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3.個人属性と PC 利用との関係

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(1)

基礎学力と PC 利用の関連性に関する アンケート調査分析

中 岡 孝 剛* ・ 伊 藤 彰 紀**

要旨 基礎学力と PC 利用の関連性については,これまでいくつかの研究が蓄積されてきて いる。しかし,それらは諸外国のデータを用いた分析であり,我が国において本格的な実証 研究は行われていない。本稿は独自に実施したアンケート調査を分析することによってその 不足を補うものである。検証の結果,基礎学力の中でも数学と PC の利用の間に正の関係を 発見しており,これまでの先行研究と整合的な結果を得ている。

Abstract There is a shortage of researches which are investigated the relation be- tween PC use and basic academic skills in Japan. The purpose of this paper is to fill this gap using a unique questionnaire survey. Utilizing simple methods such as cross tabulation, we find a positive relationship between the mathematical skill and PC use. This result is consistent with previous researches.

キーワード 基礎学力,情報リテラシー,アンケート調査 原稿受理日 2014年9月10日

☆ 本稿は,伊藤が近畿大学経営学部在学中に,卒業研究として実施したアンケート調査結果を利 用している。アンケート実施に当たっては,近畿大学経営学部浦上拓也教授と田中智泰准教授に ご協力頂いた。記して感謝申し上げる。また,本稿の執筆に当たっては近畿大学経営学部のチー ム21研究会の参加者から有益なコメントを頂いた。記して感謝申し上げる。もちろん,本稿にお ける誤りは筆者の責任である。

** 近畿大学経営学部講師

** 島津システムソリューションズ株式会社

(2)

1.PC 利用の学力への影響

わが国では,古くから必要なリテラシー(教養)として“読み・書き・そろばん”の3 つが言い伝えられてきた。近年では,パーソナルコンピューター(以下,PC あるいはパ ソコン)の普及が進み,一般家庭や職場でも PC の操作能力が求められるようになったこ とから,“読み・書き・そろばん・パソコン”が必要なリテラシーとなった。パソコンの 操作能力は,大量の情報を処理する能力とも言い換えることができることから,“情報リ テラシー”と呼ばれている。大学教育においては,情報リテラシーの必要性に答えるため,

教養科目として情報処理の講義が拡充され,情報リテラシーの習得を目的としたカリキュ ラムが編成されるようになった。しかし,IT の発展によって,我々が必要とする情報リテ ラシーの水準は年々高くなっており,それに応じてリテラシーとしての重要性も年々高く なってきている。

PC を利用することの本質は情報の処理であるが,一般家庭に普及するにつれて,ゲー ムやインターネットなどの娯楽目的の利用も目立つようになった。すなわち,PC の利用 における多様化が進んでいる。そのような現状を背景に,PC の利用がもたらす副次的な 影響が教育学の研究で報告されている。例えば,Attewell and Battle(1999)は,自宅 での PC 利用環境の有無と文章理解力との関係を検証しており,自宅で PC が利用できる 環境にある学生は高い文章理解力のスコアを達成していることを報告している。 また,

OECD(2006)は PISA が2003年に実施した調査をもとに,自宅での PC の利用可能性が 数学の能力にポジティブに影響していることを発見している。同様に,PISA が2003年に 実施した調査のデータを利用して,Witter and Senkbeil(2008)は,自宅での PC 利用と 数学の成績との関係を詳細に分析している。その結果,問題解決ツールとして自己選択的 に PC を利用することが数学の成績にポジティブな影響を与えていることを発見している。

PC の利用が学習に及ぼす影響について検証した実証研究は少なく,その影響について は結論を得ていない。Witter and Senkbeil(2008)が指摘しているように,実証研究に おける因果推論に問題があることは否めないが,実証研究が不足していることが大きな問 題であると考えられる。特に,筆者が知る限り,我が国を対象とした本格的な実証研究は いまだに存在しておらず,研究の蓄積が必要である。本研究は,基礎学力と PC 操作能

