奈良教育大学学術リポジトリNEAR
墨の物性について(?)煤の墨色に及ぼす影響につ いて
著者 市川 米太
雑誌名 奈良学芸大学紀要
巻 8
号 2
ページ 103‑106
発行年 1959‑02‑15
その他のタイトル Studies on the Sumi Colloid(III) Effect of Carbon Black on the Color of the Sumi
URL http://hdl.handle.net/10105/4856
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墨の物性について
(Ⅱ)煤の墨色に及ぼす影響について
市 川 米 太 (自然科学教育教室)
(昭和33年11月10日受理)
YonetaIcftlKAWA:Studies on the SumiColloid(Ⅲ)
Effect of Carbon Black on the Color ofthe Sumi
1.緒 言
第一報の墨の電子顕微鏡による研究によって墨色の優劣は墨をすったときに,墨コロイドが水 によく分散しているか否かによってきめられることを知った。この墨色の優劣即ち分散の良否は 墨の製造において原料の煤,膠及び両者の横枠の技術によるものであるが,特に第二報において は煤の分散度と誘電率の関係の研究によって,煤の分散,凝集の程度が煤の懸濁液の誘電率の測 定によって明になることがわかった。
煤はそれを採集する材料によって,菜種油煙,椅腰,軽油煙,カーボンブラック(天然ガス石 炭ガス),テレピン油煙等に分頬されている。中国においては周末に始めて現在のような墨が作 られたとき以来現在まで主に於厘が使われて来たのであるが,わが国においては,延喜式に菜種 油姪を使っての製法が見られるが,中世の藤代墨以来徳川時代の始めまでは紀州熊野の松鹿が責 が良く珍重されて使われて来た。徳川時代の始め頃よりは次第に菜種油煙の使用が盛んなり大正 時代まで専らこれが使われその量は校旗を遠に上まわっていた。大正時代の末期頃軽油から朕を 大量にとる技術が研究され,その価格が菜種油壇より非常に安いため下等の塁には軽油歴が次第
に使われるようになった。最近ではノ 槍屋の入手難,菜種油の高価等の原因に加えて,軽油煙の 質の改良によって特別上等の塁を除いては,大部分グ〕墨が軽油煙によって作られている状態であ
る。更に現在,カhボンブラック,テレピン油煙等の使用についても研究されつつある。
本報に患レ、てはこれ等の煤の中最近塁の製造に良く使われている軽油煙三極頑とカーボンブラ ック一種頑を試料として,菜種油庫,粗悪な桧厘と比較しながら研究した。その方法はます第二 報に発表したような煤を弘まし海中に腰濁して誘電率と体積分率の河床からその分散状態を測定 しフ 次にそれ等の煤を使って作られた墨の水中における分散状態を,電子顕微鏡によって調査し たものである。
2.資料と実験
資料はT社の軒由腰の中品と下品,H社の軽油煙に他の煤を混合した煤,それにM社のカーボ ンブラックの4種頑である。これ等の其の写真はFig・19,20,21,22に示してあり,叉その直径は TableIに示されている。
誘電率の測定はこれ等の資料をひまし油中に懸濁してなした。測定器はQメータ」によるもの で,周波頚は100Kcに保ち周波数変化は行わなかった。湖走のCellは零容量うPFの対向同校電極 の問に試料を入れ絶縁テープで側面を封じた。恒温装置は特に使用せず19.5OC±1の室温の中で 実験を行った。
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TableI
市 川 米 太
〜、_ 直径l叫
㌃漸増聖二L聖」空杢 平均i f T杜軽池煙中可1・2日・5序05巨7
Fig・18はひまし油中に資料を懸濁したとき の体積分率に対する誘電率の曲線であるが,比 較の意味で菜種油煙と粗悪松煙の曲線が示され ている。T社の軽油煙の中晶,下品,H社の混合 T社軽池煙下品12・2l4・6[3・6012・9 燈は菜種油煙と同じように体積分率の増加に従 H社混合煙上品[1.7l 4.5[2.4513.0
M杜カーボンブラック[1.1[2.5】1.85
って誘電率が直線的に増加しているが,カーボ ンブラックは粗悪松煙と同じく曲線的に誘電率 が急激に増加している。e−≠曲線が直線になっ ているときは粒子の凝集状態に変化がなく体積分率とともに誘電率が増加してゆくものと考えら れるが,5−−少曲線が直線からはすれ急激に増加するのは凝集状態が段々に進んで鋲状または網状 の構造をつくるためであると考えられるのは,Voetの論文に見られることがここにも表われてい ると見るべきである。
