ⓒ 2 0 1 6 w o r k s h i f t I n s t i t u t e
「 育 休 プチ M B A 勉 強 会 」
2 0 1 5 年 度 報 告 書
国 保 祥 子
経 営 学 博 士
静 岡 県 立 大 学 経 営 情 報 学 部 講 師
育 休 プチ M B A 代 表
株 式 会 社 ワ ー クシフト 研 究 所 所 長 兼 C O O
目 次
はじめに
第1章 『組織における制約人材の活かし方』
パネルディスカッション(文字版)
第2章 育休プチMBA勉強会の紹介
第3章 育休プチMBAを通して、国保の提言
おわりに
資料1 育休プチMBA参加後復帰者調査結果
資料2 育休プチMBA参加者調査結果
資料3 育休プチMBA運営者調査結果
資料4 育休プチMBA勉強会実施記録(2015年度)
編集後記
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2015年度の「育休プチMBA勉強会」は、19回のすべてにおいて発売直後に売り切れるという状態でした。この現象が意味 することは、育児休業中の社員の学ぶ意欲、成長する意欲、復職して結果を出すという意欲が小さくないということに他 なりません。しかし一方で、一般的には育児休業中から復職した社員へのネガティブな意見が少なくなく、育休復職者に まつわる問題を抱えている企業が非常に多いと感じています。 組織にまつわる問題の多くはミスコミュニケーションが原因ですが、この2つの現象からも、企業とそこで働く個人を 隔てている大きなミスコミュニケーションがあることを感じます。 勉強会を通じて明らかになった現象を世の中に出すことで、この育休復職者にまつわる経営課題を少しでも解決 したいと考えています。 第1章のパネルディスカッションでは、様々な立場から制約人材の意義について語っています。経営者の戦略的 思考や子どもを持ちながら働く個人の体験談は、上記のミスコミュニケーションを解決するための具体的なヒント となるでしょう。 第2章は、この勉強会がどのような理論的根拠の上に成り立ってデザインされているかをまとめています。この教育 プログラムが生まれた背景にある企業における能力開発に関する課題は、育休復職者の存在の有無に関わらず 多くの企業が実感するところではないでしょうか。 第3章は、勉強会を通じて得た制約人材のマネジメントの必要性と具体的手法を提案しています。これから制約を 抱えた人材を戦略として活用していきたいと考えている企業の皆さまの参考になりましたら幸いです。 付録では、2015年度の勉強会活動の記録をまとめています。特に今年は、2014年度の勉強会経験者の復職後の 状況を調査しました。勉強会の効果がどのように表れているのか、興味深いデータが取れています。 この勉強会では多くの企業にも支えられています。勉強会で使用するポストイットをご提供くださるスリーエム様、 パネルディスカッション等で会場をご提供くださったイトーキ様、テレビ会議システムを貸与してくださっているv-cube様、 いつもありがとうございます。 この報告書が皆さまの経営課題に対する指針となることを祈っています。 経営学博士 国保祥子
はじめに
0 3第1章
パ ネル ディスカッション
日 時 : 2 0 1 6 年 3月1 1日
『組織における制約人材の活かし方』(文字起こし版) テーマ:『組織における制約人材の活かし方』 パネルディスカッション登壇者: コヂカラ・ニッポン代表 川島高之様 元祖イクボス ジャーナリスト 白河桃子様 株式会社イトーキ 企画本部人事統括部人事部ダイバシティ推進室長 服部由佳様 育休プチMBA・OG ネスレ日本株式会社 岡野美佳 育休プチMBA・代表 国保祥子 育休プチMBA・副代表 小早川優子(モデレーター) テーマ:『組織における制約人材の活かし方』 *読みやすいように一部変更をいたしております。あらかじめご了承くださいませ。 モデレーター(以後、小早川):今回のディスカッションのテーマは、「組織における制約人材の活かし方」です。特に 育休復職者、日本の場合は主に女性が多いと思いますが、子どもを持つ女性の活躍について、ご登壇者の皆様から ご意見をいただきたいと思います。私も育休プチMBAの運営メンバーとして、経営者として、また働く親として皆様の ご意見を大変楽しみにしております。ご登壇者の皆様、どうぞよろしくお願いいたします。また、ディスカッションの後に 質疑応答の時間を設けておりますので、ぜひご質問のある方は積極的にお願いいたします。 では早速一つ目の議題から始めたいと思います。議題1、「育休復帰者は組織の戦力にすべきか。戦力になるのか」 についてです。まずジャーナリストの白河様、次にダイバシティをご担当されている服部様のご意見を伺いたいと思い ます。よろしくお願いいたします。 パネリスト(以後、白河):よろしくお願いいたします。戦力にすべきかというよりは、戦力になっていただかないと 日本はもたないというところにきていると思います。イノベーション、ダイバシティのためにも女性の力は必要ですし、 先ほど(岡野氏が)営業担当とおっしゃっていましたが、営業の女性人材は10年で1/10ほどに減ってしまうのです。 しかも優秀な人ほど子どもをもった後、離脱しやすいというリスクもあるので、その人たちを失ってしまうのは会社と して大きな戦力ダウンになると思います。女性サイドの理由として、「家計的な問題として女性もちゃんと働かないと 結婚だけでは食べられなくなった。夫婦としての理由も、不安定な雇用環境のなか二馬力でないとなかなか難しい」 のが実情です。社会にとっては、2060年に労働人口は半分になります。少子化のためにも共働き、家庭でも男性が 家事育児に参画し共育てができないと、これからの日本は大変なことになってしまいます。未婚者の年収もそんなに 高くないのです。ですからこれから結婚が増えていくためにも、共働き、共育てができる環境が必要になります。私は 地方にもよく行きますが、女性の年収がどこもかなり低い。未婚のうちはまだいいのですが、既婚になって子どもを もつとものすごく減るんですね。そうなってくると彼女らの老後、社会保障費のこと考えると、女性がしっかりやりがい をもって、生計を立てられるよう働けることがこれからの日本にとって重要になってくると思います。 パネリスト(以後、服部):よろしくお願いいたします。いまこのパネルに「(戦力に)すべきか?なるのか?」と問いかけが ありますが、女性はすでに戦力になっているんですね。では、なぜ世の中で女性活躍とこれだけ言われているかと いうと、その力を出し切れていない組織に理由があると考えています。私は2人の子どもの親ですが、色々なことを 経験しながら、不便さとか課題とかが生活のまわりにある中で、ビジネス上においてもこれはこのように工夫した ほうがいいということを常に考えています。その中で自分自身では会社に提言することやイノベーションを起こすこと を過去にやってきたと自負していますし、会社にとっての生産性の高いシステムの提供をできてきたと思っています。 「(戦力に)すべきか」にフォーカスすると、経営者、管理者の方々は「戦力にすべき」というような考え方をやめた ほうがいいと思う。自然と男女問わず活力になってもらうという見方に将来なっていけば、「すべきか」という考えも なくなっていくのではないかと思います。
