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農業と農村の振興

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Academic year: 2021

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(1)

論 文

農業と農村の振興

駄田井   正・夏   広 軍

はじめに

 農村では農業とそれに関連する人々が住んでいて,人口密度は低い。これ農業が広大な土地を必要と するからである。したがって,農業が振興すれば,農村の人口が増加し,農村が活性化すると考えられ るが,そうはいかないところに現在の農村と農業についての複雑で難しい課題がある。

 農業は人間が生きていくうえで絶対不可欠な食料を生産するので,人口が減少しない限り食料需要も 減少しないので農業そのものの重要性は低下することはない。問題は,需要面からみると食料に対する 嗜好の変化で農産物の品目によって売れ筋が変化する。ある地域の農業がある品目に特化して成功して いても,消費者の嗜好が変化して売れなくなる場合がある。需要の変化に弾力的に対応していかないと 持続できなくなる。このことから農業そのものの振興と,農村の振興とはある程度別次元で考えなけれ ばならない。

 一方,供給面では,国際競争と生産技術の変化が考えられる。外国から安い農産物が輸入されると国 内農業にとっては打撃となる。農業の問題は国際間の貿易交渉の火種である。

 農産物の生産技術進歩は,農業従事者の人口を減少させ,零細な農業を市場から撤退させる。これが 事態を複雑にさせる。ある地域で機械化して大規模農業をおこなうことで,農業そのものは持続できて も,農村の人口は減少していく。1)しかも,農業生産の効率化は,IT技術2)が導入されることによって ますます進む。

 全産業における農業の存在感が低下したのは,相対的に他の産業の存在感が増したことにもよる。産 業革命は経済の工業化をもたらし,第2次産業の存在感がたかまった。この経済の工業化は,W.ぺティ が予測したように,サービス産業を発展させ,現在,先進経済諸国では,第3次産業が圧倒的割合をし めている。この第3次産業の中でも,医療,福祉,教育,レジャー,芸術文化活動などのサービスに関 する分野が注目されている。この分野は,人間の能力の強化と洗練に関する分野で,人々の生活の質と 直接的にかかわる。

(2)

 農業の役割は,単に食料を生産することに限定されない。環境保全やそれに医食同源といわれるよう に人間の健康と医療にも深くかかわる。現在では,農業は観光と結びつくほか,福祉や教育との連携も 進んでいる。このように,農業の多面的機能に着目することで,農村の振興をめざすべきではないかと 考える。

1 .経済発展と産業構造の変遷

 経済の発展は,単に量的な成長ではなく,常に経済の質的内容の変化を伴っていて,それは産業構造 の変化にあらわれる。表1は,主要経済先進諸国の産業構造の変化を示したものである。

表 1  産業構造の変化:就業者割合の変化(%)の変遷

1950年 2013年*

第1次産業 第2次産業 第3次産業 第1次産業 第2次産業 第3次産業 日本 48.5 21.8 29.6 3.7 16.9 79.4 アメリカ 12.4 35.3 49.7 1.5 19.1 79.5 イギリス 5.1 47.5 47.0 1.1 10.4 88.5 ドイツ 27.2 35.0 39.6 1.4 19.6 79.0

*ただし,アメリカの数字は2008年 総務省統計局『世界の統計』

 表1を見ればあきらかなように,1950年と2013年を比べると第1次産業の比率は大きく低下している。

特に日本の場合は急速な低下である。第2次産業もほぼ半分以下に減少していて,その分第3次産業の 比率が上昇し,イギリスでは90%近くになっていて,その他の諸国は軒並み80%近くになっている。ま さにポスト工業社会の到来である。

 経済中進諸国も第3次産業の伸びが著しく,韓国はすでに77.1%(2013年)に達していて,タイも 50%は超えている。中国もすでに40%近くに達している。

 第1次産業の農林水産業の就業者が,特に農業の就業者が大幅に減少したのは,規模拡大や機械化に よる生産性向上が原因である。今後,ロボットやIT技術が導入されることで生産性はさらに向上する ものと考えられる。3)

