住宅におけるリノベーションの実態と改修手法に関する研究
序章
-研究背景-
近年、「リノベーション(renovation)」という言葉が建築 の住宅分野においても定着してきた。実例・関連書籍も増え、
一般にも浸透してきている。しかし、人口減少、都市構造の 変化、環境問題などにより、建築を再生することの意義・重 要性が年々高まっている社会背景がありながらも、日本での 建築再生は海外に比べなかなか定着していない。「保存」とい う観念では、日本でも昔からリノベーションは行われ、数々 の研究がなされてきたが、最近では「保存」を主目的としな いリノベーションが用途を問わず建築的に価値の無い建物で もおこなわれるようになってきた。バブル崩壊後は、経済成 長の停滞、土地神話の崩壊、非正規雇用の増大、格差社会の 進展、さらには人々の結婚や家庭に対する意識の変化などに よって、旧来の住宅政策が想定した「普通の人生」が必ずし も主流ではなくなり、パターン化された住宅モデルは通用し なくなってゆく。「リフォーム」とはまた違った建築再生の方 法が大衆に認められ、地位を獲得したのだ。そこで新しい住 のかたちを模索する動きのなか、2009 年に象徴的に浮上した キーワードが「リノベーション住宅」である。既存の建物を 再利用するため、新築よりコストは安く済み、スクラップ・
アンド・ビルドに比べて廃棄物が少なく環境にやさしいとい うメリットもある。さらに新建設市場が年々拡大していると いう調査(建設省「新建設市場の将来予想 報告書」)がある ことからリノベーションはますます注目されると予想される。
-研究目的-
近年「リノベーション住宅」が増加の一途をたどるなか、
近い将来にそなえるために「リノベーション住宅」の現状を 把握し、問題を踏まえる。そして、建築ストックが多数存在 する今の日本で、改修手法を操作の観点から類型化し、明ら かにすることは有用と考えられる。本研究は住宅建築特有の 空間利用を改修操作の点から把握し、住宅建築の再生の可能 性を探ることを目的とする。
-研究方法-
本研究では、事例を挙げ、新築時にはないリノベーション 特有の「条件」という観点から比較分析をする。
1章では、用語の定義を初めとし、保存の概念の成立と歴 史からリノベーションの変遷を辿ってきたのかを捉え、海外 における現状から日本での変遷を相対化し、日本での現状を 認識する。2章では、前章の続きとして、より建築個体の話 に向ける。実際に日本でリノベーションを行うときに、「新 築」とは違う、特有の不可避な条件である法規・構造の観点 から設計手法を捉える。3章では、前章とは対にある避ける
ことが出来る条件について、活動・物質の記憶や地域性の観 点から捉える。4章では、建築家によるリノベーション住宅 作品において適用された改修操作の観点からデータシートを 作成し、5・6章でデータをもとに分析・考察をしていく。
1 章 リノベーションの変遷
-保存という概念の成立と歴史-
ヴィオレ・ル・デュックとジョン・ラスキンの「反修復」
と「修復」、アテネ憲章、ヴェニス憲章、バラ憲章のプロセス を経て、「保存」という理念は、修復という過程で「歴史を偽 らない」「価値を付加する」「状態を凍結するのではなく、時 代に合わせて活用する」という意識の下、成立し、世界へと 広まることとなる 。保存という概念が成立した時、すでに
「保存」と「再利用」という意図の対立はできあがっていた のである。
-海外でのリノベーションの実態-
海外、特にヨーロッパなどでは日本とは違い、リノベーシ ョンは当たり前のものとして一般に浸透している。住宅寿命 に関しては諸外国のそれに比べて3分の1から2分の1程度 短いとされている。また、全住宅に対する割合も日本とは比 較にならない。その理由として人々の建築・都市景観に対す る意識の違いからくる文化・歴史、建物の構造などの違いか らくる内的要因、災害・気候などの違いからくる外的要因が 挙げられる。
-日本の現状-
日本におけるリノベーションの原点を探ると「曳家」にた どり着く。現代の言葉で言い直すならば「リロケーション」
