鹿児島国際大学考古学ミュージアム調査研究報告142017. 3
BulletinofthelnternationalUniversityofKagoshima,ArchaeologicalMuseumVol.14March2017
調査報告
志布志市原田古墳第4次発掘調査速報
大西智和') ・鐘ヶ江賢二!) ・相美伊久雄2)
1)891‑0197鹿児島市坂之上8‑34‑l鹿児島国際大学
2)899‑7192志布志市志布志町志布志2‑1‑l志布志市教育委員会
古墳の築造が5世紀の前半代であることを推定できる なお, この時期には志布志湾沿岸地域に,大崎町横瀬古 墳のような大型の前方後円墳をはじめとする古墳が盛ん に造られており,その関係性や背景を今後検討する必要 がある
・ トレンチ内に.盗掘時の撹乱に伴って多くの石が流れ 込んだ状態で検出されており, また墳頂部には大型の石 材が露出していたことから,石材を用いて埋葬施設が椛 築されていたこと,盗掘によって撹乱を受けた古墳であ
ることが考えられる
・墳頂部からは古代の土師器が一定量出土しており,古 墳の廃絶後も何らかの形で利用されたことが考えられ
る.
・発掘調査に先立つ測量調査時より,古墳の裾部付近に 平坦面が存在していることを確認しており,墳丘構築の ためのテラスと推測していたが.層位断面を観察すると,
平坦面でアカホヤがカットされていたこれが築造時に
1. はじめに
原田古墳は志布志市有明町原田に所在する大型の円墳で ある(図l) これまでに2回の測量調査と3回の発掘調 査を実施し、墳丘の規模や形態周濠や埴輪・葺石の有無.
埋葬施設の種類や状況などの確認を行ってきたその成果 は概報という形であるができるだけすみやかに公表する ことに努めている(大西・鐘ケ江ほか2012・2013 ・2016.
志布志市教育委員会2014). また.近隣の小学生や一般住 民などに向けた現地説明会なども実施し,地域の歴史を物 語る文化財としての意義を伝えることで.教育普及活動も 実践しているところである.
これまでの調査成果と課題を簡単にまとめると以下のと おりである.
・直径が40mを超える円墳で,鹿児島県内の円墳では 最大規模のものである.
・埴輪や葺石はこれまでの調査では確認されておらず,
もともと用いられていなかったと考えられる.
・墳丘裾部(盛り土の下部)の地山に相当する層位では.
喜界カルデラ由来のアカホヤ火山灰層が確認できた墳 丘周辺部において,地表面よりも下位に堆積しているア カホヤ層が.墳丘の盛り土直下で見られることは.元来 の古墳構築前の地形に高まりが存在したことを示してお り.墳丘はこうした地形の高まりを利用し,上方に盛土 を行って椛築されたことがわかる.
・墳丘櫛築技術に関して.下部の盛土に地山に由来する アカホヤやロームを多く含む土が用いられ、その上には.
しまりの度合いの異なる黒色土が積まれていることが,
層位の検討から明らかになった古墳の構築においては,
墳丘の崩落に耐えうるように,土の特性を活かした技術 が採られていたと考えられる
・初期須恵器の範嶢で捉えられる須恵器片の出土から,
図1 原田古墳と周辺の古墳位置図
この背景地図韓データは、国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである。
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原田古墳測量図(1/300
図2
志布志市原田古墳第4次発掘調査速報
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図33トレンチ全景
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図43トレンチ内小型石材
調査組織は以下のとおりである(所属は調査当時) 調査主体:志布志市教育委員会
調査担当:大西智和・鐘ケ江賢二(鹿児島国際大学).
相美伊久雄(志布志市教育委員会)
調査参加者安栖祐樹(鹿児島国際大学国際文化研究科)
野元勇介・高嶺光佑・永井彰平・原田尚賢・新美乃里 横山葵(鹿児島国際大学国際文化学部).松崎大嗣 人為的に行われたものであればその解釈として. ここ
が墳丘の端部に相当するという可能性が生じる.その場 合はこれまでに推定した墳丘の規模に若干の変更が必要 になる4トレンチの墳裾に設けた拡張部および墳裾付 近に設けた7トレンチからも, アカホヤの人為的なカッ トが確認できたことから,アカホヤがカットされた部分 をもって墳端となる可能性は高くなっているなお、 4 トレンチではアカホヤのカットのラインが墳丘の外方に 延びているこのことは本墳が単純な円形の古墳ではな い可能性を示唆するものかもしれないが,攪乱の可能性 もあり.墳形の確定のためには更なる調査が必要である.
