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オーストリア幼児教育研修に関する実践報告

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『就実教育実践研究』第9巻 抜刷

就実教育実践研究センター 2016年3月31日 発行

オーストリア幼児教育研修に関する実践報告

─ 幼稚園訪問と子どもとの交流を通しての学び ─

A Practice Report of Study Program in Austria for Students of Early Childhood Education

蘆 田 智 絵

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就実教育実践研究 2016,第9

オーストリア幼児教育研修に関する実践報告

─ 幼稚園訪問と子どもとの交流を通しての学び ─

蘆田智絵(初等教育学科)

A Practice Report of Study Program in Austria for Students of Early Childhood Education

ASHIDA, Chie(Department of Education)

抄録

本稿は、2015年3月に実施した10泊12日のオーストリア幼児教育研修の実践報告である。

この研修は、オーストリアの幼児教育施設を訪問し、オーストリアにおける幼児教育の実 践について知り、現地の保育者や子どもたちと交流することで、広い視野をもって幼児教 育を理解することを目的として実施した。参加者は、学部2年生から4年生までの5名であっ た。

本研修では、3園の幼稚園を見学した。各幼稚園では、保育に参加し、子どもたちと遊 んだり日本の遊びを紹介したりして交流した。また、グラーツ医科大学で講義を体験した り、グラーツ大学病院の産婦人科に設置されている赤ちゃんポストの見学をしたりするこ とで、オーストリアの子育てに関する現状についても知ることができた。

キーワード(異文化理解、幼児教育、オーストリア)

Ⅰ はじめに

社会の国際化が進むに伴い多様な文化と接触する機会が急増し、外国の幼児教育に関心 を持つ学生も増えてきている。オーストリアの幼児教育に関連する施設を訪問することを 通して、オーストリアにおける幼児教育の実践について知り、現地の保育者や子どもたち と交流することで、より広い視野から幼児教育を理解することを目的として、10泊12日の オーストリア幼児教育研修を実施した。本稿は、そのオーストリア幼児教育研修の実践報 告である。参加学生は2年生2名、3年生2名、4年生1名の計5名であった。

Ⅱ 研修の概要 1.実施日程と訪問施設

研修期間は2015年3月5日から16日までの10泊12日であった。研修では、オーストリアの シュタイアーマルク州グラーツ市にある私立幼稚園2園とグラーツ森の幼稚園の見学のほ

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か、グラーツ医科大学での講義体験とグラーツ大学病院にある赤ちゃんポストの見学を 行った(表1参照)。各幼稚園では、保育を見学し、子どもたちと一緒に1日過ごして遊んだり、

日本の遊びを紹介したりするなどして子どもたちや保育者と交流した。これらの訪問先は、

これまでに筆者が訪問したことのある幼稚園や、学生の関心や卒業論文のテーマに合わせ て関連施設を検討し、各施設に依頼をして決定した。

また、オーストリアを観光する時間もとり、世界遺産などが多くあるオーストリアの文 化に触れることができるようにした。観光では、前半のハルシュタットとザルツブルクで は全員で同じ場所を観光し、後半のウィーンでは、国立オペラ座でのオペラ鑑賞のほか、

学生が自分たちで行きたい場所を散策する自由行動の時間とした。

2.事前の準備

研修旅行の3ヶ月前である2014年12月から週に1回、学生が集まり、研修旅行の計画作成 としおり作り、オーストリアの子ども達と過ごす準備を行った。オーストリア国内におけ る、電車やバス、路面電車を利用する移動については、事前に学生自身が移動経路や時刻、

運賃などを調べ、移動の計画を考えた。観光中の自由行動についての計画等も事前に考え、

しおりを作成した。

オーストリアの子どもたちと過ごす準備として、具体的には、基本的なドイツ語会話の 練習、子どもたちと一緒に遊ぶためのぶんぶんゴマの作成、折り紙の折り方の準備などを 行った。ぶんぶんゴマと折り紙は、子どもたちにプレゼント出来るだけの量を用意した。

表1 研修旅行の日程と内容

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また、現地で子どもたちと一緒に折り紙ができるように、折り方の説明をドイツ語と日本 語で書いたものを用意した。折り紙は、うさぎ、いぬ、ひまわり、しゅりけん、紙コップ、

