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直喩の意味構造(1)

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(1)

一27一

直喩の意味構造(1)

村上丘

The Semantic Structure of Simile (1)

Takashi Murakami

1 序

 ベルクソソは,形而上学(metaphysics)には,記号1こたよらず対象にはいりこむという方法論と・

記号に依存しつつ対象の周囲をまわるという方法論と淋あることを指摘した1)。このふたつの認識論 は,記号自身のあらわす意味を対象とする学問である意味論(semantics)にもあてはまるかもしれな い。すなわち,ある対象言語(01〕ject−1anguage)の記号の意味を,その言語の話者(native speaker)

は直観的に理解することができる。これは,直接的内的にその討象とひとつになる方法であり,形而 上学における第一の認識論に対応する。一方,ある対象言語の記号の意味を,メタ言語(meta lan−

guage)という第二の記号をもちいて記述する方法がある。これは,翻訳と呼んでもよい作業で,形 而上学における第二の認識論に応ずるものである2)e

 ところで,科学的認識というのは一般にこの第二の認識論に立脚している。その認識方法は分析と よばれる。言語学(linguistics)は科学の一分野であり,意味論は統語論(syntax)・音韻論(phone・

logy)とならんで,その言語学の一翼をになうといわれている。このことは,現代の意味論が対象す なわち記号の意昧に対し,分析によってのぞむというごとをしめしている。対象を既知の要素に還元 する操作が分析である。ところで,この分析は立場と記号とを必要とするが・そのかぎり相対的な認 識でしかありえない3)eいいかえれば,一定の記号をかりた翻訳は,その記号が表現しようとしてい

る対象と比して,いつまでも不完全にとどまることをまぬがれえないのである4)。

 現代の意味論は,さまざまなメタ言語を構築し,意味を記号的再現によって捕捉しようとこころみ てきた。たとえば,意味表示(semantic repr¢舘ntation>,語彙分解(lexical decemposition),意昧素

性(se血antic feature),意味自勺剰余規則(semantic redundancy rule),識別素(distinguisher>など。

しかし,いくら立場が緻密になり,記号が正確になったとしても,分析による認識から不完全性を払 拭することはできない。

 なぜなら,対象一意味構造一の本質をかたちつくるものは,定義上,対象に固有な内面的なもので

(2)

一一一R9一

嶽立懸潟女子短鑓大学研究紀要 第王s集 1gs1

あ参t再離撫らの知覚を傘るさない費した溢r}て,飽のもろもろの対象と共通な譲子をある意味構造 黙ら隷巖し,・それを記号で裏灘しようとするとtその意味縫造の置有盤溝うしなわれてしまう。換言 す添と, 薪意味欝造に醜L,溺確佑の漫合いを嘉くLようとすれ.ぱする抵ど,意味繕造本来の,言語 建されていない意隊の幾難という測面は,いわば,影カミ薄くなってしまう」 5}ことになる。

 嫉一鞭こ鍵示する議論のな掛で亀.分赫という誰蟄論江のっと})つつ,意腺をメタ言語という符蝶に よって記弩麹するこころみを展醗する。それ溝あきらかに不完全であるのは,ひとつには,う衰.にの べf=よ5fStE>繕のtかいて慧轡学糠認識吟,鍛命江よる竜のであるn

 し掛もな癖ら、分擁ま,究擬飾に憾分舞をともなわない直観によ一}てうらうちされる町能幡をのこ もている。なぜなら.勢羅江嫁t ヂ最緩喜こはそれ{蟹本は分訴を必要とせぬ亀の」6}カミ必要だからであ る駐塾摯逗.惹蕪論む慰豫こと亀ない,意蛛原素(§e拠駐盛1e pr三mitlves)が窮確に規定されたとしよ 亀し,奮融こよって,この意球源素と直観麹内飽にひとつになること}うミできれば,これはi彫而上 学妻こお澄る葵一の黍法謙こあ允るも醸こなる。つま参,離象そ蔭ものにはいることぶできる。こうし て.舞学熱金醤毒本質離衆陥垂ま,蓬競との丸ずさえ滋よって補撰さ熟る可L能穫をひめている。ここに おいて,ギ難む完全叛る説興こ於て慧知識麹要求を満足すると共江溝意の要求を度外に置いてはな

