E コマース時代におけるアマゾンの物流戦略
齊藤 実
Amazon’s Logistics Strategy in the E-Commerce Era
Minoru Saito
Kanagawa University
【Abstract】 Recognizing the critical role that logistics activities play in the success of online shop- ping, Amazon.com, Inc. has taken energetic steps to enhance its logistics capabilities. The company has devised its own unique logistics network, centering on Amazonʼs fulfillment centers, which en- compasses every step from merchandise procurement to the last mile delivery to the final consum- er. In response to explosive growth in the e-commerce industryʼs sales and shipping volume, the company is expanding its network of fulfillment centers nationwide. This will further expand the area in which Amazon can provide rush delivery, and reduce lead times for customers in all parts of the country. In the past, the company has relied upon commercial parcel delivery companies to han- dle the last mile delivery. More recently however, it has been expanding its own parcel delivery ca- pabilities dramatically, giving the company control over the full distribution chain. This was accom- plished by jump-starting small, independent delivery companies that work exclusively for Amazon, as well as by using the rising class of gig workers – individuals hired as independent contractors to serve as drivers. The company is also expanding its in-house air freight delivery capabilities, using its own air cargo fleet to handle parcel deliveries, thus eliminating reliance on air cargo providers.
Amazon is also adding new hub airports to bolster its hub-and-spoke type air freight distribution net- work.
【キーワード】 ネット通販 フルフィルメント・センター 宅配便 3PL 物流ロボット
はじめに
現代の経済においてEコマースのネット通販が急激な勢いで拡大している。アメリカでアマ ゾンは、書籍のネット通販を開始してから販売品目を著しく拡大して驚異的な勢いで売上を増加
論 説
してきた。アマゾンはネット通販企業として著しい成長を続けているが、アマゾンについて注目 すべきはその物流である。
ネット通販のビジネスにおいて、とりわけ物流が重要な役割を担っている。単に通販ビジネス を行ううえで必要不可欠なだけでなく、優れた物流の仕組みを構築して高度な物流システムを提 供できることが重要であり、それがネット通販ビジネスそのものにも大きな影響を及ぼしてい る。
アマゾンはこうした物流の重要性を充分に認識しており、アマゾンの物流戦略としてみずから 優れた物流の仕組みを構築するために独自の取組みを繰り広げてきた。こうした物流に対する取 組みが、アマゾンのネット通販事業者としての競争力を強化することにつながっている。
現代の物流に関して焦点を当てれば、Eコマース時代における物流が新たな進化を遂げてい る。ネット通販では、物流センター機能とラストマイルの配送機能が重要になっているが、それ ぞれの物流機能の進化が求められている。アマゾンはこれらの領域で物流を高度化する取組みを 積極的に行っており、こうしたアマゾンの取組みのなかから現代の物流の方向性が明らかにな る。
本稿はアマゾンがネット通販の物流を高度化するための取組みを明らかにする。アマゾンは ネット通販に必要な物流の機能を自前で調達する努力を続けてきたが、ネット通販の優れた物流 の仕組みをどのように構築してきたのかを解明する。まずネット通販に必要なアマゾンの物流 ネットワークの特徴を把握し、物流センター機能を担うフルフィルメント・センターの拡充に よって物流を高度化してきたプロセスを明らかにする。そしてこうした物流の高度化が、アマゾ ンのネット通販ビジネスや収益の拡大にどのような効果をもたらしているのかを把握する。さら にアマゾンにとって物流における大きな課題がラストマイルの配送であり、これに対してアマゾ ンがみずからコントロールする配送を拡大し輸送力を拡充するための取組みを明らかにする。こ うして、急激な成長を続けるアマゾンの物流戦略の実体を解明することが本稿の目的となる。
1 .ネット通販を支える物流の課題
Eコマース時代において急激な成長を遂げているネット通販はこれまでとは異なる特有の物 流の機能を必要としている。ネット通販に必要な物流の機能とは、物流センター機能とラストマ イルの配送機能である。これらの物流機能は、同じ形態の商品販売を行う従来の小売業とは大き く異なっている。
物流センター機能では、物流センターにおいてネット通販で販売する商品を在庫として保管 し、注文を受けてピッキングしてパッキングし出荷する。そして、ラストマイルの配送機能は、
物流センターから発送された商品を注文した消費者の家庭に届ける機能である。これらの 2 つ の物流機能は、ネット通販事業者が自前で充足するか物流業者に外部委託するかの違いがある が、ネット通販事業者はいずれかの方法で物流機能を充足する必要がある。
物流センター機能に関しては、これまでと異なり特殊な機能を強化した物流センターを運営す ることが必要となっている。ネット通販は取扱う商品が非常に多く膨大な量を在庫として保管し なければならない。そして消費者からの注文は最低 1 個単位で極端な小口化となり、こうした注 文が集中してそれを出荷するまで煩雑な作業が必要となる。大規模な物流センターには大量の作
業員が動員されており、物流センターにおいて作業を効率化していくことが重要となる。こうし た機能を持つ物流センターは、フルフィルメント・センターと呼ばれているが、こうしたフル フィルメント・センターを効率的に運営していくことが重要となる。
さらに、フルフィルメント・センターをどこに設置していくかも大きな課題となる。少数のフ ルフィルメント・センターで全米をカバーする場合、全国の消費者に商品を届けるために輸送距 離が長くなり、ラストマイルの輸送への負荷が大きい。取扱量が急激に拡大するなかで、フル フィルメント・センターを人口が集中する大規模な都市周辺に分散的に拡大して設置すること で、消費者への輸送距離は短縮し、それとともに注文から商品を受け取るまでのリードタイムを 短縮することができるようになる。たんに増加する取扱量を処理するためにフルフィルメント・
センターを拡大するのではなく、このような重要な要素を実現できるように拡大するフルフィル メント・センターのロケーションを検討していくことが重要となっている(1)。
ネット通販では、全米の津々浦々の消費者の各家庭まで小さな荷物を届けることが必要不可欠 である。ラストマイルの配送であるが、これも購入する消費者にとってリードタイムを短縮する ために、できるだけ早く届けることが重要となっている。従来こうしたラストマイルの配送は、
大手宅配便事業者のUPS(United Parcel Service)やFedEx、さらには郵便局のUSPS(United States Postal Service:アメリカ郵政公社)が担ってきた。しかし、寡占化しているなかで宅配 便事業者は価格支配力が強く運賃の値上げを行っており、このためネット通販のラストマイルの 配送コストが上昇してしまう。これは物流コストの増大に直結するのであって、ネット通販事業 者にとって極めて大きな問題となる。こうした状態を改めていくためには、ラストマイルをより 安いコストでみずから配送することが必要となり、脱宅配便に向けて自社がコントロールできる 配送の能力を拡大していかなければならない。
ネット通販においてとりわけ物流は重要な役割を担っているが、ネット通販事業者が特有の物 流の能力(Logistics Capability)を持つことが重要になってくる。具体的には、フルフィルメン ト・センターで作業を効率化し正確で適切な物流サービスを提供でき、なおかつコストの上昇を 抑えたり削減したりすることができる。物流の迅速性を高め商品を購入した消費者へのリードタ イムを確実に短縮できる。より安いコストでラストマイルの配送を行うことができる。こうした 物流の能力を持つことができれば、持続可能な競争優位性を獲得することができ、ネット通販の 販売の拡大と企業成長を実現することができる。こうしたことから、ネット通販事業者が物流の 能力を高めていくことが極めて重要になっている(2)。
アマゾンはこれまでネット通販の販売を急激に拡大してきた。図 1 には、アマゾンの売上高の 推移が示されている。まさに驚異的な売上の拡大を実現している。こうしたアマゾンのネット通 販の売上の拡大は、それに伴って物流の取扱量が急激に増加するのであって、これに対応して物 流センター機能とラストマイルの配送機能の供給能力を拡大していかなければならない。そのた めの取組みをアマゾンは積極的に繰り広げていったのだが、同時にその過程において物流の能力 を高めることができる高度な物流の仕組みを構築していったのである。
( 1 )Rodrigue, Jean-Paul (2020), pp.3 4.
