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日本大学大学院松戸歯学研究科歯学専攻

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(1)

音声分析を応用した咽頭扁桃肥大の非侵襲的なスクリーニング法に関する研究

日本大学大学院松戸歯学研究科歯学専攻

小松 昌平

(指導:葛西 一貴教授)

(2)

1

ABSTRACT

Pharyngeal tonsils are responsible for protecting against infection in the nasal cavity.

Following the acquisition of immune function, pharyngeal tonsil enlarged in early childhood and gradually become smaller with growth. However, hypertrophy of the pharyngeal tonsil caused by the chronic recurrent inflammatory reaction as known as adenoids do not shrink. In addition, adenoids cause stenosis of an airway in the pharyngeal region and often cause mouth breathing. Lateral cephalograms and cone beam computed tomography (CBCT) have been used to examine adenoids. However, these methods are invasive because of radiation exposure, and it is unsuitable to screen the young children. An alternative approach may be an analysis of voice signals, which contain information on vocal fold vibration and vocal tract morphology. The cepstrum analysis, an acoustic analysis, can extract information on the morphology of the vocal tract. This study aimed to examine adenoids by performing an acoustic analysis of nasal sounds.

In study 1, as a fundamental experiment, from the frequency analysis, it was

observed that the acoustic change due to the obstruction of the polyvinyl chloride

pipe (PVC pipe) assumed the airway could be detected. There were differences in the

frequency response between PVC pipes with different obstruction rates which

indicated that acoustic change due to obstruction could be detected from the

(3)

2

frequency analysis.

In Study 2, cepstrum analysis and frequency analysis were applied to examine the detection of adenoids by the nasal sounds. Fourteen subjects (8 boys and 6 girls, mean age 8.1 ± 1.3 years) were included in the adenoid group and forteen subjects (6 boys and 8 girls, mean age 8.5 ± 1.2 years) were included as the control group.

Lateral cephalogram and CBCT were used to evaluate the anatomical morphology;

the wavelength to vocal tract length ratio (WVR) was calculated from the vocal signal of the nasal sound by cepstrum analysis. Then, these parameters were compared between the groups. The identification boundary value of adenoids with WVR was also examined.

Adenoidal-Nasopharyngeal ratio, pharyngeal tonsil length, and pharyngeal tonsil thickness were significantly higher, and distance of the narrowest part of the airway, distance from the PNS to the posterior pharyngeal wall were significantly lower in the adenoid group than the control group.

In cepstrum coefficients 40, 44, 48, 52, and 56, WVR was significantly smaller in the adenoid group. Additionally, in the range of cepstrum coefficients 44 to 56, 80%

or more adenoids was expected to be identified.

The findings suggest that cepstrum analysis could noninvasively examine the adenoids.

(4)

3

【緒 言】

咽頭扁桃は舌扁桃,口蓋扁桃,耳管扁桃と共にワルダイエルの咽頭輪として鼻腔からの

感染の生体防御の役割を担っており,免疫機能の獲得に伴い幼児期から学童期にかけて生

理的に肥大した後,成長と共に徐々に縮小する

1,2

.しかしながら,咽頭扁桃の肥大が強い

場合,鼻咽頭の狭窄が生じ,それに伴う鼻腔からの通気障害は正常な鼻呼吸を阻害し,呼

吸様式を口呼吸へと変化させる

2

.この時期における長期的な口呼吸は特徴的なアデノイ

ド顔貌を呈する場合があり,顎顔面骨格の異常を伴う重度の不正咬合になるとされてきた

2-5)

.また,咽頭扁桃および口蓋扁桃の肥大は小児の睡眠呼吸障害の主要因とされ,心身の

発育障害や

QOL

の低下が報告されている

6,7

これまで咽頭扁桃肥大の診査は側面頭部エックス線規格写真(以下:側面セファロ)に

よる画像診査が中心であったが,近年開発された歯科用コーンビーム

CT(以下:CBCT)

を用い,気道形態の三次元的な形態計測や気流の通気状態の評価が可能となってきている

8)

.しかしながら,これらの検査法は咽頭扁桃肥大の診査精度に優れている一方,放射線の

被曝を伴うため,疾患の経過観察や一般集団を対象とした健診におけるスクリーニングに

は適していない.

