2.4 非臨床試験の概括評価 メチルチオニニウム塩化物水和物 メチレンブルー静注 50 mg「第一三共」 1
目次
1. 非臨床試験計画概略...4 2. 薬理試験 ...5 3. 薬物動態試験...7 4. 毒性試験 ...8 5. 総括及び結論...10 6. 参考文献一覧...12略語一覧
略語 略していない表現(英) 略していない表現(日) HPLC high performance liquid chromatography 高速液体クロマトグラフィー LMB Leucomethylene blue ロイコメチレンブルー MAO monoamine oxidase モノアミン酸化酵素 MB Methylene blue メチレンブルー
MBT Methylene blue trihydrate メチレンブルー三水和物 MetHb methemoglobin メトヘモグロビン
NADPH nicotinamide adenine dinucleotide phosphate ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸 NOAEL no observed adverse effect level 無毒性量
1.
非臨床試験計画概略
後天性メトヘモグロビン(methemoglobin: MetHb)血症は、アニリン誘導体、亜硝酸塩な どの原因物質により、ヘモグロビン中の 2 価の鉄イオン(Fe2+)が酸化され 3 価(Fe3+)とな った MetHb が血中に増加し、チアノーゼ、頭痛、意識障害などの症状が現れる中毒性疾患で ある。MetHb 血症の治療には、古くからメチレンブルー(Methylene blue: MB)が使用されて いる。
MB は日本では医薬品として承認されていないため、日本中毒情報センターより、MetHb 血症に対して緊急避難的に試薬の MB を使用することが推奨されている1。MB は米国では United States Pharmacopeia(USP, 米国薬局方: methylene blue)に、欧州では European
Pharmacopoeia(Ph.Eur, 欧州薬局方)に収載され、さらに USP には製剤にも収載されている (methylene blue injection, USP 1%)。米国では MB 製剤は医薬品としての承認を有さない “grandfathered drugs”に位置づけられていた。欧州では承認されているものの、米国からの 輸入品であり、その規格は USP であった。USP の MB モノグラフには重金属の規定はなく、 実際、市販製剤に重金属が含まれていた。このような状況下で、Provepharm 社(本社: フラ ンス)が品質を向上させた MB の販売承認申請を行っているとの情報を入手したことから、 当該製剤を日本に導入することとし、開発に着手した。 申請データパッケージ構築にあたり、MB が古くから使用されている薬剤であり、そのメ カニズムなども十分にわかっていることから、文献を中心に CTD の構成が可能かどうかを検 討するため、MB の薬理、薬物動態、及び毒性に関する情報を公表文献にて調査した。その 結果、MB の非臨床に関する情報が多くの文献に公表されていたことから、精査した文献情 報及び Provepharm 社が欧州での承認申請のために実施した DS-2207b 製剤の毒性試験結果を 引用することで申請可能と考え、本邦では新たな非臨床試験は実施しなかった。 MB の文献検索は、PubMed のデータベース検索機能を利用して、以下のような条件で実施 した(検索実施日: 2013 年 11 月 27 日)。その結果、該当する文献は 11786 報であった。 データベース PubMed 条件
methylene blue 又は methylthioninium chloride の文献 2013/9/30 までの文献
原文が英語又は日本語の文献
PubMed 検索式
(("methylene blue"[MeSH Terms] OR ("methylene"[All Fields] AND "blue"[All Fields]) OR "methylene blue"[All Fields]) OR ("methylene blue"[MeSH Terms] OR ("methylene"[All Fields] AND "blue"[All Fields]) OR "methylene blue"[All Fields] OR
