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卸売業の経営革新 と取 引関係

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(1)

‑ 日用雑貨 卸売企 業 に よる無返 品政 策 の事例 分析 ‑

高宮城 朝 則

Ⅰ. はじめに

本稿は卸売企業 による経営革新 を事例 として分析 し,その革新の持つ意味 を 明 らかにすることを目的 としている。取 り上 げるのは 日用雑貨卸売業界におけ る大手企業であ り, この会社は同業界において取引慣行 として定着 している返 品を削減する政策 を実施 し,大 きな成果 を達成 している。事例分析ではこの政策 に焦点を当て,それが同社の経営全体 に対 して どの ような効果 をもた らしてい るのか,ならびに卸売業 としてのその政策展開が流通チャネル全体か らみて ど の ような意味を持つのかを明 らかに したい。

分析の焦点 となる返品はわが国独特の商取引慣行であるといわれてお り,そ の経済行為 としての意義や取引慣行 としての問題点な どに関 してこれ までに多 くのことが述べ られて きている。そこで事例分析 に先立ち,従来の議論 を簡潔 に 整理 しておこう。

まず以下で使用する 「 返品」という語の意味 を明 らかにしてお く。返品は物理 的行為だけを捉 えればきわめて単純であるが,それがいかなる取引形態ない し 取引契約の下で行われるかによって多様なパターンをとりうる1 ) 。しか し,流通 の現場では同一の返品オペ レーションで種 々の取引形態 ・契約の下にある商品 が取 り扱われている場合がふつ うである。そこでここでは形態・ 契約のいかんを 1)斎藤忠志 ( 1 99 1 ) 「 返品制度改善の問題点 と可能性 」 ,田島義博・ 流通経済研究所編『 変

革期の流通』日本経済新聞社 ,3 1 0 ‑3 1 1ペ ー ジ。

〔 1 1 1 〕

(2)

1 12 47 巻 第 1 号

問わず 「 商品が返 品伝票の発行 を伴 って仕入先に逆流す ること

」 2)

としてその実 態面で捉 えることにす る。

取引慣行 としての返品制 につ いては, これ までに種 々の問題 点が指摘 されて きている3 ) 。た とえば再販売価格維持の手段 として用 い られ価格硬直化 をもた ら す,メーカーや流通業者が安易な仕入 ・ 販売姿勢 を取 りやす くなる,返 品処理 に 伴 う費用が流通費用 を上昇 させ る,返品商品の廃棄 は資源の浪費である,大規模 小売業者 による優越的地位の濫用 をもた らす,外国企業の国内参入 を妨 げる,な

どが主張 されている。

これに対 して,返 品制 は経済的 に合理的な側面 を持 ってい るこ とも指摘 され ている。それは,新製品の市場導入 を促進す る,流通段階における豊富 な品揃 え を可能 にす る,返品制下では商品に関す る情報伝達が行 いやす くなる,需給の ミ スマ ッチに対処す る手段 としての意義 を持つ,流通チ ャネル全体で リスクを効 果的に吸収す る, な どである。

ここではこれ らの議論の是非 につ いて論 じるつ もりはない。 しか し以下の分 析 を通 じて,返品には従来 いわれていた以上 の意味の広 が りが あることを指摘 したい。 さらに取 引慣行 としての返品が卸売企業 の経営や業務遂行の うえで も た らす意味 を強調 したい。

以下では, まず第 2 節で 日用雑貨業界 におけ る返 品 に関す るこれ までの経緯 について整理 を行 う。第 3 節では,本稿 の焦点である日用雑貨卸売企業の返品削 減への取 り組みについて,その政策 内容 と取 り組みの成果 について検討 を行 う。

第 4 節では事例企業の無返 品政策が もた らす意義 を経営革新 とい う視 点 と取 引 関係や卸売業全体の視点の両面か ら論 じることにす る。

2) 日本石鹸洗剤工業会 ( 1 9 9 3 ) 『日用雑貨業界における返品実態調査報告書』 。

3) 次の文献を参照。斎藤忠志 ( 1 991 ) 前掲論文 ,30 8‑31 5 ページ ;倉津資成 ( 1 991 )

「 流通の 「 多段階性」と 「 返品制」:繊維・ アパ レル産業」 ,三輪芳朗・ 西村清彦編 『日 本の流通』東京大学出版会 ,1 89‑223 ページ ;三輪芳朗 ( 1 99 1

)

『日本の取引慣行‑

流通と消費者の利益』有斐閣, 1‑95 ページ ;丸山雅祥 ( 1 99 2 ) 『日本市場の競争構

造』創文社 ,1 25‑1 8 5 ページ。

(3)

Ⅰ Ⅰ . 日用雑貨卸売業 における返品問題 の現状

前節では流通 システムにおいて返 品慣行 の持 つ一般的 な意義 と問題 点 を概観 した。ここで はそれ を踏 まえて,後 の事例分析 のために 日用雑貨業界 における返 品の現状 を検討 してお こう。

1.業界 における返品問題

日用雑貨卸売業全体 にお ける返 品 は ,8 0 年代後 半か ら近年 にか けて減 少す る 傾 向 にあ るようである. その規模 を正確 に知 るこ とは困難 で あ りラフなデ‑ タ に よ り比較 す るこ としかで きないが, それ に よれば販売 先か ら卸売業へ の返 品 率 ( 売上高比)は 8 9 年の 4% 後半台か ら 9 1 年 には 3% 程度 に, また卸売業 か らメ ーカー段階への返 品 は 4% 台中半か ら 2% 台後半‑ と下落 してい る4 ) 。これ には いわゆるバフル 経済期 における多品種少量生産 ・流通体 制‑ の反省や不況期へ の突入な どのため に生産 ・ 流通段 階において商 品の絞 り込みが なされた こと,ま た 日米構造協議 を受 けて取 引慣行 を改善す る施策が示 されたこと5 ) ,さ らには流 通情事 馴ヒの高度化 によ り在庫管理の徹底化 な ど企 業 レベル の取 り組 みが成果 を 見せ は じめたこ とな ど,色 々な要 因 を指摘 す るこ とがで きるだろ う。

しか し業界での返 品率 は減少す る傾 向 にはあ る ものの,業界関係者 の間で返 品は依然 として問題視 されてい る慣行で あ り, さ らにそれ は社会 問題化 さえ し てい る。

ある試算 によれば 日用雑貨業界での返 品額 は 6 0 0 億 円 ( 9 2 年時点)に達す ると い うこ とで あるが

6)

,これだ けの規模 の商 品が小売段階か らメーカー段階 に逆送

4)8 9 年 と 9 1 年の数値はそれぞれ日本石鹸洗剤̲ 工業会 ・全国 日用雑貨化粧品卸連合会

( 1 9 9 1

)

『 石鹸・ 洗剤等卸売業における取引実態に関する研究調査報告書』 ,日本石鹸 洗剤工業会 ( 1 9 9 3 ) 前掲書における調査結果によっている。これら 2 つの調査は標本 調査でありサンプル数等が異なっている。 しかし 2 つの結果を比較することで大方 の傾向を知ることができる。

5) たとえば公正取引委員会のガイ ドライン 「 流通・ 取引慣行に関する独占禁止法上の指 針

( 1 9 9 1 年) 0

6) 日経流通新聞 ( 1 9 9 2 )5 月 1 4 日。

(4)

