• 検索結果がありません。

医療倫理学教育の現状と課題 児玉聡

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "医療倫理学教育の現状と課題 児玉聡"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

医療倫理学教育の現状と課題 児玉聡

東京大学大学院医学系研究科

1.はじめに

報告者は、文学部で倫理学・政治哲学を専門に研究してきたが、縁があって医 学部で医療倫理学を教えることになり、すでに8年が経った。そこで本報告では、

これまで医学部で医療倫理学の教育実践・教材開発に携わってきた経験を簡単に 述べ、医療倫理学を教える際に直面する課題についての私見を述べる。

2.これまでの経験

報告者は 2003年に東京大学医学部の医療倫理学分野の助教(助手)に着任した。

医療倫理学分野はまだ出来たばかりだったので、最初にやったことは、医療倫理 学の入門コース作りだった(1 3時間、全 13コマの講義と3回の演習および実 習など)。これは主に医療従事者対象の社会人向け講義であった。この分野にまだ 決定版の教科書がなかったので、その入門コースの内容をまとめて教科書にした

(ついでに全16巻のDVDも作成した)。また、コースの内容を圧縮した四日間の 夏期集中コースも行い、こちらは全国から社会人だけでなく大学生・大学院生も 受講できるようにした。この入門コースは、これまでに約650名の修了生を輩出 している。このような取り組みを行ったのは、文科省の科学技術振興調整費で「生 命・医療倫理人材養成ユニット」が医療倫理学分野に附置され、倫理委員会の運 営ができる人材や、生命・医療倫理の若手研究者を育てるというミッションがあ ったためである。

学部教育では、主に専門課程に上がってきた健康科学・看護学科の学生に、医 療倫理学の講義を行ってきた(医学科の学生は、主に医師でもある教授が担当し ている)。また、大学院教育では、上記の入門コースに当たるものを全学向けに開 講する他に、メタ倫理学や公衆衛生倫理学といった分野に関する講義も行ってき たが、大学院レベルで医療倫理学教育をどのように行うのかというのは下でも述 べるように今後の課題である。

この他に、平成20年度に医療倫理学のグローバル COEが採択され、国際的な 医療倫理学教育研究のハブ拠点となるべく、研究と教育活動を行っている。

3.医療倫理学教育の難しさ

どの学問も教育に当たっては固有の難しさがあると考えられるが、医療倫理学 は、それが過渡期にある学問であることと、学際領域の学問であることで、教育 が難しくなっていると考えられる。

過渡期にあるというのは、医療倫理学は、かつては「医の倫理」と呼ばれた専 門職倫理の側面を持つと同時に、一般人でも教養として学んでおくべき応用倫理 的な側面を持ち、学問として流動的な状態にあるということである。たとえばイ

1

(2)

2

ンフォームド・コンセントや脳死・臓器移植や終末期医療の倫理といった事柄は、

医療従事者だけではなく一般人も一定の知識を身につけておくべき事柄だと言え る。また、医の道を外れないという専門職意識の育成も重要なテーマではあるが、

現代においては、〈医師は中絶や安楽死に関わってはならない〉と書かれているヒ ポクラテスの誓いを、教育勅語のように学生に暗記させることはできない。つま り、〈不動の「医の道」があってそれを教える〉という考え方が困難になっている という意味でも、過渡期にあるということである。新しい医療技術が次々と生み 出す新たな倫理的・法的問題に直面している現代においては、道なきところに新 しい道を作る、すなわち新しい状況に対応できる思考力を育てる必要がある。こ のような認識から、授業では講義だけではなくグループディスカッションを多用 し、さまざまなバックグラウンドを持った人とのディスカッションを通して、多 面的なものの見方と柔軟な思考力を養えるように配慮している。

もう一つ、学際領域の学問であるとは、上の点とも関連するが、医療倫理学が、

単に年配の医師が医学生に医の倫理を教えるという学問から、哲学・法学・社会 学を始めとする様々な学問分野の研究者が参加する学問領域になったということ である。これが教育を難しくするのは、一つには、総合大学といっても単科大学 の寄せ集めに近い大学の場合、医療倫理学教育に必要とされるような学際的な教 育を提供することが難しいということである。リレー講義をしても、有機的連携 のない総花的なものになりがちである。もう一つは、たとえば報告者は倫理学の バックグラウンドを持ってこの学際領域に参加しているわけだが、哲学や医学や 法学のバックグラウンドを持たない純粋な「医療倫理学者」を育てることは可能 か、という問題がある。一つ目の問題に関しては、報告者のところでは上記の人 材養成ユニットで多くの特任スタッフを雇用したため、医学部内に学際的空間を 作ることでひとまず対処できた。二つ目の問題については、大学院教育が試行錯 誤中だと上で述べたように、未解決の課題である。

4. 終わりに

報告者のいる環境はかなり特殊であり、そこから引き出せる教訓も少ないよう に思われる。医療倫理学を専門課程で教えるか、教養課程で教えるか、あるいは 社会人に対する継続教育として教えるかについても、その教育内容に応じて答え は異なるだろう。医学部で医療倫理学を教える教員のFDの必要性の指摘や、コ ア・カリキュラムの提案もすでになされているが、まだ課題として残されたまま である。今後も学会活動などを通して、継続的に教員間でグッドプラクティスに 関する情報共有をする必要があるだろう。

参照

関連したドキュメント

であろう.これは,1992 年に「Five-step “mi- croskills” model of clinical teaching」として発表 さ れ た 2) が,そ の 後「One-Minute Preceptor

2)医用画像診断及び臨床事例担当 松井 修 大学院医学系研究科教授 利波 紀久 大学院医学系研究科教授 分校 久志 医学部附属病院助教授 小島 一彦 医学部教授.

    

医薬保健学域 College of Medical,Pharmaceutical and Health Sciences 医学類

工学部の川西琢也助教授が「米 国におけるファカルティディベ ロップメントと遠隔地 学習の実 態」について,また医学系研究科

がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の投与が適切と判断さ

医師の臨床研修については、医療法等の一部を改正する法律(平成 12 年法律第 141 号。以下 「改正法」という。 )による医師法(昭和 23

⑹外国の⼤学その他の外国の学校(その教育研究活動等の総合的な状況について、当該外国の政府又は関