BulletinofFacultyofEducation,NagasakiUniversity:CurriculumandTeachingNo.47(2007)1‑12
算数的活動の視点からみた複式授業における 「 わたり」の考察
‑サイエンス・ パートナーシップ・ プロジェクトにおける取り組みから‑
平岡 賢治 *・宮内( 吉田) 香織 * *
(2006年 10月31日受理)
Astudyof"watari"(shiftinteaching)inaFuhushiki‑jugyou(combinedclassof twogrades)from theviewpointofmathematicalactivities:
Findingsfrom anengagementinaSciencePartnershipProject(SPP)
KenjiHIRAOKA & KaoriYOSHIDA‑MIYAUCHI (ReceivedOctober31,2006)
1.はじめに
本研究は,独立行政法人科学技術振興機構 (JST)が主催す る平成18年度サイエ ンス ・ パー トナーシ ップ ・プロジェク ト (SPP)の一環 として行 われた 「教員研修」の取 り組み
に基づいている。 その取 り組みの中では,算数科 の複式教育 における "算数的活動 を重視 した '授業創 りお よび授業実践が実際に行 われた。 より具体的には,教員研修の場で研究 者が授業創 りのあ り方 について示す ことに加 え,授業者が作成 した学習指導案の,教員研 修の場 における全貞での討議後,今度は授業者 と研究者 との間でや りとりがなされた。 さ
らにそ こでの示唆 をもとに,授業者 と校 内検討会 による修正がなされ,実践が行われた。
本研 究 は,算 数的活動 の視点 を重視 した複式教育 にお ける授業創 りとその実践 を通 し て,「わた り」のあ り方 について検討す ることを 目的 とす るものである。
2.
サイエンス・ パートナーシップ・プロジェクトの概要
2.1 サイエ ンス ・パー トナーシ ップ ・プロジェク トとは
SPPは,学校等 の教 育現場や教育委員会等管理機 関,大学 ・科学館等が連携 を図るこ とによ り,「科学技術,理科 ・数学 (算数) に関す る観察,実験,実習等 の体験 的 ・問題 解決的な活動 を中心 と した学習活動や, これについての研修 を行 い,児童生徒 の科学技 術,理科 ・数学 (算 数 ) に対 す る興 味 ・関心 と知 的探 究心等 を育成 す る こ とを 目的」
(JST,2006)としたプロジェク トである。
JSTに提案で きる企画の種類 として (1)講座型学習活動 と (2)教貞研修の2つがあ り,本研究で論述 している企画 は 「教員研修
」
に位置づ け られる。 具体 的 には,研修名*長崎大学教育学部 数理情報講座 (数学教育学)
**長崎大学教育学部 初等教育講座 (数学教育学)
2 長崎大学教育学部紀要 教科教育学 No.47 (2007年)
『創造性 を育 む授業力 向上のための支援 プログラム ー離島における算数指導の改善 を目指 と 三二 』 (実施責任者 :長崎大学教育学部長 橋本健夫) によって JSTに提案 を行い,採 択 され,現在,実施 している (以降,本 プログラムを授業力向上支援 プログラム と呼ぶ)。
実質的には,平 岡賢治 (長崎大学教育学部)が実施主担当者,宮内香織 (長崎大学教育 学部)が実施副担当者 とな り,授業力向上支援 プログラムの企画 ・運営 ・実施 を行 ってい る。 さらに実際の教員研修の場 には,東原宏幸 (長崎大学教育学部附属小学校 教諭)が 講師 として,相浦太 (長崎大学大学院教育学研究科教科教育学専攻 院生 ・長崎市立福 田 小学校教諭) と楠 田和博 (長崎大学大学院教育学研究科教科教育学専攻 院生)が研修補 助 として適宜参加 している。
以下では,本授業力向上支援 プログラムを企画す るにあたっての背景お よび授業力向上 支援 プログラムの 目的について述べ る。
2.2 授業力向上支援 プログラムを行 うに至 った背景 とその 日的
SPPの 目的は算数 ・数学 に対す る子 どもたちの興 味 ・関心 の喚起 や知的探 究心の育成 にある。 数学教育 においては,算数 ・数学 に対する子 どもの知的探究心等の育成 に関わる