("methylthioninium"[All Fields] AND "chloride"[All Fields]) OR "methylthioninium chloride"[All Fields]) AND (("0001/01/01"[PDAT] : "2013/09/30"[PDAT]) AND
(English[lang] OR Japanese[lang]))
それらの文献の abstract より、今回申請する効能・効果の MetHb 血症とは明らかに関係が ないと判断される文献(有害事象の情報を含まない染色、マラリア、HIV、癌、歯科口腔外 科領域、診断薬などに関する文献)を除外した結果、776 報が得られた。これらの文献を精
2.4 非臨床試験の概括評価 メチルチオニニウム塩化物水和物 メチレンブルー静注 50 mg「第一三共」 5 読し、薬理、安全性薬理、薬物動態、毒性に関する文献について以下の条件を付加して絞り 込み、各分野の概要(2.6)をまとめた。 1) 薬理 効力を裏付ける試験及び安全性薬理試験に関する文献 80 報より、以下の条件のいずれ にも当てはまる 31 報の文献を採用した。 • MB の MetHb 還元作用に関する文献 • 方法、結果が明確に記載されている文献 • 一般的な実験動物(マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ)を用いた文献 また、安全性薬理試験として Provepharm 社が DS-2207b 製剤を用いて実施した以下の 1 試験をまとめた。 • イヌ反復投与毒性試験(GLP 遵守試験) 2) 薬物動態 薬物動態試験に関する文献 25 報より、以下の条件のいずれにも当てはまる 9 報の文献 を採用した。 • MB の分析法、吸収、分布、代謝、排泄に関する文献 • 方法、結果が明確に記載されている文献 • 一般的な実験動物(マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ)を用いた文献 3) 毒性 Provepharm 社が DS-2207b 製剤又は原薬を用いて実施した以下の 5 試験をまとめた。 • イヌ反復投与毒性試験(GLP 遵守試験)及びその用量設定試験(non-GLP 試験) • 復帰変異原性試験(GLP 遵守試験) • ゼブラフィッシュを用いた生殖発生毒性試験(non-GLP 試験) • ヒト線維芽細胞を用いたミトコンドリア毒性試験(non-GLP 試験) また、Provepharm 社が MB 試薬を用いて実施した 2 つの復帰変異原性試験についても まとめた。 毒性試験に関する文献 36 報より、以下の条件のいずれにも当てはまる 6 報を採用した。 • MB の毒性に関する文献 • 方法、結果が明確に記載されている文献 • 一般的な実験動物(マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ)を用いた文献 その他、National Toxicology Program の調査より 2 報、TOXNET ChemIDplus の調査か ら単回投与毒性に関するデータを採用し、申請データパッケージを補完した。
2.
薬理試験
2.4.1 に示した方法で検索・抽出した文献 31 報、及び Provepharm 社が DS-2207b 製剤を用 いて実施した試験 1 報から DS-2207b の作用機序及び薬理作用に関する情報をまとめた。
MB は古くから MetHb 血症の治療に使われており、その作用機序は図 2.4.2-1に示すよう に、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(nicotinamide adenine dinucleotide
phosphate: NADPH)存在下で NADPH 還元酵素により MB がロイコメチレンブルー
