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1995年のイギリス詩の若干について
伊 藤 武 久
0.イギリスの週刊誌7Wε励εc鋤orの1月14日号から12月16/23日号まで に掲載された詩は,71名の詩人による87篇であつた。そのなかから15をえらび,
日本語になおし,じぶんの考えをそえた。
1. Double Tanka Once upon a time
Fairy tales had happy ends:
Father Christmas lived,
Stockings were thrillingly filled,
New Year held credits in hope
Stories now are blue,
Ifind ladders in stockings,
Santa leaves bad debts,
He whdm I kiss this New Year Will always remain a fro9.
Alanna Blake 14/1/1995
40 伊藤武久
ダブル短歌 むかしむかしの
お伽噺はめでたしで終わった。
サンタ・クロースはいたし,
靴下いっぱいの中身はスリルだったし,
お正月は希望を託するに足りた。
当世の物語はどれもうらがなしく,
わたしの靴下には伝線が目につき,
サンタのあとは借金に苦しみ,
このお正月わたしがキスした彼は
王子はとても,一生カエル男のままでしょう。
これは選ばれて掲載された専門詩人の作ではない。丁舵励¢吻τ・rに1995年12 月9日号現在でNo.1910を数える(ということはざっと38年間続いている)
COMPETITIONという懸賞投稿詩文欄があって,読者が毎回の新奇な題材・
趣向を,要求されるさまざまな詩法・文章法で表現するのを競いあっている。
これはその1863回目。ANew Yearの課題を,ダブル短歌で,というもの。上 はその入選作8篇の第1席である。1連5行,各5,7,5,7,7音節を
守っている。脚韻はない。
2. So Little lt Can Take
One leaf on the line cannot delay a train,
but many fallen together . heaped and damped by rain
can halt the screaming express,
1995年のイギリス詩の若干について 41 disrupt apPointments, prevent
meetings, decisions, break contacts and bonds of love,
can shake
dice from a ladder s foot to the head of a snake.
So little it can take
to change design to disorder,
man into a bone
as, with time, a drop of water can change the face of a stone.
Phoebe Hesketh 4/3/1995
小よく大を行う 鉄路の一枚の葉は 汽車を遅らせ得ない。
されどあまたの落葉寄って 山となり,雨に濡るれば 叫喚の急行の停車,
とき約束の反故,会議また決定の さまたげ,契約また愛の
誓いの破棄など雑作もない。
梯子のピンから 蛇のキリまで
世事を一六勝負で決し去る。
小よく大を行って
目論見を藻屑に
42 伊藤武久
生身を骨片に変えるさまは まさに似る,時経て,
点滴石をうがつ,に。
駅頭などで落葉の降るさまを見過ごさない人,乗った汽車の遅れで困らされた 経験のある人の作とみえる。1ight verseといえば失礼であろうか。詩が示唆す る人生教訓は平凡であるが,それを見事な修辞で言い切っているのが手柄であ る。10−11行はfrom foot to headという成句を,和詩のいわゆる懸け詞風に いいなしたもの。脚韻・頭韻がきびきびしていて全体のテンポのよさもこの詩 が採択された理由の一つなのであろう。つぎは1ight verseの上手の作。
3. Apologia
My life is too dull and too careful−
even I can See that:
the orderly bedside table,
the spoilt cat
Surely I should have been bolder.
What could biographers say?
5舵go ψ,αzε彦oα5彦αη4τσεη彦∫乃吻ゴη9
血ツφεr友y2
Whisky and gin dehydrate you.
Ecstasy makes you drop dead.
Toy boys make inroads on cash and your half of the bed.
Emily Dickinson, help me.
Stevie, look up from your Aunt
1995年のイギリス詩の若干について 43 Some people can stand excitement,
Some people can t.
Connie Bensley 18/3/1995
弁明
わたしの人生はあまりに平板,あまりに慎重一 当人だって先刻承知。
ベッド脇の片付いたテーブル,
甘やかされている猫。
ほんと,わたし,もっと大胆でよかったのだ。
伝記作家はどう言うかしら。
彼女ハ起キ,トーストヲ食べ,買物ヲシタ 照ル日曇ル日?
ウイスキーとジンは水気を抜き,
法喜陶酔は頓死のもと,
若いッバメは金喰い鳥で ベッドの半分を乗っ取るし。
エミリー・デッキンソン,わたしを助けて。
スティーヴー,おばちゃんのこと見てはだめ。
興奮に耐えられる人もいれば,
へたばる人もいる。
まさかspinster, prudeの守り本尊でもあるまいに,こんな風に引合いに出さ れて,デッキンソンもはた迷惑であろう。そうとうに毒のある滑稽詩である。
この詩人のテレビ番組批評もかつての森茉莉さんに負けない。
44 伊 藤 武 久
4. On the Dardar Express Headmaster with jaundiced face,
gammy4egged from old war wounds,
how we boys smirked behind hands when you recited at us!
Never in our classroom long−
always filling some time−gap−
you d croak before the bell rang,
Yes, I remember Adlestrop...
