経営 と経済 第87巻 第2号 2007年 9月
消費税制度に関する一考察
一 複数税率 ,仕入税額控除方式を中心 として ‑
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栗 原 克 文
Abstract
OneofthemostimportantdiscussionsonJapanesetaxsystem reform includeshow consumptiontax(Value‑addedtax)system ought tobe.FacinglSSueSlikedepopulation,aglngSOCietyandlargebudget deficit,consumptiontaxcanbeaneffectivesourceofrevenuetosecure socialsecurity.Thisarticlemainlyfocusesonmultipletaxratesandin‑
puttaxcreditmethodsoHapaneseconsumptiontaxsystem.
Becauseofregressivenatureofconsumptiontax,taxratereduc‑ tion,exemptiononfoodstuffsordailynecessities,and"invoice‑based creditmethod''underwhichinputtaxcreditisonlyallowedwithin‑
voicehavebeenlargelydiscussed.Therearemanydifficultiesinim‑
plementationofmultipletaxsystem.Whereas"invoice‑basedcredit method''Wouldpromotetransparencyofthesystem,socalled"ac‑ count‑basedmethod"ofJapaneseconsumptiontaxunderwhichthe amountoftaxiscalculatedbasedontherecordofaccountingbookshas advantagesthatenterprlSeSaremotivatedtokeepcorrectaccounting andeliminatetaxaccumulationevenifanexemptbusinessliesina transactionchain,andtheycanreducecostonworkoradministration.
Inlightofthis,theconsumptiontaxbasedon "account‑based method"shouldbediscussedfurtherinordertopromotereliableand transparenttaxsystem.
Keywords:Consumptiontax(Value‑addedtax);Multipletaxrates; Invoice‑basedcreditmethod;Account‑basedmethod
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目 次 は じめに
1 タ ックス ・ミックス と消費税 2 消費税の逆進性
3 複数税率
(1) 複数税率の問題点
(2) 複数税率化 とインボイス方式
4 仕入税額控除方式のあ り方 (1) インボイス とは
(2) インボイス方式 と帳簿方式の特徴 (3) 仕入税額控除方式のあ り方 (4) 中古品の取 り扱 い
(5) 小括 おわ りに
経 営 と 経 済
は じ め に
現在,少子 ・高齢化をは じめ とする社会の構造変化への対応や財政再建の 必要性な どを背景 として,税体系の再構築が検討 されてお り,その中で消費 税のあ り方についての議論 も行われている。政府税制調査会答 申 「少子 ・高 齢社会における税制のあ り方」(2003年6月)においては,「少子 ・高齢化が 進展する中で国民の将来不安を払拭するためには,社会保障制度をは じめ と す る公的サー ビスを安定的 に支 える歳入構造 の構築が不可欠 であるこ とか
ら,消費税は極めて重要な税であ る。 したがって,将来は,歳 出全体の大胆 な改革を踏 まえつつ,国民の理解 を得て,二桁の税率に引 き上げる必要 もあ ろう。 これが今後の税体系全体の見直 しの基本 となると考 え られる。」 と記 されてお り,今後議論が本格化 してい くことが見込 まれる1。
1 安倍首相は,第166回国会の施政方針演説 において,「改革 を徹底 して実施 した上で,それで も対応 しきれない負担増 に対 しては,安定的な財源 を確保 し,将来世代への負担の先送 りを行 わないようにしなければな りません。本年秋以降,本格的な議論 を行い,19年度を 目途 に,社 会保障給付や少子化対策 に要する費用の見通 しな どを踏 まえつつ,その費用 をあ らゆ る世代が
