『有機化学』章末問題解答 17 章
1. 次の反応の主生成物の構造式を示せ.
O NH
O
O +
30 °C a.
NH O
O H
H O
H
H
+
100 °C O
O CH3 H3CO H2C
H2C
b. O
O H3CO
CH3
H
【解答】問題a, bいずれも Diels-Alder 反応が起こる.Endo 則に従うため,
上に示した相対配置の生成物がラセミ体として得られる.なお,問題 b は Woodward らがコルチゾンの合成のなかで利用した反応.この反応で位置選択性 が生じる(すなわち,メトキシ基ではなくメチル基が結合したアルケンがジエ ノフィルとして働く)理由を説明するには,フロンティア軌道理論が必要なた め本書で取り扱う内容を超えるが,非対称キノンの二つの二重結合のうちメト キシ基が結合した方は最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位が上がるため,ジ エノフィルとして反応しにくくなると考えればよい.詳細については,フレミ ング著,『フロンティア軌道法入門』,福井謙一監訳(講談社)の 4.2 節,4.3 節 を参照されたい.
CH3
O
H3C CH2 CH2 OH
H 185 °C
c. CH3
H3C CH2 OH O
H
加熱
d.O CH2 CH3
CH3
CH3
CH3 OH
H2C
【解答】問題 c は Claisen 転位(ピクロトキシンの合成に利用された反応), 問 題 d は Claisen 転位に続いて Cope 転位が起こり,アリル基がヒドロキシ基のパ ラ位に導入される.
OH
HO H2SO4 e.
H H2O
H O O
–H+
O O
OCOCH3 CHO
P CH3
O O H3CO H3CO
f. Na
O O
OCOCH3 O
CH3
【解答】問題eはピナコール-ピナコロン転位により,スピロ型(隣接する二つ の環が一つの原子のみを共有する型)のケトンが生じる.問題fは安定イリドを 用いた Wittig 型の反応であり,おもにE-アルケンが生成する(Corey によるプ ロスタグランジンの合成に用いられた反応).
O H3C
H3C
H2C O
H g.
H OH
H2O
O H3C
H3C O
HO O CH3 OCH3
H
H3C O
O O H NH
H3C O
O O CH2
H3C O
O OH
N H H
NH H
H3C O
O
H3C O
O O
CH3 O
O
H3CO
O
m-ClC6H4CO3H (mCPBA) H
h.
O H3CO H
O
【解答】問題gは,最初の工程では,2-メチルシクロヘキサン-1,3-ジオンから エノラートアニオンが生成し,3-ブテン-2-オンへのMichael付加反応が起こる.
次の工程でアルドール縮合が進行して,もう一つの六員環が形成される.この よ う な Michael/Aldol 型 の 環 形 成 反 応 を Robinsonロ ビ ン ソ ン 環 形 成 反 応 (Robinson annulation)という.問題hはBaeyer-Villiger酸化の合成への利用例.転位能の 高い第二級アルキル基とカルボニル炭素とのあいだに過酸由来の酸素原子が導 入される.転位の前後で立体化学が保持されることに注意してほしい.
2. 次の化学変換を行う方法を示せ.
O a.
O
CO2CH3 CO2CH3
O
CO2CH3 CO2CH3 CO2CH3
CO2CH3
加熱
H2, Pt
O
CO2CH3
CO2CH3
加熱
H2C=CH2Diels-Alder反応
レ ト ロ
Diels-Alder反応【解答】フランはピロールやチオフェンに比べて芳香族性が低いため(p.348,
図 16.6 参照),Diels-Alder 反応のジエンとして働く.2置換の内部アルケンを 選択的に接触還元し,レトロ Diels-Alder 反応によって熱分解するとエチレン の脱離とともに 3,4-ジ置換フラン誘導体が得られる.
b. O
NH O H2NOH N OH
H3O+
加熱
H2OBeckmann転位
【解答】Beckmann 転位によるε-カプロラクタムの合成.この化合物はナイロン の原料として有名である.
c.
OH NaH; O CH2
CH2=CHCH2Br
OsO4 O OH
OH
NaIO4 O CHO
H2C=O
H
【解答】1工程目は Williamson エーテル合成によるアリルエーテルの合成.残
りの2工程は四酸化オスミウムによるアルケンのジオール化と,過ヨウ素酸ナ トリウムによるジオールの酸化的開裂(末端側の炭素は開裂後にホルムアルデ ヒドとなる).最後の2工程をオゾン分解とジメチルスルフィド(または,トリ フェニルホスフィン,亜鉛)による還元とする解答も正解.
d. O
NH2 OH
m-ClC6H4CO3H
(mCPBA) O O NH3
Baeyer-Villiger酸化
NH2 OH
O
LiAlH4
【解答】Baeyer-Villiger 酸化において,一般的には第二級アルキル基のほうが フェニル基よりも転位しやすいが,この例の 1-インダノンではフェニル基の転 位が優先して 3,4-ジヒドロクマリンが得られる.ラクトンをアミノリシス(ア ンモノリシス)して得られたアミドをヒドリド還元すると目的のアミンに誘導 できる.
