茨城大学教育学部紀要(教育科学)46号(1997)105−115
最大下の踏台昇降運動による最大酸素摂取量の推定・
松 坂 晃**・田 中 茂 穂**・巽 申 直**・服 部 恒 明**
(1996年10月14日受理)
o
dstimation of maximal oxygen uptake from submaximal step exerclse
Aki,a MATsu、A鮎**, Shig・h・TANA齢**, N・bun・・TATsuMI**,・nd K・m・i HAπ・R【**
(Received Octobeτ14,1996)
Abstract
Maximal oxygen uptake was measufed directly by step exercise in 41 men and 57 women aged 18−28 years. A蓋so estimated values were obtained from heart rate at
,ubm。xim・1・t・p・x・・ci・e by・・i・g・f m・difi・d A・t・and−Rhymi・g,1・hii・・nd M・・g・・i・
methods. Step exercise was performed on a lO to 50 cm height bench, which rhythm was
・eg・1・t・d・t 30・t・p・p・・mi・・t・with・m・t・・n・m・・C・・re1・ti・n c・・ffi・i・nt・we「e obtained between directly measured maximal oxygen uptake and estimated values from
入、t・and−Rhymi・g(・・0.675 f・・m・1・,・・0.481 f・・f・m・1・),1・hii(0・425・0・072)・・nd M・・g・・i・m・th・d・(0.665,0.552), wh・n・・bm・xim・1・xyg・n upt・k・w・・p・edi・t・d f・°m
work load. These correlations were improved when it was directly determined. These,e、ults sug9・・t th・t th・v・・i・ti・n・・f w・・k l・・d・・m・ch・nica1・ffi・i・ncy i…bm・x童m・1
・t・p・x・・ci・e・f・am・h・ight b・nch・mplify the err・・f・・e・tim・ti・n・f m・xim・1・xygen
・pt・k・,・nd th・t th・p・・t…1・f this st・dy f・・th・i・di・ect d・t・・mi・・ti・n・f m・xima1
・xyg・n upt・k・is s・it・bl・f・・epid・mi・1・gi・・t・di…ath・・th・n f・・ev・1・・ti・n・f i・di一
vidual aerobic work capacity.はじめに
有酸素性作業能の指標として,最大酸素摂取量が広く使われている。これを直接測定するには装 置の整った実験室が必要で,被検者には苦痛や危険を伴うことがあり,集団テストに向いていない
(McArdleら1986)。このため最大酸素摂取量を推定する様々な間接法が考案されている。それらは
*本研究は,平成7年度教育研究学内特別経費「健康・スポーツ科目の改善をねらいとした有酸素能評価システ ムの確立」(代表・服部恒明)の助成を受けた。
**茨城大学教育学部保健体育講座(〒310水戸市文京2−1−1;Department of Health and Physical Educa一
tion, Faculty of Education, Ibaraki University, Mito,310 Japan).
