フランス語学研究,第 44 号,2010 年,pp.83−92
道具として解釈される場所前置詞句
Les syntagmes prépositionnels locatifs qui
s’interprètent comme compléments d’instrument
平 塚 徹(H
iratsukatohru)
Dans les phrases du type “Ils ont transporté le blessé sur un brancard.”,
le syntagme prépositionnel peut s’interpréter comme complément
d’ins-trument, bien qu’il s’agisse d’une préposition normalement considérée
comme locative. Cette observation pourrait amener à penser que ce
syntagme a un statut intermédiaire entre le “lieu” et l’“instrument”. Le
présent article montre cependant que ce syntagme prépositionnel en
lui-même désigne un lieu et que s’il peut s’interpréter comme complément
d’instrument, c’est grâce à une inférence exécutée à partir des
connais-sances du monde en général. La relation d’un instrument de transport au
procès de transport est constituée par deux aspects :
(a) l’agent localise l’objet par rapport à l’instrument
(b) l’agent manipule l’instrument pour transporter l’objet
En français, les prépositions locatives verbalisent l’aspect (a) en laissant
l’aspect (b) à l’inférence. En japonais, la particule (ou la postposition)
“de” verbalise (a) en laissant (b) à l’inférence.
キーワード:道具(
instrument
),場所(lieu
),場所前置詞句(syntagme
prépositionnel locatif
),運搬(transport
),推論(inférence
)1.
はじめに場所前置詞を用いた前置詞句でありながら,道具を表していると解釈できる 場合がある.例えば,次の例を見られたい.
(
1
)Ils ont transporté le blessé sur un brancard.
(山田,2007
,p.103
)この文の表している事態において,「彼ら」は担架を操作することにより「負 傷者」を移動させている.つまり担架は動作主の被動作主への働きかけを媒介
しており,その意味で道具であると考えられる.あるいは,動作主は被動作主 を移動させるための道具として担架を使っていると言ってもよい1).日本語で, 「彼らは負傷者を担架で運んだ」のように,「担架」を道具を表す格助詞デで標 示できることも,この解釈と符合する2). このような前置詞句は道具を表しているとも言えるが,このことは,道具を 表していることが明らかな前置詞句と並列できることからも言える.
(
2
)a. Il faut transporter le blessé sur un brancard ou avec un autre
moyen approprié.
b. Il faut transporter le blessé sur un brancard ou avec un
véhicule adapté.
また,この前置詞句の部分を問うには,場所の疑問詞
où
ではなく,様態の疑問詞
comment
が用いられる.(
3
)#Où ont-ils transporté le blessé ?
(山田,2007, p. 104
)(
4
)Comment ont-ils transporté le blessé ?
(山田,2007, p. 104
)以下の文でも,やはり,前置詞句の部分を
où
で問うことはできない.(
5
)Il a bu du whisky dans un verre.
(山田,1998, p.81
)(
6
)Il a enveloppé une boîte dans du papier.
(山田,1998, p.85
)山田(
1998, 2005, 2007
)は,これらの前置詞句は純然たる場所を表すので もなく,純然たる道具を表すのでもなく,場所と道具の中間領域に属すると主 張している. 本稿では,このような前置詞句は,道具を表していると解釈されるが,それ 自体としては場所を表す場所前置詞句であり,道具を表しているという解釈は 推論により生ずるものであることを,特に運搬事象の場合を取り上げて示す.2.
前置詞句自体は場所を表す 前節で見たとおり,場所前置詞を用いているにもかかわらず,道具を表して いると解釈される前置詞句が存在する.しかし,このような前置詞句も,それ — 84 — 1)ここでの「道具」は意味役割としての「道具」であり,「担架」自体がそもそも負傷者や 病人を運搬するための「道具」であることとは異なる.本来「道具」でないものを臨時に 「道具」として使用する場合については,注7を参照されたい. 2)英語の場所前置詞句にも,日本語の道具を表す格助詞デで訳せるものが多く存在する.こ れについては,中右(2004)を参照されたい.なお,査読者より,格助詞デが道具を表 しているとは言えないのではないかとの指摘があったが,この問題は本稿の射程を超えて いる.ここでは,格助詞デは道具を表すという前提で議論する.自体は場所を表していると考えるべきである3).
先ず,次の文を見られたい.
(
7
)On peut mettre des objets sur un plateau.