1 1 4 47 1

され て大 半 が廃棄処分 され るこ とか ら,地球 資源 の浪 費 で あ る とい う社 会 的 な 批判 が 出 されてい る。また,逆送 に使用 され る トラ ックが交通渋滞 と排気 ガス に よる大気 汚染 を引 き起 こ してい る とい うの も社 会 的 に問題 視 され た ところで あ る

7)

0

しか し業界 関係 者 に とって よ り重要 なの は返 品が業界 の製 ・配 ・ 販各層 に著 し い コス ト負担 を強 いて,経営 を圧迫 してい るこ とにあ る。と りわ け,小売業 か ら の多頻度小 口配送 の要求‑ の対応 の ため に薄 いマ ー ジ ンを削 って しの いで い る 卸売 業 に とって,返 品費用 の負担 は大 きな経 営 問題 とな ってい る。同時 に返 品処 理 は シス テム化 が遅 れ てい る部面 で あ り,卸売業 と して全社 的 に ロー コス ト・ オ ペ レー シ ョンを追求 してい く際 に,返 品が その 阻害 要 因 にな って い る とい う面 もあ る。こ う した こ とか ら,業界,特 に卸売業 に とって返 品削減 が大 きな課題 と な ってい る。

返 品が発生 す る要 因 につ いて は様 々な こ とが指摘 され て い るが,整 理 す れ ば つ ぎの 7 つ にな る。( 》受発注 に ともな う作業 上の ミス,② 配送時 ・ 店頭陳列時 の 汚損 ・ 破 損 ,③季節 品 な どの需要予測 の ミス,④ 商 品 リニ ューアル,⑤決算時 の 押 し込 み販売 ,⑥ 特売 品の未 消化 ,⑦ 棚替 え,売場 ・ 店舗 改装 に よる返 品で あ る8 ) 0

これ らの うち卸売業や メー カー に よって最 も問題 視 され て い るの は( 参か ら⑦ の 要 因で あ り,その背景 には,一 方で主 と してメーカー に よる小売店頭へ の配荷競 争や押 し込 み販売 な どの店頭無視 の販 売 方針 ,他 方 で小売 店 に よる安易 な返 品 意識 が あ る といわれて い る。

2. 返 品の実態

さて,流 通 の現場 レベル にお け る返 品の実態 につ いて見 るこ とで,返 品 問題 の 構 図 を確 かめ てお こ う。

7)事例企業のA 社の場合,1 990 年時点で年間約2 0 億円ある返品は 4トン横み トラック 1 , 050 台分 に相 当し,その大半が首都圏へ逆送 されているということである( A 社広 報誌,1 992 年 2 月号) 0

8)斉藤忠志 ( 1 99 1 )前掲論文,309 ペー ジ参照。

(5)

日用雑貨卸売業 は石鹸,洗剤, シャンプー,一般化粧品,慕庭紙,生理用品, 殺虫剤な どの家庭用品を取 り扱 っている.最近ではペ ッ トフー ドや軽衣料 な ど の取 り扱 いを行 う企業 もあるOこれ らの商品は典型的な最寄品であ り,スーパー や ドラッグ・ チェー ンなどの量販店での販売比率が高 く,また しば しば特売の対 象商品 として販売 されることが多い商品群である9 ) 0

さて返品にかかわ る問題の前提 となるのは,取 引において どの ような契約が なされているかである。日用雑貨業界でメーカー と卸売業間,ならびに卸売業 と 小売業間で締結 されているのは主 として買い取 り契約である。 これはいわゆ る

「 完全買い取 り契約」ではな く 「 一般の買 い取 り契約」 と呼ばれ るものであ り, 契約書中に 「 返品な し」と明記 されているものの,暗黙 に売れ残 り品の返品が前 提 となっている。返品にかかわる条件 は返品発生のつ どに取引当事者双方で検 討 されることになる1 0 ) 。 これ以外 に 「 返品条件付 き買い取 り契約」もあ り, これ は主 として小売業のプ ライベー ト・ブラン ドについて小売店 とメーカー との間 の契約で適用 されている。

つ ぎに,小売店か ら卸売企業‑の返品が発生す る直接的な要因につ いて検討 しよう。これには様 々な ものがあるが,事例 として取 り上げる A 社の分析 によれ ば表 1 の ようになる。

見 られ るように実に様 々な源泉 か ら返 品が発生 しているのである。卸売業 内 部での発生原因 としては,小売業への販売交渉 に関わ る要因以外 にいわゆる現 場作業上の ミスが多数あることがわかる。仕入,販売,保管,配送などの卸売業 の業務 システム全体が返品め発生源 となっているのである.一方,小売業側の要 因 として は多様 な ものが挙げ られている。メーカーや卸か ら見れば小売店 は「 何 かにかこつけて返品 して くる」ということになる

11

) 。また作巣上の ミスによる返 品 も見 られ るが,この中には誤返送の一種 として,通い箱 に他の卸か ら仕入れた

9) 大 公一郎 ( 1 9 8 9 )「 9 0 年代における日用雑貨流通の変化と課題

」,

流通とシステム, 62 号, 3 ページ参照。

1 0 ) 斉藤忠志 ( 1 9 9 1 ) 前掲論文 ,3 1 1 ページ参照。

(6)

116 商 学 討 究 第 47 巻 第 1 号 商 品 を含 めて返 品 を行 うケース もあ る とい うこ とで あ る。

表 1 返 品の発生要 因 *

■発 生 源 内

自社 販 売 活 動 過剰販売 テス ト販売 あいまいな商談 セット販売 ̲ 見込み違い販売 受注 ミス コー ド変換 ミス ‑催事

商 品 部 門 検品ミズ 誤配送 遅配送 輸送時の破損 .汚扱 品出 しミス 値付けミス 倉庫内商品管理 ミス ロケーションミス

管 理 部 門 直送手配 ミス 納入単価 ミス 受発注 ミス 無計画な仕入れ

メ ー カ ー 季節品 商品 1 )土ユーアル 廃番商品 テス ト販売 不良品 企画品 .特売品 見込み発注 PB 廃番 閉店 商談 トラブル

*A 社社内資料 を修正。この業界でのより細かい項 目立てについては、 日本石鹸洗剤 工業会 『日用雑貨業界における返品実態調査報告書 』( 1 9 9 3 年) 、2 3‑2 6 ページを参 照せ よ。

返 品 は通 常の商 品流 通ル ー トを逆 送 す る もの で あ る。典 型的 な返 品処 理作 業 を概括 してみ よう

1

2 ) O通 営,小売店側 か らの返 品要請 は電話 ない しフ ァ ックス を 使 って卸売 業 に伝 達 され る。卸 は通 常の小売 店‑ の配送 ル ー トの復路 を利 用 し て返 品 を回収 す る。卸 の倉庫 に回収 され た返 品商 品 は仕 入先 ご との仕分 け,商 品

アイテム ご との仕分 け,品数確 認,値札 はが し,メーカー ご との仕分 け,返 品伝 票 の作成 ・ 発行 な どの作業 が加 え られ る。庫 内での これ らの作 業 の大 半 は手作 業

ll) 日用雑貨業界のメーカー,卸売業 に対するインタビューによる。小売業の返品に対す る意識の程度 を示すエ ピソー ドがある。イ トーヨーカ堂は従来 より無返品を標梼 し 完全買い取 りを徹底 して実行 している数少ない小売業である。 しか しその同社 に し ても,最近になって店舗の現場 レベルにおいて納入業者に対 して返 品を要請 したこ とがある。このため同社経営 上ソプが取引業者に対 して謝罪 したということである。

