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ジョージアテックでの在外研究

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Academic year: 2021

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海外レポート

スコットランドの地方都市スターリングでの生活

商学部准教授 杉 本 宏 幸

2010年9月から1年間、本学の長期在外研究員と して、スコットランドのスターリング大学(Univer- sity of Stirling)で研究する機会をいただいた。

研究先となったのは、小売流通や小売マーケティ ングの研究教育機関Institute for Retail Studies(以下、

IRS)である。受け入れにあたっては、IRSの設立

者で名誉教授であるJohn Dawson教授のご紹介を介 し、IRSのDirectorで あ るPaul Freathy教 授 に 手 続 きのお願いをした。やや特殊だが、特定の受け入れ 教授の先生がおられたわけでなく、Instituteに受け 入れてもらった私の一年間はかなり自由なものだっ た。

スコットランド、スターリング大学

慣れてしまえばどうにか対応できるが、スコット ランドの英語は独特のものがある。イングランドか ら電車でスコットランドに入る際、スコットランド の首都エディンバラで車内放送が変わり、語尾の発 音が上がるように(私には)聞こえる独特の英語を 聞くと、少し身が引き締まる思いになる。スコット ランドの高地地方であるハイランドまで赴くと、ス コットランド・ゲール 語(Scottish Gaelic)の 看 板

や駅の標識等が目に付く。決してゲール語のせいだ けでなく、私の英語力の低さもあるが、言語は実際 に現地に入って話してみなければわからない。

このように書くと、せっかく本レポートをお読み 下さっている方が、ひょっとするとスコットランド という国を敬遠なさるかもしれない。言語的な問題 は慣れてしまえば何とでもなる。何よりスコットラ ンド人は総じて人が良い。人なつっこく話好きで、

カフェでお茶を飲んでいるアジア人の私へ隣のご老 人が話しかけてきたり、迷う私に道を教えてくれた りする。スコットランドという国はウイスキーやゴ ルフでも有名だが、その雄大で豊かな自然が大きな 特徴でもある。天候が良いときは、その雄大な自然 を十二分に満喫できる。

私が滞在したスターリングは、かつてイングラン ドとの独立戦争の舞台になった地域で、戦略的な要 所として広く知られている。スターリングの中心部 から約5!北に位置するBridge of Allanという集落 にスターリング大学は近い。約1.4平方キロメート ルのキャンパスの敷地の多くには芝が張られており、

大学の北側から北東方面が森や山のため、緑豊かで ある(写真1)。

〔写真1〕北東の山から撮影したスターリング大学付近 〔写真2〕学内の Airthrey Loch

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講義用の建物はAirthrey Loch(人口の池、写真2)

の南側に集中的に建設され、建物はわずかしか存在 しない印象を受ける。キャンパス内には、9ホール のゴルフ場、フットボール場、学生用の宿舎・託児 施設、訪問者の宿泊施設(Management Centre)、事 務所等に使用されるAirthrey城、映画館(MacRobert

Arts Centre)、カフェ等があり、多くは一般にも開

放され、まさに地域に根ざしたキャンパスとなって いる。

Airthrey城正 面 のAirthery Castle Yardと い う 小 高 い丘にあるスタッフ用住居のNo.3で私は1年間を 過ごした。自宅近辺には、野生のリス、ウサギ等が 毎日当たり前のようにやってくる。日本では考えに くい大自然の中の生活だった。 世界で最も美しい キャンパスの一つ というGuardian University Guide 2011の評価は大げさではない。

スターリング大学のUniversity Profileによると、

約12,300人の学生(約3500人の大学院生含む)の23%

は海外からやってくる。全体の約1/3が上述の学 生用の宿舎に住んでいると聞いたことがある。かな りの学生達が、やや不便な立地のこのキャンパスに 通うのでなく住んでいる。私より一ヶ月弱遅くス コットランド入りしたIRSのPh.D studentでコロン ビア人のMr. Juan Carlos Londoño(Pontificia Universi- dad Javeriana, Caliの講師)も、しばらく家族で学生 用の宿舎に住んでいた。偶然だが、彼とは同い年で、