・3トレンチおよび6トレンチ内の状況を明らかにする には. まず盗掘時の撹乱坑を露出させ.攪乱を受けてお らず,本来の位置関係が保たれた埋葬施設を確認するこ とが必要である.盗掘に伴う撹乱土の除去は完了してお らず.埋葬施設の種類や規模・残存状況に関する手がか りは得られていないが.埋葬施設に関連すると推測でき る小型の石材をいくつか検出することができた
吉本美咲(鹿児島大学大学院人文社会科学研究科)),
別府佳祐(鹿児島市教育委員会文化財課)
今回調査したのは既に設定していた3トレンチ, 5トレ ンチ, 6トレンチおよび新たに設けた10トレンチで,い ずれも墳頂部に位置する(図2).
2.1 3トレンチ
3トレンチは.墳頂部中央付近に南北方向に設けたトレ ンチである(図2) 2次調査(2014年)時から継続して 調査を行っている.前回の調査に引き続き,盗掘時の撹乱 坑に従って掘り下げたそのため, トレンチ内はきつい傾 斜がついた状態である.深さは最も深い部分で地表から約 2.4mに及び埋葬施設深<にまで盗掘を受けていること がわかる(図3)
前回の調査では下方から長さ20〜40cm程度の小型の 石材が検出されたが.今回の調査ではさらに多くの石材を 検出した(図4)一部の石材は並んでいるように見える 部分的には盛り土が確認でき石材が抜き取られたような 痕跡も確認できたことから.盗掘による攪乱の下端に近づ
いていることがわかる.
このような成果や課題をふまえ.特に埋葬施設の構造や 磯り土の構築方法など,墳頂部の課題に取り組むべく4次 調査を実施することになった.本稿では, 4次調査で得ら れた成果や課題を以下でまとめることにしたい.
2. 4次調査の概要
4次調査は2016年3月6日〜3月15日にかけて実施した
図53トレンチ内大型石材
トレンチの北側で1段.南側には2段の段落ちを確認す ることができた.北側の段落ちは撹乱によるものと考えら れるが,南側の下部の段は粘質土による盛り土上面に相当 しており,墓曠に伴うものかもしれないが今後. より詳 細な検討を行いたい. なお. 1、レンチ南側の地表付近には 埋葬施設と関係すると考えられる大型の石材が1個露出し ている(図5). トレンチ内の石材検出状況の実測は行っ たが.今後の調査で改めて層位の状況を報告する予定であ
る.
3トレンチからは須恵器片2点土器片2点が出土した.
2.25トレンチ
5トレンチは3次調査(2015年)に3トレンチ西側に設 けたトレンチである(図2)今回の調査では地表から約 1.1m下まで掘り下げた(図6).攪乱を受けた際の排上が 全面から0.2m程の厚さで確認できその上には桜島から 噴出した大正火山灰が堆積している(図7)
掘り下げた部分から,墳丘盛り土の構築は.標高63〜
63.5mの範囲において,墳丘の外側に0.5m程度の土手状 の盛り上げを行い,その内側に,厚さ0.1〜0.3m程の朧 り土を充填していることが推測できる(図7・図8) これ までのところ,埋葬施設櫛築に伴う掘り方等は確認できて いない.現状での層位断面図を作成してトレンチの調査を 終了した.
出土遺物には須恵器片1点がある.
2.3 6トレンチ
6トレンチも3次調査で設定したもので,継続して調査 を行った. 3トレンチに直交するようにその東側に設けた (図2).今回の調査では地表から0.8〜2mほど掘り下げ た(図9).
西側壁面の観察から,新しい攪乱と古い攪乱があること
図65トレンチ全景
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図75トレンチ北壁土層図(1/80)
力雅認できた.一つは大正火山灰層が上に載っており,他 のものはそれを切っているため,大正大噴火前と以後に複 数の攪乱を受けていることがわかる.
墳丘の構築に関しては,0.2〜0.4m程の厚さを単位とし.