このことは同社の組織的な統制のゆるみの問題 とみなす こともで きようが,逆 に返 品 という手段が小売業者の意識の中にぬ ぐいがたいほど深 く染み着 いていることを 示 しているだろう ( 日経流通新聞 ( 1 9 9 5 )1 2 月 7 日) 0

1 2 )Br uns on,J e f f e r yA. ( 1 9 9 4 ) , " Pr oduc tRe t ur nsi n也eJa pane s eDi s t r i but i on

Sys t e m: ACas eSt udyofaJapane s eWhol e s al e r ' sRe t ur nRe duc t i onEf f or t s " ,

小樽商科大学経済研究所デ ィスカッシ ョン ・ペーパー ・シリーズ N0. 9 0

(7)

でなされている。その後,返 品商品が一定規模 にまとまった段階でメーカーに返 送 され ることにな る。卸か らメーカー‑の輸送費用 は業界慣習 としてメーカー が負担 しているが,事例の A 社の場合 その全額 を自社で負担 してい るとい うこ とである。 これ らの処理プ ロセスは一見す るとシステム的な対応 に よって効率 的 に稼動 させ ることがで きそ うである。しか しなが ら,卸売業か ら見れば,返 品 の性格上定期的 に発生す るものではな く,かつその発生場所 ( 小売店)が不確定 であるということか らその処理の システム化が困難 となってい る。このため,近 品処理 に要す る費用 は通常の商品処理の 3,4倍 となるというのが実態であ り, 中には 1 0 倍 に達す るとい う企業 もあるらしい

13)

0

さて,返品に対す る業界関係者の認識 については既 に触れたが,流通の現場 レ ベル において どの ような意識や行動 となってい るのか も明 らか にすべ きであろ

う。これについては整 った調査結果がな く全体像 を知 ることができないが,散見 す る資料 か ら実態の一部がわか る。それは端的 にいえば問題意識 と行動が乗離

しているとい うことである。

業界関係者 はイ ンタビューやア ンケー ト調査 な どで公式的 には返 品 をほぼ悪 弊 として捉 え, その基本的な原因の 1 つが小売店頭へ の配荷競 争や押 し込み販 売 などの売 り手側 の売上重視の販売姿勢 にあることを十分 に認識 している。 ま たそれ を改善すべ く唱えた り社内外で諸策 を講 じた りしている。しか し,それが 返 品の実態 に基づ いた上 での策であるか どうか といえば疑 問視せ ざるをえない

ところがある。

まず,返品が取引慣行の悪弊の 1 つ として問題視 されているわ りには,卸売業 やメーカーでその実状への理解が浸透 していない ようである。 た とえば A 社 の 取引先メーカーの中には,メーカー‑の返 品に要す る輸 送費用 を A 社 自身が負 担 してい ることを知 らない企業が少な くない とい うことである。

一方,返品商品 自体の物理的な取 り扱 いについては,業界ではその「 悪弊ぶ り」

が指弾 されている。指弾の対象 はい うまで もな く小売側の商品取 り扱いであ り,

1 3) 日経流通新開 ,1 99 2 年 5 月 1 4 日お よび 1 995 年 1 2 月 7 日。

(8)

1 1 8 47 1

特 に返 品商品 をごみ同然 として取 り扱 ってい ることが しば しば指摘 されてい る。また既 に記 したように,他の卸か らの仕入商品をまぜて卸に返品をして くる ケースがある。さらにひ どい場合 には,卸か ら配送 した商品の梱包用の段 ボール に庇があるだけで も返 品 して くることが見 られるとい うことである。しか し,こ うした取 り扱いは小売だけに限るものではない。小売か ら返 品を受 けた卸 にお いて も,従来 しば しばごみ同然の取 り扱いが されて きている

14)

0

この点に関連 してさらに見逃 してな らないのは,返 品は費用面のマイナス以 外 に も,実態は ともあれ企業 としては売上や利益 に貢献 しないマイナスの活動 としての位置づ けが されやす く, このことが返 品処理作業 に対す る従業員の動 機づ けを困難 に している

1

5 ) 。さらに,この困難 さは企業の販売部門が,返品処理 が複雑で手間がかかるという実状 について認識 しようとしないこ とか ら増幅す る可能性がある。つ ま り卸売業の組織 内で問題 に対す る認知 ギャ ップが生 み出 されやすいのである。

以上の ように流通の現場 における返 品問題 は,一般 に議論 され るよりも広 く かつ根が深い ものである。

こうした状況 に対 して,問題 を解消すべ く卸売業やメーカー側 か らの取 り組 みがなされている。多 くの卸売企業が返品削減策 として実施 してい るのは在庫 管理の徹底,従業員の教育,商品の絞 り込みなどである。近年 における返品の漸 減傾向か らみれば,これ らの企業努力は成果 をもた らしているといえるだろう。

しか しそれで もなお返品は卸売業 にとって経営 を圧迫す る要因であ り,企業内 部e ) 改善だけでは対応で きない ものであった。そこで卸売企業の中には返 品条 件 を盛 り込んだ契約 を小売店 との間で締結 しようと試みている企業がある。 ま た返品の削減 を含めた依頼文 を販売先 に配付 している場合 も見 られ る。 さらに 返品削減のための専門部署 を設置 している卸売企業 もある

1

6 ) 。 しか しこうした

1 4) 卸売企業 ・メーカーへのインタビューによる。

1 5 ) 国際商業 ( 1 9 9 2 )「日用雑貨問屋が直面する課題総まくり」 ,1 1 月号 ,3 0 ‑3 1 ページ 参照。

1 6)日経流通新聞 ( 1 9 9 2 )4 月1 6 日;日本石鹸洗剤工業会 ( 1 9 9 3 )『日用雑貨業界におけ

る返品実態調査報告書』 0

(9)

試みが 目立 った効果 を上 げてい るか どうかにつ いては明 らか になi jてはいな

い 。

この業界のメーカーで も卸か らの返 品削減 に取 り組 んでいる企業 が数社 あ る。それはどれ も返品が一定水準以下の卸に対 して リベー トを支払 うものであ る

17)

事例企業A社 における返品問題‑の これ までの取 り組みは,上 で示 した卸の 試み とは異な り返品処理作業 をシステム化 しようとす るものである。同社 では それ以前か ら社 内の QC 活動において返品問題 を取 り上 げてその削減策 を検討 していたが,90 年 には返品処理の省力化 システムを導入 している。これは庫内に おける返品商品の仕分 け,返品伝票発行作業 をパーソナル ・コンピュータ・ ベー スで 自動化す るものである。 これ よって返 品処理 に要す る時間 と要員が大幅 に 圧縮 されたように,作業効率化 に成果 を上 げてお り,同社の無返品政策導入後 も 活用 されている1 8 ) 0

ⅡⅠ .無返品政策

前節でみたように, 日用雑貨業界では返 品は排除すべ き悪弊であ りかつ経営 を圧迫す る要因であると捉 えられなが ら,その削減 を思 うように行 えない状況 にある。 この状況下で事例 として取 り上 げる卸売企業 は返 品 を大胆 に削減す る 政策 を展開 している。以下では,まず事例企業の概要 について述べ,その後同社