第1章 パ ネル ディスカッション
0 5小早川:力強いご意見ありがとうございました。そもそも、すべきかではなくて、もうなっているし、もっとやっていかな いと企業だけでなく日本全体も困ってしまうということですね。ありがとうございます。 とはいえ、女性は妊娠出産を経て、育児休業を取って復帰してもモチベーションが下がってしまう、言葉は悪い のですが「ぶら下がり」といわれる育休復帰者がいることも事実です。自分の主張ばかり言って組織に軋轢を生じて しまうという話も聞きます。企業経営側にするとコストがかかるのではと捉えることもできますが、この点について 経営者として川島様はいかがお考えでしょうか。 パネリスト(以後、川島):育休復帰者だからぶら下がり、既得権益型になるというのはあまりに短絡的で、世の中 にはぶら下がりのおじさんや後は逃げ切るだけと思っている中高年社員もいっぱいいるので、別に育休復帰者に 限ったことではなくて、そうさせてしまったボスの責任だと思う。どんな人だってやりがいが高くて自分の能力を発揮 できる仕事が与えられれば、ぶら下がりに自らなる人はそんなにいないでしょう、ゼロではないでしょうが。だから、 育休復帰者だからぶら下がりになる可能性があるのではなく、すべての部下、社員にその可能性があるので、そう ならないように仕事を与えモチベーションを高めるのが管理職の仕事である。それを育休だからって言っている のは、管理職が逃げている、できないことを人のせいにしていないか、という気はしている。 小早川:ありがとうございます。そうしますと、そういった問題があったとしても育休者だから、女性だからということが 問題ではないのでしょうか? 川島:そうはいいながら、そうじゃない人と働き方を変えさせないとだめですよね。働き甲斐と働きやすさを両軸で 考えていかないといけないわけで、働き甲斐は男性であれ育休明けの女性であれ同じ。一方働きやすさは置かれた 環境によって違うわけで、育休明けの人は長時間働けないということがあるので、例えば復職したときに慣らし 保育があるように慣らし職場を与えて最初無理するなよとか、なかなか残業しづらいのでそれをさせないようにする などは考えていかないといけない。ただ、それさえすれば、コストになるということはないですよね。わたしの会社でも、 育休明けの女性社員が人事制度を作り変えて中心的な存在でやっているし、もう一人は総務系で会社のレイアウト を全部変えるなど、みんなバリバリ輝いてやっています。その代わり、彼女たちに言っているのは、「何かあったら 子育てを優先しろよ」ということを伝えて、安心感を与えることが重要だと思っています。 小早川:ありがとうございます。安心感、やりがい、というキーワードがでてきました。今出た発言に対し、当事者の 立場である岡野さん、そして経営学者の立場として国保からそれぞれご意見いただきたいと思います。よろしく お願いいたします。 パネリスト(以後、岡野):いま川島様から安心感というお話がありましたが、いち復職した身として安心感が大前提と してあるとないとでは全然違います。その安心があるからこそ、一生懸命組織に貢献しようとか、前向きマインドの スイッチを押し続けることができますので、そういったボスがいることはありがたいです。私のボスも同じなので、そう いう気持ちを持ちながら毎日仕事が頑張れます。もう一つ、復職者として組織に貢献という意味では、成果を出す ことを心がけてやっています。 小早川:実際に岡野さんは復職後、非常に良い営業成績をあげており、ここでいう戦力になっている例だと思い ますが、自分を戦力として能力を発揮できる条件、環境など1つ2つ挙げるとしたら何かありますでしょうか。 岡野:条件は、時間ではなく成果できちんと会社から評価されること、これに尽きます。子どもの熱や、子どもがイヤ イヤ期に入ると家から保育園まで10分の距離が30分かかり、出社時間の9時に間に合わないことなど成長過程で 想 定 外の「あるある」が起こる。アポに間に合わないのは死ぬ気でなんとかするが、そうではない場 合で9 時に 第1章 パ ネル ディスカッション
行かなくても成果が挙げられるのであれば、時間通りに来ないからと上司がモヤモヤしたり部下(育休復帰者)が 申し訳ないと思うのではなく、成果を出していればマイナートラブルに柔軟になってくれたら有難い。今は直行直帰 なのでその辺の交 渉はなくストレスないが、内勤で強 制されるとそれが大きなストレスであり成 果を挙げられ なかったのではないかと思います。 パネリスト(以後、国保):私は専門が組織マネジメントの経営学者で、組織や人を研究している立場と、一人の働く 母親としての個人的な経験から話をさせていただきたいと思う。先ほど川島様がおっしゃっていた中で安心感の話が あったので、私はやりがいにフォーカスをあてて話をしたいのですが、私自身出産前は子どもをもった人というのは 子どもと過ごす時間が楽しくて、育児をするために仕事は最低限でいい、つまり仕事へのモチベーションは失うもの だと思っていた。ですが、実際出産してみての自分の変化や、マクロデータを調べた中で、出産を経て働いている 女性のモチベーションは非常に高いということがわかりました。ここが多くの人の誤解があるところで、復職者が うまく戦力になっていないのであれば、それはモチベーションが低いのではなく、モチベーションが高いにも関わらず それが発揮できない環境にあると捉えたほうが近いのではないかなと思います。ただモチベーションが高いので、 努力の方向が別の方向に向くこともある。会社や組織に貢献するモチベーションとして発揮されれば非常に戦力に なるのですが、一歩間違えると頑張っている自分を認めて欲しいという自己承認欲求にモチベーションが向いて しまうことがあり、おそらくそれが軋轢をうんでしまうのかなと思います。高いモチベーションを活かすために、正しい 方向にモチベーションを向けてあげることが大事な視点ではないかと思います。