2010 年 12 月 24 日 発 行 長 崎 大 学 経 済 学 会
《研究ノート》
収益費用アプローチの計算構造
岡 田 裕 正
《研究ノート》
収益費用アプローチの計算構造
岡 田 裕 正
Abstract
The purpose of this paper is to clarify fundamental income computa- tional structure of the Revenue-and-Expense view. In order to pursue this purpose, this paper begins with clarifying fundamental structure of income calculation in the income statement. Under the Revenue-and- Expense view, revenue is financial expression of output, expenses is financial expression of input. Income is calculated by comparing revenue and expense. On the other hand, asset is the place of storage of input or output. Liability and capital mean resources of fund. On the ba- sis of this fundamental structure, this paper points out some features of this structure. The main feature is that this structure could define input and output and select the input-output process, in other word, income is able to be defined on the basis of this process.
Keywords:Revenue-and-Expense view, Asset-and-Liability view, In- put, Output, Income statement, Balance sheet, Articulation
はじめに
現在国際的に進む会計基準のコンバージェンスやアドプションの対象とな
る国際財務報告基準( International Financial Reporting Standards: IFRS )
やアメリカの財務会計基準書( Statement of Financial Accounting Stan-
dards: SFAS )などの会計基準の基盤ともいえる利益概念は,資産負債アプ ローチ( Asset-and-Liability view )に基づくといわれる1。他方で,アメリ カの財務会計基準審議会( Financial Accounting Standards Board: FASB ) の概念ステートメントでは,収益費用アプローチ( Revenue-and-Expense View )に特徴的とされる当期純利益と資産負債アプローチに特徴的な包括 利益の両方がみられることから,利益概念の混在という評価がなされること もある
2。さらに,それぞれのアプローチの計算構造は相違しているとも言 われる
3。しかし,一つの会計基準の体系の中に,二つの相違する計算構造 が存在しうるとは考えにくい
4。岡田(2003)では,この問題意識に基づい て,資産負債アプローチの計算構造の中で,収益費用アプローチに特徴的に みられる利益概念が存在しうることを明らかにした。もとより,そこでは収 益費用アプローチにおける計算構造が共存しているのではない。あくまでも 資産負債アプローチに基づく計算構造の枠組みの中で,収益費用アプローチ において特徴的に見られた利益が存在しうるということを明らかにしたもの である。
しかし,このように資産負債アプローチに基づく計算構造において,収益 費用アプローチに特徴的な利益が存在しうると考えることができるのであれ ば,逆に,収益費用アプローチに基づく計算構造において,資産負債アプロー チに特徴的な利益が存在しうるという考えも成立する。本稿は,この点につ いて,検討するものである
5。
この課題に対して,本稿は,岡田(2003)と同様に, FASB が1976年に公 表した『討議資料,財務会計および財務報告のための概念フレークワームに 関する論点の分析:財務諸表の構成諸要素とその測定』 ( FASB Discussion 1 紙(2005)p.64,新田(2003)p.5,広瀬(2010)p.34
2 津守(2002)p.154 3 津守(2002)p.149 4 北村(2007)p.9
5 角ヶ谷(2009)では,収益費用アプローチを会計的観点(原価主義)に基づく会計的一元 論,資産負債アプローチを経済的観点(公正価値,現在価値会計)に基づく経済的一元論 と分けて捉え(pp.5‑10),現実には両観点の相補的な関係から二つのアプローチの接点あ るいは調整について考察している。