Cooperたち(1968)の12分間走のようにperformanceから推定するものと, AstrandとRyhmingのノモ グラム(1954)のように,最大下運動時の心拍数から推定するものとに大別することができる。一般 に前者の方が,直接法との相関が高いけれども(Burke 1976, Montoyeたち1986, Zwirenたち1991),
疲労困慧に至る点では直接法に近く,間接法のメリットが半減される。後者は,最大下運動時の心 拍数と酸素摂取量の関係式に,予想される最高心拍数を外挿して最大酸素摂取量を推定するもので
ある。運動負荷には,自転車エルゴメーターや(AstrandとRyhming 1954, Astrand 1960),走運動(石 井1973),踏台昇降運動(Margariaたち1965)などが用いられている。なかでも踏台昇降運動は,①運 搬に便利で場所をとらず,②安価で手に入れやすく,③calibrationが不要で,④特別な運動技術を必要とせず,⑤どのような集団にも適用可能で,⑥しかもエネルギー消費量が体重の垂直移動量に比
例するなどの特徴を有する(Margariaら1965)。最大下の踏台昇降運動から最大酸素摂取量を推定する方法には,AstrandとRyhmingのノモグラム
(1954)をはじめ,Margariaたち(1965)の方法, McArdleたち(1972)の方法などがある。しかし,これ らの研究では踏台の高さ(以下,台高)や昇降回数(回/分)が限定されていたり,日本人を対象とした 研究(石井1973,日野1984,竹島ら1992,大倉1995)が少ないなどの問題があり,あまり普及してい
ない。そこで本研究では,日本人を対象として,最大下の踏台昇降運動から,最大酸素摂取量を推
定する方法について検討した。研究方法
1被検者
被検者は18〜28歳の健康な学生,男子41名,女子57名であり,この中で男子5名,女子3名が定期
的なトレーニングを実施していた。平均年齢は男子19.7±2.3歳(平均値±標準偏差),女子19.5±0.7歳,身長は男子171.6±5.9cm,女子158.7±5.7cm,体重は男子64.5±9.6kg,女子52,6±6.1kgで あった。
2 運動負荷法および酸素摂取量測定法 高さ10cmから50cmの踏台を作成して,運
動を負荷した。昇降回数はメトロノームを使って,30回/分にあわせた。4分毎3段階の最大 step exerdse(30 steps/m切
下運動(計12分間)を負荷し,続いて2分毎に台 wo「k 1°ad exhausti°n 高または昇降回数をexhaustionまで漸増した
(図1)。運動開始からexhaustionまで,心拍数 と酸素摂取量を連続して測定した。酸素摂取 量の測定には,ミナト医科学製のエアロモニ
ターAE−280を使用した。呼気ガス分析器は
標準ガスで較正し,流量トランスジューサー0 4 8 12 16 min
は24のシリンジを使って較正した。また,と
きどきダグラスバッグに呼気を採集し,ダグ Fig.1. Exercise protocol in this study.
松坂ほか1最大下の踏台昇降運動による最大酸素摂取量の推定 107
ラスバッグ法とエアロモニターの値を比較し,両者に差のないことを確認した。exhaustionの判定基 準には,①1evelling off≦2ml/kg/分,②呼吸交換率R≧1.1,③最高心拍数≧(220一年齢)xO.9の3 条件のうちふたつ以上を満たすこととした(Howley 1995)。本研究の被検者は,この判定基準を満た す者であり,判定基準を満たさなかった6名はすでに除外してある。
3最大酸素摂取量の推定
最大酸素摂取量の推定には,AstrandとRyhming(1954), Margariaたち(1965),石井(1973)のそれ それの方法に,修正を加えて利用した(以下,Astrand法, Margaria法,石井法と略)。運動時間は,
Astrand法で6分間,石井法で5分間, Margaria法で5分間とされている。また, Astrand法と石井法で は単一の固定負荷,Margaria法では2段階の負荷が用いられている。さらに心拍数が, Astrand法では 125〜170拍/分,Margaria法では100〜150拍/分の範囲にあることとされているが,被検者の体力水準
に見合った負荷設定をしないと,心拍数がこれらの範囲に入らないことがある。本研究では4分毎3
段階の漸増負荷とし,Astrand法および石井法では125〜170拍/分, Margaria法では100〜170拍/分の 範囲で,できるだけ軽度負荷時のデータを採用することにした。Margaτia法で上限を150拍/分から170 拍/分に変えたのは,Astrand法で170拍/分までのデータを利用していることと,150拍/分では低すぎ て2段階のデータが得られないことがあるためである。Astrand法とMargaria法では,最大下運動時の酸素摂取量を,仕事率から推定することもできるよ