一方で、復職者だけでなくすべての 人材を視点にいれたときに、マネジメント側からするとモチベーションが低い人は打つ手がないというのが正直な ところですが、モチベーション高いけれどそれがうまく発揮できていない状態の人材は工夫次第でものすごく戦力に なるので、それをスルーしてしまうことは経営資源として極めてもったいないことだというのが私の意見です。 小早川:ありがとうございます。ご登壇者のみなさまは、育休復職者は戦力にすべき、というよりもそもそもなって いるし、もっと強力な戦力になりうるとお考えだと思います。それも工夫次第でさらにうまくすることができるし、 合理的な経営判断なのだと思います。 一 方で、まだ様々な企 業で育 休 復 職 者が戦力外 通 告を受けている事 例もありますが、先ほど岡 野さんに ポイントを教えていただきましたが、他のみなさまにも次の質問としてお伺いしたいと思います。 育休復職者が能力を発揮するために必要な条件、しくみについて、できれば具体的な例をあげて共有いただけ たら幸いです。まずは川島様、服部様に御社の有効な仕組みについてぜひ教えていただきたいと思います。 川島:私の経験値でいうと、男性管理職の意識改革に尽きると思います。意識改革により求める結果はいくつかあり ますが、長時間労働当たり前、男が主戦力という思い込み、女性や育休復帰者は劣るという意識改革。その中で 一番の意識改革はマネジメントの仕方だと思うのです。例えば会議のための会議やっていませんか、社内資料の ための資料作りをやらせていませんか。あるいは、管理職だったら、あなたが意思決定しないと部下は前に進めない、 前に進めないと時間を浪費させているのですよ、あなたはやるべきことをやっていますか。管理職としての生産性を 高めるためにやらなきゃいけないことは腐るほどあるんですよね。それをやるって決めない限りはいつまでも机上の 空論、言葉だけの女性活躍になってしまいますよね。やはり男性管理職のいつでもどこでも働けるという自分の 感覚で組織を経営していること自体の意識改革が最大に必要なこと。それさえできれば仕組みなんていらないわけ です、いかようにもなる。仕組みは企業により置かれた環境で違うのでね。 小 早川:ありがとうございます。先ほど、やると決めたらできるのですというお話でしたが、どなたが決めるので しょう。 川島:やはり経営トップですよね。経営トップがうちの会社はこっちでいく、女性も男性も当たり前のように活躍 第1章 パ ネル ディスカッション 0 7
できる、これから介護をする社員、地域にコミットする社員、勉強をやりたい社員、それぞれ時間制約がある社員しか いない前提で勝てるチーム作りをするのが経営ですから、経営者として長時間労働脱却や誰でも活躍できる組織 づくりをやると決めて、それを一番の粘土層である中間管理職にやるための研修をしたり労働時間を減らす具体的 な仕組みを取り入れていったり、そのような形だと思います。 服部:当社の取り組みとして、まず制度ですが昨年から時間単位有給ができました。保育園に送り届けて会社に やっと着いたところで保 育 園から電 話がきて、子どもが熱出したからととんぼ 返りになる事 象はよくあること。 子どもの熱が下がったら、また保 育 園に預けられるので、そのときに時 間 有 給があると1日休まなくてもよく、 のびのびと制度を利用しやすくなりました。正確なデータはまだ取っていませんが、男女問わず100名以上が取得 しました。もう一つ、時短制度もあり、小学校3年生まで1日2時間までとれます。 私自身が復帰した時、男女雇用機会均等法はありましたが、自分の上司でない遠い上司が、戻ってきた日(復帰日)に 「おかえり」と電 話をくれました。これは 殺し文 句で、非 常にバネになりました。復 帰するとたいていの人は、 「大丈夫?リハビリはどれくらいかかる?」と気を遣ってくれたが、おかえりと言ってくれた上司とはそれからいろんな 取り組みに協業させてもらいました。今思うには、女性社員、男女問わずいえるが、社員に対する3K(期待する、 鍛える、機会を与える)が必要だと思います。機会を与えないと人間は学習できないので、どんな修羅場でもちょっと 行こうよと機会を作ってあげることが重要になってくると思います。結論は、マネジメント層が人をどう育てるかと いうところで、愛をもって接していただきたいと思います。 小早川:ありがとうございます。私にも大変役立ちました。今、トップの意識の重要さ、フレキシブルな制度、歓迎する 気持ちと具体的な内容がでてきましたが、岡野さんは育休復職者、経験者としてどのようにお考えになりますでしょうか。 岡野:いまおっしゃっていたことも重要なポイントですが、やはり復職者が必要なことは、できるという意識の小さな 成功の積み重ねだと思っています。特に第一子復職のときは、今までバリバリと一生懸命時間をかけていたことが、 自分のこともままならず親一年生とかでいろいろ大変な中で本当にできるのかなとスタートするのですが、いざ 復 職すると、終わりの時 間が決まっているので産む前よりも時 間の効 率 的な使い方がびっくりするくらいよく できるようになっている。3か月ぐらい試 行 錯 誤 期 間はありましたが。あとは、子 育ての人 生 経 験により、見える 世界が違ってくるので、そこで得られる経験値により仕事のスキルが上がっていったことを実感する、成功体験 を感じることが一番大事だと思っている。だからこそ、周りから安心感を与えられたり、時間よりも成果を評価する など、お互いがゴールを握れるようなコミュニケーションをしていけたらと思います。 小早川:ありがとうございます。白河様、国保にも伺いたいのですが、企業だけでなく、夫婦関係や企業の外で女性が 活躍できる場もあると思いますが、その点についていかがでしょうか。 白河:夫婦ではもちろん女性が外で働いてお金稼いでくるなら、当然男性が家庭参画も増えていかないといけない ですね。ところが男性の育休取得者は非常に低い数値のままですし、政府の目標も18%と少ない。なかなかそれが 進まないのは、長時間労働が問題だと思います。政府のほうで働き方改革として、首相自ら総労働量時間を抑制 してでも長時間労働を是正しなければいけないと春に立ち上げる日本総活躍プランの1点目にしたいと力強い発言が あったのです。日本は経済界からの反発があり労働時間に規制をいれるのは難しいとされていましたが、今はトップ ダウンの強い政府なので何らかの動きがあると思っています。女性活躍に関し、ぶらさがり、マタハラ、逆マタハラ などの言葉があるのは、労働時間を無制限前提で働いているからであり、そうすると育休復職者はどんな成果を 出そうとも制約人材という有難くない言葉がついてしまう。制約という言葉すらおかしいと思うが、制約人材が15%を 超えると今の働き方のままだと企業はもたない、各企業悲鳴をあげています。女性だけを対象にするのではだめで、 男女共に働き方を変えていかなければならないということで、労働時間のコントロールをする企業がでてきています。 第1章 パ ネル ディスカッション
