博 士 ( 生 命 科 学 ) 武 内 伸 治
学 位 論 文 題 名
高感度レポーター遺伝子アッセイ法を用いた 環境化学物質の核内受容体転写活性の検出
及びダイオキシン類簡易測定法の開発 学位論文内容の要旨
【 はじ めに 】
内 分 泌 攪 乱 物質 やダ イオ キシ ン類 は、 核内 受容 体 や芳 香族 炭化 水素 受容 体(AhR)な どの 「リ ガ ン ド 依 存 性 の 転 写 因 子 」 と そ れ ぞ れ 特 異的 に結 合し 、遺 伝子 発現 を介 して 内 分泌 系を はじ め 、 神 経 系 、 免 疫 系 な ど の 様 々 な 生 理 機 能に 被害 を及 ばす 。現 在ヒ トで は48種 類の 核内 受容 体 が 知 ら れ て い る 。 人 の 産 業 活 動 な ど に よ り 環 境 中 に は5万 種 類 以 上の 化学 物 質が 存在 する と い わ れ る が 、 核 内 受 容 体 やAhRを 介 し た こ れ ら の 化 学 物 質 に よ る 作用 はほ と んど 明ら かに さ れ て い な い 。 し た が っ て 、 人 が 曝 露 す る化 学物 質、 食品 、環 境試 料に つい て 、こ れら の受 容 体 活 性 を 明 ら か に す る こ と は 、 人 の 健 康を 守る ため に重 要で ある 。本 研究 で は、 化学 物質 に よる 核内 受 容体 を介 した 作用 を検 出で きる 高感 度な レポ ータ ー遺 伝 子ア ッセイ系を確立し、
ヒ ト が 曝 露 す る 可 能 性 が 高 い と 考 え ら れ る253物 質 に つ い て 、9種 類 の 核 内 受 容 体 を 介 し た 作 用を 調べ た 。
食 品 や 環 境 中 に 広 く 存 在 す る ダ イ オ キ シン 類の 測定 は、 従来 の機 器分 析法 で は多 大な 費用 と 労 カ を 要 し て い た 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 ダ イ オ キ シ ン 類 が 特 異 的 に結 合す るAhRを介 した 活 性 を 高 感 度 に 検 出 で き る レ ポ ー タ ー 遺 伝子 アッ セイ 系を 確立 し、 ダイ オキ シ ン類 の主 要な 曝 露源 であ る 食品 や環 境試 料中 のダ イオ キシ ン類 の簡 便で 迅速 な簡 易 測定 法の開発を試みた。
【結 果と 考察 】
1. 植物 由 来成 分31物質 の核 内受 容体 を介 した 作用
野 菜 、 果 物 、 穀 物 など に広 く含 まれ る植 物由 来化 学物 質 及ぴ その 代謝 物31物質 の核 内受 容 体 活 性 を 調 べ た と こ ろ 、 エ ス ト ロ ゲ ン 受 容 体(ER)矼 ア ゴ ニ ス 卜 活 性 が18物 質 、ERpア ゴ ニ ス ト 活 性 が20物 質 に 認 め ら れ た 。 エ ス ト ロ ゲ ン 活 性 を 示 し た20物 質 の う ち19物 質 が 、ERp の方 がERaより も強 い活 性を 示し た。 これ らの 活性 の発 現に は7‐ 位及 び4 −位 の水 酸基が重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。ERpは 、ERaを 介 し た 乳 ガ ン 細 胞 の 増 殖 を 抑 制 する こと が報 告 さ れ て お り 、 上 記 の 化 合 物 の 乳 ガ ン 予 防 作 用 が 期 待 さ れ る 。 さ ら に 、 プ レ グ ナ ンX受 容 体 (PXR)ア ゴ ニ ス ト9物 質 、ERpア ン タ ゴ ニ ス ト1物 質 、 ア ン ド ロ ゲ ン 受 容 体(AR)ア ンタ ゴニ ス ト2物質 、PPARaア ゴニ スト1物質 を新 たに 見出 した 。
2. フ タ ル 酸 エ ス テ ル 類22物 質 の 核 内 受 容 体 を 介 し た 作 用
可 塑 剤 と し て プラ スチ ッ クな どに 広く 使用 され るフ タル 酸エ ステ ル類22物 質に つ いて 、核 内 受 容 体 活 性 を 調べ た。 そ の結 果、 芳香 環の 側鎖 を有 する フタ ル酸 ジフ ェニ ルを 除 いた 、側
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鎖の炭素鎖長が3 〜6 の範囲に入るフタル酸ジェステル類が、ERa に対してアゴニスト活性、
ERD
及 び
ARに対 して は、 アンタゴニスト活性を示すことが明らかになった。これらの分子 サイ ズが
ERや
ARの りガン ド結 合部 位に 適合 する ため と考えられる。また、既に報告があ る
PPARaア ゴ ニ ス ト
1物 質 の 活 性 を 確 認 し 、 新 た に
PXRア ゴニ スト
14物 質を 見出 した 。
3.農薬200 物質のERa/p 、AR を介した作用
過去 に使 用さ れたも のを 含む 代表 的な 農薬
200物 質にっいて
