでは構成上、賃料債権に抵当権の効力が及ぶ場合でも、賃料債権が抵当権の本来の客体の価値変形であるから及ぶのではない。改正前の三七一条の果実、すなわち抵当目的不動産の他に民法が特に定めて拡張した抵当権の効力を及ぼした財産の一つである﹁果実﹂として、賃料債権に抵当権が及ぶ、と構成したのである。その後賃料債権に対する抵当権の実行方法として物上代位の規定を使うという解釈論が付加されたが、それは執行手続の不備を補うためであって、実体法上賃料債権を抵当目的不動産の交換価値変形とみているのではない。そしてこの観点から、鈴木教授の最初の構成を見ると、賃料債権が天然果実の代位物であるという見地から賃料債権に対する物上代位を認めると述べつつ、賃料債権に抵当権の効力が及ぶ時点は抵当権の発動の現実的開始時点であると指摘し、その際、次の点を強調している。すなわち、賃料債権に対する物上代位を定める規定は、﹁抵当権者の権利実現の方法につき、三七一条一項但書のごとく不動産自体を差押えなくとも、賃料請求権のみを独立に執行することができる点に意義がある ₂₂

﹂、というのである。つまり、ここでは拡張された抵当権客体についての物上代位を 三九〇

(14)

(   同志社法学 六五巻二号一一一 認めるという点よりも、むしろ、抵当権の実行の形態として、目的不動産の換価をしないで行なう賃料債権に対する執行を承認する点が解釈論的構成の主要動機として浮かび上る。そして、この点が後に再生し、天然果実の代償という構成が消失することによって、鈴木教授の立場は我妻説と次の点で一致する。① 物上代位によって代位目的たる債権の負担する物的責任(

H aft un g

)は、差押によってはじめて生ずるのでなく、本来抵当権の客体として抵当権によって物的に支配された目的不動産の交換価値の変形が生じたときに既に生じるべきものである。(本来の物上代位)② 果実は本来の目的不動産と別のものであり、日本の民法上は(改正前の)三七一条により定められた限りで、果実に抵当権が及ぶ(果実は拡張された客体という位置づけ)。

⑷  価 値 権 説 に よ る 物 上 代 位 の 基 本 点

 抵当権は目的不動産の交換価値のみを把握する権利であって、目的不動産の使用、収益は抵当権が把握するものではないという基本的な抵当権内容についての理解(価値権説)を、右の二点に合わせる。すると抵当権に関する物上代位を、この立場では次のように考えていることがわかる。 まず物上代位は抵当権の目的不動産の交換価値の変形である利益に抵当権による優先弁済の効力を及ぼすものである。改正前の三七一条一項但書による果実に対する抵当権の効力拡張は、物上代位によるものではない。また、天然果実の代償という評価(性質決定)を介して抵当権の目的不動産の賃料債権に抵当権による優先弁済の効力が及ぶものと解釈する場合でも、それを物上代位で根拠づけるには、抵当権の効力が及ぶ時点が日本の民法では繰下げられているから、抵当権が当初から把握していた価値の代償というには時点においてすでに困難が伴っている。改正前の三七一条一

三九一

(15)