しかもほぼ同じ時期にIRSに来たため、親しくお 付き合いさせていただいた。

Institute for Retail Studies

IRSは、研 究・講 義 棟 で あ るCottrell Buildingと いう建物の地上2Fにある。そこの3B17という少 し広い部屋の一角が私の研究スペースとして与えら れた。フェローであるMs. Anne Findlay、講師でCo -operativeの コ ン サ ル テ ィ ン グ も す るMr. Eric Cal-

derwood、そして上述のDawson教授との相部屋だっ

た。Dawson教授はイギリス国外でも多くプロジェ クトを抱えておられ、実質的に3B17は私を含む3 名の共同使用だった(写真3)。

同室のお二人の先生方は私を快く受け入れて下さ り、お忙しい時間を割きながら、研究のこと、スコッ トランドのこと、私生活に至るまで、丁寧にご相談

にのって下さった。両先生との相部屋は、私には非 常に嬉しいIRSの配慮だった。事務スタッフを含 むIRS全スタッフの細やかなサポートが、海外に 不慣れな私のスコットランド生活を本当に強く支え てくれた。

現在のIRSは、理論研究というよりむしろ実務 との関わりに重点を置いている。研究のフィールド はヨーロッパだけでなくアジアにもある。Dawson 教授は来日機会も多いし、IRSのKeri Davis博士は 日本の総合商社も研究している。私の研究対象が卸 売であることから、Davis博士にもよくご相談に のっていただいた。

IRSとアジアの関係を理解する上で重要なのは、

シンガポールの分校(branch)である。IRSはシン ガポール政府およびNanyang Polytechnic(NYP)と 提携し、シンガポールの在住者がUKの学位(Bache- lor of Arts in Retail Marketing)を 取 得 可 能 な 教 育 プ ログラムを展開しており、スタッフはシンガポール まで講義に行く。IRSはシンガポールをアジアの中 心的な拠点と認識しているという。スコットランド やヨーロッパの商圏に止まらないIRSの研究・教 育戦略が、IRSスタッフの研究成果とシンガポール のNYPに垣間見える。

研究生活

スターリング中心部には、TESCO、Marks & Spen- cer、Sainsbury’s、Morrisons、Aldi、Iceland、SPAR 等があり、自宅から徒歩20分程度にCo-operativeが 二軒、そして10月頃だったか、学内にNISAの店舗 ができた(写真4)。中心部のThistles Shopping Cen-

〔写真3〕Cottrell Building の研究室3B17

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treは賑わっていて、上述したBridge of Allanの商店 街は個店のアイテム数が決して多くはないものの、

近隣住民がよく利用している。スターリング地域の 住民数に対し、十分な買い物施設が提供されている。

しかし私の場合、自宅からバス停まで歩いて約15 分、さらにバスで市内中心部まで約15分要する。あ まりにも便利な日本に住み慣れていたせいか、最初 はバスに不慣れ(慣れれば味わいがある)で、買い 物をして帰宅するまでが大変だった。(商品価格を 除く)買い物に必要な私の金銭的・非金銭的コスト が急騰した。

自動車を入手すれば多少解消されるが、その手配 よりも食料品をはじめ日々の身の回り品の調達が必 要な状況が続いた。最初の1ヶ月程度は生活のかな りの部分を買い物に費やさざるを得ず、研究に専念 したかった私には強いストレスとなった。日本の流 通・マーケティングの理論・実務で、近年ようやく 問題にされ始めた「買い物弱者」、イギリスで既に 指摘されてきた food desert issue (食の砂漠化問 題)とやや似た状況に、外国人の私が直面してしまっ た。

ある日、スーパーマーケットのTESCOで買い物 を終え、自宅に歩いて帰宅していると、愛犬Reiver と散歩に出かけようとしていた隣家のアメリカ人 Kevin Tipton教 授(School of Sport)がTESCO online

(TESCOのネットスーパー)を教えて下さった。

イギリス・スコットランドでは配送サービスの質が 極めて低いにも関わらず、TESCOのネットスーパー は時間指定の配送が可能で、(多少の欠品はあるが)