The poem brings you to mind,
as this place brings the poem:
platform, nameboard, idling steam−
engine, a landscape of sand
somewhere in Tamil Nadu
on the day I m fifty three.
Iwonder at both of you for coming so far with me!
Tony Connor 25/3/1995
ダダール急行の車上で 黄疸顔の,昔のいくさ傷の 足萎えの校長先生。
せっかくのあなたの朗読を
僕ら悪童は忍び笑いするばかりだった。
1995年のイギリス詩の若干について 45
ついぞ教室に長居はなさらず一 いつも誰かの休講の穴埋めでした一
しゃがれ声へ終業のベル
「そう。忘れもしないアズルストロップ...」
その詩から僕はあなたを思う,
この地からその詩を思うにつれて。
プラットフオーム,駅名板,空回りする 蒸気エンジン,砂,砂,砂の風景。
タミル・ナドウのどこかの土地,
僕五十三歳のある一日。
不思議ですね,あなたと詩の二つが この遠くまで僕の供をするとは。
インドの広大な砂地のなかの一駅に急行が不時停車する。詩人は窓外の風物に 好奇の目をむける。そしてこれと同じような経験を叙した詩を習ったのをゆく りなくも思い出す。そうか,あの詩を読んでくださったのは遠い昔の故国の校 長先生だった,と旧師の風体を懐かしむことで,この詩は始まる。そして時空 の隔たりを一挙に繋ぎ寄せる詩の玄妙な働きに感じ入って詩行を結ぶ。各行7 音節,脚韻は末尾の子音で辛うじて保っている,といったごくゆるめの定型詩。
かつて校長が詠唱したのはEdward Thomas(1878−1917)のA4Zεszrψという 詩。こちらも4行4連の朗唱するに足る名詩で,本詩よりもちろんずっと有名 である。
5. Poem on the Underground Aprayer to Hemles
Guide me safely down into Pluto s kingdom,
46 伊 藤 武 久
Make the escalator run swift and smooth, and Spare me everlasting delays beside the Banks of the Northem
Line. And find me, swiftly, an empty carriage,
One that s just been hung with the latest poems;
May I taste each word between lips and tongue as I Jolt towards Hendon.
May some bronzed and heterosexual Sappho See me mouthing sensuous rhymes−and catch my Eye−and join me whispering sonnets during Stops between stations.
May our two hearts beat to an unknown rhythm,
And may gods and goddesses smile from posters,
As we quietly float up the moving stairs into Brightening sunlight.
Robert Chandler 1/4/1955
地下鉄の詩
ヘルメス神への祈り
つつがなく冥府王プルトンの国へ私を導き降ろしください。
エスカレーターを迅速円滑に走らせたまえ。
北回り線のバンクス脇での
果てしない延着待ちはご容赦願いたし,
ひらに。さてまた,早速,空き車両をお見つけください。
最新の詩歌を吊したばかりなのがありがたい。
1995年のイギリス詩の若干について 47 舌にその一語一語を賞味できますように,
ヘンドンへ揺れ進むみちみち。
他日の太陽に肌を焼いた,レズならぬサッポーが 官能の律句を口ずさむ私を見とがめ一私の目を
捕らえ一ひめやかにソネットなど唱和する,とありたきもの 駅のとまりにいたる合間合間に。
願わくば,二つのハートよ,珍らかなリズムに鼓動を合わせよ,
願わくば,ポスターの男神女神よ,我らに微笑みたまえ,
二人して,動く階段に鎮もり,照り映える日の光の なかへ浮き登りいく時の問すがら。
前に続いて,これも乗り物と詩がからんだ詩。通行神ヘルメスへの祈願という 趣向であるから,各連の最初の3行は10音節以上という長い行。口に乗せてみ ると,祈りにふさわしくゆったりと息長く,リズミカルである。それでいてす こしも間延びはしていない。毎日のおびただしい数の地下鉄利用客のなかには,
この詩の人物みたいな心働きをする変人もいるのか,と知って,この真面目な 週刊誌の講読者の口辺にひととき微苦笑が浮かぶ,というのも詩のもつ効用の 一つであってよい。
6. The Media
The air is full of noise,
The screen of caper:
Reality enjoys No inch of paper.
The most expensive lies
Flourish in every home:
48 伊藤武久
Great gulps of froth and foam Win the first prize.
Go to the quiet wood To hear the beating heart:
Leaf fall and breaking bud Will play their part
And so the truth is out Which only quiet tells,
And as it does, its voice Sounds like a pe{il of bells.
