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行政処分による集団的消費者被害救済

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《論  説》

行政処分による集団的消費者被害救済

――EU消費者保護協力規則(2017年)制定を踏まえて――(一)

宗  田  貴  行

目次

一 問題の所在 1 本稿の目的 2 議論の必要性

3 本稿において検討を行う内容

二 従来の景表法・特商法・消費者契約法違反に係る金銭的被害救済制度の限界 1 景表法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界

2 特商法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界 3 消費者契約法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界

4 小括に代えて――妨害排除請求権による金銭的被害救済の意義 (以上、本号)

三 行政処分による金銭的被害救済の必要性

1 消費者被害の変容による市場経済の前提条件の整備の必要性の増加 2 EU消費者保護協力規則(2004年)・ドイツVSchDGの意義

四 消費者法分野の各法における行政処分の種類・目的・要件・内容 1 景表法上の措置命令の種類・目的・要件・内容

2 特商法上の指示の種類・目的・要件・内容 五 行政処分による金銭的被害救済の妥当性

1 EU消費者保護協力規則(2017年)制定等

2 我が国の景表法及び特商法上の行政処分による金銭的被害救済の妥当性 3 消費者契約法上の不当勧誘及び不当条項についての行政処分の導入の妥当性 六 消費者法分野等の各法における行政処分による金銭的被害救済

1 従来の見解

(2)

2 従来の行政処分による金銭的被害救済の根拠・要件・内容 3 景表法上の措置命令及び特商法上の指示等に基づく返金命令 4 返金命令の実効性の確保

5 返金命令の利点

6 返金命令の限界とその解消の可能性 7 従来の見解の検討

8 電気通信事業法上の措置に基づく返金命令 七 結語

1 法理論上の2つの疑問に対する答え

2 行政処分による金銭的被害救済に係る立法の提案

一 問題の所在

1 本稿の目的

今日の我が国における資本主義経済体制下での事業者と消費者の情報の質・

量や交渉力の格差を背景として、消費者利益を侵害する事業者の行為によって 被害を受けた消費者自らが、その財産的被害を民事訴訟上或いは訴訟外で回復 することには、法的知識や証拠の収集力の欠如、損害・因果関係・損害額等の 立証の困難、被害額と費用との不均衡等に基づき限界がある。このため、この 被害回復方法に係る法制度上の十分な対応が必要である1)

1) 松本恒雄「消費者被害の賠償・返金と不当収益の剥奪――被害救済とコンプライア ンス促進との有機的結合に向けて」鹿野菜穂子・中田邦博・松本克美編『長尾治助 先生追悼論文集 消費者法と民法』法律文化社2013年288頁以下、国民生活センター 総務企画部調査室編『消費者取引分野の違法行為による利益の吐き出し法制に関す る研究――損害賠償、不当利益吐き出し、金銭的制裁の日米比較――』国民生活セ ンター総務企画部調査室2004年1頁以下。

河上正二『約款規制の法理』有斐閣1988年13-16頁は、約款規制の態様として、

自主規制、行政的規制、私法的規制、立法的規制があるとされ、同書執筆時(1980

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たしかに、消費者契約法、特商法、景表法、食品表示法において、適格消費 者団体の差止請求権制度2)が用意されている。しかし、従来の一般的見解によ れば、これによる金銭的被害の救済はできないもの、と解されてきた。このよ うなことから、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の 特例に関する法律(以下、「消費者裁判手続特例法」という)3)が立法されたが、

同法上の手続は、後述するように、諸々の理由から現状では利用しにくいもの となっている。さらに、近時、景表法に導入された課徴金制度において用意さ れた自主的返金による課徴金の減免も、自主的返金に係る手間・費用を主な原 因として、現状では、ほぼ機能していない。また、不当表示の事例における適 格消費者団体による返金の要請は、従来の差止請求権についての一般的理解に

年代後半)において、不当約款に対する最終ブレーキとしては、司法的規制が、重 要な位置を占めているとされる。また、企業側の自主性を尊重しつつ、規制の効果 を取引全体に及ぼす方法としては、行政的規制が、最も適しているとされるが、こ こで行政的規制として念頭に置かれているのは、約款の事前認可制であり、それに 内在する限界があることが指摘されている。河上正二「消費者被害の抑止と民事責任」

消費者法研究4号信山社2017年1-13頁、11頁は、消費者法制において、各規制手 法が、被害回復や予防・拡大防止、市場の適正化などを通じて、消費者の権益保護 のために機能しており、係る措置のいかなる組み合わせが最善であるかという観点 から制度の検討が必要であり、これまで以上に、事業者の市場行動規整にシフトし た議論が必要であるとされ、少なくとも、これまでのように、個別の被害救済とい う観点からのみ、「取締法規の私法上の効力」を議論することは、課題の一面しかと らえていないことになる、と適切にも指摘している。

2) 松本恒雄・上原敏夫『Q&A消費者団体訴訟制度』三省堂2007年。適格消費者団体訴 訟制度は、消費者契約法上、2007年6月7日に、景表法上、2009年4月1日に、特 商法上、2009年12月1日に、食品表示法上、2015年4月1日に、それぞれ施行された。

3) 消費者庁消費者制度課編『一問一答 消費者裁判手続特例法』商事法務2014年、伊 藤眞『消費者裁判手続特例法』商事法務2016年、山本和彦『解説 消費者裁判手続 特例法[第2版]』弘文堂2016年、日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編『コンメ ンタール消費者裁判手続特例法』民事法研究会2016年、三木浩一『民事訴訟による 集合的権利保護の立法と理論』有斐閣2017年、町村泰貴『詳解 消費者裁判手続特 例法』民事法研究会2019年。

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よれば、事実上のお願いにすぎない。他方、特商法・景表法等の違反排除に係 る行政処分については、それによる金銭的被害救済はできないものと、これま で一般的に理解されてきた。

このような消費者の金銭的被害の回復に係る法制度の対応の不備によって、

消費者の利益を保護する諸法規に違反する行為によって被害を受けた多数の消 費者から、違反事業者は、基本的に被害の補償を請求されない。また、違反行 為者に対する課徴金納付命令による経済的不利益の賦課も、適用範囲の限定、