消 費 税 制 度 に 関 す る 一 考 察 一 複数税率,仕入税衝控除方式を中心 として ‑ 21
人 口減少 と高齢化が急速 に進展 してい く中,社会を支 える費用を どの よう に国民が負担 してい くかについて十分な議論 が必要であ り,消費税 を含む税 制だけではな く,社会保障のあ り方,歳出の効率化な ど検討 してい くべ き点 は多い。仮 に消費税率が今後引 き上げ られる場合,消費税制度が内包する逆 進性 という性質か ら,食料品等生活必需品の軽減税率化又は非課税化が必要 との意見があ り,複数税率を導入する場合には,仕入税額控除に関 してイン ボ イス方式を導入すべきとの意見 もある。
本稿 においては, こうした論点を中心 として消費税の仕組みに関 して考察 を加える。第 1章 においては,所得,資産,消費 といった課税ベースを適切 に組み合わせ るタックス ・ミックスの観点か ら,消費課税の意義について論 述する。第 2章 においては,消費税が内包する逆進性の緩和策 について,税 制のみでな く社会保障等を含めた歳出 ・歳入一体 として対応 してい くことの 必要性 について論述する。第3章 においては,複数税率化の問題点を指摘 し, その効果 と弊害 とを十分検討 してい くことの必要性について検討す る。第4 章 においては,仕入税額控除方式のあ り方 について,インボイス方式 と帳簿 方式を比較検討 した上で,両者の利点を取 り入れつつ制度の改善を図ってい
くための方向性 について検討す る。
1 タ ック ス ・ミ ック ス と消 費 税
近年,所得,資産,消費 といった課税ベースを適切に組合せ,バ ランスの とれた税制を構築 してい く 「タ ックス ・ミックス」の観点か ら,税制全般 に ついての見直 しが課題 となっている。 日本 における現在の税収構成は,所得 課税53.3%,消費課税31.0%,資産課税等15.2%と所得課税 が中心 になって
広 く公平 に分 かち合 う観点か ら,消費税 を含む税体系の抜本的改革 を実現 させ るべ く,取 り組 んでまい ります。」 と述べてお り,本年秋か ら税制の抜本的見直 しの議論が本格化 してい くこと が見込 まれる。
22 経 営 と 経 済
お り2,税負担 は勤労世代 に集中 している といえる。国際的に見 る と低 い消 費税率に加え,年金所得の控除の レベルな どの要因によ り,退職世代の負担 は より少な くなっていることが,税負担が勤労世代に偏 ることにつながって いると考 えられる3。
社会の高齢化が進行 してい くと,総人 口に占める勤労者の割合が低下 し, 所得税 に過度 に依存 した税体系は維持困難 になる。勤労世代への税負担の偏 重は,勤労のインセンティブを阻害 しかねない。法人税 については,国際的 な競争の中,国際水準 と大 き くかけ離れた税率を維持す ることは困難であろ う。相続税等の資産課税については,社会の経済的格差 が拡大 していると言 われている中,所得再配分の観点か ら社会的政策 としてその重要性は高まっ ていると思われるが,現在,相続税 を含めた資産課税の国税収入全体 に占め る割合は5.1% (平成18年度予算)であ り,税収ポテンシ ャル としては大 き い もの とはいえない。所得 ・消費 ・資産課税等の割合の国際比較 をみると, 日本は OECD 中,資産課税の割合は 3位,所得課税の割合は12位であるの に対 し,消費課税は26位 となっている4。 日本の消費税率 は国際的に見 る と 低い水準 になってお り,税収ポテンシ ャルがあるのは消費税 ということにな
ろう。
消費 に対する課税の利点 として,水平的公平,税収の安定性,経済活動 に 対する中立性,簡素,執行の容易性等が挙げ られる。消費 に対する課税は, 世代間の負担の公平 にも寄与する。一個人をみてみると,消費 に対す る課税 はライフサイクルを通 じた税負担の平準化につながる。勤労期間に獲得 した
2 財務省主税局資料 (国税 と地方税の合計,平成18年度予算ベース)0
3 金子宏教授は,「公的年金等控除制度 は, ・高齢者を保護す ることを 目的 としている。高齢者 を保護す ること自体は決 して不合理 な ことではないが,その内容がかな りの大盤振舞 であるこ とはた しかであ る。 i‑公的年金等控除は,所得の少な くなった退職世代の生活の糧である公的 年金等に新たにかかる消費税の負担を相殺する という意味をもっていた と思われるO」 と述べ, 公的年金等控除の制度の合理性の問題点を指摘 し,「公的年金等控除制度については,かな り思 い切 った改正が必要であ る。」 としている。(「所得税制の構造改革 一少子 ・高齢化社会 と各種控 除の見直 し」ジ ュリス トNo.1260(2004年)237頁)