の返品削減政策の内容 を検討す る。最後 に政策の成果 について見 ることにす る。

なお,本節での論述は特記 しない限 り基本的に調査時点 ( 1 993 年,9 4 年)のデー タ ・資料 に基づ いての ものである。

1.事例企業の概要

日用雑貨卸売業A 社 は昭和40 年代 に北海道 内の 日用雑貨 ・化粧品卸売業 7 社 1 7 ) 日経流通新聞 ( 1 9 9 2 ) 5 月 1 4日。

1 8 )日経流通新 開 ( 1 9 9 0 ) 8 月 7 日,および Br uns o n, J e f f e r yA.( 1 9 9 4 ) 0

(10)

1 20 商 学 討 究 第 47 巻 第 1 号

が合併 して誕生 した。設立 当初 より積極的 に物流設備 ・ 情報 システムへの投資 を 行い,業容 を拡大 させ るとともに,近年合併 により東北地方‑の進出を果た し, 売上高ではこの業界で全国第 2 位の地位 を得ている。

取 り扱い商品は洗剤,家庭紙などの 日用雑貨全般,化粧品などであ り,多数の メーカーの販売権 を有 している。また商圏は北海道内全域 と東北地方であ り,ナ シ ョナル ・チェー ンの GMS , コンビニエ ンス ・ス トア,道内の大手 ドラッグ ・ ス トア, ホームセ ンターなどを主要得意先 としている。

本社は札幌市で,北海道内に 1 1 支店,東北地方に 5 支店 を有 している。年間売 上高は約 6 0 0 億 円 ( 9 4 年 7 月時点) ,従業員数は約 7 0 0 名である 。9 2 年 に東京店頭 市場 に株式 を公開 している。

同社 を含むこの業界では近年大手卸が合併や系列化 により全国展開 を進めて お り, これ‑の対抗の形で地場の卸が合併 をす るとい うように集中化が急速 に 進んでいる。 A 社が商圏 としていた北海道市場 はかな り以前か ら上位 3 社 によ りほぼ寡 占状態 にあ り,同社の東北地方への進 出は成長の活路 を求めた もの と なっている。ちなみに,同社の北海道での市場 シェアは 5 0% 強であ り,また,メ ーカーの同社 に対す る販売依存度 もほぼ これに近 い水準であると推定で きる。

同社 は物流 ・情報 システムの高度化 に業界で も比較的早期か ら取 り組んでい る。それは大手小売業などの顧客か らの要請 もあるが,それ とともに,コンピュ ータとロジステ ィクスを統合 させ ることが卸売業の業務 システムの要であると いう同社の基本戦略に基づ くものであ り,通産省がかつて提唱 した「 情報武装型 卸売業」のモデル ともいい うる企業である。 また, リテール・ サポー ト事業 に も 業界では早期 に着手 し,その一環である小売支援のための付設研究所では,棚別 管理 ・商品陳列な どのための設備が取引先だけではな く同業の卸売業や広 くメ ーカー・ 小売業全般 に公開されている。近年では,本稿で取 り上 げるように,こ の業界の慣行であった返品の廃止 ・削減 に取 り組み,「 無返品制度」 としてこの 業界ばか りでな く広 く流通業界 に衝撃 を与 えている。

2. 導入過程

A 社の無返品政策の内容 を,導入 までの経過,基本方針,社内での対応の 3 点

(11)

か ら概観 しよう。

A 社 は 9 0 年の時点で年間に約 2 0 億 円,売上高比で約 4% の商品をメーカーに 返品 してお り,小売店か らの返品 もほぼ同額であった。返品処理 に関わ る費用は 約 1 億 円を要 していた。返品処理費用 を削減す るために処理作業のシステム化

に取 り組んでいたことは既 に記 した。

こうした状況下で同社 は無返品政策 に取 り組んでいる。 この政策 は 9 1 年 1 0 月 に A 社の取締役副社長 ・営業本部長が同社経営幹部会 において新年度の経営方 針 として宣言 したことに始 まる。 この宣言 は全社的には唐突の ことであった ら

しく,特 に販売部門にとっては予告な しで衝撃的な受 け止め方 をされたようで ある。その後時 をおかないで社内に政策実施のための各種施策の検討が開始 さ れている。まず各部門 ごとに無返品に向けたプ ロジェク トが発足 し,また全社的 な改革会議が実施 されている。改革会議 は翌年 3 月まで に合計 1 3 回開催 されて いる。 さらに QC サークル活動 において も政策実行への取 り組みが取 り上 げ ら れている。

対外的には翌月 1 1 月に取引関係者向けの A 社広報誌 に無返 品‑の取 り組みが 予告 され,翌 9 2 年 2 月の同誌上で正式 に公表 されている。そ して同年 4 月より蘇 返品政策がスター トしている。 したがって取 り組み開始 か ら半年で政策の実施

を行 っているのである。

次に無返品政策の理念 と基本方針 を見てみ よう。

日用雑貨業界における返品は小売店か ら卸売業‑の返 品 と卸売業か らメーカ ーに対 してなされ る返品の 2 段階か らなっている。 A 社が採用 した無返 品政策 は後者の返 品を完全に廃止す るというものであ り,前者の小売店か らの返品は 従来通 り受 け入れ るとい う政策である。ただ し欠陥商品や小売プ ライベー ト商 品 ( PB) はメーカーに対 して返品を行 う

1

9 ) 0

同社の公表 した無返品政策の基本理念 は 3 つに集約 されている。第 1 に「 公害

1 9 ) 小売業のプライベー ト・ブランドについて小売業とメーカー間で契約によって返品 が規定されている場合,A社はこれを通常の意味での返品とはみなしていない。

Br u n s o n, J e f f e r y A. ( 1 9 9 4 ) 参照。

(12)

1 2 2 4 7 巻 第 1 号

に対す る企業責任」 ,第 2 に「 取引の明瞭化,明確イ h,第 3 に「 販売活動の革新

である。公害 に対す る企業責任の追求の点 については,返 品の規模が過大な もの であ り, それに関わる輸送が交通公害 を引 き起 こ しているこ とが指摘 されてい る。 またメーカーに対 してなされた返 品商品の大半が その まま廃棄処分 に付 さ れ, ごみ公害 を撒 き散 らす とともに地球資源の浪費 に直結 していることが述べ

られ,流通業 として もこれ らの問題への社会的責任 を果 たすべ きで あるとい う 主張がな されている。

第 2 に取引の明瞭化 ・明確化 に関 して,「 あ うんの呼吸」 に象徴 され る我が国 のこれ までの企業間関係 の中であいまいな取 引が行われてお り,その代表が返 品 とい う慣行であることが述べ られてい る。 また返 品慣行 は非効率的な側面 を 有 してい ることを示す とともに,流通経路全体 での コス ト削減 の阻害要因 とな

っているため, その合理化が必要であるということである。

第 3 に販売活動の革新 については,メーカーや卸売業 の販売活動 において現 実 には 「 ( 小売)店頭重視」がないが しろにされて 「 売上重視

に陥 ってお り, その 「 本来」の 目的であるべ きリテ‑ル ・ サポー トが達成 されていない とい う現 状認識 を示 している。そこでメーカー‑の返 品 を廃止す ると当然の こととして 小売店での売 り切 りが絶対条件 になる。卸 とメーカーの販売i 舌動 をそ こに追 い 込む ことによって,其の意味での店頭重視の販売活動が達成で き,販売革新 を意 識だけではな く行動 として実現で きると主張 されている。

以上の理念 は,明 らか に近年 における社会経済環境 の変動 を受 けて構築 され た ものである。第 1 の点 は地球環境問題 に関す る世界的 な うね りに対応 した も のであ り,具体例 として示 されてい る交通公害問題 は,当時多品種小 口配送の ト ラックが各地で交通渋滞 を引 き起 こ していて社会 問題化 していたこ とを受 けた