ものの 1つ に 「創造性の育成」が挙 げ られる。
創造性 に関する研究 として,心理学 においてはギルフォー ドの研究が有名である (例えば Guilford(1959)な ど)。その一方で,数学教育 においては,植村 (1999)が 「新 しい価値 あるものやアイデアを創 り出す能力 と,それを可能にする数学的な考 え方や数学的表現力, 創造的思考 に対す る積極 的な態度」 と創造性 を規定 している。 但 し,学校教育 に焦点化す ればここでの "新 しさ" とは,"児童 ・生徒 にとって価値のあ る新 しさ" を意味 している。
この ような創造性 は, どこに焦点 をあてるかの違いにより研究者 によって捉 え方が異 な る (植村,1999)ため,本研 究では植村 (1999)に よる創造性 の規定 を参考 に しなが ら
も, さらに,子 どもの創造性 あるいは創造的な思考 を育成す るためには
身の回 りにある事象 の中か ら数学的な ものを見出 し,それ らを数学的な見方 ・考 え方 か ら捉 え,数学的に解決 し≪収束的思考 ≫,その結果 を事象 に適用 させ,数学的に意 味ある方向に発展 ・統合 させ る≪発散的思考 ≫ことので きる能力 ・態度の育成 が重要であるとい う立場 にたつ。 これは創造性の 「収束的思考」 と 「発散的思考
」
の相補 的な働 き (植村,1999) に関連する ものである。ところで,長崎県 の教 育 に特有 な ものの1つ に 「離 島教 育
」
が あ る。 これ は原 田他 (2006)が指摘す るように, 日本全国の有人離島の うち,約 21% (55島)が長崎県 に属 し ていることか らも明 らかである。 この ような離島教育では,利点 (e.g.,子 どもどうし,保 護者,学校 ,地域住民 などの相互の関係が緊密である等)がある一方で,問題点 も存在す る。 その中で も重要 と考 え られる3点の事柄 を以下 (①〜(彰)の ようにまとめることがで きる (cf.原 田他,2006;村 田他,2006;佐 々他,2006)。① 良い意味での競 い合いが少 ないため学習意欲が低 い 【‑学習意欲の喚起】
これは,離島の学校 では子 どもの数が少 ない ことか らくる ものであると考 え られる。
(∋ 子 どもの "数学的に多様 な見方 ・考 え方" を引 き出 した り育てた りすることが難 しい
平岡賢治・宮内(吉田)香織:算数的活動の視点からみた複式授業における「わたり」の考察‑サイエンス・パーけ‑シップ・プロジェクトにおける取り組みから‑ 3
【‑数学的に多様 な見方 ・考 え方の育成】
これは,離島教育 に関 して ももちろんではあるが,その中で も複式学級 に特 に関わって くる問題 であ る。 長崎県 は400校 の公立小学校 の うち23.3% (93校)が複式学級 を保 有 し (村 田他,2006),それ ら複式教育 に特有 の 「わた り」 と 「ず らし」の工夫が課題 となっている。 す なわち,教 師が一方の学年 に 「わた り」,その学年の直接指導 を行 っ ている間,他方の学年の子 どもたちに対 しては間接指導 を行 うことになる。 子 どもの数 が少 ないために限 られた意見 しか出ない環境 にあ り,なおかつ教 師が直接指導 を行わな い場面では, ガイ ド学習 な どの "子 どもどう Lによる"学 びあいによ り, "数学的に多 様 な見方 ・考 え方" を生み出す能力 ・態度の育成が課題 となる。
③ 離 島の学校 における教員 に とって教材研究の図書や資料の入手が容易 ではない。 また 教員数が少 ないため,教材研究に関わる時間の確保が困難であ り,教員の資質 ・能力
向上のための教員相互の交流 にも限界がある。 【‑教員研修の場の確保】
これは,(A)「離島教育特有の授業創 りの困難 さ」 に関 して共通の悩み をもった教員 ど うLが,数学教育 について議論す る場が設定 で きに くい, (B)数学教 育専 門の研究者 や指導主事 を交 えた研修の場 の設定が困難である, といった離 島の学校 の教員の声 を反 映 している。