チューリップ、だましぶね、ハートの折り方を作成した。それ以外に、けん玉とコマを練 習し、それらをオーストリアへ持参した。

Ⅲ 各施設での研修内容

1.グラーツ医科大学での講義体験

グラーツ医科大学では、同大学の教授の協力により学生は模擬授業を体験した。オース トリアの伝統的な講義室で、グラーツ医科大学やグラーツ市の紹介に関する内容を英語で 聞き、その後、それぞれが英語で質問をした。講義体験の後は、講義室から移動して、オー ストリアの生活の様子や日本との文化の違いなどについて、教授と自由に話した。オース トリアに到着してからずっと緊張していた様子の学生たちであったが、この時間を通して、

次第に慣れてきたようであった。

2.モザイク幼稚園の見学

モザイク幼稚園は、グラーツ市にある私立幼稚園である。モザイク幼稚園は、計6クラ スあり、障害のある子どもの保育も行われていた。6クラスのうち3クラスは障がいのある 子ども5名を含む1クラス18名以下の混合グループで、残りの3クラスは障がいのある子ど も6名だけの少人数グループであった。どのクラスも、3歳から7歳までの異年齢クラスで あった。一人ずつ各クラスに分かれて保育参観および参加し、2日間で混合グループと少 写真1 折り紙の説明の一例

写真2 講義体験をしたグラーツ医科大学の講義室

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人数グループの両クラスを経験した。各クラスでは、登園から自由な遊び、朝の集い、昼 食、遊び、降園まで子どもたちや保育者とともに過ごし、一日の流れを全て経験した。遊 びの時間には、子どもたちと一緒に鬼ごっこや遊具、室内のおもちゃで遊んだり、用意し ていた折り紙やけん玉などの日本の遊びを紹介したりした。また担任の保育者に保育の様 子について聞いたり質問した。

3.グラーツ森の幼稚園の見学と子どもとの交流

グラーツ森の幼稚園は、グラーツ市があるシュタイアーマルク州からは幼稚園として認 可されていないが、保護者の協力のもと運営されている。路面電車の停留所から山を登り、

徒歩30分ほどのところにあった。ここでは普通の園舎は無く、登園してから降園まで森の 中で保育が行われる。3歳から就学前までの子ども計13名が通っており、保育者は、男性1 名、女性2名の計3名であった。

園に到着後、まずは広い森の中を案内していただいた。森の中には、通常の園舎がない 代わりに、子どもや保育者が集まることのできる大きなテント、昼食をとるためのテント、

写真3 幼稚園内の様子 写真4 保育室内の様子

写真5 ランチルーム 写真6 園庭

写真7 折り紙で遊ぶ様子 写真8 掲示された折り紙

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暖を取るためのテントの3つのテントがある。大きなテントの下では、子どもたちは集まっ て歌を歌ったり、お話をしたり絵本を読んでもらったりする。グラーツ森の幼稚園が所有 している森の範囲は4ヘクタールととても広く、子どもたちは、森の中で走りまわったり、

森にある木や小枝や木の実などの自然物を用いて遊び道具を作ったり、造形をしたりして 遊んでいる。子どもは一人一つずつ自分ののこぎりをもっている。また、野菜や果物を育 てる畑もある。

園の様子を見学した後、大きなテントの下で子どもたちと一緒に輪になって座り、歌を 聞かせてもらった。それから用意していたぶんぶんゴマで一緒に遊び、お土産として折り 紙の鶴や花、紙風船などを子どもたち一人ひとりに渡した。ぶんぶんゴマで一緒に遊んだ ことで、子どもたちと学生たちの距離が縮まり、言葉が通じなくても身振り手振りで意思 疎通をし、子どもにも学生にも笑顔が見られるようになった。子どもたちは折り紙にも興 味を示していた。

4.シュタイングルーバー幼稚園の見学と子どもとの交流

シュタイングルーバー幼稚園は、1925年に設立されたグラーツ市内にある私立幼稚園で ある。子どもは2015年3月時点で61名通っていた。40年ほど前から障がいのある子どもと 一緒に保育が行われている。朝登園してすぐの7時から9時までの時間は年齢に関係なく自 由に遊ぶ時間で、9時~12時の時間は各年齢のグループに分かれて保育が行われている。

最初に幼稚園の概要について話を伺い、その後、幼稚園の中と園庭を案内していただい た。室内には、保育室、遊戯室、ままごとの部屋、アスレチックの部屋、木工室、職員の 写真9 皆が集まれるテント 写真10 テントの下の様子

写真11 子どもの作品 写真12 子どもが使用する道具

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部屋、セラピーのための部屋などがあった。この園では4歳からリコーダー演奏に取り組 んでいる。これは音楽教育としてだけでなく、リコーダー演奏のなかで数、リズムなど数 学の基礎と成る力も培うためにも行われている。また子どもが作りたいものを自分で作る ことができるよう大人が使うものと同じ道具が用意されていた。

