「 走れメロス」の語 りに着 目した読みの交流
松 本 修 0 は じめに
本稿 の 目的は、『文学 の読み とその交流 のナ ラ トロジー』I )において提 出 した ( 読みの 交流)活動 を中心 とした話 し合い学習 とい うものの具体的様相 を描 き出そ うとい うところ にあ る。 「 走れ メロス」の ( 語 り) に着 目した学習課題 に基づ く学習過程の中か ら、ある グループの話 し合いプ ロ トコル を とりあげ、質的三層分析一 三とメタ認知的 レベルでの言及 の分析 とによって、読みの交流が どの よ うに達成 されてい るかについて検討す る。
ここで扱 うグルー プの話 し合 いデー タは、『文学の読み とその交流 のナ ラ トロジー』 に おいて も一部用いてい るものであるが、あま りに も典型的に読みの交流 を達成 してい るよ うに見えるせ いで、これ まで論文化 をため らってきた とい う経緯 を持 っている。ここでは、
学習のデザイ ンか ら分析 までを一つのま とま りを持 った形で述べてい くために、前著や既 発表論文 と重複 した記述 を含 ま ざるを得ないが、逆に言 えば本論 は一連 の研究のエ ッセ ン スをま とめた もの とも言 える。
1 学習のデザイ ン
松本 ( 2006) に述べ た よ うに、 「 走れ メロス 」 は、いわゆる描 出表現お よびそれ に近い 表現 を多 く含 んでお り、ナ ラ トロジーの観点か ら興味深 いテ クス トである。 こ うしたテ ク ス トの場合、作中人物 に寄 り添 う読み手 と語 り手に寄 り添 う読み手 との間に解釈の違いが 生 まれやす く、 しか もその根拠 が ( 語 り) に関連づ けて説明 しやす い。 ( 語 り) を手がか
りに読みの交流 を中核 においた学習 をデザイ ン しやすい学習材 である。
調査 にあたっては、二カ所 の描 出表現 に着 目し、解釈上の課題 とす る とともに、話 し合 いのテーマ とした。 この調査の授業は、「 走れ メロス」 ( 学校図書 『中学校国語 2』平成 1 2 年度版) を学習材 として 、2002 年 2 月 22 日か ら 3 月 2 日にかけて 5 時間扱 いで上越教育 大学附属 中学校 2年生 を対象 として行 われた。 4人 グループによる話 し合いのデー タは、
カセ ッ トテープによる録音デー タを トランス クライブ した ものである0
学習は、 A 「 走れ ! メロス。」 とい う中盤 の部分テ クス トと、 B 「 塔楼 は、夕 日を受 けて き らき ら光 ってい る。」 とい う終盤 の部分テ クス トについて、それぞれ 「 誰の声が聞 こえるか」 とい う学習課題 に答 え、それ をめ ぐって話 し合いが行 われ てい る。
指導過程 は次の よ うな ものであった。
第 1 次 テクス トとの出会い。読みの形成‑の手がかりをつかむ。
第 1 時 ・授業者による朗読 学習者は目で本文を追 う。
・「 この物語を私はこう読んだ」という題で文章を書く。
主題よりは自由な構えで、物語の全体的な感想を引き出す
。・「 何でもいいから気づいたこと」を書く。
ここでは、疑問点や気づいた点、気になる点などを自由に書かせる。本文の箇所
を明示 させて書かせ る
。表現への着 目、内容への着 目など、それぞれの着 目に応 じて様 々なことが らが指 摘 されると思 うので、それ らを回収後分類整理す る
。第 2 時 ・気づいたことの うち、語 りに関す る要素 について整理 したプリン トを配布、指摘 さ れたことが らを概観す る 。 語 りの基本構造の確認。
・描 出表現 を指摘 したプ リン トを配布、その知覚の基点 を記入 させ る
。なぜそ う言 えるか とい う根拠 を、テクス トの該当の部分 、別の部分か ら抜 き出 させ、
それがなぜ根拠 となるかを説明 させ る
。第 2 次 描出表現の部分 に関す る読みを交流す る
。第 3 時 ・グループを作 り、グループ内で互いの考 えを発表す る
。・他者の考 え方 について、感 じたこと、疑問な どを提示 し、話 し合いを行 う
。・個人で、初発の感想 と描 出表現 についての読み方 との関連性 を考 える 。
第 4 時 ・グループを作 り、グループ内で初発の感想 を発表す る
。描 出表現の読みが初発の感 想 との関連 において、 どう考 えられるか、意見 を交換す る。
・討議 をふ まえ、自分 に欠けていた視点などについてまとめ させ る 。
第 3 次 主題 を検討 し、 自分 な りの解釈 をまとめる。
第 5 時 ・「 私は 「 走れメロス」 をこう読んだ」 とい う題で再び文章 をまとめる