ここでは前置詞句
sur un plateau
は,動詞mettre
の補語であり,目的語の指示対象の移動の着点となる場所を表しているのは明らかである.これに対して, (
8
)においては,同じ前置詞句が動詞transporter
の補語であり,運搬のための道具を表していると解釈できる.
(
8
)On peut transporter des objets sur un plateau.
ところが,この前置詞句を共通項として,
mettre
とtransporter
を並列することが可能なのである.
(
9
)On peut mettre et transporter des objets sur un plateau.
つまり,同じ前置詞句が,ある動詞で表される行為の道具として解釈される一 方,それと同時に,別の動詞の場所補語にもなりうるのである.これは,一見, 矛盾した状況である.この矛盾を解消するには,以下のように考えるべきである. 前置詞句
sur un plateau
は,それ自体としては場所を表している.それゆえ,mettre
の補語となる場合には,その場所補語となる.transporter
の補語とな る場合にも,問題の前置詞句自体は場所を表しており,物が盆に載っているこ とを示している.しかし,物を盆に載せた状態で運ぶのは,通常,盆を物の運 搬の道具として使用する場合である.よって,盆が道具であることが推論され ることになる. 水をバケツで運ぶ場合も,同様に考えることができる. (10
)a. On peut mettre de l’eau dans un seau.
b. On peut transporter de l’eau dans un seau.
c. On peut mettre et transporter de l’eau dans un seau.
このような推論は,慣習化され,無意識化されているが,それでも存在して いると考えるべきである.
3.
道具としての解釈は推論により生ずる 前節で述べたとおり,運搬の道具として解釈される場所前置詞句は,それ自 体は場所を表しているのであり,運搬の道具として解釈されるのは推論による 3)以下の文の前置詞句は,起点を表していると解釈できる.(i) Il a pris un revolver dans le tiroir.
(ii) Il a pris un stylo sur la table.
— 86 —
ものである.このことは,運搬の道具の関与を表しているさまざまな場所前置 詞句を含む文を観察しても言えることである.例えば,(
11a
)や(12a
)に対して,それぞれ(
11b
)や(12b
)のように,道具のより詳細な位置を指定することが可能である.
(
11
)a. Il m’a apporté une petite salière sur un grand plateau.
b. Il m’a apporté une petite salière au milieu d’un grand
plateau.
(
12
)a. Il m’a apporté un petit morceau de pain dans un grand
panier.
b. Il m’a apporté un petit morceau de pain au fond d’un grand
panier.
(11b
)や(12b
)のように言った場合でも,盆や籠が運搬の道具であると解釈 することができる.しかし,このような前置詞句は場所をより詳細に指定して いるだけであり,道具を表すという機能を持っているとは想定しがたい.ある いは,au milieu de
やau fond de
のような連語は場所を表してはいるが,道 具を表しているとは想定しがたいと言ってもよい.むしろ,塩入れを盆の真ん 中に載せた状態で運ぶことやパンを籠の底に入れた状態で運ぶということか ら,盆や籠が運搬の道具として使用されていることが推論されていると考える 方が自然である.ならば,これと同じように,(11a
)や(12a
)の場合も,塩 入れを盆に載せた状態で運ぶことやパンを籠に入れた状態で運ぶということか ら,盆や籠が運搬の道具として使用されていることが推論されていると考える べきである. 運搬に自転車や自動車を使用した場合を考えてみよう. (13
)a. Il a transporté le colis sur son vélo.
b. Il a transporté le colis dans sa voiture.
これらの例でも,前置詞句は場所を表しているのであり,小包を自転車や自動 車に載せた状態で運ぶということから,それらが運搬の道具であることが推論 されている.この場合も,やはり,場所を詳細に指定する表現に変えていくと, 推論が介在していることが分かりやすくなる.
(
14
)Il a transporté le colis dans le panier de son vélo.
(
15
)a. Il a transporté le colis à l’arrière de sa voiture.
b. Il a transporté le colis sur le siège avant de sa voiture.
c. Il a transporté ses skis sur le toit de sa voiture.
できる.しかし,使われている前置詞句は純然たる場所表現である.つまり, 自転車や自動車が運搬の道具であることが分かるためには,道具であることを 示す言語形式は必要ないのである.そして,運搬の道具であるという解釈は, 小包を自転車や自動車のある部分に載せた状態で運んだということから推論さ れているのである4). そもそも,運搬道具は運搬事象に対して次のように関わる. (
16
)運搬物を運搬道具に対してある配置にして,運搬道具を操作するこ とにより運搬物を運搬する. これは,「場所」と「道具」を含んだ関係である. (17
)a.