(Leucomethylene blue: LMB)に還元され、生成した LMB が MetHb を Hb に還元し、同時に 自身は酸化されて MB に戻ると考えられている。2,3 図 2.4.2-1 MB による MetHb 還元機序 抽出した文献のうち、2 報から作用機序の情報を得た。ヒト赤血球膜及び赤血球を用いて MB の還元及び赤血球への取り込み機序を検討した結果から、血液中の MB の一部が赤血球 膜上の還元酵素によって LMB に変換され、LMB として赤血球内に取り込まれることが示唆 された。また、ヒト赤血球に調製した MetHb に MB を作用させて MetHb 還元機序を検討し た結果から、MB は NADPH によって LMB に還元され、NADPH 還元酵素はこの反応を促進 すること、そして生成した LMB が MetHb を Hb に還元し、LMB 自身は酸化されて MB に戻 ることが示唆された。これらの文献情報は図 2.4.2-1の作用機序を裏付ける結果であった。 MB の薬理学的効果並びに MetHb 血症の発症抑制及び治療効果については、各種動物の赤 血球を用いた in vitro 試験及び各種動物に MB を投与した in vivo 試験結果をまとめた。マウ ス、ラット、ウサギ、イヌ等の赤血球に MB を事前添加し、グルコース存在下で亜硝酸ナト リウム又はフェニルヒドロキシルアミンを添加した結果、MB は赤血球中の MetHb の生成を 抑制することが示された。また、マウス、モルモット、イヌの MetHb 血症モデルを用いた検 討から、MB 静脈内投与は亜硝酸塩等に起因する MetHb 血症の発症抑制及び MetHb 血症発症 後の治療効果を示すものと考えられた。 安全性薬理試験については、DS-2207b 製剤を用いたイヌ 1 ヵ月間反復投与毒性試験の結果 及び2.4.1に示した方法で検索・抽出した文献 14 報から、心血管系、呼吸系、及び中枢神経 系への影響をまとめた。DS-2207b 製剤のイヌ 1 ヵ月間反復静脈内投与毒性試験では 1 mg/kg /日まで一般状態、心拍数、及び心電図検査に異常がなかったことから、心血管系、呼吸系、 及び中枢神経系への影響が少ないことが確認された。一方、高用量投与時には換気障害が確 認されている。その他の in vitro 試験では、5-HT transporter 阻害、モノアミン酸化酵素 (monoamine oxidase: MAO)阻害、guanylate cyclase 阻害、あるいは cholinesterase 阻害が確認
Ribose-5-Phosphate Glucose-6-Phosphate Methylene Blue Leucomethylene Blue NADP+ NADPH G6PD NADPH reductase MetHb Hb
2.4 非臨床試験の概括評価 メチルチオニニウム塩化物水和物 メチレンブルー静注 50 mg「第一三共」 7 されていることから、MB 投与時にはこれらの酵素あるいは transporter を阻害することに起 因する副作用発現の可能性が推察された。 副次的薬理作用及び薬力学的薬物相互作用に該当する文献は選択しなかった。 以上の結果から、DS-2207b の MetHb 血症に対する作用機序は、NADPH 存在下で DS-2207b が LMB に還元され、LMB が MetHb を Hb に還元することによると考えられた。さらに、各 種動物試料を用いた in vitro 試験及び各種動物を用いた in vivo 試験成績から、DS-2207b は MetHb 血症に対して発症抑制及び治療効果を示すと判断した。一方、DS-2207b は 5-HT transporter、MAO 等の transporter や酵素を阻害するため、投与時にはこれらの作用に起因す る副作用発現に注意を払う必要がある。
3.
薬物動態試験