( 2 )Ocicka, Barbara and Raźniewska, Marta (2016).
2 .商品調達から配送までの物流ネットワーク
2.1 異なる機能を持つ物流施設
ネット通販ビジネスを展開するアマゾンは、特有の物流ネットワークを構築している。この物 流ネットワークは、ネット通販で販売する商品の調達から始まり、注文に応じて商品を品揃えし て発送するまでのプロセスにおいて特有の機能を持った物流施設が設置されている。この物流 ネットワークは、 7 つのタイプの異なる物流施設があり、それぞれ特有の役割と機能を持っている。
アマゾンがみずから展開する物流ネットワークは図 2 に示されている。さらに、アマゾンの物 流ネットワークを構成する物流施設の概要が表 1 に明らかにされている。アマゾンのサプライ チェーンに沿った物流施設のタイプと機能は次のようになる(3)。
① インバウンド・クロス・ドック(Inbound Cross Dock)
ネット通販で販売する商品を調達するための物流施設である。海外から輸入された商品や国内 で調達された商品がこの施設で受け入れられ、一時保管されて方面別の仕分けが行われる。この
( 3 )以下の説明はMWPVL International(2020)に基づいている。
図 1 アマゾンの売上高の推移(北米)
資料:Amazon Annual Reportより作成。
18.0 22.5 24.6
37.9
26.3 25.4 45.8
42.8
30.427.9 24.6
14.9 25.2
33.0 33.2 1,707
1,413
1,061
797 677 554 445 348 267 128 187
80 102 47 58
38
20.8
32
2003 04 05 06 07 08 09 10
売上高 増加率
11 12 13 14 15 16 17 18 2019 年
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0
(%) 70.0 (億ドル)
1,600 1,800
1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0
物流施設から次のフルフィルメント・センターに送られる。この物流施設は、その役割から主に 港湾周辺や鉄道貨物駅周辺に立地しており、全米で14のインバウンド・クロス・ドックが稼働し ている。
② フルフィルメント・センター(Fulfillment Center)
ネット通販の物流でとりわけ重要な機能を果たす物流施設であり、ネット通販の物流センター 機能の中心部分を担っている。フルフィルメント・センターでは膨大な商品を保管して、注文に 応じて品揃えをして出荷する。フルフィルメント・センターから、配送を委託するUPSなどの 宅配便事業者に送られ、さらに他の物流施設にも送られる。また自前で配送する場合は、ここか 表 1 アマゾンの物流施設の概要(2020年 9 月)
物流施設 設置数 総面積
(千平方フィート) 全体に占める
割合(%) 平均面積
(千平方フィート)
インバウンド・クロスドック 14 8,311 4.1 593
フルフィルメント・センター 190 136,642 66.9 719
エアポート・ハブ 9 2,931 1.4 325
ソーティング・センター 47 15,913 7.8 338
アマゾン・フレッシュ・パントリー 21 4,131 2.0 196
デリバリー・ステーション 279 34,414 16.8 123
プライム・ナウ・ハブ 55 2,055 1.0 37
合 計 615 204,400 100.0 332
資料:MWPVL International(2020)。
図 2 アマゾンの物流ネットワーク
資料:MWPVL International(2020)およびRodrigue, Jean-Paul(2020)を参考に作成。
海外
消費者
①インバウンド・
クロス・ドック
②フルフィルメント・センター
③エア・ハブ
USPS
UPS 国内
⑥デリバリー・
センター
⑦プライム・
ナウ・ハブ
⑤アマゾン・
フレッシュ・
パントリー
④ソーティング・
センター
調達保管・発送ラストマイル
ら直接消費者に送られる。フルフィルメント・センターは大規模な物流施設であり、全米で190 ものフルフィルメント・センターが設置されている。
③ エア・ハブ(Air Hub)
航空貨物を取扱う物流施設で空港周辺に立地している。フルフィルメント・センターやソー テーション・センター間の貨物を航空輸送する際に使用される物流施設である。空港間は独自の ハブ・アンド・スポーク・システムが形成されており、それに対応してこの物流施設が空港周辺 に設置されている。全米で 9 のエア・ハブが稼働している。
④ ソーテーション・センター(Sortation Center)
ネット通販の貨物を仕分け専門に行う物流施設である。USPSが郵便局から配達する貨物を、
フルフィルメント・センターからまとめて持ち込み、この物流施設で郵便番号に応じて方面別に 仕分けして郵便局に発送する。発送先は郵便局だけでなく、デリバリー・ステーションやラスト マイルの配送を委託している配送業者にも送られる。全米で47のソーテーション・センターが稼 働している。
⑤ アマゾン・フレシュ・パントリー(Amazon Fresh Pantry)
生鮮食品を含むグロサリー(食料雑貨)を販売するアマゾン・フレッシュとパントリーの専用 の物流施設である。食料品を取扱うために冷蔵・冷凍機能を持った物流センターで、これらの サービスを展開している都市周辺に立地している。全米で21の物流施設が稼働している。
⑥ デリバリー・ステーション(Delivery Station)
大規模な都市の周辺に立地して、都市内のラストマイルの配送を行うために仕分けをして配送 用の車両に積み込む物流施設である。2013年後半からこの物流施設の運用が開始された。この物 流施設から、ローカルの小型貨物配送の運送業者や個人ドライバーが貨物を積み込み配送業務に 当たる。比較的小規模の物流施設で最近急激に拡大しており、全米の大都市周辺地域に279のデ リバリー・ステーションが稼働している。
⑦ プライム・ナウ・ハブ(Prime Now Hub)
全米の大都市中心部付近に設置されて、プライム会員向けに商品を取扱う小規模な物流施設で ある。2014年から運用が始まり、プライム会員向けで、 1 万5000アイテムほどの限られた商品を 保管しており、この物流施設から注文して60分で消費者に配送できるように大都市中心部付近に 設置されている。全米で55の施設が稼働している(4)。
2.2 物流施設の相互の関連性
ネット通販の物流では、販売する商品を大量に保管して注文に応じて商品を出荷する物流セン ター機能と、物流センターから出荷された商品を購入した消費者の家庭まで届けるラストマイル の配送機能が必要となる。このうち、前者の物流センター機能を担うのがフルフィルメント・セ ンターであり、まさにネット通販の物流システムにおいて中核的な役割を担っている。通常ネッ ト通販事業者の物流システムは、このフルフィルメント・センターが起点となり、そこからラス トマイルの配送が行われ、シンプルな構図となっている。しかし、アマゾンの物流ネットワーク は、このフルフィルメント・センターを中心として、機能の異なる物流施設を連結させた複合的
( 4 )Natalie Berg, Miya Knights (2019), pp.228 229.