。可能 な限 り、根拠 となる表現 とその解釈、影響 を受 けた他の学習者の意見 などに言 及 させ る
。学習 に用いた学習 シー トは以下 の ような ものである
。学習 シー ト① B4 縦書 き横置 き 1 この物 語 を私 は こ う読 ん だ○
2 「 話 邑
気づ いたこと
し合い」マニュアル
・最初の発表者は西南の人、以下右回 り ○ 最初の発表者が司会 をす る○ (まず録音機 をスター トさせ る○)
・学習 シー トの記述 をもとに、わか りやす く自分の考 えを説明す るo
・聞いている人は、その発表者の考 えを聞 きなが ら、疑問や感想 な どをポス ト ■ イツ トに書 き、
んでお くつポス トイ ッ トの一番上 には 「 石川‑井上君」 とい うように、誰の誰への意見か かるように してお く ○
・発表が終 わった ら、聞いていた人は右隣か ら順 に、ポス トイッ トの記述 をもとに疑問や感禿 な どを述べ る○発表者は順 に答 え られる範囲で答 えてい く
○質問な どが終わった ら、その はポス トイッ トを発表者の学習 シー トに貼 る
○・全体の発表が一巡 した ら、問題 になった ところや、意見が食い違 つ‑ た ところな どにらいて、
学習 シー ト② B4 縦書 き横置 き
・は じま りの三文 は、ふ つ うな ら もうち ょっ と後 に くるべ き文 だ と思 ったO最初 に 「メロス は 激怒 した。」 と書 いてあ って もなんで ?となる 。 だけ ど、それが きっ とね らいだ と思 う 。( K)
・同 じセ リフ を二 回繰 り返 して書 いて あ る こ とが二 度 三度 あ った。 ああす る と強調 で きる 。 一 行 に短 い文 がい くつ も入 ってい る
。だか らけっ こ う読 みやす い 。 ( 0)
・考 えてい る こ とや心 の 中で思 ってい る様子 が多 い。 (F)
・状況 な どの説明が、読 み手 にか た りか けてい る ような書 き方 を してい る。 (Ⅰ)
・誰 の考 え ( 言 葉 )か分 か らない文 が あ る
。私 はそ れ を、 メロスの心 の 中 ( 考 えてい るこ とで はない) だ と思 うのですが、 ただの とが きか も しれ ませ ん。 ( Y)
・人物 の気持 ちには 「 」 がつか ない 。( T)
・メロスが心 の 中で思 って い る こ とが 、 えん えん と続 きっぱ な しの ペ ー ジが あ る 。 ( 1 28 ‑1 31 ) ( N)
・メロスが心 の 中で 自分 を言 い きかせ てい る ところが多 い 。 (K )
・セ リフで はない所 もセ リフの よ うに気持 ちが 入 ってい る所 が あ った。( 例 p1 31 の一行 ) (IT)
2 「語 り 」 の基本構 造 冒頭部
メロスは激怒 した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意 した。メロスには政治が分からぬ。メロス は、村の牧人であるO笛を吹 き、羊 と遊んで暮 らしてきた。けれども邪悪に対 しては、人一倍に敏感であった。今日未
まち
明メロスは村を出発 し、野を越え山越え、十里離れたこのシラクスの市 にやって来た。メロスには父も、母 もない。女 房 もない。十六の、内気な妹 と二人暮らしだoこの妹は、村のあるi )ちぎな‑牧人を、近々、花婿 として迎えることに まち なっていた。結婚式 も間近なのである。メロスは、そオ 故 、花嫁の衣装やら祝宴のごちそうやらを買いに、はるばる市 にやって来たのだ。まず、その品々を買い集め
、それから都の大路をぶらぶら歩いた。メロスには竹馬の友があった。
まち いし く
tl )ヌンテ ィウスである。今はこのシラクスの市 で、石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつ もりなのだ。
久 しく会わなかったのだから、訪ねてい くのが楽 しみであるG歩いているうちにメロスは、町の様子をあや しく思った
。まち
ひっそ りしている。もう既に日も落ちて、町の暗いのは当た り前だが、けれども、なんだか、夜のせいばか りではなく、市 全体が「 ̲やけに輯 折 のんきなメロスも、だんだん不安になってきたっ道で会った若い衆を捕まえて、何かあったの か、二年前にこの市 に来た時は、夜で も皆が歌を歌って、町はにぎやかであったはずだが、と質問 した。若い衆は、
7̲/うキ
首を振 って答えなかった。 しばらく歩いて老爺に会い、今度はもっと、語勢を強 くして質問 した。老爺は答えなかっ
‑‑"i た。メロスは両手で老爺の体を揺すぶって質問を重ねた。老爺は、辺 りをはばかる低声で、わずか答えた。
語 り手 作 中人物 知覚 ・感 覚
声