2.4.1に示した方法で検索・抽出した文献 9 報から DS-2207b の分析法、吸収、分布、代謝、 及び排泄に関する情報をまとめた。 MB 投与後の血液及び血漿中総 MB 濃度(MB + LMB の総和)は分光光度計を用いた吸光 度測定法によって測定した。尿中総 MB 濃度及び代謝物濃度は上記の吸光度測定法又は高速 液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography: HPLC)法によって分離定 量された。組織中総 MB 濃度は吸光度測定法又は HPLC 法によって定量された。123I 標識 MB を投与した後の血液及び組織中総放射能濃度は液体シンチレーション計測法にて測定された。 ウサギ及びイヌに MB を静脈内投与した後のウサギ血漿中及びイヌ血液中 MB 濃度は、二 相性を示して減衰した。また、ウサギに MB を静脈内投与した後の分布容積は、投与量が増 加するにつれて減少する傾向を示したことから、MB が血漿タンパク以外の生体成分と結合 もしくは吸着することが示唆された。 組織への分布は、ラットに MB を静脈内投与後速やかに肝臓、腎臓、肺、血液、脳、心臓 等の各組織に広範に取り込まれることが示されたが、[123I]MB をマウスに静脈内投与した結 果では、眼への滞留は観察期間内では低かった。ウサギ血漿タンパクへの結合率は 71~77% (非結合型分率: 23~29%)と比較的高かった。なお、乳汁移行及び胎盤移行に関する非臨床 文献は得られなかったものの、毒性試験で胎児への影響が確認されていること(2.6.6.6)か ら、MB は胎盤を通過するものと考えられた。 代謝については、in vitro 実験結果から、MB から LMB への変換は可逆的な酸化還元反応 であり、LMB は NADPH 存在下で生体内還元酵素(ジヒドロリポアミド脱水素酵素、チオレ ドキシン還元酵素、及びグルタチオン還元酵素)により触媒され生成すること、また、MB への逆反応は自己酸化によっても起こることが示された。ラットに MB を静脈内投与後の尿 中試料の分析結果から、LMB の生成が確認され、また、尿中試料と MB をスパイクしたブラ ンク尿との比較から N-脱メチル体の Azure B の生成が示唆された。代謝物が LMB 及び Azure B であることについては臨床文献からも確認された4,5。酵素阻害の検討では、ラット 及びモルモット肝ミクロソームを用いた in vitro 実験から MB は肝ミクロソームの酵素活性を 阻害することが示唆されたが、対象とするチトクローム P450 分子種を特定する文献は確認できなかった。なお、Provepharm 社がヒト生体試料を用いて実施した in vitro 試験結果から は MB が CYP 1A2、2B6、2C9、及び 2C19 に対して阻害作用を有することが示された (2.7.2.2.1.2)。 MB の排泄は尿と糞便を介し、静脈内投与した場合には、胆汁排泄が主体と推測された。 また、その排泄率と経路には動物種差があり、ヒトでの尿中排泄率は他の動物より高いもの と推察された(2.7.2.2.2.3)。 以上の結果から、DS-2207b は静脈内投与後速やかに各組織に分布し、MetHb 血症の発現部 位となる赤血球への移行率も高いと考えられる。得られた情報から代謝経路を推定すること は困難であったが、ラットを用いた検討から代謝物として DS-2207b 還元体である LMB、N-脱メチル体である Azure B が生成するものと考えられる。主要排泄経路については種差があ るが、ヒトでの尿中排泄率は他の動物より高いと考えられる。また、DS-2207b はチトクロー ム P450 に対する阻害作用があることが示されたことから、基質となる薬剤を併用する場合 には注意が必要である。また、乳汁への移行について明確な知見は得られていないことから、 授乳婦への投与については注意を払う必要がある。
4.
毒性試験
DS-2207b 製剤又は原薬を用いて Provepharm 社で実施した試験 5 報、2.4.1に示した方法で 検索・抽出した文献 10 報(Provepharm 社の報告書 2 報含む)、及び TOXNET ChemIDplus で 得た情報から DS-2207b の毒性試験成績をまとめた。Provepharm 社で実施した試験では被験物質として、DS-2207b 製剤又は原薬が使用された。 一方、文献で用いられた被験物質は、メチレンブルー注 USP(United States Pharmacopeia: 米 国薬局方)1%製剤及びメチレンブルー三水和物(Methylene blue trihydrate: MBT)を含む市販 の MB 試薬であった。