な物流のネットワークが形成されている。
まずは、海外および国内から大量の商品を調達するために、商品調達のための特別な物流施設 が必要となる。これがインバウンド・クロス・ドックであり、販売のために調達された商品は直 接フルフィルメント・センターに納入されるのではなく、このインバウンド・クロス・ドックに 集約され、そこから仕分けして各フルフィルメント・センターに納入されることになる。
またフルフィルメント・センターと機能が類似している多様な物流施設を展開している。一つ は宅配便より安いコストで配送することが可能なUSPSの取扱いをサポートするために、郵便局 向けに仕分け専用の物流施設であるソーテーション・センターである。さらには、広大なアメリ カでは迅速な輸送を行うために航空輸送が必要不可欠であり、これに伴って空港に隣接した場所 で物流センター機能を果たすエア・ハブが設置されている。また、食品などを含むグロサーリー の取扱いに特化した物流センター機能を持つアマゾン・フレッシュ・パントリーがある。
とりわけ都市部において迅速な配送を可能にするための物流施設が必要であり、こうした役割 を担うのが大都市周辺に立地する比較的小型の物流施設であるデリバリー・ステーションであ る。さらに大都市中心部に設置されていてより迅速な配送ができるプライム・ナウ・ハブがあ る。こうして、アマゾンンはフルフィルメント・センターを中心として多様な物流施設を擁する 特有の物流ネットワークを構築している(5)。
3 .拡大するフルフィルメント・センターの役割
3.1 物流効率化の可能なフルフィルメント・センター
アマゾンはネット通販に必要な物流ネットワークを構築してきたが、このなかで特に重要な役 割を占めているのがフルフィルメント・センターである。物流センター機能を担うフルフィルメ ント・センターは、複数のタイプに分かれている。まず取扱商品のサイズによって小型の商品を 取扱うフルフィルメント・センターと、大型の商品の取扱うフルフィルメント・センターがある。
小型の商品はソータブル(sortable)と呼ばれ、基本的に発送するパッケージに複数の商品を 積み合わせできるものである。このソータブルも、さらに小型商品を取扱うスモール・ソータブ ル(small sortable)と大型商品を取扱うラージ・ソータブル(large sortable)に分かれる。前 者は小さな段ボール箱で10㎏未満の商品を取扱う。これに対して後者は大きな段ボールで25㎏未 満を取扱う。典型的な商品は、書籍、おもちゃ、家庭用品などとなる。こうしたソータブル・フ ルフィルメント・センター(Sortable Fulfillment Center)は、典型的なもので物流施設の規模が 80万平方フィートで、1500人程度のフルタイムの作業員が働いている。2020年の時点でスモー ル・ソータブルのフルフィルメント・センターは全米で64施設、そしてラージ・ソータブルのフ ルフィルメント・センターが 5 施設稼働している。小型商品を対象とするソータブル・フルフィ ルメント・センターは、物流施設に自動化機器を導入することが可能で、これによって物流作業 を効率化することができる。
これに対して大型の商品はノンソータブル(non-sortable)と呼ばれ、段ボール箱に入らず他 の商品を積み合わせして発送できない大型の商品となる。これを取扱うのがノンソータブル・フ
( 5 )Rodrigue, Jean-Paul (2020), pp.6 8.
ルフィルメント・センター(Non-sortable Fulfillment Center)である。典型的な取扱対象の商品 は、家具、テレビ、プリンター、アウトドア用品などになる。ノンソータブル・フルフィルメン ト・センターは、典型的な物流施設の規模が60万〜100万平方フィートで、1000人を超えるフル タイムの作業員が働いている 。ノンソータブル・フルフィルメント・センターは全米で71の施 設が稼働しており、施設数では最も多い。ノンソータブルのフルフィルメント・センターはソー タブルと異なってもっぱら大型商品の取扱いとなり、自動化機器の導入が難しく人手に頼った物 流センター内作業が行われている(6)。
フルフィルメント・センターはソータブルかノンソータブル以外に、特定の品目に特化したフ ルフィルメント・センターがある。これは取扱品目が、アパレル、宝石、雑貨などに特化したも のである。このほかに返品専用のフルフィルメント・センターであるリターン・センター(Re-
turn Center)がある。
これらのフルフィルメント・センターにおいて注目すべきは、ソータブル・フルフィルメン ト・センターである。ソータブル・フルフィルメント・センターでは自動化機器の導入が可能で あり、センター内に大量の物流ロボットが導入されて物流の効率化が行われている。これらはア マゾン・ロボティクス・フルフィルメント・センター(Amazon Robotics Fulfillment Center)と も呼ばれている(7)。
アマゾンは2012年に物流ロボットのメーカーであるキバ・システムズ(Kiva Systems)を 7 億 7500万ドルの巨費を投じて買収した。これをアマゾン・ロボティクス(Amazon Robotics)とし て物流ロボットの生産を行い、そこで生産される物流ロボットを大量にみずからのフルフィルメ ント・センターに導入した。2016年末には、20のフルフィルメント・センターに 4 万5000台の物 流ロボットが導入された。2017年末までにさらに 5 万5000台が導入されて、全体で10万台の物流 ロボットがフルフィルメント・センターで稼働している。その後も物流ロボットの導入が拡大さ れている(8)。
典型的な小型商品のソータブル・フルフィルメント・センターでは、約3000台の物流ロボット が導入されている。フルフィルメント・センター内ではロールボックスへの商品の収納、ピッキ ング、検品のあいだに、物流ロボットがロールボックスを運搬する作業を行っている。従来この 作業は人によってフォークリフトやカートを使用して行われていたが、こうした作業を自動で走 行する物流ロボットが代替している(9)。
物流ロボットが導入されているソータブル・フルフィルメント・センターでは、物流の効率化 が達成されている。物流ロボットを導入することによって、注文に応じて在庫している商品を処 理する時間を70%短縮することが可能となる。これによって迅速に出荷できるようになる。また 物流ロボットに作業させることによって、ピッキングのスペースを大幅に削減することができ る。このために在庫スペースを従来に比べて50%拡大できるようになり、フルフィルメント・セ ンターの施設利用の効率性を上げることができる。さらに、物流ロボットを導入することで作業 員の省力化をはかるなどして、フルフィルメント・センター全体の運用コストを20%削減するこ
( 6 )Rodrigue, Jean-Paul (2020), pp.14 15.