うに作られている。ただし,Astrand法では,男子40 cm,女子33 cmの踏台で,昇降回数が22.5回/分のときに限られる。また,石井法では踏台昇降の仕事率から,最大下の酸素摂取量を推定すること はできない。そこで本研究では,結果の項で後述する最大下運動時の仕事率と酸素摂取量の回帰式 を作成して,酸素摂取量を推定することにした。ここでは仕事率を以下のように表した。また酸素
摂取量は最大下運動時の各段階3〜4分目の値で,心拍数が125〜170拍/分のときのデータを採用した。仕事率(kgm/分)二体重(kg)×台高(m)×昇降回数(回/分)
最大酸素摂取量の推定には,Astrand法と石井法では,それぞれのノモグラムを利用した。また,
Margaria法では以下の式を使用した。このとき最高心拍数を200拍/分と仮定した。また,最高心拍数 の年齢補正表(Astrand 1960)は使わなかった。
. fmax(寸 02−† 02)十f ウ 02−f † 02 Vo2max=
@ f −f
ただし,「ウ02m欲二最大酸素摂取量, fmax=最高心拍数, f=心拍数,ウ02二酸素摂取量, =第1負荷,
・第2負荷
4統計処理
最大酸素摂取量推定法の妥当性を検討するため,推定法による値と直接法による値のPearsonの相 関係数を求めた。また,直接法の値を独立変数とし,推定法の値を従属変数とする直線回帰式を求
め,以下の式により推定の標準誤差(standard error of estimate,以下SEE)を求めた。さらに誤差率(%Error)を以下のように定義した。統計計算にはStatView v4.5を用いた。また, p<0.05を有意とした。
Σ(Y−?)2 rEE=
n−2
%E・r…{(齪値の平均値一実測値の平均値)/実測値の平均値}×1・・
研究結果
表1には,直接法による最大換気量(ウEmax),最大酸素摂取量(ウ02m砥),呼吸交換率(R),最高心 拍数(HRmax)などの平均値と標準偏差が示されている。体重当たり最大酸素摂取量(ウ02曜/bw)の 平均値と標準偏差は,男子で46.6±5.Om1/kg/分,女子で38.1±4.1m1/kg/分であり,最高心拍数
は,男子で193.9±9.0拍/分,女子で190.6±6.6拍/分であった。最高心拍数を従属変数とし,年齢,
身長,体重,最大酸素摂取量を独立変数とする回帰分析を試みたが,男女とも相関係数は低かった
(男子r=0.172,女子r=0.136)。
Table 1. Means and standard deviations of exhaustion time(ET), pulmonary ventilation(ウEmax), oxygen uptak(ウ02m旗), hear甘ate(HRmax),
and respimtory exchange ratio(R)in maximal step exercise.
ET ウEmax 「ウ02max R HRmax ウ02max!bw
(min) (蓋!min) (11min) (bpm) (m1!kglmin)
male 13.5 102。2 2.98 1.14 193.9 466
(N=41) L6 20。5 0。40 0.04 9,0 5』
female 14.3 73.9 2のO l.17 190.6 38.1
(n=57) 1.6 11.5 0.29 0。07 66 41
図2には,最大下運動時の仕事率と酸素摂取量の関係が示されている。男子と女子は同一直線上に あるものとみなし,男女をまとめて計算した。相関係数はFO.952, SEEは143 m1/分であった。以 下に示す直線回帰式が得られ,これを最大下運動時の酸素摂取量推定に利用した。
†=3.139X+352
酸素摂取量を従属変数とし,身長,体重,台高を独立変数とする重回帰式を検討したが,相関係数
は0.959, SEEは134 ml/分であり,大きな改善はみられなかった。
3500
● ●
o Female
怐@Male鉛0 1000 諮 r=0.952
500
100 200 300 400 500 600 700 800 Work load(kgm/min)
Fig.2. Relationship between work load and oxygen uptake in submaximal step exercise.
松坂ほか :最大下の踏台昇降運動による最大酸素摂取量の推定 109
100
90
■
ま80
●
)詣70
W60・〉ま 50 40
oo
@ . 謬゜ ●欝 一 oFemalc
怐@Male
30
80 100 120 140 160 180 200 220 HR(bpm)
Fig.3. Relationship between heart rate and%of maximal oxygen uptake in submaximal and near maximal step exercise.