 第2次産業は技術革新の洗練を受け続けてきた部門で,生産性は常に上昇してきている。ロボットや IT技術が導入されることで,生産現場の工場にはほとんど人がいなくなってきていて,第2次産業に 分類される企業でも,多くの人は第3次産業に分類されるべき仕事に従事している。4)

(3)

 第3次産業は,第1次産業・第2次産業以外のもので,目に見えないもの形のないもの,一般にサー ビス(用役)とよばれるものを供給している。5)第3次産業はさらに発展する傾向にあるが,基本的に はサービス提供者と顧客が直接対面することになるので6),人口の多い都市に集中する傾向があり,過 密過疎化の原因の一つである。

2 .第三次産業の細分類

 従来の分類では第1次産業と第2次産業以外のものが,第3次産業に分類されていて,雑多な業種の 集まりとなっている。第3次産業の産業全体に占める割合が小さいときは,雑多な業種の集合としてそ のままにしておいても差支えがないが,就業者が8割近くなると,そのままでは経済構造の中身がぼや けてしまい,ポスト工業化社会の産業特質と経済構造の変化の方向が十分把握できなくなる。第3次産 業に含まれる業種の特性に応じて,細分類するべきである。その分類について,ダニエル・ベルも言及 しているフートとハット(1953)の考え方が合理的であるように思う。それによると,第3次産業を新 たに次のように3つに分類している。

(新)第3次産業―家事サービス及びこれに準じるもの。レストラン,ホテル,理髪,美容,洗 濯,工芸品の修理・補修などがあげられる。

第4次産業―分業を可能にして効果的にするもの。輸送,商業,通信,行政などである。

第5次産業―人間の能力の洗練と強化に関するもの。これと(新)第3次産業との相違は,慣習 的な方法で提供するものとそうでないもの,常にイノベーティブなものとそうでな いものにある。医療,福祉,教育,研究開発,レジャー・レクレーション,芸術活 動,文化産業とこれに関連するものなどである。

 このように一応分類されているが,どのような分野の分類でもどちらに分類するかあいまいなグレイ ゾーンがある。ここでの分類では,慣習的か創造的か,あるいは革新的かそうでないかの分類基準があ るが,特に第3次産業と第5次産業の分類でのグレイゾーンが大きい。

 例えば,ホテルの場合,ビジネスホテルは第3次産業に分類できるが,高級リゾートホテルは,単に 宿泊だけが目的でなく,レジャーを楽しむことが主たる目的であるので,第5次産業に分類できるであ ろう。そしてその中間に位置するホテルは少なくないであろう。レストランの場合も,学生食堂などは 第3次産業に分類されるが,高級レストランは第5次産業とみなしてよいだろう。その中間的存在は数 多くあるだろう。7)

 ところで,第3次産業は直接的に住民サービスに関わっているが,接客がマニュアル通りの画一的で

(4)

あるか,顧客の事情に応じて臨機応変に対応するか,すなわちホスピタリティの次元が異なるが,第5 次産業も住民サービスにかかわる。従って,第5次産業の発展は,経済振興に寄与するのは当然として,

住民サービスの質が向上に寄与する。一石二鳥の効果がある。

 現実にはどうなっているかを見るために,日本経済について従来の概念での第3次産業について細分 類を試みたのが表2である。

 この表は総務省統計局の産業分類範疇に基づいて仕分けしたものであり,多少の不正確さが残る。例 えば,第3次産業に含まれている観光に関するものは第5次産業に含まれてよいものがある。製造業の 中でも芸術性の高い製品を生産するものや,建設業でも文化財の修復に携わる業者もあるであろう。こ れらは第5次産業に含まれるべきものである。また,農業においてもグリーンツーリズムを実践してい る農家は第5次産業だといえる。一方,情報通信業を第5次産業に分類しているが,映画・音楽などの コンテンツ産業を除いた通信媒体のみを提供している業者は第4次産業に分類されるべきであろう8) それでも表2は一応の傾向を示すと考えられる。

表 2  従来の概念での第3次産業の細分類

就業者数(万人)

