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ポストテンションを用いたテンセグリティ構造物のデザインと施工 [ PDF

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Academic year: 2021

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22-1 1 序  テンセグリティは、引張材と圧縮材によって構成さ れ、張力を導入することで成立する。Maxwellの公式 が当てはまらない*1 この不思議な構造体は、建築学に 留まらず、数学や医学など多くの分野で研究されてい る。近年、建築への実用化について研究が進められて おり、引張材を膜に置換したものやトラスに応用した ものなど、多様な手法*2 で建設されている。小さな部 材で空間を構成でき、軽量な構造体であるという特性 を活かすと、テンセグリティは可搬性に優れた仮設構 造物として応用できる。しかし、テンセグリティは施 工性に乏しい。その解決策として、ポストテンション を用いたテンセグリティの施工法を提案する。本研究 では、この機構が成立することを証明し、実践を行う ことでその特性を明らかにする。 2 ポストテンション・テンセグリティ機構 2.1. DiamondPatternのテンセグリティについて  テンセグリティには様々なパターンが存在し(1) 本研究では、DiamondPatternに着目する。Diamond Patternは、四角形をなす4本の引張材に対角線のひ とつとして圧縮材が接続されている。この四角形を横 に並べたものが、層状に展開する。DiamondPatternの テンセグリティは、一層の場合、頂部、底部、側面で 構成されており、頂部と底部は引張材によって多角形 が構成されている。この多角形の面を本稿では上面と 下面とし、それを構成する引張材を横材とする。横材 以外の引張材を、本稿では縦材とする。 2.2. テンセグリティの施工  テンセグリティを成立させるためには、全ての引張 材に、同時に張力を導入する必要がある。また、安定 させるためには全ての部材長を安定形状と一致させな ければならないが、予め全ての長さを安定形状と等し くしていると、部材同士を接合した時点で張力が発生 してしまい、施工が困難になる。さらに、張力の管理 を必要とする部材の多さなどから、テンセグリティの 施工は容易ではないといえる。 2.3. ポストテンションを用いた施工  ポストテンションとは、後を表すpostと張力を表す tensionの造語で、最終段階で張力を導入する手法の ことをいう。テンセグリティに応用すると、全ての部 材を接合した後に張力を導入することになる。全ての 部材を接合するまで張力が発生しないことで、部材の 接合は容易になる。また、接合し、張力を導入する前 の状態で運搬することができるため、建設にかかる時 間の短縮が可能である。  そこで、ポストテンションによってテンセグリティ が成立する機構を提案する。本研究では、本機構を DiamondPatternのテンセグリティに用いることとし、 下図のように構成される。

ポストテンションを用いたテンセグリティ構造物のデザインと施工

寺田 友里 図1 DiamondPatternのテンセグリティ 図2 ポストテンション・テンセグリティ機構の構成

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22-2  この機構では、圧縮材同士を接合することで、圧縮 材が完全に分離したテンセグリティよりも引張材の数 が減少している。そのため、引張材に導入する張力の 管理が簡略化できる。さらに、縦材を引っ張って安定 したとき、横材には自動的に張力が導入されているた め、建設手順の省略が可能である。 3 分析 3.1.分析対象 3.1.1. 基本ユニット  9本の引張材、3本の圧縮材で成り立つDiamond Patternのテンセグリティを基本ユニットとする。横 材によって構成される面は上面と下面の二面のみであ り、これを一層と数える。 3.1.2. 展開  基本ユニットの部材数や層数を変更することで様々 な形態のユニットができる。本稿では、展開したパ ターンを以下のように表す。 pattern M.N.: M=一層あたりの圧縮材数       (M≧3、任意の正数)        N=層数(N≧1,任意の正数) したがって、基本ユニットはpattern 3.1.と表す。ま た、本機構を用いたテンセグリティ構造物の引張材数 は、(N+2)Mで表される。 3.1.3. 分析対象  一層あたりの圧縮材が3本のものと4本のものを分 析対象とする。これらが成立すれば他の多角形でも成 立するといえる。これらが単層及び複層で成立するか を分析するため以下のパターンを分析の対象とする。 pattern 3.1. pattern 4.1.  pattern 3.2. pattern 4.2.  それぞれのパターンで、同層における圧縮材の長さが 等しい場合、異なる場合の分析を行う。  また、今回の分析対象は、最下面が正多角形で、テ ンセグリティの回転方向が最下層から時計回り、反時 計回りの順に交互となっているものとする。 3.2. 分析方法  それぞれのパターンは、全ての部材を接合した後、 縦材を短くし、最短となったところで引張材に張力が 導入されると仮定する。まず、それぞれのパターンに ついてテンセグリティの安定形状*3 を確認し、縦材が 最短のときどのような形状であるかを明らかにする。 その形状が安定形状と一致していれば、縦材が最短の とき引張材に張力が導入されているといえ、仮定が成 立する。この分析では重力の影響を無視する。 3.3.分析 3.3.1. 圧縮材の長さが等しい場合  分析にあたり、それぞれのパターンを、下面の内 心を原点としてxyz座標上におく。横材によってなる 面の頂点は、最下面から順にA、B、C…、A'、B'、C' …、A”、B”、C”…とする。 pattern 3.1.   テンセグリティの安定条件より、点A、B、O、A'は 同一平面上にある。△ABC//△A'B'C'より、AB//O'A' であり、安定形状のとき、θ=150°である。  BA'、CB'、AC’を同時に短くしていくと、それらの 長さが最短となる点に至る。その点は次式より、点 O’を中心に△A'B'C'が時計回りに150°回転した点で あることがわかる。 したがって、このときの形態はテンセグリティの安定 形状と一致しているため、引張材に張力が導入されて いるといえる。 pattern 4.1.  安定形状のときθ=135°である。BA'、CB'、DC'、 AD’を短くしていくと、それらの長さが最短となる 点に至る。その点は、pattern3.1.と同様に計算する と、点O’を中心に四角形A'B'C'D'が時計回りに135° 回転した点であることがわかる。したがって、テンセ グリティの安定形状と一致し、引張材に張力が導入さ れているといえる。

