• 検索結果がありません。

『現代大衆文化』の履修動機と授業への参加を通した学び ―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "『現代大衆文化』の履修動機と授業への参加を通した学び ―"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

̶ 87 ̶  

『現代大衆文化』の履修動機と授業への参加を通した学び

―履修者へのアンケートおよびインタビューからの考察―

石塚 美枝 ・ 守谷 智美 ・ 宮副ウォン裕子

要 旨

 本研究では、『現代大衆文化』(中級・上級)の履修者に対して行ったアンケートとインタ ビューを通して、履修者の履修動機と授業を通した学びを明らかにすることを試みた。そ の結果、中級・上級ともに、現代大衆文化に対する強い興味・関心と、知識や情報の範囲 をさらに拡大したいという動機をもって履修した学習者が多く見られた。授業を通した学 びについては、学習者は、学習活動を通して大衆文化に対する興味・関心の拡充、自身の 視点の変化、日本語学習への動機づけの強化などを認識していることが示され、学習者同 士の協働による学習成果の重要性も再認識された。また、学習者は学習活動を通して大衆 文化理解と言語学習の面で達成感、満足感を得ていることも明らかとなり、情意面におけ る学習動機が強化されることによって、今後の学習者のより自律的で継続的な学習への発 展が示唆された。

【キーワード】 大衆文化、履修動機、学習者の多様性、学習者の学び、協働学習

1.研究目的

 近年の日本の大衆文化に対する世界的な関心の高まりの中、日本語学習においても、

J-POP や日本のドラマ、アニメ等から日本に関心を持ち、日本語を学び始めた学習者が少 なくない。こうした日本語学習者の日本の現代大衆文化への興味・関心の高さ、学習者の ニーズに応えるため、現代大衆文化をいかに日本語教育に取り入れていくかが重要な課題 になりつつある。

 本学においても、留学生を対象とした日本語教育プログラムの選択科目として、2005 年 度より『現代大衆文化』の授業が開講されている。筆者らはこれまで『現代大衆文化』科目 の授業実践において中心となって関わってきたが、これまでの授業実践を通して、学習者 の現代大衆文化への関心の高さや知識の豊富さを目の当たりにすると共に、学習者同士の 活発な討論の様子から、現代大衆文化が学習者の意欲に大きく関与している可能性が見出 された。しかし、これまでの研究では、日本語教育における現代大衆文化の位置づけや意 義などについて包括的な議論はなされておらず、個々の授業での実践報告にとどまってい るのが現状である(有賀 1990、坂根 1998、長谷川他 2007)。大学のコース全体で大衆文化 を扱ったものとしては、学期を通してひとつのアニメ作品を教材として授業を行った例が 報告されてはいるが(柴田 2008)、言語スキルの習得をより重視しているように見受けられ、

従来型の日本語授業の概念から抜け出していないと言える。

̶研究論文̶

(2)

 現代大衆文化を題材としたこれまでの研究において、まず石塚他(2007)は、学期中を通 して開講される『現代大衆文化』科目における活動の基盤となる概念について検討し、それ をもとに石塚他(2008)では、その基本概念に基づく活動の実践例を挙げて報告した。そこ では、学習者がそれぞれの興味やニーズに応じて、自律的な学びを獲得するとともに、そ の学びが教室外へと結びついている可能性が示唆された。しかし、学習者の学びの詳細を 明らかにするには、学習者の声に十分に耳を傾ける必要があると考える。

 学習開始段階においていかなる動機を持つかが、以後の学習行動の方向や大きさ(強さ)

を決定づけるものとなる(Dörnyei, 2001)ことは周知の通りである。しかし、学習終了段階 において学習成果をどのように認識するのかということもまた、次なる学習への動機づけ につながると考えられるため(Dörnyei, 2001; Oxford & Shearin, 1996など)、これらに着目す ることは重要である。

 そこで、本研究では、桜美林大学で留学生対象に選択科目として開講されている『現代 大衆文化』(中級・上級)の履修者に対して行ったアンケートとインタビューを通して、学 習者が『現代大衆文化』の授業にどのようなことを期待して履修したのか、そして、授業を 通してどのような学びがあったのかを探ることを目的とする。そこから、これまでの実践 を振り返り、さらに学習者の興味や関心をより反映させた授業実践への提案を試みる。