非侵襲的に鼻腔内の開存性を診査する方法として,音響鼻腔計測法が用いられている

9)

音響鼻腔計測法は鼻孔に挿入した検査ノズルから発生させた音響波の反射を利用すること

で鼻腔内の形態を客観的に診査することが可能である.しかしながら,検査中の静止が困

(5)

4

難な低年齢児においては協力性が得られにくい上,鼻腔内後方にかけ精度が低下するため,

鼻咽頭に位置する咽頭扁桃の肥大を診断することは難しい.

そこで,資料採取が非侵襲的かつ簡便である音声分析に着目した.ヒトの音声信号は声

帯の振動情報である音源特性と,声道の形態情報である声道特性より構成されており,咽

頭扁桃の肥大による声道形態の変化による音声信号が特徴的に認められると考えた.

音声分析法として用いられているケプストラム分析は複数の情報が畳み込まれた信号か

ら情報を分離する手法であり,1964 年に

Noll10)

によって音声波へと応用され,音声波より 音源特性と声道特性を分離できることを報告している.ケプストラム分析は音声分析の他,

地震波やレーダー信号の反射の解析や,医科領域においては喉頭疾患の嗄声評価への有用

性が報告されている

1014)

.しかしながら,咽頭扁桃肥大に伴う気道狭窄による鼻音発声時

の声道特性の変化に対してケプストラム分析を応用した報告は認められない.以上のこと

から本研究は,音声分析により非侵襲的に咽頭扁桃肥大をスクリーニングすることを目的

とした.

そこで,研究

1

では基礎的研究として気道を模した単一共鳴管を用い,気道狭窄を仮定 した条件下における音の周波数解析を行い,閉塞による音響的変化を周波数特性から検出

が可能であるかを検討した.また,研究

2

においては本学付属病院矯正歯科を受診した患 者を対象とし,鼻音に特徴的な第一アンチフォルマント周波数(以下:AF1)をケプストラム

分析を用いて特定し,AF1 における波長の変化から咽頭扁桃肥大の識別が可能であるかを

検討した.

(6)

5

【資料および方法】

研究1

1.音の収録

音の収録は周囲の雑音や反響を取り除くため,無響室にて行われた.実験系を

Fig. 1

に 示す.スピーカより約

1.0 cm

前方に気道を模した全長

15.0 cm

の塩化ビニル製パイプ(以 下:塩ビ管)を設置し,塩ビ管の内部と外部の境界付近に単一指向性のコンデンサマイク

ロフォン(MI-1432, (株)小野測器)を設置した.オーディオアナライザ(APx555, (株)

オーディオプレシジョン社)により,スイープ音(20Hz-20kHz)を出力し,塩ビ管を通し

て収録した.収録音はオーディオアナライザを通して標本化周波数

32 kHz,精度24 bit

で 量子化した.実験は咽頭扁桃の肥大に伴う気道の狭窄を仮定し,塩ビ管の垂直断面に対し

て閉塞率が

0%(非閉塞)

,85%,100%の

3

条件を設定した.塩ビ管の閉塞条件は側面に直 径

3.0cm

の穴をあけ,油粘土を詰めることで調整した.

2.周波数解析

3

条件のもとで塩ビ管から収録した収録音の周波数特性を求め,その周波数特性より 共振周波数を特定し波長を算出した.その際,塩ビ管の両端の開放様式により振動と波長

の関連性が異なる.