ら轟」奪と㍉・う癸言垂ま重要であると患わ親る。

2 繍き駐鍵i承

 本穣で1*.藝辞離裏灘(f}gu職至ve expye§s圭曝>eひとつである直楡くs圭無圭まe)の意昧繊造〈semaRt圭c

S雛C2Mrg}を墾薙麺規定することをbざす駐㌔獄じあに,本論の立輝するいくつかの仮定(aSSU搬F・

蜘聾〉を舞自迄むて霊くe

 第一絃,意蘇雛造と疑}概念の理葺纈き越綴についてである。いかなる言語理論も,離象言語江おけ る文の意象講造と,そ蕊江薄慈する音声妻承(phcBet至c representatlen)とを瞬確に記述し,それら 毒綾会織式垂こ麗する一一鍛縫な規選を鉢系衰蟄こ議爽しな鐘ればならない彗)e本稿では,文の知的意味

{CS9}ltlve meaiSfig> {[ま雛造蓼藝毒髭であウ,文法理論一特にその意瞭翻門一に理論助位涯をしめるも

毒と蓑定窒るDも.掻も.ここで慧,意腺携造と音声表承とをいかに達紹するホと卦うメカニズムにつ

》て鷺言涙しな㌔㌔

一嬉二鑑文の意舞縫造む飛謡雛造紀つ鉢てであるe文の知駒意壕の講造は,述語〈pred三¢ate)と項 韓欝盤錘縄し農まparltlclpart>とSsら哉皇する命i琶纏鋼蛾至en)として表示できるものと仮定す

る垂美難塁麹こ海蓉る獲の鍵慈嶺ま挺承麹{難昆鷺撹)とよ蒙為る。遠藷は,獲の性質,毒しくは,項 蓑圭毒意蒙褻i孫細籔戯1£fe茎a鋤母を麗建する琳ガー方,援示物と項との竸綴は,述藷の勝性とは

嚢薯蕪義憲き潅毒玉圭㌔

 薬三轟慧象講逡訟疑海環と達譲との願淳纏垂er…麓〉につy・てであう。述諏こ封する項の意味 i嚢藻嘉ら,甕声表拳シベル江お蒙るittSle素 {csRstlsgegss)㊨線鹸醗雍くligear erdeOを,一義的に予

舞する;と鐘重妻毒毒㍉窪とえ蒙.翻i文{三},韓蕃Lあすよ勢ζ.,

(3)

直喩の意味構造(1) 一29一

(1) John hit Susie.

(2)Susie was hit by John.

英語において,動作主(agelユt)一すなわち,うえの例では John一は,かならずしも文頭にくるとは がぎらない。本論では,意味構造においては,述語と項とのあいだに先行関係(precedenCe relation)

は存在しないものと仮定する12)。無順序の項と述語が,音声表示レベルでどのように配列されるかに ついてはたちいらない13)e

 第四は,やはり修辞的表現のひとつである隠喩(metaphor)と直喩との関連についてである。 t e では,この両者のあいだに意味的な関係があるものとし,その類似性は(知的)意味構造において記 述されねばならないものとする。したがって,本稿では,直喩の分析をその究極的目標とするもの の,その理論的帰結が,隠喩もしくは混喩(mixed metaphor)などの分析にも調和するようこころ がけるはずである。

3 直喩と隠喩の類似性

 直喩および隠喩の根底にある共通の基本的な機能は,置換(replacement)と比較(comparison>と いうことができよう14)。たとえば,ある言語において,AというものをのべるにはBという表現形式 がもちいられ,CというものをのべるにはDという表現形式がもちいれられうるものとする。このと き,AというものをのべるのにBをもちいず, Dをもちいるのが直喩および隠喩の機能である。この 場合,BはDの表現形式に置換されており,と同時に, AとCとのあいだに比較が生ずる。