Memorandum, An Analysis of Issues Related to Conceptual Framework for Financial Accounting and Reporting: Elements of Financial Statements and Their Measurements −以下, FASB 討議資料と略)に基づいて,収益費用 アプローチの基本的な計算構造を明らかにする。 FASB 討議資料を用いるの は,収益費用アプローチと資産負債アプローチの特徴をまとめたものである からである。また,ここで「基本的」というのは,さまざまな社会的制度的 な要求に対する影響をできるだけ排除したいと考えているからである6。そ の意味では, 技術的な側面を明らかにすると言い換えてもよいと考えている。
次いで,この基本的な損益計算構造を基に収益費用アプローチの計算構造の 特徴を取り出したい。
1 収益費用アプローチの基本的な計算構造
岡田(1999)では, FASB 討議資料に基づいて,資産負債アプローチと収 益費用アプローチの特徴を,表1のようにまとめている。
表1:資産負債アプローチと収益費用アプローチの特徴
会計の目的 会計の対象 鍵 概 念 利 益 資産負債
アプローチ 富の増減の測定 企業の富 資産と負債 正味資源の増分 の測定値 収益費用
アプローチ
企業や経営者の
業績の測定 企業の行為 収益と費用 企業の効率性(収 益力)の測定値 出所:岡田(1999)p.70
(1)損益計算書での損益計算
岡田(2003)では,表1にまとめた FASB 討議資料に示された特徴に基づ いて,資産負債アプローチの計算構造を,貸借対照表で損益計算が行われ,
そこで計算された損益の原因を,損益計算書において収益と費用とを用いて
6 ただし,負債というような所有関係を前提とする概念も含んでいるという意味で,歴史的な側面を含んでいる。
説明する関係にあることを示した。これに対して本稿で対象とする収益費用 アプローチの特徴についても表1に示した通りであるが, FASB 討議資料で は以下のように説明している。
収益費用アプローチの利益については, 「利益が,儲けをえてアウトプッ トを獲得し販売するためにインプットを活用する企業の効率の測定値であ る」( FASB (1976) par .38)というように,利益を効率性の測定値として説明 をしている
7。また,会計の対象については,「利益測定は,事物ではなく行 為を対象としており,したがって一義的には企業が何を行なったかを対象と する」( FASB (1976) par .48)と述べ,このための鍵概念として費用と収益が あげられている
8。ここで,費用は,企業活動へのインプットの財務的表現 として,収益は,企業活動からのアウトプットの財務的表現として説明され ている( FASB (1976) par .38)。インプットを内容とする費用とアウトプット を内容とする収益をそれぞれ損益計算書の借方と貸方に表示することを通じ て,企業活動の流れが表示され,さらにこれらの対応を通じて損益を計算し ていると考えることはできるだろう
9。逆に,収益費用アプローチにおける 損益は効率性を表示するものといわれるが,このことは,費用と収益をそれ ぞれインプットおよびアウトプットとして捉えて比較することと関わってい ると考えられる。利益があるということはインプットを上回るアウトプット があったということであり,利益が大きいほどインプットに対するアウトプ ットの割合が高いということになる。この意味で,利益は効率性を表すとい うことはできるであろう。
7 論者によっては,効率性ではなく収益力の測定を目的とすると述べている(FASB(1976) par.38)
8 シュマーレンバッハ著『十二版・動的貸借対照表論』(土岐訳)も,「貸借対照表が経 営において演じたる運動を表わす職分を有する時われわれはそれを動的貸借対照表と称 する。…損益勘定はある計算期間に経過した運動を多少綜合した形をもって表わし,貸 借対照表はこの運動から生じた状態を示すものである。」(訳p.18)というように,会計 の対象を,運動としている。また,「企業の成果を計算することが商人緊急の使命なりと 唱えることは,これによって同時にその成果の成分たる収益と費用とを定めることが非 常に重要であることを言うのである」(訳p.27)というように,収益と費用とを重視して いる。その結果,損益は収益と費用との差額で計算されるのである(訳p.36)。基本的に,
シュマーレンバッハの所説も,収益費用アプローチに属すると考えてよいであろう。
9 また,インプットやアウトプットの代わりに,費用の内容を努力,収益の内容を成果 と捉える説もある(Paton=Littleton(1940)pp.14‑18,訳pp.23‑29)。
このことから,費用と収益を鍵概念とした損益計算を考えることが必要と なる。資産負債アプローチが,利益=収益−費用という計算式を,利益を定 義するものでもその金額を決定するものでもない( FASB (1976) par .211)と していたのに対して,収益費用アプローチでは,1期間の収益と費用との差 額が利益とされている( FASB (1976) pars .38,40,56,214)。すなわち,収 益−費用という計算に基づく利益が,企業の業績,あるいは収益力の指標に なるとされているのである( FASB (1976) par .214)。現在の損益計算書をベー スとすれば,この計算は図1のように表すことができる