その中で一番成功しているのが大和証券だと思っています。最初は女性のためでなく、社長が若いときに嫌だった 無駄だったと思ったことを辞めて19時に帰るようにし、成果で測るようにした。そうすると今まで活躍できなかった 女性が定着し、活躍するようになり、新規開拓の力になり利益もあがった。しかも男性が家庭に入るようになり、 空いている時間を使って勉強するようになり、45歳以上社員に資格取得などを奨励したらさらに勉強するようになり CFP取得者が増えるなどよい循環ができた。労働時間の自由度が女性だけでなく、男性、子育てが終わった人材 にも、介護がある人材にもよい影響があると思います。 国保:いまみなさまが会社や管理職側に求める変化について話をしてくださったので、私は制約人材側に必要な 変化を話したいと思います。まず前提として、会社は福祉機関ではないので、雇用を守ることが義務ではなく、組織に 貢献してくれるからあなたの雇用を守るという立場です。その観点からいうと、限られた時間の中でいかに会社に 貢献できるかという視点をもって業務にあたるべきで、あなたのために職場をつくるのではなく、成果を出す人の ために職 場を整えるものだと思います。自分がやりたいこと以上に、組織としてやって欲しいこと、やるべきことを 実現していく必要があります。ですから制約人材こそ、上司の目線をもって業務にあたることが大事だと思いますが、 なぜこれができないかというと、昇進を視野に入れずに働いていると上司が何を求めているかを考えなかったり、 上司の視点を学ぶ機会を逃したりするのです。学習機会を逃し続けた結果、上司の視点で考えずにただ目の前の 業務にあたってしまう現象が見受けられます。だからこそ上司の視点を学ぶ機会を自ら作っていく必要があると 思いますし、社内にそういう機会がなければ社外のロールモデルなどを得ていくべきだと思います。 小早川:白河様のお話で、初めは女性のために変更した制度が女性に限らず男性にも非常に良い点があったという お話がありました。この件に関して、もう少しお話を伺いたいと思います。最後の質問になりますが、皆様にお伺い します。女 性が様々なライフイベントを超えながら組 織で活 躍すること、それはイコール男性も活 躍することに なると思いますが、具体的にポジティブな社会的効果があったら教えてください。 川島:女性が働くポジティブ効果については女性からお話していただいた方がいいと思いますので、私はこれが進む ことによって男性が家庭や地域で活躍する機会が増える、というか増えざるを得ないという観点において申し上げ ます。私はずっとPTAをやってきましたが、PTAは女性社会なので、そこで男性が活躍することは学校や地域にとっても 大変いいことだらけです。女性が職場で活躍する、マイノリティである女性がメジャーな男性の中で活躍することの まったく逆のパターンで、物事が全く決まらなかった旧態依然としていたPTAが活性化し、新しいことをどんどんやる ことができるようになりました。家庭も同じです。女性による母性だけで育てられた子どもの中に、父性がどんと入って くることによって、子どもの教育にも良い影響があります。そして、男性自身にとっても良いことがあります。職場だけで 朝から晩まで働いて、夜も一緒、週末も一緒な同じカルチャーの中で働くのではなく、自分の中でダイバーシティが できます。仕事という自分のマジョリティの中にPTA、家庭、地域というマイノリティが入ってくるので、非常に自分の 中で視野が広くなり、柔軟性も身につきます。だからまとめますと、女性が活躍することで男性も家庭や地域で活躍 せざるを得なくなり、結果的に学校、地域、家庭や子どもにとっても、そして男性自身にとってもいいことだらけだという ことです。ですから、世のお父さんたち、是非家庭や地域で活躍してください。絶対得ですよということが言いたいです。 白河:育休復帰者は活躍する、それもこんなにやる気のある人材であるということを示すことは、ものすごく日本の 働き方に大きな影響を与えると思います。今、いろいろなことが変わろうとしていますが、ゲームの参加者が変わって きたのです。24時間働けるいつでも転勤OKな人材だけではなく、様々な人材がやってきます。参加者が変わると ゲームのルールも変わってきます。チェンジメーカーとして、エンジンとなっているのがやる気のある育休復帰者の 人たちで、私は育休プチMBA勉強会を初めに発見してメディアに紹介したと勝手に思って密かに喜んでいるの ですが、見学をした際に子どもを抱えてこんなに熱心に学んで会社に貢献しようと思っている人たちがいることに 衝撃を覚えました。その方たちを応援することが、生産性が悪く長時間労働に陥っている日本の働き方を、時間内に 第1章 パ ネル ディスカッション 0 9
成果を出す新しい働き方に導く、大きなエンジンになると思っています。また、女子大生の観点からいうと、どこか あきらめているところがあります。「こういう仕事がしたい、頑張りたい」とやる気がある子ほど「この会社すごく残業が あるのです。働き方が厳しいのです。だから30歳までかな」って平気な顔で言うのです。30歳までしか働けない、その 先はやめるしかないと思っています。やる気がある子、やりたいことがある子ほど、やめるしかないと思っています。 それでは人材がもったいない、変えていかなくてはならないと思います。是非、育休復帰者の方は社会を変える エンジンになっていただきたいと思っています。 服部:私は育休復帰者であると同時に、結婚した翌年から自分の両親の介護もスタートしていました。初めに母が 重篤な状態になり、5年前には父も倒れ、重篤でほとんど植物人間のような状態になりまして、同時に2人が介護状態 になってしまったという経験をしております。最終的に父は病院での介護という選択肢しかなくなり、私は毎週病院へ 行きました。小さい頃から私の子どもたちは介護というものを見て、大人というものはある年齢になると病院に行く ものだという認識を持つようになりました。ずっと仕事をしながら病院にいく私を見ており、時には病院まで一緒に 連れていきました。結果どうだったかというと、生と死を見つめて生の場面をずっと子どもたちは見てきたなと思いました。 