H3C O
H3C 加熱
e.
H3C OCH2CH3
O O
H3C OCH2CH3
O O
NaH;
C6H5CH2Br
NaH;
CH3CH2Br
H3C OCH2CH3
O O
H3C
i) NaOH ii) H3O+
( 後処理)
H3C OH
O O
H3C
CO2 脱炭酸
【解答】問題 e はアセト酢酸合成の一例.はじめにアセト酢酸エチルをベンジ ル化し,次にエチル化を行う.机上の問題としてはアルキル化の順番が逆でも 正解だが,実際に合成する場合は最初にベンジル化するほうが,都合がよい.
どちらを先にしても最初のアルキル化の工程では副生成物として少量のジアル キル体が混ざるが,ベンジル化を先に行った場合,モノベンジル体とジベンジ ル体のほうが沸点の差が(モノエチル体とジエチル体よりも)大きいため,蒸 留による分離精製が容易である.
3.アセトフェノンを出発原料として,次の化合物を合成する方法を示せ.ただ し,2工程以上の反応が必要な場合もある.
a.エチルベンゼン b. アセトアニリド c.酢酸フェニル d.安息香酸メチル
【解答】
a. Wolff-Kishner 還元
O NH2
N CH3 H2NNH2/KOH
diethyleneglycol CH3
CH2CH3
加熱
N2 2OH- 2H2O
反応機構の詳細は p.253 を参照.
b. B
CH3 O
CH3 N OH H2NOH H3O+
N CH3 eckmann 転位
加熱
H+H N CH3 H2O
O
反応機構の詳細は p.386 を参照.
c.
CH3
Baeyer-Villiger 酸化 O
O CH3 m-ClC6H4CO3H
(mCPBA) O
反応機構の詳細は p.387 を参照.
O O
d. O
CH3 i) I2
3
NaOH ii) H O+
OH
( 後処理)
ヨ ード ホルム反応
OCH3 CH2N2
CHI3
N2
( 過剰)
反応機構の詳細は p.249 を参照.
4. 次の化学変換を行う方法を示せ.
a.
HO OH
OH
OH O O
CH3 H3C H3C CH3 H3CO OCH3
H+ ( 触媒) N
O O
CH3 H3C PCC
CHO O O
CH3
H3C N
H NaBH3CN pH ~4
【解答】問題aは,
1. グリセリンの隣接する二つのヒドロキシ基をイソプロピリデン基で保護.
2. 第一級ヒドロキシ基を酸化.
3. アルデヒドの還元的アミノ化.
b.
O
CO2CH2CH3
O
OH
HOCH2CH2OH H+
CO2R O
O O O
(R=CH2CH3 or CH2CH2OH) LiAlH4
OH
H3O+
【解答】問題bは,
1. ベンゾイル酢酸エチルのケトン部分をエチレングリコールでアセタール化 して保護.アセタール化の工程でエチルエステルが一部,エチレングリコール とのエステル交換により 2-ヒドロキシエチルエステルになるが,分離せずに次 の工程に進む.
2. エステルをアルコールに還元.
3. アセタールを加水分解(脱保護).
なお,1工程目でエチレングリコールの代わりにエタノールを用いてジエチ ルアセタールとする解答も正解である.この方法ではエステル交換により 2 種 類のエステルが混ざるのを避けられるので一見すると上記のルートよりもよさ そうだが,実際にはジエチルアセタールからエタノールが脱離してビニルエー テル型の副生成物が生じるため,これを分離せずに先の工程に進み,エステル の還元と酸加水分解を行って目的化合物に収斂させる必要があるので,一長一 短である.
c. H H O H
H CO2H CO2CH3
H
H
NHCO2CH3 CO2CH3 i) SOCl2
H COCl CO2CH3
ii) NaN3 H
H CO2CH3 N3 i) 加熱
ii) 加水分解
N=C=O
H CO2CH3 H
NH2
H CO2CH3 CO2
Ac2O pyridine
【解答】問題cは,
化物を経てアジ化アシルに変換.