C.H. Sisson 29/4/1955
メディア 大気は雑音に充ちた 軽躁のスクリーン。
実質は部厚い 紙書を喜ばない。
高価きわまる虚偽が 全家庭に素乱し 泡沫の鯨飲が 優勝を得る。
静寂の森へでかけ 脈打つ心臓を聞け。
降る葉,角ぐむ芽が
各自の楽音を奏でる。
1995年のイギリス詩の若干について 49
そのように,真実は発露する,
静寂だけが告げる真実。
発露の時,その声音は 万鐘のような鳴響。
簡潔を考えたために硬い漢語だらけになったが,原詩は短音節の語による含蓄 深い短行。第1連は平易なそっけないほどの言葉で電波と映像と印刷物とが充 満する高度情報化社会を語っている。もちろん騒音公害とか狼雑な屋外広告を いっているのではない。編幅が人間の耳に聞こえない音を聞き取るように,詩 人は常人が気づかない音や姿を,たとえば晴れ上がった静かな都会の空のスク リーンにおいてさえ捕捉する。事実の情報と称するもののためにいかに不必要 な量の印刷物が消費されているかを指摘し,ついで第2連では,国中の家庭が ハードだソフトだと,益体もない虚報のために争って大金を使っている,した がってバブル情報の早飲み鵜呑みの先陣争いが是とされている,と述べる。第 3,4連で,詩人はメディア中毒者に,自然に赴くことを語りかける。落葉,
芽生えの鼓動を聞け,という。こちらの発信するものこそ真実であり,その音 はこころあるものには大音声に響くはずである,と主張する。Sissonは本年 81歳,長老級の詩人である。「自然にかえれ」などといまさらいわれても,こ のマルチメディア時代は前に進むしかない。狂奔する情報化社会のキーボード にはundoのキーはない。しかしこの老詩人の苦い述懐は時代遅れの,時代認 識不足の世迷い言なのかどうか。iambic trimeter,偶数行の押韻が主体。
7. Visiting Beatrix Potter
Wλα彦∂bo以∫40五リηZo she said
i5α沈αzzεr{ゾ1初ε∫Zocゑαα1εα9ε
αη4沈ατ虎εηrゴα蕊 Her pouched mac
ankle−length, its pockets
50 伊 藤 武 久 dribbling string. Tゐosεboo丘∫
1 ηε4・ηε初励疏ε物.丁物』4
Zゴ々επ功砿∫,6r・μ9加Z乃ε6α6・ηん0〃2ρ 40η諺α5虎〃2ε Balancing
between two buckets, mucking out the sty, then back to ease off hee1_to−toe her caked boots
in the kitchen. ハfプノ%cGπgoτ2 No η0彦G・4q∫ω硫εη・Z.碗・0η6α励 ωの鋤 2脇ατ砿18⑳ε疏ε6μηηiεs 1碗句αc虎¢おαη4舵π∫τ
」μ∫ち命ZZoωε4 Aηyωの碗α〃
卿党yε,α〃Bε鋤M碗 η αη砲砲α μ4雄4μ6虎
∫・μ〃加力ηツ・μゆφε〃2y泌 αη44・泣力㎎批・∫励τゐε9αzθ bε万η4,yoμ. That was that on this occasion, later there was no escaping gifts brought by the cartload,
tableware handpainted,
bedspreads, birthday mugs f・r丑畝B吻α〃2物 abox of thimbles and a grinning china fro9.
John Mole 27/5/1995
1995年のイギリス詩の若干について 51
ベアトリックス・ポッター訪問 煎ジ詰メタ話,と彼女は言った 大事ナノハ家畜二農地ニ
ソレト相場。ぶかぶかの防水コートは くるぶしまであって,ポケットから水が 糸を引いていた。著作ノ件ナラ
モウ済ンダコト。ウサギ並二 次ヵラ次,稼ギヲ生ンダワ。
質問オワリ。両手のバケッで からだはゆらゆら,豚小屋の汚物 片付け。台所にとってかえし,汚れの
こびりついたブーッを足だけ使って 脱ぐ。マグレガー氏ミタイデスッテ?
イイエ,トンデモアリマセン。アノ人ガ イッタイ何ダッテイウノヨ。ウサギニ上着ヲ 着セタラ,アトハズルズルッテ訳。
トニモカクニモ オドロキ,モモノキ,
サンショノキ,ト納得オ願イ。アナタ 帰リノ門シメルノ忘レナイデネ。
今回はざっとこんな訪問で すんだが,そのあとがいけない。
もう逃れようがなくて,
荷車がいるほどの贈物が届いた。
やれ,手塗の台所器具だの,
ベッドカバーだの,ピーターや
ベンジャミンの誕生プレゼントだの,
52 伊 藤 武 久 箱入りの指貫きに
ニタニタ笑いの瀬戸物のカエル。
ピーター・ラビットものなどで日本でも高名なポッターは30代後半から40代前 半に著作を集中させたあと,47歳で結婚し,以後77歳で死去するまでもっぱら 農園経営者であった。この詩は彼女を絵本作家としてしか知らない現代人への 警告,あるいは椰楡であろう。ピーター・ラビットとその敵役の農夫マグレ ガーをもじれば,彼女はけっしてMrs Peter−Rabbitではない。むしろMrs McGregarのほうでであったといいたいのであろう。
8. Where Are You?
In this garden, after a day of rain,
ablackbird is making soundings,
flinging his counter−tenor line into blue air, to where an answering cadenza shows
the shape and depth of his own solitude.
Bom in south London, inheritors of brick, smoke, slate, tarmac,
uneasy with pastoral as hillbillies with high−rise,
my parents called each other in blackbird language:
my father s interrogative whistle
−
翌??窒?@are you?
my mother s note, swooping, dutiful
. ??窒?@I am .