これらの毒性情報と DS-2207b の毒性試験結果(反復投与試験、遺伝 毒性試験、及び特殊毒性試験結果)を比較すると、DS-2207b 製剤で確認された毒性プロファ イルは、既存の MB 製剤・試薬と同質でその程度も試験によっては DS-2207b 製剤のほうが 弱いことが示された。 分解物の一つである Azure B については、遺伝毒性は復帰突然変異試験により、一般毒性 については、Azure B が MB の代謝物の一つであることから、MB に関する毒性試験の中で安 全性評価が実施されたものと判断した。 MB の単回静脈内投与時の LD50は、マウスで 77 mg/kg、ラットで 1250 mg/kg であった。 また、イヌ及びサルでの単回静脈内投与時の最小致死用量は、それぞれ 50 及び 10 mg/kg で あった。 DS-2207b 製剤のイヌ 1 ヵ月間反復静脈内投与毒性試験では、1 mg/kg まで一般状態、体重、 摂餌量、並びに眼科学的検査及び心電図検査において特記すべき変化は認められなかった。 一方、血液学的検査では、0.25 mg/kg 以上の全投薬群で用量に依存した貧血所見(赤血球数、 ヘモグロビン濃度、平均赤血球ヘモグロビン濃度、及びヘマトクリット値の減少、並びに網 状赤血球数の増加)及び血小板数の増加が認められ、1 mg/kg では少数のハインツ小体及び
2.4 非臨床試験の概括評価 メチルチオニニウム塩化物水和物 メチレンブルー静注 50 mg「第一三共」 9 赤芽球も観察され、フィブリノーゲンも高値を示した。0.25 mg/kg 以上の全投薬群で認めら れた脾臓重量の増加及び髄外造血は貧血に応答した代償性の変化と考えられた。また、血中 総ビリルビン値の軽度な増加、尿中の総ビリルビン値の中程度増加、及び脾臓/肝臓/腎臓 におけるヘモジデリン沈着はいずれも異常赤血球に対する生体反応と考えられた。なお、比 較対照としたメチレンブルー注 USP 1%製剤は DS-2207b 製剤で認められた変化と質及び程度 ともに類似していた。以上の結果より、最低投与量の 0.25 mg/kg/日でも貧血とそれに応答 した所見が認められたことから DS-2207b の無毒性量(no observed adverse effect level: NOAEL)を求めることはできなかった。しかし、DS-2207b 製剤の 1 mg/kg 群でも一般状態、 眼科学的検査、及び心電図検査に変化が観察されなかったことから、1 mg/kg は重篤な生理 学的変化を引き起こさない用量と考えられた。なお、7.5 mg/kg のイヌ 4 日間反復静脈内投与 の結果では、軽微な貧血及び高濃度の MetHb が認められたが、忍容性が良好で一般状態への 影響は認められなかった。 MBT のマウス及びラット反復経口投与毒性試験では、上述のイヌで認められた変化に加え て高用量で重度の MetHb 血症及びハインツ小体の形成が観察された。 遺伝毒性については DS-2207b 製剤、MB 試薬、及び MBT の細菌を用いた復帰突然変異試 験の結果、いずれも遺伝子突然変異誘発性を有すると考えられた。また、MBT の哺乳類培養 細胞を用いた染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験及び MB のマウスリンフォーマ TK 試 験の結果、いずれの試験でも染色体異常誘発性、姉妹染色分体交換誘発性、及び遺伝子突然 変異誘発性が確認された。さらに、MB は光照射下のコメットアッセイの結果、赤色光(580 ~700 nm)照射により DNA 損傷作用を示すことが確認された。以上の結果から、MB は遺伝 毒性作用を示す化合物であると考えられた。しかし、マウスに最大 62 mg/kg の MB を単回静 脈内投与した in vivo 試験、及びマウスに最大 200 mg/kg の MBT を 3 ヵ月間反復経口投与し た in vivo 試験で小核誘発性が認められないこと、並びに DS-2207b の臨床使用が 1 回 1~ 2 mg/kg、1 日累積投与量 7 mg/kg と限定されていることから、ヒトに対する遺伝毒性のリス クは低いと判断した。 マウスに最大 25 mg/kg/日の MBT を、ラットに最大 50 mg/kg/日の MBT を 2 年間反復強 制経口投与したがん原性試験の結果、マウスでは小腸の腺癌と腺腫及び腺癌、並びに悪性リ ンパ腫の発生頻度の増加傾向が認められ、ラットでは膵島細胞の腺腫と腺腫及び腺癌の発生 頻度の増加が認められた。