Fig. 2

に開放様式による波長と振動との関連性を示す.本研究において

は,非閉塞および

85%閉塞条件は両端が開放しているためFig. 2 (a)に100%閉塞条件は一端

が開放しているため

Fig. 2 (b)に相当する.算出した波長に対し,非閉塞および85%閉塞条

(7)

6

件に関しては算出波長に

1/2

を,100%閉塞条件においては

1/4

をそれぞれ乗じた

15,16)

.な お,これらの

1/2

波長および

1/4

波長はいずれも便宜的に総称して波長とし,塩ビ管の物理 長との比較を行った.

研究

2.

1.

対 象

被験者は日本大学松戸歯学部付属病院矯正歯科に来院し,矯正精密検査のために側面セ

ファロおよび

CBCT

を撮影した者を対象とした.側面セファロより咽頭扁桃肥大の診査法 である

Adenoidal-nasopharyngeal ratio(以下:AN

比)

17,18)

を用いて咽頭扁桃肥大の分類を行い,

AN

0.63

以上の中等度以上の肥大を認める小児

14

名(男児

8

名, 女児

6

名, 平均年齢

8.1±1.3

歳)を咽頭扁桃肥大群,

AN

0.5

未満の肥大を認めない小児

14

名(男児

6

名,女児

8

名,平 均年齢

8.5±1.2

歳)を一般群とした(Fig. 3) .除外基準は,鼻咽頭疾患に対する外科的治療 歴を有する者,鼻中隔の強度の湾曲を認める者,鼻腔通気度計測にて鼻腔抵抗値の上昇を

認める者,口蓋扁桃肥大を認める者,口腔内に矯正装置を装着している者,顔面骨格の異

常を伴う先天疾患を有する者とした.また,すべての被験者は音声収録時に鼻腔通気度計

測器(MPR3100, (株)日本光電,東京)を用い,ノズルアンテリオール法にて鼻腔抵抗値

を計測し,鼻腔内の通気性が正常である

19)

ことを確認した.

各被験者には本研究の趣旨を説明し,音声収録の協力と同意を得た.なお,本研究は日

本大学松戸歯学部倫理委員会の承認(承認番号

EC17-029)を受けている.

(8)

7

2.

方法

1)側面セファロ分析

側面セファロの撮影は,座位において,フランクフルト平面を床と平行に固定し,咬頭

嵌合位で舌尖が下顎前歯に触れる状態を指示し,呼吸様式は規定せず安静な状態で行った.

側面セファロのトレースは通法により行い,トレースおよび計測は計測者の違いによる誤

差をなくすために,すべて同一人が行った.

計測は青木ら

20)

の方法に準じて基準点,基準平面を設定した.計測項目は咽頭扁桃長径,

咽頭扁桃厚さ,気道最狭窄部距離,

PNS1-PNS2,軟口蓋長径,および軟口蓋角度である(Fig.

4)

2)声道長計測

CBCT

を用いて声門から外鼻孔までの距離(以下,声道長)を計測した.

CBCT

(KaVo 3D

eXam+,カボデンタルシステムズジャパン(株)

,東京)の撮影は,座位において,フラン

クフルト平面を床と平行に固定し,咬頭嵌合位で舌尖が下顎前歯に触れる状態を指示し,

呼吸様式は規定せず安静な状態で行った.撮影条件は,管電圧

80kV,管電流5mA,照射

時間

26.9s,解像度0.2Voxel

を基準とした.撮影された画像は

DICOM

形式に変換されたの ち、DICOM ビューワーソフトウェア(INTAGE station, Cybernet System, 東京)により三次

元画像を再構築した.

声道長の計測は

CBCT

画像における正中付近で鼻腔内が明瞭に確認できる矢状断面を任

(9)

8

意に

3

つ選択し,声門から外鼻孔までの距離を各断面

3

回ずつ計測した平均値を被験者の 計測値とした.声門から鼻咽頭においては気道の中心線を通り,鼻腔内は,今野

21 )

の報告

から鼻腔内呼吸気流の主流方向と考えられる中鼻道を通る連続線を作製し距離計測を行っ

た.計測は画像処理ソフトウェア(Image J1.51j8, National Institutes of Health, USA)を用い

て行った.計測は計測者の違いによる誤差をなくすために,すべて同一人が行った.