場所:運搬物を運搬道具に対してある配置にする.b.
道具:運搬道具を操作することにより運搬物を運搬する. このような複合的な関係を単一の記号で表していくとすると,例えば,何かを 上に載せて使う道具を表す前置詞を用意することになるが,現実の自然言語に おいてはそのようなことをして前置詞を徒に増やすことはしていない.実際に は,以下のようなストラテジーが取られている. (18
)a.
「場所」を表す記号を用い,「道具」については推論に任せる.b.
「道具」を表す記号を用い,「場所」については推論に任せる. フランス語において運搬道具を場所前置詞で標示する場合が前者の例であ り,日本語において運搬道具を格助詞デで標示する場合が後者の例である5).4.
推論は世界についての知識に依存している これまで見てきた例においては,場所前置詞句によって示される参与項の配 置と運搬動詞自体の意味から,運搬道具が関与していることが推論されてきた. 4)乗り物などを使って物を運搬する場合,次のような表現も可能である.(i)Il a transporté le colis { en voiture / à vélo / en vélo / à cheval }
しかし,これは,既に見てきた場所前置詞句とは異なっている.なぜなら,これらの前置詞句
は運搬物の配置を表してはいないからである.例えば,運搬物の位置を表すには,(ii)は不
可能である.
(ii)* Le colis est { en voiture / à vélo / en vélo / à cheval }.
無冠詞名詞を伴う前置詞句は,むしろ,人間が乗り物に乗っている状態を表しているのである. (iii)Jean est { en voiture / à vélo / en vélo / à cheval }.
よって,このような前置詞句を,(i)のように,運搬動詞と共に用いると,人が乗り物に乗っ て運搬することを表すと考えられる.つまり,これまで見てきた例とは異なり,前置詞句は運 搬物の場所を表しているのではないのである. 5)査読者より,デ格も「道具」を標示しているのではなく,推論によって「道具」として解釈さ れているのではないかとの指摘があった.その可能性は否定できないが,その場合でも,「場所」 についての推論は,「道具」としての解釈を踏まえて行われているという,推論の前後関係は 変わらないものと考えられる.
— 88 —
しかし,この両者が揃っていても,運搬道具が関与していると推論されるとは 限らない.
(
19
)a. Dans ce pays, on transporte tout sur sa tête.
b. Il a transporté cette charge sur son dos.
c. La louve a transporté ses petits dans sa gueule.
d. Il a transporté son ordinateur sous son bras.
これらの例においては,場所前置詞は,運搬物を動作主の身体部位に対してあ る配置にすることを表している.この場合,動作主は運搬物の運搬に当該の身 体部位を使っていると考えれば,ある種の道具とみなすことも可能である.し かし,典型的な道具は,動作主とは独立した参与項であり,このような身体部 位は典型的な道具とは言えない.もっとも,このような事態において身体部位 が道具と見なせるかどうかは,ここでの議論において,あまり重要ではない. 重要なのは,場所前置詞句が表す運搬物と身体部位の配置から,運搬物を当該 の身体部位で支持することによって運搬していると推論されることである.そ して,このような推論は,世界についての知識に基づいているのである. 動作主とは独立した参与項であっても,運搬道具とは言えない場合もある. (
20
)a. Il m’a apporté un revolver dans du papier journal.
b. Il m’a apporté mon plat sous une cloche de métal.
これらの例では,拳銃を新聞紙に包んだ状態で運んだり,料理をディッシュカ バーで覆った状態で運ぶことを表している6).しかし,新聞紙やディッシュカ バーが運搬道具であるとは解釈されない.むしろ,拳銃を隠すために新聞紙に 包んだのであろうとか,料理の保温のためにディッシュカバーで覆ったのであ ろうと,推論される.このような推論も,明らかに世界についての知識に基づ いたものである. そうすると,場所前置詞句が運搬道具を表していると解釈される場合も,場 所前置詞句自体は場所を表しているのであり,それが運搬道具として解釈され るのは,世界についての知識に基づくものであると考えるべきである7). 以上より,場所前置詞句が表しているのは飽くまでも場所であり,それが道 具を表すか,それ以外の何らかの様態を表すかは,世界についての知識に基づ いていると言える. 6)包んだり,覆ったりした状態であることを,明示的に言語化した言い方も可能である.
(i)Il m’a apporté un revolver enveloppé dans du papier journal.
5.
