NDC 533. 43
エタノールを混合した火花点火機関の性能
牧 暢 夫*
(昭和61年8月29日受付)
1、二
言
現在,石油資源の温存という観点から代替エネルギー,
あるいは代替燃料の利用技術を開発する必要が要請されて いる。それには次の条件を満たしていることが望ましいω。
(1)生産,輸送および貯蔵が大量にかつ低価格で可能なもの。
②輸送および貯蔵の設備は既存のもの,あるいは既存のも のに小改良を加えて使える可能性のあるもの。
(3)常温で液体であるもの。
(4)燃料それ自体,および排気成分中に著しく有害成分を含 まないこと。もしくは後処理などによって浄・化できるこ と。
(5)既存の燃料に比べて爆発の危険性が同等,もしくはそれ 以下であること。
(6)既存のエンジンの小改良で使用できる可能性のあるこ と。
メタノー一.ル,エタノールなどのアルコールは,以上の条 件にほぼ合致する有望な将来燃料の一つであるといえる。
メタノールは天然ガス,石炭,木材,都市および産業廃 棄物などを原料とする合成燃料であり,エタノールは糖お よびでんぷんの成分が多い農産物を利用して発酵法で製造 する燃料である。
本実験では理論空論比と比重がガソリンに近く,ガソリ ンとの混入が容易で機関運転も可能であることからエタ ノールを用いて実験を行った。
2.実験装置および実験方法
3.1実験装置
実験は単シリンダ空冷4ストロークガソリン機関(ホン
ダG200S)排気量197 cc内径×行程67×56を用いた。燃
焼室は側弁式で圧縮比ε=6.5最大出力5.OPS−4000 rpm,最大トルクLOkg・m一・2800 rpm,常用出力3.6PS−
3600rpmである。
実験装置の概略はFig.1に示す。回転数はスロットル と直流電気動力計13と配電盤14を調整し,回転数を3600 rpm,2000 rpmの2通りにし,ディストリビューター9に
タコメーター10を取りつけデジタルカウンター11で読みと1
2 3
1 1
10 9
7 4
161 1 17
6 12
15
回
1. orifice
2, manometer 3, surge−tank 4. lntake−pipe
5. burette
6. gasoline−engjne 7, fty−whee1 8, timing disk 9. distributor團1Q tacho rneter
11. digita[ counter 1 Z coupting
13. dynamo me±er 14.contorot pane[15, exhaust−pipe 16.thermo meter 17gas tester
Fig. 1 Schematic illustration of test apparatus.
*機械工学科
り確認した。点火時期はディストリビューター9とフライ ホイール7にあるタイミングマークにタイミングライトの 光をあてて調整,確認を行った。荷重はフライホイールの
反対側にカップリング12で機関と直流電気動力計13を継
ぎ,動力計荷重を測定した。アルコール濃度は比重計でガ ソリン,アルコールの比重を測り,体積割合でアルコール/ガソリンの割合を0/4,1/3,1/1,3/1,4/0に
なるようにした。燃料消費時間はビューレット5を用い10ccを消費する時間を測定した。吸入空気量はオリフィス 1の前後の差圧をゲツチンゲンマノメーター2で測定し
た。燃焼室壁面の温度,排気バルブ壁面の温度,排気温度,潤滑油温度,シリンダ表面の温度は熱電対を用い温度計16 で測定した。排気ガスのCOとNOの測定は排気管15か
ら排気をとり,非分散型赤外線分析器17(NOについては AIA−23(AS>型, COについてはMEXA_200)によっ』
て分析した。
3.2実験方法
実験方法はJISB 8013(小型陸用内燃機関性能試験方法)
によった。実験はアルコール濃度0,25,50,75,100%
に対しそれぞれ点火時期を5,10,20。BTDC,回転数を
3600rpm,2000 rpm一定として合計30回の実験を行った。一89一
津山高専紀要第24号(1986)
一つの実験においては全負荷に対し1/4,2/4,3/4,4/4 負荷時の吸入空気差圧,燃料消費時間,燃焼室壁面の温度,
排気バルブ壁面の温度,潤滑油温度,.排気温度,シリンダ
表面の温度,排ガスのCOとNOの割合を測定した。
3.実験 結果
3.1性能特性
3.1.1アルコール濃度と点火時期の関係
最初にアルコールの濃度と点火時期を変えて機関性能の
測牢が可能だった範囲をFig.2に示す。このようにアル
コール濃度をふやせば,点火時期を遅らせることが必要に なってくることがわかる。
+Gasoline:Ethand=4:0 1.T.200 3600r.p.m.