4 税制調査会資料 (国税 と地方税の合計,2002年)0
消費税制度に関する一考察 一 複数税率,仕入税額控除方式を中心として ‑ 23
所得を,退職後 も含め生涯 にわた り,一定額ずつ取 り崩 してい くとい うライ フサイクル5の中で,ライフサ イクル通 じた税負担 をどの ように配分するか が論点 となる6。現在の所得 によるよりも一生涯 における社会保障面 も考慮
し,ライフタイムでの負担 を検討すべ きとの指摘 もある7。
今後,必要な公的サービスの負担を,所得 ・消費 ・資産への課税のそれぞ れの機能 ・特徴を踏 まえ,広 く公平に国民が分担 してい く必要がある。今後 の消費税の見直 しに当たっては,タックス ・ミックスの観点,所得格差,お 互いに支えあ う社会等の観点か ら税率のあ り方が検討されてい く一方で,そ の仕組みについては消費税の利点をできるだけ活かしてい く方向で議論を進 めてい くべきであろう。
2 消費税の逆進性
日本の消費税制度においては,税の性格か ら課税対象 とすることになじま ないものや社会政策的な配慮に基づ く非課税,輸 出取引等の免税 (ゼ ロ税率) を除 き,単一の税率が適用 されている。 単一税率は,生涯獲得所得をすべて 消費するとい う仮定の下では比例的な税であるため,逆進的である とはいえ ない との考 え方 もあ る8。 しか し,獲得 した所得はその年中にすべてが消費 されるわけではな く,一定期間の所得 ・消費性向を考 えた場合,収入が増 え るほど貯蓄に向け られる割合は増加 し,消費性向は低下するため,高所得者 はど収入に対する消費税の負担率は低 くな り,逆 に低所得者ほど消費税の負
5 総務省 「家計調査」 による と,世帯主60歳以上の無職世帯の家計貯蓄率は ‑30.2% (2004年) であ り,過去の貯蓄 を取 り崩 して生活 しているといえる。
6 金子宏教授 は 「消費税は きわめて大 きな税収ポテンシ ャル をもっているだけでな く,高齢者 も現役世代 も等 し くその負担を負 うため,両者の問の公平の確保に役立つ。」 と述べている (前 掲注3,235頁)0
7 例 えば,Liam Ebill,etal.,ModernVAT,IMF2001,pp.106‑107.
8 例 えば,土居丈朗 「消費税は逆進的な税ではない」税務事例Vol.37No.12(2005年12月)32‑33 頁参照。
24 経 営 と 経 済
担率が高 くなる。そ こで単一税率の消費税 は所得 に対 して逆進性を有するこ とになる9。
仮 に消費税の税率が引 き上げ られる場合 には逆進性への考慮が必要 となる が,逆進性緩和の方策は以下の3つに分け られる。
(a)消費税の仕組みの中での緩和
第一 は,食料品等の生活必需品に対する軽減税率化な ど,消費税の仕組み の中での逆進性緩和 である。 これについては
,
「高齢世代内部 に勤労世代以 上 に著 しい所得格差 (所得 ・資産格差)がみ られることはよ く知 られている。こうした所得 ・資産分配の不平等を是正する点において,所得階層別負担 が 逆進的 な間接消費課税 はまった く無力であ る。」 との指摘 があ るな ど10,潤 費税の仕組みの中で逆進性是正 を図るのは,効果が限定的であ るとい う意見 が多い。例えば,食料品にゼ ロ税率を適用 した場合,どの程度逆進性が緩和 されるかについて橋本恭之教授 による推計がある。税収中立を保つため食料 品以外の税率が6.4%に引 き上げ られ る場合の消費税負担額の変化 を推計 し た ものである。その推計結果 によると,所得階層 を10分位 に分け,最 も低所 得の所得着分位 における消費税負担の減少額 は,年間でわずか5千円程度 と
い う結果 となっている11。
また,複数税率化な ど,逆進性の是正を消費税 に過度 に依存すると,中立, 簡素 とい う消費課税の利点を損な うことにつながることにも留意が必要であ
る。
9 消費税の逆進性 についての分析は,橋本恭之 「消費税の税率構造」宮島洋編著 『消費課税 の 理論 と課題』税務経理協会(2000年)第6章,127頁参照。
10 宮島洋 「消費課税の理論 と課題」宮 島洋編著 『消費税の理論 と課題』税務経理協会(2000年) 第 1章,15頁。
11 橋本恭之 「消費税の益税 とその対策」税研2002年9月48‑52頁。税率が大幅に引 き上げ られ る 場合には低所得の所得者層の負担軽減額は増加するが,負担減少の程度 と以下 で述べ る複数税 率の問題点 との比較考量 が必要である。
消 費 税 制 度 に 関 す る一 考 察 一 複数税率,仕入税額控除方式を中心 として ‑ 25
