1.論文構成 第1章 はじめに 第1節 問題の所在 第2節 用語の定義 第3節 先行研究の検討 第4節 大学職員の専門性の到達点と課題の設定 第5節 研究の方法及び研究の構成 第2章 正課外活動の重要性の再認識 第1節 学生支援(厚生補導)の概要 第2節 本来の学生支援(厚生補導) 第3節 学生支援(厚生補導)の歴史 第4節 正課外活動の重要性 第5節 まとめ 第3章 正課外活動の指導 第1節 正課外活動の指導法 第2節 正課外活動の支援に関連する研究 第3節 リフレクション(省察)とは何か 第4節 まとめ 第4章 正課外活動を支援する大学職員へのインタビ ューを通して 第1節 調査の目的 第2節 調査の方法 第3節 調査の結果 終 章 総合考察 第1節 本研究のまとめ 第2節 本研究の課題と今後の展望 2.研究の概要 第1章 問題の所在と課題の設定 我が国の2015 年度の専修学校等を含む高等教育機関 への進学率は 79.8%、大学・短期大学への進学率は 56.5%、このうち、学士課程教育を提供する大学への進 学率は51.5%となっており、トロウ(1976)が定義した 同年齢の若年人口の過半数が高等教育を受けるというユ ニバーサル段階にすでに到達している。ユニバーサル化 による学生の気質変化がもたらす問題は、入学者の相対 的な学力の低下のみならず、多くの学生が大学進学に際 し、自分の将来像と大学の位置付けを明確に持って、な い点にある(金子 2013)。 学生の質的変化を踏まえ、近年の高等教育政策では、 学生の人格形成や学習の成果の観点から、学士課程プロ グラムを補完するものとして教室外プログラムや学外体 験活動といった正課外活動の重要性が高まっている。例 えば、「廣中レポート」(2000)は、正課外活動の充実の ために「教員の意識改革」や「事務職員の専門性の強化」、 「教員と事務職員の連携の強化」等の方策を示唆してい るが、特に「事務職員の専門性の強化」に焦点を絞ると 正課外活動に関連する専門性とは何か、必ずしも明らか にされていない。 これまでの大学職員の専門性の議論は、主に経営管理 に携わる上級職員すなわちアドミニストレーター研究が 先行してきた。その背景として、「18 歳人口の減少に伴 う競争的環境の下で、国立大学法人化や私立学校法の改 正などの制度的改革によって大学の経営機能強化への要 求の高まっていること」(中井・齋藤2007)があげられ る。アドミニストレーターは、プロフェッショナルな大 学職員として、ジェネラリスト的要素とスペシャリスト 的要素の両専門性の交流によりハイブリッドな要素を形 成して、経営管理部門、教育研究部門に関与することが 想定されている(秦・山本・各務2007)。一方、正課外 活動を支援する大学職員に関連する先行研究は、蓄積が 不十分であり、その専門性は十分に論じられていない。 なお、正課外活動を支援するような教育的役割を担う 大学職員については、「大学経営事務に飽き足らない職員 の中には、職員も教育者であるべきとの論が以外に多く 見られる。しかし、教育・研究の本筋は教員の仕事であ り、職員には職員としての仕事が別にある」(山本2013) や「教育から学習へという大きな変換は、ラーニング・ コモンズという概念を新たに登場させ、図書館・情報教 育センター・学習支援センターなど学習環境全体の役割 が拡大している。当然、教育・学生支援職員以外の職員 の教育的役割は拡大している」(羽田2013)といった議 論があり、その位置付けは定まっていない。 そこで、本稿では、大学職員を正課外活動において教 育的役割を担うことができる実践者と位置付け、その際 に必要となる専門性の要素について考察していく。
正課外活動を支援する大学職員の専門性に関する研究
キーワード:正課外活動,大学職員,専門性,ライフストーリー,省察 教育システム専攻 楢原 英樹第2章 正課外活動の重要性の再認識 1)本来の学生支援(厚生補導)とその後の変遷 学生にとって、「正課」の活動とは授業への参加であ り、「正課外」の活動とは、授業以外のすべての活動と考 えられる。大学職員が学生の正課外活動を支援する場合、 「学生支援」業務という。学生支援は、かつて厚生補導 (Student Personnel Services)と呼ばれていた。
