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つらい仕事もチームで楽しく ―木下藤吉郎―

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Academic year: 2021

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豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎といっていた時代の話だ。主人は織田信長だ。あるとき信長の拠点 である尾張(愛知県)清洲城が台風でかなりの被害を受けた。とくに、城のまわりを囲んだ塀がメ チャメチャに壊れた。当時信長は四面を敵に囲まれていたので、いつ攻めこまれるかわからない。

信長は普請奉行に修理を命じた。しかしいつまで経っても塀が直らない。

苛立った信長は普請奉行をクビにした。そしてかわりに藤吉郎を呼び出した。「おまえが塀の 修理をしろ」と命じた。藤吉郎は工事現場にいった。破壊された塀はまだほとんどそのままで、

しかも労務者たちはあっちこっちに座りこんでは、ベチャベチャおしゃべりをしている。やる気 はまったくない。藤吉郎は労務者の代表を呼んできいた。

「どうしてみんな働かないのだ?」

労務者の代表は答えた。

「いつまでに塀を修理すればいいのか、前のお奉行様はなにも教えてくれません。それに、こ の仕事を成し遂げたときの褒美がいくらなのか、それも知らないというのです。張り合いがない ので、みんなああやってうずくまっているのです」

そうかとうなずいた藤吉郎は考えた。

(なによりも、働き手のやる気を起させなければならない)

と思った。しかしそれにはどうすればよいか。藤吉郎は現場を歩きながら考えをめぐらせた。

このときかれが出した結論は次のようなものだ。

・工事現場を十ヶ所にわける

・百人いる労務者を十組に分ける

・しかし、どの組に入るかは労務者たちの自由に任せる。それは、おなじ組に入っても嫌いな 者がいたときは、やる気は起ってこない。かえってマイナスになる

・工事現場のどこを受け持つかは、これもまたクジ引きなどによって各組の自由に任せる

・そして、いちばん早く修理の終った組には、信長様から褒美を出してもらう

というようなことだ。かれは全員を集めてこの話をした。みんな顔をみあわせた。思いもしな い方法だったからである。

そこでその日は自分の金で買った酒を振舞い「きょうは帰って寝ろ。仕事はあしたからでいい」

と告げた。

つらい仕事もチームで楽しく

―木下藤吉郎―

作家

童 門 冬 二

連 座 載 講 第 6 回

(2)

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みんなはよろこんで酒を飲んだ。藤吉郎は満足して家に戻った。しかしなにか気になるので、

夜になってから再び現場にいった。そして眼をみはった。労務者たちは十組に分かれてそれぞれ 仕事をしていた。あちこちに松明が灯され、夜間照明のように煙々と輝いている。

藤吉郎はその光景をみて、思わず胸の中に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。うれしかっ た。

(みんなは、よろこんで働いてくれている)

と思ったからである。破壊された塀の修理は一晩で終った。藤吉郎は代表にきいた。

「なぜ、おまえたちは酒を飲んだ後家に帰らなかったのだ?」

代表はこう答えた。

「木下様は、なぜ塀の修理を急ぐかという説明に、塀が壊れたままで敵が攻めこんできたら、

殺されるのは信長様だけではない、おまえたちも、おまえたちの家族も殺されてしまうのだ。だ から、自分と家族を守るためにも、塀を一刻も早く元の姿に戻そう、とおっしゃったあの説明が 効いたのです」

「そうか」

藤吉郎はうなずいた。たしかにそういう説明をした。藤吉郎は、ただ塀の修理を急げ急げとい ってもダメだと思っていた。現場で働く労務者はやはり、

「なんのために、自分はこの仕事をするのか?そして、この仕事はなぜそんなに急ぐのか?」

という理由をしっかりと知り、納得しなければ十分な力は発揮しない、と思っていた。しかし それ以上に、

「自分のやっている仕事によろこびを感じ、生き甲斐を感ずる」

という精神的なものが得られなければ、なかなか動くものではないと体験で知っていた。

つまり現場で単純な仕事に従事するからといって、上のほうで簡単に考え、

「ただ、指示命令だけすればよい」

というようなきもちで臨んだら、決して現場は思うようには動かない、と思っていた。

いってみれば、

「なんのために塀の修理を急ぐのか」

という目的を、噛み砕いて説明したのだ。これが当った。労務者たちはひとりひとりが塀の修 理を自分のこととして考えた。そして、

「どうせのことに、家に帰らずにいまから仕事をはじめよう。そうすれば、場合によっては信 長様からご褒美がもらえるかもしれない」

と奮い立ったのである。そうなると、競争心が湧く。ほかの組に負けてたまるか、というモラ ール(やる気)が全員の胸に湧いた。だから、そのやる気が相乗効果を起し、火の玉となってたっ た一晩で塀の修理を完成させたのである。報告をきいた信長はおどろいて眼をみはった。そして

「サル(藤吉郎のあだ名)、さすがだな」と褒め、藤吉郎が望むように、労務者たちに褒美の金を 出してくれた。藤吉郎は大いに面目を施した。この話で感ずるのは、藤吉郎が若いころから、

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「大きな仕事は、個人ではなくチームを組み、そのチームワークによって成功させる」

というやり方を心得、実行したことである。

参照

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