(b)税制全体の中での緩和
第二は,例 えば所得税の累進性を高める一方で,低所得者の税負担を軽減 するな ど,他の税 目を含めた税制全体の中での逆進性緩和である。一般に, 所得課税,資産課税は垂直的公平を図る上で優れてお り,消費課税は水平的 公平を図る上で優れているとされる。所得再分配 による所得格差改善度の推 移を見 ると,近年 においては,社会保障による改善度が,税金による改善度 を大 き く上回っている。逆進性是正の観点か らは,税による再配分機能が よ
り重要 となってお り,各種控除の見直 しを含め,所得課税,資産課税につい ての検討が重要である12。
(C)財政支出や公共サービスを通 じた緩和
第三は,税制のみでな く,社会保障制度の充実など,財政支出や公共サー ビスを含めて実質的な逆進性の緩和を図ってい くものである。現在の消費税 の使途をみる と,地方消費税を合わせた消費税収は,43.6%が地方消費税 と 地方交付税 として地方政府へ,残 りの56.4%は基礎年金,老人医療,介護の 福祉予算へ充て られている13。政府税制調査会答申 「少子 ・高齢社会におけ る税制のあ り方」 (2003年 6月)では,「所得に対する逆進性の問題 について は,消費税 という‑税 目のみを取 り上げて議論すべきものではな く,税制全 体,さらには社会保障制度等の歳出面を含めた財政全体で判断 してい くこと が必要である。」 とされている。消費税の議論は,社会保障をはじめ とした 歳出 ・歳入一体 としての議論の中で,逆進性への対応を検討 してい くべ きで あろう1415。
12 個人所得課税 については,政府税制調査会で も議論 されている (例 えば,税制調査会基礎 問 題小委員会 「個人所得課税 に関す る論点整理」 (平成17年6月21日)参照)0
13 財務 省主税局ホームページ よ り.
14 本稿 は消費税 の 目的税化の是非 は検討の対象外であ るが,米国の財政学者 ガルブ レイズ教授 は,低所得者層の大 きな援護者 として,医療 サー ビスや保健 のため に支 出す る資金 をまかな う ために食品に課税すべ きであ る と述 べた とい う (オ リバー ・オール ドマン 「日本の消費税 と付 加価値税理論」税研1990年3月 (水野忠恒訳)35頁)0
26 経 営 と 経 済
3 複 数 税 率 (1)複数税率の問題点
消費税の複数税率化は,今後の消費税のあ り方を考 える上での大 きな論点 である。簡素な税制,経済活動への中立性,事業者の事務負担 ,執行 コス ト 等の観点か らは単一税率が望ましい一方,低所得層 に配慮 し,逆進性の是正 のために,食料品等の生活必需品の軽減税率化又は非課税化が議論 されてい る16。軽減税率の問題点 としては以下が挙げ られる17。
第一に,経済活動 に対する中立性を損な う。軽減税率が適用 される品 目と 標準税率が適用 され る品 目との選択の中立性 を損な うことにな る。第二に, 軽減税率が適用 され るモ ノやサービスの区分を客観的な基準 により区分する ことが困難である18。第三 に,簡易課税 のみな し仕入率の設定が複雑化する。
例 えば,現在同一のみな し仕入率が適用され る業種の中で も,軽減税率の品 目の割合が高い業種 とそれ以外の業種 とでは,異なるみな し仕入率が適用 さ れ るべ きであ り,みな し仕入率の区分・が細分化 されることになる。第四に, 複数の税率区分 ご とに課税仕入額 を計算 してい くため,事業者の事務負担 が 増加する19。第五 に,単一税率 と同レベルの税収 を確保す るためには,標準
15 こうした考 え方 の下 で,カナ ダで導 入 されている所 得税税額控除方式 を参考 に,低所得者 に 対 して,必要最小限の消費支 出に係 る消費税相 当額 の (所得税)税額控除ない しは還付 を認 め る とい う提案 もある (森 信茂樹 「消費税 の課題 を考 え る」国際税制研究 No.17,43頁)。税 と社 会保障の一体化 とも考 え られるものであ り,今後検討 してい くべ きであ ろう0
16 EU においては,加盟 国の税制調和 を進めてお り,付加価値税 についてはEC第6次指令でそ の概要 を定め,加盟各国の制度 もおおむねその枠 内の もの とな ってい る。1992年10月 には付加 価値税 の税率の調和 に関す る指令 (第6次指令修正指令)が経済蔵相理事会 において採択 され, 1993年1月 1日以降加盟 各国は標準税率 を15%以上 とす るこ とが義務付 け られ 軽減税率 につ いては,税率5%以上であれば一定の品 目に限 り,2本 まで設 け るこ とがで きる旨が定め られ
た 。
