博 士 ( 理 学 ) 小 野 昇 子
学位論文題名
Study on Surface Structures and Interf ・aCia1 PhenomenaofZeolite ・ andRelatedMaterialS byAtonliCFOrCeMiCrOSCOpy
(原 子間 力顕微 鏡を 用い たゼ オラ イト 類の 表面構造と その 界面現 象に 関す る研 究)
学位論文内容の要旨
触媒、吸着剤、電子材料などの材料の機能発現において、その表面・界面における科 学が、本質的な重要顔役割を演じている。従って、これらの材料の機能向上には、材料の 表 面構 造の 観察や界面で起こる物理的・化学的な現象の解明が必要不可欠であり、機 能発現のその場観察や実用材料の現象解明が急務となっている。
近年、固体の表面解析手法は飛躍的に進歩しつっある。しかしながら、上記の「その場 観察」や「実用材料解析」の技術としては、十分とは言い難い。例えば、固体表面解析の 主流である電子分光法では、原子・分子レベルでの表面・界面構造へのアプローチが可 能 だが 、基 本的に真空中の固体表面の構造解析に適したもので、大気中や液体中の固 体表面の情報を得ることは不可能である。また、走査型トンネル顕微鏡では、測定環境の 制約はなぃが、導電性試料しか解析できないという制約がある。しかしながら、1986年に 開 発さ れた 原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy;AFM)は、真空中,大気中,液 中などあらゆる環境で観察が可能なうえ、絶縁性物質も解析でき、しかも高分解能観察も 可能とすることから、材料の表面界面の「その場観察」や「実用材料解析」を可能とする分 析技術として期待されている。しかしながら、試料の固定の困難さに加え、試料形状や測 定条件、測定雰囲気などにより、AFM像が大きく影響され、真の表面構造を表す像を得 ることが難しいことや、たとえ像が得られたとしてもその解釈が難しいなど、AFM観察には 多くの問題点があった。
本研究では、AFMを表面・界面現象の解析手段とする上で障害となっている、これら問 題点の解決に努め、次いで、触媒、吸着剤、電子材料などとして、学問的にも産業的にも 興味を持たれているゼオライトや粘土化合物の表面構造のその場観察を行い、結晶成長、
溶 解 、 吸 着 な ど 、 表 面 ・ 界 面 特 有 の 様 カ な 物理 的・ 化学 的現 象の 解明 を行 った 。
第1章には、本研究の背景と目的を述べた。
第2章に は、AFMに よる 表面 構造 観察 に関 する 従来 の実験的な問題点と、その具体 的な解決方法を記述した。本技術を基礎として、ゼオライト表面のナノ構造観察や界面現 象の解明を試みた。
第3章では、ゼオライト外表面原子配列の観察結果と、ゼオライト表面AFM像の原子 分解能を決定する因子に関する検討結果にっいて述べた。従来、AFMによって、ゼオラ
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イ ト 表 面 の 原 子 オ ー ダ ー の 規 則 構 造 が 観察 され ても 、結 晶構 造か ら予 想さ れる 配列 と一 致し ない 、あ るい は同 じ面 で も異 なる 規則 構造が得 られるなど、AFMによるゼオ ライト表面 の観 察結 果の 解釈 は困 難な も のだ った 。こ の問 題を 解決 すべ く、 構造 の異なる ゼオライト 表 面 を 観 察 し、 測定 条件 と観 察像 の相 関性 を詳 細に 検討 した 。天 然 モル デナ イト (100) 面や 天然 ヒュ ーラ ンダ イト (010)面 のよ うに 細孔のない表面の原子レベルの観 察では、表 面 水 酸 基 の 配 列 と 考 え ら れ る 規 則 構 造 が観 察さ れた 。一 方、 両ゼ オラ イト の細 孔を 持つ 面 の 観 察 で は 細 孔 に よ っ て で き た 表 面 凹 凸 構 造 の 規 則 性 が 観 察 さ れた 。こ のよ うなAFM 像 と 表 面 構 造 の 相 関 性 か ら 、 表 面 構 造 がAFMの 分 解 能 を 決 定 す る 重 要 な 因 子 で あ る こ とが 分か った 。ま た、掃 引速度も正しい表面構造を得るための重要な因子である ことを明ら かにした。