これ らの問題点 を解決す るためには,子 どもの 「創造性 の育成」が数学教育 においては 重要 になって くる。 それは上記 で示 した ように,「身の回 りにある事象 の中か ら数学的な ものを見出 し,それ らを数学的な見方 ・考 え方か ら捉 え,数学的に解決 し,その結果 を事 象 に適用 させ,数学的 に意味あ る方向に発展 ・統合 させ ることので きる能力 ・.態度の育 成」 を行 うことが, "数学的に多様 な見方 ・考 え方の育成" (課題②)お よび "学習意欲の 喚起"(課題(∋)につながるか らである。
加 えて,長期 的な視野で効果的によ り多 くの子 どもの創造性 を育むためには, "教員 の 授業力 の向上" を図ることが よ り効果的である。 これは課題(彰の 「教員研修 の場の確保」
に関わる事柄である。 す なわち, どの ような教員研修の場 を確保す ることに意義があるか とい うことを議論す ることに他 ならない。
具体的に述べ ると,数学的な ものの見方 によって 日常行 っている活動 を多様 に捉 え直 し た り,友達 どうLでの議論 を通 して様 々な数学的に新 しい ("子 どもたちにとっで '新 し い)アイデアやひ らめ きを表出 させた りす ることが可能 となるような授業 を,各教員が構 成で きる力 を身につけることが,最終的には上記 の課題① と② を解決することにつながる。
そこで まとめると,本授業力向上支援 プログラムは,離島教育 における問題点 を解決す るために 「子 どもの算数 に関わる創造性 の育成」が有効であるとい う立場 にたち,その実 硯のために,以下の3点 を目指 している。
(ア)教員 自身が操作的な活動 をす る中で,教材 の幅広い見方 ・発展性 を理解 し,数学的 な 「方法の広が り」の面 白さを実感す ること
(イ)教 師 自身が,算数の授業創 りお よび授業実践 を通 して多様 な数学的な見方 ・考 え方 を実践的に体感 し,創造的な思考 を養 うこと
(ウ)子 どもの創造性 を育む授業力 を向上 させ ること
4 長崎大学教育学部紀要 教科教育学 No.47 (2007年)
以上 の事柄 は,「文化的な刺激の少 な さ」(e.g.,村 田他,2006)とい う離 島教育の他 の 問題点 をも克服す ることにつ ながる。 とい うの も,子 どもが創造性 を身につけることによ り,身近 にある ものや当た り前 に感 じていた ことを数学的に多様 な見方 ・考 え方や方法 を 通 して次 々に新 しい もの‑ と発展 ・統合 させ てい くことが出来 るので,子 どもたち自 ら
「文化の創造
」
を体験 ・享受す ることにつなが るか らである。3
「算数 ・数学的活動の視点に立 った授業理解の枠組み」に基づ く授業創 り 3.1 算数 ・数学的活動の5段階算数 ・数学科 の授業創 りにおいて重要 な概念 の 1つ に,「算数 ・数学的活動
」
が挙 げ ら れ る。 それは,以下 に列挙 している小学校 ・中学校 ・高等学校 の算数 ・数学科 の学習指導 要領の各 目標 に一貫 して用い られていることか らもその重要性 は明 らかである。数量や図形 についての算数的活動 を通 して,基礎的な知識 と技能 を身に付 け, 日常 の事象 について見通 しをもち筋道 を立てて考 える能力 を育てるとともに,活動の楽 しさや数理的な処理の よさに気付 き,進 んで生活 に生かそ うとす る態度 を育 てる○
数量,図形 などに関する基礎 的な概念や原理 .法則 の理解 を深め,数学的な表現や 処理の仕方 を習得 し,事象 を数理的に考察す る能力 を高める とともに,数学的活動 里 塾ヒ呈,数学的な見方や考 え方の よさを知 り,それ らを進 んで活用する態度 を育
数学 における基本的な概念や原理 .法則 の理解 を深め,事象 を数学的に考察 し処理 す る能力 を高め,数学的活動 を通 して創造性の基礎 を培 うとともに,数学的な見方 や考 え方の よさを認識 し,それ らを積極的に活用す る態度 を育てる○ (文部科学省,
小学校算数科 にお ける算数的活動 とは,「児童が 目的意識 を もって取 り組 む算数にかか わ りのある様 々な活動」 (文部省,1999,p.14)を意味 している。