2.『現代大衆文化』の基本概念及び概要 2. 1 『現代大衆文化』の基本概念

 実際に授業を組み立て、実践する上で、筆者らはこれまでの授業実践から得た知見を基 に、以下の 6 点を実践の基本概念とすることとした(石塚他 2007)。

①めまぐるしく変化する流行として大衆文化を捉える(文化を固定的なものとして捉え ない)。

②学習者の興味・関心に柔軟に対応する(学習者主体の活動)。

③物事を批判的かつ多角的に考察するメディア・リテラシーの視点を育成する(内容重視 の活動)。

④多言語・多文化を背景とした授業参加者(教員・学習者・クラスゲスト注1)が互いに リソースとなり学び合う(協働的な学び)。

⑤教師はファシリテーターとしての役割を持つ(学習者主体の活動の支援)。

⑥アウトプット型学習活動を中心とする(内容重視の活動)。

 これらの基本概念の画期的な点は、現代大衆文化の作品を日本語学習の「教材」と捉えた り、語彙や表現、文化様式などの理解や学習を図ったりするのではなく、作品を全体とし て多角的に理解し味わうとともに、学習者同士がリソースとなり意見や情報を交わすこと を目指しているのであり、その際に日本語が道具となるという点である。また、教師主導 で授業を設計し、教師が「教える」のではなく、教師も含めた授業参加者全員が、互いの異

(3)

̶ 89 ̶

なる文化背景や情報を尊重しながら学び合う点も、これまでの取り組みと大きく異なるも のである。つまり、従来の教師主導の言語スキルの習得を重視した学習活動ではなく、学 習者が主体となって学習内容や活動を進める「学習者主体」および、言語スキルの習得より も学習者からアウトプットされたものの内容をより重視する「内容重視」(細川 2008)の概 念を基盤に学習活動が組み立てられている。

 ただし、実際には、扱うトピックやそこで使用する資料等、授業運営の面では中級と上 級の日本語力の差を考慮した方法が検討され、用いられている。それらはこれまでに行っ てきた日々の教育実践経験の蓄積から創造されたものである。それらについて、以下、詳 細を述べたい。

2. 2 『現代大衆文化』科目の概要

 『現代大衆文化』は、2005 年度より日本語教育プログラムのおける選択科目のひとつとし て開講されている。開講当初は、中上級者を対象とした 1 クラスで行われていたが、2006 年度より中級・上級の 2 クラスに拡充された(石塚他 2007)注2。2007 年度については、中 級は春・秋学期とも石塚が担当し、上級は秋学期のみ開講され守谷が担当した。2008 年度 については、中級は春学期を宮副、秋学期を石塚、上級は 2007 年度同様秋学期のみ開講さ れ、守谷が担当している。具体的な実践は以下の通りである。

2. 2. 1 『上級・現代大衆文化』の概要

 2007・2008 年度の『上級・現代大衆文化』は、日本語選択科目としていずれも秋学期に 開講された。このクラスにおける学習目標は、以下のとおりである。

①日本の現代大衆文化のさまざまな分野を通して、現代大衆文化への理解を深め、流行 と社会的背景との関連を理解する。

②映像メディア(映画、TV など)や印刷メディア(新聞記事・雑誌など)を批判的に読み 取り、考察できるようにする。

③学んだことをもとに、自分の関心を拡大・深化し、自分の見方・考え方を日本語で発 信できるようにする。

 これらはすべて既述の基本概念に基づくものであるが、特に、③については、多様な背 景を持ったクラスメイト同士が協働で学習活動を行うことで、現代大衆文化に対する自身 の見方を深めていくことを重視している。

 このようなことから、2007・2008 年度は、学習者への授業開始時のアンケートなども取 り入れながら、J-POP、映画、流行語、CM、バラエティ番組、雑誌などの素材を取り上げ、

ただ「見る」「楽しむ」だけではなく、自身が「見た」「楽しんだ」その背景にあるものを多角 的に検討し日本語で意見交換し合うことを目的とした学習活動を行った。さらに、個人の 関心に基づく発表・レポート作成のプロジェクトワークを行った。これは、自身で決めた

(4)

テーマについて、自身の観点から分析を行い、発表活動を通してそれをクラスメイトやク ラスゲスト、教師と共有し、他者からの質問に答えそこでのディスカッションを通して分 析を深めたり新たな視点を掘り起こしたりするなど、双方向的なやりとりの中での協働に よる学びを重視したものである。そこで得たことを生かし、自身で内容を再度検討・修正 するとともに、教師もまた言語面での指導・支援なども行いつつ、全員のレポート最終版 を冊子にまとめるかたちで一つの成果とした。

2. 2. 2 『中級・現代大衆文化』の概要

 2007 年度の『中級・現代大衆文化』は春・秋両学期開講された。中級における学習目標 は以下のとおりである。

①日本の現代大衆文化の様々な分野を通して、現代大衆文化への興味と関心を広げる。

②日本語だけ(日本語字幕や他者の助けを借りてもよい)で見て、聞いて理解できるよう にする。

③自分の感想や意見を述べたり、書いたりする場合、母語の助けを借りてもよいが、最 終的には日本語で表現できるようにする。

④「見て、聞いて楽しむ」だけでなく、作品を批判的(クリティカル)に読み取り、討論 や考察をする。

 学期中のクラス活動では、J-POP、映画、ドラマ、バラエティ番組、ファッションを取 り上げた。また学期の最後には、各自で興味のあるトピックを選び、発表・レポート作成 を行った。中級も上級と同様に、先述した 6 つの基本概念に基づいて学習活動が計画された。