基本的には墳丘外側から内側に向かって盛り土を行ってい る状況を確認することができた(図10) しかし, 5トレ ンチで確認した土手状の朧り土は,本トレンチでは確認で きていないさらに外方に位置しているものと思われる
前回の調査でも確認されていたが. トレンチ西側の下部 で長さ20〜40cm程度の小型の石材がまとまって検出さ れた(図ll) 土中に流れこんだ状態の不安定な石材もあ るが.下部には盛り土とみられる粘質土に挟まれ,安定し た状態で検出された石材もある.粘質土に挟まれた状態の 石材は.埋葬施設に│洲わるものと推定され,全体的に溢掘 で破壊を受けているものの.埋葬施設が残存している部分 もあることを示しているその東側には段落ちも2段確認 されたが,撹乱に伴うものであろう.
志布志市原田古墳第4次発掘調査速報
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図85トレンチ西側層位
図96トレンチ全景
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よくしまる
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暗褐色シルト質砂
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−63.0m
図106トレンチ北壁土層図(1/80)
10トレンチからは須恵器片7点,土器片1点が出土した.
なお,須恵器の1点は口縁部から頚部にかけての破片であ
る.
石材集中部の地形や石材出土状況の実測図および現状で の層位断面図を作成し、調査を終了した.
本トレンチからは須恵器片3点.土器片1点が出土して いる
2.4 10トレンチ
3トレンチの東側. 6トレンチの南側に3トレンチと平 行に設定したトレンチで.長さ3m,幅1.5mである(図2).
墳頂の墓城掘り方のライン検出を目指し, 0.35〜0.75mほ ど掘り下げた(図12) 盗掘による撹乱の掘り込みライン を平面で確認できたが.墓職の掘り方のラインは,溢掘坑 への流入土を除去しきれていないこともあり.確認できて いない.
トレンチ内からは,埋葬施設に関連すると考えられる大 型の石材(長さ1.5m幅0.7m程度)2点が確認されている.
さらに掘り下げる必要はあるものの,現状でトレンチ平面 の測量図および壁面の層位断面図を作成した
3. まとめ
今回は墳頂部を中心に調査を実施したが,盗掘による大 規模な攪乱破壊を受けていることが明らかにされたト レンチ内で検出された石材は.盗掘によって石材が抜き取 られ,埋葬施設が大きく破壊を受けていることを暗示して いるが.その一方で, トレンチ下部では部分的に埋葬施設 の石材が原位置をとどめていると推測されるものもあっ た盗掘坑内の埋土を除去し,墓蛎や埋葬施設など撹乱を 免れた部分の検出と精査を行うことが,今後の調査で必要 となろう.ただし, 3トレンチで実施している攪乱に沿っ て掘り進める方法のみでは.墓城の掘り方や埋葬施設の構 造などの全体的な把握は困難である.今後の調査では, ト
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図11 6トレンチ内小型石材 図12 10トレンチ全景
レンチ幅を拡張させたうえで.平面的に精査を進めること も必要である.
また5トレンチと6トレンチの層位の検討から,墳頂 部の周りに土手状に盛り土を行う技術や.墳丘の部位によ る盛り土の種類の使い分けなど.墳丘の構築技術の具体像 が徐々に把握されつつある.埋葬施設の調査と並行して盛 り土の調査を継続し、詳細を明らかにすることにしたい.
なお,出土遺物は須恵器片や土器片が少量出土した須 恵器の特徴はこれまでに出土したものと同様.内面当て具 痕の磨り消しや口縁端部や突帯の作りがシャープな特徴を 有し、初期須恵器の範鴫で捉えられるものと考えられる.
原田古墳の緋築時期を5世紀前半代とする我々の所見を補 強するものであるととらえている.今後も.埋葬施設の検
出に従い.須恵器以外の各種の遺物の出土も予測されるた め.細心の注意をもって調査に臨みたい
参考文献
大西智和・鐘ケ江賢二・松崎大嗣2012「志布志市有明町原 田古墳の測量調査」『鹿児島考古』第42号
大西智和・鐘ケ江賢二・松崎大嗣2013「志布志市有明町原 田古墳の発掘調査(速報)」『鹿児島考古」第43号 大西智和・鐘ケ江賢二・相美伊久雄2016「志布志市原田古
墳第3次発掘調査速報」『鹿児島国際大学考古学ミユー ジアム調査研究報告」 13
志布志市教育委員会2014「志布志市有明町原田古墳の発掘 調査(2次調査速報)」『鹿児島考古」第44号