17 複数税率¢)問題点 については多 くの論文 があ るが,例 えば,渡辺裕泰 「消費税法の沿革 と改 革上の諸課題」租税法研究第34号90‑94頁,水野忠恒 「消費税の複数税率化」税研2000年9月35‑ 36頁参照。
18 この困難性が個別消費税 か ら一般消費税 に移行 した一 因であ った。
19 実務的観点か ら,「仮 に複数税率制度 が導入 された場合に,現行非課税売上 に対応す る課税仕
消 費 税 制 度 に 関 す る 一 考 察 一 複数税率,仕入税額控除方式を中心 として ‑ 27
税率をより高 く設定せざるを得な くなる。第六に,軽減税率は低所得者層の みに利益をもた らす とは限 らず,む しろ消費額の多い高所得者層への利益が 大 きい。第七に,市場に合わせて税込価格が調整 される場合,軽減税率化に
より,事業者がその利益を吸収する可能性がある。
複数税率化は,税制の複雑化,コンプライアンス ・コス トの増加 とともに, 課税上の争訟の増加をもた らす ことが予想 される。例えば,食料品や書籍新 聞等の取引について,前段階の仕入税額を控除で きるゼ ロ税率を適用 してい る英国において,"JaffaCakes"(クッキー地 にチャコレー トがかかった菓 千)の適用税率が争われた事例がある。"JaffaCakes''が,ケーキ と分類 さ れれば食料品 としてゼ ロ税率,チ ョコレー トがかかったビスケ ットと分頬 さ れれば標準税率が適用されるところ,審判所(thetribunal)は,̀̀JaffaCakes'' は両者の性質を有するとしつつも,ケーキの性質をより多 く有するとして, ゼ ロ税率の対象 と判断 した20。同様に英国の事例 として,日記帳や住所帳が, ゼ ロ税率の適用 となる 「書籍」に該当するかが争われた事例がある。審判所 では 「書籍」に該当するとされたが,裁判所では 「書籍」には該当せずゼ ロ 税率の適用は認め られない とされた21。
この ように,複数税率を導入する場合,個 々のモノ ・サービスの性格によ り,軽減税率やゼロ税率が適用 されるもの と標準税率が適用 されるもの との 区分が大 きな問題 となる。軽減税率がどの程度逆進性是正なるか,その効果 と弊害 とを十分に検討すべきであろうが,経済活動に対する中立性,納税者 の事務 コス トの最小化,簡素性 といった消費税の長所を活かすためには,複 数税率化は避けるべ きであ り,逆進性の問題については,前述の とお り社会 保障制度を含めた歳入 ・歳出一体の問題 として考 えてい くべ きであろう。
入税額控除の考 え方 に より,いわば 「軽課売上 に対応する課税仕入税額の控除制限」な どとい った計算方法が導入され ると大 きな混乱が予想 され る」 との指摘 がある (末吉幹久 「消費税の 課税対象の見直 しと非課税規定」税研2007年5月(No.133)101頁注4)0
20 UnitedBiscuits(UX)Ltd.vTheCommissionersofCustomsandExcise,LON/91/160(1991) 21 CustomsandExciseCommissionersvColourOffsetLtd,STC85(Q.B.Div.)1995
コLq 経 営 と 経 済
(2)複数税率化とインボイス方式
仮に,複数税率制を採用する場合,インボイス方式の採用が必要 となると の指摘がある22。個 々の取引における適用税率が異なるため,インボイスに 基づいて消費税額を集計すべ きとい うものである。 しか し,インボイスに基 づ き消費税額 を抜 き出して消費税額を集計計算するインボイス方式23ではな く,帳簿を活用 して消費税額を計算 してい くことにより複数税率に対応する ことはで きないのであろうか。消費税導入当初は,自動車には6%の税率が 適用 されていたが,帳簿方式で も対応可能であった。 自動車ではな く,少額 多品 目を扱 う場合には,帳簿方式では対応が困難 になるのであろうか。
帳簿方式の下では,事業者は売上 と仕入れに基づいて,帳簿か ら逆算 して 消費税額を計算する。帳簿に基づ く消費税額の計算によって,現在でも課税, 非課税,免税,不課税 といった区分により処理が可能 となっている。 コンピ
ュータ会計,会計ソフ トが広 く普及 していることや,多 くの中小規模事業者 は簡易課税を選択 していることを考 えると,複数税率が導入された として も, 対象 となる取引の税率 ・税額が明確になっていれば,インボイスに基づいて 税額計算を改めて行 う必要はな く,帳簿を活用 した集計計算が可能であろう。
つま り,現在の実務 においては,各取引を仕分け して記帳処理 されているた め,取引において適用税率が明示 されていれば,事業者 における帳簿方式 に よる処理は可能 と考 えられる24。
インボイス方式導入の是非については,複数税率か否かではな く,免税事 業者か らの仕入れについての仕入税額控除の是非 という点が大 きな論点であ