特に、学習目標の④については、基本概念の 4 つ目に挙げた「授業参加者が互いにリソー スとなって学び合う」協働的な活動を通して、メディア・リテラシーの視点を育成する(基 本概念③)ことを目標としている。ただし、中級の場合は、大衆文化の作品を味わう場合 や討論や発表の際に言語的なサポートが必要であるため、教師は、授業内の討論やコメン トシートの記入、発表のレジュメ等で、表現したいことが表しきれない場合は母語の使用 を認めたり、最終レポートに母語による要約をつけるよう指示したりするなど、学習者が 言語能力の不備によって内容重視の活動や学習者主体の学習を妨げられないように、学習 活動の設計において様々な言語面での配慮や工夫をした。

3.調査の概要および結果と考察  3. 1 調査方法

 既述のように、『現代大衆文化』授業を履修した学生の履修動機とともに、『現代大衆文化』

授業を通してどのような学びがあったのかを明らかにするため、まず 2007・2008 年度に履 修者に対して行ったアンケートを分析し、さらに詳細を把握するため、2008 年度春学期の 履修者の中から 6 名にインタビューを行った。アンケートは、中級・上級とも学期開始時

(5)

̶ 90 ̶ ̶ 91 ̶

と学期終了時にクラス内で配布・回収された。インタビューは、履修者の中で協力の承諾 を得た 6 名に対し行われた。これは、一人 30 〜 40 分ほどの半構造化インタビューであり、

実施時期は 2008 年 6 〜 7 月である。

 以下、中級・上級の学習者の履修動機、そして中級・上級の学習者の授業を通した学び についての分析の結果を記述する。注3 なお、学習者によるアンケートおよびインタビュ ー内容の記述については、学習者の記述・発言をそのまま用いている。

3. 2 結果と考察|1:『現代大衆文化』科目の履修動機について 3. 2. 1 上級クラスの履修者の履修動機

 2007・2008 年度の『上級・現代大衆文化』科目における履修者数とその背景は以下、表 -1 のとおりである。注4

    表1:2007・2008年度上級・現代大衆文化履修者の背景

 2007・2008 年度の履修者の背景に関する共通の特徴は、両年度とも学部所属の長期留学 生の履修者がかなり多い点である。一方、履修者の出身地域は、2007 年度は韓国が過半数 を占め、タイ・マカオ・カナダと多様であったが、2008 年度は中国出身者が多数を占め、

韓国出身者 1 名も途中で履修を継続できなくなったこともあり、両年度はそれぞれ対照的 な構成となった。07 年度は、聴講の英語教員 1 名とクラスゲストである日本人学生 1 名が これに加わり、また 08 年度は日本人学生クラスゲスト 4 名(最終的には 2 名)が参加した。

 開講当初、初回の授業で実施したアンケートの中で本科目の履修動機について調査した。

その結果を以下、表 -2 に示す。2007・2008 年度とも、「内容が面白そうだから」が最多で、

次いで「日本の現代大衆文化に関心があるから」となっており、この 2 つが主要な履修動機 となっていることが示された。さらに「役に立ちそうだから」「単位取得のため」「その他」

と続く。 

 「内容が面白そうだから」と「日本の現代大衆文化に関心があるから」は、これまでの動 機づけの研究において使用されてきた区分で言えば学習内容そのものへの関心に基づく

「内発的」な種類の動機であると言える。その一方で、「役に立ちそうだから」「単位取得の ため」はいずれも目的が学習活動・学習内容以外のところにあり、それらに近づくための

07 秋 08 秋

中 国 0 12

香 港 0 2

韓 国 5 1

タ イ 2 0

マカオ 1 1

カナダ 2 0

計 9 16

07 秋 08 秋

短期留学生 5 9

長期留学生 5 7

その他 1 0

計 9 16

<出身地域>        <所属>

(6)

手段として学習を捉える、いわゆる「外発的」「道具的」な種類の動機であると言えるが、

本科目においては、履修者は外発的な側面よりも内発的な側面から学習を捕らえ、履修し ている傾向が示された。

 これらの動機を詳細に把握するため、自由記述による回答も併せて求めた。結果を表 -3 に示す。2007・2008 年度の両年度にわたって最も多かったのは、「日本文化(特に現代大衆 文化)への理解促進」であり、次いで「日本の現代大衆文化への関心」、さらに、「学習活動 への関心・期待」、「日本人とのコミュニケーション能力の増加」、「自身の専門領域への有 用性」、「その他」となった。「その他」には、「もっと日本語を上手になるため」「中級の同科 目を履修して面白かったから」が見られた。