 伊藤(2014)は我が国で古くから伝わる“数学が得意な人は PC 操作能力も高い”通説をアン ケート調査によって検証しており,通説を支持する結果を報告している。

(3)

力との関係性を分析するために実施したアンケート調査を整理し,一定の関係性を発見す ることを目的としている。

本稿の構成は以下の通りである。まず,第2節ではアンケート調査の内容とその実施方 法について説明する。第3節では,個人属性と PC 利用との関係を記述統計によって明ら かにし,第4節では,数学を中心とした基礎学力(文章理解力と問題解決能力)と PC 利 用との関係を明らかにする。そして第5節で本稿のまとめを行う。

2.アンケートの内容と実施方法

アンケートの設問は,1 

)個人属性関する項目,2 

)PC 利用に関する項目,そして3)

基礎学力に関する項目で構成されている。1 

)個人属性関する項目には,大学の在籍年数,

性別,留学生であるかどうか,そして,高校時の数学の学習状況についての設問を設定し ている。2 

)PC 利用に関する項目には,自宅での一日平均 PC 利用時間,PC の利用目 的,PC 操作における自分の評価(以下,自分評価),PC 操作における他者からの評価

(以下,他者評価),自分専用の PC を所持しているかを設問として設定した。さらに,PC との互換性に着目して,スマートフォンの一日平均利用時間や利用目的についても設問を 設定している。

そして,3 

)の基礎学力の項目には①数学の能力(5問),②文章理解力(3問),そし て③問題解決力(6問)を問うような設問が設定されている。いずれも問われている問題 を理解し,適切に解を求める必要があるため,認知力(Cognitive Skill)を必要とする設 問になっている。特に,問題解決力を問う問題は“気づき”が必要であり,認知力を問う 設問になっている。 これらの設問は PISA ( Programme for International Student Assessment) が実施した学力調査の項目の一部を和訳し, 修正したものを利用している。 PISA の学力調査は高校1年生(15歳)を対象としており, 基礎学力を問うものである。

アンケートの詳しい内容については,補論を参照されたい。

アンケートの実施は2013年11月4日から2013年11月14日までの期間とし,対象は近畿大 学経営学部の統計学とデータ分析論の受講生215名である。また, アンケートの回答時間 は20分とした。アンケート回答者の分布は以下表1の通りである。

 項目については,米国の教育統計機関 National Center for Education Statistics の HP

( http://nces.ed.gov/surveys/pisa/educators.asp )から確認することができる。また,アン ケートの作成には,パイロットテストとして5名の生徒にアンケートを実施し,その結果を受け て設問項目を一部修正している。

(4)

在学年数と性別でクロス集計した結果,いずれの在学年数においても男性の割合の方が 多く,男女比は約8対2である。近畿大学経営学部全体の男女比は約7対3(2013年5月 1日時点)であるので,やや男性にサンプルが偏っていると言えるが,大きな偏りではな い。また,表1には記載していないが,回答者の中に留学生が9名(男性5名,女性4名)

存在している。

さらに,表2は数学の学習状況について整理したものである。アンケートの実施対象は 文系の学部であるため,数学の学習深度にばらつきがあると予想される。実際に表2を見 ると,数学Ⅰを学習したという回答者が99.07%,数学Aが95.81%,数学Ⅱが85.58%,数 学Bが72.56%,数学Ⅲが15.81%,そして数学Cが15.35%という結果になっており,学習 深度にばらつきがみられる。一般的に, 数学ⅠとAは高校1学年で学習し, 数学ⅡとB は2学年,数学ⅢとCは3学年で学習することから,サンプルの多くは高校2学年まで数 学を学習していることになる。また,一般的に,男性は理系の大学に進学する比率が高い