中学校数学科 における数学的活動 は,生徒 の情意面,すなわち,「‑数学 を創造 し発展 させ る活動 を通 して数学 を学ぶ ことを経験 させ,その過程の中にみ られる工夫,驚 き,感 動 を味わい,数学 を学ぶ ことの面 白さ,考 えることの楽 しさを味わえるようにす る」 (文 部科学省,2004a,pp.14‑5)ことを重視するために加 えられた概念である。
この ような算数的活動お よび中学校 における数学的活動 は,文部省 (1999)や文部科学 省 (2004a)に従 えば,外 的活動 (作業的な活動や具体物 を用 いた活動 な ど,客観 的に観 察することが可能な活動) と内的活動 (振 り返 って考 えた り,類推 した り,発展的に考 え た りする思考活動)の大 きく2つに分 けて捉 えられる。
高等学校 における数学的活動 (文部科学省,2004b,p.10)はさらに この ような考 え方 を包括 し,「数学化」 に関わる流れによって数学的活動 を捉 えている。 すなわち,
身近 な事象の数学化 とそれに伴 う課題設定 1
平岡賢治・宮内(吉田)香織:算数的活動の視点からみた複式授業における「わたり」の考察‑サイエンスIJトトナーシップ・プロジェクトにおける取り組みから1 5
数学的な問題解決 (考察 ・処理) と数学的に "新 しい"理論の構成 l
身近な事象 に立ち戻 り,それ ら結果の活用 ・享受 とい う一連の流れ として数学的活動 を想定 している。
以上 のことか ら, よ り広い意味 を含み もつ高等学校 の数学的活動の視 点 に着 冒し,質 数 ・数学的活動 を,以下の 「算数 ・数学 的活動 の5段 階」 として暫定的に規定 した (平 岡 ・宮内 (吉田),
2 0 0 6 ) 。
(∋ 数学化の活動
具体的な場面における問題の数学化 (具体的な事象 を数理的に捉 える)活動
② 定式化 (課題の設定)の活動
具体 的な事象 を数学的に定式化 (数学的な課題 を設定)す る活動。理想化 ・単 純化 ・理念化 ともいえる。
③ 考察 ・処理の活動
既習の知識や数学的な考 え方 を基 に した数学的な考察 ・処理活動
④ 反省 ・適用 ・応用の活動
数学的な思考過程や数学的に得 られた事柄 をよ り一般的な場面において反省 し た り (振 り返った り),適用 した り,応用 した りする活動
⑤ 発展 ・創造 ・文化の享受の活動
さらなる数学的な方法の広が りを導 く発展 的 ・創造的な活動,論理的体系性 を もった数学文化 を享受する活動
算数 ・数学的活動の5段階 (平岡 ・宮内 (吉田),2006)
この 「算数 ・数学 的活動 の5段 階」 は,高等学校 にお ける数学的活動 (文部科学省,
2 0 0 4 b)
だけでな く,Tr e fe f r s( 1 9 8 7 )
の "具体的文脈か ら体系的な文脈‑の垂直方向"の 数学的活動の捉 え方やス トリヤール( 1 9 7 6 )
,平 岡( 2 0 0 4 )
,そ して 日本の "問題解決型の 算数 ・数学の授業" という特徴 (平岡 ・宮内 (吉田),2 0 06 )
をも加味 して構成 されている。3.2 算数 ・数学的活動の視点 に立 った授業理解の枠組み
さらに,ヴイゴツキー ・ル リア (1930/1987)に基づ く構造の不変性 ・構造の個 々の要 素か らの独立性 (吉田,
2 0 05 )
とい う視点か ら,前節での一連の算数 ・数学的活動 に3
つ の段階 (Ⅰ〜 Ⅲ)を設定 している。 (図1,2参照)。図 1は 「授業 における算数 ・数学的 活動の螺旋的流れ」 を示す ものである。 また図2は,図1の螺旋的流れを,「算数的活動 の視点 に立 った授業理解の枠組み」 として捉 え直 した ものである。 なお,図1,2におけ る①〜⑤ は,上記の 「算数 ・数学的活動の5段階」に対応 している。第 Ⅰ,Ⅱ段階ではそれぞれ,具体的な事象,数学的な事象 を対象 とした算数 ・数学的活 動が行われる。 また第Ⅲ段階では,数学的な場面の中で具体的な事象 を振 り返った り, よ り一般的な場面で学習内容 を発展 させた りする算数 ・数学的活動 を行 う。 このように,段 階 Ⅰか らⅡへ,段階Ⅱか らⅢ‑ と場が高 まる際には,場面 ・事象 は異なるが,そこでの活 動の対象 となっている数学的な構造 (本質)は変化 していない。従 って子 どもたちは,異