ERa/p、AR を介した作用を 調べたところ、ERa アゴニスト活性が47 物質、ERp アゴニスト活性が33 物質に認められた。
さらに、ERa アンタゴニスト活性が5 物質、ER[3 アンタゴニスト活性が2 物質に認められた。
一方、AR へのアゴニスト活性を示した農薬は全く認められなかったが、66 物質もの農薬に
ARアン タゴ ニス ト活性 が認 めら れた 。本 研究 によ り、 農薬
200物 質の うち
34農 薬が 、ER アゴニスト活性及ぴAR アンタゴニスト活性を併せ持つことが明らかになり、これらの農薬 が環境中で生物を雌性化の方向に導く可能性が示唆された。
4
.農薬200 物質のペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(PPAR) ocly 、PXR 、甲状腺ホルモン
受容体(TR) al/t31 、レチノイドX 受容体(RXR)a を介した作用
3
.と同じ農薬200 物質のPPARa/y を介した作用を調べたところ、PPARy アゴニスト活性を 示す農薬は認められなかったものの、PPARa アゴニスト活性が3 物質に認められた。これら
3物 質を
C57B L/6マウ スに腹腔内投与し、肝臓における
PPARa誘導性CYP4As の発現を調べ た結果、ジクロホップメチルは、加vitro では陽性対照物質(WY14643 )と比較して
1/7以下の 活性 であ った が、 加vivo ではWY14643 に匹敵する活性が認められ、生体内でより強い活性 を有する化学物質に変化する可能性が考えられた。他の核内受容体活性にっいては、116 物 質に
PXRアゴ ニス ト活性 が認 めら れた もの の、
TR ai/pi、RXRa 、PPARy を介した作用を示 した農薬は全く認められなかった。
5
. 高 感 度 な
AhRア ッ セ イ 系 の 開 発 と 農 薬
200物 質 の
AhRを 介 し た 作 用
7つのダイオキシン応答配列を組み込んだレポータープラスミドをHepa‑lclc7 細胞に導入 し、DR 細胞株を確立した。このDR 細胞はダイオキシン類に対して高感度であり、アッセイ 時 の煩 雑な 操作 を省 略でき簡便性にも優れていた。DR 細胞を用いて前述の農薬200 物質の
AhR活 性を 調べ たと ころ、
11物 質に
AhRアゴ ニス ト活性を認めた。このうち強い活性を示 し た3 農薬 につ いて 、C57BL/6 マウ スを 用い て肝 臓にお ける
AhR誘導 性CYPIAs の発現を調 べ たと ころ 、い ずれ もCYPIAs mRNA の有 意な 発現 を認め、生体内においてもAhR のりガン ドとして作用することが示唆された。
6
. AhR 活性を指標とした魚介類、大気、排ガス、燃え殻・ばいじん中ダイオキシン類の測
定
5
. で述 べた
DR細 胞を応 用し、AhR 活性を指標としたダイオキシン類の測定法(DR 細胞ア ッセイ法)を開発した。魚介類(25 試料)、大気試料(80 試料)、大気中ダイオキシン類の主要な 発生源である焼却炉の試料(排出ガス(31 試料)、ばぃじん・燃え殻(44 試料))について、DR 細胞アッセイ法による測定値と機器分析法による測定値を比較したところ、極めて高い相関
(r=0.96、0.98 、0.94 、0.96) が認められた。このことから、DR 細胞アッセイ法はダイオキシン 類簡易測定法として使用できることが示唆された。
【結語】
本研究により、多くの化学物質が核内受容体(特にERa/13 、AR 、PXR) を介した作用を有す ること、複数の核内受容体を介した作用を併せ持つことが明らかになった。核内受容体は様カ
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な医薬品のターゲットにもなっており、本研究で得られた知見は創薬の面からも有用と考え られる。一方、現在の法規制に関わる毒性評価では、化学物質によるりガンド依存性転写因 子を介した作用の評価項目が無いことから、これらの作用はチェックがほとんどなされてい ない。今後はヒトが曝露する可能性が高いより多くの化学物質や、食品や環境試料について、
核 内受容体 及びAhR を介し た作用を 明らかに していく ことが衛生化学的に重要と考える。
AhR
活 性を高感 度に検出で きる
DR細胞 を確立し 、ヒトが曝露する可能性のある食品や環 境試料に含まれるダイオキシン類の迅速で簡便な測定法を開発した。本法は、これらの試料 中ダイオキシン類の測定への適用が十分に可能と考えられ、コストと労カがかかる機器分析 法に先立つスクリーニング法として期待できる。
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学位論文審査の要旨
主査 教授 松田 正 副査 教授 三浦敏明 副査 講師 南保明日香
副査 研究主査 小島弘幸(北海道立衛生研究所)
学 位 論 文 題 名
高感度レポーター遺伝子アッセイ法を用いた 環境化学物質の核内受容体転写活性の検出
及びダイオキシン類簡易測定法の開発
