は じ め に 脳内出血に対する内視鏡下手術は低侵襲かつ安全な方法 として確立されつつある手術であり2)5),小脳出血に対し ても有効であると報告されている1)12).当院では 2006 年 1 月より脳内出血に対して積極的に内視鏡下手術を行ってい る.2008 年 5 月から小脳出血に対しても内視鏡手術を導 入し,2009 年 12 月までに 11 例経験した.内視鏡手術導 入前の手術成績(主に開頭術)と比較し,内視鏡手術の有用 性について検討した. 対象・方法 1998 年 1 月から 2009 年 12 月までに 27 例(開頭手術 15 例, 定位手術 1 例,内視鏡手術 11 例)の高血圧性小脳出血に対 し外科的手術を行った.外傷を合併した 1 例を除く,開頭 手術群(14 例)と内視鏡手術群(11 例)において,手術成績, 術後合併症,機能予後について検討した.予後については, 退院時または転院時の modifid Rankin Scale(mRS)およ 脳卒中の外科 39: 193 ~ 197,2011
原 著
小脳出血における内視鏡下血腫吸引除去術の有用性
横須賀公彦,平野 一宏,宮本 健志,戸井 宏行
松崎 和仁,松原 俊二,宇野 昌明
Endoscopic Hematoma Evacuation for Cerebellar Hemorrhage
Kimihiko Yokosuka, M.D., Kazuhiro Hirano, M.D., Takeshi MiYaMoto, M.D.,
Hiroyuki toi, M.D., Kazuhito Matsuzaki, M.D., Shunji Matsubara, M.D., and
Masaaki uno, M.D.
Department of Neurosurgery, Kawasaki Medical School, Kurashiki, Okayama, Japan
Summary: Endoscopic surgery for spontaneous cerebral hemorrhage is less invasive surgery. However, the management of spontaneous cerebral hemorrhage remains controversial. We compared the surgical results and outcomes at discharge of cerebellar hemorrhage patients who underwent craniotomy with those of patients who received endoscopic surgery.
Patients treated by endoscopic surgery (n=11) were compared with patients treated by conventional surgical hematoma evacuation (n=14). The endoscopic surgery took less time than the craniotomy (67.8 min vs. 207.1 min, p<0.01). The period of ventricular drainage was shorter in the endoscopic surgery group (1.8 days vs. 5.8 days). There was no significant difference in the hematoma evacuation rate between the craniotomy group and the endoscopic surgery group. There was no re-bleeding in the endoscopic surgery group, and no patients in this group required cerebrospinal fluid shunt surgery. Outcome at discharge was not significantly different between the craniotomy and endoscopic surgery groups.
We believe that endoscopic surgery is an effective, safe and less invasive technique for treating patients with cerebellar hemorrhage.
Key words:
・endoscopic hematoma evacuation
・cerebellar hemorrhage ・minimally invasive surgery
Surg Cereb Stroke (Jpn) 39: 193–197, 2011