 比較が成立するためには,つぎのみっつの条件がととのおなくてはならない。第一は,話題とする もQが存在すること。第二は,比較の対象とするものが存在すること。第三は,比較するものと比較 されるものとのあいだに, (程度の差こそあれ)類似性が存在すること,である。意味論上は,話題 とするものに趣意(tenor),比較の対象とするものに媒体(vehicle),趣意と媒体とが共通にもつ属性に

は根底(ground),という用語があてられている15)。

 根底をあらわす表現を,それ自身の言語形式のうちにもっている直喩は,明示的直喩(explicit si−

mile)とよばれ,そうでない直喩は,暗示的直喩(implicit si皿ile)とよばれる16)。たとえぽ,

(3) Ellen is patient like an angel.

(4) Ellen is like an. angel.

③において, Ellen ,♂patient , an angel は,それぞれ,趣意,根底,媒体をあらわしているので,

これは明示的直喩である。一方,(4)においては,趣意と媒体は明示されているが,根底が顕現してい ないので,これは暗示的直喩である。

 隠喩の場合をつぎにかんがえてみよう。

 Cohen and Margalit(1972)にょれば,

(4)

一一一Rβ一 県立諄弄潟女子 f豆期大学畢芳究紀要  第18集  1981

(5)The・91δ麗a丑圭s a baもy.

紛は,(a)主謡を文字どお腕こ,補語を姥喩的にとる解釈と,(b>主語を琵喩的に,補謡を文字どおウに

とる解釈渉あ夢,㌧面義釣(amblgugtts>である17)。すなわち,〈5)は,(a>ゼあの年寄躰ま,まるで潤き

わけがない」と,〈b>ヂあの,じいさんみたいな顔をしているのは,赤ん坊だ」とのふたつの意味をも

つことになるls)。この場合,(a)の解漁こおいては, the gld mm  h:趣意, a baby, h:媒体に鰐応し}

〈5)の解釈においては,遜に, aむaもゾカミ趣意,itbε old man が蝶体に対応するe (勿論・通常は(a)

ぶ優先する読み(prlmayy rea磁ing)であろう。)

 このような趣意と蝶韓の逆藪の苺翻生は,紛のような隠喩のみ紀生ずるものであ弘たとえば④の ような暗示曲壷喩鑑おいて,胞11eぜを蝶体に,∫ass ange},を趣意に解釈する可能娃は(いかなる文 賑¢磁e鵡をあたえられても)生じない。なぜなら,のちほどのべるように,14)における a1i angel は,それに先蒼するtiike とともに, ElieR を錬述する機能をもっているからである。いずれにし ても.薩喩と隠喩とに共通しているのは,趣意と謀体だ共穿していることである。

 甥圭二を要約すると,つぎのよう江なるig>e

意i蝶 体i根 底  モーダル

喩喰喰

痘直

釣朗

示示明纏穏 十十十 ÷÷÷ ÷十

 うえの表は、払いささ癖難説を要する9第一把,÷は,当該の言語表鏡のなかに(趣意,媒体など の〉認癒物溝喜姦すること,−IX,それらカミ存在しないこと,をしあす。第二に,モーダル(modai>

と慧,{穂ピ電もく紘ξas享のよ舅こ,当該の文溝置撰と姥鞍を内在することをしあす要素をさす。こ 轟をなぜモーダルとよぶかはのち縁どふれる。第三に,この表の隠喩は,連結詞(coptt至a)をふくむ(5}

のような講造のみにあて嫁まる。たとえば,

17}丁圭}e婁嶽聾瓢9ぬ量互e蓋εave乱

{跨 Tke nlgkt has a thousa且{i of eye葛.

紡,紬のよう江,連結詞をふくまな㌔・隠囁 は測職こかんがえる必要泰あるo (こ、れらについては,の ち癒どふ轟ること渉あろ5。)

尋 灘舞遂ξこお酵る ミ難ぎの機能

英護む直癒麦舞郵隷・て臨 撒ε 毛しく嫁 鋸がその妾声表承レベ・レ建麟・てあらわれる・とこ

ろで.箋茎{ぎ韓fすで垂こみ勇ことお参,

(5)

直喩の意味構造(1)

一31−一

(g) Ellen is patient工ike art angel.