日本の大学における厚生補導業務をはじめて明文化 したのは、学徒厚生審議会答申(1958)である。答申で は、厚生補導業務を「学生生活の環境的条件を調整する とともに、学習体験の具体的な場面に即して、各学生の 主体的条件に働きかける教育指導を行うことによって、 その人格形成を総合的に援助することが正課外の教育の 目的であり、このような目的をもって組織的・計画的に 行われる大学の活動」と定めた。 しかし、1960 年以降、全学連や安保闘争といった学生 運動が活発になると、厚生補導を担う学生部等の学生対 応部署は、大学紛争等の対応に追われ、キャンパス環境 や教育秩序の維持が優先された。そのため、1970 年代前 半まで続いた学生運動等も加わり、学生を育てるために 様々な領域で関わっていくという学生支援(厚生補導) は、管理的な色彩が強まり、学生への関わりは消極的な ものへと変化し、多くの大学で学生相談は保健管理業務 の中に吸収され、他の機能は学生部が事務的に担当する こととなったのである。 ところが、1990 年代後半から、少子化と大学の受け入 れ拡大により大学のユニバーサル化が急激に進行したこ とを受け、管理的な性格が強調されてきた学生支援(厚 生指導)だが、現在は学生の多様化と変容、教育の質保 証の観点から再び教育的な性格が強く求められているの である。その対応として、大学には意図的に正課外活動 の場を作る必要に迫れられているが、本稿では、以下の 図における、大学や教職員が関与する準正課の活動に該 当する取り組みを考察の対象に限定する。 2)学生支援(厚生補導)の担い手 学生支援(厚生補導)の領域は、大学教員にとって、 正課教育と正課外活動の中間領域であり、また大学職員 にとっても、事務と教育の中間領域である。それゆえ担 当が不明確な業務領域といえる。本来は教育活動にあた る故、大学教員の領域であり、教職協働で行うべき領域 となろう。一方、本来の学生支援(厚生補導)の考えや 「中間領域」であることから、大学によっては、大学職 員が単独で支援することもありえるのである。 第3章 正課外活動の指導 高等教育政策において、正課外活動の重要性は強調さ れるものの、その指導法については、特に触れられてい ない。例えば、「廣中レポート」では、「正課教育はもち ろんのこと、正課外教育も含めた大学生活全般の中で、 学生の人間的な成長を図り、自律を促すための適切な指 導を行っていく」や「学生に対するきめ細やかな教育・ 指導を充実させるためには、各大学において全学的・組 織的にファカルティ・ディベロップメントを進める中で、 積極的に教員に対する教育・指導について研修を行うこ とが求められる」といった記載にとどまっている。 1)インフォーマル学習からの示唆 正課外活動は、正課(授業)がフォーマルな学習とす れば、インフォーマルな学習と捉えることができる。大 学教育におけるインフォーマル学習については、主とし て教育工学の視点から研究がなされている。例えば、河 井・木村(2013)は、サービス・ラーニングにおいて、 リフレクションとラーニング・ブリッジングが、学生の 学習に対して重要な役割を果たしていることを明らかに している。また、桜井・津止(2009)は、立命館大学の ボランティアセンターを中心とした取り組みから、プロ グラム参加の途上で育まれる社会への深いコミット感と 自己効力感が学生の学びと成長に大きく影響することを 明らかにし、「内省・省察・再帰・振り返りなど、この分 野の研究実践場面で繰り返し強調されているリフレクテ ィブ・アプローチこそ、体験を教育として再構築してい く際のキー概念である」と述べている。 これらの研究結果から、正課外活動の指導には、「リフ レクション(省察)」が有効であると仮定する。 2)リフレクション(省察)の概念 「リフレクション(省察)」とは、「起こった事象や自 身の行為を内省すること、すなわち振り返ることを指す ことである」(松尾2011)。リフレクションが成長にとっ て重要な理由は、1つは、「振り返りによって、経験から より多くの教訓を引き出すことができる」こと、もう1 つは、「行為の後で振り返ることによって、仕事を通して
学んだことや得た教訓を頭の中で整理し、意識づけるこ とができる」とされる。 先行研究から、「リフレクション(以下、省察)」が学 生の成長を促すことは実証されているため、正課外活動 を支援する大学職員の専門性の要素として、「省察がで きる能力」を仮説として検討することとした。 また、大学の職員も大学スタッフとして教育に関する 公的な責任を背負っている専門家と考え、ライフストー リーで描かれた大学職員の実践とインタビューデータを ドナルド・ショーンが提示する「反省的実践家」モデル を手がかりに分析する。分析の視点として、「反省的実践 家」の中核要素である「行為の中の省察」と「行為につ いての省察」、「フレームの再構成」の3点を活用する。 