留学生については,学習の形態が異なるため,1年次に数学を学習すれば,数学Ⅰと数学Aを,

2年次にも継続して学習すれば,数学Ⅱと数学 B を,そして3年次にも継続して学習すれば,数 学Ⅲと数学Cを学習したものとして回答してもらった。

表2 高校在学時における数学の学習状況 高校での数学学習状況

数学C 数学Ⅲ

数学B 数学Ⅱ

数学A 数学Ⅰ

14.1%

(24)

14.7%

(25)

72.9%

(124)

85.9%

(146)

97.1%

(165)

99.4%

(169)

男 性

20.0%

(9)

20.0%

(9)

71.1%

(32)

84.4%

(38)

91.1%

(41)

97.8%

(44)

女 性

15.3%

(33)

15.8%

(34)

72.6%

(156)

85.6%

(184)

95.8%

(206)

99.1%

(213)

合 計

注1:括弧内は人数を表している。

注2:留学生については,学習形態が異なるため,高校1年次に数学を学習していれば数学Ⅰと数 学Aを,2年次にも継続して学習すれば,数学Ⅱと数学Bを,そして3年次にも継続して学 習すれば,数学Ⅲと数学Cを学習したものとして回答してもらった。

表1 アンケート回答者の分布―性別と在学年数でのクロス表―

在学年数

合 計 5以上

4 3

2 1

79.1%

(170)

1.4%

(3)

7.4%

(16)

16.3%

(35)

20.9%

(45)

33.0%

(71)

男 性

20.9%

(45)

0.0%

(0)

2.3%

(5)

4.2%

(9)

6.0%

(13)

8.4%

(18)

女 性

100.0%

(215)

1.4%

(3)

9.8%

(21)

20.5%

(44)

27.0%

(58)

41.4%

(89)

合 計

注:括弧内は人数を表している。

(5)

ことから,男性の方が数学の学習深度が深いと考えられるが,本調査のサンプルでは男性 と女性で学習深度に大きな相違はない。

3.個人属性と PC 利用との関係

本節では個人属性と PC 利用の観点から,アンケートデータの整理を行う。表3のと はそれぞれ自宅での一日平均 PC 利用時間と,PC に代替すると考えられるスマートフォ ンの一日平均利用時間についての記述統計である。さらに,図1はこれらの利用時間につ いてのヒストグラムである。

表3を見ると,自宅での一日平均利用時間は男性が平均値(中央値)で1.6(1.0)時 間,女性1.3(1.0)時間と顕著な相違はみられない。また,最大値が10時間というサンプ ルも存在するが,標準偏差は2時間以内とばらつきも小さい。この点は図1の上段のヒス トグラムでも確認することができる。一方,表3のスマートフォンの利用時間について は,男性が平均値(中央値)で4.2(3.0)時間,女性は6.9(5.0)時間と2時間の相違があ り,顕著な違いが見受けられる。実際に,性別で PC 利用時間とスマートフォンの利用時 間の平均値が統計的に有意に異なるかを検定したところ,PC 利用時間については平均値 が等しいという帰無仮説を棄却(両側検定)できないが,スマートフォンの利用時間につ いては,統計的に1%有意で棄却される

  検定にはノンパラメトリックなウィルコクソンの順位和検定を用いた。また,中央値の差の検 定についても実施したが,結果に違いは生じなかった。

表3 自宅での PC 利用時間とスマートフォン利用時間の記述統計

 自宅での一日平均 PC 利用時間 (単位:時間)

最大値 中央値

最小値 標準偏差

平均値 サンプル数

10.0 1.0

0.0 1.7

1.6 168

男 性

5.0 1.0

0.0 1.3

1.3 44

女 性

10.0 1.0

0.0 1.6

1.5 212

合 計

 一日平均スマートフォン利用時間 (単位:時間)

最大値 中央値

最小値 標準偏差

平均値 サンプル数

22.0 3.0

0.0 3.1

4.2 168

男 性

24.0 5.0

0.5 4.9

6.9 45

女 性

24.0 4.0

0.0 3.7

4.8 213

合 計 注:筆者作成。

(6)