⑩ E玉1en is like an ange1.

明示的直喩と暗示的直喩との両方に出現しうる。一方 as も,以下の表現形式がしめすように・

OD My heart is as a T〕roken heart.

⑫  She is good as gold.

like と同一の分布を呈する。これにくわえてtas には,つぎのような表現形式がある。

⑬ Ellen is as patient as an angel・

⑭ *Ellen is as as art angel.

(*は,それがつけられた文が,非文法的(1皿grammatical)であることをしめす。)すなわち, as がもうひとつの as と連結するのは,明示的直喩においてのみであり,暗示的直喩において,ふた つの as の出現はゆるされない。しかし,これは形態論的な問題であり,⑭の非文法性はあきらか

に予測可能(predictable)である20)。

  like もtas も,意味的には,「趣意と媒体との非両立性」をあらわしているとかんがえられる21)。

すなわち,⑩においては, EIIen の属性をのべるにあたり,その属性をあらわす表現を like ar1 an−

ge1 で置換している。この置換(replacement)の結果, EIIen の属性は an angel,のもつ属性のな かにみいだされねばならないことになる。ところで,⑩の表現形式が有意義なのは,実際に Ellen が天使でない場合においてのみである。換言すると,

⑮ Elle且is a且ange1.

㈱の表現形式が, (比喩的解釈以外は)適格(well・formed)な文としてみとめられない場合にかぎっ てのみ,⑩の文は直喩としての機能をはたす。 EIlen ari angel のメソバーでないならば,すな わち, Ellen の属性と, aii angel という表現があらわす意味とが両立しないならば, like,(もし くは as )がつかえるわけである。 1ike as も意味的に同様の機能をになっており,統語的分布 も近似しているということは,意味構造において,この両者を区別する根拠はない,ということであ

るe

 ところで,語彙項目 1ike は,(9)および⑩からあきらかなように,明示的直喩,暗示的窺喩の相方 にあらわれる。たとえ,それぞれの場合にあらわれた like の品詞がちがうにせよ,意味的にそれら を区別する根拠も,やはり,ないようにおもわれる22)。

 したがって,本稿では,(a)語彙項目 like と as は同一の意義素(sem・e皿e)に対応する,(b)暗示

的直喩における like と明示的直喩における like とは同一の意義素に対応する,というふたつの仮

定にもとづき議論をすすある23)。

 既述のとおり,直喩は,趣意,媒体,モーダルを必須要素,根底を選択要素として成立する。趣意

(6)

一32一

県立新潟女子短期大学研究紀要 第18集 1981

と媒体は指示作用をおこなう。根底はt趣意と媒体とに共通な属性についての陳述であり,モーダル は,趣意,媒体(および,場合によっては根底)の関係をあらわしている。したがって,直喩をあら わす表現形式を,知的意味をあらわす命題とみなすと,趣意と媒体の論理的役割は項,モーダルと根 底の論理的役割は述語,とかんがえることができよう。

5 意味構造と格

 意味構造において,項の述語に対する役割を格(case)もしくは意味的役割(semantic role)とよ ぶ。ある自然言語(natural language)における名詞類(no皿inal)の,動詞類(verba1)に対する関係

に関する情報は,(a)語順(word order),(b)接辞(a置x),(c)隣接詞(adposi㌻ion)が提供するza)。たとえ

ば,

       q6) Her he lightly i【issed upon the亡heek.

⑯は,通常の英語の語順から逸脱した構文である。にもかかわらず,格屈折(case infiection)をてが かりに, her が被動作主(patient)であり, he が行為者(doer)であることをしることができる25)。

また,どの格を項と一Lてとるかがあきらかになれぽ・!それにまって述語の性格づけ・ひいては述語の 分類をすることができる26)。       F

 ある述語は,命題を項〔としてとる。たとえば,

⑰ It is likely that Dorothy is i且despaiL

⑱ Dorothy is lヱkely to be l皿despaiL

㈲,⑱の文を考察することによって, likely という述語が, Dorothy is in despair という命題を 項としてとるとかんがえることができる。

 ところで,本稿の課題である直喩構造は, (明示的直喩であれ,暗示的直喩であれ)(q)モーダルと しての述語 like,}㍉いくつの項をしたがえるのか・⑤この述語がしたがえる項の意味的役割はなに か,という疑問にこたえるべき十分な統語的かつ形態論的情報を提供してくれない。たとえば,』

       ⑲Ellen is like an ange1.