( 7 )Houde, Jean-François, Newberry, Peter and Seim, Katja (2017).
( 8 )Manners-Bell ; John, Lyon, Ken (2019), 17章参照。
( 9 )Birenbaum, Jeffrey (2018), p.13.
とが可能となった(10)。
3.2 積極的なフルフィルメント・センターの拡大
アマゾンはこれまでネット通販の販売を急激に拡大してきた。こうした販売の急激な拡大は処 理しなければならない商品が著しく増加することになり、これに伴ってフルフィルメント・セン ターを拡大していくことが必要となる。実際にアマゾンはフルフィルメント・センターを加速度 的に設置してきた。アマゾンのフルフィルメント・センターの設置状況は図 3 に示されている。
アマゾンのフルフィルメント・センターは、1997年に東海岸のデラウエア州と西海岸のワシン トン州のシアトルに 2 つのフルフィルメント・センターを設置することから始まった。その後 2000年代に入り新たな設置は少なかったが、2005年に 5 つのフルフィルメント・センターが設置 されるとともに、その後新規のフルフィルメント・センター設置を増加させていった。
2000年代までの時期に新規の設置されたフルフィルメント・センターの立地には、いくつかの 特徴がある。まずフルフィルメント・センターは、大規模な人口を抱える州に隣接した相対的に 人口の少ない州に設置されている。そしてフルフィルメント・センターは売上税(Sales tax)の 税率が相対的に低い州に設置されている。さらに大規模な人口の州にフルフィルメント・セン ターが設置されていても、それは売上税が相対的に低い州に設置されている。こうして、この時 期のフルフィルメント・センターの立地場所は、売上税が大きく影響していた(11)。
図 3 フルフィルメント・センターの設置数の推移
注:現在稼働しているフルフィルメント・センターの稼働開始年次をもとにして集計したもの である。稼働を停止したフルフィルメント・センターは含まれていない。
資料:MWPVL International(2020)より作成。
97 98 99 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19年
35 180
160 140 120 100 80 60 40 20 0 30
25 20 15 10 5 0
年間の設置数 累計の設置数
(10)Manners-Bell ; John, Lyon, Ken (2019), 17章参照。
1992年に連邦最高裁は、州の売上税の徴収に関して州政府が州内に物理的拠点(physical pres- ence)を持たない事業者に対して、売上税の徴収義務を課すことは憲法違反であるとの判決を 下した。ネット通販事業者が州内に物理的拠点がなければ、その州内で消費者に販売してもその 州の売上税を徴収する義務がない。このため、州内の店舗を持つ小売業者(brick and mortal) は、売上税を含んだ価格で消費者に販売しなければならないが、これに対してネット通販事業者 は売上税を徴収する必要がなく、その分安い価格で消費者に販売することができる。これと同時 にネット通販事業者にとっては、物理的拠点となるフルフィルメント・センターを売上税が導入 されていない州や売上税の税率の低い州へ設置することが、当該州において安い価格で消費者に 販売することができ、ネット通販の販売を有利にする。このためこの売上税がアマゾンのフル フィルメント・センターの設置場所を決めるうえで重要な要因として働いていた。
その後この売上税をめぐっては大きな変化が生じた。ネット通販事業者から売上税を徴収する ためにニューヨーク州は、2008年にアフィリエイト・プログラム(Affiliate Program:成功報酬 型広告)に参加する個人がいれば、これが売上税の課税の根拠となる物理的拠点に含まれるとい う法律を成立させた。これによって、従来のように州内に物流センターなどの物理的な拠点がな くても、ネット通販事業者は売上税を徴収する義務を負うことになった。2013年までに、ネット 通販事業からの売上税の徴収を可能にする法律の改正が、他の州でも次々に成立していったので ある。
こうした状況で2013年以降になるとアマゾンのフルフィルメント・センターのネットワークの 拡大は、ネット通販の急激な売上拡大に伴って、従来の売上税が低く人口が少ない州へ設置する 傾向から、売上税の税率が高い州でも大規模な人口を抱える州に積極的に設置する方向へと変化 していった(12) 。
フルフィルメント・センターの設置の拡大は、アマゾンが販売する商品の分野を大幅に拡大す るなかでそれに応じて実施されていった。書籍の販売でネット通販を始めたアマゾンは、当初こ の書籍の他に、映画、音楽、コンピュータゲームなどを販売していた。限定された商品の販売が 行われており、その限りではフルフィルメント・センターを拡大する必要性はなかった。しか し、2000年代半ば以降アマゾンは販売する商品のカテゴリーを拡大していった。従来の書籍など から、家電製品、玩具、アパレル、化粧品、宝石など幅広い分野の販売を急激に広げていった。
これに対応して、フルフィルメント・センターの設置拡大が進められた。そして、2010年代に入 ると、商品ジャンルのさらなる拡大、売上高の急激な増加が続くなかで、フルフィルメント・セ ンターの設置が加速されていったのである。
2019年に稼働しているフルフィルメント・センターは全米で171に及んだが、2020年 9 月末に は190に達する。直近でもこれまでにない規模でフルフィルメント・センターの設置が行われて おり、アマゾンの物流ネットワークの拡大がさらに加速されている。
こうしたフルフィルメント・センターを全米規模で設置する物流ネットワークの拡大のため に、アマゾンはこれらの物流コストを著しく増加させている。図 4 にはアマゾンのフルフィルメ ント・コストの動向が示されている。アマゾンの物流コストとしては、輸送コストとこのフル
(11)Houde, Jean-François, Newberry, Peter and Seim, Katja (2017), p.6.
(12)Natalie Berg, Miya Knights (2019), p.225.
フィルメント・コストが明らかにされている。フルフィルメント・コストであるが、2010年代に 急激に増加しており、売上高比率も2010年の8.5%から上昇を続け直近の2019年には14.3%になっ ている。売上の増加に対応したフルフィルメント・コストの増加でなく、それ以上の大幅なフル フィルメント・コストが増加している。フルフィルメント・センターを中心として物流ネット ワークを急激に拡充しており、それがフルフィルメント・コストの増加に結び付いている。こう して、フルフィルメント・コストの大幅な増加を伴いながら、アマゾンはフルフィルメント・セ ンターの設置の拡大を行い、物流機能を強化している。
3.3 フルフィルメント・センター拡大の効果
図 5 には、現在のフルフィルメント・センターの分布が示されている。フルフィルメント・セ ンターは、東海岸、中西部、南部、西海岸の人口が多く人口密度の高い州に集中している。フル フィルメント・センターは、これらの州内において大規模な人口を抱えている大都市周辺に集中 して立地している。しかも、その立地している地域周辺は、単に人口が多いだけでなく住民の所 得水準が高い地域となっている(13)。
こうした大都市周辺では、特定の地域に複数のフルフィルメント・センターが集中的に立地し ている。先に述べたように、フルフィルメント・センターは、ソータブル・フルフィルメント・
センター、ノンソータブル・フルフィルメント・センター、特定の品目に特化したフルフィルメ ント・センターなどがあり、取扱う商品の大きさや品目に特化したフルフィルメント・センター
図 4 アマゾンのフルフィルメント・コストの推移
資料:Amazon Annual Reportより作成。
16 14 12 10 8 6 4 2 0 28
8.5
9.5 10.2
11.5 12.1 12.5 13.0
14.2 14.6 14.3
45 64
85 107 134
176 252
341 402 500
400
300
200
100
0
(億ドル) (%)
2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 年
フルフィルメント・コスト 売上高比率
(13)Good Jobs First, (2020).