第4章 で は、 形状 選択 性触 媒と して 重 要な 役割 を担 う、 モル デナ イト の細 孔構 造に つい て 述 べ た 。 針 状 の モ ル デ ナ イ ト 結 晶 の 端面 を観 察出 来る よう に、 微小 な針 状結 晶を 基板 に 垂 直 に 固 定 す る 方 法 を 検 討 、 確 立 し て 、 細 孔 配 列 のAFM観 察 を 行 っ た 。 溝 構 造 や 、 表 面 は 原 料 成 分 と 思 わ れ る 物 質 で 一 面 覆 わ れ て い る な ど 、 表 面 微 細 構 造 を 明 ら か に し た 。AFM探 針 で 表 面 を 掃 引 し 、 こ の 表 面 被 覆 物 質 を 剥 ぎ 取 っ た 表 面 の 高 分 解 能 観 察 に よ り 、 初 め て モ ル デ ナ イ ト の 酸 素12員 環細 孔配 列構 造の 観察 に成 功し た。 深い 溝構 造や 酸 素12員 環 細 孔 が 表 面 被 覆 物 で 覆 わ れ て い る な どAFM観 察 で 明 ら か と な っ た 表 面 情 報 と 触 媒 性 能 と の 相 関 性 を 考 察 し 、 モ ルデ ナイ トの 形状 選択 性発 現に 関す る新 しい 機構 を提案した。
第5章 で は 、 ゼ オ ラ イ ト の 結 晶 成 長 機 構 に つ い て 述 べ た 。 結 晶 成長 機構 を反 映し た微 細 構 造 をAFMで 詳 細 に 観 察 す る こ と に より 、合 成ゼ オラ イト の一 . っで あるLTAの結 晶成 長機 構を 解明 した 。従来 の分析手法では、このような微細構造を捉えることが難 しく、結晶 成 長 機 構 の 解 明 が 困 難 で あ っ た 。 本 研 究 で はLTAゼ オ ラ イ ト の 第 二次 構造 単位 であ る 二重 四員 環 の高 さの ステ ッ プ構 造を 捉え るこ とが 出来 、二 重四 員環 がっなが って出来た シー トが 結晶 成長 の単位 であることを明らかにした。また、ステップ構造とバル ク構造モデ ルと の比 較考 察か ら原 子配 列 の異 なる 二種 類の テラ スが 存在 する こと を明らか にした。こ れら の情 報は 、ゼ オラ イト 結 晶の デザ イン や触 媒を はじ めと する 機能 性発現と その向上を 考える上で重要な知見と位置づけられる。
第6章 で は、 ゼオ ライ トの 溶解 機構 に つい て記 述し た。 溶解 によ り、 時々 刻々 変化 する 表 面 の 観 察 は 、 固 体 の 溶 解 機 構 の 解 明 にと って 有用 な情 報を 提供 する 。従 来、 溶解 する 固 体 表 面 の そ の 場 観 察 の 適 切 な 手 段 が な か っ た 。 本 研 究 で は 、 測 定 雰 囲 気 の 制 限 が な い と ぃ う 特 徴 に 注 目 し て 、AFMを 分 析 手 段 に 取 り 込 ん だ 。 酸 及 び アル カリ 水溶 液中 で溶 解するゼオライト(天然ヒューランダイト)の表面をAFM観察し、最表面のアルミノシリケート が バ ル ク に 向 か っ て 一 層 一 層 溶 け て い く特 異的 溶解 の様 子を 明ら かに した 。こ の特 異的 溶解 は、 ゼオ ライ トの細 孔構造に起因するもので、ゼオライトに共通するものと 結論した。
第7章 で は 、 固 液 界 面 に お け る 分 子 の 吸 着 及 ぴ 会 合 現 象 に つ い て述 べた 。シ アニ ン色 素は 、マ イカ /色 素水 溶液 界 面で 、特 異な 光学機能 を有する「J会合体」を形成 することが 知ら れて いる が、 その構 造はほとんど明らかにされていなかった。マイカ/色素 水溶液界面 で の シ ア ニ ン 色 素 の 会 合 体 形 成 を 直 接 観 察 し た 。 そ の 結 果 、J会 合体 は、 従来 二次 元構 造で ある と考 えら れて いた が 実は 三次 元的 な島 構造 を持 っこ とが 分か った。ま た、この島 構造 は異 方性 を持 ち、 その 理 由は 、シ アニ ン色 素分 子と マイ カ基 板表 面のアニ オンサイト とのエピタキシャルな相互作用により、J会合体の核形成と成長が起き ているためであること を 明 ら か に し た 。 さ ら に 、J会 合 体 の 内 部 構 造 や 会 合 体 構 造 の 制 御因 子に つい て言 及し た。
第8章では、 本研究を総括し、今後の展望について言及した。
以上、ゼオライトや粘土化合物の細孔配列、溶解・成長過程、及びその表面での分子 の吸着・会合現象など、従来法では得ることの困難だった情報を、AFMによって捉えるこ とが出来た。これらの情報は、表面・界面の物理的・化学的な現象の理解に繋がり、材料 の表面・界面を精密に制御し、目的の材料をテーラーメードにデザインするために、基礎 的かつ重要な知見である。
学位論文審査の要旨 主査 教授 喜多村 昇 副査 教授 魚 崎浩平 副査 教授 日 夏幸雄 副査 教授 市 川 勝
学位論文題名
Study on Surface Structures and 工 nterfacial Phenomena of Zeolite and Related IVIaterials by Atomic Force rvIicroscopy
