音楽科の主張
著者 小林 真人
雑誌名 研究紀要 : 共に創りあげる授業
巻 20
ページ 54‑55
発行年 2020‑03
出版者 静岡大学教育学部附属静岡中学校
URL http://doi.org/10.14945/00027148
静岡大学教育学部附属静岡中学校 研究紀要(第20号)
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音楽科の主張
小林 真人
1 教科で育みたい人間像
私たちは,音や音楽のよさや美しさに,感動を覚えることがあります。音や音楽に感動を覚える経験を重 ねていくと,人々は音や音楽による感動をますます味わいたくなるでしょう。自ら感動を求めていくこと は,生活を,さらには人生を明るく豊かなものにしていくことにつながります。
また,私たちは,生み出され,育まれてきた背景の異なる様々な音や音楽それぞれに,固有の価値がある ことに気づくと,それぞれのよさや美しさを尊重していこうという思いを抱くことがあります。音や音楽の 多様性や固有性に気づき,それぞれのよさや美しさを味わう経験を重ねていくと,人々は様々な価値観を尊 重していく姿勢をさらに養っていくでしょう。自らの感性を大切にしつつ,他者の思いや意図をくみ取った り,様々な文化を尊重したりしていくことは,自らの感性をさらに豊かにしていくことにつながります。
音楽科では,教科で育みたい人間像を「様々な音や音楽のよさや美しさを味わい,分かち合う人」としま した。音や音楽には,人々の心を動かし,豊かにしていく力があります。音や音楽のよさや美しさを味わう ことを通して,子どもたちに豊かな情操が培われていくことを願っています。
2 教科ならではの文化
「様々な音や音楽のよさや美しさを味わい,分かち合う人」を育むことをめざす音楽科では,「音楽科な らではの文化」を「音楽に対する感性を豊かに働かせながら,表現や鑑賞を深めていくこと」と考えていま す。
音楽は,「つくる人」「演奏する人」「聴く人」による,音を媒体としたコミュニケーションです。そし て,それぞれの立場の人が,様々な思いや意図を抱きながらそのコミュニケーションに携わっています。も ちろん,「つくる人」同士,「演奏する人」同士,「聴く人」同士のコミュニケーションも大切ですし,尊 いものです。しかし,そういった立場の枠を越えたコミュニケーションを充実させていくことが,表現や鑑 賞をさらに深めていくことにつながるでしょう。
例えば,「演奏する人」たちは,「つくる人」が音や音楽にこめた思いや意図をくみ取り,それらを音楽 で表現しようとしたときに,あるいは「聴く人」たちの心の動きに思いを馳せたときに,音や音楽をより深 く味わっていきます。そして,自らが奏でる音楽を通して,「つくる人」がこめた様々な思いや意図を「聴 く人」と分かち合うことができたときに,より大きな感動を味わっていきます。
音を媒体としたコミュニケーションの中核には,音楽に対する感性,つまり音や音楽のよさや美しさなど の質的な世界を価値あるものとして感じ取るときの心の働きがあります。音楽に対する感性を豊かに働か せながら,音を媒体としたコミュニケーションを充実させていくことこそが,「様々な音や音楽のよさや美 しさを味わい,分かち合う姿」と言えるでしょう。
3 授業づくりで大切にしていること
子どもたちの「様々な音や音楽のよさや美しさを味わい,分かち合う姿」につながるような思いに寄り添 いながら,授業づくりをしていくことを心がけています。
まず大切にしたいのは,「取り組んでみようかな」と「頑張ればできそう」という子どもたちの思いです。
なぜならば,これらは初めて出会う音や音楽についても主体的に味わおうとする姿勢を育むことにつなが る思いだからです。これらの思いは,音楽経験の異なる子どもたち全員が,ためらうことなく積極的に音楽 活動に携わることのできる雰囲気の中で生まれていきます。表現や鑑賞を深めていくうえで必要な知識を 適宜確認したり,活動に必要な技能を無理なく身につけたり,視点を共有して知覚・感受したことを深めた り,互いのよさを認め合いながら励まし合って取り組んだりすることのできる授業は,そのような雰囲気を 醸成していくでしょう。そのために,子どもたちが見通しをもち,スモールステップを踏みながら学ぶこと ができたり,表現や鑑賞を協動的に深めていくための対話を生み出したりすることのできる題材構想の工 夫をしていきます。
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このような授業で学びを積み重ねていった子どもたちは,表現や鑑賞を深めることのできた達成感や,音 や音楽のよさや美しさを味わったり,音や音楽に価値を見いだしたりした充実感などによって,「取り組ん でよかった」という思いを抱くでしょう。そして,その思いは「もっと様々な音や音楽のよさや美しさを味 わいたい」という思いにつながっていくのです。
以上のことから,子どもたちの「取り組んでみようかな」「頑張ればできそう」「取り組んでよかった」
「もっと様々な音や音楽のよさや美しさを味わいたい」といった思いを大切に,授業をつくっていきます。