ものである。また第 2 の理念 は,当時の 日米構造協議 において 日本の流通 ・ 取 引

慣行の改善が取 り上 げ られ,その改善への方向づ けが公共政策 として また業界

において も取 りざたされていたことに直結 してい る。しか しなが ら,同社の無返

品政策 における最大のね らいは第 3 の販売革新 にあ り,広報誌上 で もこの こ と

は明言 されている。

(13)

繰 り返すが,メーカーへの返 品を原則廃止 し小売か らの返 品は従来通 りの対 応 を行 うとい うのがこの政策の基本方針であるが,政策実施 に際 して A 社 は小 売業に対 して返品削減の要請 を公式的 には全 く行 ってはいないのである。上で 見たように,従来川上のメーカーや卸売業 による返 品削減への対応 は主 として 小売側か らの返品削減 を直接的な標的 としていた。 これに対 して A 社の場合 は 逆に,自社 をその直接的な標的 としているのであ り,これが同政策の最大の特徴

となっている。 しか もそれは単純 な返 品削減策ではな く自社の販売活動の革新 と直結 させている点が独特 な もの となっている。

ところで ,A 社のこの政策公表 に対す る業界の反応 は様 々であるが,この政策 の実現可能性 について懐疑的な ものが相当あったようである。すなわち,同業の 卸売業者 は実際にはメーカー‑の返品を止め ることはで きない とい うことをほ のめか した。 また無返品によって利益 を享受す るはずのメーカーで も政策 実行 過程 を見守 るという静観の態度 を示 した ところが多かったが,中には小売‑の 販売が消極的にな り,結果 として売上が減少す るのではないか と懸念 したメー カー もある。

さて,無返品政策宣言後か ら実施 までの半年間において ,A 凍 土の社内での対応 として次の具体的対策が実施 された。まず各部門でのプ ロジェク トでは,最初 に 返品に関わる問題状況の分析がなされ,無返品政策実施後 に返品 を削減す るた めの各部の課題が検討 されている。プ ロジェク トの進捗状況 はそのつ ど全社の 改革会議でチェックされている。 こうした上で部門 ご との取 り組み課題が明確 にされている ( 表 2) 。課題の中には既存業務の向上 という側面 と新規 に取 り組 むべ き活動の両方が含 まれている。

さらにこうした改革‑の取 り組みは QC サークル活動で も行われている。 A

社の QC サークル活動 については既 に触れたが,無返 品政策‑の取 り組みでは

従来 とは異な り,サークル どうしの横断的な交流 も行 っている。この交流ではた

とえば販売担 当者 と返品処理の現場担 当者が同席 して返品に関わ る現状認識の

話 し合いや他部門の活動 に対す る質疑応答などが行われている。

(14)

1 2 4 4 7 巻 第 1 号

表 2 A 社無返品への対策 :部門プ ロジェク トの課題

販売部門 販売予測の向上 「 返 品にな らない ように売 る」 棚割の見直 し 棚替 え前の店頭 フ ォロー強化 アイテムの適正化 無返 品政策 の小売店へのア ピール

仕入部門 発注精度の向上 販売計画 との連動 商 品部門 検 品 .品出 し .配送 ミスの排除 庫 内での取扱 い 「 商品は愛情 こめて」

先入れ先出 しの在庫管理の徹底

管理部門 事務処理の正確化 マスター/ コー ドのメ ンテナ ンス

本 社 有効期 限お よび賞味期 限の嗣査、整理 人数 .包装 .容器等の見 直 し .提言 メーカーに対す る制度のア ピール

明 らかなように,同社の取 り組みで特徴的なことはそれ を全社的 に展開 した ということである。無返品政策の其のね らいが販売革新 にあるとはいえ,それは 販売部門 という卸のライン親戚 だけの改革問題 であるのではない。返 品発生 の 要因分析 に基づ き,返品削減が部門管理の問題 だけでは解決で きない とい う認 識の上で全社的な取 り組み となったのであ り,同社の この改革‑の コミッ トの 程度がただな らない ものであることが分 か る。 またこの ことは返 品 という問題

の持つ奥行 きの深 さと意味の広が りを知 らしめ る。さらに,全社的に展開 したこ とは , QC サークルの交流 に見 られ るように社内の組織活性化策 にも直結 してい る。

さて,改革への取 り組みにもかかわ らず,短期間で政策実施前 にすべての対策 が滞 りな く完成 したわけではない。それは,無返品が これ まで全 く経験のなかっ た状況であ り不確定な要素が多数あったか らである。 しか し対外的 に も公表 し たことであ り,同社の この政策の成否 は企業の威信 に直接関わるこ とであるか

ら計画通 りに実施 しなければな らなかった。そこで同社では「 返品をまず廃止 し

(15)

て,問題が起 こればそのつ ど解決 していこう」という姿勢 をとっている。この点 も同社の改革‑の コミッ トの有 り方を示 しているだろう。

3 .政策の成果 ( 1 ) 導入後の状況

9 2 年 4 月か ら開始 された無返品政策の実施状況 を説明 しよう。利用可能であ るのは開始後 1 年間のデータである。まず,小売店か らの返品の推移は次の表の ようになっている。

表 3 A 社返品の推移 *

年度 返 品額 ( 万 円) 売上比 ( %) 89 年 4 月 〜9 0 年 3 月 1 7 4, 80 0 4. 40 90 年 4 月 〜91 年 3 月 1 84, 50 0 3. 99 91 年 4 月 〜9 2 年 3 月 1 67, 3 00 3. 03

*A 社社 内資料 に よる。

無返品政策実施後の 1 年間で返 品額 は前年の 4 割以下 に削減 され,売上比率 で も 3 分の 1 近 くまで縮小 している。その後近年では返 品比率 はさらに縮小 さ れて推移 している。一方同社か らメーカー‑の返 品は小売 PB 商品 と欠陥商品 のみ とな り,それは返品額全体の 1 %,金額 でわずか 6 0 0 万円強 となっている。

以上 の数値 を見 る限 りこの政策 は成功 を納めているといえる。

小売か らの返品の内容 としては既 に見た PB 商品 と欠陥商品の他 に,贈答品,

季節商品な どが大半 を占めている。 また小売か ら誤配送 されて きた商品や汚破

損品, さらには小売店の定番 カ ッ ト商品で店頭売 り切 り前 に一時的に返送 され

て くる場合 もある。

(16)

1 26 47 1

さて,小売店か ら返品 されて きた商品をどの ように して処理す るかが この政 策が与 える大 きな課題の 1 つであることはい うまで もない。開始後 1 年間では, 良品に再生 された ものが全体の 8 0 % 近 くに達 している。再生商品はす ぐに流通

されるもの もあれば,季節品の ように翌 シーズ ンまで A 社の倉庫で保管 され る もの もある。季節商品を同社が保管す ることは以前 にはなかったことである。ち なみに政策導入前には返品全体の 1 0 % が再流通 されていたこ とか ら,導入後 に 再流通 され る返品は金額ベースで約 3 倍 に増加 したことになる。

返品全体の 2 0 % 強が店頭での売 り切 りのために回 されている。 これは催事品 や定番カ ッ ト商品,メーカー製造中止品 ( いわゆるリニューアル予定商品)が中 心であ り,店頭での売 り切 りのために値 引 き販売 ( マークダウン)も実施 されて いる。残 りの うち 3% は社 内での処分の対象 とな り,社内販売 に回 された り,廃 棄処分 された りしている。最後の 1% が上で触れた ようにメーカーに対 して返 品されている。