川崎医科大学 脳神経外科(受稿日 2010. 9. 9)(脱稿日 2010. 12. 2)〔連絡先:〒701–0192 岡山県倉敷市松島 577 番地 川崎医科大学 脳 神経外科 横須賀公彦〕[Address correspondence: Kimihiko Yokosuka, M.D., Department of Neurosurgery, Kawasaki Medical School, 577 Matsushima, Kurashiki, Okayama 701–0192, Japan]
び Barthel Index(BI)で評価した. Surgical technique 1.内視鏡下手術 手術は全例全身麻酔下に行う.体位は仰臥位とし,患側 の肩および腰の下に枕を敷き挙上させ,頭部を十分に反対 側に回旋させる.この時,穿頭の時または内視鏡操作時に 患側の肩が邪魔になることがあるので,可能な限り肩を尾 側に下げるようにし,穿頭部位は mastoid と inion の中点 とした(Fig. 1).約 3 cm の皮膚切開を行い,直下にバー ホールを穿ち,ポートの自由度を上げるためバーホールは 円錐状とした.硬膜切開を行い,まずは試験穿刺を行い, 穿刺した tract をピオクタニンでマーキングし,ニューロ ポート(オリンパス社製)をクリアガイド下にピオクタニン を目印に挿入した.ポートの先端を血腫表面で止め,ポー トの内筒を抜き,硬性鏡(オリンパス社製,4 mm)と脱着 式イリゲーション吸引管(フジタ医科機器)を用いて血腫を 吸引除去する.出血血管がみられるときは,モノポーラを 用いて止血した.第 4 脳室に穿破した症例においては,第 四脳室内の血腫も十分除去する.oozing の部分には酸化 セルロース(サージセル®)を敷き止血した.術中,頻回に イリゲーションを行うことが内視鏡手術のポイントであ る.脳室内穿破が強い症例には脳室ドレナージチューブを 挿入するが,軽度な症例または第四脳室内の血腫が確実に 除去できた症例にはドレナージは挿入せず手術を終了し た. 2.後頭下開頭術 開頭手術群は 13 例が正中後頭下開頭,1 例は外側後頭 下小開頭で行った. 正中後頭下開頭術は,全身麻酔下に体位を腹臥位とし, コンコルドポジションにする.皮膚切開は外後頭隆起の一 横指上方から C6 までとし,開頭範囲は術後の脳腫脹も考 え,左右に大きなものとし,foramen magnum は開放し ない.硬膜は Y 字状に切開し,顕微鏡下にバイポーラと 吸引管を用いて血腫を除去,止血を行った.止血を十分確 認したあとで血腫腔内にドレナージチューブを挿入し,人 工硬膜で硬膜を形成して,骨は戻さず外減圧の状態で手術 を終了した. 外側後頭下開頭術は,全身麻酔下に頭部をピン固定し, 側臥位とする.手術は lateral approach に準じ行った.顕 微鏡下にバイポーラと吸引管を用いて血腫を除去,止血を 行った.止血を十分確認したあとで血腫腔にドレナージ チューブを挿入し,硬膜を形成し,骨は戻さずに手術を終 了した. 結 果 内視鏡手術群の内訳は,男性 7 例,女性 4 例,平均年齢 71.9 ± 11.7 歳であった. 術前の意識レベルは,JCS 200 が 1 例,100 が 1 例,20 が 2 例,10 が 6 例であった.平均血 腫長径は 4.2 ± 0.7 cm で,脳室内穿破および急性水頭症は ともに 81.8% に合併した(Table 1). 開頭手術群は,男性 8 例,女性 6 例,平均年齢 63.9± 11.1 歳であった. 術前の意識レベルは JCS 200 が 6 例, 100 が 3 例,30 が 1 例,20 が 2 例,10 が 2 例であった. 平均血腫長径は 4.5 ± 0.9 cm で,脳室内穿破を 85.7% に認 め,78.6% に急性水頭症が合併した(Table 1). 1.手術時間,血腫除去率,平均ドレナージ期間 平均手術時間は有意に内視鏡群が短かった(内視鏡群 67.8 ± 18.6 分,開頭術群 207.1 ± 133 分,P<0.01).血腫 除去率には有意差は認めなかった(内視鏡群 99.1±2.0%, 開頭術群 94.6 ± 13.4%,P=0.24).平均ドレナージ期間は内 視鏡群が優位に短かった(内視鏡群 5 例ではドレナージな し,内視鏡群 1.8 ± 1.1 日,開頭術群 5.8±4.5 日,P<0.01) (Table 1). 2.術後合併症 開頭手術群で髄液漏 1 例,肺炎 1 例の合併があり,1 例 は脳幹ダメージにより死亡した(Table 2).内視鏡手術群 に合併症はみられなかった. 3.平均入院期間 平均入院期間は内視鏡手術群で有意に短く(内視鏡手術 群 28.9 ± 11.4 日,開頭手術群 53.2 ± 26.8 日,P<0.05). Fig. 1 The burr hole point is placed at the middle point
of the inion-mastoid line. The skin incision was about 3-cm-long.