22 例 えば,跡 田直澄 「消費税の負担構造」宮沢洋編著 『消費課税の理論 と課題』第7章 ,税務 経理協会(2000年 1月)155頁。
23 インボ イス方式での具体的な計算のサンプル については Carlo§SilvaniandCharlesL Ve‑ horn,Invoices,BooksofAccount,andTaxReturnFormsforVAT,AlanA.Tait(ed.),Value‑ AddedTax:AdministrativeandPolicyIssues,ⅠMFOccasionalPaper88,October1991,pp.40‑ 47を参照。
24 ただ し,その場合,税抜経理方式 を適用 す ることにな る場合 には,それまで税抜経理方式 に よっていた事業者 に とっては事務 コス トが増大 するこ とになる。
消 費 税 制 度 に 関 す る 一 考 察 一 複数税率,仕入税額控除方式を申しとして ‑ 29
り,その効果や影響 を検討すべ き問題 と考 え られる。
4 仕入税額控除方式のあ り方 (1) インボイスとは
EU諸 国等が採用する付加価値税 においては,仕入れに係 る税額はインボ イスに基づ き控除される。 インボイス とは税額を記載 した請求書な どの取引 書類であ り,課税事業者 に限 りインボイスを作成 ・発行す ることがで きる。
インボイス方式の下では,課税取引について売主 (又は役務の提供者)であ る事業者は,インボイスを交付 しなければな らない。 インボイスの記載事項 は,例 えば ドイツでは以下の項 目が規定 されている25。
① 取引当事者双方の氏名及び住所
② 事業者の納税番号又は課税事業者番号 (勤 発行年月 日
④ インボイスの連番号
⑤ 取引の内容及び数量
⑥ 資産の譲渡等の行われた時期
⑦ 税率ご とに区分 された対価
⑧ 適用税率及び税額
日本の消費税は,売上に係 る税額か ら仕入れに係 る税額を控除 して税額 を 計算す ることとされ,仕入税額の控除方式 として,帳簿方式が採用 されてい る。帳簿方式の下では,事業者 は課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び 請求書等を保存する義務 があ り (消費税法第30条第7項),帳簿及び請求書 等の証票類に基づ き仕入税額控除額を計算す る26。
25 西山由美 「インボイス制度の概要」税研2007年1月,17頁。
26 日本でインボ イス方式が導 入されていない理 由は以下の3点 といわれる。①消費税が単一税 率で,非課税取引の範囲 も限定 されているため,請求書等 に税額 が記載 されていな くとも,仕 入税額控除の計算が適正 に行 える,② インボイス方式 を導入する と,免税事業者が事業者間取
30 経 営 と 経 済
日本の消費税法においては,課税仕入れ等の税額の控除に係 る請求書等の 記載事項 として以下が規定 されている27。
① 書類の作成者の氏名又は名称
② 課税資産の譲渡等を行 った年月 日
③ 課税資産の譲渡等に係 る資産又は役務の内容
④ 課税資産の譲渡等の対価の額
⑤ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称
政府税制調査会 「税制改革 についての答 申」 (平成6年6月21日)におい ては,「仕入税額控除については,制度の信頼性や課税 ・非課税判定等の利 便性,正確性の観点か ら,取引の実態を踏 まえつつ,請求書,納品書,領収 書その他取引の事実を称する書類 (インボイス)のいずれかを保存すること をその要件 に加 えることが適当である。」 とされ,同年 の税制改正 によ り平 成9年 4月 よ り帳簿に加えて請求書等の保存が義務付け られた。つま り,わ が国で も,「インボイス」の保存が義務付け られている といえよう。
記載事項を比較す ると,EU型のインボイス との大 きな相違点は,対価 に かかる税額の記載及び当事者の住所であるが,実務上は取引に係 る請求書等 には,取引先 に対す る円滑 な消費税の転嫁のために消費税額が記載 され,ま た,住所 も記載 されていることが大半である。
したがって,わが国でも請求書や納品書に税額や住所の記載 を義務づける として も,追加負担 は大 きな ものではない と考 え られる28。つま り,請求書 等 (インボイス)に税額を記載することとすれば,.税額及び税率が明確化 さ れ ることにな り,制度の透 明性 につながると考 え られる。税額の記載 は,複
引か ら排除されかねない こと,③免税事業者 か らの仕 入れについて税額控除 を認めない場合 に は,税の累積が生 じ価格の上昇 を招 く (森信茂樹 「消費税の課題を考 える」 国際税制研究 No.