第4章 大学職員へのインタビューを通して 1)調査方法 ライフストーリー・インタビューでは、聞き手は、い わば「あなたは何者ですか」という問いに答えるもので あり、未だ少数派である教育的役割を担う大学職員の存 在とその専門性の要素を明らかにするために、適切な研 究方法だと考えた。半構造化インタビューを実施し、正 課外活動の支援をはじめたきっかけやその際の大学職員 の役割等を自由に語ってもらい、逐語記録を作成した。 記録からライフストーリーを作成し、さらにそれを反省 的実践家モデルの中核要素で検討する。 2)調査対象者と調査手続き 本調査では、調査対象者とした業務や個人的に正課外 活動を支援する私立大学職員に依頼した。なお、ライフ ストーリーという質的研究の性質上、インタビュー内容 に倫理的配慮が求められる。よって調査対象者に対して、 事前に調査依頼を行い承諾を得て、研究に関する誓約書 を交わしている。 3)調査結果 ①不本意入学者に大学で頑張ってもらいたいA氏 大学職員A 氏は、現在、私立 X 大学に大学職員として 勤務しており、入学式後にセレモニーを実施するプロジ ェクトという正課外活動を立ち上げ支援している。その 理由は、X 大学の入学者のうち、不本意入学が多いと気 付いたことである。そして、不本意ながらも入ってきた 子たちにも「ここ(X 大学)で頑張ろうかな」と思って もらえるようにしたいという思いである。 A 氏は、プロジェクトの実践において、「教えるべき事 を教えない」というスタンスで関与している。その狙い は、学生に「自分で気づいて欲しい」と考えていること にある。ただし、関与する学生によっては、スタンスを 変えるという。 A 氏の考える大学職員の専門性は、マネジメント能力 と、コミュニケーション能力、ファシリテーション能力 である。その理由を「職員は管理運営に携わる仕事をし ている」や「学生の意見を引き出して、それを実現させ るのが職員の役割のひとつだから」と語っている。 ②学生の自己決定、有能感、関係性を重視するB氏 現在、Y 大学に大学職員として勤務している大学職員 B 氏は、教職員・学生 FD という正課外活動を有志で立 ち上げ支援している。そのきっかけは、学生への着目に ある。B 氏は、当時の学生に対して、「大学とのコミット メントが非常に薄いという人が増えた」という状況と「一 部の学生は大学の制度とか施設や教職員、あるいは大学 のネットワークを使って、充実した学生生活を送ってい る」そして、「多くの学生にこの大学を使ってもらいたい」 という思いで、この活動支援を始めている。支援の実践 においては、学生のモチベーションを上げるようなファ シリテートをすることが大事だと考えており、学生の① 自己決定、②有能感、③関係性を重視した支援を行って いる。支援の際には、「省察」を取り入れており、「(正 課外活動において)振り返りの会をちゃんとやるとか、 中間で意見交換会をやるとか、そういった関係性が維持 されるような仕組みを提供しないと、結局、学生の課外 のプロジェクトでは、負担の偏りっていうのが起こって くるんですよ。(中略)そういう関係性がちゃんと維持さ れるように支援、(教職員は)ファシリテートしていく」、 それが支援を行う教職員の役割とB 氏は語っている。 B 氏の考える大学職員の専門性は、学生のモチベーシ ョンを下げない知識と語っており、その知識を得ること で、職員自身の有能感も高まり、自己肯定感も高まると 考えている。 ③人事異動により施設Eに所属するC氏 大学職員C 氏は、現在、施設 E の業務として、正課外 活動を支援している。C 氏は、地域担当として地域と学 生を結びつける業務を行っており、また、コーディネー ターという役割でインドネシア国際貢献プロジェクトを 支援している。C 氏は、自分の役割について、「教員とさ ほど代わらない立ち位置でやらせてもらってる」と語り、 指導にあたっては、「目線を学生に合わせてやっている 」といい、「徹底的に彼らと対話をする」、「基本的には、 しっかり人間関係を築いてないと彼らも心を開いてくれ ないというのが分かってるんで」と語る。 C 氏の考える大学職員の専門性は、「学生を認める所 という気がしてます」と語り、そのためには、「できるだ け良い人間関係が築けるように、良いところは素直に褒