要件の厳格性等に基づき限定的にしか行われ得ない。このようなことから、違 反行為者が、違反行為によって不当に利得を獲得し、それを保持し得ており、

このことは、後述するように市場の有する本来の機能が不全に陥っているもの ということができる4)。もちろん、民事法的手法による消費者の金銭的被害救 済によって、この市場の機能不全が解消されうるのであれば、それに越したこ とはなく、むしろそれが筆者の望むところである5)が、我々の身を委ねる今日 4) ドイツにおける不正競争防止法(UWG)分野での利益剥奪請求権(同法10条)に 関 す るKöhler教 授 に よ る こ の 点 の 指 摘(Köhler/Bornkamm/Köhler, Kommentar zum UWG, 35. Aufl. 2017, UWG § 10 Rn. 4-5)を参考にした。平成20年6月の閣議 決定「消費者行政促進基本計画」が、「『安全安心な市場』『良質な市場』の実現は、

競争の質を高め、消費者・事業者双方にとって長期的な利益をもたらす唯一の道で ある。」とするのも、これと同様の趣旨といえる。

5) 宗田貴行『団体訴訟の新展開』慶應義塾大学出版会2006年では、多数消費者被害の 救済を民事法的手法で救済することについて、また、同『迷惑メール規制法概説』

レクシスネクシス・ジャパン2006年及び同『独禁法民事訴訟』レクシスネクシス・ジャ パン2008年では、迷惑メール行為や独禁法違反に係る行政処分においては、被害者 が蚊帳の外であるから、プライバシー権侵害に基づく差止請求や損害賠償請求、消 費者団体訴訟といった民事法的手法で多数の消費者の被害を救済及び防止すること の重要性を指摘してきた。未だに、迷惑メール行為についても、独禁法違反につい ても、消費者団体訴訟は導入されていない。仮に、独禁法に適格消費者団体の(広 義の)差止請求権が規定されれば、例えば、多数の消費者に被害を生じさせるメーカー 間の価格引上げカルテルについて、公取委が行政処分で違反の差し止めを命じ、そ の後に、その処分の事実認定に基づく違反行為の存在に係る推定効を利用して、適 格消費者団体が広義の差止請求権の一つである妨害排除請求権に基づく金銭支払請

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の経済体制及び法制度においては、必ずしも、そのようにはなっていないとい うのが、真実のところであろう。このため、例えば、刑事法的手法によって、

金銭的被害救済を行うことを可能とする制度を用意するとしても、その方法の 性質上、極めて限られた範囲の行為しか対象とし得ないと思われる。これに対 し、消費者に対する不当表示・不当勧誘・不当条項等、比較的広い範囲の行為 を対象としうる行政処分等の行政法的手法による金銭的被害救済を可能とする ことによって、係る手法の機能の拡大を行い、上述した民事法的手法による金 銭的被害救済の不十分性を補完することができるのであれば、それは、事業者 により提供される商品又は役務につき、正確かつ十分な情報が消費者に提供さ れ、それをもとに消費者が当該商品又は役務に係る購入の判断を適切に行い得 ることによって、適正な価格等の取引条件の下で商品・役務が販売・提供され、

適正かつ公平な富の配分を可能とするという市場の本来の機能を回復させるた めに資し得るものであり、重要な意義を有するもの、ということができる6) このため、本稿においては、行政処分による消費者の金銭的被害救済について、

検討を行うこととしたい。

しかし、行政処分等の行政法的手法による金銭的被害救済7)が可能であると 考えることについては、法理論上、少なくとも、以下の2つの疑問が生じるも のである。

求訴訟を提起し、多数の間接購入者たる消費者への返金を請求することも、あり得 ることになる。

6) 独禁法上の課徴金制度も、一定範囲で、消費者の利益を害する行為に対する抑止効 果を有する制度であり、もちろん、市場の機能不全の改善に資するものである。

7) 「被害救済」の用語の意味については、以下のようになる。すなわち、団体訴訟に 関するEU指令案(後掲)は、違反の継続する効果を排除するために請求される救済 措置を、交換等の非金銭的作為及び、補償や返金という金銭支払に係る作為の両者 を含むものとして規定している(同指令案6条1項)。行政処分において、妨害排除 請求権に相当する違法状態排除に係る処分による救済措置としても、これと同様に、

両者を含むものと解する。このため、金銭的作為を意味する場合には、本稿の表題 を除き、(正確には金銭的被害の金銭的救済であるが、ここは簡便に)金銭的被害救 済としている。

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第一に、公法私法二元論の下、元来、金銭的被害救済は、私法・司法の役割 であって、行政の役割ではないと考えられてきたため、行政処分等の行政法的 手法による金銭的被害救済は、このような考え方に反するのではないか、とい う疑問である。このように、従来から、金銭的被害救済が、私法及び司法によっ て行われるものとされてきたのは、国家が一方の当事者の金銭的被害救済のた めに国家権力を発動して助力することは、公的存在の公平性の維持の観点から みて、妥当なものではないからである。すなわち、本来、公的資金により賄わ れ公の立場にある行政機関の任務は、全国遍く平等に市民に対するサービスを 提供するべきものであるが、行政処分によって特定の被害者にのみ、金銭的被 害救済を行うことは、この公的存在であることに基づく公平性の原則に反する のではないか、という疑問である8)

第二に、私人は、私法上の権利義務をその者の意思で自由に決定し規律する ことができる、との私的自治の原則に基づいて、金銭的被害救済は、本来行わ れるべきものである。したがって、係る被害救済は、私法及び司法によって行 われねばならないものといえるにもかかわらず、行政処分等の行政法的手法に よって、被害者自身の被害回復の意思の有無にかかわらず、被害者への金銭の 支払いがなされることは、この私的自治の原則に反するのではないか、という 疑問である。或いは、被害回復を命じることは、私人間の権利義務関係を終局 的に確定することであるから、裁判所が裁判手続で行うべきであり、これを行 政機関に委ねることは憲法違反の疑義が出てくる、というものである9)