(   同志社法学 六五巻二号一一二

項但書の定める時点において元物から天然果実が分離されて別物になるわけでもないし、この時点で抵当目的不動産の交換価値が新たに天然果実に付加されるわけでもない。鈴木教授が賃料請求権に天然果実の代物とみうると言って物上代位規定を適用すると解釈したうえで、その物上代位規定の適用時点を繰り下げた構成は、実質的に天然果実は抵当不動産とは別の存在であって、抵当権の効力が原則的には及ばないものという評価、つまり天然果実の代物としての抵当不動産賃料請求権の物上代位対象性否定、を内包した論理によったものといえよう。 次に第二点、果実は抵当権が当初から把握した目的不動産の交換価値の代償ではなくて、抵当権の拡張された客体に属するものであるという位置づけも、次の理由で抵当不動産の賃料債権は物上代位の客体ではないという考えに親和的である。すなわち、抵当不動産の交換価値のみを抵当権は当初把握する。すると抵当権に把握されなかった抵当不動産の使用・収益が抵当権設定者に残される。そして賃料債権は抵当権が把握していない抵当不動産の使用の対価である。こう考えると、賃料債権は抵当権の把握しなかった抵当不動産の使用の価値が抵当不動産とは別の法的存在となったものだから物上代位の客体の性質を欠くのである。鈴木教授の構成では物上代位規定を賃料債権に適用するけれども、賃料債権は、改正前の三七一条の果実と同列に扱われるから抵当権の効力がこれに及ぶのであって、物上代位によって抵当権の効力が及ぶのではない ₂₃

。 我妻教授は、抵当不動産の賃料を法定果実と抵当不動産の交換価値の漸次的実現という二重評価を行ない、後者の評価によって賃料債権を物上代位の客体と認める。一般論としては交換価値と使用とに二分したうえで使用に交換価値が部分的に含まれるという説明も、賃料が全部物上代位の客体になるという結論も、十分に説明されていない。そして抵当権に対抗できる賃借人に対して抵当権設定者が有する賃料債権に対しても、同じ理由で物上代位を認めるのかに至っては、抵当権によって当初から支配している抵当不動産の交換価値の変形という枠組で説明可能なのかはいっそう疑問 三九二

(16)

(   同志社法学 六五巻二号一一三 である。 このように見てくると、物上代位を抵当不動産の交換価値の代替物への拡張という理解と抵当不動産の賃料を物上代位の客体として適性を認めることとの間の対立は解消されていない。 そして、最初に指摘したとおり、その後の判例の登場、平成一五年の担保法改正を経たけれども、三七二条が準用する三〇四条により立法によって肯定されたはずの抵当不動産の賃料債権に対する物上代位は、三〇四条のみによっては認められないとする立場が極めて有力であり、その意味では、抵当権価値権説の強い影響が続いていると思われる。そこで、次に価値権説を、現在の極めて有力な学説を視野に入れつつ、分析し、物上代位の制度の趣旨の再検討を行なうことにする。

、﹁)。﹄() 、﹁

祿 ) 

) 

) ) 

三九三

(17)

(   同志社法学 六五巻二号一一四

使) 

)。) 

)。) 

)。) 

10)。) 

11) 

)。 12) 

13) 

14) 

15使) 

16西﹂﹃﹄() 

17) 祿 18h frlichen Gesetzbucürür das Deutsche Reicge Bh amMugdan, Die gesmumelten Materialien z) 

    Ⅲ.037. Snd u636S. 3–36. d San. B

19﹄() 祿

20) ﹄(

21) 

22)  三九四

参照

関連したドキュメント

① 新株予約権行使時にお いて、当社または当社 子会社の取締役または 従業員その他これに準 ずる地位にあることを

第124条 補償説明とは、権利者に対し、土地の評価(残地補償を含む。)の方法、建物等の補償

[No.20 優良処理業者が市場で正当 に評価され、優位に立つことができる環 境の醸成].

(4) 鉄道財団等の財団とは、鉄道抵当法(明治 38 年法律第 53 号)、工場抵 当法(明治 38 年法律第 54 号)、鉱業抵当法(明治 38 年法律第 55 号)、軌道

者は買受人の所有権取得を争えるのではなかろうか︒執行停止の手続をとらなければ︑競売手続が進行して完結し︑

ⅴ)行使することにより又は当社に取得されることにより、普通株式1株当たりの新株予約権の払

ⅴ)行使することにより又は当社に取得されることにより、普通株式1株当たりの新株予約権の払

ⅴ)行使することにより又は当社に取得されることにより、普通株式1株当たりの新株予約権の払