園庭には、さまざまな工夫がされていた。自転車や三輪車などの乗り物で園庭を一周で きるように道が作られており、その道には、子どものアイディアをもとに保育者と子ども が協力して作った標識が設置されていた。手作りの木の遊具も設置されていた。プールと 小さな池もあり、夏は水遊びをする子どもが多い。

見学の後、5歳児のクラスで、子どもたちにぶんぶんゴマや折り紙、けん玉を紹介した。

学生が遊び方を示しながら一緒に遊び、子どもたちが3つとも経験できるようにした。ド イツ語が分からなくても実際にやって見せて示すことや、子どもが出来たときには一緒に 喜ぶことで、学生は子どもと共に楽しむことができた。

5.グラーツ大学病院赤ちゃんポストの見学

オーストリアでは2000年以降、赤ちゃんポストが設置されるようになった。現在、赤ちゃ んポストはオーストリア国内に15箇所あり、いずれも医療施設に設置されている。グラー ツ市があるシュタイアーマルク州では、グラーツ大学病院の産婦人科に赤ちゃんポストが 設置されている。

赤ちゃんポストの見学と同時に、匿名出産についても説明を聞くことができた。オース トリアでは、匿名出産が法的に認められており、グラーツ大学病院でも匿名出産ができる。

赤ちゃんポストがどのような場所に設置されているか、赤ちゃんが入れられたときにどの ようにして発見するシステムになっているのか、それに関連して匿名出産はどのような制 度であるのかについて学んだ。

写真13 園の外観 写真14 造形用の道具 写真15 園庭に作られた標識 写真16 折り紙遊び

写真17 赤ちゃんポスト 写真18 赤ちゃんポストの入口 写真19 赤ちゃんポストの内側

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Ⅳ 研修旅行における学生の学び

研修旅行中は、毎日、夕食後に全員で集まり、見学先で感じたことなどを話し合う時間 をとった。子どもたちや保育者の様子がどうであったか、保育内容や方法に関して日本と 似ている点と違う点はどのようなところがあると思ったか、子どもたちや保育者と関わっ てどのように感じたか等について意見を交換した。また、これらの気づきについて振り返 りシートに書き込むことにした(表2参照)。研修旅行終了後、報告会を2015年6月12日18 時から実施した。

学生の学びについて、今回の幼稚園での保育 実践の特徴やオーストリアと日本との相違、ま た、国際交流全般という点から、学生の振り返 りシートの記述もふまえながら述べる。

まず、今回訪問した幼稚園の保育実践につい ては、個を大切にする保育についての学びが あった。学生は「オーストリアの保育は日本と

比べてとても自由に思えた。服装が自由なのもそうであるけれど、とても生活に近い保育 だと思った。机の上におやつがあって好きなときに食べてねというスタイルや、自分で自 分が食べるぶんだけ給食を取るのもそうであった」等と記述していた。オーストリアの幼 稚園では、オーストリア人の子どもだけではなく、様々な文化的背景をもつ子どもが通っ ている。給食の場面を見学したモザイク幼稚園でも同様に様々な文化的背景を持つ子ども たちが一つのクラスに在籍していた。そのため、アレルギーだけでなく宗教上や嗜好の理 由から、給食やおやつの時間は、全ての子どもが同じものを食べるのではなく、自分で食 べられるものや食べたいものを選び、量もその日の体調にあわせて調節してとっていた。

飲み物もお水や果実のシロップを水で薄めたジュースなどがあり、子どもが自分で選ぶこ とができた。おやつにはテーブルの上に、人参やラディッシュなどの生野菜やクッキー等 が置いてある。皆が一斉に食べ始めるのではなく、約30分間あるおやつの時間のなかであ れば好きなときに食べてよい。食事以外の場面でも、子どもの意志を保育者が聞いて自分 で選ぶという場面が多くみられ、子ども一人一人の意志を重視した保育が行われていた。

また、障がいのある子どもと一緒に保育を行い、それぞれの子どもにあわせて様々な方法 で保育が行われていた。学生は「いろいろな国の子どもがいて、障がいを持っている子ど もも同じ部屋にいた。言語はドイツ語だったけど、とても国際的な雰囲気の中で保育・教 育が行われていた」等と記述していた。