このため、本稿においては、行政処分による消費者の金銭的被害の救済が、

何を根拠として、どのような要件の下で、いかなる内容で認められるのかにつ

8) 消費者庁の消費者の財産被害に係る行政手法研究会(座長・小早川光郎教授)(以下、

「行政手法研究会」という)第7回(平成24年5月15日)議事要旨(https://www.

caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/other/method_for_property_damege/

study_group/最終閲覧2019年1月24日)。

9) 上記行政手法研究会第8回(平成24年6月27日)議事要旨(https://www.caa.go.jp/

policies/policy/consumer_system/other/method_for_property_damege/study_

group/最終閲覧2019年1月24日)。

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いて検討を行い、主として、これら2つの法理論上の疑問を解明することとし たい。

2 議論の必要性

ところで、今日の我が国において、いわゆる悪徳業者による不当勧誘行為等 の事例10)はもとより、有名企業による自動車の燃費性能に係る不当表示11)や、

大手百貨店・ホテルにおける食材不当表示の事例12)といった、いわゆる一般企 業による不正事件が跡を絶たず、これは、我々を驚愕させるに十分なものとなっ ている。

さらに、我が国に限らずに、消費者被害の事例をみてみると、インターネッ ト・バンキングの普及が進行する中、不当な銀行口座手数料を定めた条項が問 題となる事例、チケット販売業者が、インターネットでのコンサート・チケッ ト販売の際に、消費者が購入したチケットを自宅でプリントアウトする方法

(print@home)を選択した場合にも、違法に手数料(チケット1枚につき2.5ユー ロ)を徴収する事例13)、生命保険契約における保険金の不払いの事例、フライ 10) 国民生活センター「2017年度のPIO-NETにみる消費生活相談の概要」(2018年8月 8日)(http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20180808_1.html最終閲覧2019年1月 16日)及び「消費者契約法に関連する消費生活相談の概要と主な裁判例等」(2019年 1 月24日)(http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20190124_1.pdf最 終 閲 覧2019年 1 月26 日)をみると、通信販売での購入に係る相談の割合が多いこと、既支払金額の平均 額は51万円であること、架空請求の相談が増加していること、インターネット上の ホームページやソーシャル・ネットワーク・システム(以下、「SNS」という)での 広告から生じるトラブル(実は、定期購入契約であったこと等)が多いこと、スマー トフォン契約の相談(解約料が消費者の事前の予想よりも高額であった等)が増加 していること等が分かる。

11) 三菱自動車工業株式会社に対する景表法に基づく措置命令及び課徴金納付命令、

日産自動車株式会社に対する景表法に基づく消費者庁の措置命令(平成29年1月27 日)等。

12) 近畿日本鉄道株式会社、株式会社阪急阪神ホテルズ及び株式会社阪神ホテルシス テムズに対する景表法に基づく消費者庁の措置命令(平成25年12月19日)等。

13) 本件につき、ノルドライン・ヴェストファーレン州消費者センターは、不当条項

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トの欠航や遅延における補償が問題となる事例、SNSやインターネット検索エ ンジン上での行動に係る情報が、消費者の同意なく或いはそれを越えた形で不 正に利用される事例、電力・ガス・水道といった公共料金の不当な値上げの事 14)、スマートフォン契約の料金設定の妥当性及び契約内容の透明性が問題と なる事例15)、キャッシュレス決済の普及に伴い増加することが予想される詐欺 差止請求訴訟を提起し、係る手数料徴収を定めた約款条項が、民法(BGB)307条1 項1文に違反し私法上無効である、との連邦通常裁判所判決(BGH Urteil vom 23.

08. 2018, AZ. III ZR 192/17)を得た。これに基づき、同センターは、手数料を違法 に支払わされたチケット購入者らに対し、同センターのインターネットサイトで返 還請求のための書式を配布し、各自がそれに当該チケットに係る公演名・公演日・

顧客番号を記入し、被告事業者に送付して返金を得るように呼び掛けている(https://

www.verbraucherzentrale.nrw/sites/default/files/2018-08/Musterbrief%20 Eventim%20printathome_0.pdf最終閲覧2019年2月6日)。筆者も、ドイツにて数年 前より同チケット販売業者を利用しており、数枚のチケット分につき係る手数料を 不当に支払わされていた。このため、筆者も係る返金の請求を行ってみたところ、

数日後、チケット購入時に使用した同販売業者のサイトに登録のクレジットカード 経由で、数ユーロの返金を得ることができた。筆者は、書類を郵送したこともあり、

郵送費を差し引けば、微々たる金額が手元に残っただけであり、社会活動の一環と しての意味を感じるに過ぎない。もちろんその意味は重いと考えるが、このような 行為を行う消費者は少ないであろう。当該条項は、数年にわたり被告により使用され、

被告のインターネットサイトでは常時20万公演がラインアップされており、それに よる被害者は、軽く見積もっても数万人は下らない。近時ドイツにおいて制定・施 行されたムスタ確認訴訟や、行政処分による金銭的被害救済の可能性を探る必要が ある。

14) 例えば、ドイツにおける公共料金の不当な値上げの事例については、1000以上の 民事訴訟が提起される他、後述するカルテル庁の利益返還命令が下されるなど、大 きな社会問題となっている。我が国でも、公共料金の値上げ等については、内閣府 の公共料金等専門調査会が置かれるだけではなく、消費者委員会の意見が行われ、

各事例の値上げの正当性に係る検討等が行われている。また、独禁法上の優越的地 位の濫用(19条、2条9項5号)に該当する公共料金の不当な値上げについて、後 述するように、行政処分や民事訴訟の方法が指摘されている。

15) 例えば、ドイツにおいては、携帯電話の利用料金として請求された金額の中に、

不当約款に基づく本来理由のない請求項目があった事例等がある。我が国では、まず、

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の事例16)等々がある。このような事例においては、たしかに、損害賠償請求等 の民事法的手法や違反事業者による自主的返金による金銭的被害救済の余地が あるが、本稿でも論じるそれらの限界に基づいて、今日の我々の日常生活にお ける消費経済活動においては、不当にも多数の消費者の財産的被害回復のまま ならない事例が、極めて多く見受けられる。