(原子間力顕微鏡を用いたゼオライト類の表面構造と その界面現象に関する研究)
触媒、吸着剤、電子材料などの材料の機能発現において、表面・界面における科学が本 質的に重要な役割を演じている。従って、これらの材料の機能向上には、材料の表面構造 の観察や界面で起こる物理的・化学的な現象の解明が必要不可欠である。近年、固体の表 面解析手法は飛躍的に進歩しつっあるが、材料の「その場観察」の技術としては十分とは言 い難い。例えば、固体表面解析の主流である電子分光法では、原子・分子レペルでの表面・
界面構造解析へのアプ口ーチが可能であるが、大気中や液体中の固体表面の情報を得るこ とは不可能である。また、走査型トンネル顕微鏡では測定環境の制約はないが、導電性試 料 しか解析 できな い。一方 、原子 聞力顕微 鏡(Atomic Force Microscopy; AFM)は真空 中,大気中,液中などあらゆる環境で観察が可能なうえ、絶縁性物質も解析できるため、
高分解能観察で材料の表面・界面の「その場観察」や「実用材料解析」が可能となる。本 研究では、学問的にも産業的にも興味を持たれているゼオライトや粘土化合物の表面構造 のAFMによ る「そ の場観察 」を行 い、結晶 成長、溶 解、吸 着など、表面・界面特有のい くつかの物理的・化学的現象の解明を行った。
こ れまでAFMによってゼオライト表面の原子オーダーの規則構造が観察されてきたが、
結晶構造から予想される配列と一致しない、あるいは同じ面でも異なる規則構造が得られ る など、AFMによ るゼオラ イト表 面の観察 結果の解 釈は困 難なものであった。この問題 を解決するため、構造の異なるゼオライト表面を観察し、測定条件と観察像の相関性を詳 細 に 検 討し た 。 天然 モ ル デナ イ ト (100) 面や 天 然 ヒュ ーランダ イト(010)面 のよ うに細孔のない表面の原子レベルの観察では、表面水酸基の配列と考えられる規則構造が
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観察された。一方、両ゼオライトの細孔を持つ面の観察では細孔によってできた表面凹凸 構造 の規則性 が観察 された。 このよ うなAFM像と表 面構造の 相関性か ら、表面構造がA FMの分 解能を 決定する 重要な因子であることを明らかにした。また、正確な表面構造を 得るには掃引速度も重要な因子であることを明らかにした。
さらに、形状選択性触媒として重要な役割を担うモルデナイトの細孔構造について研究 を行った。モルデナイト結晶の端面を観察出来るように、微小な針状結晶を基板に垂直に 固定 する方法 を確立 し、細孔 配列のAFM観察 を行った。溝構造が見られるとともに、表 面は原料成分と思われる物質で一面覆われているなど、表面微細構造を明らかにした。A FM探針で表面を掃弓Iし、この被覆物質を剥ぎ取った表面の高分解能観察により、モルデ ナイ トの酸素12員環細 孔配列構造の観察に初めて成功した。また、ゼオライトの結晶成 長機 構につい ても論 じている 。結晶 成長機構 を反映した微細構造をAFMで詳細に観察す るこ とにより 、合成 ゼオライトのーつであるLTAの結晶成長機構を解明した。即ち、LTA ゼオライトの第二次構造単位である 二重四員環 の高さのステップ構造を捉えることに成 功し、二重四員環がっながって出来たシートが結晶成長の単位であることを明らかにした。
また、ステップ構造とバルク構造モデルとの比較考察から原子配列の異なる二種類のテラ スが存在することを明らかにした。ゼオライトの溶解機構についても検討を行っている。
酸及 びアルカ リ水溶 液中で溶 解する ゼオライ ト(天然ヒューランダイト)の表面をAFM 観察し、最表面のアルミノシリケートがバルクに向かって一層一層溶けていく特異的溶解 の様子を明らかにした。この特異的溶解は、ゼオライトの細孔構造に起因するもので、ゼ オラ イトに共 通する ものと結 論した 。この他 、AFMを駆使してヤイカ/色素水溶液界面 における特異な光学機能を有する「J会合体」の構造に関する知見を得ることにも成功し ている。
これを要するに、著者はゼオライトや粘土化合物の細孔配列、.溶解・成長過程、及びそ の表 面での分 子の吸 着・会合 現象な ど、従来 法では得ることの困難だった情報を、AFM によって捉えることに成功した。これらの情報は、表面・界面の物理的・化学的な現象の 理解に繋がり、材料の表面・界面を精密に制御し、目的材料をテーラーメードにデザイン するための基礎的かつ重要な知見であり、関連分野の研究の進展に貢献するところ大なる ものがある。
よっ て著者 は、北海 道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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