図3には,最大下運動時の心拍数と酸素摂取水準(%ウ02職)の関係が示されている。心拍数と%ウ02m砥 の直線性を検討するため,心拍数の範囲を125〜170拍/分と限定せず,最大下運動時に得られたすべ てのデータをプロットした。男女をまとめて表すと,相関係数は0.926,SEEは6.3%,回帰式は,
†=0.615X−26.1
であった。図では最大値付近でも直線性が保たれているように見えるが,回帰式に100%寸02m脳を代 入して,心拍数を逆算してみると205拍/分となり,これは実測された最高心拍数,男子193.9拍/分,
女子190.6拍/分よりも高い。このことは,最大値付近では,心拍数の増加分に対して,酸素摂取量 の増加分が大きくなることを示唆するものと思われる。
表2には,各々の踏台における心拍数,酸素摂取量,%ウ02m巫などの平均値と標準偏差が示されてい
る。男子の10cmと女子の40 cmの踏台の値は,例数が少なかったので除外した。女子の10cmの踏台
では,心拍数が120.1±11.1拍/分であり,最大酸素摂取量の推定に利用される下限の心拍数125拍/分 よりも低かった。一方,男子40cmでは181.8±9.0拍/分,女子30cmでは177.0±9.3拍/分で,上限の 170拍/分を超えていた。体重当たり酸素摂取量は,17.1〜42.9ml/kg/分であり,標準偏差は±1.4〜Table 2. Means and standard deviations of heart rate, oxygen uptake(ウ02),
oxygen uptake per body weight Cウ02/bw), and%of maximal oxygen
uptake(%・ウ02拠ax)in each height of step.
Heart rate ウ02 ウ02/bw %†02maxStep height (bpm) (ml/min) (ml/kg/min) (%)
(cm)
n mean SD mean SD mean SD mean SD male
20 41 132.8 12.8 1650 280 25.6 2.1 55.4 5.8 30 41 164.0 13.6 2209 379 34.2 2.7 74る1 8.0 40 28 181.8 9.0 2717 380 42.9 3.1 88.5 6,3
female
10 55 120.1 11.1 900 109 17.1 1.4 455 5.2
20 57 151.6 13.3 1310 169 24.9 1.6 66.0 7.4
30 54 1770 9.3 1724 213 32.6 1.7 85.3 69
3.1ml/kg/分,変動係数(標準偏差/平均値)は5.2〜8.2%であった。また,図4には,各々の踏台での 心拍数と,最大酸素摂取量の相関関係が示されている。相関係数は0.409から0,509であり,いずれ
も有意だった。SEEは男子の20 cm,30 cm,40 cmでそれぞれ4.7,4.4,4. O ml/kg/分,女子の10cm,
20cm,30 cmでそれぞれ3,8,3.5,3.4ml/kg/分であった。
表3と表4には,最大酸素摂取量の実測値と推定値を比較した結果が示されている。最大下運動時
の酸素摂取量を,本研究の仕事率一酸素摂取量回帰式を使って計算した場合(A法)と,直接測定し た場合(B法)に分けて表されている。実測値と推定値の間の差が小さかったのはMargaria法で,とく にB法では男女とも平均値に有意差が認められなかった。石井法は,−9.4〜−21.6%のunderestimateの 傾向を示し,Astrand法では,女子に適用したとき12.9〜15.4%, overestimateした。 B法は, A法に比べ て相関係数が高く,SEEも小さい傾向を示した。最も相関係数が高かったのは, Margaria法にB法を 組合わせたときであり, 男子でr・0.834, 女子でr=0.776であった。60 ● 60
female 10cm r=0.435
55
・.蒐・
55ミ・・ ● ●
@●●
ミ5・
謹45尉840
●・
戟怐@ ●D、δ ゜
善45創940 ●σ●●
虚ヌく・ ■
35
male 20cm r=0.409
35 ゜・°30 30
@80
100 120 140 160 180 200 220 80 100 120 140 160 180 200 220
HR HR
60
● 60
55 ●●○● 55
female 20cm r=0.509
章5・ ●●
怐@ ○
ミ5・
謹458・>40 ● ● ●●、 ●
D8脚
歪458・>40 ●●∂● ●●も●も 璽゜● ●
35
male 30cm r翼0。509
35 愉の」苧30 30
80 100 120 140 160 180 200 220 80 100 120 140 160 180 200 220
HR HR
60 ● 60
55 ・ 55 female 30cm r=0.468
き5・
● ●@ ●
ミ5・
謹、5
● ●.∂● 謹45㍉・・
8・>40 亀・ N940
.°
E 轟・ ●浴ン35
male 40cm r=0.480
35 ●●@伽べ30 30
80 100 120 140 160 180 200 220 80 100 120 140 160 180 200 220 HR HR
Fig.4. Relationships between directly measured maximal oxygen uptake per body weight
(ml/kg/min)and submaximal heart rate(bpm)in each height of step.