店頭での売 り切 り策の 1 つ としてマークダウン処理がなされてい る。 これは 正確 には返品された商品および小売店頭での返 品対象の商品について, A 社が 値引 き販売 を小売店 に推奨す ることである。同社 は以前 にはマークダウン処理 についての政策 を有 していなかったか ら, これは無返 品導入 に伴 う新規の活動 である。

マークダウン処理の対象 とな るのは,催事売れ残 り品, リニューアル予定商 品,小売定番落ち商品などの通年で販売 され る商品であ り,季節品 と贈答品は対 象外である。マークダウン処理はふつ う,対象商品が発生す るたびにメーカーの 担 当者 と A 社販売担 当が小売店側 と折衝 ・協議 した上 で処理す るか どうかの決 定,マークダウン率の決定などが行われ る。マークダウンに伴 う損失分 は三者が 協議 して相応の負担 を しているということである。なおマークダウン率 はその 時の状況 に応 じて決定 され, A 社の販売担 当者 はこの決定 に際 して上司の許可 を雫ける必要はない。また A 社 としては,これ までの ところマークダウンに関す る具体的な販売員支援策 を設けてはいない。

一方,無返品の導入後 には返品の処理 に要す る社 内費用 は大幅 に減少 してい

(17)

る。返品に要す る費用 はマテ リアル・ ‑ ン ドリング的な処理費用 と輸送費用か ら な り,通常売上高比の 5% と推計 され る。政策導入直前の数値 は得 られないため 2 年前 と比較す ると ,90 年 4 月か らの 1 年間では 9, 20 0 万 円の返品費用がかかっ ているのに対 して,導入後の 1 年間では 3, 20 0 万円になっている。無返品政策の 下ではこれに加えて良品‑の再生費用 を要す る。これは 1, 0 0 0 万円 と推計 される か ら合計 4, 200 万円 とな り,導入前 よ りも 5, 00 0 万円 ( 5 4%) 削減 されたことにな

る。

( 2) 対内的効果

無返品政策導入後 は以上の ような経過 をた どっているが, これ までの政策展 開が与えた影響 について検討 しよう。 まず A 社の社 内においては次の ような効 果が表れている。

A 社の販売部門の改革がこの政策の大 きなね らいであったわけであるが,政 策実行後 は大 きな変化が見 られるとい うこ とである。同社の経営 トソプが強調 す るのは,意識だけではな く行動面 において も売上重視か ら店頭 を重視 した販 売活動へ と転換 して きているということである。たとえば季節品の場令,データ を駆使 した積極的な売場提案 になってお り, また新製品の場合 には小売店頭で の反復購買に結びつ く配荷 を重視 した提案 と販売 になっている。また導入前 に, 販売活動が消極的になるのではないか とい う懸念が あったが,実際にはそ うは

なっていない ようである。

この主張を裏付 けるのが殺虫剤のケースである。季節品である殺虫剤の大手 メーカー品は,全国 レベルでみれば当該年の天候不順のせ い もあってメーカー の卸額 は前年比で 5% のマイナスであったの に対 して, A 社の北海道 に対 して は 40 / .の上昇 になったのである。メーカーにとっては売上が増大 した上 に A 社 か らの返品がゼロになったわけである。同社 によれば,このためこのメーカーは 非常に喜んでいるということである。

実際に小売店頭での売 り切 りのためにどの ような施策 を行 っているのか を見

てみ ようO まず販売員の需要予測 を支援す るためのデータ解析 システム を 9 2 年

(18)

128 商 学 討 究 第 4 7 巻 第 1 号

に全社 に導入 している。 このシステムは前年 にある支店 において開発済 みの も のであ り, これによって販売員 は担当店舗 における特定アイテムについて一定 期間の販売実績データを時系列で把握で きる。 またこれは定番扱いのみの場合 と特売 を含む場合 にわけてデータを加工 した り,競合品 との比較 を容易 に行 う ことがで きるなど,当時 としてはかな り高度 な処理 を柔軟 に行 えるシステム と なっている。分析 に使用す るデータ としては POS データが利用可能である場合 にはそれ を利用す るが,そ うでない場合は自社の EOS データを使用 している。

またデータ更新サイクル は週が多いが月次の場合 もある2 0 ) 0

A 社の販売員はこのデータ支援 を受 けて需要予測 をす るとともに,小売店 と の商談に臨む。その際,販売員 は前年同時期の実績 よりも直近データによる趨勢

を重視す るとい うことである。ただ季節品な ど需要変動 の大 きい商品について は,前年実績 の時系列パ ター ンを解析 し,これ を小売店側 に提示す ることで従来 しば しばみ られた需要 ピーク時 における小売店側の発注 を抑制 した り,あるい は POS データを利用で きるチ ェー ン店である場合 には店舗間で手持 ち商 品 を 融通 し合 うように助言す ることなどを行 っている。後者の場合 ,A 社 自身がチェ ー ン店間での商品配送 を行 うという支援 も実施 している。

一方, リニューアル商品については既存品の実績データに もとづ いて予測作 業が行われる. また A 社の本社営業部門は需要予測 を支 えるためにメーカー情 報 を以前 よりも積極的に収集す るように努めている。以前であれば こうした商 品はまず小売店頭 に大量配荷す るという方針で販売活動 を展開す るのが通常で あったが,現在ではまず予測分析が行われた上で販売方針が決定 されている。た とえば, A 社が主催する新商品見本市や展示会ではこれ まで会場での受注 に応 じていたが,政策開始後 はそれを止め,販売担 当が小売店バ イヤー と別途商談 を す るように変えて きている。

ところで,ここで特記すべ きことは,これ らの情報支援策のかな りの部分 は無 返品制導入のために新規 に整備 されたわけではな く,以前か ら利用 ・ 実行可能で 2 0 )A 社の取引メーカーによれば ,A 社の需要予測システムは他の卸と比べてとくに優

れているというわけではないようである。

(19)

あった ものである.換言すれば,データを重視 した販売活動 はそれ以前か ら実行 可能であった といえるだろう。に もかかわ らずそれ らはこれ まで実際の販売活 動ではあま り利用 されてこなかった ということになる。

同様 のことは卸の他の部門にういて もいえる。た とえば無返品制後 には仕入 部門は販売計画 との連動 を強化 し,それに関す る情報 を収集 ・ 処理 している。ま

た季節品の場合 シーズン終了間際に A 社の支店間で在庫 を融通 しあうことを行 い,余分 な発注 を避 けるようになっているとい うことである

2

1 ) 。しか しこれ らの ことは別途 に新 システムや新技術がな くて も取 り掛 かれ る性格の ことが らであ る。

すなわち,い うまで もな く,実行す るための条件が整 っているということと実 行す るということは異なるということである。 システムがあって もそれが実効 化す るとは限 らない。かな り以前か ら卸売業界では情報 に基礎づ けられた リテ ール ・ サポー トが卸の生 き残 り策であると標樺 され,その実現のために物流機能 の高度化や情報 システム化,ネ ッ トワーク化 に対 して投資がなされて きている。

その理念型の 1 つが 「 情報武装型卸売業」であった

22)0

A 社の場合 も,既 に触れ たように物流 ・ 情報投資 には非常に積極的であった。業界で も先進的なシステム 高度化 を達成 して きている。しか し A 社 に してさえもそうであったように,こう した投資 を行 えば即小売支援の機能が身 について,体質化 している販売のや り 方が変わるわけではないのである。 まして掛 け声だけで リテール ・ サポー ト カ