以上の結果から、MB は発がん性を有する化合物であると考えら れた。しかしながら、いずれの腫瘍性変化も 3ヵ月間反復投与毒性試験を含め早期に発生す るとの記載はなく 2 年間の経口投与終了後の病理学的評価で確認されたこと、これに比べて DS-2207b の臨床使用が 1 回 1~2 mg/kg、1 日累積投与量 7 mg/kg と限定されていることから、 ヒトにおける発がんのリスクは低いと判断した。 マウス及びラットを用いた MBT の反復経口投与毒性試験から高用量群(200 mg/kg/日) でマウスの精子運動性の低下が認められた。また MB のヒトの精子への影響を検討した in vitro 試験からは濃度、培養時間依存的な精子運動性の抑制が認められた。以上の結果から、 DS-2207b は精子の運動機能の抑制を有する化合物であると考えられた。しかしながら、マウ
ス及びラットに MBT 100mg/kg/日を 3 ヵ月間反復投与しても精子に対する影響が認められ ないこと、DS-2207b の臨床使用が 1 回 1~2 mg/kg、1 日累積投与量 7 mg/kg と限定されてい ることから、DS-2207b のヒト精子に対する影響は低いと判断した。 胚・胎児発生への影響については、MB の妊娠マウスへの単回皮下投与試験(妊娠 8 日に 投与)で神経管閉鎖不全による外脳の発生頻度の増加、中軸骨格異常(特に胸椎、肋骨、胸 骨)の増加が認められ、催奇形性を有するものと判断された。また、妊娠 15.5 日及び 16 日 のマウスに投与すると早産が誘発された。MBT の妊娠ラット及びウサギへの反復経口投与試 験の結果からは催奇形性は認められなかった。出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に 関する文献は得られなかった。なお、市販の MB 試薬との比較を目的に実施した DS-2207b のゼブラフィッシュへの曝露試験では、いずれの被験物質にも共通する所見として下顎の異 常が認められたが、DS-2207b の作用は市販の MB 試薬に比較して弱かった。以上の結果から、 DS-2207b は催奇形性を有する化合物であると判断した。 局所刺激性については、イヌを用いた 1 ヵ月間反復静脈内投与毒性試験で DS-2207b 製剤 の 0.5 及び 1 mg/kg 群に投与部位の皮下組織の肥厚頻度並びに炎症性変化の程度及び頻度が 対照群よりも高い傾向が認められた。以上の結果から、DS-2207b 製剤には局所刺激性がある と判断した。 不純物である Azure B については、細菌を用いた復帰突然変異試験で陽性を示したことか ら、遺伝子突然変異誘発性を有するものと判断した。また、一般毒性試験は実施しなかった が Azure B が MB の代謝物であることから、MB に関する毒性試験の中で Azure B の安全性 評価が実施されたものと判断した。 DS-2207b 製剤は USP 標準品よりも重金属含量が低い MB 製剤である。Provepharm 社は DS-2207b 及び USP 標準品を用いて、その他の毒性試験としてヒト線維芽細胞を用いたミト コンドリア毒性試験を実施した。その結果、DS-2207b 製剤は USP 標準品と比較して副作用 を誘発するリスク及び金属毒性が軽減されていることが示唆された。 以上の結果より、DS-2207b は反復投与毒性試験で低用量から貧血に関連した変化を発現し、 遺伝毒性、発がん性、精子毒性及び催奇形性作用を有する化合物であると考えられた。しか しながら、遺伝毒性、発がん性、及び精子毒性に関しては MetHb 血症の用法・用量が 1 回 1 ~2 mg/kg、1 日累積投与量 7 mg/kg であること、並びに疾患の重篤性及び緊急性を踏まえる と、治療上のベネフィットがリスクを上回るものと考える。一方、出生前及び出生後の発生 並びに母動物の機能に関する情報がなかったこと、早産及び催奇形性誘発の危険性があった ことから、妊婦及び授乳婦への投与については注意を払う必要がある。また、貧血に関連す る所見が投与量に依存して発現することから過量投与に、局所刺激性があることから投与条 件(薬液濃度、投与速度など)について注意が必要である。
5.