また,図1でも明らかなように,スマートフォンの利用時間に関してはばらつきが大き く,最大値が24時間というサンプルも存在する。この他にも,PC 利用時間とスマート フォンの利用時間の平均値を比較した場合,スマートフォンの利用時間は男性で3倍,女 性で5倍ほど PC の利用時間よりも長いことが示されている。PC の利用時間が自宅での 利用に制限されていることによって,大学などで利用する時間を含めた総 PC 利用時間よ りも短くなっている可能性はあるが,性別問わずスマートフォンに依存した日常生活を 送っていることが見てとれる。

次に,在学年数と PC ならびにスマートフォンの利用時間の関係を見ていきたい。以下 の図2は在学年数と男女別にそれぞれの利用時間の平均値と中央値を示している。 在学 年数と PC ならびにスマートフォンの利用時間については明確な関係はみられない。しか し,弱い傾向として,女性は在学年数が増えると PC の利用時間が減少し,男性は逆に利 用時間が増加する傾向が伺える。また,スマートフォンの利用に関しては,男性と女性と

 これらを異常値として除外することも考えられるが,睡眠時間の管理等に利用している場合,

このような極端に長い利用時間が回答として得られる可能性があるため,本稿では異常値として は扱わないことにした。

 何らかの理由(留年や休学)によって,在学年数と実際の学年が一致しないケースもあるが,

概ね在学年数は学年と読み替えてよい。

図1 自宅での PC 利用時間とスマートフォン利用時間に関するヒストグラム

注:バンド幅は2時間として作成。

(7)

もに在学年数が増えるにつれて増加している。

表4は自分専用の PC の所持の有無が,PC の利用時間とスマートフォンの利用時間に 与える影響について確認している。自分専用の PC を所持することで,PC の一日利用平 均時間は約1時間増加することが示されている(統計的に1%有意)。また, 自分専用の PC を所持することによって,スマートフォンの利用時間が減少する端末利用の代替効果 が存在すると考えられるが,本稿のサンプルではそのような効果は確認されていない。

次に,表5は PC の利用目的とスマートフォンの利用目的を男女別で比較したものであ る。アンケートでは,順位をつけて回答するように設計したため,順位ごとに表示した。

順位は第3位まで聞いている。また,利用目的の選択肢は事前に与えており,PC の利用 目的として,①文書作成,②プログラミング,③ゲーム,④インターネット,そして⑤そ れ以外の自由回答項目を設定している。一方,スマートフォンの利用目的の選択肢として

表4 自分専用の PC の所持と利用時間

スマートフォンの一日平均利用時間 PC の一日平均利用時間

標準偏差 平均値

N 標準偏差 平均値

N

3.83 4.79

146 1.75

1.83 144

自分専用の PC 所持 有

3.53 4.80

67 1.02

0.88 68

-0.01 0.95***

平均値の差

注:***は統計的に1%有意(両側検定)であることを示している。

図2 在学年数と PC ならびにスマートフォンの利用時間

注:△は平均値,□は中央値を表している。また,女性については在学年数が5年のサンプルが 存在しない。

(8)

は,①PDF 閲覧,②メール,③ゲーム,④インターネット,そして⑤それ以外の自由回答 項目である。

PC の利用目的の第1位に着目すると, インターネット目的の利用が最も高く(男性 79.9%,女性72.1%),次いで文書作成が高くなっている(男性11.0%,女性27.9%)。PC

をプログラミングのために利用している回答者は存在していない。一方,第2位と第3位 の利用目的として PC をプログラミングに利用するという回答者が存在している。

その他の利用目的には,音楽鑑賞や動画鑑賞に PC を利用するという回答者が多かった。

これらはインターネットを通じて行われることもあり,この点を考慮すると, インター ネットを利用するために PC を用いている回答者はさらに多く存在している可能性がある。