め」、「ダメなところは、(中略)『何でダメなんだろう な』と話してあまり怒らないようにしている。」という。 ④3名のライフストーリーから A 氏と B 氏は、入学者に対する観察や状況から正課外 活動の支援を始めている。また、C 氏は、施設 E への異 動後に、学生の接し方を変えている。このような「行為 の中の省察」や「行為についての省察」を行う語りは、 3氏から語られている。また、3氏に共通して言えるこ とは、学生に対して、省察を促す語りや行動をしている ことである。それは、学生の省察を促すためのスキルで あると考えられる。これまでの語りで明らかなように、 実際に正課外活動を支援する大学職員は、省察の実践と スキルを重視していると言える。 なお、省察以外には、教員との関係の語りがある。例 えば、「(正課外活動の)その限られた情報だけしか知ら んのに、すごい批判をしてくる教員とかね」(B 氏)いう ような語りがあり、教職協働で正課外活動の支援を行っ ている場合とそうでない場合の、相違を確認することが できた。また、大学職員についての語りからは、「学生支 援をしたいっていう職員がそもそもいない」(A 氏)、 「施設E に来るまで(自分は)大学職員として、あまり 近すぎてはいけないと」(C 氏)といった語りがあり、正 課外活動を支援する大学職員とこれまでの伝統的な大学 職員の立ち位置や視点の違いを窺い知ることができた。 なお、本稿が目的としている専門性に関する質問つい て各個人の回答は、「マネジメント能力」、「コミュニケ ーション能力」、「ファシリテーション」、「学生のモチベ ーションを下げない知識」、「学生を認めてあげるとこ ろ」というように共通した認識は見いだせなかったが、 学生とのふれあいという「実践の中の省察」を通じて、 各々が必要と感じる専門性を重視し向上させていること を窺うことができた。 また、A 氏と B 氏は、正課外活動の支援は、大学職員 の能力開発につながっていると語っており、実際に自発 的に大学院進学をしていることから、省察は、学生を成 長させるだけでなく、大学職員の専門性向上の鍵となっ ていることが考えられる。 終 章 総合考察 1)本研究のまとめ 本研究は、2つの課題を明らかにすることを目的とし て実施した。第1の課題は、「大学職員を正課外活動にお いて教育的役割を担うことができる実践者と位置付ける こと」であり、第2の課題は、「その際に必要となる専門 性の要素を明らかにすること」である。 第1の課題については、本来の学生支援(厚生補導) の趣旨、正課外活動という中間業務領域、調査により描 き出された大学職員の実践から、教育的役割を担うこと ができる実践者と位置付けることが明らかになったとい えよう。第2の課題については、大学職員のライフスト ーリーと語りから、大学職員の専門性の要素である「省 察ができる能力」について、大学職員が自身の実践の中 で行う「行為の中の省察」と「行為についての省察」、そ して学生に対して「省察」を促す実践が確認されたこと から、「省察ができる能力」を専門性の要素の1つに付け くわえた。以上が本研究の成果である。 また、大学職員を反省的実践家の視点で検討すること によって、「省察」が、学生を成長させたいという大学職 員の「意志」と支援に必要な「知識・技能」をつなぐ、 専門性向上の重要な要素であることが仮説として構築さ れた。さらに、大学職員が単独で正課外活動の支援をす るよりも、教職協働でそれぞれの専門性をもって実施す ることが望ましいことも確認された。 2)本研究の課題と今後の展望 本研究には、以下の課題が残されている。 第1の課題は、私立大学のみを対象としたため、国立・ 公立の大学において正課外活動を支援している大学職員 の実践を精査できていない点である。 第2の課題は、ライフストーリーは本来、仮説構築型 の研究であり、調査数の関係から一般化までは難しいと 思われる。この点については、調査対象となる事例と数 を増やしていく必要があると思われる。 3.主要参考文献 ・大山泰宏「学生支援論」『大学教育学』培風館、2003 年、pp227-238。 ・学徒厚生審議会答申「大学における厚生補導に関する 組織および運営の改善についてならびに学生の健康管 理の改善について」、1958 年。 ・ドナルド・ショーン『専門家の知恵-反省的実践家は 行為しながら考える』ゆみる出版、2001 年。 ・桜井厚『インタビューの社会学-ライフストーリーの 聞き方』せりか書房、2002 年。 ・秦敬治「大学職員論とは何か「大学職員の専門性と人 事異動に関する考察」」『大学職員論叢』第1号、大学基 準協会、2013 年、p.25-33。 ・中原淳・金井壽宏『リフレクティブ・マネージャー- 一流はつねに内省する』光文社新書、2009 年。 ・山田政寛・山内祐平編著『インフォーマル学習』ミネ ルヴァ書房、2016 年。