6 長崎大学教育学部紀要 教科教 育学 No.47 (2007年)
場 よⅢ 面 り
広 い
場 数 Ⅱ 面 学
的 な 場 具 Ⅰ 面 体
的 な
図1:授業における算数 ・数学的活動の螺旋的流れ
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起 承 車云 . ノ 結
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導入 展 開 まとめ
(つかむ) (練 り上げる) (深める)
図2:算数 ・数学的活動の視点に立 った授業理解の枠組み (平岡 ・宮内 (吉田),2006)
なる場面 における算数 ・数学的活動 を通 して,数学的な見方 ・考 え方 を広 げることになる。
ところで, この 「算数 ・数学的活動の視点 に立った授業理解 の枠組 み」 (図2)の特徴 は,Iaか らⅢbまでの流 れ を1単位時間の授業 の中に位置づ けてい ることにある。 つ ま り, この 「授業理解の枠組み
」
に沿 って1単位時間の授業 を捉 えることがで き,1単位 時間の中に① 〜⑤ の算数 ・数学的活動全 て を行 うことが想定 される。 次節以降において は,その具体的な取 り組みについて検討す る。4 算数科 における複式授業
4.1 授業力向上支援 プログラムにおける授業の位置づけ
授業力向上支援 プログラムは計5回の実施 を予定 してお り,現段階において第4回 目ま で終了 している。 これ ら5回のプログラムに参加 しているのが,長崎県下 にある公立小学 校2校 (両校 とも全校児童数が50名前後の小規模校)である。 この2校 は,長崎県教育
平岡賢治・宮内(吉田)香織:算数的活動の視点からみた複式授業における「わたり」の考察‑サイエンス・パーけ‑シップ・プロジェクトにおける剛組みから‑ 7
委員会 お よびその市 の教 育委員会 の協力 の下,参加 を募 った学校 であ り,2つの学校 の校 長 を先頭 に,学校 ぐるみ で本 プログラム に取 り組 んでいる。
第1回 目の プ ロ グ ラムで は,A校 お よびB校 それぞ れか ら選 ばれ た各 1名 の教 師が, 事前 に準備 していた学習指導案 をその場 に持 ち寄 り,研修 にお ける議論の材料 と して提供
した。 なおその研修 の場 には,A校 お よびB校 の校 長 を始 め とす る全教 師が参加 してい た。学習指導案 に関す る授業者 か らの説 明,小 グループに分 かれての検討 ,全体 での検討 を各学習指導案 に関 して行 った後,研 究者が授業創 りに関す る資料 の提供 お よび 「授業理 解 の枠組 み」の アイデアに沿 った 「授業創 りに関わる基本 的な考 え方
」
の説明 を行 った。第1回 目の授業力 向上支援 プログラム に続 き,その約1ケ月後 ,第2回 目の プログラム と してA校 のY教 諭 に よる授 業 が行 われ,A ・B両校 の教 師お よび研 究者 達が そ の授業 を参観 した。授業後,参観者 に よる授業協議会が行 われた。 なお この授業 は,第1回 目の 研修 の場 において全員 で議論 した授業2つの うちの 1つであ り,本研 究 において対象 とす
る複式授業 であ る。
また,第 1回 目のプログラム と第2回 目の プログラムの間の約 1ケ月の間,授業者 であ るY教 諭 と研 究者 との 間で授 業創 りに関す るや りと りが,E‑mailお よび電話 を使 ってな された。 (これ らの枠組 み についての詳細 は,平 岡 ・宮 内 (吉 田) (印刷 中) を参照)。
4.2 授業 の概要
授業 者 であ るY教諭 が3 ・4年生 の担 当であ る こ とか ら,今 回の授 業力 向上支援 プロ グラムでは,下記 に示す3 ・4年生 の授業創 り ・実践が行 われた。 なお,下記 の詳細 につ いては,Y教諭 が作成 した学習指導案 の最終版 (授業 日に配布) を基 に してい る。
[授業 日]2006年9月28日 [場所 ]長崎県下 のA小学校
[人数]3・4年生合 わせ て12人,授業者 1人
表 1:3・4年生の複式授業 の概要
≪3年生≫ 《4年生》