4.基礎学力と個人属性の関係

本節では,基礎学力と個人属性との関係を見ていきたい。アンケートにおける基礎学力 の設問数は項目によって異なるため,項目ごとの正答率を分析に用いることにする,まず,

基礎学力同士の関係について見ておきたい。以下の表6は,数学の能力,文章理解力,そ して問題解決能力における正答率の相関係数表である。3 

つの基礎学力に関する評価項目 表5 PC とスマートフォンの利用目的

 PC の利用目的

その他 インターネット

ゲーム プログラミング

文書作成

0.0%

(43)

4.3%

(164)

72.1%

(43)

79.9%

(164)

0.0%

(43)

4.9%

(164)

0.0%

(43)

0.0%

(164)

27.9%

(43)

11.0%

(164)

1位

4.9%

(41)

6.4%

(156)

29.3%

(41)

17.9%

(156)

14.6%

(41)

28.8%

(156)

0.0%

(41)

1.9%

(156)

51.2%

(41)

44.9%

(156)

2位

30.0%

(30)

14.5%

(131)

0.0%

(30)

1.5%

(131)

36.7%

(30)

35.1%

(131)

20.0%

(30)

12.2%

(131)

13.3%

(30)

36.6%

(131)

3位

 スマートフォンの利用目的

その他 インターネット

ゲーム メール

PDF 閲覧

15.9%

(44)

12.3%

(162)

47.7%

(44)

46.9%

(162)

2.3%

(44)

11.7%

(162)

29.5%

(44)

29.0%

(162)

4.5%

(44)

0.0%

(162)

1位

9.1%

(44)

6.3%

(159)

50.0%

(44)

35.2%

(159)

18.2%

(44)

27.0%

(159)

20.5%

(44)

28.9%

(159)

2.3%

(44)

2.5%

(159)

2位

13.9%

(36)

9.5%

(148)

2.8%

(36)

13.5%

(148)

41.7%

(36)

36.5%

(148)

33.3%

(36)

27.7%

(148)

8.3%

(36)

12.8%

(148)

3位

注1:左側の数値が男性の回答率を示しており,右側(イタリック)の数値は女性の回答率を示して いる。また。下側の括弧は集計の対象になったサンプル数を示している。

注2:下位の順位は回答しないサンプルを含むため,サンプルサイズが小さくなっている。

(9)

の相関係数は正であるものの値が小さく,強い相関があるわけではないことが見てとれる。

したがって,これらの項目が何かしらの共通した能力で完全に説明されるわけではなく,

それぞれが固有の能力を必要としていると思われる。

次に,基礎学力と個人属性との関係を見ていきたい。図3は,基礎学力と性別について 整理したものである。数学については,男性の方が正答率が高く,文章理解については女 性の方が正答率が高いという結果になっている。一般的に,男性は理系科目が得意で,

女性は文系科目が得意だと言われているが,本稿のアンケート調査からもそのような傾向 が見られる。一方,問題解決については性別で顕著な相違は見られない。また,問題解決

表6 基礎学力の相関係数表

問題解決 文章理解

数 学

0.102 0.129 *

数学

0.264 ***

0.163 **

文章理解

0.253 ***

0.113 * 問題解決

注1:相関係数は項目ごとの正答率で計算している。

注2:左下はピアソンの積率相関係数を示しており,右上の太文字 イタリックはピアソンの順位相関係数を示している。

注3:* ,** ,*** はそれぞれ相関係数が統計的に10%,5%,1%

で有意にゼロと異なることを意味している。

 ただし,数学ならびに文章理解に関する男女間の平均値の差は統計的に有意ではない。

図3 基礎学力と性別の関係

注:基礎学力の項目は項目ごとの正答率の平均値である。

(10)