mastoid process
4.水頭症の合併 両群において慢性期に水頭症を合併した症例は認めな かった. 5.転帰 転院時または退院時の mRS は,内視鏡手術群で 3 が 1 例,4 が 10 例であり,開頭手術群では 1 が 2 例,2 が 2 例, 4 が 5 例,5 が 4 例であった.BI は両群に差はみられなかっ た(内視鏡手術群 40.4 ± 14.7 点,開頭手術群 32.7±41.2 点, P=0.54)(Table 3). 症 例 62 歳,男性.頭痛,悪心,フラツキで発症.意識障害 が出現し,近医に救急搬送された.頭部 CT で右小脳出血 および脳室内穿破がみられ,手術目的で当科に紹介搬送と なった.搬送時の意識レベルは JCS100,瞳孔不同なく, 対光反射は保たれていた.頭部 CT では,最大径 35 mm の右小脳出血がみられ,脳室内穿破と急性水頭症を呈して いた(Fig. 2A).手術は緊急で全身麻酔下に内視鏡下血腫 吸引除去術を施行した.体位は前述の通りにし,mastoid と inion の中点にバーホールが穿てるように約 3 cm の皮 膚切開を行い,直下にバーホールを穿ち,ポートの自由度 を上げるためバーホールは円錐状にリューエルを用い拡大 した.硬膜切開を行い,まずは試験穿刺を行い,穿刺した tract をピオクタニンでマーキングし,ニューロポートを クリアガイド下に挿入し血腫を吸引除去した.明らかな動 Table 2 Surgical results
Operation time Removal rate Mean period of drainage
Re-bleeding
rate CSF leakage Mortality rate Endoscopic
Group (11) 67.8± 18.6 min 99.1± 2.0% 1.8± 1.1 days 0% 0 0
Craniotomy
Group (14) 207.4± 133 min 94.6± 13.4% 5.8± 4.5 days 0% 7.1%
7.1% (1*/14)
p value p<0.01 (p<0.24)NS p<0.01 NS NS NS
*brain stem damage
Table 3 Outcomes Hospitalization CSF shunt mRS BI Endoscopic Group (11) 28.9± 11.4 days 0 3 ; 1 4 ; 10 40.4± 14.7 Craniotomy Group (14) 53.2± 26.8 days 0 1 ; 2 4 ; 5 2 ; 2 5 ; 4 32.7± 41.2 p value p<0.05 NS NS NS (p=0.54) Table 1 Patient characteristics
M/F Mean age JCS Maximum diameter Intraventricular rupture hydrocephalusAcute
Endoscopic Group (11) 7/4 71.9± 11.7 years 10 ; 6 20 ; 2 100 ; 1 200 ; 1 4.2± 0.7 cm 81.8% 81.8% Craniotomy Group (14) 8/6 63.9± 11.1 years 10 ; 2 20 ; 2 30 ; 1 100 ; 3 200 ; 6 4.5± 0.9 cm 85.7% 78.6%
脈性の出血血管はみられず,第 4 脳室内の血腫も十分除去 した.oozing の部分には酸化セルロースを敷き止血した. 脳室内穿破の量が多かったため,血腫腔内にドレナージ チューブを挿入した.術直後の頭部 CT では血腫は除去で きており,脳室内の血腫も減少している(Fig. 2B).術翌 日には意識状態が JCS 1 桁に改善した.また,血腫腔ド レーンは,頭蓋内圧は安定しており,排液量も少なかった ため術翌日には抜去した.術後 5 日目の頭部 CT では脳室 内の血腫はさらに減少し,水頭症も改善している(Fig. 2C).術後 1 カ月目の mRS は 4 であり,小脳症状は残存 しているが,車椅子への乗車は軽介助で行え,食事・身の 回りの事は自分で行えるようになった. 考 察 小脳出血に対する外科的治療の適応は,脳卒中治療ガイ ドライン 2009 では,最大径が 3 cm 以上の小脳出血で神 経学的症候が増悪している場合,または小脳出血が脳幹を 圧迫し脳室閉塞による水頭症をきたしている場合には,手 術を考慮してもよいとしている.手術方法としては,開頭 術,定位手術(穿頭術)が多く行われてきた.定位手術にお いては,低侵襲で行えるが,血腫除去率が低い傾向にあり, それに伴いドレナージ期間も長くなると考えられる4)8)13). 開頭術においては,小脳出血のほとんどは正中後頭下開頭 で行っており,これは術後の脳浮腫も考え外減圧を行うこ とも目的としていたためであり,手術時間が長くなること は明らかである.しかし,外側後頭下開頭を行った 1 症例 においては 62 分と短く,手術経験の豊富な医師が行うこ とにより手術時間は短縮できることも考えられる9)10).定 位手術と開頭手術の手術成績の比較では,予後には大きな 差がないとの報告がある11). 内視鏡手術は,血腫除去率は高く,手術時間も短い低侵 襲な手術であり,定位手術と開頭手術の長所を兼ね備えた 手術といえる.長期の機能予後についてはさらなる検討が 必要であるが,今回の検討では症例数は少ないものの,短 期の機能予後においては開頭術との差は認められなかっ た. 小脳出血における内視鏡手術の最大の利点は,止血と脳 室の観察を水の中で直視しながら行えることである.血腫 を除去したのち,イリゲーションを行い血腫腔と脳室を拡 張させ,その中で観察できるのは内視鏡だけの特性であ る.第四脳室内をイリゲーションすることにより,第三脳 室内の血腫も洗い流されることが多く,血腫による閉塞性 水頭症を解除できる.また,血腫除去により術後の脳浮腫 はほとんどみられず,脳浮腫による閉塞性の水頭症を起こ す症例が今回の検討ではみられなかったことから,術後の ドレナージは必要ない症例が多いと考えられる. 以上から,小脳出血に対する内視鏡手術の工夫点は,術 中の安全性のために全例全身麻酔下で行い,体位は仰臥位 とし,脳室内穿破がみられるものでは第四脳室内の血腫を 十分除去し,ドレナージチューブは挿入せず,早期の離床 を促すことである. 術後の合併症は,今までの開頭術では皮膚切開・開頭の 範囲が大きく,髄液漏,髄膜炎の合併がみられたが3)6)7), 小開頭術において合併症は少ないと報告されている9)10). Fig. 2 A: Preoperative CT scan shows a right
cerebel-lar hematoma and rupture in the fourth ventricle, third ventricle, and bilateral lateral ventricles. B: Postoperative CT scan shows no residual cer-ebellar hematoma and decreased hematoma vol-ume in all ventricles.