産業

2002年 2016年

実数 実数

第3次産業 479 13.3 513 12.3

 宿泊業・飲食・サービス業 301 8.4 333 8.0  生活関連サービス業・娯楽 178 4.9 179 4.3

第4次産業 2,123 59.0 2,238 53.5

 運輸業・郵便業 308 8.6 327 7.8

 卸売業・小売業 944 26.3 976 23.3

 金融業・保険業 161 4.5 160 3.8

 不動産業・物品賃貸業 87 2.4 111 2.7

 複合サービス業 75 2.1 61 1.5

 サービス業(他に分類されないもの) 330 9.2 373 8.9  公務(他に分類されるものを除く) 217 6.0 231 5.5

第5次産業 994 27.6 1,431 34,2

 情報通信業 154 4.3 200 4.8

 学術研究・専門技術サービス業 153 4.3 171 4.1

 教育・学習支援業 247 6.9 282 6.7

 医療・福祉 440 12.2 778 18.6

総数 3,596 100.0 4,182 100.0

 出典:総務省統計局ホームページ

(5)

 この表によれば,従来の概念での第3次産業に従事する就業者に対する新しい概念での第3次産業 の就業者の割合は,2016年度で12.3%,同じく第4次産業は53.5%,第5次産業のそれは34.6%である。

このうち第5次産業は増加傾向にある。9)

 元来サービス業は人手を必要とする業種で,第1次や第2次産業に比べると労働生産性を向上させる のが困難な部門である。それでも,IT技術が導入されることで生産性の向上が見られる。通信や金融 業では著しい。またAIとロボット技術が導入されれば,運輸やファーストフードなどの分野の生産性 が向上するであろう。そうすると,新しく細分類された第3次産業や第4次産業は生産性が向上し就業 人口が減少するかもしれない。

 一方,第5次産業は,ホスピタリティを基調とする産業であり,その仕事をAIやロボットで代替す るにはかなりの工夫がいる。むしろこの分野は人間がかかわること自体に意義がある色彩が強い。した がって,第5次産業は就業者が増加していく見込みが大である。第5次産業は,地域の経済振興と生活 の質の向上に貢献するので,第5次産業とどう取り組むかが農村振興の鍵となる。

3 .農工商連携 1+2+3=

6次産業

 一村一品運動

 大分県日田市の大山町は一村一品運動のルーツである。大山町は中山間地にあって耕作面積は狭く,

コメなどの基幹作物を栽培するには不利である。牛(豊後牛)も飼育していたが将来性もあまり見込め なかった。それで,コメや畜産をやめ「梅栗植えてハワイに行こう」という合言葉で梅干しの生産販売 をやりだした。58年前のことである。大山町産の農産物の直売も,地元と福岡市にアンテナショップを 設けて実施した。この試みは見事成功し,今でこそハワイ旅行は普通になったが,当時では高価なもの であったハワイ行きを町民多数が経験した。

 一村一品運動の成功と失敗

 大山町の成功を見て,日本の農山村で一村一品運動が展開された。しかし,成功例よりも失敗例の方 が多いと言われている。一村一品運動の目的の一つは,農産物をそのまま販売するのではなく,加工し て製品にして付加価値を高めことにある。しかし,農産物を加工して何らかの製品に仕上げるまではで きても,その製品の売り先を確保できなくて失敗に終わることが多い。大山町の成功は売り先の確保に 努力することにあった。

 この経験から,農業(第1次産業)+加工(第2次産業)+流通(第3次産業)=6次産業化を進める ことになった。また,インターネットと宅配便が普及したことが生産者(農民)と消費者を直接的に結

(6)

び付けるものとなっている。

 生産者と消費者が直接に結びつくことで,生産者は消費者のニーズを肌で知ることができるようにな り,マーケット戦略に活かすことができる。そして,消費者も生産の場に興味を抱き農村を訪れるよう になる。

4 .もう1つの6次産業 1+5

 農工商連携による農業の6次産業化は,農村の振興に貢献するが,農業の持つ多面的な機能を活用す れば10),農業が細分類された第5次産業と結びつくことが可能である。1+5のもう一つの農業の6次 産業化である。

 農と観光― グリーンツーリズム(農家楽)