松坂ほか:最大下の踏台昇降運動による最大酸素摂取量の推定 111
Table 3. Means and standard deviations of predicted and directly measured maximal oxygen uptakes.
A B
n measured predicted %Error n measured predicted %Error Astrand−Ryhming
male 41 2982 2852 −4.4* 41 2982 2979 −0.1
395 469 395 560
female 53 2036 2349 15.4* 54 2032 2294 12.9*
271 386 270 329 Ishii
ma董e 37 3003 2355 −21.6* 33 3079 2552 −17.1*
403 415 315 443
female 31 2155 1953 −9.4* 24 2221 1932 −13。0*
256 149 206 104 Margaria et a1.
male 31 2996 3025 1.0 31 2996 2923 −2。4
421 434 421 519
female 51 2037 2182 7.1* 51 2037 1989 −2.4
278 328 278 278
・ ●
̀:submaxlmal yo2 were estimated from work load−Vo2 relation in the present study・B:submaxlmal V o2 were directly measured. ●*:differences between predicted and measured V O2m継were significant.
Table 4. Correlation coefficients(r)and standard errors of estimate
(SEE)between predicted and directly measured maxima1 ox en u takes.
A B n r SEE n r SEE oAstrand−Ryhming
male 41 0.675 350 41 0.816 328 female 53 0.481 341 54 0.702 236
Ishii
male 37 0.425 381 33 0.703 320 female 31 0.072 152 24 0.424 96
Margaria et a1.
male 31 0.665 330 31 0.834 291 female 51 0552 277 51 0.776 177
■ ●
̀:submaximal Vo2 were estimated from work Ioad−Vo2 relation in the present study.
●
a:submaximal V o2 were directly measured.
考察
本研究の最大酸素摂取量は,踏台昇降運動により測定されたものである。exhaustionに追い込むた
めに台高や昇降回数を漸増したが,台上で膝や腰が充分に伸展されず,仕事率が増加しないことも
考えられる。判定基準を満たさなかった被検者は除外されているが,判定基準を満たしたとしても,仕事率が増加しないことによる見かけ上の1evel offの可能性もある。本研究の体重当り最大酸素摂取 量は,男子が46.6m1/kg/分,女子が38.1ml/kg/分であり,これを同年代の日本人の値と比較してみ
たい。トレッドミルで測定されたものでは,Ikaiたち(1970)が男子49. l m1/kg/分,女子36.6ml/kg
/分,Matsuiたち(1972)が男子50.02 m1/kg/分,女子39.62m1/kg/分,小林(1982)が男子42.7m1/kg
/分,女子33.7m1/kg/分と報告している。また,自転車エルゴメーターでは,北川と猪飼(1972)が 男子42.8m1/kg/分,女子35. O ml/kg/分としている。最大酸素摂取量は運動様式によって異なり,ト
レッドミルの値に対して,自転車エルゴメーターでは82.0〜97.0%,踏台昇降運動では94.1〜96.