17(2006年)40‑41頁)0
27 消費税法第30粂第9項。
28 金子宏教授は,「わが国で も,事業取引において,請求書 ・納品書等の発行が一般的であるか ら,それに取引対価の額 に加えて‑消費税額 を記載す ることとすれば,それはインボ イス方式 に外な らない。」 と述べている (「消費税制度の基本的問題点」 日税研論集30号(1995)16‑17貢)0
消 費 税 制 度 に 関 す る 一 考 察 一 複数税率,仕入税額控除方式を中心 として ‑ 31
数税率を採用 した場合には,対象取引の適用税率の明確化のために不可欠な ものであ るが,複数税率が採用 されない場合 において も,制度の透明性,転 嫁の確実性の観点か ら,記載を義務付ける方 向での検討が必要であろう。
(2) インボイス方式 と帳簿方式の特徴
EU諸国を中心 として多 くの国で導入されているインボイス方式は,イン ボイスに税額が記載 されていることを条件 としてその控除を認める方式であ る29。一方, 日本が導入 している帳簿方式は,請求書等への税額の記載 を義 務付けることな く,帳簿等の記録に基づ き,課税期間内の仕入れの総額 に税 率を適用 して得 られた金額 を控除する方式である。
両者で大 きな相違 が生 じるのは,取引に免税事業者が介在 した場合であ り, 表 1の計算例 により両者の特徴 を整理する。ケース 1は取引に免税事業者 が
介在 しない場合の計算,ケース 2は免税事業者が介在す る場合のインボイス 方式 による計算,ケース3は免税事業者が介在す る場合の帳簿方式 による計 算であ る。 ここでは,各事業者は仕入れか ら消費税額 (消費税及び地方消費 税 を合わせた 5%)を差 し引いた金額 に100の付加価値 を加 えて販売するこ ととす る。ただ し,仕入れに係 る税額を控除で きない場合 には,消費税 を含 めた仕入金額 に100の付加価値 を加えて販売するとする。
ケース 1においては,各課税事業者の付加価値100に対 してそれぞれ5%
の消費税が課 されている。
ケース 2において,免税事業者は消費税が課税 されないが,仕入れに係 る 消費税5の負担は生 じてお り,販売価格は200ではな く205となる。 また,課 税事業者2の売上 に係 る消費税額 (C)は,100の付加価値 に対 し15.25の消費 税 が課 されてお り,付加価値 に比べて大 きな消費税負担(15.25)を負 うこ と
になる。 これは消費税の連鎖 (chain)が途切れ るために生 じるこ とか らく 29 金子宏 『租税法 (第12版)』503頁。 また, インボ イス方式 による英国の計算例 について,千
田裕 ・今井正和 「インボ イス方式の実際 と導入のあ り方」税研2002年9月,53‑59頁 を参照。
32
[表1]免税事業者 が介在 す るケース
経 営 と 経 済
a仕入 b売上 C売上に係る d仕入税額 e差引納税額 (税込価格) (税込価格) 消費税額 控除 (C‑d)
ケース1
課税事業者のみ 課税事業者課税事業者12 100(0(01)05) 21000(0(121050)) 150 05 55 課税事業者3 200(210) 300(315) 15 10 5
合計15
ケース2 免税事業者介在
(インボイス方式)課税事業者1 0(0) 100(105) 5 0 5 免税事業者 100(105) 205(205)
課税事業者2 205(205) 305(320.25) 15.25 15.25 合計20.25 ケース3 課税事業者1 0(0) 100(105) 5
0
5現行消費税(帳簿方式) 免税事業者課税事業者2 1951.020(4(210055))(ill)2925.00(24(20315)0) 14.76 9.76(江2) 5
(注1)仕入価格(税抜)‑205(税込)‑205×5/105
(注2)205×5月05
る税の累積である。その結果,課税事業者 2の利益 が減少することになる。
課税事業者2が通常の利益を確保 しようとす る場合 には,売上価格を引 き上 げる必要があるが,ケース 1の課税事業者 3との競争上不利 となるとともに, 引 き上げ分は消費者が負担することとなる。売上価格の引 き上げが困難な場 合 には,課税事業者 2は利益の減少を甘受せざるを得ない。 したがって,課 税事業者 2は,代替性のある商品の場合には,課税事業者か ら仕入れること を選好することにな り,免税事業者が取引か ら排除 される可能性がある。
