(自動車排出ガス低減性能の
「無効化機能」について)
調査研究科 山﨑 実
自動車の環境対策の評価 に関する研究
平成24年1月20日 公開研究発表会
はじめに
〇 東京都環境科学研究所では、自動車の排出ガスの汚 染物質低減性能の実態把握を目的として、実際に使用し ている自動車を対象に調査をしている。
〇 最新規制に適合した大型ディーゼルトラックの排出 ガス調査において、汚染物質低減対策を無効化させる不 適切な制御(無効化機能)を有する車両を発見した。
〇 ここでは、「無効化機能」の発見経過について報告 を行う。
本日の話の進め方
1 無効化機能とは?
2 排出ガス規制の推移 3 調査手順
4 調査結果
5 研究成果の反映
1 無効化機能とは?
排出ガス低減性能の無効化とは?
実際の走行 法定試験 モードの走行
排出ガス規制をクリアし た車両は汚染物質の排出 が低減
汚染物質の排出低減が期待され る。
無効化機能は、
実際の走行時には法定試験 モードの走行時と排出ガス 低減装置の動作等を変えて、
その働きの全部または一部 を無効化させる機能。
この機能があると、排出ガ スは規制適合レベルより著 しく悪化したものになる。
・1999年7月
K社他5社は、無効化機能を有する車両に ついて、「無効化機能」があるとして、大 気浄化法違反により、アメリカ合衆国司法 省及びカリフォルニア州において同意判決 を受け、賠償金などで総額8300万ドルを 支払った。
●(アメリカ合衆国環境保護庁発表資料より)
欧米での「無効化機能」の事例
※欧米では、「無効化機能」は、反社会的行為とし て、自動車排出ガス規制に禁止規定が明文化されて いる。
2 排出ガス規制の推移
0 20 40 60 80 100
47 50 53 56 59 62 2 5 8 11 14 17 20 23
年度
%
ガソリン乗用車
ガソリントラック(1.7t超~3.5t以下)
ディーゼルトラック(3.5t超)
ガソリン車:S47年度100とする ディーゼル車:S48年度を100とする 数値:規制値
770ppm
650ppm
400ppm 470ppm
6.0g/kWh 540ppm
4.5g/kWh 3.38g/kWh
2.0g/kWh 0.70g/kWh 962.5ppm
3.07g/km
2.18g/km
1.80g/km
1.20g/km 1.20g/km
0.90g/km
0.60~0.85g/km 0.70g/km
0.25g/km
0.40g/km
0.13g/km 0.08g/km
0.05,0.07g/km
年 度
窒素酸化物( NOx )規制の推移
短期 長期 新短 新長期 ポスト新長期 規制 昭和49年度規制~ 元年
都内大気環境中の
二酸化窒素(NO 2 )濃度の推移
0 0.02 0.04 0.06
1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21
一般環境大気測定局
自動車排出ガス測定局
濃度(
ppm )
年度
元
年平均値
都内大気環境中の
二酸化窒素(NO 2 )の環境基準適合率の推移
適合率(%)
年度
一般環境大気測定局
自動車排出ガス測定局
ディーゼル車の排出ガス規制・燃費基準
車両総重量3.5t超の貨物自動車(トラック等)
(最大積載量t)
区分(車両総重量t)
燃料基準値(km/l)
3.5~7.5 7.5~8
~1.5 1.5~2 2~3 3~
8~10
10.83 10.35 9.51 8.12 7.24 6.52 単位:g/kWh
規制物質 ポスト新長期規制
(H21年~)
窒素酸化物(NOx)
0.70
ディーゼル車(重量車)
排ガス規制
2006年3月重量車(トラック、バス等)のトップランナ-基準の策定(2015年度目標)
燃費基準
3 調査手順
設備・試験等
大型自動車用排出ガス計測システム
シャシダイナモメータ:自動車で道路を走っている 状態を実験室内で再現させることのできる機械装置
法定試験 JE05モード
JE05モード
0 20 40 60 80 100
0 500 1000 1500 2000
時間(s)
車速(km/h)
大型ディーゼル車における排出ガスの法定試験法であり、
新長期規制(平成17年度)より導入された。都市内走行 を模擬した走行モードである。
東京都実走行パターンNo2
時 間 (s)
速度(km/h)
東京都実走行パターンNo5
時 間 (s)
速度(km/h)
平均速度: 8.4km/h 走行距離: 2.0km トリップ数: 14
平均速度: 18.0km/h 走行距離: 5.8km トリップ数: 14
東京都実走行パターンの例
東京都実走行パターンNo8
東京都実走行パターンNo10 時 間 (s)
時 間 (s)
速度(km/h)速度(km/h)
平均速度: 28.6km/h 走行距離: 9.3km トリップ数: 9
平均速度: 44.4km/h 走行距離: 14.4km トリップ数: 6
渋滞からスムーズな流れまで平均速度の違う10パターン、
及び高速道走行の2パターンの計12パターンがある。
自動車排出ガス試験状況
車速(km/h) 60 40 20 0
時間(s)
●
現在位置
4調査結果
(無効化機能確認)
自動車排出ガス規制の効果検証(大型車)
東京都環境科学研究所における調査実施状況
元年 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
調 査 年 度
元年規制 33台
6年規制 25台
長期
(10・11年)規制 18台
新短期
(15年)規制 11台
新長期
(17年)規制 22台
ポスト新長期
(21年)規制
(1台)
(調査中)
ポスト新長期への対応(一般車両と本車両との比較)
エンジン
+
EGR等
一般車両 DPF
脱硝装置 排気
尿素SCR等
