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1995年のイギリス詩の若干について

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(1)

39

1995年のイギリス詩の若干について

伊 藤 武 久

 0.イギリスの週刊誌7Wε励εc鋤orの1月14日号から12月16/23日号まで に掲載された詩は,71名の詩人による87篇であつた。そのなかから15をえらび,

日本語になおし,じぶんの考えをそえた。

1.     Double Tanka Once upon a time

Fairy tales had happy ends:

Father Christmas lived,

Stockings were thrillingly filled,

New Year held credits in hope

Stories now are blue,

Ifind ladders in stockings,

Santa leaves bad debts,

He whdm I kiss this New Year Will always remain a fro9.

    Alanna Blake 14/1/1995

(2)

40      伊藤武久

ダブル短歌 むかしむかしの

お伽噺はめでたしで終わった。

サンタ・クロースはいたし,

靴下いっぱいの中身はスリルだったし,

お正月は希望を託するに足りた。

当世の物語はどれもうらがなしく,

わたしの靴下には伝線が目につき,

サンタのあとは借金に苦しみ,

このお正月わたしがキスした彼は

王子はとても,一生カエル男のままでしょう。

これは選ばれて掲載された専門詩人の作ではない。丁舵励¢吻τ・rに1995年12 月9日号現在でNo.1910を数える(ということはざっと38年間続いている)

COMPETITIONという懸賞投稿詩文欄があって,読者が毎回の新奇な題材・

趣向を,要求されるさまざまな詩法・文章法で表現するのを競いあっている。

これはその1863回目。ANew Yearの課題を,ダブル短歌で,というもの。上 はその入選作8篇の第1席である。1連5行,各5,7,5,7,7音節を

守っている。脚韻はない。

2.    So Little lt Can Take

One leaf on the line cannot delay a train,

but many fallen together      . heaped and damped by rain

can halt the screaming express,

(3)

1995年のイギリス詩の若干について      41 disrupt apPointments, prevent

meetings, decisions, break contacts and bonds of love,

can shake

dice from a ladder s foot to the head of a snake.

So little it can take

to change design to disorder,

man into a bone

as, with time, a drop of water can change the face of a stone.

Phoebe Hesketh 4/3/1995

小よく大を行う 鉄路の一枚の葉は 汽車を遅らせ得ない。

されどあまたの落葉寄って 山となり,雨に濡るれば 叫喚の急行の停車,

とき約束の反故,会議また決定の さまたげ,契約また愛の

誓いの破棄など雑作もない。

梯子のピンから 蛇のキリまで

世事を一六勝負で決し去る。

小よく大を行って

目論見を藻屑に

(4)

42      伊藤武久

    生身を骨片に変えるさまは     まさに似る,時経て,

    点滴石をうがつ,に。

駅頭などで落葉の降るさまを見過ごさない人,乗った汽車の遅れで困らされた 経験のある人の作とみえる。1ight verseといえば失礼であろうか。詩が示唆す る人生教訓は平凡であるが,それを見事な修辞で言い切っているのが手柄であ る。10−11行はfrom foot to headという成句を,和詩のいわゆる懸け詞風に いいなしたもの。脚韻・頭韻がきびきびしていて全体のテンポのよさもこの詩 が採択された理由の一つなのであろう。つぎは1ight verseの上手の作。

3.     Apologia

My life is too dull and too careful−

even I can See that:

the orderly bedside table,

the spoilt cat

Surely I should have been bolder.

What could biographers say?

5舵go ψ,αzε彦oα5彦αη4τσεη彦∫乃吻ゴη9

血ツφεr友y2

Whisky and gin dehydrate you.

Ecstasy makes you drop dead.

Toy boys make inroads on cash and your half of the bed.

Emily Dickinson, help me.

Stevie, look up from your Aunt

(5)

      1995年のイギリス詩の若干について      43 Some people can stand excitement,

Some people can t.

Connie Bensley 18/3/1995

弁明

わたしの人生はあまりに平板,あまりに慎重一 当人だって先刻承知。

ベッド脇の片付いたテーブル,

甘やかされている猫。

ほんと,わたし,もっと大胆でよかったのだ。

伝記作家はどう言うかしら。

彼女ハ起キ,トーストヲ食べ,買物ヲシタ 照ル日曇ル日?