ンパニーになれるわけはないのである。 A 社の経験 は,投資 に応 じて理念・目標 を実質化す るためには, A 社の ようなかな り大胆な戦略転換 を行 って企業の組 織成員 に意識 と行動改革 をせ まらなければな らないことを示 している0 A 社首 脳のね らい もそこにあったことは既 に示 した ところである。

これ ら以外の A 社の部門で も変化が現れている。商品管理部門では同社の創 業以来の理念の 1つである 「 商品は愛情 こめて」が実践 され, また返品処理量が 大幅 に減少 したため庫内の整理 ・整頓や作業環境の改善 に余力 を振 り向 けるこ 21) 日経流通新聞 ,199 5 年 1 2 月 7 日。

22) 通産省産業政策局商政課編 ( 19 85 ) 『 情報武装型卸売業 ビジョン』通商産業調査会。

(20)

1 30 47 1

とがで きるようになっている。同時にコンピュータによる在庫管理の精度 も向 上 している。なお,政策開始後,メーカー‑の発注額が A 社全体 として減少す る 傾向にあ り,手持 ち在庫 も減少 している。またこのことが在庫管理精度のア ップ

に もつながっている。

また,無返品導入後 に販売員の業績評価方法が一部変更 されている。これまで の売上予算,粗利益予算 に加えて販売商品の返品状況が加味 され るように変更 されてお り,具体的には販売員の売上成績 か ら返品分 を控除 して算定・ 評価がな され るようになって きている。

( 3) 対外的効果

無返品政策開始後の 1 年間で取引関係のある小売店や メーカーの対応 も著 し い変化 を示 している。

まず小売店では A 社の無返品の思想が浸透 しつつあるとい うことである。導 入 当初 は一部の全国スーパーなどでは東京 に本部があるために北海道の状況 に 疎 く,このため無返品政策に懐疑的な態度 を示 した企業 もある。しか し時間の経 過 とともに全般的 には理解 を示 し,特 に ドラッグ ・ス トア ・チェーンな どでは店 頭での商品売 り切 りに協力的な姿勢 を見せ ている。ただ,贈答品の扱いが大半で ある百貨店 は店頭での売 り切 りと返品削減 には非協力的である。 また A 社が取 引のあるコンビニエ ンス ・ス トア ・チェーン 1社 との間ではこれ らについての合 意が まだ形成 されていない ということであった。具体的 に小売企業 ご との返品 率 を見れば ,9 1 年 8 月か らの 1 年間 と翌 1 年間では大手 ドラッグ・ チェーン企業 で 2. 8 % か ら 2. 0 % に ,GMS のある企業では 4. 2 % か ら 2. 8 % ‑ と下落 している。

一方上記のコンビニエ ンス ・ス トアでは 1. 9 % か ら 2. 0 % ‑ とわずかなが らも上 昇 を示 している

23)

また,既 に触れたように従来小売店 による返品商品の取 り扱 いは概 して乱雑 であったが,政策開始後 は返 品商品の管理 自体 も好転 を示 している。このため A 社 自身の返品処理作業 にも好 ましい影響が及んでいるとい うことである。

一方でメーカーの姿勢 自体 にも変化が認め られ る。た とえばメーカー・ サイ ド

(21)

の企画や商品改廃情報 をより早 く A 社 に対 して提供す るようになっている。 ま た販売活動が微妙 に変化 して きている。従来 は A 社の販売担 当者同様 に売上重 視の方針で商談 に臨んでいたが,店頭 を考慮 した姿勢 を見せ るようになって来 ているということである。

季節品の場合,先の殺虫剤のケースがそ うであるようにメーカーは大 きなメ リッ トを享受す る.このため,メーカーの中には A 社 に対 して保管のための資金 援助や保管用資材 を提供す る企業 も出始めている 。A 社 によれば,この点につい て A 社側か らメーカーに対 して何 らかの要求 をす ることはない とい うことであ る。しか し ,A 社が北海道 において ドミナン トな卸企業であ り,多 くのメーカー の A 社 に対する販売依存度が高いことか らメーカーはこの ような姿勢 を示 して いると理解 で きる。

ところで,無返品政策の展開は同業者にはどのような影響があ り,また彼 らに はどう評価 されているのだろうか。北海道内で この業界第 2 位の地位 にある B 社で も,小売店か らの返品はここ数年でわずかなが ら減少す る傾向にある。既 に 述べたように業界における返品の減少傾 向は全国的な ものであるか ら, A 杜の 政策転換の影響が B 社 に も及んでいるのか どうかは不明である。ただ,メーカー の関係者 はその影響があると指摘 している。

北海道外の同業の 日用雑貨 ・化粧品卸売業者 は A 社 の無返品政策 に対 してや っかみ的な評価 を下 している。彼 らの多 くは A 社の無返 品政策 を自社 で も実施 したいとは考 えていて も,実際には自分 たちが直面す る市場では A 社の ように ドミナ ン トでな く,群雄割拠で競争が激 しいために実現不可能であるという分 析 を行 っている

24)

。 もちろん政策の成功要因の 1つ としてA社の市場でのポジ シ ョンの強 さにあることは確 かである。しか し逆 に,高い市場 ポジシ ョンにあれ ば必ずこの ような大 きな リスクを伴 う戦略 を展開で きるのか といえばそれは断 言で きないだろう。

23) 無返品政策の導入は 92 年 4 月であるから ,91 年 8 月からの 1 年間の数値にはこの政 策導入後の四半期分のデータが含まれている。

24) 国際商業 ( 1 99 2 ) 前掲記事, 1 1 月号 ,30‑31 ページ。

(22)

1 8 2 47 1

Ⅰ Ⅴ. 無返品政策の含み

以上 の検討 によって A 社 の展開 した無返 品政策の特徴 を捉 えるこ とがで き た。そこで以下ではこの政策の持つ意味 を検討 しよう。

A 社の政策展開において最 も注 目すべ き点 は,それが経営革新 という性格 を 持 っていることである。返品に関す る卸売業の行動 は,返品が取引慣行 としての 意味 を強 く帯び るために従来 ともすれば流通チャネル における垂直的な企業間 関係の側面か ら,換言すれば企業間のパ ワー関係 とい う視点か ら論 じられがち であった。 もちろん,無返品政策の基本理念の 1 つ として「 取引の明確化,明瞭 化」 が打 ち立て られてお り,同社の戦略意図の 1 つ として企業間関係の改善があ ることは確かである。しか し,企業間関係の側面 にのみ とらわれていると同社の 戦略の意味 を見逃 して しまうだろう。

同社の戦略展開が革新的性格 を示 しているのはつ ぎの 3 点である。第 1 に,卸 売業が返品を問題視す るのは,自らの販売行動 に も問題があるわけであるが,そ れ よりもむ しろ小売業側 において返品に対す る問題意識が きわめて低 く,「 何か につけて返品 して くる」とい う悪 しき慣行 となってお り,それへの対応で苦慮 し ているか らである。 このため既 に見た ように供給業者側 の返 品‑の対策 はいか に して小売業か らの返品 を削減す るか という点 に集 中 している。それ に対 して A 社 はまず もって自らがメーカーに対 して返品 を止め,小売店か らの返品はそ の後 に対応す るという発想で取 り組み を開始 しているのである。つ まり通常 と は異なった逆転の発想である。