       ㈲ *lt is like(that)Ellen is an angeL

㈲は⑳といいかえることはできない。また, likely の名詞形 1ikelyhood は,同格節(apPositive

clause)をとりうるが, like,の名詞形 likeness,はそうではない。

       ⑳ There is a strong likelyhood that the war will soon come to an end.

       ⑳  *工here is a good likeness that Ellen is an angeL

したがって,すくなくともこれらの資料を観察するかぎり, like は命題を項としてとると断定する

(7)

直喩の意味構造①

一33一

ことはできない。しかし,㈲におけるふたつの名詞類一 Ellen a1ユangel 一をtlike がいかなる関係 で連結しているかは,依然としてさだかではない。直喩構造自身のなかに・格に関する十分なてがか

りがみいだせない以上,他の言語現象にも目をくばる必要がある。

6 所格表現と直喩表現

所格蓑現(locative expression)は,主語を他の表現のたすけなしに陳述できるという機能をもつ

という点で,他の副詞類(ad▽erbial)とことなる27)。

⑳ They were in the attic.

⑳ They played the violine in the attic.

㈱においては,所格表現 in the attic は,連結詞とともに,陳述的な機能をはたしている。一方,

㈱における所格表現 ih the attic,は,統語的に削除可能な修飾語一付加語(adjunct)一として機能し

ている。

 この所格表現の特質は,まさに,本論の考察の対象である直喩と軌を一一にする。

色勾 The eagle is like a thunderbolし 偉㊧ The eagle faIIs like a thunderbolt・

かりに,「 like +名詞類」を直喩表現(similar expression)とよぶことにすると,㈲における直喩 Se現  like a thumderbolt は,連結詞とともに,主語の the eagle を陳述している。一方,鱒にお

ける直喩表現 like a thumderbolt は,統語的に削除可能であり,図における in the attic とおなじ

く,付加語とみなすことQSできる。

 所格表現と直喩表現とが,このように,きわめて類似した表現形式をとりうるというのは偶然では ない。なぜなら,日常生活において,ある指示物の所在および様相は,特に関心をそそられることだ からである28)。・したがって,(a)様相をぬきにして所在をたずねる場合の質問形式一㈱,⑤所在をぬき にして様相をたずねる場合の質問形式一㈱は,ともに,自然な疑問文なのである。

㈱Where is X?

㈱What is X like?

 では,所格表現と直喩表現とは,一方は,主語の位置にあらわれた指示表現(referring expression)

に対応する指示物の所在を規定し,もう一方は,指示物の様相を規定するという点をのぞけば,まっ たくおなじ性質のものかというと,そうではないようにおもわれる。すなわち,それらのちがいは,

統語的なものよりも意味的なものであるとかんがえられる。

 第一の相違点は, (所在をあらわす表現形式 in が,意味構造においては述語であると仮定する

と) in と like は,それぞれ,意味構造においてしたがえる項の数がことなるというこ・とである20)。

(8)

一34一

県立新潟女子短期大学研究紀要 纂18集 Z981

Lakoff(1970)は,㈲の文が白¢の塞底構造(underlying structure)から派生するとかんがえたヨo)。(説

開の都合上,㈹の藩底構造は若干の変更をくわえてある。)

㈱ Goldwater won in the west.