ウイスキーとジンは水気を抜き,

法喜陶酔は頓死のもと,

若いッバメは金喰い鳥で ベッドの半分を乗っ取るし。

エミリー・デッキンソン,わたしを助けて。

スティーヴー,おばちゃんのこと見てはだめ。

興奮に耐えられる人もいれば,

へたばる人もいる。

まさかspinster, prudeの守り本尊でもあるまいに,こんな風に引合いに出さ れて,デッキンソンもはた迷惑であろう。そうとうに毒のある滑稽詩である。

この詩人のテレビ番組批評もかつての森茉莉さんに負けない。

(6)

44      伊 藤 武 久

4.    On the Dardar Express Headmaster with jaundiced face,

gammy4egged from old war wounds,

how we boys smirked behind hands when you recited at us!

Never in our classroom long−

always filling some time−gap−

you d croak before the bell rang,

Yes, I remember Adlestrop...

The poem brings you to mind,

as this place brings the poem:

platform, nameboard, idling steam−

engine, a landscape of sand

somewhere in Tamil Nadu

on the day I m fifty three.

Iwonder at both of you for coming so far with me!

Tony Connor 25/3/1995

ダダール急行の車上で 黄疸顔の,昔のいくさ傷の 足萎えの校長先生。

せっかくのあなたの朗読を

僕ら悪童は忍び笑いするばかりだった。

(7)

1995年のイギリス詩の若干について      45

ついぞ教室に長居はなさらず一 いつも誰かの休講の穴埋めでした一

しゃがれ声へ終業のベル

「そう。忘れもしないアズルストロップ...」

その詩から僕はあなたを思う,

この地からその詩を思うにつれて。

プラットフオーム,駅名板,空回りする 蒸気エンジン,砂,砂,砂の風景。

タミル・ナドウのどこかの土地,

僕五十三歳のある一日。

不思議ですね,あなたと詩の二つが この遠くまで僕の供をするとは。

インドの広大な砂地のなかの一駅に急行が不時停車する。詩人は窓外の風物に 好奇の目をむける。そしてこれと同じような経験を叙した詩を習ったのをゆく りなくも思い出す。そうか,あの詩を読んでくださったのは遠い昔の故国の校 長先生だった,と旧師の風体を懐かしむことで,この詩は始まる。そして時空 の隔たりを一挙に繋ぎ寄せる詩の玄妙な働きに感じ入って詩行を結ぶ。各行7 音節,脚韻は末尾の子音で辛うじて保っている,といったごくゆるめの定型詩。

かつて校長が詠唱したのはEdward Thomas(1878−1917)のA4Zεszrψという 詩。こちらも4行4連の朗唱するに足る名詩で,本詩よりもちろんずっと有名 である。

5.    Poem on the Underground       Aprayer to Hemles

Guide me safely down into Pluto s kingdom,

(8)

46        伊 藤 武 久

       Make the escalator run swift and smooth, and        Spare me everlasting delays beside the       Banks of the Northem

Line. And find me, swiftly, an empty carriage,

One that s just been hung with the latest poems;

May I taste each word between lips and tongue as I      Jolt towards Hendon.

May some bronzed and heterosexual Sappho See me mouthing sensuous rhymes−and catch my Eye−and join me whispering sonnets during      Stops between stations.

May our two hearts beat to an unknown rhythm,

And may gods and goddesses smile from posters,

As we quietly float up the moving stairs into      Brightening sunlight.

Robert Chandler 1/4/1955

地下鉄の詩

   ヘルメス神への祈り

つつがなく冥府王プルトンの国へ私を導き降ろしください。

エスカレーターを迅速円滑に走らせたまえ。

北回り線のバンクス脇での

果てしない延着待ちはご容赦願いたし,

ひらに。さてまた,早速,空き車両をお見つけください。

最新の詩歌を吊したばかりなのがありがたい。

(9)