 農業と観光を結びつける試みは,グリーンツーリズムあるいはアグリツーリズムとして。ヨーロッパ に起源をもつが,今では日本をはじめ中国や韓国など世界中に広まりを持ってきている。

 都会の喧騒を離れて,静かな農村に滞在して,新鮮な野菜や果物などを食べ,森林浴,農業体験など,

身も心もリフレッシュする。グリーンツーリズムは,医療,教育などに結び付けることで一層魅力を増 す。日本では修学旅行でグリーンツーリズム体験することが普及している。

 農と医療―医食同源11)

 無農薬・有機栽培の野菜,薬草,機能性食品など人々の健康増進する作物を栽培することは,付加価 値を高め農業の振興に役立つ。また園芸療法12)は,心身のリハビリに有効であり,社会の高齢化にむ けて期待されている。

 農と福祉

 農業は,障害の特性に応じた作業が可能であること,一般就労に向けた体力・精神面での訓練が可能 であることから,障害のある人たちの雇用の場になっている。

 農と教育

 農業は自然を相手にしているので,農業の体験は必然的に自然を学ぶことになる。自然は人間では制 御できない存在であるので,忍耐力や臨機応変の対応能力が養われる。また,青少年期に自然体験が豊 富であると人格がまっとうに形成される。

(7)

5 .おわりに

 農村の振興には,農業の持つ多面的機能に着目して活用することが鍵となる。この多面的機能を戦略 的に構成した農業公園やテーマパーク,さらに文化事業複合体13)は,都市から多くの人を引き付け農 村の経済振興に役立ち,雇用の場も確保され,過疎化に歯止めをかけることが見込まれる。

注)

1)日本の場合,規模拡大は高齢化と過疎化に伴う農業の担い手不足で,せざるを得ないものである。

2) IT技術で,工場型農業が進めば,都市でも農業が盛んになる。

3)窪田新之助『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来-2020年に激変する国土・GDP・生活』

4)研究開発,営業,管理部門の人員が多い。サッポロビール日田工場の例でも,ビール製造工場内の就業者より も流通・観光部門の方が多い。

5)日本産業標準分類では,電気,ガスなどエネルギー生産部門は第3次産業に分類されるが,サービスという意 味からは違和感がある。

6)形のあるものを生産する第1次産業と第2次産業では,生産者がその生産物を直接顧客に販売することは希で,

流通部門を通して顧客に届けられる。

7)居酒屋はどうであろう。ファジー集合論を応用すればこのような事情をうまく反映できるかも知れない。

8)経済産業省『文化産業立国』(2004年)では,文化産業の対象として,家具・繊維・アパレル・皮革製品・食器・

玩具・ジュエリー・工芸・文具を含めている。

9)医療・福祉の伸びが大きい。高齢化社会を反映している。

10)現在では,農業は産業としての農業として定着しているが,農業はもともと人々の生活を全般的に支える「な りわい」としての側面,いわば文化としての農業がある。農耕発生以来のこの伝統の中に,食料生産以外の多 面的機能がある。

11)もともと薬食帰一,身土不二を,1975年新宿クッキングスクール校長新居裕久が造語したと言われている。

12)園芸療法とは,人々が植物を園芸作業で育て気づかせることで癒し効果が期待されるので,専門家の指導によっ て行う一連の園芸による作業行為を通して,心身の五感を刺激して目的を達するための作業療法であるといえ る。瀬山和子「非行少年少女の更生と社会復帰への園芸療法の導入効果」

13)何種類かの文化産業・文化関連産業・新文化産業などを一か所に集めて,相乗効果をひきだし,他の産業と連 携し地域の文化経済を活性化する。

参考文献資料

ベル,D(1973)『脱工業社会の到来』(内田忠夫ほか訳)ダイヤモンド社 駄田井正・浦川康弘(2011)『文化の時代の経済学入門』新評論

Foot, N.N.& Hatt, P.K.(1953)“Social Mobility and Economic Advancement,”American Economic Review, Vol.43. pp. 361-383.

(8)

Frankel,B.(1987)The Post Industrial Utopians, Polity Press

窪田新之助『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来-2020年に激変する国土・GDP・生活』講談社+α新書 2017

参照

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