⑩ 〔〔〔Goldwater won〕s〕me〔〔took place in〕v〔the West〕副w〕s

このことは,所在をあらわす述語が,2項述語(2−P工ace predicateもしくはdyadic predicate)とみ なされていることをしめしている。一方,のちほど考察するように, (非両立性を含意しつつ)様相 をあらわす表現形式 like は,意味構造において,単項述語(1−Place predicateもしくはmonadic predicate)とみなした方がよいようにおもわれる。

 第二の相違点は,所格表現のまえにあらわれうる連結詞 be と,直喩表現のまえにあらわれうる 述結詞 be とは,機能がことなるということである。すなわち,㈲の場合の連結詞の機能は対等的

(equative)であるのに対し,㈲の場合の連結詞の機能は帰属的(ascriptive)である,とかんがえられ る31)。これらの相違については,次節でのぺる。

7 連酵携文の意味構造

 X islikeYという直喩の意味構造をかんがえるには, XisYという形式をもつ構文の意味構造 が,てがかりになるとおもわれる。連結詞をふくむ構支を,ここでは連辞構文(copulative structure)

とよぶ。ところで,従来さまざまの角度から何度も指摘されているように,すべての連辞構文を一律 にあつかうことはできない。そもそも,連結詞自身が,意味構造に存在しているかどうかもさだかで はない32)。1たとえば,池上(1975)は,連結詞という語彙索(lexeme)に対応する意義素(sememe)

がないとして,連結詞は,ゼロからの実現(empty realization)の一例だとしている33)。

 Lyons(1977)は,連辞構文(X i$Y)がつぎの2点によって,対等的な文と帰属的な文とに「統語

的」に区別されると指摘する34)。

㈲ (a)対等的な文におけるYの位置の蓑現類は,帰属的な文におけるYの位置の蓑     現類と,同延(coextensive)ではない。

  ⑤ XとYは,対等的な文においては,自由に交換可能だが,帰属的な文におい     ては,そうではない。

(31a)について敷術すると,対等的な文におけるYの位置の蓑現類は,個有名詞,代名詞,定名詞 句(definite noun−phrase)のいずれかで,形容詞がくることはない。一方,帰属的な文におけるYの 位置の表現類は,名詞か形容詞で,代名詞や個有名詞ではない。       、  一方,対等的な文と帰属的な文との「意味的」な相違は,つぎのようなものである。

㈱ (a)対等的な文の構造は,ある表現(X)に対応する指示物と,他の表現(Y)

    に対応する指示物とを同一視することにある。

(9)

直喩の意味購造①

一35一

⑤ 帰属的な文の構造では,ある表現(X)に対応する指示物を,ある属性(Y)

  に帰する機能がある35)。

 たとえば,㈹において, the Moming Star the Evening Star とは,おなじ内包的意味(con−

notative  meaning)をもつが,ことなる外延的意味(denotative meaning)をもつ36)。この場合の連 結詞の機能は対等的である。一方,的において主張されているのは・ Johl1 が{foo「のクラxのひと つのメソバーであるということである。この場合の連結詞の機能は帰属的である。

㈹ The Morning Star is the Evening Star.

㈱John is a fool.

 以上のことをふまえると,劔には鱒,㈱には鱒,のような意味構造が対応するとかんがえられる。

(大文字は,それが意味要素(semantic element)であり,音形をともなった語彙項目(lexical item)

ではないことをしめす。なお,以下にしめした意味構造においては,存在数量子(existential quan・

tifier)もしくはそれに類するものを考慮にいれていない。)

㈹ 〔IDENT王CAL xy〕&〔MORNING STAR x〕d&〔EVEN互NG STAR y〕d

的  〔FOOL x〕&〔JOHN x〕c

 うえにしめした意味構造において,〔predicateα〕dは,述語の外延的意味において成立する命題 をあらわし,〔predicateβ〕σは,述語の内包的意味において成立する命題をあらわす。個有名詞一こ こでは・John・一一は,意味構造において,つねに,内包的意味をもつものと仮定する。ここで注意すべ きことは,意味構造において,接続詞&(AND)で連結された命題は・たがいにひとしい性格を有す るものではない,ということである。たとえば, (35)は,紛にしめすように,みっつの命題から成

立している。

       劒 (a) 〔互DENTICAL xy〕

         (b)〔MORNING STAR x〕d

         (c) 〔EVENING S lrAR y〕d−

(37a)は,項と項との関係をあらわしており,このことによって述語IDENTICALの性格づけを している。 (勿論,意味溝造における述語と項とは無順序であるという仮定にしたがえば・項の格に 関する情報を(37a)のなかにくみこまねばならない。)(37 b)および(37 c)は・ the Morning Star および the Evening Star という表現形式に対応する外延的意味をあらわしている。すなわ