      1995年のイギリス詩の若干について      47 舌にその一語一語を賞味できますように,

ヘンドンへ揺れ進むみちみち。

他日の太陽に肌を焼いた,レズならぬサッポーが 官能の律句を口ずさむ私を見とがめ一私の目を

捕らえ一ひめやかにソネットなど唱和する,とありたきもの 駅のとまりにいたる合間合間に。

願わくば,二つのハートよ,珍らかなリズムに鼓動を合わせよ,

願わくば,ポスターの男神女神よ,我らに微笑みたまえ,

二人して,動く階段に鎮もり,照り映える日の光の なかへ浮き登りいく時の問すがら。

前に続いて,これも乗り物と詩がからんだ詩。通行神ヘルメスへの祈願という 趣向であるから,各連の最初の3行は10音節以上という長い行。口に乗せてみ ると,祈りにふさわしくゆったりと息長く,リズミカルである。それでいてす こしも間延びはしていない。毎日のおびただしい数の地下鉄利用客のなかには,

この詩の人物みたいな心働きをする変人もいるのか,と知って,この真面目な 週刊誌の講読者の口辺にひととき微苦笑が浮かぶ,というのも詩のもつ効用の 一つであってよい。

6.   The Media

The air is full of noise,

The screen of caper:

Reality enjoys No inch of paper.

The most expensive lies

Flourish in every home:

(10)

48       伊藤武久

   Great gulps of froth and foam          Win the first prize.

Go to the quiet wood To hear the beating heart:

Leaf fall and breaking bud Will play their part

And so the truth is out Which only quiet tells,

And as it does, its voice Sounds like a pe{il of bells.

C.H. Sisson 29/4/1955

メディア 大気は雑音に充ちた 軽躁のスクリーン。

実質は部厚い 紙書を喜ばない。

高価きわまる虚偽が 全家庭に素乱し 泡沫の鯨飲が 優勝を得る。

静寂の森へでかけ 脈打つ心臓を聞け。

降る葉,角ぐむ芽が

各自の楽音を奏でる。

(11)

1995年のイギリス詩の若干について      49

そのように,真実は発露する,

静寂だけが告げる真実。

発露の時,その声音は 万鐘のような鳴響。

簡潔を考えたために硬い漢語だらけになったが,原詩は短音節の語による含蓄 深い短行。第1連は平易なそっけないほどの言葉で電波と映像と印刷物とが充 満する高度情報化社会を語っている。もちろん騒音公害とか狼雑な屋外広告を いっているのではない。編幅が人間の耳に聞こえない音を聞き取るように,詩 人は常人が気づかない音や姿を,たとえば晴れ上がった静かな都会の空のスク リーンにおいてさえ捕捉する。事実の情報と称するもののためにいかに不必要 な量の印刷物が消費されているかを指摘し,ついで第2連では,国中の家庭が ハードだソフトだと,益体もない虚報のために争って大金を使っている,した がってバブル情報の早飲み鵜呑みの先陣争いが是とされている,と述べる。第 3,4連で,詩人はメディア中毒者に,自然に赴くことを語りかける。落葉,

芽生えの鼓動を聞け,という。こちらの発信するものこそ真実であり,その音 はこころあるものには大音声に響くはずである,と主張する。Sissonは本年 81歳,長老級の詩人である。「自然にかえれ」などといまさらいわれても,こ のマルチメディア時代は前に進むしかない。狂奔する情報化社会のキーボード にはundoのキーはない。しかしこの老詩人の苦い述懐は時代遅れの,時代認 識不足の世迷い言なのかどうか。iambic trimeter,偶数行の押韻が主体。

7.     Visiting Beatrix Potter

Wλα彦∂bo以∫40五リηZo she said

i5α沈αzzεr{ゾ1初ε∫Zocゑαα1εα9ε

αη4沈ατ虎εηrゴα蕊 Her pouched mac

ankle−length, its pockets

(12)

50      伊 藤 武 久 dribbling string. Tゐosεboo丘∫

1 ηε4・ηε初励疏ε物.丁物』4

Zゴ々επ功砿∫,6r・μ9加Z乃ε6α6・ηん0〃2ρ 40η諺α5虎〃2ε Balancing

between two buckets, mucking out the sty, then back to ease off hee1_to−toe her caked boots

in the kitchen. ハfプノ%cGπgoτ2 No η0彦G・4q∫ω硫εη・Z.碗・0η6α励 ωの鋤 2脇ατ砿18⑳ε疏ε6μηηiεs 1碗句αc虎¢おαη4舵π∫τ

」μ∫ち命ZZoωε4 Aηyωの碗α〃

卿党yε,α〃Bε鋤M碗 η αη砲砲α μ4雄4μ6虎

∫・μ〃加力ηツ・μゆφε〃2y泌 αη44・泣力㎎批・∫励τゐε9αzθ bε万η4,yoμ. That was that on this occasion, later there was no escaping gifts brought by the cartload,

tableware handpainted,

bedspreads, birthday mugs f・r丑畝B吻α〃2物 abox of thimbles and a grinning china fro9.