第 2 に,返品問題 とい う卸売業の事業 においてはどち らか といえばマイナー な局面 に対す る取 り組み を,販売活動 とい う卸売業 に とって最大かつ最重要 な 活動部面 と結合 させているところに革新 としての意味がある。 これ は上記 した 逆転の発想の当然の帰結であるが,実際の政策展開においてはむ しろ販売活動 の改革 に主眼が移 ってい く。そ して結果的 には返品問題 を相 当程度解消す ると

ともに,データを有効利用 した販売の実質化,需要予測の徹底化な どの ように販

売活動 を同社が 目指 した方向に誘導 している。そ して真の意味での リテール・ サ

(23)

ポー トの実践への道 を開 くこ とがで きたのであ る。つ ま り,異 な る局面 を逆転 の 発想で結合 させ,相乗効果的な成果 を生 み出 している。

第 3 に,無返 品政策 を全社的な取 り組み として展開 した ことである。営業本部 長が個人的 につかんだ革新の芽 ( アイデア)を実現 してい くプ ロセス において組 織 のあ らゆる部門 を巻 き込んでい き,組織 全体 としての革新‑ と育てていって い る。またすでに見 た ように,部門 ご とのプ ロジェク トだ けで はな くて QC サー クル間の交流 な ども行 い,政策 を組織 の縦横 で展開 していっている。た とえば販 売員が返 品作業の現場 について学習 した り,仕 入部門が販売 の現場で直面す る 問題 を理解す る機 会 を得 るこ とがで きてい る。 こう した交流 は組織 成員 に組織 への帰属意識 を高め,高度の レベルでの組織 統合 を可能 に してい る。

以上 の ように, A 社 の政策 には販売革新 とい うこ とだ けで はな く組織 革新 と しての意味 も兄 いだす こ とがで きる。

つ ぎにチャネル におけ る企業間関係 に対 して同社 の政策展開が及ぼ した影響 を考 えてみ よう。政策実行の過程 において,メーカー側や小売側 の対応 には変化 が見 られ る。た とえばメーカーは販売活動 を微妙 に変 えて きてい る し,小売側 で は店頭売 り切 りの考 えが徐 々にで はあ るが浸透 してい ってい る。 また返 品商 品 の取扱 い も以前 よ りは好転 している。

この ような政策成果が返品費用の削減 を除いて,チ ャネル にお ける取 引関係 改善 に基づ いた業績 向上 に結びつ いてい るか どうか は今 の ところ不 明であ る。

しか しなが ら, メーカー‑の返 品 を廃止 す るこ とで まず もって 自らの退路 を絶 ち,リスクを自ら進 んで負担す るとい う姿勢 を見せ ることに より,チ ャネル にお いて 自社 の販売 ・ 取 引 に関す る理念 ・ 方針 を浸透 させ ていってい るこ とは確 かで あ る.卸売業 は製 ・ 版の間にあって双方 よ り規定 され る存在 とい う見方が一般的 な中にあって, この ような卸 自身 によってチ ャネル を リー ドしてい こ うとす る こ とは特異 なこ とである。

さて ,A 社 の無返 品政策 は 日用雑貨業界だ けではな く広 く卸売業界,さらには

経済界全般 に も反響 を与 えた もの であった

25)

。最後 にこの こ との意味 を考 えて

2 5 ) 日経ビジネス ( 1 9 9 2 ) 4 月 2 7 日号および 6 月 2 2 日号。

(24)

1 3 4 47 1 みたい。

卸売業 には一般的 にいってその業務の性格が裏方作業的な ものであ り, また いわゆる「 長い流通経路」の中核構成者 として物価高騰の元凶であるといった認 識がなされ,どちらか といえば暗いイメージが浸透 している。しか し流通業界に おいては卸売業 は流通 システムの製・ 版の中間にあって 「 配」の役割 を持つ もの として認識 されて きた。実際 これに応 える形で卸売業 は戦後 の経済成長の過程 でその規模 を拡大 させて きた。

しか し近年,価格破壊や製 ・販同盟が進展す る中で,「 新 ・問屋無用論」が出 され るなど卸売業はあらためてその存在価値 を問われているといえる0

こうした状況下で A 社の行 った政策展開は,ローコス ト経営や経営革新 ,組織 統合, さらにチャネル における取引関係の改善などの効果 をもた らしているだ

ろうが,さらにそれ以外 にも大 きな意味 をもた らすだろう。それは社会的なコン セ ンサスを獲得で きるということである。

環境破壊,資源浪費,交通混雑 など,返品には社会的に多大 な問題がある。そ れを削減 ・ 廃止 しようとす る無返品政策 は,社会的 には大義名分 を得 ることがで きる。大義名分であるということは,誰 もそれには表だって反対で きに くい とい う意味 を持つ。 このことがチャネル における A 社の政策貫徹 を側面か ら支持す るとともに, A 社 自身の存在 を社会的に認知 させ ることにつなが ってい くと考 えられ る。さらにはこうした社会的評価が A 社の組織 にフィー ドバ ックされ,そ の成員のモラール向上 に寄与す ることになるであろ う。

さらに,卸売業 として もこの政策の成功 は重要である。卸は,社会的には常に 存立基盤 を脅か されているといわれて きた。いわゆ る問屋無用論 に代表 され る のが社会的評価である。簡潔 にいえば,卸は自ら何 も変革 してこなかった‑ こ れが問屋無用論の根底 にある社会の認識である。そういう中で A 社の政策 は,お そらくは じめて,問屋か ら積極的に仕葦卜 けた革新 ・ 変革であ り, しか もそれは社 会的に も意義のある行動である。だか ら卸売業の存在意義 を社会 に対 して証 明 す る,知 らしめるという意味 をもつだろ う。その意味でいえば ,A 社がこの政策

を大義名分 をもって事業展開 したことの意味は大 きい。

(25)

またこのことは,卸の存立基盤 には,単に社会的な流通費用の削減 とい う商業 の存立基盤,いわば経済的基盤だけではな く,それ以外の側面があ りうるという

ことを示唆 している。

< 付記>

本稿 では匿名 としたが,調査 に際 して卸売企業 A 社 をは じめ多数の卸売業,メ ーカー,小売業の方々にご協力 をいただ きました。この場であ らためてお礼 申 し 上 げます。

参 考文献 ( 脚注に記 した文献をのぞく) 鈴木 豊 ( 1 9 9 2 ) 『 卸売業のマネジメ ン ト革新』中央経済社

日経流通新開編 『 流通経済の手引』 日本経済新聞社,各年版 玉城芳治編著 ( 1 9 8 8 ) 『 卸売業マーケテ イング』 中央経済社 宮下正房 ( 1 9 9 2 ) 『 現代の卸売業』 日本経済新聞社

中小企業事業団 ・他 ( 1 9 9 3 ) 『 中小卸売業の取引関係 の現状 と課題』

流通政策研究所 ( 1 9 8 5 ) 『 卸売問題 に関す る研究調査報告書』

通産省 中小企業庁指導部取引流通課 ( 1 9 9 3 ) 『 平成 5 年卸売業の現状 と課題』通 商産業調査会

日経流通新聞編 ( 1 9 9 3 ) 『 流通現代史』 日本経済新聞社

矢作敏行,小川孔輔,吉 田健二 ( 1 9 9 3 ) 『 生 ・ 販統合マーケテ イング ・システム』

白桃書房

参照

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