は他の設問に比べて正答率が低くなっており,問題可決能力の低さが際立っている。 続いて表7は,基礎学力と在学年数をクロス集計したものである。在学年数が5年以上 のサンプルは非常に少なく,サンプルサイズが極端に小さいため,信頼できる集計値では ないと考えられる。その点を考慮すると,在学年数が増加するほどいずれの項目において も正答率が低下する傾向が見受けられる。この結果は大学教育が基礎学力の向上に寄与し ていない可能性を示唆している。数学の知識は活用しなければ時間とともに忘却していく ことは否めないが,文系学部の大学生として鍛錬しているはずの文章理解や問題解決につ いても正答率が低下している事実は注目に値する。

最後に,表8は数学の学習深度と数学の能力に着目して整理したものである。数学の学 習深度が高まるほど,数学の正答率が高くなることが予想されるが,本稿の結果はその予 想と整合的である。アンケートの設問は高校1年生を対象にして設計されたものであり,

数学の学習深度が正答率に影響しているとは言い難い。むしろ,表7で明らかなように,

より長く数学に触れていることで,数学の知識をより保存できていることが要因であると 思われる。

表7 基礎学力と在籍年数の関係 在学年数

合計 5以上

4 3

2 1

55.5%

(215)

76.7%

(3)

53.8%

(21)

48.9%

(44)

53.6%

(58)

59.7%

(89)

数学

61.6%

(215)

77.8%

(3)

58.7%

(21)

60.6%

(44)

59.8%

(58)

63.3%

(89)

文章理解

35.4%

(215)

26.7%

(3)

14.8%

(21)

31.4%

(44)

37.8%

(58)

41.1%

(89)

問題解決

注:基礎学力の項目は項目ごとの正答率である。

表8 数学の学習深度と数学の正答率 高校での数学学習状況

合計 数学C

数学Ⅲ 数学B

数学Ⅱ 数学A

数学Ⅰ

55.5%

(215)

72.7%

(33)

70.0%

(34)

61.4%

(156)

58.6%

(184)

56.5%

(206)

55.5%

(213)

数学

注1:数学に関する項目の正答率を表示している。

注2:留学生については,学習形態が異なるため,高校1年次に数学を学習していれば数学Ⅰと数 学Aを,2年次にも継続して学習すれば,数学Ⅱと数学Bを,そして3年次にも継続して学 習すれば,数学Ⅲと数学Cを学習したものとして回答してもらった。

 この他にも,問題解決の設問が調査項目の後半部分に配置されていたことも正答率が低くなっ た要因として考えられる。すなわち,回答時間切れや回答意欲の低下によって正答率が低くなる ということである。これらを原因とするサンプルを特定することは難しく,本稿で特別な処理は 行わないことにした。

(11)

5.基礎学力と PC 利用との関係

前節では,個人属性と PC 利用の関係ならびに基礎学力との関係についてデータを整理 することで確認した。本節では,回答者の基礎学力と PC 利用との関係についてみていき たい。前節と同様,スマートフォンは PC に代替する機能を持つことから,基礎学力とス マートフォンの利用との関係についても記述統計等で確認することにしたい。

表9は,PC の利用状況と基礎学力の関係について平均値を比較することで確認してい る。自分専用の PC を所持しているか否かの比較では,所持しているグループほうが基礎 学力の正答率が高いことが示されている。数学で7.7%(統計的に10%有意),文章理解で 6.7%(統計的に10%有意),そして問題解決で10.1%(統計的に5%有意)所持している グループのほうが高い。因果関係を検証しているわけではないが,これらの結果は,Attewell and Battle(1999)や Wittwer and Senkbeil(2008)の実証結果と整合的であると考え られる。

一日平均の PC 利用時間に関しては,中央値以上のグループと中央値未満のグループに 分けて比較を実施している。すなわち,前者が相対的に PC 利用時間の長いグループであ り,後者が相対的に利用時間の短いグループである。比較の結果,中央値以上のグループ における数学の正答率が中央値未満のグループより10.3%(統計的に5%有意)高いこと が分かった。この結果は,上記の Wittwer and Senkbeil(2008)の結果と整合的である。