John Mole 27/5/1995

(13)

1995年のイギリス詩の若干について      51

ベアトリックス・ポッター訪問 煎ジ詰メタ話,と彼女は言った 大事ナノハ家畜二農地ニ

ソレト相場。ぶかぶかの防水コートは くるぶしまであって,ポケットから水が 糸を引いていた。著作ノ件ナラ

モウ済ンダコト。ウサギ並二 次ヵラ次,稼ギヲ生ンダワ。

質問オワリ。両手のバケッで からだはゆらゆら,豚小屋の汚物 片付け。台所にとってかえし,汚れの

こびりついたブーッを足だけ使って 脱ぐ。マグレガー氏ミタイデスッテ?

イイエ,トンデモアリマセン。アノ人ガ イッタイ何ダッテイウノヨ。ウサギニ上着ヲ 着セタラ,アトハズルズルッテ訳。

トニモカクニモ オドロキ,モモノキ,

サンショノキ,ト納得オ願イ。アナタ 帰リノ門シメルノ忘レナイデネ。

今回はざっとこんな訪問で すんだが,そのあとがいけない。

もう逃れようがなくて,

荷車がいるほどの贈物が届いた。

やれ,手塗の台所器具だの,

ベッドカバーだの,ピーターや

ベンジャミンの誕生プレゼントだの,

(14)

52       伊 藤 武 久 箱入りの指貫きに

ニタニタ笑いの瀬戸物のカエル。

ピーター・ラビットものなどで日本でも高名なポッターは30代後半から40代前 半に著作を集中させたあと,47歳で結婚し,以後77歳で死去するまでもっぱら 農園経営者であった。この詩は彼女を絵本作家としてしか知らない現代人への 警告,あるいは椰楡であろう。ピーター・ラビットとその敵役の農夫マグレ ガーをもじれば,彼女はけっしてMrs Peter−Rabbitではない。むしろMrs McGregarのほうでであったといいたいのであろう。

8.   Where Are You?

In this garden, after a day of rain,

ablackbird is making soundings,

flinging his counter−tenor line into blue air, to where an answering cadenza shows

the shape and depth of his own solitude.

Bom in south London, inheritors of brick, smoke, slate, tarmac,

uneasy with pastoral as hillbillies with high−rise,

my parents called each other in blackbird language:

my father s interrogative whistle

翌??窒?@are you?

my mother s note, swooping, dutiful

. ??窒?@I am .

(15)

1995年のイギリス詩の若干について      53

There must have slid into the silences the other questions,

blind, voiceless worms whose weight cluttered his tongue;

questions I hear as, half a lifetime on,

Ieavesdrop on blackbirds.

Carole Satyamurti 24/6/1995

どこにいるのか この庭で,雨の一日のあと

クロウタドリが一羽,妻問いしている。

カウンター・テナーのひとふしを青空に 放ち歌うと,返ってくる

カデンッアがいまさらに彼の寂蓼の 姿と深さを露わにする。

南ロンドン生まれ,煉瓦・煤煙・

スレート・舗装道の申し子たち,

田園風にこころ休まらなかったのは

山育ちが高層建築に馴染めずしまいと同じの わたしの双親はかたみにクロウタドリ言葉で 呼びあった。

父の問いは笛の音色 一「どこにいるのか」

母の声音は,急降下,まめやかで

一「ここですよ」

(16)