がある。したがって、取扱品目の異なる特化したフルフィルメント・センターが一定の地域内に 集中することが必要であり、大都市周辺の地域にはフルフィルメント・センターのクラスターが 形成されている。
こうしたフルフィルメント・センターが全国的な規模で分散化して拡大することによって、
ネット通販で顧客からの注文を受けて商品を顧客に届けるリードタイムを短縮することが可能に なった。フルフィルメント・センターの分散的な設置拡大は、ラストマイルの顧客までの輸送距 離が短縮されることによって、当日配送または 1 日配送(翌日配送)が可能の圏域を大きく拡大 した。フルフィルメント・センターが集中的に設置されてきた東部海岸、中西部、南部、西海岸 の諸州では、2010年半ば以降年を追って当日配送および翌日配送の圏域が拡大していったが、
2018年にはほぼ州内の全域を網羅するようになっている。また2018年の時点でアマゾンが当日配 送および翌日配送でカバーできる人口は、全人口の72%になっている。さらに全米で所得が高く 人口の多い16の州では、当日配送および翌日配送の人口カバー率が95%以上に達している(14)。
こうしたリードタイムの短縮は、アマゾンのネット通販の販売拡大に大きく貢献している。ア マゾンではアマゾン・プライム(Amazon Prime)の会員に送料無料で 2 日間配送サービス( 3 日目配送)を提供してきた。広大なアメリカでは、陸上トラック輸送の宅配便で配送すると遠距 離では到着まで 1 週間かかる場合もある。それをアマゾン・プライムの会員には 2 日間での配送 サービスを提供してきた。そしてアマゾンはこのリードタイムをさらに短縮した。2019年 4 月か
(14)Herrera, Sebastian and Qian, Vanessa (2019).
図 5 フルフィルメント・センターの分布(2020年)
資料: MWPVL International (2020), Seller Essentials (2020), Schwieterman, Joseph P. and Walls, Jacob (2020)を参考に作成。
ら、プライム会員向けの配送無料の 2 日間配送を 1 日配送へと切り替えた。注文した翌日に購入 者に届けるようにして、リードタイムの短縮を行ったのである。これによってアマゾンのプライ ム会員はさらに急増していった。このことは、消費者がネット通販において配送料無料でリード タイムが短縮されることを強く求めており、リードタイムの短縮は顧客満足度を高めネット通販 の売上拡大に大きく影響することを示している(15)。
このように、消費者の購買行動を促進するために翌日配送によるリードタイムの短縮は、ネッ ト通販事業者にとって極めて重要な意味を持っている。これを可能にするのが、アマゾンがこれ まで積極的に推し進めてきたフルフィルメント・センターの分散的な拡大である。これによって アマゾンはリードタイムの短縮という物流の能力を高めることになり、持続的な競争優位性を獲 得することにつながる。
3.4 フルフィルメント・センターを活用した物流ビジネス
アマゾンはフルフィルメント・センターを急激に拡大しているが、このフルフィルメント・セ ンターを利用してアマゾン自身が物流ビジネスを繰り広げている。アマゾンは、2006年からフル フィルメント・バイ・アマゾン(Fulfillment by Amazon)を開始した。これは、いわゆる第三の 小売業者(Third Retail Seller)である中小のネット通販事業者や個人を対象に、ネット通販に必 要なフルフィルメントの物流サービスを提供するものである。アマゾンはインターネットで自社 の商品販売だけでなく、アマゾン・マーケット・プレイス(Amazon Market Place)に参加して いる第三者の小売業者の商品も販売している。この第三の小売業者と呼ばれるネット通販事業者 に対して、フルフィルメントの物流サービスを提供している。これらのネット通販事業者はフル フィルメント・バイ・アマゾンを利用すれば、アマゾンのフルフィルメント・センターで販売す る商品が在庫として保管されて、顧客からの注文を受けてピッキングされパッキングされて発送 される。このようなフルフィルメントの物流サービスがアマゾンによって提供されているのであ る。こうしたフルフィルメント・バイ・アマゾンは多くのネット通販事業者が利用できる物流の プラットフォームであり、アマゾンは物流サービスを提供するプラットフォーム・プロバイダー
(Platform Provider)として、物流ビジネスを繰り広げている(16)。
マーケット・プレイスに出店している第三者の小売業者の売上を含むアマゾンのウエブサイト の売上高は、2019年において3350憶ドルだが、第三者の小売業者による売上高は2200億ドルでア マゾン全体の売上の59.6%に達する。マーケット・プレイスに出店しているネット通販事業者の 売上高は、アマゾン自身の売上高を凌駕し全体の 6 割に達している。そして、第三の小売業者の 事業数は98万9000に及ぶ(17)。これはアメリカだけでなく海外を含んだアマゾン全体のデータで あるが、アメリカでもマーケット・プレイスの規模を容易に想像することができる。こうしたな かで、アメリカではマーケット・プレイスに参加している第三の小売業者の半数が、フルフィル メント・バイ・アマゾンを利用しているといわれている(18)。
図 6 は海外を含むアマゾン全体の売上高が示されている。アマゾンの売上高のうち、ネット通
(15)Berman, Jeff (2019).
(16)Zhu, Feng and Liu, Qihong (2018).
(17)McFadyen Digital (2020).
(18)Lockridge, Deborah (2019).