総括及び結論
DS-2207b の非臨床試験は、一部の毒性試験を Provepharm 社が実施した以外は、MBT を含 む市販の MB 試薬あるいは MB(規格、水和物数などが不明のもの)の薬理作用、薬物動態、2.4 非臨床試験の概括評価 メチルチオニニウム塩化物水和物 メチレンブルー静注 50 mg「第一三共」 11 毒性に関する公表論文より情報をまとめた。 2.4.1に示した方法で検索・抽出した文献 776 報から MB の作用機序及び薬理作用に関する 文献 31 報及び試験 1 報を、分析法、吸収、分布、代謝、及び排泄に関する文献 9 報を、毒性 については Provepharm 社が DS-2207b 製剤又は原薬を用いて実施した試験 5 報、文献 10 報 (Provepharm 社の報告書 2 報含む)、及び TOXNET ChemIDplus で得た情報を精査して、 DS-2207b の非臨床試験成績とした。
DS-2207b の MetHb 血症に対する作用機序は、NADPH 存在下で DS-2207b が LMB に還元 され、LMB が MetHb を Hb に還元することによることが示された。また、各種動物試料を用 いた in vitro 試験及び各種動物を用いた in vivo 試験成績から、DS-2207b は MetHb 血症に対し て治療効果を示すと考えられた。安全性薬理については、DS-2207b は 1 mg/kg までは心血管 系、呼吸系、及び中枢神経系への影響がないことが確認されたが、その他の in vitro 試験結果 から 5-HT transporter や MAO 等の阻害作用に基づく各種機能的障害が発現する可能性が示唆 された。 薬物動態については、DS-2207b は静脈内投与後速やかに各組織に分布した。得られた情報 から代謝経路を推定することは困難であったが、ラットを用いた検討から代謝物として DS-2207b 還元体である LMB、N-脱メチル体である Azure B が生成するものと考えられた。 主要排泄経路には種差があるが、ヒトでの尿中排泄率は他の動物より高いと推察された。 毒性については、DS-2207b は反復投与毒性試験で低用量から貧血に関連した変化を発現し、 遺伝毒性、発がん性及び催奇形性作用を有する化合物であると判断した。また、薬物動態試 験より、DS-2207b がチトクローム P450 に対する阻害作用があることも示された。 なお、不純物である Azure B は、細菌を用いた復帰突然変異試験で陽性を示したことから、 DS-2207b 製剤と同様に遺伝子突然変異誘発性を有することが示唆された。また、一般毒性試 験は実施しなかったが Azure B が DS-2207b の代謝物であることから、DS-2207b に関する毒 性試験の中で Azure B の安全性評価が実施されたものと判断した。 以上の結果から、DS-2207b は MetHb 血症の有効な治療薬である一方、貧血、遺伝毒性、 発がん性、及び催奇形性作用を有する薬剤であり、各種酵素阻害作用も誘発することが明ら かとなった。しかし、DS-2207b 製剤を MetHb 血症の治療薬として臨床使用することは、疾 患の重篤性及び緊急性、投薬回数を考慮すると治療上のベネフィットがリスクを上回るもの と考える。 なお、乳汁への移行について明確な知見は得られていないこと、出生前及び出生後の発生 並びに母動物の機能に関する情報がなかったこと、早産及び催奇形性誘発の危険性があった ことから、妊婦及び授乳婦への投与には注意を払う必要がある。また、貧血に関連する所見 が投与量に依存して発現することから過量投与に、また、局所刺激性があることから投与条 件についても注意が必要である。さらに、DS-2207b は 5-HT transporter や MAO 等の阻害作用 及びチトクローム P450 に対する阻害作用があることが示されたことから、生体内モノアミ ン動態に影響を及ぼす薬剤あるいはチトクローム P450 の基質となる薬剤との併用に注意が 必要である。
6.
参考文献一覧
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Ver.2.02; 2010.
2) 林昭, 血液毒–メトヘモグロビン. 中毒研究. 1988; 1:135–41.
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