立つこともできない母に小学校から帰ってきた子どもが靴下をはかせ直したり、お茶のみ友達になったり、そういった 中で老いていくことの修羅場ではないですが、状態を見ていく、つらいですが人間生と死があるということを体験的に 見せられたかなという思いがあります。それは決してマイナスの効果ではなくなにかしらの学びがあったと思います。 例えば感度、お友達の意見を感じる自分や、学校の行事に参加する際の気持ちなど、非常に貢献しようとかその人 との距離感をどのように取ろうとか常に自然体で考えているというところに寄与していると私は思っています。決して お母さんだけが育てるのではなく、お母さんの背中を見ることで、地域社会にたいしてどのように接しているのかを 自然な形で見せられたかなと思います。やはり瞬間的な働き方ではなく、未来の成長していく人たちへの目線も、 我々育児休暇を取ったものそして大人たちは必要だという思いがあります。ここで1つ悔しい話をさせてください。私は PTAも頑張ってやってきまして、広報とかもいろいろやってきましたが、あるときから逆転してしまっていまして、何が 逆転したかというと、地元で歩いていると、私に挨拶してくれる子どもや大人が夫の方に挨拶するようになってきて しまいました。地域社会人ということで、私の夫も地元でいろいろな活動をしていた中で、近所を歩くと子どもたちが 集まってくるようになり、非常にうらやましいシーンを見ております。これは女性だけの特権ではなくて、男性にもこの ようなコミュニティがあっていいのではないかと感じました。地域社会人としていろいろなコミュニティに参加 する機会もありますし、私の知らないところでいろいろな所に出没しているなと非常に感じております。いい例ですと 去年、音楽活動をしていたので、湘南ライブというものに私達夫婦が招待されました。そのライブで、夫が奏でる ギターと歌を聞いたというシーンがございました。そういう多様性というか、人間の幅があるということは、いろいろな 人と接することができたからだと結果的には思います。24年間の介護をなんとかやりきれたかなということも一つの 達成感を持っております。育休の方、また育休だけでなくご両親のことなど、いろいろな問題が出てくることもあると 思いますが、ネガティブにとらえるのではなくて、それも1つの人生、たった1度の人生ということで、積極的に受け 入れていっていただきたいなと思っております。 岡野:育休復帰者の今の当事者の立場として、また育休プチMBAを国保さんと立ち上げた者として、そしていち個人 としてですが、育休復帰者の活躍がもたらすポジティブな社会的効果は何かを一言でいうと、やはり働き続けられる 質の高い戦力が増えるという純粋な話だと思います。私個人の話をしますと、子どもを出産する前は普通の営業 プレイヤーで、営業なのでいいときも悪いときもありますが、まあそんなに悪くもないという本当に普通のプレイヤー でした。そして、1人目を出産し復職をして営業に戻ると、時間の使い方などいろいろな人生経験を経て、非常に営業 成績が上がって、過去最高のボーナスを、子どもを産んでからの方がもらえるようになりました。そして、2人目も出産 して復職したら、目標未達成のエリアを担当したのですが、営業の成績が1人目よりも早いペースで、1人目のときは 9ヶ月かかったところを3ヶ月で達成ベースまで持っていけました。いち営業マンとして、営業成績ということで組織 への貢献度がすごく高まっているので、普通の人も育休復帰者が働き続けることが当たり前になれば、戦力として 第1章 パ ネル ディスカッション
会社も助かると思いますし、私レベルでさえそうなので、例えば元々優秀な方がやめないでずっと続けることが当たり 前の社会になったら、もっともっと会社にとっていい戦力になるのではないかと思います。後は、育休プチMBAを経て 2人目の復職をしたので、先ほど国保さんがおっしゃったように男性の管理職や男性が当たり前のように持っている 上の目線というものを持たずに、いち担当者として自分の仕事をいかに全うするか、そこだけで一生懸命頑張って いたときと、管理職目線、経営者目線をケーススタディで学ぶ育休を経てからを比較すると、1つ上の上司レイヤーの 目線が非常に高まっていて、営業なのでいい意味で仕事を振ってもらえますし、チャレンジの幅が増えてきている ので、上のレイヤーから評価される働き方や発言ができるようになってくると、仕事で評価され、いちビジネスパーソン としても仕事の楽しさが高まってきます。同時に後輩の女性たちからも、別に私は夫の実家が近いですけど義理の お母さんに送り迎えを毎日頼んでいるとか、そういうことはしていませんし、普通に8時半くらいに送って6時くらいに 迎えにいくといった普通の保育園ライフでそれだけの成果を出し、子育ても十分楽しみ、仕事でも成果をあげて 楽しくやっていることはポジティブに映ってくれているみたいなので、それが当たり前になればいいなと思います。私が 20代の頃は、育児と家庭を両立している人は、実家のご両親に毎日送り迎えをしてもらっているとか、元々すごい 仕事ができるとか、資格があるとか、そういったスーパーハイパースペックを持った人たちだけの特権なのかなと思って いました。私のスペックとしては、本当に普通ですし、文系大学で資格もなく、男性だったら「34歳、子ども2人、 営業」っていっぱいいると思いますが、それがスペックとして女性ということになると、やっぱりまだまだ少ないです。 男性が当たり前のように働いている中で、女性もそんな風にできますし、後は、学びをプラスするともっともっと貢献も できるので、是非期待していただきたいなと思います。 国保:ポジティブな社会的効果といいつつ、少し経営合理性の話になりますが、私個人としては、出産前は本当に 毎日10時くらいまで平気で仕事して、土日も仕事をしてそれがまったく苦労でもなんでもない、むしろ楽しいという ような生活を送っていました。ですが、子どもを産んだ後は、強制的にお迎えにいかなくては行けないし、土日も子ども がいるので仕事ができなくて、仕事ができないので、割り切って遊ぶようになりました。そうすると何がおこったかと いうと、仕事ではきっと出会わなかったであろう人たちとのつながりが飛躍的に増えていって、子どもを持ったことで ネットワークの質と厚みもだいぶ変わってきました。それはそれで豊かな社会生活だなあと思っていたのですが、これが 仕事の助けになることが増えてきて、まさにイトーキさんとのご縁もそうなのですが、仕事で困っていたときに子どもの つながりで出会った人が助けてくれることがすごく増えてきています。