3)音声収録

音声の収録は座位で行い,鼻孔から約

20cm

前方で呼気流の影響を受けない位置に単一 指向性のコンデンサマイクロホン(ATM31a,(株)オーディオテクニカ,東京)を設置した.

被験音は鼻咽頭から鼻孔へ抜ける鼻子音/N/とし

22

,被験者には口唇閉鎖を指示し,3 秒間

の発声をさせ録音した.

音声はオーディオテクニカインターフェース(EDIROL UA-25EX,

(株)ローランド,静岡)

を通して標本周波数

22.05kHz,精度16bit

で量子化した.パーソナルコンピュータ(Vostro,

(株)デル,神奈川)に保存された音声データは音声波形分析・編集ソフト(Acoustic Core,(株)

アルカディア,大阪)を用いて有声音区間の切り出しを行った.

4)ケプストラム分析

本研究におけるケプストラム分析法の概要をFig. 5に示す.ケプストラム分析では収録さ

れた音声をフーリエ変換(fast Fourier transform ; FFT)により周波数に変換し,対数変換さ

れたものを逆フーリエ変換(inverse fast Fourier transform ; IFFT)する.この得られた結果

がケプストラムとして定義される

23)

.ケプストラムの変数はケフレンシーと呼ばれ,低ケ

(10)

9

フレンシー領域は声道形態情報に相当する声道特性,高ケフレンシー領域は声帯振動情報

に相当する音源特性を表している(Fig. 6).ケプストラム分析では低ケフレンシー領域と

高ケフレンシー領域を分離するフィルタリング処理(リフタリング)を行うことで二つの

信号を分離可能である

23)

.本研究では声道特性を抽出するため,低ケフレンシー領域をFFT

し,周波数領域(パワースペクトル)に戻す.それにより,低ケフレンシー領域に含まれ

る音声信号はパワースペクトル上で強調された複数のピーク(フォルマント)として認め

られる.本研究では音声解析ソフト(Matlab R2016b,

Mathworks,USA)を用いて切り出し区

間のケプストラム分析を行い,得られたケプストラムに対しリフタリングを行った.リフ

タリングでは高ケフレンシー領域と低ケフレンシー領域の境界を設定するために,低ケフ

レンシー領域の抽出のための項数であるケプストラム係数を40,44,48,52,56,60に設

定し,ケプストラム係数分の音声信号のパワースペクトルを得た.なお,本研究の被験音

である/N/は閉鎖した口腔での音エネルギーの損失に伴い,特徴的なアンチフォルマントが

認められる

22)

.そのため,本研究においてはパワースペクトルよりAF1を特定し波長を算

出した(Fig. 7) .

5)声道長計測および波長声道長比の算出

フォルマントは声道の形状および長さにより変化する

24)

ことから,被験者間の体格差を

是正するため,ケプストラム分析より得た被験者の基本波長を

CBCT

より計測した声道長

で除し,波長声道長比を算出した.

(11)

10

3.統計処理

形態計測と音声分析の各計測項目の中央値および範囲を算出するとともに,各群におけ

る咽頭扁桃および鼻咽頭の形態の比較と波長声道長比の比較を

Mann-Whiteney’s U

検定 (危

険率

5%)にて検討した.また,音声分析結果より得た波長声道長比を咽頭扁桃肥大の識別

の閾値とした咽頭扁桃肥大の識別率に関する検討を行い,80%以上の識別率が得られる閾

値をスクリーニング法として有用であるとした.なお,群間比較には

IBM SPSS statistics 25.0(日本IBM,東京)を用いた.

【結果】

研究

1

Fig. 8

に求めた周波数特性を,また,周波数特性から求めた各塩ビ管における共振及び反

共振周波数を

Table 1

に,周波数から求めた波長を

Table 2

に示す.