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22-3 pattern 3.2.  二層のときの安定形状は、△A'B'C'がO'を中心に時 計回りに150°回転し、△A”B”C”は回転していな い形状である。このときの縦材BA'B”について、BA' とA'B”はともに最短であるため、BA'B”も最短であ る。したがって、二層であっても、縦材が最短になっ たときに安定形状となり、引張材に張力が導入され ているといえる。このとき、縦材BA'B”、CB'C”、 AC'A”は、それぞれA'、B'、C'を支点として張力が導 入されている*4 。 pattern 4.2.  pattern 3.2.と同様、二層でも本機構が成立する。 3.3.2. 圧縮材の長さが異なる場合  3.3.1.から、テンセグリティは、安定したときに自 己釣合い形状となり、節点の位置関係が変化しないと いう性質があることがわかる。これは他の形態のテン セグリティにも共通の性質である。このときの縦材が 最短であるということが、一層あたりの圧縮材の長さ が異なる場合にも当てはまるかを確認する。 pattern 3.1.  安定形状であるとき、縦材BA'が最短でないと仮定 すると、縦材をさらに短くすることが可能である。縦 材BA'を短くしたとき、節点Bと節点A’の距離が短く なり、節点の座標関係が変化した。これはテンセグリ ティの性質に矛盾する。同様に、縦材CB'、AC'におい ても、縦材を短くするとテンセグリティの性質に矛盾 が生じる。したがって、安定形状であるとき縦材は最 短であり、このとき引張材に張力が導入されている。 pattern 4.1.  pattern3.1と同様、テンセグリティが安定形状のと き、縦材は最短であるといえる。 pattern3.2.   圧 縮 材 の 長 さ が 等 し い 場 合 の p a t t e r n 3 . 2 . と 同 様、縦材が最短であるときに安定し、縦材BA'B”、 CB'C”、AC'A”は、それぞれA'、B'、C'を支点として 張力が導入されている。 pattern4.2. pattern 3.2.と同様、二層でも本機構が成立する。 3.4.小結  全てのパターンにおいて、縦材の長さが最短になる ときに安定形状と一致し、全ての引張材に張力が導入 された。複層の場合も、縦材の長さが最短となるとき に全ての層のテンセグリティが安定するため、接合部 を支点として縦材に張力が導入される。したがって、 この機構は成立するといえる。以上は、幾何学的な分 析の結果であるが、実用化のためには、外力や伸び等 を考慮しなければならない。  一つの節点に外力が加えられたとき、自己釣り合い 形状とは異なる形で安定すると推測される。外力が加 わると、引張材が伸び縮みし、自己釣合い形状では変 化し得ない節点の位置関係が変化するためである。こ のとき、応力が集中する部材の耐力に考慮して、導入 する張力を設定すべきである。  また、伸びを考慮すると、安定形状のとき引張材が 負担している張力の大きさ、及び縦材と横材に生じる 伸びは比例関係にあるが、縦材と横材の寸法の関係は 比例関係ではない。つまり、導入する張力が変化する と節点の位置関係は変化する。このとき、位置関係の 変化前とは異なる自己釣り合い形状であると推測され る。張力発生時、縦材が最短となるときの位置条件は 横材の寸法と無関係であるためである*5 。 4 本機構を用いたテンセグリティ構造物の形態  本機構を用い、多様な空間が設計できることを確認 する。横材は部材長が変化しないため膜材に置換する ことが可能である。また、圧縮材の長さによって展開 の方向は様々である。 スラブ型:最上面は屋根、その他の面は床として使う ことができ、簡易テントなどに利用できる。一層あた りの圧縮材長さが全て同じとき、または一層あたりの 圧縮材が三本のとき面は平面になるため、横材を置換 する材料は膜に限らない。 傘型:上層の圧縮材を下層よりも長いものにし、最上 面を膜材に置換する。テンセグリティの外部を空間と して利用できるため、活用範囲が広がる。 図4 ポストテンション・テンセグリティ機構を用いた構造物の形態の例 図3 pattern3.2.が安定するまでの過程(重力は無視する)