10。
図1:収益費用アプローチの損益計算書
実際のインプットやアウトプットは多様である。そのため,図2に示すよ うに,多様な種類のインプットやアウトプットが種類別に費用勘定や収益勘 定に計上され,それらが定期的(決算日)に損益計算書に集合され,対応さ れることになる。
図2:収益費用勘定と損益計算書との関係
10 なお,収益と費用の認識問題,たとえば現金主義,発生主義,実現主義という問題は,
ここでは取り上げていない。
(2)貸借対照表との連携
損益計算書における損益計算を,図1または図2のように考えることがで きるとしても,次に貸借対照表との関係(連携)を考える必要がある。収益 費用アプローチの論者たちも,損益計算書と貸借対照表との連携を強調して いるからである( FASB (1976) par .41)。だが,収益費用アプローチにおいて は,測定された利益額と資産・負債額の連携について, APB ステートメン ト第4号 Basic Concepts and Accounting Principles Underlying Financial Statements of Business Enterprises のように資産負債アプローチに近いも のから,ペイトン=リトルトンの『会社会計基準序説』のように資産負債ア プローチとは対照的な位置にあるものまで,多様な見解があるとされている ( FASB (1976) pars .215‑220)
11。
このように多様な見解を含むものの, FASB 討議資料は,企業の行為を費 用(インプット)や収益(アウトプット)として説明している。この点に収 益費用アプローチの共通性を見出していると解することができるであろう。
しかし,このように言うことができるとしても,インプットやアウトプット されるのは具体的な財貨用役である。また,インプットやアウトプットとい う企業行為そのものを表すためには,企業行為の結果具体的に生じた財貨用 役の増減が利用されることになる。この点について, FASB 討議資料は,次 のように述べている。
「特定の営利企業の利益,収益,費用,利得および損失は,その企業が参 加するか,またはその企業に影響を及ぼす取引によって生じる。これは,利 益とその構成要素が資産および負債と共有する特性である。 」( FASB (1976) par .200)
11 FASB討議資料によると,APBステートメント第4号を資産負債アプローチに近いとす
る理由は,それが資産や負債を経済的資源と責務で定義づけてはいるからであるが,他 方で繰延費用や繰延収益といった必ずしも経済的資源や責務とは関係ないものも含めて いる点で収益費用アプローチとされている(FASB(1976)pars.215‑217)。これに対して,
『会社会計基準序説』は,資産と負債は,費用と収益の対応の後で残され,将来の対応 を待っている借方項目と貸方項目として位置づけられている点で,APBステートメント とは対照的とされている(FASB(1976)par.218)。
すなわち,資産や負債は,アウトプットやインプットを内容とする収益や 費用と同様に取引から生じるという点では同じ性格のものとされているので ある。
これを,資産 a を払いだして(インプットして) ,資産 b を取得した(アウ トプットした)という取引についてみれば,次のようにインプットの側面と アウトプットの側面とに分けた仕訳を考えることができるであろう。
仕訳 A (インプット) : (借) 資産 a (費用) / (貸) 資産 a 減少 仕訳 B (アウトプット) : (借) 資産 b 増加 / (貸) 資産 b (収益)
最初の仕訳 A では,その借方において資産 a のインプットという行動を示 している。貸方は,このインプットの結果,資産 a が減少したことを表示し ている。そして,資産 a の減少量をもってインプットが評価されることにな る。
同様に,仕訳 B の貸方は,資産 b がアウトプットされたという行動を示し ている。借方は,このアウトプットの結果として,資産 b が増加したことを 表示している。そして,資産 b の増加量で,アウトプットが表示されること になる。
これらの仕訳に基づいて二つの財務諸表の連携を考えれば,図3のように なると考えられる。費用(インプット)はインプットに伴い減少した資産 a で測定され,収益(アウトプット)は増加した資産 b で測定される。これに よって,損益は損益計算書で計算・表示される。他方,この過程を通じて増 減した資産 a および資産 b が貸借対照表に計上されることになる
12。他方,資 産として取得されたもののうち,インプットされなかった部分は貸借対照表 に計上されることになる。
12 もちろん,最終的には,貸借対照表でも損益計算書でも一期間または一時点での純額 だけが計上されるので,現実の財務諸表はこれとは相違する。