○ 釆 稚 油 津
△ T示1軒油槽中富 メ 丁社寺量油槽TS e H社規合煙上呂 砂 フーアンブラ、ソワ D 粧し 欝 フ払:程
Fig・18 Change of dielectric constantwith concentration
for dispersions of carbon blackin castor oilBruggemanは誘電率を1の媒質中に誘富率雷雲の物質が球形粒子の形で分散している糸の誘電率を C,分散質の体積分率を声としたとき次式が成立するとした。
卜≠=崇1(:ゾも
亡≫51の場合憬
C=〔i諦1
墨 の 物 性 に つ い て
(105)稀薄懸濁液について c=51(1十3の
更にVoetは球形粒子でない一般の粒子に対して
古=含1(1十3秒)
なる関係がなり立つと考えfを:FormFactorと呼び分散喋を変えても変らす粒子の形状を示すもの とした。勿論球形粒子の場合はf=1であり粒子が球形からはすれているときにはf>1である。
本冥険に使った資料は電子針徴鏡写真から判るようにいすれも殆んど球形粒子であるがfの価は TableIに示しているようにf>1である。これは数個の粒子が鎖状につながったために患こるもの であると考えられる。従ってヰつの資料のfの価が違っていること,即ちFig.18の勾配が資柳こよ
って違っているのは各煤の凝集の程度を示しているものと考えられる。fの価の少いもの程凝集し にくく大きいもの程凝集しやすいのである。
Fig.23,24,25,26の電子顕棟鏡写真は誘電率か測定に使用した朕を原料として作られた墨をす って,その墨汁を水面上に薄膜としてはったものをコロヂオン朕の上にとって乾燥したものの写 真である。原料としての煤と製品になった塁の問の関係を調査するためにとったものである。
3.議 論
第二軌⊂おいて報告したように煤の粒子の凝集の程度は∵殻に粒子の少さいもの程凝集しにく いのであるが,本突放においていろいろな瞳頑の煤を使ってみるとカーボンブラックのように粒 子の非常に小さいものでありながら粗悪松煙と同じように凝集が非常に盛んで網状の構造をつく るものがある。叉これを原料として作った墨もFig.26に見られるように凝集した粒子が多く墨 としては充分な墨色が得られな、い。これは煤の懸濁液中における凝集の程度が一応墨という製品 になった場合も同じようにあらわれると見てよいものと思う。カーボンブラックの勾配が粒子か 小さいのに非常に大きく,凝集の盛んであるように見られるのは粒子の表面の成分の違いにあ
るのか,内部の構造の違いにあるのかについて更に研究の必要がある。軽油塵の中品,下品の違 いは粒子の直径の大小によるものであることは明かであり,そのことは叉fの価にも表われ,叉 その製品についても良否が明かに電子顕微鏡写真の分散の良否に示されている。混合厘について は粒子の直径は軽油煙下品より小さいが誘電率の測定によるfの値は軽油厘より大きくなって,
凝集しやすいことを示している。これは混合煙が軽油歴の外にfの価の大きい他の煤を含んでい るものと思われる。実阪によると混合煤の場合の誘電率のノ価は明に両者の誘電率の平均の蘭を示 していることからも明かである。Fig・25に見られる混合厘墨と軽油厘墨下品の分散は混合煙の 方が良いが,これは写真にも見られるように軽油煙下品に使用した膠が非常に悪いためであると 恩われる。
4.結 語
墨の原料としての煤は凝集し難いもの程墨となった場合にも分散が良く望ましいのであるが,
同一の材料からとった煤の場合は粒子の小さいもの程凝集し薙いが,煤をとる材料が異なる場合 にはカーボンブラックのように粒子の直径が小さくても凝集しやすいものもある。この凝集の程 度は煤の懸濁液の誘電率を測定し そのfの値を得ることによって知ることが出来る。一般には 凝集し難い煤を使用した場合良質の墨を作ることが出来るが,膠質によってもその分散即ち墨色 は左右されている。最近菜種諒煙や暦歴の代出⊂使用されている樫油煙等・告煤は菜種油歴程良い 原料ではないとしても粗悪な社歴よ出ま迄に良い塁の原料であると思われる。この研究に対する 奈良女子天蚕永教授,左貝さん,玄暮堂,本学服部講師の御厚意に対し深く感謝いたします。
市 川 米 太
文 献
(1)A.Voet(1947):J.Phys.Colloid Chem.51;1037
(2)D・A・G・Bruggeman(1953):Ann.d.Phys.24;626
(3)岡/J\天:誘電体論
(4)市川米太(1955)=奈良学芸大学紀要第5巻第2号
〔5)市川米太(1957):奈良学芸大学紀要第7巻第2号