ディーゼル微粒子 捕集フィルター クールドEGR (冷却 機能付排ガス再 循環装置)等
+
排気 DPF
本車両
クールドEGR (冷却 機能付排ガス再 循環装置)等
ディーゼル微粒子 捕集フィルター
EGR等
エンジン
クールドEGR
(冷却機能付排ガス再循環装置)
排気ガスの一部をエンジンの燃焼室に戻す装置。
○エンジンに取り入れる空気中の酸素濃度を少な くし、燃焼温度を下げる(急激燃焼を抑える)こ とで、NOxを低減
○最新エンジンでは、エンジン回転数や負荷など
の条件に応じて、EGRにより排出ガスを循環さ
せる比率を制御している。
尿素SCR
窒素酸化物を低減する装置。
○尿素と触媒を利用してNOxを無害な水と 窒素に分解。
○燃費の悪化要因が少ない。
○ポスト新長期規制に適合させるためには、
この尿素SCRのような脱硝装置が不可欠と される。
尿素SCRを設置のデメリットとして、
○尿素水の供給インフラの整備が必要
調査車両
車 種 貨物/バン 車両重量 4,770kg
積 載 量 3,100kg
乗車定員 2人
排気量 5.193L
変 速 機 機械式6AT 初度登録年月 平成22年7月 搬入時走行キロ 1,900km
排出ガス規制 ポスト新長期
燃費基準 平成27年度燃費基準
自動車排出ガス試験測定手順
JE05モード
調整運転 事前運転
エンジン停止 エンジン停止 測定運転
定速 80km/h (20分)
(10分) (10分) (30分30秒)
東京都実走行 パターン
車両暖機 東京都実走行パターン
2・ 5・ 8・ 10
定速 60km/h (10分)
(14分~19分)
暖機運転
(30分30秒)
暖機運転時の定常運転時の排出挙動
120ppm
400ppm
11%
7%
定常運転時は、3
~4分程度の時間 が経過すると、
NOx濃度は増加
し、CO2濃度は低 減する。EGR率が変更され、
燃費が向上する制 御になったものと 思われる。
EGR
率変更単位:
g/kWh
NOx CO
2CO NMHC PM
0.88 812.1 0.035 0.005 0.0044 0.90 795.1 0.019 0.008 0.0028 1.41 782.1 0.018 0.002 0.0029
平均値
0.7 2.22 0.17 0.010
上限値
0.9 2.95 0.23 0.013
規制値
測定結果Ⅰ 測定結果Ⅱ 測定結果Ⅲ
規制なし
法定試験(JE05)測定結果
シャシダイナモメータを用いた測定の場合では、認証時のエンジンダイ ナモメータによる測定と運転条件が異なること等により、規制値(許容 限度値)を超えた測定事例がある。
法定試験(JE05)におけるNOx瞬時排出量
法定モードの指示速度
高排出
計測開始から約200秒~400秒付近の間のみ、
高排出の状態が続いていた。
法定試験(JE05)におけるエンジン回転数の状況
1800min-1 2400min-1
直前の発進時の運転に違いがあった。
実車速
エンジン回転数
単位:
g/km
1
回目2
回目3
回目No.2(8.4km/h) 2.92 2.90 2.85
No.5
(18.0km/h
)0.81 1.08 0.97
No.8
(28.6km/h) 1.36 1.70 1.83
No.10
(44.4km/h) 1.17 1.91 1.38
種類(平均車速) 測定結果東京都実走行パターンのNOx排出量
No.2以外では、値に大きな違いがあった。
都走行パターンNo.8のNOx瞬時排出量
No.8の指示速度
同じパターンの 走行でも、測定 毎にNOxが高排 出となった箇所 が異なった。
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
0 500 1000 1500 2000
車速(Km/h)
時間(sec)
法定試験(JE05)の発進部のみ急加速 に変更した場合のNOx瞬時排出量
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18
0 500 1000 1500 2000
NOx排出量(g/sec)
時間(sec) 法定モード
変更法定モード(発進のみ急加速)
法定モードの指示速度
法定試験の発進部 のみ急加速に変更 した場合は、NOx は高排出状態と
なった。
NOx の高
排出状態は、車両 がほぼ停止するま で継続した。①調査車両は、エンジン回転数と負荷が同一の定常運 転条件において一定時間が経過すると、NOx排出量は 増加し、CO2排出量は低減する制御に切り替わった
(無効化機能)。
②制御の切り替えは、EGR率を変えることにより行わ れた。
③過渡走行においても、エンジンが高回転や高負荷な 条件等を満たすと、NOxが高排出となる制御に切り替 わった(無効化機能)。
④一度、NOxが高排出状態になると、車両がほぼ停止 する(車速が下がる)まで、その制御が継続した。
調査結果
実際の路上走行では、法定試験では想 定していない急加速や定常走行等が発生 する。
急加速時に瞬時的にNOxが多くなる ことは止むを得ないが、無効化機能によ りNOx高排出状態が継続すると、自動 車排出ガス規制による大気環境改善効果 は、著しく損なわれる。
環境への影響
5 研究成果の反映
今回の環境科学研究所の調査結果に基づき、都は関係機 関に対して要請し、次のような対応がとられた。
①該当メーカーは、全車両、エンジン本体の交換および 制御プログラムを書き換える等の改善対策を実施した。
②国は、公定モードを外れた走行状態での排出ガスの実 態把握およびあり方を検討する検討会を設置した。
③日本自動車工業会は、無効化機能の禁止を自主的に取 組むこととした。
④また、都は、東京都環境確保条例における低公害・低 燃費車の規定に関し、「無効化機能」が付加された自動 車は指定の対象から除外することとした。