注文通り配送してくれる。(私にとって)配送料も

バス代とあまり変わらない。11月27日の初雪(スコッ トランドの冬は厳しい)より前に、TESCOのネッ トスーパー、インターネット回線、そしてKevin教 授のアドバイスによって、私が陥っていた疑似「買 い物弱者」とも言える状況は解決された。サプライ チェーン、オンライン受発注、配送の効率性向上は、

消費者の生活を改善し、豊かにする。

そうした視点で、IRSの先生方の研究を見直すと、

消費者(特に高齢者)が買い物に行きにくい状況、

地方の小売流通とサプライチェーン、地方小売が形 成するコミュニティ等にかなりの労力を割いておら れた。イギリスの事情として特徴的なのは、大規模 な小売企業によるサプライチェーンの構築、小売独 自ブランド(Private Label)等だが、忘れられがち な地方の(独立)小売店のあり方、小売が支える人々 の生活をIRSのスタッフは直視していた。そうし た問題は、研究期間中、二度参加したヨーロッパの 学会(イタリア、スロヴェニア)でも認識されてい たと感じる。在外研究の半年ほど前から、自身の研 究にそうした視点を導入しかけていただけに、これ 以上無い良いタイミングだった。

研究フィールドを日本国内だけに置いていた私に とって、日本と異なるスコットランド、スターリン グのことを把握しつつ、IRSスタッフや友人のCar- losと議論した短すぎる一年間は矢のように過ぎて しまった。得られた知見を十分に反映できていない が、在 外 研 究 中 の 成 果 は2011年11月 の9th SARD

workshop(中国人民大学)、商業学会九州部会で報

告させていただいた。

最後になったが、貴重な研究機会を与え、在外研 究生活を支えて下さった本学の全関係者の方々、ス ターリング大学およびヨーロッパでお世話になった 全ての方々、そしてDawson教授に橋渡しして下 さった学部時代以来の恩師:崔相鐵教授(流通科学 大学)と向山雅夫教授(流通科学大学)へ、この場 を借りて厚く御礼申し上げたい。

〔写真4〕学内の小売店 NISA

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海外レポート

ジョージアテックでの在外研究

工学部准教授 松 永 久 生

1.はじめに

2011年9月から1年間、米国・アトランタにある ジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology、

通称ジョージアテック)で訪問研究員として在外研 究を行いましたので報告致します。本機会を与えて いただいた本学関係者の皆様に深く感謝申し上げま す。

2.アトランタ

ジョージアテックのあるアトランタは1996年オリ ンピックの開催地として有名で、福岡市とは姉妹都 市提携を結んでいます。コカ・コーラ、CNN、デ ルタ航空など、多くの大企業が本社を置いており、

米国南東部の経済の中心地となっています。四季が はっきりしており、蒸し暑い夏と比較的温暖な冬は 福岡に似ています。人口の約6割はアフリカ系住民 で占められていますが、最近ではヒスパニックやア ジア系の移民も増えているようです。現地の人々は 日本人に比べ全体的にのんびりした印象で、大らか で誰に対しても親切です。その一方で、アトランタ には全米有数の犯罪多発都市という側面もあり、ダ ウンタウンからあまり距離のないジョージアテック キャンパスの周辺でも、時折強盗や殺人の発生が報 告されていました。私は家族とともに、大学から15 キロほど離れた比較的安全といわれる地区に居を構 え、中古のホンダ・アコードとカーナビを頼りに車 社会の一員となりました。その甲斐もあってか、私 自身は一年間の滞在中、クレジットカードのスキミ ング、タクシー料金の過請求、偽札掴みなどの小さ なトラブルを経験したものの、幸い大きな危険には 遭わずに済みました。

3.ジョージアテック

1885年に設立された州立大学で、6つの学部と6

つの研究科からなる米国屈指の名門工科大学です。

福岡大学の約2倍半の広さのキャンパスに約1万7 千人の学部生・大学院生が学んでいます。広大な キャンパス内〜最寄駅で無料のトローリーバスが運 行され、車を持たない学生への配慮も十分といえま す。