1. カルボン酸から酸塩
2. Curtius 転位によりアミノ基に変換.
3. アミノ基をアセチル化.
d. H H O
H CO2H CO2CH3
H
H O O
H
H
CH2OH CO2CH3
H+ CH3OH
i) ClCO2CH2CH3 (CH3CH2)3N
H CO2CH3 O
O
OCH2CH3
ii) NaBH4
混合酸無水物
【解答】問題dは,
無水物(2種類の異なる酸から構成される酸無水物)に 1. カルボン酸を混合酸
変換した後に NaBH4で還元(この条件ではエステルは還元されない). 2. 分子内でのエステル交換反応によるラクトン化.
e. NH2 NHCO2CH2C6H5 NHCO2CH2C6H5
NHCO2t-Bu
H3CO ClCO2CH2C6H5 NaOH, H2O
H3CO
NHCO2t-Bu
H3CO i) CF3CO2H ii) OH-
NH2 CH2=C(CH3)2
NHCO2CH2C6H5 NH2 Ac2O
pyridine
N H H3CO
O CH3
H2, Pd/C
N H H3CO
O CH3 CO2+C6H5CH3
【解答】問題eは,
1. アミノ基を Cbz 基で保護.
化.
保護.
2. Boc 基を脱保護.
3. アミノ基をアセチル 4. Cbz 基の接触還元による脱
f. OH
CHO
CO2CH3 OH HCN
( 塩基触媒) CN
OH CO2H
CH2N2 H3O
加熱
【解答】問題fは,
合成.
意:塩基性条件下ではシアノヒドリンがアルデヒ
ンによるメチルエステル化(メタノールと酸触媒でも可).
+
1. シアノヒドリンの
2. ニトリルの酸加水分解(注 ドに戻る).
3. ジアゾメタ
g.
H2C CH3
O OH
OCH2C6H5 O
OCH3
OCH2C6H5 CH2
HO HO
CH3 H3C H
H H3O+
O OH
OCH2C6H5 CH2
HO
OCH2C6H5 H2C
H O
H P CH3
O O H3CO Na H3CO
OH
(H2, Pd/C)
H3C CH3
O OCH2C6H5
接触還元
(H2, Ni)
加水素分解
O O
H3C H
O H
CH3
ア セタ ール化
【解答】問題gは,
分解.
による脱保護と,それに引き続く分子内でのアセタ 1. アセタールの加水
2. 安定イリドによる Wittig 型の反応.
3. 二重結合の接触還元.
4. ベンジル基の加水素分解
ール化.
2工程目の Wittig 型の反応ではイリド反応剤は,ヘミアセタール(または,
ヒドロキシアルデヒド)のヒドロキシ基のプロトンを引き抜くために等モル分 が消費されてしまうため,ヘミアセタールのモル数の2倍以上必要とされる.
また,接触還元と加水素分解の2工程は一挙に進行してもよさそうなものなの で4工程というヒントに戸惑った読者がいるかもしれない.二重結合の還元と ベンジル基の加水素分解をまとめて1工程とし,酸触媒によるアセタール化を 最後の工程とする解答も正解としたいが,いちおうの模範解答としては実際に 報告された上記の合成法をあげておく.
5. 次の合成反応の機構を説明せよ.
C6H5CH2O
NH CH2
H3C OCH3
OCH3
OCH3 C6H5CH2O
N H C6H5CH2O H
H
N CH2 H
H3C OCH3
加熱 H
H
O H H3C
【解答】[3,3]シグマトロピー転位と Mannich 反応を組み合わせた含窒素天然化 合物の全合成の途中の工程である.まず,酸触媒の働きにより,アセタールか らメタノールの脱離とともにオキソニウムカチオンが生成し,そのカルボニル 炭素に窒素上の非共有電子対が求核攻撃してヘミアミナールが生成する.さら にメタノールが脱離してイミニウムカチオンが生成すると,熱により[3,3]シグマ トロピー転位反応(Cope転位の1,5-ヘキサジエン部分の一方の炭素-炭素二重結 合が炭素-窒素二重結合に置き換わっているのでaza-Cope転位反応とよばれる)
が進行する.この反応は平衡反応だが,生成物であるイミニウムカチオンが分
子内での Mannich 反応によって速やかに消費されるため,右向きの反応が進行
し,最終的には三環性のメチルケトンが生成する.なお,シグマトロピー転位 反応ではいす形の遷移状態を経由するため,立体選択性が生じて六員環と五員 環のつなぎ目の炭素に結合する水素は紙面の向こう側に配置される.
C6H5CH2O
NH CH2
H3C OCH3 OCH3 OCH3
N H H
H C6H5CH2O H+
O H3C H C6H5CH2O
NH CH2
H3C OCH3 OCH3 H O CH3
OCH2C6H5
N CH2
H3C OCH3 H
O CH3 H
OCH2C6H5
N
CH2 H3C OCH3 H
H H OCH3
OCH2C6H5
N
CH2 H3C OCH3 H
H O
H CH3
CH3OH
CH3OH
OCH2C6H5
N CH2 H3C
OCH3 H
H
[3,3] シグマトロピー転位 (aza-Cope転位) H+
N H H
H OCH2C6H5
O H3C H Mannich反応
CH3 H2O
N H H
H OCH2C6H5
O H3C
H
CH3 H
O H
CH3OH H+ H
N H H
H C6H5CH2O
CH3 OCH3