森の幼稚園では、自然の中で子どもたちが多くのことを自分で経験しながら学ぶ保育に 学生は驚いていた。この園では、たくさん運動すること、多様な生活経験を積むこと、そ の中で豊かな言葉を培うことが重視されていた。危険なことについては子どもと一緒に確 認をして、子ども自身が安全を考えながら遊ぶように普段から配慮されていた。例えば、

火の近くまで手を近づけると熱いことを子どもと一緒に経験して、火の怖さを子ども自身 表 2 振り返りシートの内容

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が気をつけるように教えていた。森の中で思い切り体を動かして遊び、工具も大人と同じ ようなものを安全に使っている姿など、学生は今まで日本で見たことのある保育実践とは 違う方法で、子どもが主体的に学んでいく保育を知ることができた。

保育の環境についての違いについても記述がみられた。モザイク幼稚園やシュタイング ルーバー幼稚園では、ままごとの部屋、軽い運動ができる部屋、メインの保育室と分かれ ている。また、園庭にも、日本では見られないような遊具や手作りの遊具があり、子ども が好きなものを作って遊べるように多様な道具や工具が用意されていた。「子どもの想像 力をふくらませる工夫が環境設定にたくさんあって、大人から見ても楽しいと思えるもの だった」と学生は記述しており、日本ではどのような工夫ができるか考える機会になった。

また、赤ちゃんポストの見学を通して、緊急下の女性への支援が行われているオーストリ アの現状を知り、出産や子育てに対して支援を必要としている女性や親子について考える 機会になった。

今回の訪問だけで、オーストリアと日本の違いについて述べることはできないが、学生 は今までに知らなかった保育実践の方法や保育環境について自分の目で見たことにより、

幼児教育についてより広い視野から見ることができるようになったようである。一方で、

保育者の子どもとの関わり方について、「子どものペースに合わせて保育をし、自分で出 来ることは自力でさせるようにする」ことは日本と同じように大切にされていた、と学生 が記述しているように、子どもの安全を第一に考えることや、子どもの思いを重視するこ となど、国が違っても共通に保育者として大切にしていることがあると感じていた。

国際交流全般については、学生たちはドイツ語が分からない中、子どもと身振り手振り で意思疎通を図り、子どもとかかわる方法を模索した。子どもとの交流について、学生は、

「折り紙は子どももいろいろと作ってくれ、全種類作った子どももいた」、「言葉は分かり あえなくても、笑顔で楽しく接することができれば、子どもたちは自然とよってきてくれ ると思った」、「ドイツ語、英語の語学力のなさで子どもや先生との会話が難しい。その中で、

ジェスチャーや表情で伝える」などと記述していた。最初に訪問したモザイク幼稚園では、

学生が1クラスに一人ずつ配属されたことにより、自分一人の力で、子どもや保育者と意 思疎通をしなくてはならなかった。初日、クラスに入る前はとても心細そうな様子が見受 けられたが、言葉が通じなくても身振り手振りで気持ちを伝えようとすることが大事であ ることや、笑顔でいたら自然と子どもとも気持ちを伝えあえることを学び、2日目以降は より積極的にかかわろうとしている様子が見受けられた。一人で子どもたちと関わったと いうことが結果的に学生の自信につながったと考えられる。

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Ⅴ おわりに

オーストリア幼児教育研修では、それぞれ特徴のある幼稚園3園を見学し、様々な保育 実践があることを学ぶことができた。特に最初に訪問したモザイク幼稚園では登園から降 園までの一日の流れを2日間経験したことにより、保育者の考え方や子どもの様子をより 理解することが出来た。幼稚園3園のほか、グラーツ大学病院産婦人科の赤ちゃんポスト 見学など、子育てにかかわる施設を訪問することができ、学生にとって、さまざまな子育 てのあり方や支援について理解する機会となった。また、保育実践だけでなく、グラーツ 医科大学での講義体験、シュタイングルーバー幼稚園の先生との交流会などを通して、異 文化での生活について知り、異文化交流のおもしろさについて触れることができた。また、

今回の研修旅行をきっかけに、関心を持った内容についてより深く知りたいと卒業論文の テーマにする学生もいた。

オーストリアで現地の保育実践を見学し、子どもや保育者と交流する機会を通して、学 生はより広い視野から幼児教育について考えることができ、また保育についてより深く学 ぼうとする意欲を高めることができたと思われる。

謝辞

今回のオーストリア幼児教育研修旅行を実現させるにあたり、ご協力いただいた幼稚園 やグラーツ医科大学の先生方に感謝いたします。

参考文献

1)柏木恭典『赤ちゃんポストと緊急下の女性』北大路書房、2013年。

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