単元 あ ま りのあるわ り算 (8授業時 間) 三角形のなか まを調べ よう (9授業 時間) 単 乗法九九 を1回適用 してで きる除法 二等辺三角形や正三角形 の概 念 や性 質 につ 元 で,あ ま りのあ る場合 の計算 の しか いて理解 し,それ を構 成 した り用 い た りす
冒 たにつ いて理解 す る とともに, それ る能力 を伸 ばす 標 .を用 い る能力 を身につ ける
学習 1.乗法九九 を 1回適用 してで きる 1.形 としての角 の概念 を理解 し,角 の大除法で,あ ま りのあ る場合 の計 小 を比べ るこ とがで きる (1時 間) 活
動の 2.算 方法 を理解す るあ ま りと除数の関係 を理解 す る(2時間) 2.3を用 いて,いろいろな三角形 をつ くり,種 類 の合 同 な‑2つ の直角 三 角 形板 計
画 (1時間) 辺 の長 さや角 の大 きさに着 冒して三角
8 長崎大学教育学部紀要 教科教育学 No.47(2007年)
学習 ついて,答 えの確かめ方 を理解 角形 と正三角形 について,定義 と角の する (1時間) 性質を理解する (3時間) (‑策軽塗葦) 4.わ り算の筆算形式 を知 り,筆算 3.二等辺三角形のか き方 を理解 し,指定 のよさに気づ く (1時間) された二等辺三角形 を作図することが
活
動の 5.あま りの とらえ方について理解 で きる (1時間)
を深める (1時間) (蒸 韓) 4.正三角形のか き方 を理解 し,指定 され 6.学習 内容 を確 実 に身 につ ける た正三角形 を作 図す る こ とがで きる
(2時間). (1時間)
計
画 5.外的な活動 を通 して,学習内容の理解6.学習内容の理解 を確認する (2時間)る (を深め,三角形 についての興味を広 げ1時間) ね らい (本時)あ ま りの とらえ方 について (本時)二等辺三角形や正三角形 の定義や
理解 を深める 角の性質を理解す ることがで きる
揺 半具体物 の操作 や 図で,「あ ま り
」
なかまわけの視点 をもたせた上で,一人調 莱の視 を視覚 的 に とらえ させ る こ とに よ べの時間を十分確保することにより,三角り,題意に即 したあまりの処理の し 形の特徴 に気づいてなか まわけがで きるで
4.3 算数科 における複式授業の課題
村 田他 (2006)によると,長崎県下の公立小学校 (休校 を除 く)400校 の うち,約 1/4 にあたる学校が複式学級 を有 している (平成17年度長崎県児童 ・生徒数資料 に基づ く)。
このような複式教育での算数科 に関わる問題点 を,村田他 (2006)や佐 々他 (2006)に 基づ き以下の2点 に集約す ることがで きる :① 間接指導の充実,②多様 な考 え方の育成
(平岡 ・宮内 (吉田),印刷中)0
② については2.2節で述べ た事柄 と共通す るので, ここでは割愛す る。 ① については, 文部省 (1995)による指摘 とも関わって くる。 すなわち,複式授業 において学年別指導 を 行 う際には 「直接指導ので きる時間が少 な くなる
」
「個別指導 な どの時間が設 けに くい」(文部省,1995,p.10) ことか ら,教 師が直藻指導 を行 っていない学年,つ ま り間接指導 で対応 している学年の子 どもたちに対するより良い教授 ・学習の保障が問題 となって く る。
さらに文部省 (1995)は,学年別指導においては 「直接指導 と間接指導の組み合わせ に よ り,指導 の計画や実施が複雑 になる」 (p.10)とい う問題点 も指摘 している。 このこと は,「教 師による授業創 りの複雑 さ」 とい う第3の問題点 (③) として提起す ることがで
きる。 すなわち,1単位時間の中の "どの段階で他学年に 「わたる」が 'は,教師の経験 に負 うところが多 く,授業 を計画する段階で も悩 ましい箇所 となる。
そこで次節では,3.2節 で提起 した 「算数 ・数学的活動の視点に立 った授業理解の枠 組み」に沿 って行われた授業創 りの具体例 を提示 し,その時の 「授業理解の枠組み」に基 づ く 「わた り
」
のあ り方を,算数 ・数学的活動の視点か ら検討する。平岡賢治・宮内(吉田)香織:算数的活動の視点からみた複式授業における「わたり」の考察‑サイエンス・パーけ‑シップ・プロジェクトにおける取り組みから‑ 9