図3:収益費用アプローチの貸借対照表と損益計算書との関係
ただし,最初に資産 a をインプットするためには,インプット前にこの資 産 a を保有していなければならない。そこで,最初のインプットに先立って,
いわゆる元入れが必要となる。この点について, FASB 討議資料では,「所 有者による出資及び企業資産の所有者への分配は,利益の測定にあたって決 して算入されない」としている( FASB (1976) par .198)
13。つまり,元入れを 損益計算と係るインプットやアウトプットと位置付けてはいないのである。
たとえば,ペイトン=リトルトンの『会社会計基準序説』では,資産の用 途としてはまず生産があるが,副次的用途としては負債の返済や出資額の償 還分だけ減り,借入や出資によって増えることを述べたのち,利益に関連す る資産変化を資本に関連する資産変化から区別する必要があることを述べて いる( Paton = Littleton (1940) p .100,訳 pp .167‑168) 。このことは,資本の 元入れなどに基づく資産の増減は,利益とは無関係であること,つまりイン プットやアウトプットの関係から切り離されていることを意味している。
他方, APB ステートメントにおいても,財務会計や財務諸表の目的の一 つとして,利益志向的な活動から生じる企業の純資産(資産から負債を控除 したもの)の変動に関して信頼できる情報を提供するものとしたうえで( par . 78),利益志向的な活動は企業と所有者との間の取引以外の企業活動のすべ てを表すとしている( par .78, footnote 21)。ここでも,資本の増減をもたら す取引は除外されているのである。
したがって,資産 a のインプット前に,以下のような仕訳 C が行われるが,
貸方はインプットやアウトプットとは係らせないために,貸借対照表の貸方 に計上されることになっているといえるだろう。
13 このパラグラフは,資産負債アプローチについても該当することである。
仕訳 C (資産 a の元入) : (借) 資産 a / (貸) 資本金
このようにインプット前の資産の取得を,損益計算と関係づけないように する結果,図3に示すように,収益費用アプローチにおいては,費用と収益 に関連するインプットとアウトプットが損益計算書で表示され,貸借対照表 と連携して企業活動の流れが表示される関係になっていると考えられる
14。 そして,この点で,貸借対照表で計算された利益の原因を損益計算書で表示 するという関係になっている資産負債アプローチとは異なっていると考えら れる。
なお,図3では負債が表示されていないが, FASB 討議資料では,負債に ついても多様な定義を示している。このうち, 「収益費用アプローチの支持 者は,企業の資源の移転をもたらす責務を表さない繰延収益は期間利益を適 正に測定するために必要であると主張する」( FASB (1976) par .154)という ように,適正な損益計算のためには,責務を表さないものが負債に含まれる という意見もあげられている。しかし,「少なくとも資本の源泉と見る観点 の支持者の一部は,貸方繰延所得税,繰延投資税額控除,自家保険引当金お よびセール・アンド・リースバック取引に基づく利得などの繰延収益は,資 源の移転をもたらす責務を表さないにもかかわらず適切に負債に含まれる
15
。なぜなら,それらは資本の源泉だからである。」( FASB (1976) par .156) というように,資本と負債とは資産の源泉という点で同じとする見解も示さ れている。
これらのうち,負債を責務と関連させる考えは,負債の内容を取り上げた
14 連携という点で,収益費用アプローチの支持者は必ずしも全員が連携を支持している わけではない(FASB(1976)par.73)。損益計算書だけが企業活動の過程を表示し,貸借対 照表を関係ないと考えれば必ずしも連携を必要とはしないであろう。15 同様のことは資産についてもいえる。収益費用アプローチにおいては,資産について も,そ れが経 済的資 源の 属性を 表して いるか どうか につ いて, 関心を 持って いな い (FASB(1996)par.92)。このように経済的資源や責務と関係ない,繰延収益や繰延費用が 生じるのは,このアプローチがさらに適正な期間損益計算のために費用と収益の適切な 対応を問題にするからである。
意見である。だが,収益費用アプローチが企業の活動を対象としており,こ れを表示するための基本的な計算構造を考えるという観点にたてば,負債を インプットされる資産の源泉を表す項目であると考えるべきであろう。ただ し,これに責務などの内容を付与させるのは,所有者との取引から生じた資 本と区別するためであると考えられるのである
16。
さらに,収益と費用との差額として計算された利益(あるいは損失)も同 様に,本来は単なる差額としての性格しか持っていない。しかし,利益が生 じたということは,インプットを上回るアウトプットがあったということで あり,インプットもアウトプットも資産の増減を伴うものであるから,期末 には資産が増加していることになる。したがって,損益計算書で算定された 利益は,一期間における資産増加の原因(源泉)といえるので,損益計算書 から振り替えて,資産が増加した源泉を表示することになる。したがって,