Fig. 8

より非閉塞条件に おいては第一共振が明瞭に確認できた.また,85%閉塞条件においては第一,第二,第三

共振が明瞭に確認できた.また,100%閉塞条件においては第一,第二共振に加えて,特徴

的な第一反共振が明瞭に確認できた.Table 2 に示す波長より,各閉塞条件における第一共

振の波長は塩ビ管の全長と近い値を示している.また,

85%閉塞条件および100%閉塞条件

における第二共振の波長は音源から閉塞部までの距離を,85%閉塞条件において認められ

た第三共振の波長は閉塞部から収録側の開口端までの距離と近い値を示している.

100%閉

塞条件において認められた第一反共振の波長は音源から閉塞部までの距離に近い値を示し

(12)

11

ている.

研究

2

1.各群間における咽頭扁桃および鼻咽頭の形態の比較

側面セファロ分析およびCBCT分析の一般群と咽頭扁桃肥大群の比較の結果をTable 3 に

示す.

AN比,咽頭扁桃長径,咽頭扁桃厚さは咽頭扁桃肥大群において有意に高い計測値と

なった.気道最狭窄部距離,PNS1-PNS2は咽頭扁桃肥大群において有意に低い計測値とな

った.一方で,軟口蓋長径および軟口蓋傾斜度に関しては両群間に有意差を認めなかった.

2.各群間における波長声道長比の比較

音声分析より得た波長声道長比の一般群と咽頭扁桃肥大群の比較の結果をTable 4 に示

す.ケプストラム係数40,44,48,52,56における波長声道長比において咽頭扁桃肥大群

は有意に小さい結果となった.ケプストラム係数60における波長声道長比に有意差は認め

られなかった.

3.波長声道長比を識別の閾値とした咽頭扁桃肥大の識別率の検討

咽頭扁桃肥大の識別率をFig. 9 に示す.ケプストラム係数44においては識別の閾値を

0.60~0.65に,ケプストラム係数48,52においては0.75~0.85に,ケプストラム係数56におい

ては0.90~1.10に設定した場合に80%以上の高識別率が得られた.一方でケプストラム係数

40,60においては識別に有効な識別率は得られなかった.

【考察】

(13)

12

1.塩ビ管を用いた周波数解析の基礎的実験について

塩ビ管の閉塞の条件により周波数特性が異なる特徴を示し、音響的変化が周波数特性よ

り検出可能であることが示された.

85%閉塞条件の第二共振において音源から閉塞部までの距離に近い波長が,第三共振に

おいて閉塞部からマイクロフォンまでの距離に近い波長が確認されたことは,第二共振で

は塩ビ管の音源側の開口部から閉塞部までを基本振動とした音声波が生じていたことが考

察される.同様に第三共振では閉塞部とマイクロフォン側の開口部を基本振動とした音声

波が生じていたことが考察される.

一方,

100%閉塞条件においては特徴的な反共振周波数が確認された.これは塩ビ管の完

全な閉塞により音エネルギーが吸収されたために負のピークとして観察され,第一反共振

では第二共振に近い基本振動が生じたと考察される.

2.咽頭扁桃および鼻咽頭形態について

咽頭扁桃の肥大に伴う気道狭窄は慢性的な口呼吸を誘発するとされてきた

2

.Fujiokaら

17)

により提唱されたAN比は側面セファロにおける咽頭扁桃肥大の重篤度判定に有用であ

る.

Xinら25)

は側面セファロとCBCTによる鼻咽頭の比較を行い,

AN比と気道容積に相関性

があることを報告しており,本研究においても,側面セファロ分析における咽頭扁桃長径,

咽頭扁桃厚さ,気道最狭窄部距離において一般群と比較して咽頭扁桃肥大群は有意差が認

められ,側面セファロを用いたAN比による両群の分類が適正であることが示された.