日本語の場合 山田(2007
)は,運搬道具が格助詞デで標示されるとしている. (21
)a.
彼らは負傷者を担架で運んだ.(山田,2007, p.105
)b.
彼らは何で負傷者を運びましたか.(山田,2007, p.105
) この場合,運搬道具は道具として標示されていることになる. しかし,日本語においても,運搬道具が必ずしも道具として標示されるとは 限らない. (22
)a.
彼らは負傷者を担架に乗せて運んだ.b.
彼らは負傷者を何に乗せて運びましたか. この場合,「乗せる」という動詞のテ形を用いることにより,運搬道具は場所 として標示されている.そして,負傷者と運搬道具の配置については述べられ ているが,道具であることを明示する形式は存在していない.つまり,道具で あることは,推論されているにすぎない8).この点で,フランス語の道具とし て解釈される場所前置詞句と比較しうる9). このようなある配置にすることを表す動詞(以下,「配置動詞」)のテ形を用 いる表現形式は,(11b
)や(14
)に見られる運搬道具の部分に言及する場所 前置詞句にも適用できる. (23
)彼は小さな塩入れを大きなお盆の真ん中に載せて持ってきた. (24
)彼は小包を自転車の籠に入れて運んだ. 7)これまでの例を見ると,場所前置詞句の解釈は,前置詞が取る名詞句に依存していると思わ れるかも知れない.しかし,前置詞が疑問代名詞であっても,道具として自然に解釈されるこ とを見ると,必ずしも名詞句の語彙的情報にのみ依存しているとは言えない.(i)Sur quoi ont-ils transporté le blessé ? (山田, 2007, p. 104)
(ii)Dans quoi ont-ils transporté le blessé ?
また,本来,運搬のための道具ではない板であっても,道具として解釈される. (iii)Ils ont transporté le blessé sur une planche.
極端な場合,テーブルや箱でも道具としての解釈は不可能ではない. (iv)Ils ont transporté le blessé sur une table.
(v)Ils ont transporté le blessé dans une caisse.
このような文は一見奇異な印象を与えるが,文脈や状況により自然になりうる.このことは, 問題の推論が,語彙的情報などの言語的知識のみに依拠するものではなく,言語外の知識も 必要とするものであることを示している.推論が「世界についての知識」に基づくという包括 的な記述をしているのは,このことも踏まえた上でのことである. 8)逆に,「使う」という動詞のテ形を用いて,運搬道具が道具であることを明示的に示すことも できる. (i)彼らは負傷者を担架を使って運んだ. (ii)彼らは負傷者を何を使って運びましたか. この場合には,運搬物の運搬道具に対する配置の方が推論される. 9)ただし,より厳密には,フランス語で前置詞により明示されているのは単なる配置関係である のに対して,日本語で動詞により明示されているのはそのような結果状態をもたらすプロセス であるという相違点がある.
— 90 — この場合も,盆や籠が運搬のための道具として使われていることは推論される. しかし,格助詞ニや配置動詞のテ形には,道具としての意味は無いのである から,それが道具として解釈されるか,それ以外の様態として解釈されるかは, 世界についての知識によるのである.例えば,(
19
)や(20
)を以下の例と比 較されたい. (25
)a.
この国では,何でも頭に載せて運ぶ.b.
彼はその荷物を(背中に)背負って運んだ.c.
雌狼は子ども達を(口に)くわえて運んだ.d.
彼はコンピュータを腕に挟んで運んだ. (26
)a.
彼は拳銃を新聞紙に包んで私のところに持ってきた.b.
彼は料理をディッシュカバーで覆って持ってきた. これらの配置動詞は参与項の配置を表しており,それが道具として解釈される か,それ以外の様態として解釈されるかは,世界についての知識に基づいてい る.これは,フランス語において場所前置詞句が道具やそれ以外の様態として 解釈されるメカニズムと基本的に同等のものである.6.
フランス語の場所前置詞と日本語の配置動詞 前節では,フランス語の運搬動詞とともに使われる場所前置詞句に日本語の 配置動詞が対応していることを指摘した.通常,日本語の場所表現というと, ナカやウエのような場所名詞を思いつくが,フランス語のdans
やsur
を日本語 に訳す場合,場所名詞よりも配置動詞を用いる方がうまく行く場合が見られる. 場所前置詞について研究したV
andeloise (1991
)に挙がっている,dans
の 用例のいくつかに配置動詞を使った和訳を付すと,以下のようになる10).(
27
)a. Le vin est dans le verre.