従来から、公法私法二元論の下で、行政法の役割は、違法行為の事前予防な いし被害の拡大の防止を基本とし、金銭的被害救済は、私法及び司法によって 行われるものとされてきた。しかし、今日の資本主義経済体制下における消費 者利益の保護に資する諸法の規定に違反する事業者の行為に基づく広範かつ多 様な消費者被害のこのような実態に目をやるとき、従来の民事法による金銭的 被害救済だけでは、到底十分ということはできない。多数の消費者の金銭的被 害救済の可能性の改善については、消費者裁判手続特例法が施行(2016年10月 1日)されたが、同法上の手続には、団体の負担する費用面での問題、手続対 象の過度な限定等、多くの限界があり、同法施行2年後、ようやく医大不正入 スマートフォンの広告の分かりにくさが問題視されており、消費者庁「スマートフォ ンにおける打消し表示に関する実態調査報告書」(平成30年5月)が公表され、消費 者庁「携帯電話等の移動系通信の端末の販売に関する店頭広告表示についての景品 表示法上の考え方等の公表について」(2018年11月13日)は、スマートフォン等の契 約条件の説明が不十分な店頭広告が、景表法違反に当たる可能性があることを指摘 する。また、例えば、携帯電話事業者との契約に係るアップル・インクに対する独 禁法違反被疑事件(拘束条件付き取引(同法19条、不公正な取引方法12項)の疑い)

が、契約内容の変更により、審査が打ち切られている(平成30年7月11日)。また、

通信料金の正当性と料金プランの透明性をめぐる議論の中で、携帯電話の端末代金 と通信料金の完全分離が行われることとされ、総務省は、有識者会議の提言を踏まえ、

電気通信事業法の改正法案を平成30年1月28日召集の通常国会に提出し、同法案は、

同年5月10日可決成立した(令和元年法律第5号)。同改正法は、モバイル市場の競 争の促進及び利用者利益の保護を図るため、①通信料金と端末代金の完全分離、② 行き過ぎた囲い込みの是正、③電気通信事業者及び販売代理店の勧誘の適正化、④ 販売代理店に対する届出制度の導入を内容とする。同法は、同年秋に施行される。

16) さらに、近時、QRコードを使用した決済におけるセキュリティーの不十分さによ る詐欺の被害の危険が生じている。

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試事件で、その利用がみられるに至ったに過ぎず、その利用がほとんどみられ ていない。また、課徴金制度における自主的返金額分の減額制度(同法10条・

11条)17)は、課徴金が課される事例においてのみ、有効なものに過ぎず、また 返金費用・手間に鑑み、その利用は低迷している。

他方、諸外国においては、すでに、その必要性から、行政庁による金銭的被 害救済制度がみられている18)

第一に、例えば、ドイツにおいて、すでに2000年代以降、競争制限禁止法

(Gesetz gegen den Wettbewerbsbeschränkungen 以下、「GWB」という)上、

カルテル庁は、一定の場合に利益返還命令(同法32条2a項)(違反排除に係る 中止命令のうち違法状態排除処分19))に基づき、多数の消費者への返金を命じ ることが可能であるとされており、実際に、市場支配的地位の濫用(同法19条・

20条)に該当する公共料金の不当な値上げの事例において、カルテル庁は、利 益返還命令によって、極めて多数の消費者へ返金を行うことを違反事業者に対 し命じている20)

17) 平成26年の景表法改正(平成26年法律第118号、2016年4月1日施行)により導入 された。

18) 独立行政法人国民生活センター・比較消費者法研究会報告書(松本恒雄国民生活 センター理事長)『消費者被害の救済と抑止の手法の多様化』2017年54頁(籾岡宏成)、

23頁(宗田貴行)。

19) カルテル庁の違反中止処分には、予防的中止処分、反復中止処分、違法状態排除 処分があり、違法状態排除処分の一種として利益返還命令がある(これについて、

より明確に指摘しているものとして、宗田貴行「ドイツ競争制限禁止法上の行政処 分による集団的消費者被害救済」慶應法学42号2019年229-257頁)。

20) 宗田貴行「ドイツにおける集団的被害救済制度の改革―競争制限禁止法への利益 返還命令制度の導入」国際商事法務42巻7号2014年1018-1026頁、同「搾取的濫用 行為と独禁法上の行政及び民事的エンフォースメント――ドイツ競争制限禁止法に おける議論を参考にして――(上)(下)」獨協法学96号2015年195-309頁、同97号 2015年1-73頁、同「ドイツ競争制限禁止法上の行政処分による集団的消費者被害 救済」慶應法学42号2019年229-257頁)。カルテル庁の利益返還命令と並行して、民 事訴訟において、ドイツ民法(以下、「BGB」という)315条に従った裁判所による公 平な給付の確定が、公共料金の不当な値上げの事例で活発に行われている。消費者の

(11)

第二に、オランダにおいては、インターネットサイト上の不当表示等の事例 において、不当に支払わされた料金の消費者への返還に係る拘束力ある確約が、

所管行政庁と当該行為事業者との間でなされている。また、オランダ電気通信 法(Telecommunicatiewet. 以下、「Tw」という)上、行政処分に基づいて、

違反電気通信事業者に対し、消費者に不当に支払わせた料金の返金が命じられ ている(五1⑷)。

第三に、こうしたEU加盟国レベルの立法・運用だけではなく、近時は、EU レベルにおいても、2004年制定の消費者保護機関間の協力に関するEU規則21)

及び、それを改訂する2017年制定の消費者保護機関間の協力に関するEU規 22)は、不当勧誘・不当表示・不当条項に関し、行政機関による消費者被害救 済のための違反により生じた違法状態の排除に係る処分権限を規定し、それに

金銭的被害救済は、その民事法的手法によって、どこまで可能であるのかを見極めた うえで、その限界を補うために、行政処分による被害救済をさらに検討すべきもので ある。このため、この公平な給付の確定理論について、「ドイツ連邦共和国における 公平な給付の確定理論――公共料金の不当な値上げに関する判例の検討―(仮)」