表 2:2007・2008 年度の「上級・現代大衆文化」履修動機

 全体を見ると、履修者の「現代大衆文化」への関心や動機の強さは実に幅があるというの が特徴的な点である。最も記述の多かった「日本文化(特に現代大衆文化)への理解促進」

を例に取ると、5 歳の頃から関心を持って追い続けてきた日本の現代大衆文化をより深く 追究したいというものから、「日本に住んでいるから日本の文化をもっと知りたい」という ものまで、個人的な背景に基づく様々なレベルの動機が混在している様子が見られた。

 実際、これらの結果を念頭に置きつつ、2007 年秋学期の履修生 2 名(学習者 A、B)への インタビューを行ったが、ここでもそのことが示された。まず、学習者 A(短期留学生、

男子)は、幼少時より日本の漫画を高校生までで 400 冊以上も購入し、常に日本の現代大 衆文化に囲まれて育ったと言う。現在も日本のファッションや芸能に強い関心を持ってお り、本科目の履修動機についても、「『大衆文化』って聞いたら、最初はマンガとかアニメ とかドラマとか、自分の好きなこともあるんじゃないかと思って、ああ、これ、参加しな いとだめだなと思って参加しました」と述べ、現代大衆文化への関心の強さと、その自身 の関心事が学習の素材となることへの好奇心や期待が履修動機に結びついたことに言及し た。開講時、学習者 A は、今まではマンガや音楽を単に楽しんでいたが、履修に当たって、

「もっと深く話をしたい」と考えたという。

 一方、学習者 B(長期留学生、男子)は、母国において高校から日本語を学び始めたが、

日本語学習と現代大衆文化の結びつきは必ずしも強くなく、来日後も特に現代大衆文化に 強い関心があるわけではなかったという。しかし、履修動機としては、「日本のカルチャ

  07 秋 08 秋 計

内容が面白そうだから 8 15 23

日本の現代大衆文化に関心があるから 7 12 19

役に立ちそうだから 3 8 11

単位取得のため 3 4 7

その他 1 1 2

計 22 40 62

(7)

̶ 92 ̶ ̶ 93 ̶

ーを知るためにこの授業をとった」と述べ、同時に、この授業に参加することで「友達を増 やせればいいなあと思っていた」とも言及した。

 このように、クラス内における履修前の段階での現代大衆文化との関わりや知識、また 関心の強さは多様であり、学習者個々の履修動機にはかなりの幅が見られることが示され た。

表 3:2007・2008 年度の「上級・現代大衆文化」履修動機に関する自由記述

3. 2. 2 中級クラスの履修者の履修動機

 2007・2008 年度の『中級・現代大衆文化』科目における履修者数とその背景は表 -4 のと おりである。

表4:2007・2008年度上級・現代大衆文化履修者の背景      <出身地域>

07 春 07 秋 08 春 08 秋

中国(香港・台湾含む) 2 1 3 1

中国(アメリカ在住) 0 0 0 1

アメリカ 10 7 5 7

ドイツ 0 1 0 0

インド 0 1 0 0

デンマーク 0 1 0 0

モンゴル 0 1 0 0

マレーシア(アメリカ移住) 0 1 0 0

韓国 0 0 3 2

韓国(アメリカ在住) 0 0 0 1

アイスランド 0 0 0 1

タイ 0 0 0 2

ブラジル 0 0 0 1

計 12 13 11 16

07 秋 08 秋 計 日本文化(特に現代大衆文化)への理解促進 1 10 11

日本の現代大衆文化への関心 0 7 7

学習活動への関心・期待 0 4 4

日本人とのコミュニケーション能力の増加 1 2 3

自身の専門領域への有用性 1 1 2

その他 1 3 4

計 5 23 28

(8)

 所属については、08 年度春学期に 1 名、学部所属の長期留学生の履修者があったのみで、

あとは全員短期留学生ある。また 07 春には 4 名、07 秋にも 4 名、08 春に 2 名、08 秋に 4 名 のクラスゲストが参加した。

 出身地域を見ると、上級の履修者と最も異なるのはその多様性である。また言語や文化 的な背景についても、その地域で生まれ育った学生もいれば、留学のために他国に渡った 学生や、日系アメリカ人学生、日系ブラジル人学生もおり、多言語、多文化を背景とした 学生が集まったと言ってよいクラスとなった。またこれは、世界的な規模で日本の大衆文 化への興味が広まっていることの現れとも言えるだろう。