Koloら18

はAN比0.63以上を中等度,0.75以上を重度の咽頭扁桃肥大としており,本研究

(14)

13

における咽頭扁桃肥大群は0.63から0.81の範囲で中等度から重度の咽頭扁桃肥大が含まれ

ていたことがわかる.また,鼻呼吸障害が生じる気道最狭窄部距離は5.0㎜以下

26

とされて

いるが,本研究では咽頭扁桃肥大群の気道最狭窄部距離は中央値が4.8㎜であり被験者の多

くで鼻咽頭の通気障害が生じていることが考えられる.また,肥大した咽頭扁桃は最突出

部から緩やかに咽頭後壁へと移行していくため,PNS1-PNS2において認められた両群の有

意差は咽頭扁桃肥大群において咽頭後壁が咽頭扁桃の肥大に伴い前方に位置しているため

と考えられる.

軟口蓋長径および軟口蓋傾斜度については有意差が認められなかった.軟口蓋は鼻咽頭

の前壁を構成する可動性の軟組織であるため,この結果より本研究における被験者では気

道形態は鼻咽頭の前壁の影響を受けておらず,後壁を構成する咽頭扁桃の形態が大きく影

響していることがわかる.

3.音声分析について

鼻音の調音上の特徴は,鼻腔と口腔の二股共鳴管の様相を呈することであり,この場合,

音エネルギーが効果的に通過しないため特徴的なアンチフォルマントが生じる

22,27)

.アン

チフォルマントを含む声道特性はケプストラムの低ケフレンシー領域に含まれるため,高

ケフレンシー領域との境界を分離するためのリフタリングは重要である.本研究において

リフタリングは任意のケプストラム係数分の低ケフレンシー領域の抽出を行い,ケプスト

ラム係数40,44,48,52,56において咽頭扁桃肥大群の波長声道長比が一般群と比較して

有意に短い結果となった.これは,一般群の声道の基本振動が声帯から鼻孔であるのに対

(15)

14

し,咽頭扁桃肥大群では咽頭扁桃肥大に伴う気道の狭窄で音声振動に変化が生じ,声帯か

ら咽頭扁桃肥大部までが基本振動として波長に反映された結果,一般群よりも波長が短く

算出されたことが要因であると考えられる.このことは,咽頭扁桃肥大群の形態計測にお

いて通気障害が生じる程度の気道狭窄が生じているという結果とも矛盾しない.一方で,

ケプストラム係数が増えるにつれ,波長声道長比が大きくなり,ばらつきも大きくなる傾

向を示し,ケプストラム係数60においては,両群に有意差が認められない結果となった.

リフタリングにおいて,ケプストラム係数が増えると,高ケフレンシー領域の成分も抽出

されるために,得られるパワースペクトルの外形が複雑な波形となる

22)

.それに伴い,

AF1

は小さくなるとともに,被験者間の誤差が大きくなることが要因と考えられる.また,波

長声道長比を咽頭扁桃肥大の識別の閾値とした検討において,ケプストラム係数40では低

ケフレンシー領域の抽出は不十分であり,ケプストラム係数60では不要な高ケフレンシー

領域を多く抽出してしまうために,スクリーニングに有効なリフタリングではなかったと

考察される。一方で,ケプストラム係数が44から56の範囲では80%以上の識別が可能であ

ったことから,低ケフレンシー領域の抽出に適したケプストラム係数であり,スクリーニ

ングとして有効であるといえる.

【結論】

1.気道を仮定した塩ビ管を用いて異なる閉塞条件における周波数解析の基礎的実験を

行ったところ,塩ビ管の全長や一端から閉塞部までの距離と近似した値を算出する

(16)

15

ことが可能であり,閉塞による音響的変化は周波数特性より検出が可能であること

が示された.

2.咽頭扁桃の肥大に伴い狭窄した鼻咽頭は通気障害のために音声の基本波長が短くな

り,波長声道長比の低下を認めた.ケプストラム分析を用いることで非侵襲的に咽

頭扁桃肥大を識別できる可能性が示唆され,リフタリングにおけるケプストラム係

数は

44

から

56

の範囲が咽頭扁桃肥大の識別に有効であった.

以上より,音声分析により非侵襲的に咽頭扁桃肥大がスクリーニングできる可能性が示

された.