として、検討を行う。

21) VERORDNUNG (EG) Nr. 2006/2004 DES EUROPÄISCHEN PARLAMENTS UND DES RATES vom 27. Oktober 2004 über die Zusammenarbeit zwischen den für die Durchsetzung der Verbraucherschutzgesetze zuständigen nationalen Behörden („Verordnung über die Zusammenarbeit im Verbraucherschutz“), ABl. L 364 vom 9.12.2004, S. 1. 以下、「EU消費者保護協力規則(2004年)」という。2006年 施行。本規則については、本城昇「EUにおける不公正な消費者取引行為の規制(上)

――EU指令・規則とEU主要国の動向――」国民生活研究48巻1号2008年1-18頁、

6-7頁。

22) VERORDNUNG (EU) 2017/2394 DES EUROPÄISCHEN PARLAMENTS UND DES RATES vom 12. Dezember 2017 über die Zusammenarbeit zwischen den für die Durchsetzung der Verbraucherschutzgesetze zuständigen nationalen Behörden und zur Aufhebung der Verordnung (EG) Nr. 2006/2004, ABl. L 345 vom 27.12.2017, S. 1. 以下、「EU消費者保護協力規則(2017年)」という。2017年12月制定、

2020年1月17日施行。この規則の提案段階の内容については、島村智子「EU消費者 保護協力規則の改正案」外国の立法273巻1号2017年12-13頁。

(12)

基づく、消費者に対する返金命令を許容している(五1⑵)23)

もっとも、我が国においても、行政機関が違反事業者に対し被害者への金銭 支払いを命じ被害回復を図る制度が、皆無であるというわけではない。

平成26年の景表法改正に関する消費者庁における上記行政手法研究会の報告 書「行政による経済的不利益賦課及び財産の隠匿・散逸防止策について」(平 成25年6月)24)は、行政庁が事業者に対して被害金額の返還等を命じる制度と 23) EUにおいては、この他に、EU不公正取引方法指令(2005/29/EG)においても、

行政庁が、不公正取引方法に対して違反排除の行政処分を採ることが許容されてい る(同指令11条1項1文、同項2文b号、同項3文及び同条2項柱書及びa号)。また、

消費者の集団的利益保護のための団体訴訟に関するEU指令案(注68参照)5条1項 等は、団体訴訟が行政機関に提起される場合も許容し、その場合の行政機関による 判断によって違反や違法状態の排除を命じうるとしている。なお、欧州委員会の消 費者ニューディール政策である消費者保護ルールの執行の改善及び現代化に関する EU指 令 案(Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL amending Council Directive 93/13/EEC of 5 April 1993, Directive 98/6/EC of the European Parliament and of the Council, Directive 2005/29/EC of the European Parliament and of the Council and Directive 2011/83/

EU of the European Parliament and of the Council as regards better enforcement and modernisation of EU consumer protection rules, 11.4.2018 COM(2018) 185 final 2018/0090 (COD))(この指令案は、不当条項指令93/13/EEC、不公正取引方法指令 2005/29/EC、消費者権利指令2011/83/EU、価格表示指令98/6/ECに関する改正を予 定する)において、不公正取引方法指令違反に関し、新たに同違反による被害者た る消費者の契約の取消権及び契約外の損害賠償請求権を付与することが提案されて いる。つまり、同指令案1条4項が、救済に関する規定である同指令案11a条を不公 正取引方法指令に挿入することを提案し、同指令案11a条1項は、不公正取引方法の すべての影響の排除のために国内法に従い契約上又は契約外の救済が認められると し、同条2項は、契約上の救済として少なくとも契約の取消権を、同条3項は、契 約外の救済として少なくとも損害賠償請求権を認めるべきであると規定する。本指 令案は、2019年1月22日に欧州議会の域内市場委員会で可決しており、同年3月5 日現在、本会議での審議入りを待っている状態である(http://www.europarl.europa.

eu/news/en/headlines/priorities/digital/20190117STO23721/new-eu-consumer- protection-rules-to-tackle-misleading-and-unfair-practices)。

24) この報告書は、景表法上、行政による経済的不利益賦課制度つまり賦課金制度は、

(13)

して、消費者安全法上の内閣総理大臣による勧告・命令(同法17条1項25))を 例に挙げ、参考になる制度として、特商法上の所管官庁による指示に基づき、

訪問販売等の履行拒否・履行遅延の場合(特商法旧7条1号等26))に返金を命 じることが可能であること27)を指摘した。

しかし、消費者安全法上のこの制度が利用され得るのは、生命・身体に関す る重大事故等又は多数消費者財産被害事態28)であり、かつ所謂「すき間事案」

である場合29)に限られ、特商法上の指示に基づく返金命令も、同法旧7条1号 等(同法現行法7条1項1号等)の場合にのみ可能であるに過ぎないものであ り、広範かつ多様な消費者被害に対応しきれるかについて、疑問のあるところ であった30)

消費者の自主的かつ合理的な選択の確保のために、それを阻害するおそれのある不 当表示を実効的に抑止するための措置として位置づけることができるとした。これ に至るまで、消費者庁企画課「集団的消費者被害救済制度研究会報告書」(平成22年 9月)は、行政による経済的不利益賦課制度について、違法行為によって獲得され た収益とは一応分離された形で、違反行為の抑止のために一定の金銭を賦課金とし て納付を行政処分によって命じる方法が適切であるとした。また、消費者庁「『財産 の隠匿・散逸防止策及び行政による経済的不利益賦課制度に関する検討チーム』取 りまとめ」(平成23年8月)は、上記報告書での検討の経緯を踏まえて、景表法を前 提として、違反行為を抑止するためにどのような制度設計をすべきかについて、具 体的検討を進めることとした。

25) これについての詳細は、本稿の六2で論じる。

26) 通信販売(特商法14条1項)、電話勧誘(特商法22条1項)等においても、同様に 履行拒否・履行遅延の場合の規定が置かれている。

27) 後藤巻則・齋藤雅弘・池本誠司『条解消費者三法』弘文堂2015年353頁(齋藤雅弘)。

28) 消費者安全法の平成24年改正(2013年4月1日施行)により、多数消費者財産被 害事態(同法2条8号)に関する是正措置に係る勧告・命令の規定(同法40条4項・