販の売上高は1412億ドルで全体の50.4%を占めている。これに次いで、売上が多いのが、第三の 小売業者向け販売であり、537憶ドルで全体の19.2%を占めている。この第三の小売業者向け販 売は、マーケット・プレイスの収入とフルフィルメント・バイ・アマゾンの収入が含まれてい る。第三の小売業者向け販売がアマゾンの売上のなかで比較的多くの割合を占めていることが明 らかになる。
アマゾンの年次報告では、フルフィルメント・バイ・アマゾンの売上が明らかにされていない が、物流ビジネスのコンサルタントによる推計が明らかにされている。これによれば、フルフィ ルメント・バイ・アマゾンの売上高は、2019年に318億ドルに達するとしている。これを単純に 当てはめると、先に見たアマゾン全体の売上高の第三者小売業者向け販売の約 6 割を占めること になる。アマゾンは、物流サービスを提供するフルフィルメント・バイ・アマゾンで大規模な売 上を達成しており、物流サービスの販売がアマゾンの重要な収入となっている。
アマゾンは自社でフルフィルメント・センターを運営し自家物流を繰り広げてきたが、これと 同時にフルフィルメント・センターを利用して物流サービスを提供しており、物流業者として物 流ビジネスを展開している。そして、アマゾンは急激に成長するネット通販の物流市場において すでに中核的なプレイヤーとして存在している。
ネット通販事業者のフルフィルメント・サービスの提供は、物流業者として 3PL(Third Party Logistics)の事業分野である。物流業者は物流センターを中心として荷主企業の物流を包括的に 請け負う 3PLビジネスを繰り広げている。3PLの物流業者にとって急激に成長するネット通販 は重要な物流市場となる。先の物流コンサルタントによれば、アメリカにおけるネット通販の 3PLビジネスの市場規模は、2019年に434憶ドルに達するといわれている。さらに、2020年には
図 6 アマゾンの売上高構成比(2019年)
資料:Amazon Annual Reportより作成。
AWS350 12.5%
定期購入売上 6.9%192
第三者販売 19.2%537
店舗販売171 6.1%
その他140 5.0%
製品売上高 50.4%1412
(単位:億ドル)
新型コロナウイルス感染拡大によるネット通販の大幅な拡大を受けて、対前年度28%増の528億 ドルに達すると予想している。こうしたなかで、この市場規模のうちアマゾンは約60%を占めて いる(19)。すでに、アマゾンは 3PLビジネスの過半を占める巨大な物流業者として存在してい る。フルフィルメント・バイ・アマゾンによる 3PLビジネスの売上規模からすると、アマゾン は世界で第 5 位の物流業者となるといわれている(20)。
ちなみに、アマゾンは、2018年に証券取引委員会に提出した年次報告で、現在の競争相手およ び潜在的な競争相手として「フルフィルメントおよびロジスティクスのサービスを提供する企 業」を新たに付け加えている(21)。これはアマゾンが物流業界の企業が競争相手であることを改 めて認めているものであって、今後さらに物流業者として物流ビジネスを拡大していくことを明 らかにしている。
4 .ラストマイルに対するコントロールの拡大
4.1 脱宅配便の加速
ネット通販事業者にとってもう一つの重要な物流の機能がラストマイルの配送である。物流コ ストが高いネット通販のラストマイルの配送で、いかにコストを抑えてできるだけ迅速に確実に 商品を消費者に届けることができるのかは、ネット通販ビジネスそのものに大きく影響する。
これまでアマゾンは、ラストマイルの配送をUPSやFedExの宅配便事業者や郵便のUSPSに 委託して、全米の消費者へネット通販の商品を届けてきた。しかし、アメリカの宅配便は大手 3 社による寡占体制が築かれており、UPSやFedExなどの大手宅配便事業者は運賃に対する支配 力が強く、毎年のように宅配便運賃の値上げを実施してきた。こうした宅配便運賃の値上げは、
ラストマイルにおける配送コストの増加をもたらすものであり、それはアマゾンにとって大きな 負担となる。図 7 には、アマゾンの輸送コストが示されているが、2010年代に大幅に増加してい ることがわかる。売上高に対する輸送コスト比率では2010年代初めに 8 %台であったものが上昇 を続けており、2017年には12.2%に増加している。
この間にアマゾンがみずからラストマイルの配送業務に取り組むことになる重要な契機が生じ た。2013年のクリスマスシーズンに急増したアマゾンのネット通販貨物に大手宅配便事業者の UPSが対応できず、アマゾンが販売した大量の商品がクリスマスまでに届かないという大規模 な遅配の問題が発生した。これによって顧客に対するアマゾンの信頼が大きく損なわれ、さらに アマゾンは遅配の被害を受けた顧客に20ドルのクレジットを支払い、巨額の補償を負担しなけれ ばならなかった。こうした問題を受けてアマゾンは、宅配便事業者に依存するのではなく、みず からコントロールできる配送に取り組み始めたのである(22)。
アマゾンはみずからコントロールするラストマイルの配送を行うようになり、宅配便に依存し ない配送を急激に拡大している。Rakuten Intelligenceが提供するデータによれば、アマゾンが 出荷するネット通販の貨物のうち自社配送の比率は、2016年末のホリデーシーズン時には 8 %で
(19)Armstrong and Associates Inc. (2020).
(20)Dekhne, Ashutosh, Hastings, Greg, Murnane, John, and Neuhaus, Florian (2019).
(21)Annual Report Amazon.com (2018).
(22)Bensinger, Greg and Stevens, Laura (2014).
あったが、2017年には20%台、2018年に30%台、そして2019年 5 月には45%を超え、同年 7 月に は49%に達している。この時点でアマゾンはネット通販の配達貨物の50%弱を自社の配送で賄う ようになっている(23)。
ちなみに、この間に相対的に安い運賃で輸送しているUSPSは2017年初めにアマゾンの貨物の 60%を輸送していたが、その後急激に減少しており2019年 7 月には30%程度に減少している。ま たUPSは2017年初めに20%強であっが、その後減少傾向を見せたものの2019年 7 月には20%弱 を占めていた。これに対してFedExは2017年初めに 2 %程度に過ぎなかったが、これが 1 %程 度になっている(24)。そして、FedExは2019年 6 月にアマゾンとの航空宅配便の契約を打ち切 り、航空宅配便による配送業務から撤退しており、それに引き続き 9 月にはアマゾンの宅配便業 務から完全に撤退した(25)。
モルガンスタンレーの推計によれば、2019年にアマゾンがみずからコントロールする配送によ るネット通販の貨物は25億個に達している。これはアマゾン全体のネット通販貨物の約50%にな ると指摘されている。同じくモルガンスタンレーによれば、2019年の宅配便大手のUPSの宅配 便の年間取扱量が47億個で、FedExの取扱量が30億個と推計している。日本全体の2019年にお ける宅配便の取扱量は43億個である。アマゾンがみずからコントロールする配送の貨物の数量が いかに多いかがわかる(26)。
このようにアマゾンはラストマイルの配送において自社でコントロールする配送の比率を急速 図 7 アマゾンの輸送コストの推移
資料:Amazon Annual Reportより作成。
2010
37 39 51 66
87 115 162
217 277
13.5 12.2 11.9
10.7 12.0 8.9 9.8
8.2 8.1 8.5
379
2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 年
輸送コスト 売上高比率
500
400
300
200
100
0
(億ドル)
16.0 14.0 12.0 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0
(%)
(23)Pellas, Alex (2020).
(24)Herrera, Sebastian and Qian,Vanessa (2019).
(25)Ziobro, Paul (2019).
(26)Sheetz, Michael (2019).