(17)

16

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(19)

18

19)

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板橋秀一 編著:音声工学,86-111,森北出版,東京,2008.

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27)

日本音声言語学会 編:第

2

版 声の検査法 基礎編,59-73,医歯薬出版,東京,

2007.

(20)

19

【図および表】

(21)

20

Fig. 1

単一共鳴管を用いた周波数解析の実験系

オーディオアナライザにより,スイープ音を出力し,スピーカより約

1.0 cm

前方に設 置した塩化ビニル製パイプを通して単一指向性のコンデンサマイクロフォンより収録した.

(a):

単一共鳴管の両側端が開放している場合の振動

(b):

単一共鳴管の片側端は閉鎖し対側端は開放している場合の振動

Fig. 2

単一共鳴管の端の開放様式による振動の違い

(a)では最も単純な振動では単一共鳴管の長さは波長の1/2

に近似する.(b)では最も単純

な振動では単一共鳴管の長さは波長の

1/4

に近似する.

(22)

21

Fig. 3 Adenoidal-Nasopharyngeal ratio (A/N

比)

咽頭扁桃厚さ(A) :大後頭孔前縁(Ba)と蝶形骨‐後頭骨縫合結合の前下端(D)を通る直線を設

定し,これに直交する正中矢状断面上の咽頭扁桃の最肥厚部の距離とした.

鼻咽頭径(N):蝶形骨‐後頭骨縫合結合の前下端(D)と後鼻棘(PNS)の距離とした.

A/N

比:A を

N

で除した値.

Fig. 4 側面セファロ分析における基準点および計測項目

Or:Orbitare,Po:Porion,PT:PT point,FHL:フランクフルト平面,PTV:PT point上のフランク フルト平面に垂直な線,MA:咽頭扁桃最前方点,MP:咽頭扁桃最後方点,MO:咽頭扁桃最外縁 点,PNS1:後鼻棘,PNS2:PNS1を通りPTVに垂直な線上で鼻咽頭後壁と交差する点,PSP:軟

(23)

22 口蓋最後方点

(1)咽頭扁桃長径:MA- MP間距離,(2)咽頭扁桃厚さ:MA- MPに垂直な線上でMA- MPからMO の距離,(3)鼻咽頭最狭窄距離:MA- MP に垂直な線上で MO から軟口蓋上縁までの距離,

(4)PNS1-PNS:PNS1-PNS2 間距離,(5)軟口蓋長径:PNS1-PSP 間距離,(6)軟口蓋傾斜度:PTV と PNS1-PSPのなす角度

Fig. 5

ケプストラム分析の概要

入力音声をフーリエ変換(FFT)により周波数に変換し,対数変換されたものを逆フーリエ変 換(IFFT)することで得られるケプストラムにおいて声道特性は低ケフレンシー領域に,音源特性 は高ケフレンシー領域に含まれる.二つの領域の境界をリフタリングにより分離することで,声道

特性を含む低ケフレンシー領域を抽出し,再度FFTを行うことで周波数領域(パワースペクトル)

に戻す.パワースペクトルより鼻音に特徴的なAF1を特定し波長へと変換する。

(24)

23

Fig. 6 ケプストラム

ケプストラムは信号波形のパワースペクトルの対数のフーリエ変換として定義される.➀の領域

は声道形態情報に相当する声道特性を含む低ケフレンシ―領域,➁の領域は声帯振動の情報に相当

する音源特性を含む高ケフレンシ―領域である.破線は二つの領域を分離するためのリフタリング

を現す.

Fig. 7 低ケフレンシ―領域より得られた周波数特性のパワースペクトルの図

パワースペクトル上には音響的特徴として フォルマント(F)が複数のピークとして認められる。

本研究では鼻音に特徴的な第一アンチフォルマント周波数(AF1)を特定した.

(25)

24

(a)

非閉塞条件

(b) 85%

閉塞条件

(c) 100%

閉塞条件

Fig. 8

各閉塞条件における周波数特性

(a)

非閉塞条件においては,第共振が明瞭に確認できる.