ち,(37a)は,項と述語の関係を規制するという意味で,対内的(inward−100king)であるのに対 し,(37b)と(37 c)は,項と現実世界との関係を規制するという意味で・対外的(outward」100king)

である,ということができよう37)。

 以上の意昧構造が妥当なものとすれば,つぎのようなことが帰結される。

(10)

一36−・ 県立新潟女子短期大学研究紀要 第18集 1981

㈹(a)

  (b)

  (c)

  (d)

対等的連結詞は2項述語である38)。

帰属的連結詞は意味構造に存在しない。

対等的連結詞をふくむ文は,ふたつの対外的命題を意味構造にもつ。

帰属的連結詞をふくむ文は,ひとつの対外的命題を意味講造にもつ。

 対等的連結詞と帰属酌連結詞とを意味構造で区洌することは,これらの用法に別種の連結詞をあて る言語があることからみても,根拠のあることである。なお,対等的連結詞 be に対応する2項述 語IDENTICALは,内包曲意味においてではなく,外延的意味においてのみ,ふたつの項を同一一視 する機能をもつ,とかんがえられる。なぜなら,㈲は,同語反復(tautology)でないからである。対 内的命題における外延的意味と内包的意味の区分が,不必要であるのはいうまでもない。

1)澤薦久敬編『世界の名箸・ベルクソン』 (中央公論拙1969)p. 65、

2) 対象言語とメダ言語とは相互的(correlative)な闘係にある。メタ言語は自然言語(natural Ianguage)の場  合もあるが,一般には,人工的に定式化された記号体系をさす。本稿では,メタ言語によって言及される対象  言語の語彙項目を引用符(tt)によってかこむことにする。 c£ John Lyons: Semantics Vol.1(Cambridge U. P,

 197?)PP.10−1 L

3)澤潟久敬『ベルグソソの科学論』 (申央公論社,1979)p. 33.

4) 澤儒久敬編r世罪の名著・ベルクソン』 (申央公論袖1969)P、67.

5)安井稔二ri新しい聞き手の文法』(大修館, Z978)p.16.

6) 澤潟久敬rベルクソソの科学論』 (中央公論祐1979)P. 34.

?)藪田幾多郎『善の硯究』(岩波書店,1950)p. 67.なお,岡潔は,「数学といえども感情の同調なしには成

 立しえない」と,職潔・小林秀雄『人問の建設』(新潮仇1978)のなかでのべている。

8) しかし,ここに提起する意妹購造が,序の最後にのべた意味で,直観的に肯首できるものであると主張する

 わけではない0

9) 太田 朗・梶田 優r文法論ll』 (大修館,1974)p.王73.

19)村木正武・斎藤興雄r意味論盟 (研究祉1978)p. 281.

9)Robert・St。ckwe!1:・li「・#ndations of Sptntactic Theery(Prentice−Hall.エ977)P.組

12> したがって、一般の記号論理学(5ymLbolic legic)にしたがい 一例文(1)の意味構造をHIT(x, y)とするだけ  では不ナ分である。無順序の意味構造は,xとyの楕(case)に関する情報をふくまねばならない。

13}英言譲こおける線的配列を闘係文法の枠組みで扱ったものとして,たとえば,Takashi Murakami Remarks

 {m L{nearlzation  (forthco血ifi9>がある。

14> ミ琶上嘉彦Ti英詩の文法』(研i究社f 1967)p.97, Stephan Ulmann; 5emantics(Basil Blackwell&Mott Ltd,

 19fi2} P・ 213・       

1多}王漉澱伽寵§二Tle Philos・Pdy of .Rheteric (Oxf。rd U. P.・1936)

1尋>9恥rethy Lambert;Thθ Semaniic Syntax of Metmpltor(Unpublished Ph. D di55ertation. Th巳univ. of Mi−

 chigafii lgs9>

17> L−∫−Cekea an6 A・】Xargal董t・  The Tele ef inductive re且son董ng in the i nterpretatio豆of]【netaphorr in Har一