一一一一 GasoLine T Ethano[= O:4 1.T. 5 3600 r, p.rn.
@
︵雫aαδ︶on
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2
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E50 歪
吾3600 r.p.m.
♂200
10 5 1gnition timing (deg)
Fig. 2 Active region of Engine.
本論文ではアルコールの濃度をふやした場合のエンジン 性能を知ることが目的であるため,両極端であるアルコー
ル100%の場合とガソリン100%の場合のエンジン性能の比 較を行ってみた。
3.1.2負荷割合による各種性能の比較
結果をFig.3に示す。ガソリン100%の場合とアルコー ル100%の場合をそれぞれ比較すると,出力ではガソリン
214
314Fig. 3 Effect of Load.
6亀d
の方がアルコールに比べて優位であることがわかる。また 燃費率もガソリン100%の方が良い。しかしこの図の横軸 は負荷の割合でとってあるため,ガソリン100%の.場合と アルコール100%の場合の全負荷の値にはかなりの差があ り,同等の条件での比較にはならない。そこで次のような 比較を行った。
3.1.3軸平均有効圧によ,る各種性能の比較
結果をFig、4に示す。この図は横軸に軸平均有効圧を
とり,各種性能の比較を行ったものである。まず燃料消費 率b.をみると,軸平均有効圧が小さくなるほど,即ち低 出力ではアルコールの燃費率b.は極端に悪くなっている。これはアルコールの発熱量がガソリンに比べて小さいため と考えられる。そこでこれを使用エネルギーで比較したの がEで示す部分である。軸平均有効圧が小さいところでは,
アルコールの使用エネルギーはガソリンの使用エネルギー
20 欝15
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S2000
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一一一一
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5050O l 2 3 4 5
BME.R (kg/c m )
Fig.4 Effect of B. M. E. P.
一90一
エタノールを混合した火花点火機関の性能 牧
と比べてかなりの差がみられるが,中出力になってくると その差がぐっと少なくなっていることがわかる。これはエ ンジンを中出力で使用する限りではエネルギーに差のない ことを示している。さらに燃効率η.を見ると,低出力で はアルコールの方がかなり悪いと言えるが,中出力になる とガソリンとアルコールはかなり接近している。
したがって,このエンジンの中出力使用時,アルコール 使用での最高限度域の運転では,ガソリン使用時と同程度 の性能が得られることがわかった。
3.1.4エタノール100%試験
全負荷においても,部分負荷においても今回の実験では エタノール100%でも運転することができた。これは実験 するにあたりオリフィスの径を小さくして流入空気量を減 らし,口曳比をエタノールの理論空燃比9に近づけたため に運転可能になったのだと思われる。しかしオリフィスで 流入空気量を調整するということは,この実験を可能にし たということだけである。実用的にするにはエタノールの 理論空燃比9の得られるキャブレターを使用せねばならな い。また点火時期もガソリンの場合よりも遅らし,最:も出 力の得られる時期に調整する必要がある。また発熱量がガ
ソリンに比べて低いのでガソリンと同出力を得るには多量 の燃料を必要とし,燃費率には大きな問題がある。
このようにエタノール100%でも運転は可能であるが,
性能的にもコスト面でも多くの課題を解決する必要があ
る。
3. 2排気特性 3.2.1COについて
軸平均有効圧と,ガソリンおよびアルコールのCO濃
度との関係をFig.5に示す。(1)軸平均有効圧との関係
(a)ガソリンの場合 Fig.5より低出力時は。%に近 くなっているが,中出日時になると大きく増加している。
さらに高出力になるにつれて再び減少している。
CO発生の原因は空気(酸素)不足によるものである。
そこで空気過剰率λとの関係をみてみると,低出力時はλ
がλz=1.00のためCOはほとんど発生しなかったと思わ れる。中出力詠はλが小さくなるためCOの発生が増加
し,高出力時になるといくぶんλが大きくなるためCO
の発生が抑制されたものと思われる。(b)アルコールの場合 Fig.5より低出力時から中出力
時にかけてあまり変化はなく,ほぼ一定のCO濃度であっ
た。これはλがほぼ一定のために変化がなかったものと思 われる。② ガソリンとアルコールとの比較
低出力時はCOの量はガソリンの方がはるかに少ない
が,中出力になると逆にアルコールの方が少なくなってい3600np.m.
600
で
ロ
α300δ Z
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一〇s Gasotine 100010
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?鼈鼈黶@Ethanot l o oe/.