それをみると、本来仕事だけをしていてはつな がらなかったところにつながりやコネクションが生まれてきていて、それも合理的にはつながらなかったであろうと 場所につながりが生まれているというのは、ネットワーク理論でいうイノベーションにつながります。そういう意味 では、私個人では仕事がやりやすくなっているというレベルなのですが、これがもう少し広がることでイノベーションが 生まれやすい社会が出来上がってくるだろうということは経営学者として感じるところであります。 小早川:皆様、ありがとうございます。育休復帰者の活躍は、周りにいる同僚、お子さん、社会全体にポジティブな 影響を与え、社会的な効果をもたらすものであるとこのディスカッションを通じて感じました。ありがとうござい ました。ここで会場の方から質問を受け付けたいと思います。 質問者:本日はありがとうございました。職種はいろいろあると思いますが、制約人材が働きやすい9時から6時で 終わるような仕事と、一方でお客様がいるような場面で、自分で時間管理ができず相手にあわせて過ごさなければなら ない場合、例えばどうしても6時に帰らないと行けないのでその分の埋め合わせを同僚にしてもらわないといけないと いう場面も出てくるのかなと思います。営業職というお話で、それで成果をあげられていることにすごいなと思ったの ですが、なかなかそういう方って少ないというか、相手側が長時間残業を当たり前のようにしている会社だと、なかなか こちら側の都合だけでは変えられないのかなと思います。この件に関して、何かコメントがあれば是非お願いします。 岡野:ご質問ありがとうございます。私は医療用の栄養補助食品の販売をしているので、お客様が病院や介護施 第1章 パ ネル ディスカッション 1 1
設なので当然医療施設は24時間やっている長時間労働の職場です。お客様の都合にあわせると早朝や夜遅い時間 ということもあります。ただアポイントベースで仕事をしていると、その日が遅いということが事前に分かっていたりする ので、ベビーシッターさんとか延長スポット保育の申込とか、いろいろな手が打てます。毎日相手が遅いからといって 自分も遅くなるというような営業ではありません。ただ相手が百貨店などシフト制の職場ということもあると思い ますが、ポイントは毎日ではないというところです。週に1、2回だったら手は打てるよねとか、子どもには負担がかから ないよねというところでスケジュールを立てて、成果を出せるようにやっています。 服部:私は一時期出向していたことがありまして、そのときは月末月初に提供しなければ行けないサービスの業務 でした。これが非常に時間を要するものなのですが、どうくぐり抜けたかというと、オーダーをくれたユーザー様の所に 乗り込んで、なんとか改革したいということで仕組みを変えました。共同で、20分の1くらいの効率を求めた生産性の 上がるシステムを一緒に作ってしまって、月末月初に集中しないサービスを作り上げました。もう1つ、私がいろいろな ところでお話ししているのは、お客様にも理解していただくことが必要だなということです。うちの会社は何時から 何時までで、その後の仕事はもし本当に必要だったら言ってくださいと、翌日でもいいでしょうかと1つ1つ先方に 聞いて回っている上司のいる企業もいて、結果的にそれがどんどん浸透して、この会社はこういうワークスタイル なのだということを理解して臨んでいるという1例も聞いております。我々もそれを目指していきたいと思っております。 これは非常に時間のかかることで、「はい、やってね」とはいかないと思いますが、双方での努力が必要かと思います。 努力と理解ですね。 川島:僕は男性で30代のときにイクメンをやっていたのですが、総合商社の中でやってきたのですが、その時はもう やらないって決めました。その中で取れるお客さんへの商売だけに徹する。そうなると、もう残ったお客さんの中で なんとかしたいという気迫がわくので、意外にそこに集中できるからいい商売が取れます。だから、自分の中で夜は やらない、接待してまで仕事を取るような仕事の仕方はしない、それらをしなくてもできるのが営業の仕事なので、 仕事の仕方を自分で工夫して考えるということです。意外にそうすると人間は頑張るので、どうしたら夜接待しな くても、深 夜おつきあいしなくても営 業で取れるのだろうと工 夫するようになります。これが自分のワーキング ファーザー時代です。今は自分で経営をやっていますから、逆に部下たちには同じことを言っています。君が時間を コントロールしろ、どうしたいかも君が考えなさいと、深夜残業、深夜接待してでも仕事を取るのが君のスタイルなら それはそれでいいよ。でも、早く帰りたいけど仕事も頑張りたいなら、君が工夫しなさい、と。そして工夫すれば何か できるので、やっぱりそこはお客さんがとか、経済がとか、私がもし部下がそういってきたら、それは甘えだよって いっています。それを人のせいにしちゃだめだよ。自分で工夫するのだよって言うのがポイントかと思います。 小早川:ありがとうございます。何事も主体性を持って自分で工夫するということですね。他の質問もお受けしたい のですが、お時間の関係で、これで終了させていただきます。ご登壇者の皆様、ありがとうございました。 終 第1章 パ ネル ディスカッション
第2章
第2章 育 休 プチ M B A 勉 強 会 の 紹 介
育休プチMBA勉強会の教育プログラムの概要について説明する。[ 開発者の紹介とプログラム開発の背景 ]
開発者、国保は大学を出て会社勤めをした後、慶應義塾大学ビジネス・スクール(KBS)でMBAとPh.D.を取得して いる。ビジネス・スクール時 代から、ケースメソッドを使った実 務 家 教 育を数 多く手がけ、主に管 理 職 、若 手 リーダー層、そして経営者を対象とした経営教育に携わってきた。こうした管理者教育、経営者教育は、参加者の 9∼10割が男性であり女性は非常に少ない。2014年に自らの出産を機に多くの女性と知り合い、特に岡野美佳と 出会ったことで、主に男性向けだった経営教育のプログラムをベースとして、女性に分かりやすいよう、女性向けの 経営能力開発のプログラムを開発し、育休プチMBA勉強会をはじめるにいたった。背景には人材育成の現場で 感じていた、以下の問題意識がある。 1つ目は「女性の教育機会、特に経営教育機会の欠如」という問題である。リーダー向け研修、管理職研修の対象は 主に男性である。実際に人事担当者に伺うと、女性には声をかけても断られる、あるいは候補がいないという声 をよく聞く。女性がそういった能力開発の機会から漏れてしまっていることに対し、何とかしたいという思いがあった。 