(11)

直喩の意味構造①

一37一

 m、n a。d David,。・(・d・.)・S・mat:tics of Natural Language.(D・R・id・1 P・bli・hi・g C。匝P・ny・1972)PP・・772−?40・

18) これらの日本語訳は,安井 稔『言外の意味』 (研究社,1978)による。

1g)おなじ趣旨の図表は,池上嘉彦『英詩の文法』 (研究社,1967)p. 99にもみられる。

20)すなわち,tas・とtas・とのあいだには,あの種の統語範躊に属する構成素がこなくてはならない。 as〜as  は,不連続構成素(discontinuous c。nstituent)とみなすことができよう。

21) O. Thomas:llfataPhor aftd Related Siebiects(Random House,1969)田中春美・高木道信訳r比喩の研究一  言語と文学の接点』(英潮社』1977)

22)伝統文法では, like には,前置詞,・接続詞,副詞などの品詞名があたえられている。

23)意義素に関しては,池上嘉彦『意味論』(大修館, 1975〕,国広哲也『講造的意味論』(三省堂,1967)な  どを参照。

24)R。bert P. St。・kw・11・F・・幽泌・∫鋼・・傭勤吻(P・entice・H・ll・・1・…1977)P・6麟接詞(・dp°siti°n)

 には、前置詞(preposition)と後置詞(postposition)がふくまれる。

25)G,。,g。 L Dill。n, P・trodnctian to CentemPorary Linguistic Semantics(P・・nti・e−H・1・・1・c・・1977)P・ 69・

26)村木正武・斎藤興雄『意味論』 (研究社,1978)p.281.

27) John Lyons:Semantics Vol. 2(Cambrldge U. P,1977)p.473.

28) John Lyons:Seinantics Vol・2(Ca皿bridge U・P・1977)P・473・

29)・i。・のような前翻を述語とみなすかんがえかたは,たとえばA・・L・・Becke・and・D・・G・A・m・ P・ep。siti°ns

 as Predicates,  CLS 5.196g PP.1一工1などにみられる。

3。)G,。,g, Lak。ff・・P,。。。mi。・li・ati。・, N・9・ti。nt and・th・A・aly・i・。fAd・erb・・ i・R・A・Jac。b・ and P・S・

R。,巳nb、皿(,d,.)、 R,adi。gs in E・iglisit T ransformationat Grammar(Gi・・and C。mp・ny・197⑪)P恥145−165・

3、〉所格表現に先行する連結詞を対等白勺とかん猷る点}・ついては,J。h・L・。・・1 S・mantics V。1・2(Camb「idge  U.P.1977)P.475参照0

32)関連する徹として,たとえば,N。am・Ch。m・kylム・鱗のゐ・伽η・f・S・,・tax (MエT P・es・,1965)3恥

 m。。Bach、・IHav。、and、b, i。 E。gli,h Sy・t・X,・L・nguage, 43, pp・ 462−tl85; Ge。・g・L・k・ff・ lrregt 」嫡 滴 嬬

 (Holt, Rinehaエt and Winston,1970)

33)池上嘉彦r意味論』 (大修館,1975)P・15・

34) John、 Lyons:Semantics Vol. 2(Ca皿bridge U・P・1977)P・471・

35)ここでのべられた服的連結詞と騰的連続詞とは,締的に穂哨・的にも櫛 分布(C°mplementa「y

 distribution)の関係にあるわけではない。      1

36)内包臆味は.,f。,,n、,と,艇1臆味は・e・・eとかねあうところ猷である・たと燃G・・ff「ey Mεech:

 Semantics (Penguin,1974),毛利可信r英語の語用論』 (大修館,1980)参照。

37)Cf.・R。b,rt・P.・St。、kw・111 F・…ゴ伽…fSy・tactic Tlteory (P・enti・e−H・11・1977)P・ 60・

38)このことは,(。)所格表現醐等的である,くb)位置をあ励す髄言司は頭述語である・というこれまでの論   述に調和する。

       (19呂1年1月19日受理)

参照

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