損益計算書で計算された損益が貸借対照表に振り替えられることになるので ある。
図4:収益費用アプローチの貸借対照表と損益計算書との関係
もっともこのような基本的な損益計算においては,損益計算書および貸借 対照表での利益は,純資産の純増減に帰着することとなる( FASB (1976) par .49) 。しかし,損益の計算においては収益と費用との適正な対応が求め られるので,いわゆる経済的資源や責務を内容としない資産や負債が生じる ことになる。そのため,純粋に,経済的資源と責務との差額を内容とする純 資産の純増減とはならないのである。
16 さらにいえば,負債と資本を区別するのは,利息を費用として扱うことに関連してい ると思われる。利息を費用として計上することは,株主に配当する財源から利息を除外 することである。このためには,負債と資本,つまり債権者に帰属する金額と株主に帰 属する金額とを区別することを計算構造に組み込んだといえるだろう。
2 収益費用アプローチの特徴
前節では,収益費用アプローチのもっとも基本的と考えられる計算構造を 検討した。このような計算構造を基本的なものとすることができるなら,こ こから次のような特徴があげることができるだろう。
まず,第1の特徴は,この基本的な計算構造を具体的な会計基準として運 用するためには,収益や費用の内容となるインプットやアウトプットの概念 や定義を明らかにすることが必要となることがあげられる。逆にいえば,こ れらの定義が明確でないことがあげられる(工藤(1995) p .116)。 FASB (1976)が指摘するように,収益費用アプローチには多様な論者が含まれてい るが,それはインプットやアウトプットの内容を自由に決定できることに由 来するであろう。換言すれば,このアプローチのもとでは,アウトプットや インプットの内容をどのように定義するかによって,収益や費用を多様に定 義できる可能性があるといえるだろう
17。
そして,このことは利益の内容にも影響する。たとえば,インプットとア ウトプットされるものを現金または現金同等物の収支に限定することができ る。インプットもアウトプットも現金および現金同等物が中心となるので,
この時の損益は,収支差額を内容としたものになるといえるだろう。他方,
インプットやアウトプットの中心を財貨全般としてとらえることも可能であ る。インプットは,企業が保有する財貨であり,アウトプットもまた財貨と いうことになる。したがってこの差額に基づく損益は,資本が除外されるの で資産の純増減に基盤を置いた利益になるといえるだろう
18。
17 同様のことは,資産負債アプローチにおける資産や負債の定義についてもいえる。こ れらは経済的資源と関連付けて議論されるが,さらにこの考えを基準化する時には,経 済的資源をさらに具体的なものにする必要がある。換言すれば,経済的資源をどのよう な内容のものとして決めることによって,具体的な資産や負債が決まってくるのであり,
会計の対象の範囲が決まることになる。さらに,経済的便益を資産・負債の定義をする 際の核になるということができるが,この意味をどのように決めるかも問題になってく る。
18 本稿では,負債を源泉として位置付けたが,特に資産の純増減を内容とする利益との 計算においては,さらに検討する必要があると考えている。単なる源泉とするなら,「純」
資産の純増減を内容とする損益にはならないと考えるからである。
このことと関連して第2の特徴としてあげられるのは,インプットとアウ トプットが生じる過程を選べることができることである。図3では,単にイ ンプットとアウトプットとして示したが,これらが生じる過程には,購買過 程,販売過程,生産過程などの企業活動が考えられるであろう。これらの企 業活動のいずれをインプットやアウトプットの対象として含めるか,逆に含 めないかを選択することが,この基本的な計算構造では可能であると考えら れるのである。例えば,購買過程は収益を生むために計画された努力のプロ グラムの一部であるという理由で,購買過程から利益が生じることがないと される( Paton = Littleton (1940) p .29) 。そうであるとするならば,購買過程 を損益計算の過程から除くことも可能となる。この結果,単に貸借対照表に おける資産の形態の変化が生じただけということになる。
第3の特徴は,インプットやアウトプットのタイミング,つまり何をもっ てインプットやアウトプットが生じたかを決めることができることである。
場合によっては,インプットが生じる前にアウトプットが生じるケースも考 えられるであろう。たとえば,引当金はこの例にあたる。すなわち,将来の 特定のインプットの発生原因が当期に生じており,それが当期のアウトプッ トに貢献しているときインプットの認識が生じ,それが負債の認識を必要と することになるからである。他方で繰延資産のように,インプットが生み出 すアウトプットが長期にわたって生じるものもあるだろう。このとき期間損 益計算の観点から,インプット(費用)としての要件は充足しているけれど も,アウトプット(収益)がまだ生じていないため,すなわち過程がまだ終 了していないため,費用を繰り延べることも可能になる。