に高めていったが、最初の段階では宅配便ではない配送をどのように行うのかその実態は明らか にされなかった。自社でコントロールする配送は配送業務を中小の運送業者に請負委託させて、
アマゾンのロゴが印刷されたアマゾン専用の配送車を使用して、アマゾンブランドで配送を委託 する形態を取っていた。その後アマゾンは脱宅配便に向けてみずからコントロールするラストマ イルの配送機能を拡大するための取組みを積極的に推進していった。
4.2 ギグ・ワーカーの配送業務への動員
アマゾンは2015年からアマゾン・フレックス(Amazon Flex)を開始した。アマゾン・フレッ クスは、自家用車を保有している一般のドライバーがアマゾンの貨物を運送する仕組みである。
それはすでに行われている旅客輸送のウーバー(Uber)と同じ仕組みであり、一般の個人のド ライバーを貨物の輸送に動員するものである。個人のドライバーは単発の仕事を請け負うギグ・
ワーカー(gig worker)であり、請負契約のもとで貨物の配送業務にあたる。
広く個人のドライバーを集めるために、アマゾン・フレックスに参加できるドライバーの条件 はシンプルである。21歳以上で自動車免許証を取得している、社会保障番号(Social Security
Number)を持っていること、 4 ドアの中型セダンもしくは大型の自家用車を所有しているこ と、さらにiPhoneもしくはAndroidの携帯電話を持っていることが求められる。
プロのドライバーと異なり、配送経験のない一般のドライバーでも容易に配送業務ができるよ うに、支援システムが提供されている。ドライバーはアマゾン・フレックスのアプリケーション を携帯電話にインストールする。このアプリケーションによって、ドライバーの配送業務が素人 でも容易に遂行できることを可能にしている。このアプリケーションではアマゾンの拠点で配送 する貨物をスキャンして貨物情報を登録し、配送先情報をもとに効率的な配送ルートを地図上に 表示することができる。さらに配達終了の登録も行うことができ、面倒な作業を簡単に行うこと ができる(27)。
このアマゾン・フレックスでは、ドライバーが自分の好きな時に好きな時間だけ働くことがで き、 1 時間当たり18ドルから25ドルの収入を得ることができる、とアマゾンは強調して個人のド ライバーを募集している。しかし、個人でガソリン代や、保険、自動車の償却費、車のメインテ ナンス費用、携帯電話に使用料などのコストを差し引くと、 1 時間当たり 5 ドル〜11ドルになっ てしまうとの報告もなされている。このため、アマゾン・フレックスのドライバーの実際の収入 は、アメリカの雇用者の最低賃金である時間当たり7.25ドルを下回ることもある。ちなみに、宅 配便のUPSは、26万人の組合員を擁する労働組合Teamsterがあるが、そのドライバーは平均す ると時間当たり賃金が35ドルに達する。これに比べると、アマゾン・フレックスの個人ドライ バーはかなり低い収入となる(28)。
アメリカではクラウドソースド・デリバリー(Crowdsourced Delivery)と呼ばれるビジネス が拡大している。このビジネスモデルは、個人が携帯電話やタブレットのアプリを利用して、み ずから所有する自家用車で貨物を運ぶ輸送サービスを請負事業者として提供するものであ る(29)。アマゾン・フレックスは、まさにこのクラウトソースド・デリバリーであって、個人の
(27)Aćimović, S., Mijušković, V. and Milošević, N.(2020), p.8.
(28)Zaleski, Olivia (2018).
ドライバーを動員することによって、より安いコストでラストマイルの配送を可能にしている。
4.3 フランチャイズ・システムによる配送業者の拡大
もう一つの重要な配送を拡大する取組みが、2018年から開始されたアマゾン・デリバリー・
サービス・パートナー(Amazon Delivery Service Partner)である。これは、アマゾンの貨物を 専門に配送する運送業の会社を起業するプログラムであり、経営者を募集して新たな運送会社を つくる。起業される運送会社は、配送車両を最大40台保有し、従業員が100人以下の事業規模と なる。この運送会社はアマゾンのロゴマークが印刷された専用の配送車を使用して、アマゾンの 制服を着たドライバーがアマゾンの貨物を配送する(30)。
運送業の経営者を募集するにあたって、安定した運送業の経営が可能であることをアマゾンは 強調している。運送会社を起業するのに必要な手元の資金は 1 万ドルでよく、この配送ビジネス で40台の配送車両を運行して年間30万ドルの収益を上げることができる。これまで配送に関する 経験がなくても、アマゾンが指導するため配送業の経営を容易に行うことができる。また、アマ ゾンによって専用の配送車両、ドライバーのユニフォーム、燃料、保険が割引価格で提供され る。さらに、配送する貨物は増加を続けているアマゾンのネット通販の貨物であり、通常の運送 業の経営者のように配送する貨物を探し求める必要がなく、配送業務に集中することができる。
こうした点をアマゾンは強調して、アマゾン専用の運送会社を起業する経営者を集めている(31)。 アマゾンは一般から起業家を募ってきたが、さらにアマゾンの従業員がこの起業家になること を促している。従業員がアマゾンを辞めて起業するならば、起業に必要な資金 1 万ドル、アマゾ ンの給料の 3 カ月分に相当する金額を提供する。こうして、従業員を積極的にこのプログラムに 参加するように促してる(32)。
アマゾンのデリバリー・サービス・パートナーは、輸送のフランチャイズ・システムといえ る。アマゾンブランドを使用するフランチャイジーが配送業を起業したパートナーであり、ブラ ンドを提供して束ねるのがフランチャイザーのアマゾンとなる。運ぶものはもっぱらフランチャ イザーであるアマゾンのネット通販貨物となる。こうしてフランチャイズ的な方式で、小規模な 運送業を起業させてみずからの輸送の新たな担い手を拡大している(33)。
アマゾンは、デリバリー・サービス・パートナーに専用の配送用車両を提供するために、2018 年 9 月にメルセデスベンツの配送用バンを 2 万台発注している。この時点の計画では、2018年末 まで100台以上が使用され、2019年末までに 2 万台が導入される予定である。アマゾンが直接車 両を購入するのではなく、車両管理会社がこれらの配送用バン車両を購入して、デリバリー・
サービス・パートナーにリースする。2018年の時点でシアトルにおいてデリバリー・サービス・
パートナーの運送会社がこのメルセデスベンツの新しい配送用バンで運ぶ訓練を終えており、そ れを踏まえて 2 万台の車両が500社のデリバリー・サービス・パートナーに提供される。この時 点で、500社のデリバリー・サービス・パートナーを起業させて、 2 万台のアマゾン専用の配送
(29)Castillo, Vincent E., Bell, John E., Rose, William J. and Rodrigues, Alexandre M. (2018).
(30)Aćimović, S., Mijušković, V. and Milošević, N. (2020), p.8.
(31)Business Wire (2018).
(32)Smith, Jennifer and Chin, Kimberly (2019).
(33)Taylor, Rob (2018).