である。昔から日本では建築ストックをこのような方法で再 利用してきたが、高度経済成長と共に廃れることとなる。建 築遺産として価値を見出され、「保存」の意図と共にリノベー ションは再び息を吹き返し、その流行は「保存」を意図とし ない「再利用」の精神で社会に広まっていくこととなる。そ の背景に「大衆意識の変化」と「建設市場の変化」が挙げら れる。
2 章 手法と現実
-住宅再生における社会背景-
リノベーションは新築以上に、設計手法に複雑な条件が加 わってくる。その代表である「法規」、「構造」の二つに焦点 を当てる。これらの大きな特徴は「クリアしなければいけな い」不可避な条件であるということである。新築時にもこの 2つの条件は関わってくるが、改修時には性質の違う条件と して立ちはだかる。竣工時は法規も構造も満たしていたが、
いざ改修をするとなると現行の法規を満たしている場合は少 なく、いかにして既存を活かしつつ手を加えていきクリアし
建設工学専攻
建築設計研究 510022-7 長田
お さ だ極
きわむ指導教員 赤堀
あかほり忍
しのぶていくかというスタンスが必要となる。
-建築基準法と既存不適格-
建築基準法の前身は
1919年に制定された「市街地建築物法」
である。日本の法規・構造規定はここから始まる。その後、
天災などを教訓にして改正が重ねられ、今日の建築基準法に 至った。この規定の変化は既存建築物に、法を遵守している かという点で格差をもたらすこととなる。この経緯が耐震性、
避難規定、防火性などの条件を生み出し、設計手法に影響を 及ぼすこととなる。
3 章 新・旧の対比
-既存建築が持つ歴史-
全ての既存建築は、その建物が培ってきた時間・記憶を包 括した歴史を持つ。これは改修をする際の手法に大きな影響 を与えてきた。これもある種、条件と言える。この条件もま たリノベーション特有のものであるが、前章のそれとは違い
「クリアする」という類のものでもない。しかし、設計者は 果敢にこの条件に挑んでいる。ある人はこの条件を無視し、
ある人はこの条件を設計意図の手がかりにする。
-活動と物質の記憶-
既存建築はその身に2種類の歴史を孕んでいる。ある場所 で行われていた「活動・経験」という眼にみえない歴史と、
古材となった「物質」という眼にみえる歴史である。リノベ ーションが一般化するまで「物質」の歴史は設計意図・手法 の大きな手がかりとして捉えられ 、扱われてきたが、 近年 様々な改修が行われていくにつれ「活動・経験」の歴史を扱 う動きが出始め、新たな手法が提案されてきている。
4 章 データシート
-事例の選定-
分析対象とする事例は、リノベーション住宅がメディアに 露出してきた 2000 年頃から現在までの作品を対象とする。そ の中から本論の軸である、図面が正確に読み取れるものであ り、設計意図と改修操作が明記されているものを選定した。
-データシート-
データシートを構成する上で、「改修操作」の他に分析に必 要な事柄を選択し、下記のようにまとめた。
fig.1 データシート例(no.10 奥沢の家)
-改修操作-
リノベーションと新築の決定的な違いは「既存建物」がある という点である。ゼロから新しいものを建設せずに、既存を いかして設計を進めていく上で重要となる設計手法は既存建 築の構成要素を「操作する」ということになる。この操作に 着目し、以下の7つの観点から事例を通し設計手法・設計意 図を分析していく。
fig.2 改修操作
5 章 考察
建築名称 壁 スラブ 屋
根 開 口 部
内 装
構 造 補 強
外 部 環 境
歴 史 を 汲 ん だ 操 作
YS BLD. 〇 〇 〇 〇 〇 〇 構・ス
Casa Dourada 〇 〇 内
世田谷フラット 〇 〇 壁・内
駒沢公園の家 〇 〇 〇 〇 〇 壁・開
目黒のテラスハウス 〇 〇 〇 〇 〇 壁・外
YA-CHI-YO 〇 〇 〇 〇 外
Sakura flat 〇 〇 〇 〇 開・内
上大須賀の家 〇 〇 〇 〇 内
PROTO plus 〇 〇 〇 〇 〇 〇 構
奥沢の家 〇 〇 〇 〇 開・外