 授業を履修した理由としては、表 -5 のとおりであるが、一番多いのは「日本の大衆文化 について広く知りたい・もっと詳しく知りたい」「大衆文化についての最新情報が知りたい・

流行について知りたい」、そして「日本の大衆文化に興味がある・好きだ」というものであ った。

表5:2007・2008年度の『中級・現代大衆文化』履修動機

07 春 07 秋 08 秋 計 日本の大衆文化について広く知りたい・もっと

詳しく知りたいから 5 11 13 29

日本の大衆文化についての最新情報が知りたい・

流行が知りたいから 8 6 10 24

クラスゲストやクラスメイトと話し合いがした

いから 6 3 5 14

新しい言葉や表現が知りたいから 5 7 1 13

日本の大衆文化に興味がある・好きだから − − 10 10

       *学期によって質問項目が改訂されているため、カウントしていない項目がある。

 中級も、上級の分析にあったように学習内容への興味や関心による「内発的」な動機が主 であると言える。また、「新しい言葉や表現が知りたい」や「クラスゲストやクラスメイト と話し合いがしたい」というのは、興味のあるトピックについて日本語で話すことを通し て、日本語でのコミュニケーション能力を高めたいという意欲の表れであろうと考えられ る。

 アンケートでは、授業でどんなことを学びたいかということについても、自由記述によ る回答を求めた。中で多かったのは、「もっと詳しくなりたい」「今、あまり知らないので いろいろ知りたい」というような現代大衆文化への理解を促進したいというものであっ た。また「クラスゲストと話し合いたい」「発表や話し合いなど、たくさん話したい」とい うコメントが見られ、『現代大衆文化』の学習活動に対する学習者のイメージや期待がうか

(9)

̶ 94 ̶ ̶ 95 ̶ がわれた。

表6:2007・2008年度の『中級・現代大衆文化』の履修動機に関する自由記述

07 春 07 秋 08 秋 計

日本の現代大衆文化の理解促進 7 7 11 25

日本の現代大衆文化への関心 3 9 6 18

学習活動への関心・期待 0 1 6 7

自身の専門領域への有用性 1 0 0 1

 その他、自由記述には学習者の様々な興味が書かれており、学習者の多岐にわたる興味・

関心がよく現われていた。以下にいくつか例に挙げる。

例)

・J-POP 曲の歌詞の書き方とか、どうやって書くかを習いたいです。

・I want to learn more about why certain parts of culture are popular. たとえば . . .  why this fashion is bad, and everybody loves another kind of fashion.

・とくに好きなトピックはお笑い番組/バラエティ番組だから、そんな番組がわかるよ うになりたいと思います。

・I am not much interested in Japanese songs especially pop-songs.  So, I’m hoping to  be get in love with Jpn songs after this term.

・Mainly I would like to learn about Japanese songs sometimes I see songs which girls  are  singing  but  they  use  words  which  I  thought  are  just  for  boys.    For  example  僕  or something else . . .  Sometimes the word they use is different and they put a  point under or over the Kanji to show that they used a different word. I would like  to know, why they do it, or if there are any rules for this.

 こうした履修動機について、インタビューをした 07 春の履修者の一人(短期留学生、

女性)は、「(国にいる時、日本の大衆文化について知る機会は)なかったんですよね。地 理とか歴史とか、昔の文化の勉強はありましたけど、今の現代の文化はなかったので、そ ういう授業も取りたくて」と答えている。興味はあったが、国では授業内外でも触れる機 会がなく、強い興味を持って参加したことがうかがわれる。この学習者は、上記のアンケ ートの回答のように、確固たるトピックを持って授業に臨んでいた学習者とは異なり、ほ とんど知識がなかったが関心が強かったことが履修動機となっていることがわかる。

(10)

3. 3 結果と考察|2:『現代大衆文化』科目を通しての学び 3. 3. 3 『上級・現代大衆文化』履修後の感想

 以上のような履修動機で学習を開始した学習者は、本科目における学習をどのように受 け止めていたのであろうか。学期終了時に実施したアンケート記述からは、以下、表 7 の ような点が明らかになった。