2つ目は「人材育成上の課題」である。国保が専門にしている経営能力開発は、マーケティングや財務といった経営 知識の他に、経営者目線での意思決定や経営参画意識という、思考の変化を目的とする教育がある。こうした 思考の変化をさせる教育は、一回だけの研修で何とかなるというものではなく、定期的に何回か集合研修を施して ようやく完了するというくらい時間のかかるものである。経営者向けの思考トレーニングを専門的にするビジネス・ スクールは最低1年か2年かかる。しかし一般的な企業の人材育成では、必要性は認識されつつも、こうした時間の かかる教育は敬遠されており、現場から引き離して研修を受けさせることはできないという声を多く聞いていた。 3つ目は「育休復職者の課題」である。育休者と話をすると、権利主張型のコミュニケーションをよく耳にする。しかし よく聞いてみると、実はそのコミュニケーション方法しか知らない、つまり会社目線でのコミュニケーションがどういう ものであるかを全く学んだ機会がなく、そうしたコミュニケーションスタイルになってしまっていることが分かる。 これら3つの問題意識を基に、現場から離れざるを得ない育休を利用して、まずは女性の教育機会とコンテンツを 作り、人材育成上時間のかかる育成課題に取り組んでいき、そして復職者の会社目線の欠如という問題を何とか しようとプログラムを開発している。なお、興味深いのは、この育休プチMBA勉強会の参加者の内訳をみると、子どもを あずけて自分でビジネス・スクールへ行く層とは異なる、バリキャリより手前の層が多い印象を受けることである。[ プログラムの3つのポイント ]
育休プチMBA勉強会で採用している3つのポイントについて説明をする。 1)ケースメソッド教育 1つ目は「ケースメソッド教育」である。ケース メソッド教育は、経営学のような実務家を 育成するための教育手法として中心に使わ れる教育手法である。講師が何かを教える というスタイルではなく、参加者が互いに 学ぶ、学びのコミュニティでディスカッション することで思考力を鍛えるということを目的 にした教育手法である。第2章 育 休 プチ M B A 勉 強 会 の 紹 介 経営能力というのは、1つは「理論知識」、マーケティングや財務といった経営に関する知識、フレームワークと、もう 1つはそうした知識を現場で使うための「実践力」の2つの力の総合力と捉えられている。知識を持っており、その 知識を現場で使える実践力が伴ってはじめて、経営能力というものは伸びる。本を読むなどの独学で習得するこ とができる理論知識に対し、実践力は、現場で経験をふむ、あるいは、その経験に準じた疑似経験でしか培うこと ができない。実 践力を鍛える方 法としてこのケースメソッドによる疑似経験を通じた教育というのが有効であると 考えられている。 2)制約人材向け学習内容 2つ目は「制約人材向け学習内容」である。学習が必要なものとして、マネジャー思考、リーダーシップの構造軸、 そして両立上の「壁」のプレビューの3つを定義している。1つ目のマネジャー思考は、マネージメント層の視点に 立った意思決定ができるということである。これができると制約人材は、上司が考えていることが分かるため、それに 応える行動を取ることができ、上司との関係がよくなる。2つ目はリーダーシップである。リーダーシップの中には仕事 の仕組みを作る構造軸と、人間関係を構築するための配慮軸という2つの軸があるが、自分の不在時に業務を滞らせ ないようにするためには構造軸を鍛える必要がある。3つ目は両立上の「壁」のプレビューである。復職すると経験する いろんな「壁」をあらかじめプレビューしておくことで、実際にその場にたったときに冷静に対処することができる。 勉強会ではこれら3つを身につけることを目指しており、具体的には9つの挑戦課題に示される能力を鍛えていく。
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ৈऩन॑੦पব৳ਸൿఊਫقك①マネジャー思考
他者を使ってものごとを成し遂げる(中原,2014)
マネジャーに求められる思考。
②リーダーシップの構造軸
組織の目的を達成するために発揮する影響力。
しくみや人間関係を構築する力で、
特にしくみ構築は制約人材に必須。
③両立上の「壁」のプレビュー
復職後に直面する苦境をプレビューし
対策を考えることによるワクチン効果。
1 5第2章 育 休 プチ M B A 勉 強 会 の 紹 介 3)経験学習サイクル 3つ目は「経験学習サイクル」である。勉強会ではケースメソッドでのディスカッションを通じて、具体的な疑似経験を する。またディスカッションが終わった後、内省の時間を設け、そこでの気づきや学びを振り返り、それを自分の 言葉で概念化する。このサイクルによって成長、学習していくために、勉強会ではディスカッションして内省して 言語化することを繰り返す。 ケースでの疑似経験のサンプルとして、ある営業課に育休から復職して残業せずに働いているメンバーAさんの ケースがある。Aさんのお客様が定時後にクレームにきたため、対応した他の社員からの不満が溜まっているが、 課長の立場でこの問題をどうするか、つまりマネージメントの目線でこの問題をどう捉えて解決するかということを 考え、その上でAさんつまり制約人材の当事者としてどうすべきかを考える。課長としてどうすべきかを考えた後で、 その視点をベースに制約人材としてのふるまい方を考えることで、局所最適ではなく、組織の全体最適を意識した 行動や思考が身につくと考える。 پਛୖभعमরਉेॉؚमব৳ پৰᄷੴम:DJQHUDQG6WHUQEHUJ:DJQHUပৄಉ पेॊଵ৶भৰᄷੴभତ৶
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Copyright@2016 workshift institute
能動的実験
経験を通して構築された 理論を実践する具体的経験
現有能力を超えてこなす 挑戦的で新規の(業務)経験抽象的概念化
経験を概念化・抽象化し、他の 状況でも応用可能な理論や 知識を作り出す内省的観察
いったん実践を離れて、自らの 行為・経験・出来事の意味を 俯瞰的・多面的観点で意味づける Kolb(1984),中原(2012)等第2章 育 休 プチ M B A 勉 強 会 の 紹 介
[ 育休を能力開発期間にする勉強会 ]