このようにインプットやアウトプットをめぐって多様な決定ができること
は,このアプローチにおいて利益とされる範囲を拡大あるいは縮小させるこ
とになるであろう。たとえば,購買過程をその対象に含めれば,購買取引で
の損益を認識することが可能となる。生産過程を取り入れれば,生産過程で
の損益の認識 (いわゆる工事進行基準というような発生主義的な損益の認識)
も可能となるであろう。他方,有価証券の時価評価損益を損益として認識す るためには,金融資本の運動というような新たなインプットとアウトプット の過程を仮定することも可能といえるだろう。ここに現在の「その他有価証 券評価差額金」のような項目が損益として計上可能な根拠があるといえるの である。そして,特にこのような拡張が行われることによって,資産負債ア プローチに特徴的とされる時価評価などを受け入れることを可能にすると言 えるのである
19。
結びに代えて
本稿では,収益費用アプローチの基本的な計算構造を描き,そこからいく つかの特徴を見出した。収益費用アプローチの計算構造は,インプットとし ての費用とアウトプットとしての収益との対応による損益計算が行われ,貸 借対照表との連携を通じて企業活動を表すものといえる。そして,このよう な計算構造の特徴として,インプットやアウトプットを多様に定義できるこ と,それがインプットとアウトプットが生じるプロセスを決めることができ ること,さらにそのタイミングを決まることができることである。このこと が,収益費用アプローチの計算構造をもとにしながらも,資産負債アプロー チに特徴とされる項目を含める余地をもたらすといえるのである。この意味 で,収益費用アプローチの計算構造は柔軟性を持つと言える。
だが,岡田(2003)で述べたように,資産負債アプローチに基づく計算構造 も柔軟性があり,そのために収益費用アプローチに特徴的な項目を含めるこ とが可能である。 このように二つの計算構造がともに柔軟性を持つとすれば,
現在の会計基準の議論で言われる計算構造の変化は何を契機として生じるの
19 収益費用アプローチでは,収益と費用が損益計算のための要素であるが,そのために 資産の増減が問題となる。しかし資産の増減は,資本や負債などの元入れとも係る。そ のため,何が資本の増減にかんする取引かを明示することが,このアプローチでは必要 とされる。このことは資産負債アプローチでも同じであるが,資本の決定の問題がここ でも存在しているのである。であろうかということが問題となってくる。また各国の会計基準のコンバー ジェンスまたはアドプションという流れの中で,根本としての計算構造に変 化が生じているのかどうかも問題となってくる。この点は,今後の課題であ る。
参 考 文 献
American Institute of Certified Public Accountants(AICPA)(1970),Statement of the Ac- counting Principles Board No.4: Basic Concepts and Accounting Principles Underlying Financial Statements of Business Enterprises,AICPA.
Financial Accounting Standards Board(FASB)(1976),FASB Discussion Memorandum, An Analysis of Issues Related to Conceptual Framework for Financial Accounting and Report- ing: Elements of Financial Statements and Their Measurement,FASB. (津守常弘監訳
『FASB財務会計の諸概念』,中央経済社,1997年)
Paton.W.A. and A.C. Littleton(1940),An Introduction to Corporate Accounting Standards,
(中島省吾訳『会社会計基準序説』森山書店)
エ・シュマーレンバッハ著,土岐政蔵訳(1959)『十二版・動的貸借対照表論』森山書店 岡田裕正(1999)「計算構造から見たアメリカにおける会計原則等の分類」,経営と経済,
第79巻第2号
岡田裕正(2003)「資産負債アプローチの計算構造」經濟學研究,第69巻第3・4合併号 紙博文(2005)「利益計算思考の変遷とこれからの会計の役割」,経営情報研究,第13巻第2号 北村敬子(2007)「利益概念と割引計算」企業会計,第59巻第6号
工藤栄一郎(1995)「収益・費用概念の定義に関する研究ノート−収益費用アプローチにお ける収益・費用概念について−」,鹿児島経大論集,第36巻第3号
新田忠誓(2003)「国際会計基準における棚卸資産会計−収益費用アプローチとの比較−」, 松山大学論集,第15巻第2号
角ヶ谷典幸(2008)『割引現在価値会計論』森山書店 津守常弘(2002)『会計基準形成の論理』森山書店 広瀬義州(2010)『IFRS財務会計入門』中央経済社
付記:本稿は,文部省科学研究費補助金(基盤研究C)に基づく研究成果の一部である。