(p. 211
) ワインがグラスについである.b. La paille est dans le verre.
(p. 214
)ストローがグラスに挿してある.c. L’arbre est dans le pot.
(p. 216
) 木が鉢に植えてある.d. Le fil est dans l’aiguille.
(p. 215
) 糸が針に通してある.やはり,
sur
についても同じことをすると,以下のようになる.10) Va ndel oise (1986)によると,dansはcontenant/contenuという関係を表し,surは por-teur/portéという関係を表す(英語では,それぞれ,container/contained,bearer/burden
(Va ndel oise, 1991)).(27)(-28)で挙げている例文の多くが,このことを端的に示すもの である.よって,これらの関係は,日本語の場所名詞よりも,配置動詞によって表されるとい うことになる.荒井(1994, pp.50-52)は,フランス語の前置詞dansが表す「容器―収容 物関係」が,日本語の場所名詞であるナカでなく,入ルという動詞の終局状態として語彙化 されていることを指摘している.これは,本稿の観察と,基本的に同じ趣旨のものと思われる. しかし,本稿では,dansが入ル以外の配置動詞とも対応しうることを指摘している点が異なる.
(
28
)a. Le bateau est sur l’eau.
(p. 189
) 船が水に浮いている.b. Le cadre est sur le mur.
(p. 188
) 額縁が壁に掛かっている.c. La mouche est sur le plafond.
(p. 187
)ハエが天井にとまっている.
フランス語の前置詞には,同じ傍置詞ということでは,日本語の後置詞である 格助詞が対応すると言える.しかし,格助詞は,前置詞のように細かく場所の 区別をしない.日本語で細かく場所を区別するには,ナカやウエのような場所 名詞がある.ところが,場所名詞は名詞であるが故に場所の指示を行うのに対 して,フランス語の場所前置詞は関係付けを行うという大きな相違がある.配 置動詞は場所前置詞よりも詳細な意味内容を有するものの,関係付けを行うと いう点では場所前置詞と類似性を有している.もっとも,場所前置詞は非時間 的関係(
atemporal relation
)を表すのに対して,配置動詞はプロセス(process
) を表すので,テ形,テイル形などでプロセスを背景化し,結果状態を前景化し ている11).7.
まとめ 道具として解釈される場所前置詞句は,それ自体としては,場所を表してい て,道具を表してはいない.場所前置詞句が道具を表していると解釈されるのは, その前置詞句が表している内容を世界についての知識と合わせて,たとえ無意 識的にであれ,推論した結果である.運搬道具が運搬事象の中で有する関係は, 場所と道具が複合したものである.そのような複合的関係を言語化するには, 場所と道具の両側面のうち,一方を明示的に標示し,他方を推論に任せる12). (京都産業大学) [参考文献] 荒井文雄(1994
)「日本語及びフランス語における空間表現の対照意味論」『京 都産業大学論集.外国語と外国文学系列』21, 22-89.
平塚徹(2006
)「飲食動詞と場所補語」『フランス語学研究』40, 14-22.
――(2008a
)「飲み物の容器の表現について.フランス語の場合と言語間に11)「非時間的関係」及び「プロセス」は,La nga cker (1990, 2000)の認知文法(Cognitive
Grammar)の用語である.
12)本稿では,運搬道具として解釈される場所前置詞句を取り上げて論じたが,同様の結論は,(5)
や(6)などのその他の道具として解釈される場所前置詞句にも当てはまると考える.(5)に
— 92 —
見られる差異」『京都産業大学論集.人文科学系列』
38, 34-49.
――(
2008b
)「フランス語のprendre
タイプの動詞がとる場所補語について.非線状的事態認知モデル」児玉一宏・小山哲春編『言葉と認知のメカニズム. 山梨正明教授還暦記念論文集』ひつじ書房
, 1-13.
La nga cker , R. W.
(1990
), Concept, Image, and Symbol. The Cognitive
Basis of Grammar, Berlin, Mouton de Gruyter.
――(
2000
), Grammar and Conceptualization, Berlin, Mouton de
Gruyter.
中右実(
2004
)「言語と認知と文化のインターフェース―なぜin a car
なのにon a bus
なのか」『英語青年』150-6, 20-24
.Va ndel oise, C.
(1986
), L’espace en français, Paris, Editions du Seuil.
――(
1991
)Spatial Prepositions. A Case Study from French, Chicago,
The University of Chicago Press
[Vandeloise
(1986
)の英訳].
山田博志(