5項)が新設されている。これについての詳細は、本稿の六2で論じる。

29) 生命・身体に関する重大事故等又は多数消費者財産被害の防止を図るために実施 しうる他の法律の規定に基づく措置がない場合である(同法40条1項(平成24年改 正前17条1項)・同条4項)。

30) この他にも、上記の勧告・命令の内容が、「消費者被害の発生又は拡大防止」との

(14)

そこで、上記の消費者安全法上の勧告・命令制度等の返金に係る既存の制度 の適用範囲が限定されていることを補うため、平成29年12月1日から施行され ている特商法の平成28年改正法(平成28年法律第60号)(以下では、「特商法平 成28年改正法」という)においては、訪問販売等の場合に、消費者庁等の指示

(特商法7条・14条・22条・38条・46条・56条)に基づき消費者への返金の実 施を命じることを可能とすることを想定して「購入者又は役務の提供を受ける 者の利益の保護を図るための措置」との文言が付加されたところである31)

また、平成27年の電気通信事業法改正(平成27年法律第26号、平成28年5月 21日施行)によって、消費者利益保護のための行政処分が同法に導入されてお り、これについても、行政処分による消費者被害救済の観点からの検討が要さ れるものである。

学説においては、近時、行政処分に基づく消費者の金銭的被害の救済が必要 である、との指摘32)がなされているだけではなく、独禁法上の優越的地位の濫 用(同法19条、2条9項5号)に該当する公共料金の不当な値上げの事例にお いて、独禁法上の排除措置命令(同法7条1項等)に基づき、違反事業者に対 し消費者への返金を命ずることが可能である、と考えられるようになってきて いる33)。なお、公取委は、従来から、下請法上の勧告(同法7条1項)に基づ

法目的(消費者安全法1条)に合致しないのではないか、また、債務の履行を促す 措置が理論上可能としても、悪徳業者に対しては実効性の確保が問題となるとの指 摘がなされている(消費者庁・行政手法研究会報告書「行政による経済的不利益賦 課及び財産の隠匿・散逸防止策について」(平成25年6月)31-32頁)。

31) 宗田貴行「特商法上の指示に基づく返金命令」獨協法学100号2016年151-180頁、

175-176頁。これについての詳細は、本稿の六2で論じる。

32) 中川丈久「集団的消費者被害救済制度と行政法」消費者法3号2011年24-32頁、

25頁、31頁、曽和俊文「悪質業者の規制と被害者の救済―行政の役割―」現代消費 者法22号2014年33頁以下37頁。

33) 宗田貴行「搾取的濫用行為と独禁法上の行政及び民事的エンフォースメント――ド イツ競争制限禁止法における議論を参考にして――(下)」獨協法学97号2015年1-

73頁、21-23頁で検討したように、独禁法分野において、すでに少なからぬ見解が、

これを肯定している。これについての詳細は、本稿の六2で論じる。

(15)

き、違反事業者に対し違反行為の相手方たる納入業者への金銭支払いを命じて きている。

ところで、行政法的手法による金銭的被害救済としては、没収・追徴された 犯罪収益の被害者への返還制度34)の導入、犯罪利用預金口座等に係る資金によ る被害回復分配金等に関する法律35)(振り込め詐欺救済法)の制定・施行、平 成26年の景表法改正による課徴金制度における自主的返金促進策(同法10条・

11条)の導入36)等が、行われているところである。

このような諸外国及び我が国の状況に鑑みると、もちろん、民事法上の金銭 的被害救済手法の改善に係る検討が必要であることに疑いはないが、今日の我 が国においても、上述の限られた分野だけではなく、より一般的に行政処分等 の行政法的手法によって、消費者の被害を実質的に回復する37)ことの必要性 38)

34) 犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律、平成18年6月21日法 律第87号、平成18年12月1日施行。

35) 犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金等に関する法律(平成19年 法律第133号)。

36) 不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律、平成26年法律第118号、平 成28年4月1日施行。同改正につき、黒田岳士・加納克利・松本博明『逐条解説平 成26年11月改正景表法―課徴金制度の解説』商事法務2015年。

37) 事業者の行政法違反行為によって被害を受けた消費者が、当該違反事業者に対し 命じられた行政処分に基づいて一定の金銭を受け取ることは、行政法上、消費者が 行政法違反行為によって不当な支払いをさせられた状態が違法状態であり、それを 回復するためのものである。このため、民事法上の不法行為等の損害賠償請求権に 基づいて損害が補填される、又は契約解除に伴って或いは契約の無効故に不当利得 返還請求権に基づき返金を受ける等というものではない。このため、従来の民事法 とは異なる被害回復であるという意味で、ここでは、被害の「実質的な」回復とし ている(宗田貴行「搾取的濫用行為と独禁法上の行政及び民事的エンフォースメン ト――ドイツ競争制限禁止法における議論を参考にして――(下)」獨協法学97号 2015年1-73頁、71-72頁)が、その前後の文脈で理解可能であるため、以下にお いては、特段区別しない。

38) 松本恒雄「消費者被害の賠償・返金と不当収益の剥奪――被害救済とコンプライ アンス促進との有機的結合に向けて」鹿野菜穂子・中田邦博・松本克美編『長尾治 助先生追悼論文集 消費者法と民法』法律文化社2013年288頁以下。

(16)

その妥当性について、検討する必要があるといえる。そのためには、また、上 述した幾つかの限られた法分野において、従来、行政処分による金銭的被害救 済が可能であるとされてきたのは、なぜであり、どのような要件の下で、どの ような内容で、それが認められているのかについて検討する必要がある、とい える。

このように考えられるところ、特商法平成28年改正に係る衆議院附帯決議(平 成28年4月28日)4項は、「通信販売において虚偽の広告を誤認して契約締結 に至った場合の救済措置の在り方を含め、実効的な被害の未然防止及び救済措 置について検討を行うこと。」とし、同改正に係る参議院附帯決議(平成28年 5月20日)5項は、「通信販売における虚偽・誇大広告によって消費者が誤認 して契約締結に至った場合の実効的な救済措置について検討を行う」とし、両 者ともに見直しの必要性に応じ、改正法施行後5年を待たずに適宜適切に見直 しを行うこととしている(衆議院附帯決議5項・参議院附帯決議6項)。また、