O.67 0.67
、為誘一ZeT135一唱騰,
x=1.eo
co
O.72
鍛/御
λ
涛℃ λ(。テOり
o
1 2
3 4 5B.M.E.P(kg/cmi)
Fig. 5 Effect of B. M. E. P.
る。これは低出力時はガソリンの空気過剰率λの方がアル コールのλに比べて大きくなっている。反対に中出力時に なると,アルコールのλの方がガソリンのλに比べて大き
くなっているからだと屈われる。
3.2.2NOについて
COと同様,軸平均有効圧とガソリンとアルコールの
NO濃度の関係をFig. 5に示す。(1)軸平均有効圧との関係
(・)ガソリンの場合 Fig. 5より低出力時はいくぶん多 く,中出力時になると減小している。そして高出力時にな ると再び多くなっている。
NOの発生原因は高温で酸素が充分,燃焼時間が長いこ
とである。低出力時は空気過剰率λがλ=1.00のためNo が多く発生している。しかし本実験での最高値になってい ない。これは燃焼温度が低いためと思われる。(理論的には空気過剰率λがλ=1.OG付近でNOが最高になるはず である)中出力時は酸素が不充分のためNOの発生は少
なくなっている。また高出力時はλが中出力時に比べて大 きくなっており,これはλ=0.8付近で燃焼室温度が高くなっているためにNOの発生量が最高になっていると思
われる。
(b)アルコールの場合 Fig.5より低出力時から中出力 になるにつれていくぶん増加している。これはλはほぼ一
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津山高専紀要第24号(1986)
定であるが,出力が増加するにしたがって燃焼室温度が高 くなっているためと思われる。
(2)ガソリンとアルコールとの比較
全出力時においてアルコールの方がNOの発生量は少
なくなっている。特に低出力時はアルコールの方が大変少 なくなっている。しかし中出力時はアルコールとガソリン の熱発生量の差はほとんどなくなっている。これは低出力 時はアルコールの空気過剰率λがガソリンのλに比べ小さ くなっているからだと思われる。中出力時はアルコールとガソリンのλがほぼ同じになっているため,NOの発生量
に差がみられないと思われる。ただアルコールの方がいくらかNOの発生量が少ないのは,アルコールの燃焼速度
が速く,反応時間が短いためと思われる。なお,燃焼室温度は同出力ではアルコールもガソリンもほぼ同じであっ
た。
4.結 言
代替燃料としてエタノールに注目し,ガソリンへの混合
割合を0,25,50,75,100%としてそれぞれについて点 火時期,回転数を20。,10。,50,BTDC,3600 rpm,
2000 rpm 一定とし,実験を行った。その結果次のような ことが判明した。
(1)アルコール濃度がふえるにつれ,燃焼速度が速くなる
ので,ガソリンの場合は200BTDCだったのが,アルコー ルの場合は5。BTDCと点火時期を遅らせなければならな
い。
(2)最大出力はガソリンの場合3.84PSだったが,アル
コールの場合2.64PSと約2/3に減少した。また燃費率は アルコー一一ルの方がガソリンに比べ極端に悪くなっている。特に低出力時ではアルコールの方がガソリンに比べ4倍近 い値になっている。また中出力時でも2倍近い値になって いる。その他性能面においてアルコールはガソリンに比べ 多少劣っている。
(3)アルコールの場合,最大出力がガソリンの場合の中出 力状態になった。その状態でのアルコールとガソリンの排
気性能を比較すると,cq, NO共にアルコールの方が少
なくなっており,中出力状態ではアルコールの方がクリー ンなエンジンだといえる。またNOは全出力時において,アルコールの方が少なかった。
以上のことから,エタノールを燃料として使用する時は,
点火時期を遅らせ,中負荷で使用すればガソリンと比べて
あまり見劣りするものではないことがわかった。NOの割 合がガソリンに比べ少ないということだけがメリットで
あったが,現在大気汚染が問題になっていることから,こ のことは非常に良いことだと思われる。燃費率がガソリン に比べ非常に悪いのは,発熱量がガソリンの半分近くなの でやむを得ないことである。しかし石油系燃料の将来がみ えてきた現在,アルコールは大量生産も可能なので,エン ジンおよびキャブレターを改良することにより,燃費率な どが向上すれば,将来の燃料の主流になってくるものと思 われる。最:後に本実験に協力下さった本校講師福田昌准氏,技官 仲井正明氏,および本校卒業生伊藤填一,藤田浩,村上隆 志の諸君に感謝いたします。
文 献
1)古浜庄一監修,自動車工学全書8巻(山海堂,昭55)
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