 最も多かったのは「学習活動の意義・有用性」に関する言及である。これは、具体的には 発表・レポート作成によるプロジェクトワークの活動を挙げる者が多く、「いろいろ資料 や HP を調べたり、友達やバイト先の人に聞いたりして大変工夫しました。このレポート の作成を通して、とても勉強になりました」のように、身近にある多くのリソースを活用 して学習に取り組んだことで多くを学んだというコメントが複数見られた。次いで多く見 られた「自己の関心・視野・観点の変化」では、「(以前は)『文化』が難しいことと思いまし たが、授業を聞いて、『文化』は想像よりも簡単なことだということがわかるようになりま した」のように、誰でも大衆文化の担い手になり得ることを認識したという記述が見られ た。また、「1 つの作品に対して、鑑賞するとき、『作品の裏側』も検討しないと、本当の意 味を把握できないと思った」のように、現代大衆文化に関わる鑑賞の仕方の変化への言及 も見られた。さらに、第三番目の「現代大衆文化への理解の範囲の拡大」については、「大 衆文化の範囲が私が思ったより広いということがわかった」「大衆文化へのイメージが変わ った。この前、ずっと大衆文化というとブームのことだけだと思っていた」のような記述 が見られた。

表 7:2007・2008 年度の「上級・現代大衆文化」の履修後の感想

 学習者 A、B へのインタビューでは、両者とも、印象に残っている活動として映画に関 するものを例として挙げた。まず、学習者 A は、学習活動を通してじっくりと映画を見、

クラスメイトと話し合う機会が持てたことで、「こういう角度から映画を見るのもあるん だなと思った。(今までは誰かと)映画を見ても、『あーおもしろかったねー。さ、どこで お茶飲む?』。こんなふうに話し合う機会はなかった」と述べた。また、発表活動を通じて

  07 秋 08 秋 計

学習活動の意義・有用性 3 9 12

自己の関心・視野・観点の変化 5 6 11

現代大衆文化への理解の範囲の拡大 0 10 10

協働による学習成果 1 3 4

学習活動の楽しさ 3 1 3

知識の増加 1 2 3

計 13 31 43

(11)

̶ 96 ̶ ̶ 97 ̶

自身の取り上げたテーマに詳しくなり、発表後も関連するバラエティ番組などを見るよう になるなど生活の中の自身の選択に変化が生じ、それによって日本社会や文化への関心が 高まり理解が進んだように感じると述べた。

 一方、学習者Bは、「内容をもっと深く見て、監督や俳優さんの価値(観)は何か、ぼく たちにどういうことを伝えようと思ってるか、そのことをもっと深く考えたほうがいいん じゃないかなと思いました」と述べた。学習者 B はもともと大衆文化への関心は高くなか ったが、「この授業の中でいろんなことを勉強して、いっしょの友達とかの交流の中でも、

今何がはやってるとか、自分の知らないことを知るようになってきて、それで現代大衆文 化にもっと積極的に知ろうと思ったんで、またそれがきっかけで、今度機会があれば勉強 しようと思った」と、自己の関心の範囲が拡大したことに言及した。さらに学習者 B は、

学習開始時のアンケートで、クラスメイトとの交流を広げたいと書いていたが、実際に学 習活動に参加し、発表・レポートの活動を通して「自分は現代大衆文化の中で興味を持っ ているものをクラスメイトに紹介したことで、よりよい意見がまとまって、みんなに伝え たいことをはっきりできた」と述べ、他者との協働的な学習による成果を得たことにも言 及した。

 以上のように、調査の結果から、本科目の履修者は学習活動を通じて、現代大衆文化へ の関心やその範囲を変化させていることが示された。これらを 2 − 1 で既述した本科目の 基本概念と照らし合わせると、第三番目の概念である「批判的」「多角的」考察の観点や、

第四番目の概念である「相互リソース」としての観点が学習活動を通して獲得されていたと 言えよう。

3. 3. 2 『中級・現代大衆文化』履修後の感想

 ここでは、中級の学習者の学びについて分析する。中級では、学期末のアンケートを質 問項目ごとに 5 段階評価をする形式を取っている。学習者が 5 段階中 4 以上をつけたもの を集計し表 -8 にまとめた。

表8:『中級・現代大衆文化』履修者の履修後の感想

07 春 07 秋 08 秋 計

自己の関心・視野・観点の変化 11 13 9 33

現代大衆文化への理解の範囲の拡大 11 12 8 31

知識の増加 7 10 10 27

学習活動の楽しさ 9 12 9 30

言語知識の増加 6 11 10 27

記述によるコメントには、以下のようなものが見られた。

(12)

・多分この授業で習ってなかったら、こんなおもしろい物に気づかないと思う。

・I think it was a fun class, which based on more on interaction rather than traditional  class teaching lectures.