54       伊藤 武 久     父の沈黙のなかには他の

    質問も忍び入っていたに相違ない。

    盲いた声なき地虫の沈黙たち。その     重さに喉ふたがれていたのだ。

    我が半生すぎてなお,クロウタドリをもれ聞くにつけ     今も聞く思いするその質問。

寡黙な父は一階で病の床についていた,(と考えよう)。時折淋しがっては,二 階で家事などしている母を呼んだ。母はかならず優しく答えた。詩人はその同

じ家の庭で(あったほうがいい),妻問いするクロウタドリを聞くごとに,あ りし日の両親の短い交信をまざまざと聞く思いがする,という内容の詩である と読んでよいだろう。月並みな評言だが,しみじみしたいい味の作品である。

9.    Goldfinch

That finch which sings above my head last year s speckled eg9, is now apartner to some nest instead,

that finch which sings above my head,

buff−gold dandy masked with red,

and hen on eggs upon some swaying bough that finch which sings. Above my head last year s speckled egg, is novu

Gary Cambridge 1/7/19955

(17)

1995年のイギリス詩の若干について      55

ゴシキヒワ

あの,わたしの頭上で歌うビワは 去年(こぞ)の斑入り卵がいま

どこぞの巣の親鳥の一つに育ったのだ。

あの,わたしの頭上で歌うビワは うす黄金いろの洒落者。面(おも)赤く どこぞの揺れる枝の卵たちの母鳥,

あの歌うゴシキビワ。わたしの頭上の 去年の斑入り卵こそ,いま。

前に続いてこれもイギリスの庭に來る鳥の詩。鳥そのものの詩。全52語63音節 のうち2音節語が僅か11語22音節。3音節以上の語はない。声に出して一読,

たちまち鳥の声を聞く,あるいは鳥になって鳥語をさえずる思いのする,楽し い詩である。単純な,しかし巧みな繰り返し,そして手の込んだ,しかし自然 な語配りがつかわれていて,おもわずため息のでる珠玉。日本であればさしず め,梁塵秘抄,催馬楽といった上代民謡を彷彿させるといえようか。

10.、     The Making of Eve

And kneeling one day at the sea s edge God scooped a fist of mud from the earth and pressed it into a shape called man. Its coldness spread

like an ache through his fingers and as He stooped to warm them by chance a small cloud of breath seeped into the shape and it lived.

But by and by when the sun was high up

(18)

56       伊藤 武久

    in the sky man began to crack and fall     into pieces. Then God lifted some salt

    water into his cupped hands and called it     woman, smoothing it into the fractured clay.

    Now whenever man got hot he hankered for

    along cool sip from woman and she     assented sometimes wanting a place     to rest safe from the tireless assaults

of the wind and craving for a while adifferent sort of medium to move in.

Julia Copus 12/8/1955

  イヴを創る

そして膝を曲げて或日海の端で神は 一握の泥を地からすくってそれを固めて 一つの形をこしらえ男と名づけた。その 冷たさは痛みのように指間に広がったので 神が背を丸めて指を暖めたおりしも一吐き わずかな息が人型にしみ入り命が生まれた。

だがやがて陽が中天高く昇ると男に ひび割れが起こり破片になりかけた。

そこで神はそくばくの塩の水を

丸めた両手にくみあげ女と名づけて

暇もちの土くれのなかに滑らせた。

(19)

      1995年のイギリス詩の若干について      57 だからいまや男は熱してくるときまって

女からの冷たいたっぷりの一口を渇望したし 女のほうでも応じたのは時には風のしつっこい 攻勢からの息災場所が

入用だったのと,それにいっときの間くらいは 異種の媒材に移るのをこい願ったからだ。

聖書であれ古事記であれ他のいずれの説話であれ,およそ男と女が創造される いきさつの物語は深い興味と感慨をいざなう。この詩の詩人も自己の男性観・

女性観,男女の対比の把握法にもとついて独自の創造説を歌った。水と土と日 と風の四大のイメージが澄明である。この詩でも3音節語はwheneverと mediumとdifferentの3語のみで,あとは1音節語と2音節語が7対3くら

いで,小気味のよいリズムをつくりだしている。

11.   The Wild Good Lookers

The wild good−lookers−Thom in biker s leather Has crash6d his Harley on the Freeway twice Ted keeps on splashing out in filthy weather Filling his Barbour pockets with dead mice.

Apoet s life is lived along the edge Of savage rhythms and primeval surges.

We feel it when our neighbour tdms his hedge And won t sweep up the clippings from the verges.