(b) 85%

閉塞条件においては第

一,第二,第三共振が明瞭に確認できる.

(c) 100%

閉塞条件においては第一,第二共振が

明瞭に確認できるほか,特徴的な負のピークである第一反共振が確認できる.

(26)

25

Fig. 9

波長声道長比を識別の閾値とした場合の咽頭扁桃肥大の識別率

Table 1

各閉塞条件における共振および反共振周波数 周波数

[Hz]

閉塞率

第一共振 第二共振 第三共振 第一反共振

非閉塞 950

85% 920 1985 4120

100% 815 1980 925

Table 2

各閉塞条件における共振および反共振周波数から算出した波長 波長 [cm]

閉塞率

第一共振 第二共振 第三共振 第一反共振

非閉塞

16.0

85% 16.6 6.7 2.3

100% 19.0 6.7 8.3

50.0 55.0 60.0 65.0 70.0 75.0 80.0 85.0 90.0

0.4 0.45 0.5 0.55 0.6 0.65 0.7 0.75 0.8 0.85 0.9 0.95 1 1.05 1.1 1.15 1.2 1.25 1.3 1.35 1.4 1.45 1.5

識別率(%)

波長声道長比による咽頭扁桃肥大の識別の閾値

ケプストラム係数40 ケプストラム係数44 ケプストラム係数48 ケプストラム係数52 ケプストラム係数56 ケプストラム係数60

(27)

26

Table 3

咽頭扁桃および鼻咽頭の形態計測の比較

一般群 (N=14) 咽頭扁桃肥大群 (N=14)

最小値 中央値 最大値 最小値 中央値 最大値 p-value

AN

比 0.37

0.43 0.46 0.63 0.69 0.81 0.00**

咽頭扁桃長径(

mm

19.0 23.0 29.0 20.0 29.0 35.0 0.02*

咽頭扁桃厚さ(mm) 0.0

2.0 4.5 2.0 6.0 7.0 0.00**

気道最狭窄部距離(

mm

8.0 10.3 18.0 1.0 4.8 7.0 0.00**

PNS1-PNS2(mm) 16.0 21.8 27.0 9.5 18.0 26.0 0.01*

軟口蓋長径(mm) 24.0

29.0 33.5 25.0 28.0 35.0 0.73

軟口蓋傾斜度(

degree

36.0 44.8 52.0 36.0 50.0 60.0 0.06

Mann-Whitney’s U test Level of significance *: p<0.05, **: <0.01

Table 4

波長声道長比の比較

一般群 (N=14) 咽頭扁桃肥大群 (N=14)

最小値 中央値 最大値 最小値 中央値 最大値 p-value

ケプストラム係数

40 0.51 0.62 1.26 0.47 0.56 0.92 0.03*

ケプストラム係数

44 0.58 0.69 1.40 0.45 0.59 0.93 0.02*

ケプストラム係数

48 0.64 1.16 1.49 0.46 0.63 0.93 0.00**

ケプストラム係数

52 0.65 1.28 5.77 0.46 0.78 5.46 0.01*

ケプストラム係数

56 1.13 1.51 6.30 0.49 0.84 5.66 0.01*

ケプストラム係数

60 1.13 1.66 6.98 0.62 1.39 6.38 1.25 Mann-Whitney’s U test Level of significance *: p<0.05, **: <0.01

Fig. 4  側面セファロ分析における基準点および計測項目
Table 4  波長声道長比の比較    一般群 (N=14)  咽頭扁桃肥大群 (N=14) 最小値 中央値 最大値 最小値 中央値  最大値 p-value ケプストラム係数 40 0.51  0.62  1.26  0.47  0.56  0.92  0.03*  ケプストラム係数 44 0.58  0.69  1.40  0.45  0.59  0.93  0.02*  ケプストラム係数 48 0.64  1.16  1.49  0.46  0.63  0.93 0.00** ケプストラム係数 5

参照

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