・辞書に出ていない、自然な日本語が学べた。

・大衆文化について興味が上がった。

・多様なジャンルやリソースに触れることができてよかった。

・現代大衆文化の背景にある社会文化要因や消費行動などが理解できてよかった。  

・帰国する際に、小冊子をお土産にできるのがうれしい。母国の大学の先生や友達に自 慢できる。

・生きた日本語に触れ、自分の日本語能力の不備を実感した。将来は映画やドラマを字 幕なしで理解できるようになりたい。

・大衆文化についての興味や好み、人によって多種多様であることを発見し驚いた。

・発表の準備は大変だが、クラスメイトの発表を聞き、いろいろなことが学べたことが 最大の収穫。

・クラスゲストとの討論が意義があった、討論を通して日本語に自信がついた。

 こうしたコメントを本科目の 6 つの基本概念と照らし合わせて考察すると、基本概念②

「学習者の興味・関心に柔軟に対応」した題材を取り入れ、基本概念④の「授業参加者が互 いにリソースとなり学び合う」活動や基本概念⑥の「アウトプット型学習活動」を通して、

興味・関心の拡充、大衆文化作品鑑賞の視点の変化、自身の日本語学習への動機づけとい った学習成果を認識していることがわかる。

 先の学生のインタビューにおいても、国にいる時は「日本人は何を見てるか、興味あり ますけど、YouTube を見ると本当に適当なものがあるので、でも何が流行ってるかどう かわかんなくて、出ているものを適当にみるだけだった」のが「この授業でいろいろ聞くよ うになったから、きっかけかなと思います。」と理解の幅や情報収集の幅が広がったことが うかがわれる。クラスゲストについても「本物の日本人が教えてくれるのでよかったです」

と答えており、同年代の日本人学生とのやり取りが生きた情報として伝わったことがわか る。またクラスメイトについては、「○○さんとかよく知ってましたよねぇ」「あの人も外 国人なのによく知ってて、自分ももっと探すようになりました。あの人も知ってるから私 も知りたいという気持ちになりました」というように、クラスメイトをリソースとして興 味・関心を広げたことがうかがわれる。その他の履修者のインタビューからも「討論がお もしろかった」「みんなの興味がこんなに違うことが発見できてよかった」「先生だけでな く、他の留学生やクラスゲストから学んだことが多かった」という回答があり、上記の考 察を裏付けることとなった。また「発表のハンドアウトなど、日本語と自分の母語で書け たので、気分が楽だった」というコメントがあり、中級の履修者の言語面の問題に対応し た効果がうかがわれた。

 しかし、一方で、アンケートには「日本語の語彙・表現を詳しく教えてほしい」という

(13)

̶ 98 ̶ ̶ 99 ̶

ような、語彙や表現、言語スキルを学びたいという記述も見られた。本実践では、こう た言語スキルの習得については、学習の中心としないことを基本概念の背景のひとつとし ているが、中級の学習者の場合には、それが逆に中級の学習者に物足りなさを感じさせた と言え、本科目の基本概念と言語スキルの習得とのバランスをどのように取るかが、中級 クラスの大きな課題として浮き彫りになった。

4.総合的考察と今後の課題

 以上、本研究では、中級・上級の『現代大衆文化』科目の履修者の履修動機とともに履修 後の学びを、履修者への事前・事後アンケートとインタビューを通して考察した。その結果、

まず履修する学生の履修動機に関しては、中級・上級の学生とも、日本の現代大衆文化へ の強い興味・関心から履修を決めた学習者が多く、さらに知識や情報の範囲を拡大したい という理由が多く見られた。これは、学習内容そのものに関心を持っている「内発的」な動 機づけによるものであると言うことができ、『現代大衆文化』科目の履修者は、「外発的」「道 具的」な動機よりも、「内発的」な側面から学習を開始していることがわかった。しかし、

学習者の興味・関心の詳細を見ると、これまでの現代大衆文化の関わりや知識の量、関心 の強さ、関心のある分野などが実に様々であることがわかった。こうした学習者がクラス 内に混在していることを、授業実践者である教師は十分に理解したうえで、学習者の興味・

関心の幅に対応できる授業展開や素材の取り上げ方をしていくことが、この科目における 重要な点であると考えられる。これらについては、教師がどのような役割を果たすべきか を含め、今後も様々な試みの中で検討していく必要があろう。

 また、授業を通した学びについては、学習活動を通して中級・上級の履修者とも日本の 現代大衆文化への興味・関心の範囲が広がり、自己の視点の変化についても認識されてい ることがわかった。これは、2− 1 で既述の本科目の基本概念に照らし合わせて検討すると、

4 つ目の基本概念である「参加者がお互いにリソースとなって学び合う」ことを通して得ら れた協働による学習成果であるとも言える。このことから、『現代大衆文化』科目における 実践の上で、参加者間のインターアクションの重要性が改めて認識されたといえる。この ような協働による学びがもたらす効果を念頭に置き、今後、学習活動設計を行うことで、

本科目の学習成果をより高いものにすることにつながると考えられる。

 本研究を通して、学習者は、現代大衆文化への強い興味・関心という内発的な動機に基 づいて本科目を履修し、その結果、大衆文化理解と言語学習の両方の面で達成感、満足感 を得ていることがわかった。こうした達成感や満足感は、さらに大衆文化に触れたい、理 解したいという情意面における学習動機の強化につながると言える。それはつまり、大衆 文化を通した、継続的、自律的な学習へ発展していくことになるのではないだろうか。