C: Postoperative CT scan 5 days later shows decreased hematoma volume in all ventricles and normal ventricle size.
A B C
今回の検討および他の報告からも,内視鏡手術において合 併症はほとんどなく1)12),安全で低侵襲な手術方法と考え られる. 結 語 小脳出血に対する内視鏡下手術は低侵襲であり,血腫除 去率も高く,術後の合併症が少ないと考えられた.短期の 機能予後は開頭術と同等であったが,今後,長期の機能予 後についてはさらなる検討が必要である. 文 献 1) 赤井文治,内山卓也,眞島 静,ほか:小脳出血,急性期 内視鏡下手術.脳神経外科ジャーナル 19: 37︲40, 2006 2) Auer LM, Deinsberger W, Niederkorn K, et al:
Endo-scopic surgery versus medical treatment for spontane-ous intracerebral hematoma: A randomized study. J
Neurosurg 70: 530︲535, 1989
3) Mezzadri JJ, Otero JM, Ottino CA: Management of 50 spontaneous cerebellar haemorrhages. Importance of obstructive hydrocephalus. Acta Neurochir (Wien) 122: 39︲44, 1993.
4) 村田高穂,下竹克美,宮川秀樹,ほか:高血圧性小脳出血 の外科治療 stereotactic aspiration surgery の有用性.日本 救急医学雑誌 10: 356︲361, 1999
5) 西原哲治,永田和哉,落合慈之:神経内視鏡による脳内血 腫吸引術の現況.脳神経 55: 499︲508, 2003
6) Norris JW, Eisen AA, Branch CL: Problems in cerebel-lar hemorrhage and infection. Neurology 19: 1043︲1050, 1969
7) Ott KH, Kase CS, Ojemann RG, et al: Cerebellar hemor-rhage: Diagnosis and treatment. A review of 56 cases.
Arch Neurol 31: 160︲167, 1974
8) 高梨吉裕,篠永正道:高齢者高血圧性小脳出血に対する穿 頭血腫吸引除去術の有効性.脳と神経 50: 751︲754, 1998 9) Tamaki T, Kitamura T, Node Y, et al: Paramedian
sub-occipital mini-craniectomy for evacuation of spontaneous cerebellar hemorrhage. Neurol Med Chir (Tokyo) 44: 578︲ 583, 2004
10) Tokimura H, Tajitsu K, Taniguchi A, et al: Efficacy and safety of key hole craniotomy for the evacuation of spontaneous cerebellar hemorrhage. Neurol Med Chir (Tokyo) 50: 367︲375, 2010
11) 宇野昌明,七条文雄,本藤秀樹,ほか:高血圧性小脳出血 に対する後頭下開頭血腫除去術と定位的血腫吸引術の比較 検討.No Shinkei Geka 19: 1121︲1127, 1991
12) Yamamoto T, Nakao Y, Mori K, et al: Endoscopic hema-toma evacuation for hypertensive cerebellar hemorrhage.
Minim Invas Neurosurg 49: 173︲178, 2006
13) 横手英義,駒井則彦,中井易二,ほか:高血圧性小脳出血 に対する定位的血腫溶解排除術の臨床効果.No Shinkei