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22-4 キャンチ型:一層あたりの圧縮材の長さが異なると き、上面が傾く。そこに圧縮材を繋いで展開すると キャンチ型になる。構造材とは別に膜材を設置するこ とで、壁と屋根が一体になった構造体ができる。 アーチ型:キャンチ型を、上面が180°傾くまで展開 するとアーチ型になる。キャンチ型と同様、膜材を設 置することで空間となる。 5 実践 5.1.仮設構造物「隼」  研究にあたり筆者らは、本機構を採用した仮説構造 物「隼」を設計・施工した。この仮説構造物は、九州 大学の大学祭に焼き鳥屋を出店する仮設テントであ る。形態は、4章で提示したアーチ形状を形成する架 構とし、圧縮材には竹材を、引張材には径が3mmのワ イヤーロープを用いた。 5.2.ディテール 接合部は、竹にボルトを固定し、アイナットを取り 付け別の圧縮材とカラビナで接合する輪状のピン接 合とし、本機構を実現する接合部*6とした。膜材は、 シェードストレッチという伸縮性のある膜材を使用し た。また、ひとつの三角形をなす横材のうち、架構内 側の一本にターンバックルを取り付け、縦材を固定し た後の張力の調整を可能にしている。 5.3.施工  試行建設*7を繰り返した結果、図7に示す施工方法 に決定した。人によって縦材を引っ張る力が偏るが、 架構の形態を確認し、力が不足している縦材を判断し 調整することで、偏りをなくしながら安定形状に近づ けた。今回、縦材は人力で引いた後、縦材の適当な箇 所に設けた輪と圧縮材の最下部とを繋ぐターンバック ルにより、縦材を固定し張力を導入したが、この手順 をウインチに置き換えることも可能である。  また、本架構の縦材は同時に引っ張ったが、順番に 引っ張って張力を導入する施工方法も考えられる。こ の場合、縦材を、安定形状の長さよりもさらに短くし ないよう、目安となるものを設ける必要がある。 5.4.小結  実物大の施工では、重力や摩擦力により様々な問題 が発生した。まず、圧縮材の重量が大きかったため、 人力のみでの施工は時間を要した。接合部に生じる摩 擦について、摩擦が生じにくい接合部の開発や引張材 の材料の検討が必要がある。  しかしながら、本機構は施工精度の不足を許容する ことが明らかになった。圧縮材や横材の長さが設計時 に定めた寸法と異なっていても、縦材の調整により、 設計時とは異なる安定形状とすることが可能である。 6 結  本機構の提案により、テンセグリティの施工性を 向上させ、仮設構造物に利用できる可能性を提示し た。さらに、実践を行うことで本機構の特性を明ら かにし、実用化における問題を確認した。今回は、 DiamondPatternのテンセグリティに本機構を用いた が、他のパターンにも用いることが可能であるだろ う。本稿では幾何学的な分析に留まっているが、本機 構の実用可能性の追求のため、構造力学的に分析する ことが今後の課題である。 【註】 *1:テンセグリティのパターンの一つ、CircuitPatternは公式よりも多い部材で、 それ以外は少ない部材で構成される。これについては参考文献(1)に詳しい。 *2:参考文献(2)(3)に詳しい。 *3:安定形状は、参考文献(4)を参考に確認した。 *4:図2右部の、点線で囲まれた接合部の図の状態で安定する。 *5:例として、pattern3.1.、一層あたりの圧縮材の長さが等しい場合において、縦材 が最短となるときの条件は(cosθ-cos(2/3π-θ)= √3 sin(2/ 3π+θ)= -√3であり、横材 の寸法が無関係であるこ とがわかる。 *6:接合部の性能については参考文献(5)に詳しい。 *7:試行したものについては参考文献(6)に詳しい。 【参考文献】 (1)鈴木悠介、川口健一:テンセグリティの分類と部材長に関する一考察(その1: 多 面体パターンを中心 として)/2003.09 (2)井田久遠:膜材を引張材とするテンセグリティ構造物の設計手法-仮設の茶室「筍 庵」を事例として-/2015 (3)安田真弓、岡田章、宮里直也、斎藤公男:張力膜をハイブリッド化したテンセグ リック・トラス(TypeI)の基本的構造特性に関する研究/2011.08 (4)角田静治、横井友幸:テンセグリティ構造物の応用に関する研究(三本マストタ イプの形状決定法について)/2004.12 (5)藤本将弥:割り箸とエポキシ系樹脂を用いた竹材端部のボルト接合部の強度試験 /2015 (6)國清尚之:竹材を用いたテンセグリティ構造の仮設テントへの適応可能性の考察 /2015 【図版出典】 全て筆者作成・撮影 図6 接合部のディテール 図7 現場での施工方法 図5 「隼」の立面図と当日写真

参照

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