平成30年6月6日、参議院の消費者問題特別委員会で採択された消費者契約法 改正に関する附帯決議10項後段は、「行政が事業者の財産を保全し、消費者の 被害の回復を図る制度の創設について早急に検討を行うこと。」としてお 39)、いままさに、行政法的手法による消費者の金銭的被害救済に係る理論の 解明が、我が国において必要とされている、といえる。

3 本稿において検討を行う内容

行政法的手法によって消費者被害を救済する方法には、上述のように、違反・

違法状態の排除に係る行政処分(例えば、景表法上の措置命令や特商法上の指 示)による方法の他に、以下の方法もあるので、それについて検討する。

第一に、課徴金納付命令に基づき国庫に支払われた金銭を被害者へ分配する 方法がある。しかし、これは、被害者の有する私法上の請求権が、国庫に支払 われた課徴金に対する請求権となるわけではなく、立法政策に基づき個別の事 39) 景表法平成26年改正における附帯決議においては、行政による消費者の被害の回 復を図る制度についての言及がない。これについても、筆者は必要であると考える ので、本稿において詳細に検討する。

(17)

例のために係る請求権を定める必要があり、包括的な立法が困難であることか ら、実現可能性が乏しいものである40)。違反抑止のための課徴金制度と金銭的 被害救済のための民事法上の諸請求権とは、それぞれ目的を異にし、両者はそ もそも別物である以上、係る請求権の根拠付けは、困難といわざるを得ない。

また、両者は別々の目的を有するものであるため、違反抑止のために国庫に課 徴金として支払われた金銭の総体と被害者の損害賠償請求権等との累積は、必 ずしも一致しない。このため、このような設計には、合理性があるということ はできない。

第二に、没収・追徴された犯罪収益の被害者への返還制度及び犯罪利用預金 口座等に係る資金による被害回復分配金等に関する法律(振り込め詐欺救済法)

における返還制度がある。これらは、犯罪によって獲得された不法収益は犯人 から剥奪されるということを前提とし、それをいわば転用している点で、行政 による被害金額返還命令の創設とは、局面が異なるが、行政が被害回復に積極 的に関与する制度がありうるという意味では参考になる、と指摘されてい 41)。たしかに、不当表示等を刑事罰の対象とすれば、このような返還制度の 創設も可能であろう。遵法意識の希薄な悪徳業者に対しては、結局は間接強制 に頼ることとなる行政処分ではなく、身柄拘束を行い得る刑事手続による方が、

実効性があるともいえる42)。しかし、これら諸法の返還制度は、詐欺等の刑法 違反の事例について、違反排除(違法状態排除を含む)に係る行政処分が用意 されえないことから、それによる金銭的被害救済は検討の余地がないため、必 要とされたものである一方で、少なくとも、消費者法分野における景表法及び 特商法は、行政処分を規定している法律であり、行政処分による金銭的被害救 済を考え得るものである、という相違がある。また、刑事罰化する場合には、

要件の設定の困難さがあり、かつ、その適用場面が限定され、今日の広範かつ 40) 中川丈久「集団的消費者被害救済制度と行政法」消費者法3号2011年24-32頁等。

41) 上記、行政手法研究会第8回(平成24年6月27日)議事要旨(https://www.caa.

go.jp/policies/policy/consumer_system/other/method_for_property_damege/study_

group/最終閲覧2019年1月24日)。

42) 消費者庁企画課・集団的消費者被害救済制度研究会報告書(平成22年9月)46頁。

(18)

多様な消費者被害の現況に適切に対応し切れない、という問題がある。

第三に、行政庁が、裁判所に対して、事業者に対する被害回復又は違法な収 益の吐き出しの命令を申し立てる制度である43)。この制度には、たしかに、事 業者の手続保障を司法において確保しうる等の利点がある。しかし、すでに指 摘のあるように、行政庁が、どのような立場で申し立てを行うのかという問題 や、個々の被害者の裁判を受ける権利との調整等をどのように整理するのかと いう問題の検討の必要がある他、特に、当事者の主観的な権利義務を離れた違 法な活動の是正や抑止等を図るのは、行政作用そのものであって、司法作用で はないのではないかという指摘や、事業者の手続保障は、このように、行政庁 が裁判所に提訴する形を採用せず、行政処分による金銭的被害救済であっても、

取消訴訟を用意することで確保できることが挙げられる44)

これらに鑑み、本稿においては、我が国における違反排除(違法状態排除を 含む)に係る行政処分による消費者の金銭的被害救済について、検討を行うこ とにする。

このように、消費者の金銭的被害救済を行政処分によって行うことを検討す るのであるから、まず、景表法及び特商法の目的との関係で、これら両法にお いて行政規制が置かれていることの根拠が、明らかにされねばならない。

まず、特商法1条は、「この法律は、特定商取引(訪問販売、通信販売及び 電話勧誘販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引、業 務提供誘引販売取引並びに訪問購入に係る取引をいう。以下同じ。)を公正にし、

及び購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより、購入者等の利 益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし、もつ て国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と規定する。このよ 43) 籾岡宏成「アメリカ合衆国における行政機関による司法手続を通じた消費者被害 の金銭的救済」現代消費者法40号2018年42-50頁、43-44頁、同「アメリカにおけ る行政機関による消費者被害の金銭的救済――民事制裁金を中心に――」北海道教 育大学紀要69巻1号2018年69-83頁等。

44) 消費者庁・行政手法研究会報告書「行政による経済的不利益賦課及び財産の隠匿・

散逸防止策について」(平成25年6月)32-35頁。

(19)