6%とされている(山地1992)。運動様式の違いを考慮すれば,本研究の値はこれまでの報告値に近く,
呼吸交換率や最高心拍数の平均値(表1)も考え合わせると,最大酸素摂取量が得られたものとみなし てよいと思われる。
踏台昇降運動には前述したような利点があり,フィールドテストにもっとも適している。最大酸 素摂取量の推定に使われる以前から,ハーバート・ステップ・テストとして用いられており,原法
は20インチ(50.8cm)の台に,30回/分のペースで5分間昇降するものである(Brouha 1943)。国内で は,男子40cm,女子35 cm,30回/分,3分間に修正され,文部省体力・運動能力テストとして実施さ れている(文部省1994)。これらのテストでは,運動後数分間の脈拍数から指数が求められ,持久力 の指標とされる。しかし,この指数と最大酸素摂取量の相関係数はそれほど高くなく(Burke 1976,生山たち1972,小林1982),子どもを対象とした研究では,有意な相関関係が得られないことが多
い(石河たち1974,松井たち1974)。子どもは運動後の心拍数の回復が速く,このことが,踏台昇降 テストの指数と最大酸素摂取量が相関しない原因のひとつと考えられている(石河1974)。また,触 診法の誤差も指摘されている(阿久津と渡辺1974,GreerとKatch l982)。多人数を扱う集団テストでも,運動後に触診法で心拍数を測るよりも,運動中に機器を用いて測定する方が望ましいと思わ
れる。
最大酸素摂取量推定の基本的考え方は,最大下運動時に得られた心拍数と酸素摂取量の直線回帰 式に,最高心拍数を外挿して,最大酸素摂取量を求めるものである。この方法が成り立つには,① 心拍数一酸素摂取量関係の直線性,②最高心拍数の予測,③機械的効率の個人差,④心拍数の日差
変動などが問題となる(AstrandとRodahl l 986)。推定法のtest−retestによる再現性は, F O.863(Greiweたち1995),およびr;0.92(Ha血ngたち1995)の報告があり,心拍数の日差変動は小さ いことを示唆するものと思われる。心拍数一酸素摂取量関係については,最大値付近で直線性がく o
クれ,心拍数の増加分に対して酸素摂取量の増加分が大きくなるとの指摘があり(AstrandとRodahl
1986),本研究でも,同様の傾向が観察された。このことは,最大酸素摂取量をunderestimateするこ とにつながる。最高心拍数については,加齢にともなう低下が問題となり,Astrand(1960)は年齢補 正表を作成している。しかし,本研究の被検者は20歳前後で,Astrandの年齢補正表でも係数は1.00とされているので,この補正はしなかった。ただし,それぞれの原法の最高心拍数は,Astrand法で 195拍/分,石井法で187。3拍/分,Margaria法で200拍/分であるのに対し,本研究で実測された最高心 拍数は,男子が193.9拍/分,女子が190.6拍/分であった。これらの差は,最大酸素摂取量推定に際 し,Astrand法とMargaria法でoverestimate,石井法でunderestimateすることになる。また,最高心拍 数については個人差も問題となる。本研究では,最高心拍数の変動係数が,男子4.6%,女子3.5%で
あった。これらは最大酸素摂取量の実測値と推定値の相関係数を低くし,SEEを大きくすると考え
られる。最高心拍数と年齢,身長,体重,最大酸素摂取量の重回帰式を検討したが,相関係数は低
く(男子0.172,女子0,136),最高心拍数の予想は難しいと思われる。松坂ほか:最大下の踏台昇降運動による最大酸素摂取量の推定 113
つぎに,最大下運動時の酸素摂取量について検討したい。本研究では,仕事率(kgm/分)と酸素摂 取量(ml/分)の回帰式を作成し,最大酸素摂取量推定の際に利用した。 Nagleたち(1965)は,踏台昇 降運動時の酸素摂取量を,安静分,水平移動分,正の垂直移動分,負の垂直移動分から成ると考え,
次のような式を示している(昇降回数30回/分のとき)。
酸素摂取量(ml/kg/分)=4.0+1.33×(8.5−4.0)+2.4×30×台高(m)
また,ACSM(1993)では,次のように表わしている。
酸素摂取量(m1/kg/分)・3.5+0.35×昇降回数(回/分)
+1.8×台高(m)×昇降回数(回/分)×1.33