用バンを使用し、自社のネット通販貨物を運送する計画であった(34)。
このデリバリー・サービス・バートナーは、2018年からアメリカ以外にカナダ、イギリス、ス ペイン、ドイツで導入されている。そして運送業者を急激に拡大してきた。アマゾンが明らかに しているところによれば、2020年 9 月の時点で、 5 か国合計で1500社以上の運送業者が10万人以 上のドライバーを雇用して配送業務に従事している。アマゾン専用の配送車両が 5 万台使用され ており、年間22億個のネット通販貨物を輸送している。そして配送業者の営業収入は50億ドルに 達している(35)。現状においてアメリカにおけるデリバリー・サービス・パートナーの運送業者 は明らかにされていないが、海外を含めた運送業者の増加から考えると、当初の計画を超えて拡 大しているものと考えられる。
配送車両の導入に関して最近新たな動きがみられた。2020年10月にアマゾンは、2022年初めま で電気自動車の配送用バン 1 万台を走行させることを明らかにしている。これは、電気自動車の 新興企業であるリビアン(Rivian)が製造する電気自動車を大量購入するものである。そして、
2030年にはこの電気自動車の配送用バンを全体で10万台導入する計画でいる。地球環境問題が深 刻化するなかで、CO2排出を削減する取組みが求められているが、これに対応する形でみずから ラストマイルの配送をコントロールするアマゾンは、積極的に電気自動車の導入を行う。その配 送規模から 1 万台もの電気自動車の導入を計画しており、ますます自社の配送を拡大していくな かで、環境にやさしい配送車の導入を促進していく(36)。
さらに注目すべき動きとして、2020年 6 月にアマゾンは、自動運転車のスタートアップ企業で あるズークス(Zoox)を推定で12億ドルを投じて買収することを明らかにした。このスタート アップ企業は自動運転の配送用車両を開発しており、アマゾンはその企業を傘下に収める。貨物 輸送においても自動運転の車両が実用化されるようになっており、これによってより効率的な輸 送を行うことができるようになる。アマゾンもネット通販の貨物の配送において自動運転の配送 車両の導入が今後必要となる。それを見越したうえでの買収である。
かつて、アマゾンは物流ロボットのメーカーであるキバ・システムズを買収した。そして製造 された物流ロボットを大量に自社のフルフィルメント・センターに導入して、フルフィルメン ト・センターにおける物流効率化を実現してきた。自動運転車のスタートアップ企業の買収は、
これと同じように極めて重要な意味を持っている。アマゾンはこれからさらに拡大していくみず からのラストマイルの配送を効率化できるように、自動運転の配送車両を大量に導入することに なる。
4.4 航空貨物輸送への進出
広大なアメリカにおいて迅速な輸送を行うには航空輸送が重要な役割を担う。ネット通販のラ ストマイルを担う宅配便では陸上宅配便と航空宅配便があり、当日配送を始め翌日配送、翌々日 配送を実現するためには、航空宅配便を利用することが必要不可欠である。このためにUPSや
FedExなどの宅配便事業者は、アメリカ国内にハブ・アンド・スポーク・システムを構築して
航空機を運航させてネット通販の貨物を輸送してきた。
(34)Stevens, Laura (2018).
(35)Amazon Staff (2020).
(36)Amazon.com (2020).
アマゾンは、宅配便事業者の航空宅配便に依存することから脱却し、みずから輸送する体制を 整えて、航空の輸送力を拡大している。アマゾンの航空貨物輸送を担うアマゾン・エア(Ama- zon Air)は、2016年にネット通販貨物の輸送のために20機の貨物専用機を使用してフライトを 開始した。そして運航する貨物専用機を増やしてきた。2020年 3 月の時点で、アマゾン・エアは 42機の貨物専用機を運航している。これらの航空機によって 1 日当たり約100便が運航され、フ ルフィルメント・センターがクラスターを形成している地域に近接している空港を中心として、
全米の27の空港に貨物専用機を運航させている。
就航している貨物専用機は中型機のボーイング767sが全フライトの90%を占めており、残り は小型機のボーイング737sとなっている。アマゾン・エアは 4 つの航空会社からこれらの貨物 専用機をリースしており、実際の航空機の運航もこれらの航空会社によって行われている。アマ ゾンは、直接航空機を購入して運航させるのではなく、航空会社からリースする形で、多額の設 備投資をすることなく航空機を調達している。
そして、アマゾン・エアは投入する航空機を今後さらに増加させていく。2021年までに運航す る貨物専用機を70機に拡大する計画でいる。ちなみに、FedExは貨物専用機を431機、UPSは 257機を運航しており、全世界で貨物専用機の使用する航空会社のトップと 2 位にいるが、アマ ゾンが70機の貨物専用機を使用するようになると、世界の貨物専用機を運航している航空会社の なかで第 7 位に匹敵する規模となる(37)。
アマゾンは効率的な航空輸送を実現するためにハブ・アンド・スポーク・システムを強化す る。2021年には、ケンタッキー州のシンシナティ・ノーザンケンタッキー国際空港をハブとして 運用を開始する。これによって、本格的なハブ・アンド・スポーク・システムを構築することが できる。アマゾンはシンシナティ・ノーザンケンタッキー国際空港をハブ空港と使用するため に、推定で15億ドルもの巨額な資金を空港ハブの建設のために投じている。この空港には300万 平方フィートの仕分け機能を持つ大規模なターミナルが建設されており、100機を超える貨物専 用機が駐機できるスペースも建設されている(38)。
アマゾンはみずからの航空貨物輸送を急激に拡大しているが、この自前の貨物輸送によって
FedExやUPSの航空宅配便に比べて低コストで貨物を輸送することが可能になっている。例え
ば、FedExやUPSの航空宅配便に委託する宅配便の運賃が貨物 1 個当たり 8 ドルから 9 ドルか
かるが、これを自前で輸送すると 1 個当たり 6 ドル程度で航空輸送できるという。このようにア マゾンの自前の航空輸送は、配送コストを削減することを可能にしている(39)。
アマゾンの航空輸送は、自社のネット通販貨物に限らず、自社以外の貨物も同時に輸送してい る。明らかに航空貨物運送業者としてビジネスを拡大している。このビジネスを拡大するため に、航空宅配便事業者よりも安い運賃を設定して荷主の貨物を取り込もうとしている。一つの事 例として、アマゾンのマーケット・プレイスに出店しているネット通販事業者が自社の倉庫から アマゾンのフルフィルメント・センターへ販売する商品を送る際に、アマゾンの航空便を利用す るとUPSの運賃よりも50%も低い運賃が提示されたという。600ポンドの貨物の運賃はUPSで 160ドルであったが、アマゾンは80ドルの運賃を提示した。こうした事例に示されるように、ア
(37)Schwieterman, Joseph P. and Walls, Jacob (2020), pp.2 7.
(38)Berg, Natalie and Knights, Miya (2019), pp.231 232.
(39)Schoolov, Katie (2019).