うに、ここでは「取引の公正」が明記されており、単なる個々人の利益の侵害 からの保護を超えた公益の保護が目的規定に定められている。また、行政処分 を規定した同法7条1項等の規定においても、同様に、「訪問販売に係る取引 の公正及び購入者又は役務の提供を受ける者の利益が害されるおそれがあると 認めるときは」等との文言が明記されている。このようなことから、同法上の 行政規制が置かれているといえる。そこで、問題は、このような法目的の下で、

行政規制がどのような内容を有しうるのかということになる。

次に、景表法1条は、「この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な 景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的か つ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めるこ とにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。」と規定する。か つて独禁法の特例法としての景表法においては、不当表示は、競争手段の不公 正、つまり、公正な競争を阻害するおそれを根拠として規定されてきた45)もの である。今日、消費者法の一部として存在することとされ、その文言に変更が 加えられた景表法の目的規定(同法1条)及びその他の規定(同法7条1項等)

における「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれ」との 文言と同法に行政規制が置かれていることとの関係を明らかにする必要がある。

思うに、商品・役務に関する情報が、消費者に適切に、十分かつ明確に与え られることは、消費者の商品・役務の合理的な選択の前提条件といえる。そし て他方で、そのような条件が確保され、消費者の係る合理的選択に係る判断が 可能となって初めて、商品・役務を提供する事業者は、市場において真に必要 とされる商品・役務を提供することが可能となる46)。このように考えられるた め、不当表示規制は、民主的な市場を維持するための必須の要素を保障するも のであるといえる。また、一般消費者に誤認される表示があれば、通常「一般 消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれ」があるといえ47)、そ

45) 大元慎二編著『景品表示法(第5版)』商事法務2017年53-54頁。

46) 根岸哲・舟田正之『独占禁止法概説(第5版)』有斐閣2015年28-29頁。

47) 大元慎二編著『景品表示法(第5版)』商事法務2017年53頁。

(20)

れにより、他の事業者が適切な商品又は役務を提供し得なくなることを導くも のであり、その結果、公正な市場の形成・維持・発展が阻害されると考えられ るものである。例えば、EUにおいても、誤認惹起比較広告指令(2006/114/

EG)は、「誤認惹起広告は、域内市場の円滑な機能に直接影響するものである。

誤認惹起広告及び不適法な比較広告は、域内市場における競争の歪曲を導くも のである。これらの広告は、契約の締結を導くか否かを問わず、消費者及び事 業者の経済上の利益に悪影響を与えるものである。」(Recital 2-4)48)と述べ ており、不当表示は、消費者の商品又は役務に係る合理的な選択を害し、消費 者の経済上の利益を害するものであると共に、市場における競争を歪めるもの であることが、明らかにされている。これらを踏まえれば、景表法は、不当表 示による個々人の利益の侵害からの保護を目的としたものではなく、公の利益 である市場の公正を確保することによって一般消費者の利益を保護することを 目的としたものであり、「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害す るおそれ」の文言は、その理を示しているといえる。それ故に、同法に行政規 制が置かれていると考えることができる。そこで、問題は、このような法目的 の下で、行政規制がどのような内容を有しうるのかということになる。

そこで、本稿においては、まず、従来の制度による景表法・特商法・消費者 契約法違反に係る金銭的被害救済が機能していない理由について論じた上で

(二)、今日、消費者の金銭的被害の救済を行政処分に委ねることが、なぜ必 要であるのかについて、検討を行う(三)。次に、景表法上の措置命令、特商 法上の指示の種類・目的・要件・内容をみた上で(四)、行政処分による金銭 的被害救済が、法理論上、妥当といえるのかについて、EU消費者保護協力規 則(2017年)の制定及びEU加盟国のドイツ及びオランダにおける議論を踏ま えつつ論じた(五)後、我が国で従来から幾つかの限られた分野において可能 とされてきた行政処分による金銭的被害救済の根拠、要件及び内容を明らかに

48) RICHTLINIE 2006/114/EG DES EUROPÄISCHEN PARLAMENTS UND DES RATES vom 12. Dezember 2006 über irreführende und vergleichende Werbung, L 376/21.

(21)

する。さらに、特商法7条1項1号以外の場合の行政処分及び景表法における 行政処分による返金命令の根拠、要件及び内容、実効性の確保、利点、限界及 びその解消の可能性及び従来の見解、電気通信事業法上の行政処分による消費 者の金銭的被害の救済について、検討する(六)。最後に、上述の本稿の目的 に関する法理論上の2つの疑問に対する答えを述べた上で、行政処分による金 銭的被害救済に係る立法の提案を行うこととしたい(七)49)

二 従来の景表法・特商法・消費者契約法違反に係る金銭的被害救 済制度の限界

1 景表法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界

景表法上の不当表示による被害の救済は、以下の諸点に基づき、不十分なも のとなっている、といえる。

たしかに、多数の者に同種の被害が拡散して生じるという特質を有する消費 者被害の救済のためには、すでに消費者裁判手続特例法による金銭的被害救済 制度が用意されている。しかし、そもそも、同法上の手続対象が過度に限定さ れていること、団体の負担する費用が過大であること、原告の証拠収集方法が 十分ではないこと等の問題があり50)、同法上の手続は、同法が2016年10月に施 行されてから2年を経ても一度も利用されず、2018年12月に提訴された第1号 事案(いわゆる医大不正入試事件)51)と第2号案件(仮想通貨に関するONE 49) これについては、宗田貴行「特商法上の指示に基づく返金命令」獨協法学100号

2016年151-180頁、172-174頁、宗田貴行「行政処分による消費者被害救済」現代 消費者法40号2018年51-59頁で論じたが、その後の検討を踏まえ、本稿において再 検討する。

50) 消費者裁判特例法上の手続の問題点について、宗田貴行「消費者の集団的利益保護 のための団体訴訟に関するEU指令案――適格消費者団体訴訟・消費者裁判手続特例法 との比較検討――」獨協法学106号2018年189-245頁、231-242頁、同「ドイツ民訴法 改正による多数消費者被害救済のためのムスタ確認訴訟制度の制定――我が国の消費 者裁判手続特例法との比較検討――」獨協法学107号2018年215―327頁、312-324頁。

51) 島川勝「個人情報漏洩・無断使用と消費者被害の救済――集団的消費者被害回復

参照

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