一方, 文章理解と問題解決については両者で有意な差異は見られない。 この他にも,PC の利用と代替的なデバイスであるスマートフォンの利用時間についても同様の比較を行っ た結果,いずれの基礎学力の項目についても有意な差異は見られなかった。

表9 PC の利用状況と基礎学力

一日平均スマートフォン利用時間 一日平均 PC 利用時間

自分専用の PC の所持

①-②

②中央値未満

①中央値以上

①-②

②中央値未満

①中央値以上

①-②

②なし

①あり

56.4 -2.1

(101)

54.3

(112)

10.3**

48.6

(66)

59.0

(146)

7.7**

50.3

(69)

57.9

(146)

数学

60.1  2.1

(101)

62.2

(112)

-0.9**

62.1

(66)

61.2

(146)

67.7**

57.0

(69)

63.7

(146)

文章理解

32.6  5.2

(101)

37.8

(112)

-1.1**

36.1

(66)

35.0

(146)

10.1**

28.6

(69)

38.7

(146)

問題解決

注1:表中の値は正答率の平均値を示しており,括弧内はサンプル数を示している。

注2:* ,** ,*** はそれぞれ平均値の差が両側検定において,統計的に10%,5%,1%で有意に ゼロと異なることを意味している。

(12)

6.ま と め と 課 題

本稿では,基礎学力と PC 利用の関連性について,独自に実施したアンケート調査をも とに,クロス集計や記述統計を用いて検証を行った。その結果,自分専用の PC の所持し ている学生は,基礎学力の平均値が所持していない学生に比べて統計的有意に高いことが 示された。また,一日平均の PC 利用時間についても,利用時間の長い学生は数学の点数 の平均値が統計的有意に高いことが示されている。これらの結果は,これまでの蓄積され ている先行研究の結果と整合的である。一方,本稿で独自に追加したスマートフォンの利 用と基礎学力との検証では,一日平均のスマートフォンの利用時間と基礎学力との間には,

際立った関係が存在していないことがわかった。

しかし,これらの結果は第3の要因によってもたらされた可能性もあるため,解釈には 十分な注意が必要である。また,本稿ではクロス集計や記述統計を中心に分析を実施して おり,回帰分析等の因果関係の検証は実施しなかった。基礎学力と PC 利用の関連性にお ける因果推論には内生性の問題が存在しており,Wittwer and Senkbeil(2008)で指摘 されているように,回帰モデルの特定化を慎重に行う必要がある。両者の因果関係の検証 は今後の課題としたい。

さらに,アンケート調査の実施においても課題がある。第1に,サンプル選択の問題で ある。アンケート実施が講義時間内であっため,回答時間に制約(20分)を設けたが,そ の結果として時間内にアンケートを全て回答できない人が見られた。したがって,サンプ ル選択の問題が生じている可能性がある。解決策としては,設定時間を延長や問題の順番 を入れ替えるなどが考えられる。

そして,第2に,基礎学力を問う設問の難易度である。アンケートでは PISA の問題を 参考にして設問を設定したが,PISA の問題は中学生の学力を前提としている。したがっ て,成人である大学生を対象としたものでなく,設問の難易度が適切でない可能性がある。

これらのアンケート設計上の課題については,新たに調査を実施する際に取り組みたい と考えている。

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参 考 文 献

Attewell, P., and Battle, P.,(1999)“Home Computers and School Performance,”The Information Society, Vol.15, pp.110.

Witter, J. and Senkbeil, M.,(2008)“Is students’ computer use at home related to their mathematical performance at school ?,”Computers & Education, Vol.50, pp.15581571.

OECD(2006)“Are students ready for a technology-rich world ?  What PISA studies tell us.”Paris, OECD.

伊藤彰紀(2014)『数学の学力と PC 操作能力の関連性に於ける通性の検証』平成25年度 日本経営 工学学会卒業論文・修士論文発表会 講演予稿集。

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参照

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