 以上のように、本研究では、「現代大衆文化」科目における学習者の履修動機と活動への 学習者の学びを焦点として述べてきたが、本研究では実際にアンケートやインタビューを 実施できた学習者の数が少なく、中級・上級の動機および学びの差異ついては詳細な傾向 を明らかにすることができなかった。そのため、今後、調査手法についても検討しつつ、

(14)

調査を継続するとともに事例を検討することを併せて行うことで検証する必要があると考 える。また、現代大衆文化と日本語学習との関わりは、履修者へのアンケートやインタビ ューを通して、その深い関わりを示すような記述・言及がしばしば見られたが、本研究の 趣旨とは異なるため、ここでは検討することができなかった。これについては、機会を改め、

学習者に対する詳細な調査を通して分析と考察を深めたい。 

付記

 本研究は、桜美林大学言語教育研究所より研究運営助成を受けたものである。

 日本語の授業に日本人学生が参加し、学習活動をサポートする。本学では「クラスゲスト」

と呼んでいる。

 クラスの拡充は、『現代大衆文化』の履修者数が増加したことと、履修者の日本語力の差 に対応するためである。本学の日本語教育プログラムでは、学習者の日本語レベルをⅠ

(初級)〜Ⅵ(上級)の 6 段階に分けているが、『現代大衆文化』の中級クラスは 6 段階のⅢ あるいは Ⅳ(中級前半〜後半)の学生が履修対象で、上級クラスはⅤ〜Ⅵ(中上級〜上級)

の学生が履修対象となっている。

 中級と上級で同じアンケートを実施しているのではなく、それぞれのクラスに合わせて 質問項目等を変えているため、集計の方法が若干異なっている。

 履修者の出身地域は、履修者自身の申告した表現にしたがって表記する。

参考文献

有賀千佳子(1990)「中級における映像教材活用の可能性|ドラマ素材を用いた授業の一 例|」、『日本語教育』71 号

石塚美枝・宮副ウォン裕子・守谷智美 (2007) 「参加者の多文化・多言語背景をリソースと して生かした授業実践 |メディア・リテラシーの育成をめざす 『現代大衆文化』|」 

『ヨーロッパ日本語教育』12

石塚美枝・宮副ウォン裕子・守谷智美(2008)「メディア・リテラシーを育てる『現代大衆 文化』|参加者の多様性・多文化理解を促す日本語授業実践|」『桜美林言語教育論叢』

第 4 号

岩淵功一(2004)『越える文化、交錯する境界』山川出版社 上淵寿編著(2004)『動機づけ研究の最前線』北大路書房

坂根庸子(1998)「映画を使った教材の開発と授業報告|映画『Shall We ダンス?』を用い て」、『関西外国語大学留学生別科日本語教育論文集』8 号

柴田智子(2008)「アニメを利用した日本語教育|学生の評価と Oral Summary の分析を中 心として|」『外国語としての日本語教育 多角的視野に基づく試み』(畑佐由紀子編)

くろしお出版

(15)

̶ 100 ̶ ̶ 101 ̶

長谷川恒雄・土井眞美・保坂敏子(2007)「授業における映像メディア(ドラマ・アニメ等)

の活用」『日本語教育学会 2007(平成 19)年度春季大会予稿集』

細川英雄編著(2008)『ことばの教育を実践する・探究する活動型日本語教育の広がり』凡 人社

Dörnyei, Z (2001) Teaching and Researching Motivation. Harlow: Longman.

Oxford, R. & Shearin, J. (1994) Language learning motivation: Expanding the theoretical framework.

Modern Language Journal 78: 12-28.

参照

関連したドキュメント

(16) に現れている「黄色い」と「びっくりした」の 2 つの繰り返しは, 2.1

健学科の基礎を築いた。医療短大部の4年制 大学への昇格は文部省の方針により,医学部

大学は職能人の育成と知の創成を責務とし ている。即ち,教育と研究が大学の両輪であ

強者と弱者として階級化されるジェンダーと民族問題について論じた。明治20年代の日本はアジア

  「教育とは,発達しつつある個人のなかに  主観的な文化を展開させようとする文化活動

大正デモクラシーの洗礼をうけた青年たち の,1920年代状況への対応を示して」おり,「そ

テューリングは、数学者が紙と鉛筆を用いて計算を行う過程を極限まで抽象化することに よりテューリング機械の定義に到達した。

今回の SSLRT において、1 日目の授業を受けた受講者が日常生活でゲートキーパーの役割を実