勉強会では、赤ちゃんを抱っこしながら、授乳、おむつ替え等、子どものケアをできる状態でディスカッションする。 また勉強会は、運営もすべてボランティアの育休者で構成されており、ファシリテーターも育休者が国保からの トレーニングを受けた状態で登壇している。学習機会を作る側の経験も、学習の機会になっているのである。 こうした育児と両立できる学習機会の創造によって、「育児休業」が再定義されようとしている。勉強会という出産と 能力開発を同時にできる機会があることで、キャリアを中断せずにすむ。また育休は育児をする期間ではあるが、 育児に専念する時間というよりは、今後何十年と続く「育児体制に移行するための期間」と捉えるべきで、そのために 必要な能力開発に時間を使うというのは筋が通っていると考える。 *本勉強会では、スリーエム ジャパン株式会社 ダイバーシティ&キャリア推進部から寄贈された 「ポスト・イットⓇ 強粘着ノート」を使用しています。 1 7第3章
国保から「制約人材活用への提言」について述べる。 提言は3段階になっており、まず制約人材の活用の必要性、そして現状、制約人材を活用するための職場環境に ついて説明する。
[ 制約人材の活用の必要性 ]
まず、企業にとって制約人材を活用するべき、3つの合理的な理由がある。 1つ目は、「人材不足社会の到来に向けて、いい人材を多く確保するため」である。いわゆる労 働力に該当する生 産 年齢人口の予測値と実績値を見ると、2060年に労働力が2分の1になることがわかっている。このように、今やって いる業務を半分の人材で、まわさなくてはいけなくなる時代が迫ってくることに対して、良質な人材を必要なだけ 確保しようと思ったら、制約の有無に関わらず、活用していく必要があるというのが、まず1つ目の理由である。 2つ目は、「顧客ニーズを満たすイノベーションのためには組織の多様性が重要」である。イノベーションのためには、 社会の多様性と同レベルの多様性を組織の中に持つことが大事だという最小有効多様性の原理という考え方が ある。よって、社会で女性が半分であれば、同じように組織の中に女性を半分持つということがイノベーションに 繋がるのである。 3つ目は、「成果だけでなく、部下の満足度を同時にもたらすことができるリーダーは男性よりも女性に多い」という ことが、女性のリーダーシップ研究の中で分かっている。成果だけでなくて、部下の満足度や成長を促すことの できるリーダーを育てたければ、女性を候補に入れることは合理的である。[ 制約人材の活躍の現状 ]
次に制約人材の活躍の現状について説明する。制約人材に代表される女性の活躍指標の1つが管理職に占める 女性の割合である。この管理職に占める女性の比率を示したものが次ページの棒グラフ、一番右が日本である。 この棒グラフのうち、右が就 業 者における女 性の比率 、左が管 理 職に占める女 性の比率である。このグラフを 見ると分かるとおり、就業者に占める女性の割合は決して低くないが、管理職になるとこれが一気に下がるという のが現状である。第3章 育 休 プチ M B A を 通して、国 保 の 提 言
قবয়ভ৳؞যઠਖଢ଼ਚَমभలਟੑযઠُ+ੑेॉਬ৷ك পभ؞ସऩ؞শৎ ௮ऎௌ௮ৡदचॊৎ ऩऎ؞ऩ؞ಢ ৎ௮ऎௌ௮ৡद औकॊ॑੭ऩः 1 9組織の中に女性がいない訳ではないにも関わらず、なぜ管理職がいないのかの最大の理由は、出産のようなライフ イベントで、管 理 職になる前に辞めてしまうという問 題である。育 休 制 度が整った現 在でも、出産を機に6 割の 女性が離職すると言われている。これはM字カーブという社会問題として認知されている。 このように離 職してしまうことで管 理 職になるに至らないのが日本の現 状であるが、一 方で女 性の意 識 、特に 出産 後の女 性の就 業 意 欲については、次の厚 生 労 働 省のデータを見てほしい。左 側は出産 後の女 性 、右側は 出産前の女性であるが、出産後の就労意欲が高い割合が、出産前の就労意欲より極めて高いことが分かる。もう 1つ、ワンモアベイビー 応 援 団が出している、現 在ワーキングマザーとして働きながら子 育てをしている人の グラフでは、制度と企業風土さえ整っていれば、管理職を目指すと思うと語った女性が8割いた。これらのデータ 及び勉強参加者へのヒアリングにより出産後の女性は非常に意欲が高いと言える。 第3章 育 休 プチ M B A を 通して、 国 保 の 提 言
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قથ؞થଦ၉؞ਫ৩दলਓभਔઓऋँॊعୃك লਚ؟ௐেௌ௮প෦ඬଁੑੲਾَਸ਼ڭ ਼ਛফອ৹ਪभயُك লਚ؟ௐেௌ௮প෦ඬଁੑੲਾَਸ਼ڭでは、どうして意欲が高いのにも関わらず活躍に至っていないのかについて、女性に足りないのは意欲ではなく自信 だと考えている。自信には2つあり、1つ目は「自分には行動する能力がある」という、効力予期と呼ばれる自分の 能力に対する自信であり、2つ目は「自分の取った行動が適切に評価される」という、結果予期と呼ばれる自信で ある。この2つの自信が揃ったときに人間は行動を起こすが、制約を抱えて仕事をしていると、「自分の子供が熱を 出したらどうしよう」、「責任を問われる仕事に手を挙げて穴をあけてしまったらどうしよう」という不安を常に抱えて いるので、冒頭のパネルにもあったように安心感を持たせたり、学習機会で自分が知識や情報を得たりすることで 能力に対する自信の向上につながる。もう1つは評価に対する自信であるが、子供を抱えていると残業ができない ため、残業をしない限り評価をしないという文化が会社の中にある限り、この自信は身につかず、最初から諦めてし まって行動しないことになる。 第3章 育 休 プチ M B A を 通して、 国 保 の 提 言
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2 1制約を抱えた人材を活用しようという場合、この2つの自信、能力に対する自信と評価に対する自信をいかに向上 していくかという点が大事なポイントになる。具体的には、能力に対する自信を高めるためには、制約と業務責任を 両 立するための制 度と教 育 、私はこれを両 立 支 援と呼んでいるが、たとえば病 児 対 応 時のルールであったり、 教育であったり、失敗を許容すること、つまり失敗を恐れて手を挙げないことよりも、組織のために積極的に立候補 する姿勢を評価するようなことが重要となる。2つ目の評価に対する自信については、業務責任に対する適切な サポートと評価、私はこれを活躍支援と呼んでいるが、長時間労働を前提としない評価体制などが必要となる。この 2つの両立支援と活躍支援を両立させることが、制約人材の活躍する職場づくりには大事である。