ケース 3においては,課税事業者 2は,免税事業者か らの仕入れに係 る税 額分(5/105)ついて仕入税額控除することがで きるため,税の累積の問題 は 生 じず,ケース 1と同等の納税額 (e)となっている。ただ し,免税事業者が 仕入れにおいて負担 した消費税額以上 の額 を販売価格に上乗せ して210で販 売する可能性があ り,その場合免税事業者 に益税が発生する。 また,あるい
消費税制度 に関す る一考察 一 複数税率,仕入税額控除方式を申 しとして ‑ 33
は消費税を納めていない免税事業者か らの仕入れについても仕入税額控除で きるという点が制度の信頼性 ・透明性を損ねている。
上記の計算例を踏まえ,インボイス方式,帳簿方式の特徴を整理すると次 の とお りである。
(a)インボイス方式
インボイス方式の長所の第一は,インボイスを受取 った事業者が,取引の 相手方が作成 した税額記載のインボイスにより,取引に係る付加価値税の課 税上の扱い (課税,非課税,免税並びに税率,税額)を容易に判断でき,そ のインボイスに基づ き仕入税額控除を行 うため税の転嫁が明確であ り,制度 の透明性,信頼性が高いことである。第二は,益税の発生を排除することが で きることである30。免税事業者は,請求書等 (インボイス)に税額を記載 することがで きないため,免税事業者から仕入れを行 った事業者は,前段階 の仕入税額を控除することがで きないことである。また,そのために,売 り 辛 (免税業者)は販売価格を引 き下げざるを得ず,免税事業者の益税 も排除 する効果がある31。
インボイス方式の短所の第一は,取引に免税業者が介在 した場合,免税事 業者か らの仕入に係 る税額を控除で きないため,消費税の連鎮 (chain)が断 ち切 られ,税の累積が発生することである。その負担は価格上昇により消費 者が負 うか,あるいは,累積 した税額を価格に転嫁することができない場合 には事業者が負 うことになるであろう。最終小売価格に占める税負担の割合 が一定せず,中立性を損な うことにもなる。第二は,その結果,免税事業者 が取引か ら排除される可能性があることである32。第三は,個 々の取引に係 る税額を集計するための業務が必要 となることである。
30 ただ し,完全 に排除可能かほ疑問である。 この点については(3)③ で考察す る。
31 この他,インボイス方式は,税額の計算が正確 かつ簡便である との指摘 もあるが, これ につ いては(3)①で考察す る。
32 ただ し,免税点が1,000万円に引下げ られ,大半の事業者は課税事業者 とな ってお り,問題の 程度は小さ くなって きている とも考 え られる。
34 経 営 と 経 済
(b)帳簿方式
帳簿方式の長所cc)第一は,課税事業者は,免税事業者 か らの仕入れについ て も仕入税額控除することがで きるため税の累積 を排除で きることである。
第二は,その結果,免税事業者が取引か ら排除されることがな くなることで ある。第三は,帳簿を活用 した税額計算によ り,事務 コス トが軽減 されるこ とである。また,法人税 ・所得税 と消費税の同時処理による正確性の向上及 び執行 コス トの削減 も期待で きる。
帳簿方式の短所の第一は,消費税が課 されない免税事業者か らの仕入れに ついて も仕入税額控除できる結果,制度の信頼性を欠 くことである。第二は, 税の負担 と転嫁が不透明であるため,免税業者が仕入れで負担 した消費税額 以上の額 を販売価格 に上乗せ した場合,益税の問題 が生 じることである。
(3)仕入税額控除方式のあ り方
EU諸 国をは じめ多 くの国において,仕入れにかかるインボ イスを仕入税 額控除の要件 としている。 この方式により,仕入れにかかる付加価値税額が 正確 に控除され,付加価値税の買い手への転嫁が容易 となるとされる。 この インボイス方式 と比較 して,帳簿方式 による 日本型消費税は一般的に次の よ うに理解 されている。
「日本の消費税が採用 した帳簿方式では,その売 り上げに消費税が適用 さ れていない非課税事業者か ら仕入れた場合で も,仕入れ税額控除が認め られる。そのため,いわゆる益税問題発生のひ とつの原因になるだけで はな く,輸 出に際 しての消費税の還付 も不正確 となるし,付加価値税の 持つ事業者間取引の相互チ ェック機能 も弱め られる。」33
しかし,それぞれの点について検討 してみると,必ず しも帳簿方式である か ら不適当 といえないのではないか と考え られる。両者の大 きな相違 は,税 33 藤 田暗 「消費税の福祉 目的税化問題」宮 島洋編 『消費税 の理論 と課題』税務経理協会 (2000
年1月)r第8章,173頁。