5
算数科の複式授業における 「わた り」
のあり万 一算数的活動の視点か ら4.2節の表1の中の3・4年生の授業 (本時)について,授業者 と研究者が,第1回 プロジェク トと第2回プロジェク トの間の1ケ月間にや りとりを行 った。そこでは,以下 の一連の流れが実施 された。ただ し図3,4は,そこでの提案版 にさらに手 を加 えた もの
を提示 している。
(i)
Y
教諭 によって作成 された学習指導案 を,研究者が 「授業理解の枠組み」で捉 え直 す (図3,4参照)(ii)3・4年生の 1単位時間の授業の 「ね らい」 と子 どもたちの 「算数的活動
」
お よび それ らの関係 を捉 える(iii)算数的活動の視点か ら 「授業理解の枠組み」 を修正する。 修正 した ものを,
Y
教諭 に提案す る。(iv)
Y
教諭たちによって,学習指導案が改正 される‑場合 に応 じて (i)に戻 り,繰返 す図3,4において色づ け している箇所 は,子 どもたちの 自力解決がで きる場面 と考 えら れる。 言い換 えれば,図3,4を見比べ ることによ り,教 師が 「わた り」 を行 える場面 を 判断す ることが出来る。
例えば,3年生の課題設定 (②)の場面では,子 どもが 「学習のめあて
」
と 「活動の方 向性」 を認識す るために,教師の直接的関与が不可欠である。 そ して一旦,課題が設定 さ れる (Ⅱ a)と,その最終的な発表活動場面 (Ⅱ b)に至 るまで ((彰の前半部分) は,千どもたちが 自力解決 を行 えるので,教師は 「わた り
」
を行 える。その一万 4年生では,②の課題設定に続 き,子 どもが2枚の合 同な三角形板 を裏返す ・ 回転 させるといった操作活動 を通 して,図形の構成要素 に 「気付 く」 きっかけを得 るまで ((参の前半部分),教師が直接関与することが必要である。
これ ら2点を考慮することにより,教 師の 「わた り」の場面 を判断することがで きる。
6
おわ りに実際の授業では,授業者 と研 究者 との コミュニケーシ ョンの (物理的な)困難性 によ り,意思の疎通 をうま く図ることが難 しかったこともあ り,研究者の意図 した授業の流れ と,実践 された授業 との間にはギャップが存在 した。従 って,本稿では実際に行われた授 業 における教師の 「わた り
」
と本稿で提案 している 「わた り」のあ り方 を比較することは で きない。しか しなが ら,本稿で示 した 「算数 ・数学的活動の視点に立った授業理解の枠組み
」
に 基づいて授業創 りを行 うことによ り,次の ような利点が存在す る :1)授業のめあてに あった算数的活動 とその題材の選択 ・決定,2)算数的活動 による子 どもたちの思考過程 の明確化,3)子 どもたちの自力解決 と相互理解の場の設定, 4)教師が 「わた り」 を行 う場の判断。以上か ら,教師が これまで経験や勘 に基づ き行 っていた 「わた り」
を,子 ど もの算数的活動の視点 を考慮す ることにより,ある程度計画的に行 えるようになる。今後,「算数 ・数学的活動の視点に立 った授業理解の枠組み」 を精微化することを通 し て,教 師の 「わた り」や 「ず らし
」
のあ り方 をよ り一層明確 に捉 えてい くことが課題であ る。・ は子どもが自力 で解決を行える場面
Ⅲより広い場面 Ⅱ
数学的な場面 ‖‖具体的な場面
.,'・前 時 までヽ1
:に学 習 した : :わ り算 を用 ・
l
:いて式 をた : 1、てよう
ノ
(場面・事象)
一‑I‑I‑‑I‑ 1‑‑I‑Ill‑ヽ I,'鳩 はじきや○図など、、l :半具体物を用いた操 ; 妄語監要覧 許 いす … : ・bり算の式とはどん 、、、〜 :な関係になるのだろうノヽヽ バ 、
、一一一‑‑一一一一一一一一一
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
Ⅱa
‑ 『実際にいすの数 を求
に
なるか? 』
′‑I‑ ‑‑‑‑ ‑
1
‑I ‑
: 問題が違えば、余りの捉え方
「
工 聖 うなる0ヽ /'!?聖 (̲eP̲)̲̲̲̲) ヽヽヽ̲//
Ⅲa
『16人、18人、19人 の場合、いすはい く つ必要か ?』