核内受 容体や芳 香族炭化水素受容体(AhR)は、特定の化学物質と結合し、内分泌系をはじめ、神 経系、免疫系などの様々な生理作用に関わっている。人の産業活動などにより非常に多くの化学物 質 が環境 中に存 在するが、それらの化学物質による核内受容体やAhRを介した作用は、これまでほ とんど明らかにされていない。本研究では、化学物質による核内受容体を介した作用を検出できる 高感度なレポーター遺伝子アッセイ系を確立し、ヒトが曝露する可能陸が高いと考えられる253物質 について、9種類の核内受容体を介した作用を調べた。
物の燃焼などで発生するダイオキシン類は、食品や環境中に広く存在することが知られているが、
ダイオキシン類の測定は、従来の機器分析法では多大な費用と労カを要していた。そこで本研究で は 、ダイ オキシ ン類が特異的に結合するAhRを介した活性を高感度に検出できるレポー夕一遺伝子 アッセイ系を確立し、ダイオキシン類の主要な曝露源である食品や環境試料中のダイオキシン類の 簡便で迅速な簡易測定法の開発を試みた。
野菜、果物、穀物などに広く含まれるフラポノイドやりグナンなど31物質の核内受容体活性を調 べたと ころ、 エスト 口ゲン 活性を 示した20物質のうち19物質が、ERpの方がERaよりも強い活性を 示した 。ERpは、ERaを介 した乳ガ ン細胞 の増殖を抑制することが報告されており、上記の化合物 の乳ガン予防作用カミ期待される。
可塑剤として広く使用されるフタル酸工ステル類22物質について、核内受容体活性を調べた。そ の結果、側鎖の炭素鎖長が3〜6の範囲に入るフタル酸ジエステル類の多くが、ERocに対してアゴニ スト活 性、ERp及OARに対 しては、 アンタ ゴニスト活性を併せ持つことが明らかになった。これら の 分 子 サ イ ズ がERや ARの り ガ ン ド 結 合 部 位 に 適 合 す る た め と 考 え ら れ る 。 過去に 使用さ れたも のを含 む代表 的な農薬200物質についてERa/p、ARを介した作用を調べたと ころ、ER,aアゴニ スト活 性が47物 質、ERDアゴニ スト活性 が33物 質に認められた。さらに、ERnc アンタ ゴニス ト活性 が5物質 、ERpアン タゴニ スト活 性が2物 質に認められ、66物質もの農薬にAR アンタゴニスト活性カミ認められた。多くの農薬がERアゴニスト活性及びARアンタゴニスト活性を
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併せ持 つこと が明らか になり 、これ らの農薬カ黼中で生物を雌性化の方向に導く可能性が示唆さ れた。
同じ農薬200物質において、P】,AI成アゴニスト活性が3物質に認められた。特にジク口ホップメチ ルは 、 泣vitroで は 陽 性対 照 物 質(WY14643)と比較 してU7以 下の活 性であ ったが 、血VIVOで は W|14643に匹 敵する 活性が 認めら れ、生体内でより強い活性を有する化学物質に変化する可能性 が 考 え ら れ た 。 ま た 、 PxRア ゴ ニ ス ト 活 性 がn6物 質 も の 農 薬 に 認 め ら れ た 。 7つのダイオキシン応答配列を組み込んだレポータープラスミドをHepa・1clc7細胞に導入し、DR 細胞株を確立した。このDI細胞はダイオキシン類に対して高感度であり、アッセイ時の煩雑な操作 を省略でき簡便性にも優れていた。DI湘胞を用いて前述の農薬200物質のAbR活性を調べたところ、
n物 質こAhRア ゴ ニス ト活性 を認め た。この ことか ら、DR細 胞は化 学物質 のAhR活性 のスク リー ニングにおしゝても有用であることが示された。
このDR細 胞を応 用し、AhR活性を 指標としたダイオキシン類の測定法のR細胞アッセイ法)を開 発した。魚介類、大気試料、大気中ダイオキシン類の主要な発生源である焼却炉の試料aI出ガス、
ばいじん・燃え殻について、DI湘胞アッセイ法による測定値と機器分析法による測定値を比較した ところ、いずれも極めて高い相関を認めた。このことから、DR細胞アッセイ法はダイオキシン類簡 易測定法として使用できることが示唆された。
本研究により、多くの化学物質が核内受容f本やAhRを介した作用を有すること、複数の核内受容 体やAhRを介した作用を併せ持つことが明らかになった。したがって、ヒトが曝露する可能性が高 い化学物質や、食品や環境試料について、核内受容体及びAhRを介した作用を明らかにしていくこ とは衛生化学的に重要と考えられる。また、核内受容体は様々な医薬品のターゲットにもなってお り、本研究で得られた知見は創薬の面からも有用と考えられる。さらに、AhR活性を高感度に検出 できるDR細胞を確立し、ヒトが曝露する可能性のある食品や環境試料に含まれるダイオキシン類の 迅速で簡便な測定法を開発した。本法は、これらの試料中ダイオキシン類の測定への適用が十分に 可能と考えられ、コストと労カがかかる機器分析法に先立つスクリーニング法として期待できる。
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