To hell with smug, suburban platitudes−

We re on the move and Man, we gatta go.

What is it hunches on the gate and broods?

(20)

58       伊藤 武 久

It seemed tobe a hawk but it s a crow.

The neolithic forest sleeps beneath.

We were not bom to die in Haywards Heath.

John Whitworth 9/9/1995

格好良いあらくれたち

格好良いあらくれの一革ジャン着た

トムはハイウエイでハーレーを二度つぶした。

テッドは悪天候に水しぶき飛ばし止めず バーバンのポケットには鼠の死骸がいっぱい。

詩人のくらしは凶暴なリズムと太古の怒濤の 崖っぷちを行くくらしだ。と,我らが 感ずるのは隣人が生け垣を刈りこんでいる時。

我らは伐り屑を道端から掃きのけたりはしない。

小綺麗な,郊外生活の陳腐など,くたばるがいい。

我らは動き止まぬ者,そうとも,進まねば。

門口に局促して憂悶するあれは何だ。

かつてはそれがタカに見えたが,なに,カラスでしかない。

新石器期の森は足下にまどろんでいる。

我らはヘイワード・ピースで死ぬために生まれたのではない。

Shakespearean sonnet。この詩のように,詩人とは革ジャンパー姿のオートバ イ野郎であり,詩とは幕進と怒号である,と一概に言ってのけるわけにはいか ないだろうが,すぐれた詩人の・一級の詩作には,たとえ日常茶飯の外見を呈し,

停滞沈思の風があっても,その内奥には篠つく雨の中を疾駆する狂気があると

いうのは否めない。

(21)

1995年のイギリス詩の若干について      59

12.     Life Support?

    Death, in passing, called on you today     Hoping to have a friendly word, no doubt,

    But couldn t reach your bed for the array     Of electronic gubbins ranged about.

    But doubtless he 11 be able to draw near     When the cost of thwarting him s made clear.

         W.M. Tidmarsh 16/9/1955

        生命維持か

     死神が通りすがりに今日あなたを訪ね      友の語らいをあてにしたのはまちがいない。

     だがベッドに達し得なかったのは,ものものしい      電子装置の取り巻きのせいです。

     でもきっと奴めの接近は成就しますとも,

     阻止の試みがものいりだと知れたその時。

うがちの軽詩。過褒も軽侮も無用であろう。次の同じ死を題材にした佳肴のた めの食前酒である。

13.    ACall

     Hold on, she said, 1 ll just run out and get him.

    The weather here s so good, he took the chance

    To do a bit of weeding .

(22)

60      伊 藤 武 久

      SoIsawhim Down on his hands and knees beside the leek rig,

Touching, inspecting, separating one Stalk from the other, gently pulling up Everything not tapered, frail and leafless,

Pleased to feel each little weed−root break,

But rueful also.

       Then found myself listening to The amplified grave ticking of hall clocks Where the phone lay皿attended in a calm

Of mirror glass and sunstruck pendulums.      ・

And found myself then thinking:if it were nowadays,

This is how Death would summon Everyman.

Next thing he spoke and I nealy said I loved him.

Seamus Heaney 23/9/1955

呼び出し

「切らないで」と彼女がいった。「走って呼んできます。

こちら天気がよくて,彼,いい折だからと すこし草取りをしていますの。」

聞いて,私の目に浮んだ姿の

彼は韮の畝沿いに両手両膝ついてかがみ,

一本また一本,茎に触れ,調べ,分けて,そっと,

先細りでない,か弱い,葉無しを一つ残らず

(23)

1995年のイギリス詩の若干について      61 抜取り,小さな雑草の根がいちいち離れていく

手触りを楽しみ,いっぽうで哀れがっていた。

ついで気がつけば私は彼の

ホールの時計たちの増幅された重い時の刻みに聞き入っていた。

そこでは電話が鏡のガラス,日を浴びた振子たちの静もりの なかで,手をかけられずに置かれたまま。

さらに気がつけば私は思っていた,昔が今なら こんな風に死神は人皆を呼び出すのであろう,と。

彼の声だ。私は危うく言いかけた,君が大好き。

ここでも擬人化された死による死の宣告の方法が考えられている。読者のさか しらで,手に大鎌,骸骨姿の伝統的な死神が最新科学技術の生命維持装置の大 仰さにたじろぐという図を想像した場合,その戯画の工夫の面白さに前詩の全 ての手柄を認めてしまえば,詩はそれ以上進みも深まりもしない。しかし,こ ちらの詩には,友人(であろう)を電話口に呼び出してもらっている詩人が,