売 雲 Ⅲb≠
/
/ 〜
用 I応用
‑こ
ト
ニー‑ .一. l■人数が変わ‑ ■っ■■、:Ⅱb
‑お は じきや ○図 な どを用 い て 、 い す の 数 の 求 め方 (考 え方) を発表 ・それ ぞ れの答 えの根拠 を理解
‑わ り算の式 と答 えの関係 について、自分の考えをま とめる ・発表 (5余 り2‑ 2人 が座 るために、いすはもう1 つ必要だか ら、全部で6つ)
〜.たらどうなるの
:
:だろう(応用)
;
: : : 了
∵L‑I‑蒜 議定5‑i‑7;L‑(L1‑a‑f=:去諒「
、工 芸芸.一一一̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲一?L等lfL誓 諾芸 三三ろう
一 一 一 ノ
…<時間>
起
導 入 (つかむ)
承 転 結
展 開 (練 り上 げる) まとめ (漠める) 図3 :「算数 的活 動 の視 点 に立 った授 業理 解 の枠 組 み
」(
3年 生 「余 りの あ るわ り算」)
(A小 学 校Y教 諭 の学 習指 導 案 を 「授 業 理 解 の枠 組 み」 に基 づ き修 正 )
10翻弄汁亜浮城亜柵冨a柑浮華弾珊瑚No147(2007命)
・ は子どもが 自力 で解決を行える場面
Ⅲより広い場面
数 Ⅱ
学 的 な 場 面
I具体的な場面 (場面・事象) 2
枚の合同な三角形板を裏返す・回転させ : 等の操作活動により 作った三角形の特徴 : 構成要素 に着 目して説明できるかな(構成 I
・〜 素への着 目・合同な三角形板の活用)
、一一一‑ ‑ ‑ ‑ ‑ 一一一‑ ‑一一、一 で:
・∴①300600900 1 :の直角三角形板、:
:②直角二等辺三角 : 書芸竺 諾 諾 :l :ぞれ2枚 (合 同)で、:
:どんな三角形がで 一
、、きるだろう1‑‑ '‑ ‑ヽ
ヽ ヽ ノ
形を作ろ
1‑‑d‑ ‑ ‑ ‑ ‑一一 了 ・色 々な三角形がどんな三角 ー: :形 であるか を、どんな方 法で :
し 、 一
確認したらよいのだろう(一一一一一一一一一一一‑ヽヽ 発展ヽ ヽ 一 一 )ノ 一
転 させ る 辺 (角)が ぴった り東1‑≡. 正三角形
‑② の三鷹 一 方 を回 転 させ る当 海 が900の を、 :
要 : 二等 辺 三肇三角形) 直角 二等辺 用 ・応 用ー<J‑一一
Ⅱa
‑ 『作 った三角形 の特徴 を辺や角 に注 目して発表 しよ う』
‑ 『三角形 の特徴 を どの よ うに説明す るか ?』
一 方 の三角 形板 を他 方 つ の 辺
・課串 定 、 ‑:::::::
が等 しいだ けでな く、2つ の角 も等 しい
lJl1‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑■■■ 二 一′一・作 った三 角形 の特徴 として
:何に注 目したらよいだろう し ‑三角形の構成要素 (ヽ‑̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲一一辺、角)
ゝ 二 ..′ ∵ ̲
,I ‑ : : : ‑ I ‑ :
折 り返すさ (角の大 き が等 しい ことは、
折 り返す(対称移 動)・重ねる(平行移 動)・回転す る(回転 移動)によって、辺 (角)を重ねた らよい
一一‑ ‑llI.I ‑‑‑ 一一■ヽ
・′′・作ったいくつかの二 、:
‑1等 辺 三 角 形 に は
、.
:色 々な性 質がありそ : I.うだな(反省)
:
‑. 覗 返す I
l I
<時間>
起 承
導入 (つかむ) 展 開 (練 り上 げる)
転 結
ま と め (
漠 める)図4 :「算数 的活 動 の視 点 に立 った授 業理解 の枠 組 み
」(
4年 生 「三 角形 の仲 間 を調 べ よ う」)
(A小 学校 Y教 諭 の学 習指 導 案 を 「授 業理 解 の枠組 み」 に基 づ き修 正 )
璃国岬苧叫空叫里琳撃鞭警護聾日野等芸f:対外市警隻}brbfJ三〇)軸珊・ヰ音∑・JrTTヾno・7.U・).19言33孟空夢藍子tl
12 長崎大学教育学部紀要 教科教育学 No.47(2007年)
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