3.1 学生について

教室や図書館内を眺めた限りでは、全体的に勉学 に意欲的な学生が多いと感じました。その背景とし て、講義のレベルが高く予習・復習が必須であるこ とや、就職や大学院進学の際GPAが厳格に考慮さ れること、外国(特にインドや中国)からの志の高 い留学生の存在などが挙げられるかと思います。一 方で、ジョージアテックで教えている日本人教員か ら聞いたのですが、米国の大学生は日本人学生に比 べて、掛け算九九などの単純な計算ミスを比較的よ くする傾向があるということです。掛け算九九を小 学校で繰返し音読して覚えるような習慣がないこと も関係しているかも知れません。その先生は、着任 当初の期末試験で単純な計算ミスに対して減点し、

猛抗議を受けたことがあったそうです。好意的に解 釈すれば、米国の学生は本質の理解を何よりも重ん じるということでしょうか。教員に対して臆するこ となく意見する姿勢については日本の学生も見習う べきかも知れません。

3.2 教員について

米国の有名大学の工学系教員全般に当てはまるこ とと思いますが、教員は研究資金獲得を主とした研 究室のマネジメントに非常に多くの時間と労力を費 やしています。教員に給与が支給されるのは年に9 カ月だけであり、残り3カ月分の給与については NSFやNIHなど、連邦政府やその他のグラントを 獲得して賄うことがインセンティブになっています。

外部資金を獲得してなんぼの厳しい世界です。ある

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教授に聞いたところでは、自身の全エフォートの約 半分を研究費獲得に費やしているとのことでした。

現在の研究プロジェクトを成功させて次のプロジェ クトにつなげるというサイクルの中で、教員は優秀 なPhD学生やポスドクといったマンパワーを獲得 し、サラリーを支払う必要があります。逆に学生や ポスドクには学位取得や雇用継続のために研究成果 が求められます。こういった自転車操業ともいえる 状況が、教授〜学生の各レベルで高い競争意識や危 機意識を育み、それが結果的に大学全体のレベル アップにつながっているように感じました。

4.研究について

私の専門は機械工学の中の材料力学という分野で す。中でも、「金属疲労」を中心に研究しています。

金属疲労とは、金属材料に繰返し負荷をかけ続ける といつか壊れてしまう現象です。金属疲労に起因す る事故としては、例えば日航機墜落事故(1985年、

520名死亡)やドイツ新幹線ICEの脱線事故(1998 年、101名死亡)が有名です。そのような大惨事か ら日常起こるモノの些細な破損まで全てを合わせる と、破壊・破損による経済損失はGDPの4%に達 するとの試算もあります。米国における金属疲労研 究は航空宇宙産業や軍需産業の発展と歩みを共にし てきたといっても過言ではなく、軍やNASAから 大きな研究予算を受けとる大学教員も少なくないよ うです。金属疲労の研究といえば、一昔前までは、

対象材料を疲労試験機で壊して現象を観察する「実 験的アプローチ」が主流でした。しかし近年、材料 中のミクロレベルの破壊現象の解明が進んできたこ とに加えてコンピュータの高速化や解析方法の目覚 ましい発展もあり、「数値解析による仮想空間内で の破壊シミュレーション」が実験に代わる手法とし て注目され、疲労強度設計や材料設計への応用が期 待されています。私が所属したMaterials Science and EngineeringのProf. McDowellの研究室は、そのよ うな疲労破壊シミュレーションのメッカといえると ころです。金属疲労研究に携わる総勢15名程度の PhD学生とポスドクの全員が、毎日実験装置では なくPCに向かうという新しい研究スタイルを目の 当 た り に し、元 来 実 験 屋 で あ る 私 は 大 き な カ ル チャーショックを受けました。私も滞在中に破壊シ

ミュレーションに関する新しい研究をはじめました。

知らないことを自分で調べて人に聞くといったこと を繰り返すうちに、学生時代に戻ったような新鮮な 気持ちで一年間を過ごすことができました。慣れな い環境に身を置いて新たな挑戦することで得た経験 は、私にとっては研究成果以上に大きな収穫でした。

5.最後に

私の不在中、機械工学科の先生方や材料力学研究 室の皆様には講義や卒論指導等で大きな負担を引き 受けていただきました。この場を借りて深く感謝申 し上げます。

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参照

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