さらに,Margariaたち(1965)は, RovellとAghemo(1963)の研究をもとに,台高と昇降回数から酸素 摂取量を求めるノモグラムを作成している。それぞれの酸素摂取量を比較してみると,たとえば,体 重60kg,台高30 cm,昇降回数30回/分では,本研究の2047 ml/分に対して, Nagleたち1895 ml/分,
ACSM 2133ml/分, Margariaたち1830ml/分となる。これらの差異の原因はわからないが,体格の
影響なども考えられるので,本研究ではこれらの報告されている方法を使わずに,本研究で得た回 帰式を使うことにした。実際のフィールドテストでは,最大下の酸素摂取量を測定できないことが
多いので,このような回帰式が使えれば便利である。しかしながら,仕事率から酸素摂取量を推定するときには,機械的効率の個人差にも注意しなけ ればならない。同じ高さの踏台では,体重当たりの仕事率が同じになり,体重当たり酸素摂取量の
バラツキも小さいはずである。しかし,各台高の体重当たり酸素摂取量には,±1.4〜3.lml/kg/分 の標準偏差があり,変動係数は5.2〜8.2%であった。機械的効率に個人差があることを示唆するものと思われるが,それ以前に,踏台上で膝や腰が伸展されないことによる,仕事率自体の差かもしれ ない。いずれにしても,最大下運動時の酸素摂取量の推定誤差は,最大酸素摂取量推定の大きな誤
差要因になるとされている(Thomasたち1993)。これらの問題も踏まえながら,最大酸素摂取量の推定法と直接法を比較してみたい(表3,表4)。推 定法としては,①両者の平均値に有意差がないこと,②相関係数が高いこと,③SEEが小さいこと,
④誤差率が小さいこと,が望ましい方法といえる。A法とB法を比べてみると, B法の方が相関係数が
高く,SEEも小さかった。このことは,最大下の酸素摂取量を実測した方がよいことを示している
が,フィールドではできないことが多いので,仕事率から酸素摂取量を推定する方法を,さらに改
良することが望まれる。最大酸素摂取量の各推定法を比較してみると,Margaria法とAstrand法は,相関係数やSEEがほぼ同じであった。石井法は,相関係数が低く,underestimateする傾向が認められ
た。もともと石井のノモグラムは,日本人を対象としているが,トレッドミル用に開発されたもの
であり,踏台昇降運動にそのまま適用するには無理があるのかもしれない。これまでに報告されて
いる推定法と直接法の相関係数はr・0.49〜0.92で,SEEは0.30〜0.42〃分くらいである(Greiwe たち1995,Harrisonたち1980, Hartungたち1995,日野1984,大倉1995, Siconolfiたち1982, Siconolfi たち1985,竹島たち1992,Zwirenたち1991)。本研究のA法による, Astrand法およびMargaria法の相 関係数は0.481〜0,675の範囲にあり,やや低いかもしれない。しかし,相関係数は被検者数に依存し,一概に比較できないところがあり,本研究の被検者がほぼ等質集団であることを考えると,必
ずしも低いとはいえない。また,SEEが0.277〜0.350〃分で報告値よりもやや小さいことも考慮す
ると,本研究の方法は,これまでの報告と同程度の推定精度をもつものと考えられる。一方,McArdleたち(1972)は,16.25インチ(41,3cm)の台を使って,22回/分で,3分間踏台昇降さ せ,運動直後の5秒〜20秒の心拍数を測定した。この心拍数と最大酸素摂取量の間にr・−0.75,SEE
・2.9m1/kg/分の結果が得られ,最大酸素摂取量を推定できるとしている。この考え方は,現行の 文部省体力・運動能力テストにも応用できるので,期待される方法である。しかし,本研究では,同 一踏台での心拍数と最大酸素摂取量の相関係数は,McArdleたちの報告ほど高くはなかった(図4)。な お,本研究では,男子40cmの踏台の運動強度は88.5±6.3%,女子30 cmでは85.3±6.9%であり(表
2),文部省体力・運動能力テストの男子40cm,女子35cmは,かなり高いと思われる。
以上の結果から,本研究の4分毎の漸増法による踏台昇降運動は,最大下の酸素摂取量を実測でき れば,高い精度で最大酸素摂取量を推定することが可能であり,とくにexhaustionに追い込むことが できないときには,有効な方法といえる。しかし,最大下の酸素摂取量を測定できない場合には,推
定精度が低下するので,集団の平均値としての利用は可能としても,ひとりひとりの有酸素性作業
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