今日風の死神ならさしずめ,こんな具合いに死すべき人間に引導をわたすので あろうと考えたという,その慮外な思いつきに読者を感L・させるだけではおわ らせないものがある。たぶん前に訪れたことがあって熟知している友人宅の菜 園や彼の人柄を彷彿させる丁寧な庭仕事ぶりの視覚的想起,上天気だというそ ちらの閑静な光あふれる部屋の中でおりしも刻み続けているであろう時計の音 の聴覚的想像の描出はとても見事ではないか。そんな風にひっそりと突然,死 のお迎えが來ることこそ願わしい,と殆どいわんばかりである。そして最後の 一行の立派さといったらない。声の聞こえる,生きている君が一番だよ。

 本詩の作者は言わずと知れた1995年度ノーベル文学賞受賞者である。この詩

が掲載された12日後の10月5日に受賞発表があった。おびただしい彼の詩作品

の中でもたぶん最新作の一つなのであろう。

(24)

62 .      伊 藤 武 久

14.   The Pocket Watch

Like the dry rattle of seeds    in hollow poppy heads,

or a brisk frantic insect    which finds itself廿apped by the smooth bubble chamber    within a pebble of amber      so, inside this stone of gold,

    escape is held.

As round as the hole in the centre    of an acoustic guitar

     it fidgets precisely

and hides in the name of jewellery    atrite and terrible message.

Ilisten to the passing of my age        −    consistent and continual,

     noticing the time until Iknow what is trying to hatch    from the eye of the watch.

Charles Bennett 7/10/1995

ポケット・ウオッチ

たとえば嬰粟の虚ろな葉球のなかで  種が乾いた音をたてるように,

また,閉じ込められたと知った虫が

(25)

      1995年のイギリス詩の若干について      63  琉珀色のランプの

つるつるの泡玉の室内で  あわてさわぐように,

そのように,この黄金の石のなかで  脱出が阻まれている。

アコスティック・ギターの中央の.

 穴のようにまんまるく それは正確にせかせか進み  宝石の美名のもとに

古めかしくて恐ろしい伝言を秘めている。

 わたしは自分の年が移ろうのを 頑固不断に聞き入り

 時を注視しているそのうちに 時計の目玉から

 何が艀化に努めているかを悟る。

動いている時計一個からでも詩人はこれだけの比喩と含意を引出し得るという 好個の見本。

15.   Mon Pere Est Mort

For an oral exam, when aged thirteen,

my father was asked questions in French by a visiting Professor in trench−

coat and gold−rimmed spectacles, who was lean

with the thin, pursed lips of an enemy

interrogator. He pressed my father

(26)

64・      伊藤 武 久

to say what his father s吻飽θr

was.an awkward question, for how many

schoolboys know the French for Real Estate Agent?Adopting a tragic expression,

my father just replied, 、Moηρ2rεε∫彦物oτガ

The professor blushed to commiserate;

when the results of the examination

were known, my father had the highest score.

モン・ペール・工・モール 十三歳の時の口頭試問で

ぼくの父はフランス語で尋ねられた。

訊いたのはトレンチコート,

金縁眼鏡の客員教授の痩せ男。

そいつの薄い,すぼめた口は敵軍の 尋問官さながら。むりやり父に,

父の父のメチエ(職業)はなにかを,言わせに かかった。笑止な質問だ。だって「不動産

仲買人」のフランス語を知っている生徒が         いくらいるというのだ。悲痛な表情を装い

父はただ答えた。「モン・ペール・エ・モール(死にました)」

教授は赤面して弔意をしめした。

さて試験の成績発表だが,

ぼくの父は最高点だった。

(27)

1995年のイギリス詩の若干について      65 ソネット形式のlight verse。なんとなく可笑しい。みんな可笑しい。教授も可 笑しい。父も可笑しいし,試験だって可笑しい。こんな詩を載せる丁輪5ρεc−

z碗or誌がいちばん可笑しい。

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